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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第三十六話 シグナム攻略法

迷いを断ち切ったティアナは絶好調だった。

だがアスカに進展は無く、いつも通りだったが……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

最近のティアナは、とにかく調子が良かった。

自分がやるべき事が明確に見えてきた為、迷いが無くなったのだ。

逆に、伸び悩んでいるのがアスカだった。

「アスカ、シールド展開!レーザーを逸らして!」

「あいよ!」

ティアナの指示通りにシールドを発生させ、ガジェットのレーザーを逸らす。

その隙に、ガジェットに肉薄したエリオが斬撃でしとめる。

大破するガジェット。

と、チーム戦を見ると特に問題なく思える。

いつも通り、アスカが防御担当で、エリオ、スバルが攻撃を担ってる。

だが、

「どうした!打ち込んでこないか!」

個人戦教導で、シグナムの厳しい声が飛ぶ。

「打ち込めって言ったってさぁ……」

ラピッドガーディアンを構えたアスカは二の足を踏む。

(下手に近づいたらカウンターを取られるし……かと言って、副隊長の攻撃を凌ぐのも無理だしなぁ)

アスカは、シグナムの周りをグルグルと旋回しながら、何とか隙を見つけようとする。

「そこだ!」

間合いを詰めて攻撃を仕掛けるアスカ。だが、それはレヴァンティンで軽々受け止められてしまう。

「甘い!」

レヴァンティンを横に薙ぐシグナム。

「っと!」

間一髪、アスカはバリアを展開してその攻撃を防ぐ。

「攻撃が真っ当すぎる!もっと考えんか!」

檄を飛ばして、シグナムが連続で切りつける。

「そ、そんな事を言われましてもね!」

バリアを矢継ぎ早に重ねて、何とか攻撃を防ぐアスカ。

(こいつ、本当に防御だけは上手い!)

口にこそしないが、シグナムはアスカの防御テクニックに感心している。

シグナムが本気を出さないとアスカの防御を突破する事ができない。

自分とは真逆のタイプであるアスカに、シグナムはフェイトとは違った高揚感を持って対峙していた。

「ならこれで!」

シグナムがカードリッジを一発消費する。

「ちょっ!シグナム副隊長!?」

シグナムの次の一手が分かったアスカが大いに慌てる。

炎に包まれるレヴァンティン。

「行くぞ、アスカ!」

炎を纏ったレヴァンティンを構え、シグナムが突撃をかける。

「ま、待って!それは無理!」

絶叫しながらも、アスカはできる限りのバリアを張り巡らせる。

だが、虚しくそれは無駄に終わる。

「紫電一閃!」

「んぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

断末魔の叫び声が、訓練の終了を告げた。





アスカside

「だからさぁ、無理なんだよなぁ」

シグナム副隊長にザックリとやられた後、オレはシャーリーを捕まえてメンテナンスルームに引きこもっていた。

所々焦げているが、気にしないでおこう。

今は、シグナム副隊長のデータを解析する方が先だ。

「うーん。防御は文句なしなんだけどねぇ……シグナムさんの言うとおり、攻撃が当たり前すぎると言うか、普通すぎると言うか」

モニターに映し出された模擬戦を見ながら、シャーリーが言う。

当たり前すぎるって言ったって、オレにはスバルみたいな爆発力はないんだよなー。

つーか、なんでスバルはあんな身体であんなバカげた攻撃力を持ってんだ?

