| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Lv59 決戦の地へ

   [Ⅰ]


【さて、それでは、これからの事を話そうかの……】

 ヴァロムさんがそう告げたところで、また別の所から声が上がった。
「お待ちくださいッ、ヴァロム様! わ、私にも、お話をお聞かせください!」
 俺達は声の主に目を向けた。
 それは、ルッシラというフィオナ王女に仕える近衛騎士であった。
 ルッシラはヴァロムさんの前に来ると、懺悔するかのように両膝を落とし、苦悶の表情で言葉を紡いだ。
「わ、私は……またもや、フィオナ様を御守りすることができなかった。1度ならず、2度までも危険な目に遭わせてしまったのです。この命に代えましても、フィオナ様をお救いしたいと考えておりますッ。ヴァロム様、どうか、何卒、私も話に加えて頂きたいのです。どうか、何卒!」
 ヴァロムさんはゆっくりと首を縦に振った。
「……よかろう。今は非常事態。近衛騎士も魔導騎士も宮廷魔導師も、今は立場を超え、皆が力を合わせる時じゃ。ただし……ここからは、この国の運命を左右する戦いとなる故、儂の指示に従ってもらう事になる。よいな?」
「ありがとうございます、ヴァロム様」
「うむ。さて、それでは続けようかの」――

 ヴァロムさんは皆に、これからの事を説明していった。
 内容は主に3つで、魔の島へと向かう移動方法と、それに伴う危険への対処方法、そして、魔の島に上陸した後の事であった。
 そして、この場で話を聞いた者達は、ヴァリアス将軍を除いた全員が、魔の島へと向かう事となったのである。
 ヴァリアス将軍は騎士系統の最高指揮官でもある為、王都に残る事となったのだ。まぁ当たり前と言えば、当たり前である。
 また、ディオンさんは主任宮廷魔導師ではあるが、魔導師の指揮権は前もって次席の宮廷魔導師に委任してある事もあり、そのまま俺達と行動を共にすることになった。この辺は怪我の功名と言えるところだろう。
 ちなみにだが、俺達の他にも同行する者達がいる。それは50名程の魔導騎士や宮廷魔導師であった。これが道中の危険への対処法だ。これに、ヴァロムさんの話を聞いていた者達を足した人数が、決死隊の構成人員であった。
 本当はもっと人的支援がほしいところだが、魔の島への移動手段を考えると、これだけしか連れていけない為、致し方ないところであった。
 で、その移動手段だが、それは勿論、王家が所有する大型と中型の船である。 
 一応、船の定員を言うと、大型が30人で、中型が15人程度となっている。
 よって、今回は定員オーバーでの船出となるわけだが、ヴァリアス将軍曰く、なんとか行けるそうである。

 話は変わるが、俺は出発する前に人目を避け、フォカールで防具を取り出し、自分の装備を整えた。
 装備内容はこんな感じだ。

 武器  新・魔光の剣
 盾   魔導の手
 鎧   水の羽衣
 兜   疾風のバンダナ
 装飾品 魔除けの鈴
     祈りの指輪

 今回は流石にヤバそうな相手なので、水の羽衣を装備しておいた。
 魔力を帯びた淡い水色の衣で、形状は賢者の衣やみかわしの服と同じようなローブ型の衣服である。
 また、水飛沫と波の模様が裾の辺りに描かれており、ちょっとしたアクセントとなっていた。
 天露の糸と聖なる織機で作られているのかどうかはわからないが、非常に軽い上に、かなり丈夫な生地で、且つ、清涼感が漂う着心地の良い衣である。
 ゲームでは攻撃呪文と炎に耐性のある優れモノの防具なので、この世界でも同じであってほしいところだ。
 それから疾風のバンダナだが、これは、さっきヴァロムさんから貰ったモノである。
 ベルナ峡谷での俺の修行や、さっきの戦闘を見て、これを渡そうと思ったらしい。
 色は青色で、少し大きめのハンカチみたいな正方形の布だ。真ん中には魔法陣みたいなものが描かれており、そのさらに中心には赤いビーズのような宝石が散りばめられていた。
 多分、これがドロウ・スピネルという魔力供給源なのだろう。ヴァロムさん曰く、ピオリムの魔法発動式を組み込んである魔法の布だそうだ。
 俺はDQⅧの主人公のように頭に巻いたが、使い方は色々で、腕に巻く奴もいれば、首に巻く奴もいるそうである。
 というわけで、話を戻そう。

