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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第五章 Over World
  少しは私のこと、頼ってよね


「このエネルギー、無為にするにはもったいないと思わないかい?」


不気味に宣告するインキュベーダー。

グパァ、とその背が開かれる。
そして口も思いきり開かれ、そのまま上を向いて何かを吐き出し始めた。


真っ黒なエネルギー体と、真っ白なエネルギー体だ。
それぞれは強く輝いており、蒔風は背中がむず痒くなってそれがなんだかを察知した。


「それが・・・・お前の集めてきたエネルギー・・・・・」

「希望と・・・・絶望・・・!?」

「そうさ。そしてまだまだ、こんなものじゃないよ」


上を向いたまま、キュゥべえが答える。
そのエネルギーはドンドン巨大化し、お互いに、そして地面等にぶつからないよう距離を放しながらも肥大する。


「でかい・・・・」

「それで一体どうするつもりだ!!インキュベーダー!!」

「言っただろう?これだけのエネルギーが無為になるなんて、そんなもったいないことは出来ないと。だったら、ボクはボクの合理に基づいて、このエネルギーを使わせてもらうよ」

「お前の合理?」

「つまり俺たちをぶっ飛ばしたい、ってことですかね?」

「見なよ!これだけのエネルギー!これだけの時間!それを無駄にしないためにも、君たちには捌け口になってもらうよ!!」


キュゥべえが言っていることは、要は言いがかり以外の何物でもない。

自身は合理的であると言うが――――まあそう言えばそうなのかもしれない。
彼は否定するが、その怒りという感情を発散するために、最も効率の良い力を使う、という物なのだから。


それぞれの直径が十五メートル程になっただろうか。
一体、何千何万年分のエネルギーなのだろうか。周囲には凄まじい熱エネルギーが生まれている。


蒔風が獄炎のバリアと「林」のバリアを重ね掛けしているためまだ大丈夫だが、それから出ればおそらく血液が沸騰してショック死してしまう。

「グッ・・・う・・・やはりなかなか・・・」

「あ、熱い・・・・」


それでも、バリア内部の温度は蒸し風呂状態だ。
その外では、地面に張っていた水が悉く蒸発して行っている。


ちらりと周囲を見ると、バリアの外にある瓦礫から見える鉄芯が、だんだん赤く発光し始めていた。


「マズイ・・・・獄炎で操れる熱量を越えていくかも!?」

「当然さ!!君らはわざわざ再確認していたじゃないか。それだけの熱量を、君ら如きがコントロールできるはずがないじゃないだろう!!」

「お前は出来るというのかな?」

「それはもう。これは僕たちの作り出した技術さ。操作できないはずがない!」

「そうか・・・・・映司さん」

「え?」



掌がジリジリと焼け、服は大雨に打たれたかのようにずぶ濡れの蒔風が、映司に小声でそれを伝える。

それを聞き、映司の目が見開かれ「そうか!」とポケットからある物を取り出した。




「頼みますよ・・・ッ・・・ぁ・・・ハァ・・・・フゥグッ・・・!?」

映司のそれに期待を込め、蒔風が短く言葉を発する。
すでに内部温度は人間の限界を越えつつあり、蒔風も膝が折れはじめていた。

吐き出す息は、上昇して鼻を熱し
吸い込む空気も喉を焼く。

意識がだんだんと薄れてくる中、映司がそれを渾身の力で投げ放った。



ポッ、とバリアの膜を抜け、二つに割れたそれは、キュゥべえが展開っせている二つの内、白い光の方に向かって飛んで行った。
今の映司ではそこまで届くはずはないのだが―――――


途中から吸い込まれるように、その二つに割れた赤いタカのメダルは白いエネルギーの中に入り込んでいった。




瞬間



ボシュゥ!!!
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ――――――!!!


