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北欧の鍛治術師 〜竜人の血〜

作者:観葉植物
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聖者の右腕Ⅳ

キーストーンゲート内部は現在、瓦礫と不快な臭いで満たされていた。突如侵入してきた2人の侵入者によって引き起こされた惨事。警備員の攻撃をものともせず虹色に輝く眷獣らしき巨体を纏った人工生命体(ホムンクルス)と法衣を着て片眼鏡(モノクル)を掛けた半月斧の巨漢。魔力を無効化する結界を持つ眷獣と底上げされた膂力によって繰り出される破壊は熾烈を極めた。キーストーンゲートのライフライン関連が全て停止し、襲撃したのは一階部分だけだというのに上層階にも被害は及んでいた。先日の古城の500億円被害でやられた人工島管理公社のサーバーシステムの復旧のためにキーストーンゲートの上層階で作業をしていた藍羽浅葱もその被害者の1人だった。
「ああもう!なんなのよいきなり⁉︎」
ビル全体が揺れたかと思えば電気が(同時に水も)止まり、エレベーターは停止。腐れ縁的な感じの人工知能からは避難を勧められる始末。約3日不眠不休で働きづめの身にこの上ない仕打ちである。
「ゼッタイ犯人に後で復讐してやる・・・」
『嬢ちゃん、この通路を抜けたら50メートル直進、右に曲がって外の非常階段に出ろ』
携帯、財布、家の鍵と私物のノートパソコンを引っ掴んで作業をしていた部屋を飛び出てこの胡散臭い人工知能の言う通りに廊下を走って早数分。普段から特に運動もしないのに距離も考えず全力疾走してきた浅葱の脚と肺は悲鳴をあげていた。
「モグワイあんたそれあってんでしょうね⁉︎」
先ほどの指令にあった非常階段のドアを開けてすぐさま階段を駆け下りる。足を踏み外さぬよう手すりを伝いながら足を動かす。
『ああ、もちろん問題ねぇぜ。襲撃者たちが何かしない限りはな。ケケッ』
「それフラグ!やめてくれない⁉︎」
『まあどんな状況も楽しむのが一番だ。例えば装備なしでスカイダイビングする事になってもな 』
ドォン!と下の方で音がする。
「ねぇ・・・?それほんとにさぁ・・・」
ビルがより一層大きく揺れる。
今いる踊り場の設置されている階の窓から支柱にヒビが入っているのが見えた。
「マジでヤバイやつだから・・・」
非常階段の設置されている外壁に下の階から徐々にピキピキッと音を立てながら亀裂が入ってくる。それが上層に達した時、非常階段が上の方からしなりながら落ちてきた。
「やめてほしいんですけどおおおぉぉぉぉっ⁉︎」
浅葱のいる踊り場も例外なく、地面に叩きつけられる方向で物理法則に従いながら順調にあの世行きへのカウントダウンを秒刻みで開始する。
「古城っ・・・!」
密かに想いを募らせる友人の名を呼ぶ。助けに来てくれないのは分かっている。そんな都合のいいことは起こらない。だがこんな死に方をするくらいなら一度でも言っておけばよかったと数秒後に物言わぬ屍になる身には今更な後悔をする。目を閉じて時が来るのを待つに徹しよう、そう考えた時だった。
「浅葱ぃーーー‼︎」
不意に、自分の下から響いた声。そこには中空で必死そうな顔をしてこちらに両腕を伸ばす先ほどまで考えていた少年の姿が。
「ばか・・・何やってんのよ・・・」
何メートルも上から降ってくる人間を受け止められるはずがない、と考え再度目を閉じる。落下の恐怖を少しでも和らげるために。




「届けぇ・・・っ!」
上から降ってくる人間をキャッチできるか、と言われたらいくら第四真祖の身体能力とバスケ時代の感覚があっても難しい。例えキャッチできたとしてもそのあと浅葱を落とさずかつ自分が下になるよう姿勢を制御するのは至難の技だ。しかも着地点は足場最悪の代名詞瓦礫の山。最悪、浅葱をキャッチできれば自分が下になればいいがそれすら叶わなかった場合は浅葱が死ぬのは明白。浅葱との距離が縮まる。5メートル。4メートル。3メートル。2メートル。1メートル。
「浅葱っ!」
「古城・・・っ!」
なんとかキャッチできた。浅葱の目尻には少しばかり涙が溜まっていて少し顔も赤かった。
「あんたこれどうすんのよぉぉぉ⁉︎」
「へ?うおおおおおおぉぉぉ⁉︎」
暁古城は現在、藍羽浅葱とともに九死に一生を得た直後に九割九分九厘死に傾いている状況に追い込まれていた。今現在彼は、降ってくるブッ壊れた非常階段と全長約10メートルの瓦礫の塊の下にいる。
「こんなんどうにもできるかぁぁぁ⁉︎」
絶望しかけたその時!ヒーローは現れた!