「とにかく、何とかシグナム副隊長の攻略法を見つけないと、いつか死ぬ」

割とマジでそう思うよ。

今日だって、紫電一閃を喰らって意識を飛ばされたし。最近このパターンが多い。

気がついたら医務室ってのも、だんだん定番になってくるし。

シャマル先生も、オレ用のベッドを用意してくれてるしで、有難すぎて涙が出てくるよ。

「前に出て攻撃はしてるんだけど、アスカには一撃で相手を沈黙させる技が無いんだよね」

痛いところを突いてくるシャーリー。

「それは分かってるんだ。インパルスナイフじゃ攻撃範囲が狭いし、そもそもシグナム副隊長には届かないし」

八方塞がりだ。まったく良いアイデアが出てこない。

しばらくシャーリーと一緒に、あーでもないこーでもないとデータとニラメッコをしていた。

その時、シグナム副隊長のデータを見て、オレはある事に気づいた。

「シャーリー。シグナム副隊長が紫電一閃を打った時の瞬間、バリアを壊す寸前のデータを、スローで見せてくれないか?」

「えーと、これ?」

シャーリーがモニターにシグナム副隊長の攻撃の瞬間を出す。

「………」

オレはある点に注目した。そして、それが確信に変わる。

「これ、シグナム副隊長が紫電一閃を当てる瞬間、微妙に重心を背中側にずらしてないか?」

うまく言えないんだけど、レヴァンティンさんがバリアに当たる瞬間、こう……力のベクトルが真逆になってるような気がした。

「え?そうかな?」

シャーリーがもう一度そのシーンを映し出す。

シグナム副隊長がレヴァンティンさんを構え、一気にオレに切りかかってくる。

バリア諸共、吹き飛ばされるオレ……虚しい…

「うーん、わかんないなぁ」

シャーリーは気づかないようだ。

「力の流れって分からないか?魔力じゃなくて物理的なヤツ」

「できるよ。ちょっと待ってね」

パパパッとシャーリーが画面を変える。

モニターがサーモグラフのような画面に切り替わった。

「これでスロー再生するわよ」

画面がゆっくりと動く。物理的な力の流れが赤く表示される。

そして、それはレヴァンティンさんがバリアに触れる瞬間に起きた。

剣先から背中に掛けて、真逆の力が働いている。

「本当だ。ほんの僅かだけど、ベクトルが背中側に流れてる……よく気づいたわね」

シャーリーは感心しているみたいだ。まあ、かなり微妙な動きだから、ほとんど気づかないよね。

「どうして分かったの?」

シャーリーが心底不思議そうに聞いてきた。

そう、普通なら絶対に気づかないだろう。

だからオレは、思いっきりのドヤ顔で答えてやった!

「それはな、オッパイだ!」

ドヤァ!

「………へ?」

目が点になるシャーリー。そうだろう、分からないだろう!

「オッパイの揺れが微妙に違ったからだ!あの勢いで突進してくるんだから、普通なら少し押しつぶされている筈なのに、打つ瞬間は波打つように揺れていたのだ!
つまり、前に行く力と後ろに引っ張られる力が働いたって事…ぐがっ!」

ガンッ!!!