キンカンキィン・・・・と、無数のセルメダルがぶつかり合い、甲高い音を鳴り響かせていく。

二つあるうちの真っ白なエネルギーが、次々にセルメダルへと変換されていっていたのだ。
ざらざらと大地を埋め尽くすセルメダルとは反比例して、白の球体は勢いと大きさを失っていく。


「な・・・んだって・・・・!?」

「よ・・・し・・・・!!」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・これは!!」


それと同時に、その場の熱も下がっていく。
残っているのは、真っ黒に染まっているエネルギー体のみ。



元のエネルギー体の大きさが嘘だったかのように、セルメダルは圧縮されていく。


その中央に浮かぶのは、割れてしまったコアメダル。
だがそのメダルがガチィッ!と引っ付き、接合部のヒビがパキパキと修復されてなくなっていく。

そしてそれがピィン、と完全に修復されると高速回転し、セルメダルの塊は突如として炎を上げて燃え上がった。



一気に降下し、キュゥべえのすぐ脇を通過し、その小さな体を瓦礫の上から落とす。
その身体は向こうに落ちたようで、蒔風達の視界から消えた。



そして、その炎は映司と蒔風の前に降り立ち、包んでいたのがそれであったかのように―――――


バサァッ!!!

「映司。やっぱお前は使える奴だ」





真紅の翼を広げ、燃えるような欲望を携えた、鳥類の王たる存在が、ついにこの場にて復活した。





「アンクゥ!!!」

「だッ!?っルッセェ!!いきなり耳元で騒ぐんじゃねぇ、このバカ!!」

「コ イ ツ―――!!いきなり復活してバカとはなんだよ!!」

「バカにバカと言って、何かおかしいことがあるか!!」

神々しいまでの復活とは裏腹に、再開は感動的なものにはならなかったようだ。
だがそれでも二人とも、口にする罵倒の割にはまんざらでもない表情をしている。


「映司さん」

「蒔風さん・・・本当にありがとうございます!!」

「は、なんで礼なんか言ってんだ」

「お前も言えよ!!」

「った!?何すんだ映司ィ!!」

いいよいいよ、と手を振る蒔風。
しかし、だけどその代わりに、とワルプルギスの夜の方を指さす蒔風。


「あっちの方の手助け、お願いできますか?」

「大丈夫ですけど・・・・まだあいつが・・・」


蒔風の言葉通り、行く気はあるのだが、何分まだキュゥべえがいる。
しかも、まだエネルギーの半分はフヨフヨ浮かんでいるのだ。

三人が見る瓦礫の向こうには、キュゥべえがいるはずだ。




「おそらく、本来ならキュゥべえはあの二つをぶつけ合って強大な反発エネルギーを得ようとしたはずだ。それを使って俺たちを吹き飛ばそうとしたんだろうけど・・・・」

「その片方を、アンクが持って行った?」

「かなりの量の欲望だったからなァ」

「あっちも喰ってこいよ!!」

「ア?あんな胸糞悪いもん喰えるか!!」


そう言って、その黒い方を指さすアンク。


そこで件の黒いエネルギーがゆっくりと降下していった。
それは瓦礫の向こうに降りて行っており、まるでそこにある小さな口に吸い込まれるかのように消えて行ってしまった。


ゴクン

「きゅっぷい」


そんな音と声が、瓦礫の向こうからする。

白玉のような、人魂のようなのものがヒュンヒュンと飛来して、瓦礫の向こうへと集まってく。
そしてバキバキと音がし始め、ガッ!と瓦礫の上に「手」が置かれた。

いつものキュゥべえの物ではない。
あれは前足などではない。


それにはしっかりと五本の指が付いており、真白であることを除けば、人間のそれとは変わりなかった。


「あれは・・・」

「見ろ。多分、あの小さな体じゃ受け止めきれないから、ストックしていた肉体を使って最適化した肉体に変えているんだ」

「最適化?」

「あぁ・・・肉体のキャパを上げているんだ。それだけのエネルギーを、受け止められる体に」



「そうだね」

と、その手がしゃべった。

否、実際にはその手の持ち主が。



「確かに大したエネルギーだよ。しかもそれを奪うとは・・・・全く、君らは本当に僕の思い通りになってくれない――――!!」

憤った声。

それを取り込んだのは、奪われない為。
そして、間接的にではなく直接、自らの身体で彼らを捻り潰す為だろうか。



バガァッ!!と、小さな瓦礫が吹き飛んだ。
一瞬目を背け、ガードする三人だが、直後にその姿を目撃する。


「なんだ・・・・あれは・・・・」


そこにいたキュゥべえは、普通の感性ならばまず受け入れられない姿をしていた。
キモチ悪いのだ。


大きさは人間大。そして、体型も人間と同じものになっている。
頭だけは獣の時と同じ姿だが、クリクリしていた目はギラギラとしており、かわいらしいとも取れた口は邪悪にひん曲がっていた。