「暁古城ぉ!動くなよ‼︎」
・・・的な展開があるはずもなく現れたのは見知った声と一度だけ見たことのある槍(こちらに飛来)だった。そう、アインが絃神島に降ってきたときに使ったあの赤い鎖付きの槍である。しかも今回は鎖の末端に返しのある釣り針(大)がついている。見るからに危険極まりないブツである槍はこちらに小さな放物線を描いて飛んでくると古城のパーカーのフードを正確に貫いた。釣り針がフードにしっかり刺さると槍は失速せずに古城の首を容赦無く引っ張った。古城が叫び声をあげることも叶わぬまま槍はビルの近くにあった街路樹に小さな穴をを開けて貫通して地面に深々と突き刺さった。もちろん古城は背中から木に激突する形となり最終的には藁人形のように宙ぶらりんな状態になった。ちなみに浅葱は三半規管がやられて気絶していた。
「先輩!大丈夫ですか⁉︎」
「なんとかな・・・それよりも浅葱を頼む」
「分かりました。じゃあ藍羽先輩の腕を掴んで降ろしてください。私は下で受け止めますので」
「よし、降ろすぞ」
なんとか無事浅葱を下ろせた。それはいい。しかし古城自身が降りられない、と思ったところで。
「おー。助かったみたいだな」
向こう側から瓦礫を超えてスタスタと歩いてきたのは槍の持ち主、アイン。
「みたいだな、じゃねぇよ⁉︎なんだこの状況⁉︎」
「・・・?お前が木にぶら下がってる」
「ぶら下がってもねぇしむしろぶっ刺さってるようなものなんだが⁉︎助けてくれたことには感謝するがいくらなんでもこれはねぇだろ!」
「いや・・・別の安全な助け方もあったんだけどよ・・・」
「ならそうしてくれよ!」
「面倒だったしさぁ・・・」
「一番ダメなやつだなオイッ⁉︎」
「まあ待ってろ。いま下ろしてやるから」
そう言ってアインは地面に刺さった槍を抜いて思い切り引っ張った。木は引っかかった釣り針を無理やり引っ張ったことで中腹で折れ、古城は無様に地面に落下する形となった。
「奇跡の生還オメデトー」
「・・・せめてもう少し棒読みを隠そうぜ」
「先輩、お怪我はないですか?」
「ああ、それよりも早くあいつらを追わないと」
「おお、もうすぐ最下層に着くぞ」
「尚更急がねぇと!でも浅葱をどうすれば・・・」
「カインの巫女は絃神島内なら放置可だ」
「放置ってお前・・・それにカインの・・・何て?」
「気にするな。いずれ知ることだ。それよりも先を急ぐぞ」
「本当に放置で大丈夫なんだな?」
「もしもの時は俺が責任を取ろう」
「先輩!」
「分かったよ!ったく・・・」
古城が苦言を漏らしたのを最後に三人は走り出した。





「おお・・・これが・・・これこそが・・・我らロタリンギアから簒奪されし至宝!長年求め続けた・・・さあアスタルテ!もう邪魔者はいません!この偽りの島を沈めるのです!」
命令受諾拒否(エクスキュート・キャンセル)命令内容に語弊あり。命令の再考と再発令を求めます」
「なんですと?」
まさか、とオイスタッハが考えたその時、最下層の天井に亀裂が走り、次の瞬間にはそこを白い閃光が貫いていた。
「悪いがおっさん、その命令は取り消しにしてもらうぜ。ここから先はオレの戦争(ケンカ)だ!」
「いいえ先輩、私たちの聖戦(ケンカ)です!」
「あ、一名追加でよろしくお願いまーす」
「どこまででも私の邪魔をするのですか、あなたたちは。あれを見て、それでもYESと言えますか」
「あれは・・・」
古城たちの視線の先にあったのは蒼い結晶に包まれた干からびた人の右腕。仰々しいほど大きな上下の台座に挟まれるように設置されている。
「聖遺物ってやつだな。大方、お前らのとこの昔のお偉いさんが身を賭してなんたら〜とか聖典に書いてあるんじゃないの?」
「その通り。あれは我らがロタリンギアの教会よりこの島の設計者、絃神千羅によって簒奪された至宝です」