最後まで言うことができなかった。

オレは猛烈な打撃を喰らって床に崩れ落ちる。

シャーリーが電話帳2冊分の厚さがある”デバイス辞典”を思いっきり振り下ろしやがったからだ。

「もう少し言いようって物があるでしょ!」

「ゴ、ゴメンナサイ…」

ガンガン痛む頭を押さえ、オレは素直に謝る。マジで勘弁してください。痛いです。

「だいたい、シグナムさんの攻略法を探すって言ってて、どこを見ていたのよ?」

シャーリーは思いっきり呆れたように言ってくる。

「オッパイ」

即答のオレ。

「もう一発欲しいの?」

「ごめんなさい…」

ここはすなおに謝っておこう。さすがにあの一撃をもう一発くらうとリアル命にかかわる。

ウン、ニンゲンスナオガイチバンダヨ…

「もう…でも、この重心移動って何か意味あるのかな?」

このベクトルの流れは、オレも理解できない。攻撃する方向に対してブレーキをかけているような物だからだ。

「分からないな…普通なら、重心の全てを攻撃対象に傾けるだろ?」

「うん。重心と言うか、体重を掛けて攻撃を重くするよね。でも、シグナムさんのやり方だと、ベクトルが逆なんだよね」

うーん、と二人して悩み始める。

散々悩んで、なんの答えも出なかった。

このままでは埒があかないので、シグナム副隊長以外の人のデータと見比べてみる。

同じ古代ベルカ式のヴィータ副隊長は、清々しいまでにデバイスに体重かけてるし、シスターシャッハも、攻撃時は重心を攻撃対象に向けている。

次のデータを出したシャーリーが声を上げた。

「あ、フェイトさんが同じやり方だよ」

「え?どれ?」

オレはモニターをのぞき込む。そこには、数字の羅列が並んでいる。

ハラオウン隊長の攻撃時の数値化データだけど……

「数字じゃ分からないな。動きを見せてくれよ」

そう言ったら、シャーリーはジト目でオレを見てきた…ばれてーら。

「ダメ。また胸見るんでしょ」

「ハイ、スミマセン…」

うん、人間素直が一番です。

あのデバイス辞典で殴られたら、攻略法どころじゃなくなっちまう。

「ハラオウン隊長も同じ身体の使い方をしているって事は、やっぱり何か意味があるんだろうな?」

コホンと咳払いをして、オレはマジな感じで聞く。

「フェイトさんとシグナムさんは十年来のつき合いだから、お互いに切磋琢磨しているうちに身についたんだろうね。でも、どんな意味があるのかな?」

再びシャーリーと、あーでもないこーでもないと考えたが、やっぱり答えは出ない。

だからと言って、ハラオウン隊長やシグナム副隊長に聞いたら負けのような気がする。

攻撃の瞬間に重心を後ろに?考えられるとしたら……

「もしかしたら、なんだけど…」

ちょっと思いついた事があったんだが、これはあんまり自身がない。

とにかく、言ってみるだけ言ってみようか。

「この動作って、力を一点に集中させる為にやってるんじゃないか?」

「どういう事?」

「つまりさ」

オレはシャーリーに説明する為に、ある物を探した。

キョロキョロと辺りを見回すが、目的のブツは無い。

「シャーリー、ヒモみたいの無いか?ソーイングボックスとか持ってない?」

ヒモか糸が無かったので、シャーリーに聞いてみた。

「あるわよ。糸でもいい?」

ソーイングボックスを取り出したシャーリーは、白い糸のかたまりを手渡してくる。

「少しもらうぞ」

オレは白い糸を10cm程切って、それを机の上に真っ直ぐに伸ばす。

「この糸、横に均等に力が掛かってるとするよな?」

オレは糸の横を指す。

「縦じゃなくて横ね?10cm幅で移動しているって考えていい?」

さすがシャーリー。オレが言わんとしている事を察してくれてる。

「うん。それでさ、一点だけベクトルが後ろに掛かるとするよな?」

オレはそう言って、糸の真ん中を少し後ろにズラす。

糸がくの字に曲がる。

「糸が曲がって、両端が中心に近づいた。この糸はさっき、力が横に均等に掛かってるって設定にしたから、両端が中心に近づくって事は、一点に向かって力が集まっているって考えられないか?」

上手く伝わるか分からないが、オレはシャーリーにそう説明した。

「……無理があるように思えるけど?」

「だよなぁ」

はぁ、とオレはため息をついた。

ちょっと無理がある考え方だ。

「仮にそうだとして、ここから攻略法って見つかりそう?」

その問いに、オレは左右に首を振る。

「インパクトの瞬間をズラすとか、焼け石に水程度の対策しかできないよ」

たぶん、その程度じゃシグナム副隊長には通じない。つーか、余裕で斬られる。

「せめて、紫電一閃を防げればな」

あの強烈な一撃を防ぐ手段が、オレには無い。

バリア、シールドは言うに及ばず、足を使って逃げても捕らえられるんだから、どーしろって感じ?

「紫電一閃……」

ん?なんかシャーリーが言ったな?

「一つ、手があるんだけど」

「え?マジか!」

思わずオレはシャーリーに詰め寄った。

どんな手だ?

「アスカにも結構、厳しい事をする事になると思うけど…」

そう言って、シャーリーはオレに耳打ちをした。

うん、うん、うん?え?えぇっ!

「ちょ…それは無理があるだろ!」

シャーリーのアイデアを聞いたオレは顔を引き吊らせる。

「もちろん、事前にバリアを展開して防御力を上げたり、身体強化しておかないとダメだけど、ラピにプログラムを組み込んでおけば、再現性を無視する事でできるわよ?」

サラッと仰いましたね、シャリオさん?無理な気しかしないんですけど?

そう思うほど、シャーリーの提案は突拍子もなかった。

「高町隊長に怒られないか?オレ、嫌だぞ?高町隊長に怒られるの。高町隊長って怒る時、本当に悲しそうな目をするから」

オレはそう言い訳した。

怒られるのもイヤだけど、ティアナに無理するなってモメた事もあるし、それに下手をしたらシャーリーまで怒られるじゃん?

だったら、まだ紫電一閃を喰らって意識飛ばしてた方がいい。

「入隊直後ならともかく、今ならそんなに無理じゃないわよ。1回だけならね。試す価値はあると思うわ。それに、もし怒られる時は、私が怒られるから」

「で、でも…」

「私の心配はいいの。今はアスカの事が大事。どうするの?」

すっかり見透かされてしまった。なんだかんだで、シャーリーは鋭い。

ここまでシャーリーがしてくれるなら……オレって押しの強い女に弱いのかな?