 俺達は打ち合わせを終えた後、王都を出て、アウルガム湖へと向かった。
 だが、行き先は、この間の桟橋ではない。城壁の近くを流れる河川であった。
 ヴァロムさんの話によると、王家の所有するアウルガム湖の船は、城壁の付近にある河川に停泊してるそうなのだ。
 つーわけで、俺達はそこへと向かうわけだが、外は流石に魔物も多く、難儀な道のりとなった。
 とはいえ、精鋭で組んだ部隊の為、襲い掛かってきた魔物達は皆、返り討ちとなっていた。
 まぁ襲い掛かってくる魔物も、レッサーデーモンみたいな魔物ばかりなので、それほど苦ではないというのも勿論あるが、魔導騎士でもパラディンの称号を与えられている騎士や、第1級宮廷魔導師もいるので、その程度の魔物に後れを取ることはそうそうないのだ。ヴァリアス将軍も、敵地に乗り込む人選という事で、その辺は気を使ったのだろう。
 そんなこんなで、魔物を蹴散らしながら、船の停泊しているところまでやって来たわけだが、俺達は船着き場に到着すると、早速、停泊している船に乗った。
 先程の打ち合わせを聞いた者達は大型船の方に乗り、中型船には大型船に乗り切れない魔導騎士や宮廷魔導師が乗るという具合だ。
 そして、全員が船に乗ったところで、俺達は魔の島に向かい、移動を始めたのである。

 話は変わるが、船はそこそこの大きさだが、あまり大きくはない。
 また、船の動力は人力であった。つまり、ガレー船というやつである。
 漕ぎ手は魔導騎士の方々が担ってくれた。
 俺は漕がなくてよかったので、少しホッとしているところである。
 つーわけで話を戻そう。

 船が動きだしたところで、ヴァロムさんが俺に耳打ちをしてきた。
「コータローよ、一緒に来てくれぬか。ラーさんと共に、話したいことがある……」
「わかりました」
「では、ゆこう。こっちじゃ」
 ヴァロムさんは船室がある一角に向かって歩き出した。
 俺はヴァロムさんの後に続く。
 ヴァロムさんは、甲板上に設けられた船室の1つへと行き、扉を開く。そして、中に入るよう促してきた。
 俺はそこに足を踏み入れる。
 するとそこは、6畳ほどの飾りっ気のない簡素な部屋であった。幾つかの木箱みたいなモノが、部屋の片隅に置かれている。多分、物置として使っている場所なのだろう。
 ヴァロムさんは扉を閉めた後、木箱に腰かけ、囁くように言葉を発した。
「……では、コータローよ。早速で悪いが、ラーさんを出してくれぬか」
 俺は頷き、胸元からラーさんを取り出した。
「さて、ラーさん……魔物達は貴方の予想通り、魔の島へと進路をとった。そこで聞きたいのだが、魔の島に渡った後、我らはそのまま魔の神殿……いや、ミュトラの聖堂に向かえばよいのじゃな?」
「ああ、そのままミュトラの聖堂に向かってほしい。恐らく、そこが決戦の地となろう」
「そうか。ならば、確認したい事がある……もうこの先、悠長に話し合う事は出来ぬであろうからの」――


   [Ⅱ]