「よしお二人、俺が何があったか簡単に説明してやろう。まず、この島が浮いている場所についてだ。この島は龍脈の上に建造された。龍脈は・・・そうだな、無限に湧き出るエネルギーが剥き出しで流れる不思議なパイプだと考えればいい。そんな莫大なエネルギーの余波を40年前の建材は受け止めきれなかった。そんな絃神千羅は考えた。霊的にすごいブツなら受け止めきれるんじゃね、と」
「それがあの右腕ってことか・・・」
「そ。はい姫柊雪菜さんに問題!」
「はっ、はい!」
「ああいった建材のことをなんというでしょうか⁉︎」
「供儀建材・・・ですか?」
「大正解!今も昔も変わらない邪法ですねー」
「そして絃神千羅はその邪法に手を染めました。ロタリンギアの聖者の右腕をこの台座に設置し、島を成り立たせた」
「以上が昔あったゴタゴタだ。で、40年で痺れを切らした宣教師が来たってワケ」
「待ってください!40年も経った今なら龍脈の力にも耐えられる建材があるはずです!正式にこの事を発表すれば非がある絃神島側は確実に建材を交換してくれるはずです!」
「それで終わるならば良いでしょう。しかしこれは我が手でこの至宝を取り返し、島を沈めることに意味があるのです」
「でもそれじゃ島に住んでる人たちは・・・!」
「まあ待て姫柊雪菜。宣教師が言ってることは俺にも分かる。俺が自分で打った剣を折られれば、直せばいいだけ。でもよぉ、自分の手で一から打った作品を壊されて、黙って見てられるかって言われたらそれは無理っつー話なんだわ、これが。最低でも、斬りつけてやらねぇと気が収まらない」
「そういう事です。40年も肉親がその存在を知られもせず雑踏どもに踏みつけられていたと考えてあなたがたは平気でいられますか?」
「この宣教師が言ってるのはそういう事なんだ。気持ちの問題的な感じだ」
「分かりました・・・!どうしてもこの島を沈めるつもりなら力づくで止めます!」
「おーおー楽しそうなことになってきた!俺らも行くぞ暁古城!」
「ああ!焰光の夜泊(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つーーー!」
古城の身を中心に渦巻くは膨大な電力を孕んだ強力な電気の塊。500億円被害の主犯。第四真祖の司る十二の眷獣の一体。ただの雷だったそれは次第に四足獣のような形を取っていき、ついにはその姿を現した。
疾く在れ(きやがれ)、5番目の眷獣、獅子の黄金(レグルス・アウルム)‼︎」
踏みしめるは鉄の地面。見据えるは目の前の白い巨人。出現したのは黒い体に雷の鬣を持つ巨大な獅子。
「姫柊雪菜!俺らはあの白いデカブツを相手するぞ!」
「分かりました!」
「アスタルテ!彼らを足止めしなさい!」
命令受諾(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)
アインと雪菜は同時に薔薇の指先に向かって駆け出した。
「アインさん!彼女の眷獣は雪霞狼の神格振動波術式を持っています!並大抵の攻撃は通りません!」
「物理攻撃もか⁉︎」
迫り来る左右の腕を1人一本という形で受け止め、跳ね返す。そしてその隙に術式の効果を検証することも忘れない。
「分かりません!少なくとも、魔力は全て無効化されっ・・・ますっ!」
そうこうして10分ほど打ち合った時には、アインの剣は刃こぼれを起こしたり刀身が折れたりしたものが十数本にも及び、それらが床に散乱していた。
「魔力は打ち消されて、物理攻撃は単純に硬い殻で弾かれる、と。中々に厄介な相手だな」
「どうやって攻略すれば・・・」
「博打でよければ手はあるぞ」
「博打って・・・何する気なんですか?」
「おい暁古城!バトンタッチだ!このデカブツの相手をしろ!」
「はぁ⁉︎後退しようにもできねぇよこのオッサン攻撃の手が休まらねぇ!」
「面倒だなまったく!」
アインは刀を二本実体化させて薔薇の指先の股の下に滑り込んでそのままオイスタッハめがけて一直線に走る。薔薇の指先もその後を追おうとするが雪菜が背中を切りつけて注意を引き付けた。