っと、場違いな事を考えてる場合じゃないな。

「私はいいよ。すぐにでもプログラムを組むし、身体強化の計算もするから。あとは、アスカ次第」

オレの事を思って言ってくれてるんだな。

オレに迷惑をかけないって、そんな事を気にしなくてもいいのに…

覚悟を決めるのは、オレの方か。

「……頼むよ、シャーリー」

こうなったらトコトンやってみようか。どのみち八方塞がりなんだし、やってみる価値は確かにあるだろ。

「うん、任せて。でも、最終的に実行するのはアスカなんだから、ちゃんと練習しておくんだよ?」

「分かってるって。シャーリーのアイデアを無駄にはしないよ」

こうして、オレとシャーリーの悪巧みは実行される運びになった。





outside

アスカとシャーリーが一計を練り、数日が経った。

「どう?できそう?」

訓練場でシャーリーが準備運動しているアスカに話しかける。

「まあ、何とかなるだろ。成功しても失敗しても、とにかくやってみるよ」

身体をほぐしていたアスカが答える。

今日は個人スキルの訓練を行う日で、アスカはシグナムと模擬戦を行う事になっていた。

「プログラムも入力したし、身体強化計算も終わってるから、あとはアスカ次第だからね」

「分かってるって。大丈夫だよ」

「うん。じゃあ、データ取るから、頑張ってね」

シャーリーはそう言って立ち去った。

入れ替わりで、騎士甲冑を身につけたシグナムがやってくる。

「シャーリーは何か用だったのか?」

準備の整ったアスカに、シグナムは話しかける。

「データ取るから頑張って、だそうです」

ラピッドガーディアンを起動させたアスカは、簡素に答えた。

「ほう、何か悪巧みでもしている顔だな」

ニヤリとシグナムが笑う。

工夫して、色々手を尽くして向かってくる事がうれしいらしい。

「悪巧み……まあ、そうですね。あとは模擬戦でって事で」

その言葉を皮切りに、アスカとシグナムの模擬戦が始まった。





立ち上がりはいつもと同じだった。

アスカは間合いを測りつつ、シグナムの周りをグルグルと回る。

(相変わらず隙がないな……)

側面も、背中に回り込んでも、シグナムは僅かに動くだけでアスカに付け入る隙を与えてくれない。

アスカは一度足を止める。

「どうした?悪巧みをしているのではなかったのか?」

鞘に納められていたレヴァンティンを抜くシグナム。

「タイミングってのもるんですよ。まあ、後のお楽しみと言う事で!」

アスカがラピッドガーディアンを振るう。

シグナムは、それをバックステップで躱す。

だが、後ろに飛ぶ瞬間、レヴァンティンを薙いでアスカを牽制する事を忘れない。

「攻め辛いな!」

アスカはシグナムの側面に回り込み、攻撃する。だが、

「遅い!」

アスカの一撃は、レヴァンティンで防がれてしまった。





その様子を、シャーリーはデータを収集しながら見ていた。

「やっぱり攻撃が単調だよね、コンビネーションも正直すぎるし。もうちょっとズルくないと、シグナムさんに届かないよ」

あまりにも真っ直ぐな攻撃を繰り返すアスカに、ボヤくシャーリー。

「でも、それが良い所でもあるんだよね」

「え?な、なのはさん!?」

いつの間にか、シャーリーの後ろになのはが立っていた。

収集しているデータをのぞき込んでいる。

「えぇ~と、ティ、ティアナを見てなくていいんですか?」

シャーリーは突然のなのはの登場に焦る。

「今はヴィータちゃんがスバルと一緒に見てくれているから。それよりも♪」

ニコォっと笑いながらシャーリーは見つめるなのは。

ゾクゥッ!

その笑みに、背筋が凍るシャーリー。

「何か内緒でやってるみたいだね?」

(ばれてる!っていうか、なんで知ってんの??)

ヘビに睨まれたカエルのように、シャーリーはダラダラと脂汗をかく。

「なーんてね、冗談だよ。昨日、アスカ君が言ってきたんだ。今日の模擬戦で少し無茶をするって」

「え?アスカが?」

「うん。シャーリーに協力してもらっているけど、全部自分の責任ですって。だから許可をくださいって言ってきたんだ」

それを聞いたシャーリーは、ヘナヘナと全身の力が抜けるのを感じた。

だが、すぐに憤慨する。

「もう、アスカは!ちゃんと私が責任とるって言ったのに、何で勝手しちゃうかな!」

ふくれっ面のシャーリーを、なのはが宥める。

「分かってるんでしょう?」

ニコニコと笑うなのは。シャーリーは少し落ち込む。

「……迷惑なんて感じてないのに。私って、そんなに頼りないんですかね?」

シャーリーにしてみれば、もっと頼られたいと思っているのだ。

仲間として。

「違うよ。アスカ君はシャーリーにすごく感謝していたよ。だからこそ、筋を通したいって言ってた。
シャーリーがちゃんと安全に配慮してたし、内容も納得のいく物だったから、ちょっと無茶だけど許可したんだよ」

なのははそう言って、シャーリーの肩に手を置く。

「なのはさん…」

「さあ、見せてもらうよ。シャーリーとアスカ君の工夫を」





なのはとシャーリーが見守る中、模擬戦はシグナムが有利に進んでいた。

「クソッ!なんつープレッシャーだよ!」

レヴァンティンから繰り出される斬撃を辛うじて防ぐアスカ。

(魔力回路の加速も、もう臨界点だ!これ以上の魔力増幅はできない!)