 俺達が話を始めて10分ほど経過した。
 魔の島までは30分くらい掛かるらしいから、まだそれほど進んでいない。
 だが、さっきから少し気掛かりな事があった。
 それは何かというと、船内が静かという事であった。全くといっていいほど、慌ただしい雰囲気を見せないのである。
(これだけ進めば、普通は何回か戦闘がありそうなもんだが……全然そんな気配はないな。どうなってんだ、一体……後で甲板の方に行ってみるか)
 ふとそんな事を考えていると、ラーのオッサンの檄が飛んだ。
「――恐らく、中はそういう事態になっておる筈だ。って……コラッ、聞いてるのか、コータロー! 我は今、重要な話をしてるのだぞ!」
「ああ、ちゃんと聞いてるよ」
「フン……なら、我が何の話をしていたか、言ってみろ」
 居眠りしてる奴を見つけた時の先公みたいな事を言ってきやがる。
 まぁいい。話は聞いてたから、言ってやろうじゃないか。
「疑り深いな……ちゃんと聞いてたよ。魔物達が施した魔の世界とこちらを繋げる結界が、ミュトラの聖堂の中にあるって事と、広大な範囲に影響を与えるその結界の発動は、基本的に、結界を施した者以外には発動できないって事、そして……これほどの結界を発動させる術者は、普通の魔物ではなく、魔王級の魔物の可能性があるって事だろ?」
「フン。一応、聞いてはいるようだな。だが、もうちょっと真剣な態度で聞くがよい。ここからは、失敗は許されないのだからな」
「はい、了解……」
 ラーのオッサンはよく見ている。
 というか、恐らく、雰囲気や気配でそういった事を察知してるのだろう。ある意味、面倒くさいオッサンである。
 しかし、言ってることは正しい。ここが正念場なのは間違いないからだ。
「では続けてくれぬか、ラーさん」
「うむ。それで浄界の門を潜った後だが……以前言った通りの手順でやってもらいたい。ヴァロム殿がソレを行っている間、残った者達に、魔物を引き付けて貰うと良いだろう。特に、魔物達の首領はコータローに目を付けておるから、この役はコータローが適任であろうな。まぁいずれにせよ、準備が整うまで、魔物達を封じる事はできぬ。それまでは辛抱するか、何とか魔物達と交渉でもしながら、引き延ばすしかあるまい」
 溜息が出る話である。
 まぁとはいえ、ここに来るまで、敵の親玉にロックオンされるような事を一杯してきたから、この役は仕方ないだろう。
「それから、コータローよ……イデア神殿で、お主が得た武具や道具を出すがよい。この先、装備を整える機会はないだろうからな」
「全部か?」
「地図を除いて全部だ。これから戦う魔物は、恐らく、魔の世界を統べる魔王の1体だろう。恐ろしく強大な力を持つ魔物だ。この地にある武具では、太刀打ちできぬ可能性があるのでな」
「魔王の1体か……嫌な響きだな」
(まさか、リアルで魔王と戦う日が来るとは……とほほ……つか、魔王の1体ってことは、まだ他にもいるんだろう。このオッサン……色々とまだ隠し事してんな。これを乗り切ったら、問いただしてやる)
 俺はフォカールを唱え、イデア神殿で得た品々を全部取り出し、とりあえず、床に並べた。
 出したのは、以下の道具だ。

 キメラの翼×10枚
 世界樹の葉×1枚
 世界樹の滴×1個
 祈りの指輪×1個
 よく分からん指輪×1個
 氷の刃×1振り
 炎の剣×1振り
 名称不明の杖×1本
 炎の盾×1個
 水鏡の盾×1個
 精霊の鎧×1着
 水の羽衣×1着
 よく分からん腕輪×1個
 命の石×4個 
 古びた地図×1枚
 よく分からない黄色い水晶球×1個