「行かせません!あなたの相手は私です!」
「足止め頼むぞ!」
アインの視界の端には殴りかかる薔薇の指先とバックステップで避ける雪菜の姿。ありゃあ心配なさそうだな、と考え意識をオイスタッハと古城に向けた。速度を保ちつつ、オイスタッハに突撃する。横からの攻撃を察知したオイスタッハはとっさに半月斧でガードした。
「行け!暁古城!」
「おう!」
古城が離れるのについていくように獅子の黄金(レグルス・アウルム)もその場を離れ薔薇の指先へと突撃していった。
「よう宣教師、さっきの再戦といこうじゃねぇか」
「何か策があるようですが、魔力を無効化する鉄壁の前では無駄です!」
「誰が魔力をどうこうする、なんて言った?」
「なんですと?」
アインは勢いよく刀を自分の腿に突き刺して祝詞を唱え始めた。
「この世に巣くう邪の魂よ。我が血の染みた剣を与えよう。我が手で打ちし剣を捧げよう。この世の理から外れた者よ、獣よ、霊魂よ!我、汝らの魂を我が剣をもって解き放たんとす!」
祝詞を唱え終わった瞬間、腿に突き刺した刀から垂れた血が意思を持ったかのように蠢き出し、その質量を増大させ、雪菜達のいるあたりに落ちている剣に向かって触手のような物体を伸ばして、剣を『喰らった』。血の塊は次第に人のような形を取っていき、ついにその身長は古城を超えた。
ソレは呻くように頭に相当する部分を抱えながら体を激しく動かすほどに苦しんでいた。よく見るとソレの血で赤黒い体の表面には苦悶の表情を浮かべて何かを叫んでいるようだった。
「さあ!解き放たれろ!その醜い姿を世に現せ!」
ソレは大きな咆哮とともに身体中から無数の邪霊と悪霊を吐き出し、全ての魂が出切ったところでその形を保てなくなりグチャグチャとグロテスクな音を立てながら溶けてただの血に戻った。
「・・・あなたは何者なのですか?今のは優秀な死霊術師(ネクロマンサー)にしかできない禁術のはずだ!」
「ま、俺にもその才能があったつー話だろ」
「アイン!お前何したんだ⁉︎」
「ここら一帯の神気を一時的に消した!雪霞狼も使えんがその眷獣も今はお前の攻撃が通る!」
「アスタルテ!何としても攻撃を防ぎなさい!」
「そこらの眷獣と人工生命体(ホムンクルス)程度に第四真祖の相手が務まるかよ」
アインの宣言通り、薔薇の指先は古城の攻撃をその巨体のせいで避けることも叶わず獅子の黄金の電撃をモロにくらってその場に轟音を立てながら倒れた。
「さて宣教師、お前さんはこれからどうする?頼みの綱だった眷獣は倒され、こっちにはとてつもない戦力が残っている」
「まだです。我が宿願を果たすまではーーー」
「それとあの腕だけどな。多分今回のドンパチはすぐに明るみに出て絃神島の行政機関が正式に返還すると思うぞ。ここで戦いを続けてもあんたにはデメリットしか返ってこない。なら少しでもメリットを多い選択をするのは当然じゃないか?」
「そう・・・ですね。私の戦いは・・・ここで終わりです」
「冥福を祈ってるぜ、オイスタッハ」
「死人扱いとは、これまた」
一連の会話を交わすとアインはオイスタッハに背を向け、古城と雪菜の元へと歩いていった。



「2人ともお疲れさん」
「アインさん・・・なんて危険なことをやらせてくれたんですか?」
「げ、現場の判断」
「そういやお前が使ったあの術はなんなんだったんだ?」
「宣教師が言った通り死霊術師(ネクロマンサー)の禁術だ。あれを大量に解放してあたりの神気を手当たり次第に喰ってもらったんだ」
「だからなんで鍛治師であるお前がーーー」
「先輩、アインさん、変です」
「何がだ?」
なんで眷獣が実体化している(・・・・・・・・・・・・・)んですか?」
「何言ってるんだ?姫柊」
「だって中の人工生命体は意識を失っているのに眷獣が実体化しているのはおかしいんです!」
「ッ!逃げろお前ら!」
眷獣の変化にいち早く気づいたアインが古城と雪菜のフードと襟を掴んで部屋の入り口付近のオイスタッハがいる近くに投げた。