アスカは超加速による魔力増幅の限界を悟る。カードリッジを使う隙も無い。

だからと言って、引き下がる気は、アスカには無かった。

「どうした、アスカ!悪巧みとやらをやらんのか!」

一喝し、シグナムはカードリッジを一発消費した。炎を纏うレヴァンティン。

「きた!」

アスカはそれを見て、自分の持つ中で最強強度の六角形のバリアを展開する。

「ラピ、カードリッジロード!」

さらに、二発のカードリッジを消費し、更にその魔力を加速させて増幅させる。

これで準備は整った。

(このヘキサバリアでも紫電一閃は防げない。シャーリー、行くぞ!)

アスカは呼吸を整え、シグナムを見る。

「ほう、いつものように慌てふためかないのだな?」

レヴァンティンを前で構えるシグナム。

「悪巧み、ですよ」

シグナムとの間合いを測りつつ、アスカはヘキサバリアを正面に移動させる。

「おもしろい、行くぞ!」

シグナムはレヴァンティンを振り上げ、一気に間合いを詰めた。

目の前にあるバリア諸共、切り裂くつもりで技を放つ。

「紫電一閃!」

ガァン!

バリアが脆くも切り裂かれた瞬間、アスカがラピッドガーディアンにプログラムされていた技を放った!

「紫電……一閃!」

「む?」

左のラピッドガーディアンが紫電一閃を放つ!

ガキィィィィィン!

凄まじい音が響きわたり、ラピッドガーディアンがレヴァンティンを受け止めた。

「ほう、真似たか……「紫電!」なに!?」

レヴァンティンを左で受け止めたまま、アスカは右の双剣を振るった。

「一閃!」

アスカの一撃がシグナムの胸部にたたき込まれる。

六課に来て、初めてシグナムに一撃を入れた瞬間であった。

「ぐっ!」

2、3歩、後ろによろめくシグナム。衝撃そのものは騎士甲冑が吸収しているから、ダメージは無い。

「ぐ…くっ!」

ガクッと膝から崩れ落ちたのは、攻撃をしたアスカの方だった。

「アスカ!」

倒れたアスカにシャーリーが駆け寄る。

「アスカ、どうしたの?怪我したの?」

苦しそうに顔を歪めるアスカを支えるシャーリー。なのはも慌てて駆けつける。

「な…なんだよ…紫電一閃…こんなに反動があるのか……」

魔力の流れ、身体強化計算を行い準備万端の筈だった。

だが、予想を上回る反動にアスカが耐えきれなかったのだ。

「身体強化の計算が間違が間違ってたんだ…すぐにシャマル先生を呼んでくるから!なのはさん、アスカをお願いします!」

シャーリーがアスカをなのはに頼み、シャマルを呼ぶ為に走り出す。

「ごめん、アスカ君。私の認識が甘かったみたいだね」

うずくまっているアスカを抱き寄せるなのは。

「…違い…ます…これ…は、お、オレの……」

「いいから喋らないで、このまま横になってね」

そう言って、なのははアスカを寝かせる。

なのはは、アスカの頭が地面につかないように膝枕をする。

普段のアスカなら飛び上がって喜びそうだが、紫電一閃のダメージがその余裕を奪っている。

アスカは脂汗を流し、苦しそうに呻く。

「シャマル先生がすぐにきてくれるから、このまま大人しくしてるんだよ。シグナムさんは大丈夫ですすか?………シグナムさん?」

返事が無いので、シグナムに目を向けるなのは。

少し離れた場所で、シグナムは一撃を喰らった箇所を軽く指で撫でていた。

(私の紫電一閃をバリアで勢いを殺しておいてから、未完成の紫電一閃で防いだか…更に、完全にレヴァンティンを止めてからの紫電一閃…)

シグナムは深刻そうに何かを考えている。

「シグナムさん?もしかして怪我を…」

「いや、何でもない…なのは隊長、後で少し話をしたい」

心配そうな目のなのはに、シグナムはそう言ってその場から立ち去る。

(少々早い気もするが、やってみるか)

