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ネフリティス・サガ

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第十話「賢者の訪問」

その夜、オーベリオンはタイターニアを必死に看病した。タイターニアの傷は深く、何度も吐血して
痛みにうめくその声は国中に響いた。

ベルはそんな二人を見てられず、されとて、明日の合戦になにもしないではいられず戦のしたくに励
んでいた。

「敵は空から来る。海王よりの援軍は、すでに北方の我が領海内で戦闘が始まったと聞く。

敵は、弓矢の届かない上空から爆撃をして手に負えないという唯一の海の魔物たちの魔法によって何と

か抗戦しているが戦況は思わしくない。海王自ら。海蛇神の姿になって暴れまわっている。ゆえに敵は

主力を相当数失ってこちらに来る。よいか、空の敵は森の怪鳥乗りの軍団とドルイド兵団に任せ、我々

は海戦から陸戦と展開してくるであろう、機械兵団と魔導兵団、それに先の魔獣兵団を相手にする。何

か、案のあるものはないか?」

「はい、姫様」

「なんだ、じいか」

「は、老兵ながらに申しますれば、我が国土は三分の二は森でございます、残りは海でございますれ

ば、火を使うあの魔導の術は森での戦いでは総崩れになること必然であります。

しかし、やつらは今回は森に火は放ちませんでした。何故火を使わないのか?火計をもって攻めればあ

の森も一日で手に入ったやも知れませぬのにでは何故かそれはあの森が奴らの狙いであるからです

というのは奴らにとってこの森こそ、わが国の一番の財産で、この森の湧き水を飲めばたちどころに疲

れはいえ、森の果実や木の実はあらゆる効能がありそれらは食料としてはこの上ないわけです」

「そうだわ、ならやはり」

「リリアーナ姫、お言葉を申し上げたい!」

 そのものは白いローブを着ていてフードを目深にかぶっており、城の兵たちもどうしてそのものがこ

こに入ってきたか分からなかった。

「おまえは?」

「わたしはアルテミナス。月のアルテミナスにして魔法使いにございます」

「おお、あなたが、しかし何故フードをとらぬ?月のアルテミナスともあろうものがその素顔を何故見

せぬ?それにどうやってこの城に?城は衛兵でいっぱいだったはず」

「すみません、今しがた、この国に着き、タイターニア様が危篤と聞いて、城に忍び入った所存でござ

います」

 そのものはフードをとると雪のように真っ白な髪に、黒曜石のような黒い瞳に翡翠の石のようなコバ
ルトブルーの眉毛とまつげ、その凛とした人とは思えない美しさに周囲の者はおもわず息をのむほどで
した。そう、その者は美しい美女だったのです。

「あなたが月のアルテミナス?」

「はい、西の空に赤い炎を見て不吉を予感し

ここまで旅して来ました。失礼ながらタイターニア様はどちらに」

「……」

「?」

「あ、すみませぬ、こちらでございます」

「ありがとうございます。私の魔法と知恵でなんとかお救いしたいと思います」

「待て!」

「?なんでしょう?リリアーナ姫」

「わたしを旧姓で呼ばないでくれる?アルテミナス?あなたはわたしの軍議に口を挟んだ、あなたはそ
れを答えてから行くべきで?それに我が城に忍び入るとは何事か!」

「お言葉ですがベル様、タイターニア様のお命が弱まっているのを感じています。事は一国を争うので
す。それにこの状況下でよくこれほど兵をまとめてられると関心ですが、少し薄情ではないですか?」

「な、なんですって?」

「あなたはこの国の王と王女を抜きにしてこの戦勝てるとお思いですか?」

「そ、それは」

「それから、腰のその銃、不吉な気配を放っております、それは海賊王の持ち物です、あの方の持ち物
は海賊がもって真価を発揮するもの。あなたの身辺に富と悪名がつきないことがこの国にどれほど大き
な影響を及ぼしているかお考えですか、富と悪名は災いを呼ぶ者です、王族として身に着けるべき、武
器ではありませんね」

「う、うう」

「それから、明日の戦い、森で戦えばこちらの負けでしょう。彼らは翡翠の国も火で落としました。こ
の国もおなじことです、森が目的といえど、それが障害になるなら一度燃やしてその土でもう一度自分
たちの都合の良い森を造る、実りを司るあの者にはたやすいことでしょう」

「ううう」

「ベル様、アルテミナスとは心に良いことを申しますがそれは薬と同じです。良い薬ほど苦い者なので
すよ、ベル様はご立派です、ですが彼女の言うことも一理あるのです、ベル様どうか、おてんば姫の殻
をおやぶりください」

 するとベルはすっくと立ち上がって。

「作戦参謀、これより、指揮権はこのじいに移す、母上は死ぬはずはない、そのための月のアルテミナ
ス、わたしはわたしにしかできないことをする。船を一艘借りる!船乗りもね」

「べ、ベル様!?」

「じい、あなたはこの国の大事な懐刀、この国に必要、むしろ、私の存在こそ、この国には今は必要は
ない、大丈夫、身の回りのことは全てできるし、私には、座して死を待つ王座よりもあるべき場所があ
ることを知ったわ。今よりオレアノール第一王女は海賊王妃として紅のローズマリーのジョリー・ロジャー(海賊旗)を掲げて、船を出す、戻ってくる頃には全ての海の海賊を従えてこの国に戻るわ!

 月のアルテミナス、アルテミナスは思った。

(やはりこの、お姫様はタイターニア様に似ている、自分の母親が危篤の時に王族の身でありながら海賊

の旗を掲げる。かって若きタイターニア様が海賊王に連れられて八つの海を冒険したように……海賊王

あなたは今もその自由な旗の名を世界に示すのか)

「おお、アルテミナス。そなたが来てくれるとは」

「はい、タイターニア様のご様子はどうですか」

「胸を貫かれている、今夜が山だ」

 アルテミナスの手から光が放たれると胸の傷はまるでなかったかのように消え去った。

「これで大丈夫です。ですがこれからの戦い

タイターニア様が必要です。ですが私は行かなければなりません」

「とどまってはくれないか。そなたの力が必要だ」

「本当に必要なのは時代を担う王なのです」

「そうか翡翠の王国が滅んだ今新たなる王がこの世界をおさめなければならない、それではその姿は人
目につこう」

「時の魔法で若くなろうと思います、少女の方が怪しまれません。名前も変えます」

「賢明だな、気をつけるんだぞ、フォルノウスの事だ、何をしでかすかわからん」

「はい、オーベリオン陛下もお気をつけて、ああ、それからベル様は海賊になるようです」

「あのお転婆め、こんな時に何を考えて」

「ベル様自身のお考えあってのことだと思います、お攻めになりませんよう」

「ありがとうアルテミナス、貴方に翡翠の盟約の加護があらんことを今はなき王国の最後の希望として」

アルテミナスは魔法で少女になり、ひそかに城を出たまだ見ぬ王を求めて。

その夜のオレアノールの空は満点の星空で月はこうこうと輝く満月であった。 
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