「痛ッ⁉︎アインさん⁉︎」
雪菜が顔を上げるとそこにはドス黒い瘴気を身体中から垂れ流す薔薇の指先の姿が。先の血の塊以上に苦しそうに体を壁や床に自分で打ち付けて呻き声とも聞こえない奇怪な声を上げている。
「どうやら俺は博打に失敗したらしいぞ!」
その時、薔薇の指先が振り回した腕がアインに当たり、アインは右腕が配置してある台座まで吹き飛ばされた。
「がぁッ⁉︎」
腕はそのまま壁を突き破り、海水が部屋に注ぎ込むように流れ込んできた。
「逃げろ!ここはもう保たん!」
「アインさん!」
「行きましょう!彼の言う通りここはもうダメです」
「宣教師!これ持ってけ!」
そう言ってアインが投げたのはアインが台座ぶつかった時に定位置から外れて床に落ちた右腕。
「代わりにその2人を必ず逃がせ!それが条件だ」
「分かりました。必ずや逃がして見せましょう。アルディギアの鍛治師よ、感謝します!」
「先輩!早く!」
「でもあいつが!」
「もう助けられません!それともアインさんが命をかけて助けてくれた命を無駄にするんですか⁉︎」
「くそっ・・・!」
「さっさと行け!俺はもう片足が動かん。すぐに上層にも浸水するぞ」
そうこうしているうちに入り口付近の天井が崩れて部屋は完全な密室状態となった。
「さて、と。お前と俺だけになったがこれからどうする気だ?」
アインが語りかけるのはアインが呼び出した悪霊のうちの一体。強い怨念を持っていたために神気を喰うだけでは満足いかず、近くにあった大きな魔力の塊に取り憑いたのだ。アインの懸念はこういった強力な怨念をもった霊が出てくることだった。
『憎イ・・・』
「憎いだぁ?」
『生者ガ、憎イ・・・我ヲ、殺シタ、者共ガ、憎イ・・・』
「最近じゃ珍しいガチガチの怨霊かよ。あんた収集趣味のある奴のとこに行ってきたらどうだ」
『復讐・・・復讐・・・ソウダ、復讐・・・殺ス・・・殺ス・・・殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スウウウウウゥゥゥゥッ‼︎』
「はぁ・・・面倒以外に言葉が見つからねぇ」
早くもホームシック気味になるアイン。薔薇の指先はその姿を先のそれとは見違えるほどに禍々しいものに変化させていた。白かった甲殻は赤と青が混じった彩度の低い紫になり、アスタルテが入っていた緑色の水晶のようなものがあったところには鬼の如き形相の顔面が2つ、胸に埋め込まれるようにして生えている。肩と背中の間からは新しく左右2対4本の筋骨隆々の腕が出現していた。しかもそのうち1対はコウモリのように羽と腕が一体化した構造になっている。アインも新しく鞘付きの剣を数本実体化して腰に差し、そのうち1本を鞘から抜いて構える。
『死ネエエエェェェェッ‼︎』
「マジかよ⁉︎半端ねえ力だな、オイ!」
怨霊が腕を一振りしてアインのいた場所を叩くと
床にも大穴が開いて海水が流れ込んできた。
「急がねぇとまずいなこりゃ」
アインは怨霊の猛攻を避けながらその巨体に近づき、剣を関節や翼の膜の部分に突き刺していった。部屋の海水がアインの腰あたりまで達した時、怨霊が最初に開けた穴の亀裂が嫌な音を立てて広がり、さらに大量の海水を部屋に注ぎ込んだ。それに気づいた怨霊はその穴の周囲を破壊し始めた。アインは剣に込めた術を発動させるために急いで祝詞を唱え始めるが壁の崩壊の方が早く始まり、海水が一気に部屋を満たして祝詞を唱えるのが困難になった。怨霊の破壊は続き、ついに部屋は崩壊してアインもろとも海底へと沈んでいった。朦朧とした意識の中アインが最後に見たのは羽状の腕を器用に使って海面に向かって泳ぐ怨霊の姿だった。

〜キーストーン内部〜

「オイ、オッサン!アイツは、アインはどうなった⁉︎」
「もう、最下層ごと沈んだでしょう。見なさい、下を。すでに海中が見えている。彼がいくら強靭でもさすがに水の中では生きられません」
「じゃあ・・・」