シグナムは一つの決意を胸にした。





アスカを医務室に送り届けたなのはは、隊長室へと戻った。

中には、シグナムが一人イスに座っている。

「なのは、アスカの様子はどうだ?」

シグナムが聞いてきた。

人前では、なのはを上司として接しているが、気心の知れた者同士の時は昔からの口調になるシグナム。

「はい。シャマル先生が言うには、筋肉が痙攣を起こしたそうで、すぐによくなるらしいです。念のため、今は休ませてます」

「そうか」

シグナムは腕を組んで何かを考えている。

「そう言えば、何かお話があったんじゃないですか?」

なのはは、先ほどシグナムが相談があると言った事を思い出す。

普段は、あまりシグナムから相談と言うのは無い。

「あぁ、頼みたい事があるのだが」

そう言ってシグナムは、立ち上がってなのはと向き合う。

「明日、試合を行いたい」

「………はい?」

なのははキョトンとして首を傾げる。

「試合って、誰とですか?」

フェイトとするのか、それともシスターシャッハを呼ぶのか?そう思うなのは。

だが、シグナムはなのはの予想外の人物の名を口にした。

「アスカだ」

「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

一瞬間をおいて、なのはは叫び声に近い悲鳴をあげた。

「そ、それって模擬戦の事ですよね?!」

「真剣勝負の試合だ」

なのはの問いに、間髪入れずに答えるシグナム。

「だ、ダメに決まってるじゃないですか!いくらなんでも実力差があり過ぎます!それは分かりますよね?」

さすがに許可はできないのか、なのはは慌てるようにそう言う。

それと同時に違和感を覚えた。

普段、シグナムはこんな無茶は言わない。。

多少訓練で行きすぎる事はあるが、自分より実力で劣る者に試合を挑むような事はしない。

「そこを、何とか許可してはくれまいか?」

だが、今日のシグナムはその無茶を通そうとしてくる。

「ダメですよ!それでなくても、最近アスカ君は怪我が多いんですから」

ホテルアグスタ以降、アスカは割とシャレにならない大怪我を何回か負っている。

シャマルからも、しばらく教導から外せないかと相談を受けたくらい、ダメージの蓄積が心配な部分があった。

本人の希望もあり、ケアをしながら訓練を進める方面で落ち着いたが、シグナムと真剣勝負の試合などしたらどうなるか?

死ぬ事は無いにせよ、大怪我を負う可能性はある。

「できれば休ませたいと考えているんです。試合なんて、許可できません」

なのはは、はっきりと否定の意思をシグナムに伝えた。

なのはと言う人物をシグナムは良く知っている。こう言い出したら、まず自分を曲げない事も。

なのはは絶対に許可をしないと決めていた。だが、次のシグナムの行動に大きく決心が揺れ動いてしまった。

「……この通りだ!なのは、頼む!」

そう言うや、シグナムは両手両膝を床に着き、頭を下げた。

いわゆる、土下座だった。

「え?えぇぇぇぇぇぇ!!!ちょっと、シグナムさん!何やってるんですか!やめてください!!」

パニックに陥りそうになりながら、なのははシグナムを起こそうとするが、彼女は頑として動かない。

「頼む!この通り!」

「やめてください!頭を上げて!」

と押し問答をしている時だった。

「おーい、なのはー。いるのか?」

カチャリと隊長室のドアが開きかかる。

「きゃぁぁぁぁっ!」

バン!