「なんだあれ。キモチわりぃぞ」

「まあそれは同感だけど・・・」

「二人とも」


その姿に率直な感想を述べる二人だが、蒔風は大真面目な顔で警告する。


「あんな姿だが、割れたコアメダルを修復してアンクまで復活させたのと同量のエネルギーを取り込んでるんだ」

「つまり・・・・」

「オレが時間を稼ぐ。早く行くんだ!!」

ドッッ!!

「ごブっ!?」


蒔風の言葉を聞き、そうしようとする映司とアンクの隙間を、白い影が通り抜けて行った。
それは蒔風のどてっ腹に蹴りをぶちかまし、その身体を二十メートル後方に吹き飛ばしたのだ。

蒔風の身体は瓦礫の一つに当たって止まり、その衝撃で再び蒔風が血を吐き出す。


「ガッ・・・ハッ・・・!」

「オイ!!」

「蒔風さん!!」


いきなりのことに驚愕しながら、振り返って名前を呼ぶ映司だが、蒔風が即座に怒声を上げた。



「早く行け!!!こいつの狙いは俺だ!!!」


「ッ――――!!行こう!アンク!!」

「あ!?オイいいのか!!」

「あの人なら・・・・大丈夫だ!!」


立ち上がろうとする蒔風に、キュゥべえが疾駆して行く。
だが、それをしり目に2人はワルプルギスの夜に向かって行った。

きっと蒔風なら勝てると信じて。



そして、その蒔風は


「ふんッ!!」

「うぉっ!!」


立ち上がり途中の所に、キュゥべえの蹴りがぶち込まる。
それを転がって避け、体制を整える。

放たれる拳を手刀で落とし、後退しながらその攻撃を防いでいた。


「どうしたんだい?防戦一方じゃないか」

「チッ!!」

ドガガガガガガガ、ビシュッ!!

「ッ!!」

パンッ!!


拳を次々に突き出してくるキュゥべえと、よろけた態勢を整えながらも後退してそれを受ける蒔風。
蒔風の一瞬の隙をついて、渾身の拳が放たれ、それを両掌で受けて転がる。


後ろ受け身から立ち上がり、さらに踏みつぶそうとする足を回避して膝立ちになる。
そこを蹴りあげてくる脚を、腕を下でクロスして受けた。

が、蹴りは強力で、そのまま蒔風は後方宙返りをさせられながら吹き飛んだ。


バシャシャシャシャシャ!!と足場を覆う水辺の飛沫を上げながら、蒔風が膝立ちになって出発前のことを思い出す。

『戦えると言っても、加速開翼はしちゃいけませんよ!』



「クソ!!」

シャキン!と、両手に「天」「地」をそれぞれ構え、トンファーのように持つ。
気合と共に駆け出し、それと同時にキュゥべえがパンチを放ってきた。


「なぅっ!?とうわ!」

「ふふふ・・・遅いね」

出ようとしたところに突っ込んできたのだ。
蒔風の体勢は当然崩れ、またそこからいいように攻撃されていく。


キュゥべえはその連撃で、蒔風の体勢を整えさせないのだ。
よって、蒔風の防御はギリギリになり、そのせいでまた崩れる。



「ほら!!」

「ゴッ!?」


キュゥべえの拳が、蒔風の横っ面を殴りつける。
上半身をそのまま持って行かれ、上体のぐらつく蒔風の腹に、更に鋭い蹴り上げがブチ込まれた。

カシャァ、という軽い音がして、蒔風の手から「天」「地」が離れて落ちていく。


少し浮きあがる蒔風の体。
一瞬で背後に回ったキュゥべえは手を組み、ハンマーのようにしてその背中に叩きつけた。

バッドンッッッ!!