「それよりも今は私たちが生き残ることを考えましょう。今外は特区警備隊(アイランドガード)でいっぱいのはずです。しかし馬鹿正直に真正面から出て『被害者です』だなんて言ったらそれこそお縄でしょう」
「ならどうすれば・・・!」
「・・・浅葱だ!あいつならここの裏口とか知ってるかも知れねぇ!」
慌てて浅葱の携帯番号にかける古城。その間も海水は刻一刻と迫ってきており、結局階段を駆け上がりながらスピーカーモードでコールをかける事となった。そして6回目のコールで浅葱は電話に出た。
『古城?古城なの⁉︎あんた今どこにいんの⁉︎』
「それも含めて全部あとで話すから教えて欲しい事があるんだ」
『な、何よ?』
「キーストーンゲートのビルの正面玄関とは別に裏口みたいなのを知らないか?」
『はぁ⁉︎あんた今ビルにいるの⁉︎』
「頼む、些細なことでもいい!何かそれっぽいものは無いか⁉︎」
『ええっと・・・!あ、職員用出入り口があったはず!』
「場所は⁉︎」
『正面玄関の真反対!その方向にまっすぐ行けば職員用って書かれた通路があるからそこから出られるわ』
「サンキュ、浅葱!」
古城は手早く電話を切ると乱雑に携帯をポケットに突っ込み足を早めた。





「(あー、苦しい。俺ってエラ呼吸できなかったっけ?あ、できなかったわ。生命の神秘とやらで短時間の進化とか無ぇかなー。ポ◯モンとかいい例じゃん。つーかあれどうなってんのよ?成長痛とかすごくね?教えてよオー◯ド博士)」
現実を考える事さえも放棄しそうな勢いで現実逃避をするアイン。そろそろ酸欠がやばいらしい。
「(しっかしあの怨霊キモかったなー。いやまぁ原因は俺なんだけどね?にしてもあのビジュアルは無いわー)」
思い出せば思い出すほど吐き気を催すような醜悪な姿が鮮明に浮かんでくる。
「(あ、走馬灯?ってやつ見えてきた。あれは・・・姫様に暁古城と姫柊雪菜、オー◯ド博士・・・いや待て最後のは何だ変なの混ざってたぞ)」
人生で初めて見る走馬灯に何か混じっているのは果たして大丈夫なのだろうか。そんな考えを胸に抱きながらアインの体は沈んで行く。
「(アリア・・・もうすぐお前のところに行くかもしんねぇわ・・・つーか行くわ)」
アインは1年前に失った最愛の人の笑う姿を脳裏に思い浮かべながら目を閉じた。





「あった!これか!」
扉はひしゃげて鍵は壊れており、人が十分に通れるスペースはできていた。
「脱出したら一旦マンションまで逃げるぞ。話はそれからだ。オッサンさんもそれでいいよな?」
「構いません」
「先輩、このビルもいつ倒壊するかわかりません。今は少しでも離れましょう」
「ああ」
古城、雪菜、オイスタッハの順に扉をくぐり特に何事もなく外へつながる職員用玄関にたどり着いて脱出できた。ようやく外に出たと思ったら反対側から銃撃音とコンクリートが砕けたり割れる音が響いてきた。
「さっきの怨霊⁉︎」
「もう上にいるのかよ!どんだけ俊敏なんだ?」
「眷獣に取り付くなど相当に強い怨霊だったのでしょう。それ故に生者を憎み、より多くの生者を殺そうとする。正面玄関側には特区警備隊(アイランド・ガード)が集まっていたのでしょうがそれが裏目に出てあれを呼び寄せてしまったようですね。彼らには申し訳ないですが、今はこの状況を利用させてもらいましょう」
「・・・ッ」
雪菜は歯痒かった。おそらく壊滅状態にあるだろう特区警備隊を助ける力はあるのに、何もできない自分を呪っていた。頭では自分は第四真祖の監視役でひと時でも目を離してはならないということを理解している。しかし感情がそれを許さない。
「姫柊・・・」
「私たちは・・・何もできないんですか?やろうと思えばできるのに、彼らを助けられるのに、できないんですか?」
「剣巫よ。あなたは身分が国家降魔官だからともかく、第四真祖の正体が世に露見するのはあなた達の望むところではないのでしょう」
「なら私だけでも!」
「それこそ第四真祖が放っておくとは思いませんが」