悲鳴を上げてなのはが隊長室のドアを叩きつけるように閉める。

「な…どうしたんだよ!」

外から聞こえてきたのはヴィータの声。

「ヴィ、ヴィータちゃん、ごめん!今、ちょっと立て込んでるから!」

動揺した声を必死に押さえて、なのははヴィータを閉め出す。

「おい、大丈夫か?何があった?」

心配する声が聞こえるが、今はドアを開ける訳にはいかない。

「ごめんね、ヴィータちゃん。今はそっとしておいて欲しいの。すぐに行くから、訓練の続き、お願い!」

「……あぁ、分かった。でも、一人で何でも背負い込もうとすんよな?アタシに頼っていいんだからな」

長いつき合いから、なのはがこう言い出したら自分を曲げない事を、ヴィータも知っている。

だから、今は好きにさせようと訓練場に戻って行った。

「ふうぅ…」

大きく息をはいて、ようやくなのはは落ち着きを…取り戻せなかった。

まだシグナムが土下座したままだったからだ。

「うぅぅ…分かりました!許可します!でも、条件がありますからね!」

根負けしたなのはが言うと、シグナムはやっと土下座をやめた。

「……すまない、わがままを言ってしまって」

立ち上がったシグナムは、なのはに謝罪する。

「一応は許可を出しますけど、まず、アスカ君に了承を得る事。もしアスカ君がイヤって言ったら試合はさせません。いいですか?」

「あぁ、分かった」

「あと、もし試合をする事になったら、私が立会人をします。試合で危険と感じたら、そこで止めます。いいですね?」

「それでいい。すまない」

シグナムは多くを語るタイプではない。恐らく、試合を通してアスカに伝えたい事があるのだろうと、なのはは考えた。

だからと言って、本当なら試合の許可などは出したくなかった。

まさかシグナムが土下座をするとは思いもしなかったから、許可をしてしまったのだ。

誇り高き古代ベルカの騎士。烈火の将と呼ばれるシグナム。

そのシグナムの土下座に、なのはが驚いてしまっても、誰も責める事はできないだろう。

「では、早速アスカに了承を得るとしよう」

足早に隊長室から出て行くシグナム。

「あ……待ってください!私も行きます!」

あまりの行動の早さに、一瞬呆然としたなのはが、慌てて後を追った。





医務室では、ベッドで身を起こしているアスカに、見舞いにきたアルトとヴァイスがにぎやかに話をしていた。

シャーリーはアスカを医務室に運んだ後、大した怪我はないと聞いてから、データを纏める為にオフィスに戻っており、シャマルは別件で席を外している。

「お前~、うらやましいな!なのはさんの膝枕だろ?」

「だから、そんな余裕無かったんすよ!身体中すっげー痛かったし」

「バカなヤツだな!滅多にないチャンスを…」

「いやね、でも下から見上げると…」

「ほう、つまり、下から…が…と言う事か?」

「…が…と言う事ですよ」

「「わーっはっはっはっ!」」

と何やらヴァイスと馬鹿話。

アスカとヴァイスがお互いの肩をバシバシ叩いて笑っている姿を、額を押さえて見ているアルト。

「まったく、模擬戦して倒れたって聞いたから見に来てみれば、全然元気じゃない」

アルトは呆れ顔でアスカにグチる。

「あはは、まあ、ちょっと無理しちゃっただけですよ。心配かけてスミマセン」

ニヘラ、と笑って謝るアスカ。

「まあ、いいじゃねぇか。無事だったんだからよ。しかし、シグナム姐さんと模擬戦やって倒れたって聞いた時は、ついに姐さんヤっちまったかって思ったけどな」

「模擬戦のたんびに、オレはそんな思いですよ?」

ヴァイスの物言いに、苦笑するアスカ。

あながち間違っていると言い切れない所が怖い。

そんな話をしている時、シグナムが医務室に入ってきた。

「なんだ、思ったより元気そうだな」

「アスカ君、大丈夫?」

なのはもその後ろから入ってきて、アスカに声を掛ける。

「大丈夫ですよ。ヴァイス先輩とバカ話で盛り上がれるんですから」

アルトが肩をすくめて、代わりに答えた。

「アルトさーん、ひどいッスよ~」

そうは言うが、アスカはどこか嬉しそうに言う。

その様子を見ていたシグナムが、ヴァイスとアルトに目を向ける。

「ヴァイス、アルト。少し外してくれないか。アスカと話があるのでな」

「え?そりゃ構いませんが…」

ヴァイスとアルトは顔を見合わせから、頷いた。

「じゃあね、アスカ」

アルトは手を軽く振って、ヴァイスと医務室から出て行った。

残っているのは、ベッドの上のアスカ、シグナム、なのはだ。

「あ、あの…話ってなんでしょうか?」

静まりかえった医務室で、アスカが緊張気味に尋ねた。

(紫電一閃を勝手にパクった事を怒ってるのかな?)

心当たりがあるとすればそこだが、シグナムに怒ったような感じは無い。

だが、その眼差しは真剣そのものだ。

そして、静かな口調で告げた。

「アスカ。私はお前に、正式に試合を申し込む」

「………へ?」

あまりにも唐突すぎる言葉に、アスカは理解できなかった。

「し、試合って?」

「真剣勝負の試合だ」

それを聞いたアスカの頭が真っ白になる。

なんで副隊長と真剣勝負の試合をしなくてはいけないのか、アスカには分からない。

と言うより、まだ頭が言葉に追いついていない。

「………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!ちょ、ちょっと、どう言う事……」

慌てふためいたアスカだったが、シグナムの真剣で、それでいて静かな瞳を見て口を閉じた。

ジッとシグナムの目を見つめる。

「あ、あのね、アスカ君。別にイヤだったら受けなくていいんだよ?強制じゃないからね」

なのはがフォローするように言うが、アスカにはその言葉は届いていなかった。

(何で試合を…分からない…でも、この瞳……何を伝えたいんだ?)