一瞬だけ水しぶきの音がして、直後に爆発のような衝撃が地面を走る。

獅子天麟を背中に現出させたことで直撃は免れるが、あまりの衝撃に頭を振って気付け治す蒔風。
四つん這いになりながらも、肩越しに背後のキュゥべえを睨みつけ、そのまま後ろ蹴りで反撃して行った。

その一撃は命中し、さらにミドルの右回し蹴り、その足で続いて踵落とし、腰に「火」をだし、抜刀からの一閃でその胸元を斬り裂いた。


だがその刃は両手で挟むようにガッチリと挟まれており、更には指まで組んで逃げられなくされていた。



「こっちだよ!!」

「あァ!?コイツッ!?」



その刃をキュゥべえが左に引き寄せ、そしてグリッと一気に右側に持ってきた。


「おわっ!?」


元々崩れていたというのに、更に体勢を崩され蒔風が地面に倒れる。


「貰ったよ!」


仰向けに倒れたその蒔風の両上腕を膝で押さえつけ、キュゥべえが大仰に拳を振りかぶった。



このままいけば、顔面に拳がブチ込まれる。
そうなれば、後ろは地面だ。

逃げ場のない状況で、蒔風の頭は果実のように潰れてしまう―――――




その瞬間!!


「バスタァー!!」

「な―――クッ!!」


桜色の砲撃が、キュゥべえを退かせた。

バッ、と起き上がり、その方向を見る蒔風。
桜色の魔力の羽根を少しだけ散らせ、そこには白き魔導師が降り立った。


「なのは!!」

「もう舜君!!おいていくなんてひどいよ!!」


プンプンと怒りながら、手を差し伸べてくるなのは。
膝をついてしまっている蒔風は、フッ、と自嘲気味に笑ってからその手を取って立ち上がる。

「ごめんな」

「わかればい~の」


そうして、二人が並んでキュゥべえを睨み付ける。

あれが敵?と、なのはが聞く。
それに蒔風が答え、頼む。


「俺一人じゃキツイ。行けると思ったけど、まだ追い込みが必要みたいなんだ――――助けてくれるか?」

「・・・・はぁ、まったく、舜君も私のこと言えないよ?」

ガシャン

「少しは私のこと、頼ってよね!!」

「ああ、だったらそうするさ!!」



少しぎこちなかった2人が、お互いの手を取り合った。



「ありがとう」


小さなその声は、どちらが言ったものだろうか。
どちらが言った言葉にせよ、それは相手に届かない。


しかし、その心は共にある。
二人のその瞳の先に、負けは一切見えていない。




to be continued
 
 

 
後書き

MMDとかでも人気の、八頭身キュゥべえの登場です!!
キモイな

キュゥべえの最初にしようとしたことは蒔風の言った通りです。
だけどそれもすぐに奪われるキュゥべえ



キュゥべえ、その感情には流されないとか言ってましたけど、思いっきり流されまくってますね。
酔ってる人の「酔ってない」とかと同じレベルです。

ただ、彼にとっても初めての感情です。
それがどうなるのかは見者ですが。


蒔風
「いきなり突っ込んできたらあれだぜ?そりゃ追い込まれもするわ」

基本スペックは蒔風より上みたいですね

というか当然です。
あれだけのエネルギーを半分とは言え飲み込んだんですから。

ですが、それが吉となるか凶となるかはお楽しみにです。




というかアンク復活が何とも軽い・・・・・
八頭身キュゥべえに完全に喰われたな。


アンク
「オイ!!」

でも彼がいなかったらキュゥべえはそのまま爆発起こして映司も蒔風も間違いなく木端微塵でした。
まあそうなる前に焼け死んでいたと思いますが。


とりあえず次回はキュゥべえとの戦闘、ですね。

今回の最終戦は、いろんなところをちまちまとではなく一つ一つ終わらせていくことにします。
まあ間にちょくちょく唯子ストーリーを挟むかもしれませんが。



蒔風
「次回。俺と」

なのは
「私の!!」

二人
「タッグバトル!!」


●<二対一は卑怯だろ・・・とか言わないでくださいwwww

ではまた次回で

 
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