「・・・そうですよね。先輩はきっと、私を助けに来るでしょう?」
「そりゃあお前が危険な目にあってたら・・・」
「先輩。先輩は私を信じていますか?」
「信じるって・・・それはまあ信じてるっちゃあ信じてるけど」
「なら、大丈夫ですね」
「おい、姫柊お前!」
「先輩は私を信じているんでしょう?それなら大丈夫です」
それだけ言って雪菜は背中の雪霞狼を引き抜いて正面玄関側に身体能力向上の呪術を自身にかけて行ってしまった。古城もすぐさま後を追うがタイミング悪くビルの一部が古城と雪菜の間に落ちてきて古城の行く手を阻む。
獅子の黄金(レグルス・アウルム)!瓦礫を破壊しろ!間違っても周りに被害は出すなよ?」
獅子の黄金は一瞬困ったように鳴いてすぐに瓦礫に電撃を浴びせ、粉々にした。
「相変わらず加減を知らないな・・・!」
「あなたの眷獣でしょう、第四真祖?それにあの500億円被害の威力に比べればこの程度」
「ぐ」
痛いところを突かれてうめく古城。苦虫を噛み潰したような顔しかできない。
「きゃあっ⁉︎」
「のわっ⁉︎」
古城が前に向き直った瞬間、なんと雪菜が吹っ飛んできた。慌ててキャッチしようとして失敗し、雪菜を抱えて後ろに数メートル転がる。もちろん地面は瓦礫の山なので相当痛い。
「先輩、なんできたんですか⁉︎」
「こういう時普通は来るもんじゃないのか」
「先輩はあの怨霊が眷獣の能力を引き継いでいる可能性は考えなかったんですか⁉︎実際怨霊は神格振動波術式(DOE)使ってましたし!そうなればあれの前では先輩はちょっと頑丈な一般人なんですよ!」
「まあ・・・どうにかなるだろ」
「そんなのだから先輩はいつもいつも・・・!」
古城が横向きに雪菜を抱えて雪菜は雪菜で転がる際に古城にしがみついていたので第三者(オイスタッハ)から見ればラブラブな恋人の痴話喧嘩にも見えなくもない。故にいつ声をかけるか気を使わざるを得ない。オイスタッハの心労は溜まってゆくばかりであった。
「お二人とも、来ますよ!」
古城と雪菜が怨霊の方を見ると2つの顔の間からタコの口のような鋭い牙の生えた円状の穴から光線のようなものを発射しようとしていた。
「離してください先輩!」
「離したらお前また突っ込んでいくだろ!」
古城は怨霊に背中側を向けて雪菜を守る体制になった。そして、怨霊が光線を目の前に向けて発射したーーーーーー






















かのように見えた。確かに熱と衝撃はあったし、見れば古城スレスレで地面が赤熱して融解している。怨霊の背後にはもうもうと立つ砂煙。これを撃ったのが怨霊ではないことだけは明白だった。怨霊は顔と口があった部分がごっそり削れて何かで貫かれたような状態になっていた。断面からは魔力と元の眷獣の体液が血のように溢れ出して周囲を汚している。そして何より奇怪なのが怨霊があんな状態でも生きているということだった。4本の腕を振り乱しながら苦しんでいる。発声器官は消し飛んだので声は出せないがもし健在であれば相当な声をあげていただろう。そして怨霊が腕を振り上げて周りの地面を壊し始めた。そして呆然としていた古城がいる場所にも腕を振り下ろそうとした。しかし、それよりも早く何かが怨霊を潰した。巨大な足だ。暗い紺色の甲殻に鋭い爪。そしてその足は怨霊を背後の砂煙へと引き摺り込んで行った。呆然としたまま十数秒が経った頃。砂煙の中から空に向かって赤い光線が放たれた。収まりかけていた砂煙は衝撃で完全に消え去り、中から現れたのは無惨な程に細切れにされた怨霊の死体とその上に立つ巨大な竜。腹側が白、背中側が紺色の甲殻を持つ巨大な竜。左右7対の紅く光る眼とその後ろには山羊のような巻き角その後ろにまた1対の眼。体よりも大きな翼を持った巨体だった。竜は硬直している古城たちを一瞥したあと空高くに舞い上がり、雲の上に姿を消した。 
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