アスカは、シグナムの瞳に何の翳りも無い事を確認した。

どこまでも真っ直ぐで、澄んだ瞳。

そして、確信する。シグナムが相当の覚悟をしている事を。

「……分かりました。お受けします」

「ほら?アスカ君、イヤだって……えぇぇぇぇぇぇぇ!!」

てっきり断ると思っていたアスカが試合を受けると言ったので、なのはは思わず叫んでしまった。

「試合は明日の正午。場所は訓練スペースだ。立会人は、なのは隊長がやってくださる。今日はもう身体を休めておけ」

シグナムは要件を言って、医務室から出て行った。

ポカーンとしていたなのはが、ハッと我に返る。

「な、なんで受けちゃったの!?」

「え?許可されてたんじゃなかったんですか?」

アスカは、何でなのはがアタフタしているのかが分からなかった。

「だって、まさか受けるとは思わなかったんだもん!」

思わず素が出てしまったなのはに、ちょと萌えてしまうアスカ。

「何で受けたって言われたら、シグナム副隊長の目が綺麗だったからですかねぇ」

「え?」

「混じりっけのない目。あんな目をする人が、意味なく試合なんかしようとはしないと思います」

アスカはそう言って、ベッドから抜け出した。

「どうなるかは分かりませんが、オレもやれるだけの事をします」

アスカは、真っ直ぐになのはを見つめる。

「アスカ君………うん、分かったよ。明日、近くで見せてもらうから」

覚悟を決めたアスカ。

それを止めるのはヤボと言うものだろう。

なのはも、自らも覚悟を持って立ち会う事を決意した。





翌日、アスカは軽く汗を流した後、シャワーを浴びていた。

だが、温水ではなく冷水でだ。

長い髪を伝って、冷水が床に落ちる。

「シャワーで身を清めるもないだろうけどさ」

頭から冷水を被り、気を引き締めるアスカ。

「さて、行くか」





同刻、シグナムも同じようにシャワーで冷水を浴びていた。

目を閉じ、静かに精神集中する。

「アスカ、この試合の意味を感じ取れるか?」





正午

アスカはアーマードジャケットを身につけてシグナムを待った。

(シグナム副隊長が何を考えてるかは、まだ分からない。でも、何か意味がある筈だ)

目を閉じ、集中する。

その様子を、スバル達フォワードメンバーが心配そうな顔で見守っている。

「ティア……アスカ、大丈夫かな?」

不安そうなスバルが、隣のティアナに聞く。

「大丈夫にきまってるでしょ!アスカは頑丈なのが取り柄なんだから!」

力強く答えるティアナ。だが、

『そんな不安そうに言うんじゃないの!エリオとキャロまで不安になるでしょ!』

念話でスバルを叱るティアナ。

『ご、ごめん!』

スバル謝って、エリオとキャロに目を向ける。

二人はジッとアスカを見ていた。不安からか、ぎゅっと固く手を握っている。

その二人に、ティアナが近づく。

「大丈夫よ、心配ないわ。アスカなら、大丈夫。分かるでしょ?」

そう言って、ティアナが二人を抱き寄せる。普段、アスカがしているように。

「「はい…」」

それでも、エリオとキャロは不安そうだ。

(情けないわね…アスカなら、エリオとキャロを安心させる事ができるのに)

今になって、ティアナはアスカの役割の難しさに気づいた。

「来たよ!」

緊張した声でスバルが指をさす。

騎士甲冑を身につけたシグナムが、訓練スペースに入ってきた。

その後ろを、バリアジャケット姿のなのはが続く。

アスカが、閉じていた目を開ける。

シグナムが歩みを止めた。

二人の距離は、約2メートル。

その間に入るように、なのはが立つ。

「これより、シグナム二等空尉と、アスカ二等陸士の試合を行います。双方、共に名乗りを」

なのはがそう言って、一歩下がった。

「時空管理局本局遺失物管理部、機動六課、ライトニング分隊、ライトニング5、二等陸士、アスカ・ザイオン!」

今の肩書きの全てで名乗るアスカ。

「夜天の書が守護騎士、烈火の将、シグナム!」

シグナムは管理局ではなく、仕える主の、己の誇りで名乗りを上げる。

「いざ…」

シグナムがレヴァンティンを鞘から抜く。

「尋常に…」

アスカが、ラピッドガーディアンを構える。

「「勝負!」」 
 

 
後書き
またもやらかしました。13000字オーバーです。
下手な文章のうえ、長くて申し訳ありません。
読んでいる方には大変感謝しています。これからも読んでくれれば嬉しいです。

前半と後半での空気の違いが結構ハンパない事になっていますね。
シグナムさん攻略で見つけた体捌き(ベクトルが間逆の方に行く)ですが、コレは中国武術の
発勁の一つ、十字勁の事を指しています。
八極拳の外門頂肘で肘打ちとは反対側の手は、まっすぐに後方に振りぬくようにしています。
素人解釈なので詳しくは説明できませんが、この体捌きは力を一転に集中させる事が目的だ
そうですよ?奥さん。
実際にはそんな簡単な事ではないんですけどね。

後半、まさかのシグナムさん土下座!
なのはさんにウンと言わせる為とはいえ、結構えげつない手を出してみました。
シグナムさんがここまでする理由とは?次回で明らかに…バレたますよね、たぶん。 
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