 イデア神殿で手に入れた品々は、これの他に、賢者のローブが1着と風の帽子が1個、それと祈りの指輪があと2個あったが、それらは俺とアーシャさんが今所持しているので、フォカールで収納しておいたのは、これが全部である。
「コータローよ、これらの内、命の指輪とイエローオーブをヴァロム殿に渡してほしい」
「は? なに言ってんだよ。そんなの持ってないぞ」
「そういえば……まだ伏せたままであったな。もうよかろう……その名称不明の指輪と、黄色い水晶球がそうだ。今まで黙っていたが……これらはリュビストの結界を発動させる為に必要な鍵なのだよ」
「な、なんだって……」
 俺はそれを聞き、指輪と水晶球に視線を向けた。
 指輪の造形は、銀色のリングに、エメラルドグリーンのような色をした小さな宝石がついているシンプルなモノであった。
 非常に美しい指輪で、豊かな大自然の生命力を感じさせるエメラルドグリーンの宝石が印象的だ。とはいえ、そういう風に見えるのは、若干プラシーボ効果もあるのかもしれない。まぁとにかく、そんな指輪である。
 また、水晶球の方はソフトボールくらいの大きさで、透き通った球体の中には、淡く光り輝く黄色い霧のようなモノが、絶えず、中で渦巻いていた。
 どういう素材で作られているのかわからないが、羽のように軽いオーブである。
(命の指輪……イエローオーブ……まさか、このタイミングで、その名前が聞けるとは思わなかった。というか、既に持っていたとは……。オーブがあるってことは、ラーミアみたいな存在がいるんだろうか……)
 などと考えていると、ラーのオッサンの声が聞こえてきた。
「コータローよ、それらをヴァロム殿に渡してくれ」
「あ、ああ……了解」
 色々と訊きたい事もあるが、この事態を乗り切った後にしよう。
「ヴァロムさん、どうぞ」
 俺はヴァロムさんに命の指輪と、イエローオーブを手渡した。
 ヴァロムさんは、それらをマジマジと眺めながら、オッサンに訊ねた。
「ふむ、これが結界の鍵か……未だかつて感じた事のない雰囲気を持つ魔導器じゃな。ところで、ラーさん、確認じゃが、手順は以前聞いたとおりじゃな?」
「うむ。手順は以前言った通りだ。その2つと、アブルカーンがあれば……リュビストの結界を起動させられるであろう」
「そうか……では、これよりは、儂の役目を果たすとしよう」
 ヴァロムさんは神妙な面持ちになり、命の指輪とイエローオーブを道具袋へと仕舞った。
「よろしく頼む、ヴァロム殿。それから、コータローよ。これらの他に名称不明の杖と腕輪があると思うが、それらは、これよりお主が持つのだ。肌身離すでないぞ」
「え、これもか? って事は、これにもちゃんとした名前があるのか?」
 俺は金色に輝く腕輪と、名称不明の長い杖に目を向けた。
 金色の腕輪は、幅広のメタルバングルのようなタイプで、奇妙な模様が幾つも彫り込まれていた。なにやら得体の知れない威圧感を放つ腕輪である。
 また、杖の方は造形的に、密教僧や修験者が持つ錫杖に似ている感じであった。艶のある青い柄の先端に、大きな金色の輪が付いており、その中心には多面体加工された透き通る水色の宝石が付いている。非常に高貴な佇まいを見せる杖であった。とはいえ、先端部の輪は密教僧の錫杖より、かなり大きいが……。
 ラーさんは言う。
「勿論だ。それらは光の杖と黄金の腕輪といってな、非常に強力な魔導器だ。言っておくが、扱いは注意しろよ……特に、黄金の腕輪はな……」
「お、黄金の腕輪だって……」
(まさか、ここでこの名前が出てくるとは……Ⅳの進化の秘法に使われたのと同じ物じゃないだろうな……そんな秘法がこの世界にあるのかどうか知らんけど)
 と、そこで、ラーのオッサンの怪訝な声が聞こえてきた。
「む……知ってるのか? まさか、黄金の腕輪の事も、例の書物とやらに記されているのではあるまいな……」
「いや、書いてないよ。ただ、そのまんまやなぁって思っただけさ」
 なんとなく嫌な予感がしたので、とりあえず、誤魔化しておいた。
「そうか……ならいい。この腕輪は、少々、危険な代物なのでな」
「危険?」
「ああ。この腕輪は魔力そのものを増幅させるのだが、魔物が使っても同じような効果がある。つまり、使い手を選ばんのだ。魔物の手に渡れば、大変な事になると理解しておいてほしい」
「魔力の増幅ね……わかったよ」
 話を聞く限りだと、どうやら、ゲームと同じような性質を持つ腕輪のようだ。が、微妙にゲームとは違うのかもしれない。
 この腕輪が出てきたドラクエⅣでは、闇の魔力を増幅するとなっていたが、ここでは光も闇も関係なく、全ての魔力を増幅させるようである。
 まぁ何れにせよ、危険な代物には変わりない。
「ところで、この光の杖というのは、どういう魔導器なんだ?」
「それは、精霊王リュビストの力を宿した杖だ」
「へぇ……って事は、精霊王リュビストって光の精霊なのか?」
「ああ、そうだ」
 ラーのオッサンはあっさりと返事した。
 今の言葉を聞き、俺の中で渦巻く1つの疑問が解けた気がした。
「ふぅん……なるほどね。それはともかく……これで、本当に魔物達の結界を封じれるのか?」
「上手くいけばな。だが、我には気掛かりな事があるのだ……」
 ヴァロムさんが首を傾げた。
「気掛かりな事とはなんじゃ?」
「ヴァロム殿は知らぬかもしれぬが……以前、コータローと共に、魔物が巣食う洞窟に行った時、そこにいた魔物が言っていたのだ。ラーの鏡でも見破れぬグアル・カーマの法という、秘法があるとな……」
 今の話を聞き、ヴァロムさんは眉根を寄せた。
「ラーの鏡でも見破れぬじゃと……」
「うむ。しかもその時、魔物達は、秘法を施した魔物は2体いると言っていたのだよ。その内、1体はコータロー達が始末した。つまり、その秘法を施された魔物が、まだあと1体いるのだ」
 ヴァロムさんはそこで、俺に視線を向ける。
「今の話は本当か? コータローよ」
「はい……本当です」
「なんとの……敵も色々とやっておるようじゃな。今、1体は倒したと言ったが、どうやって見破ったのじゃ?」
「コータローが様々な状況を分析して、それを見破った。この男は、そういうのを見抜くのに長けておるんでな」
 今のやり取りを聞き、俺の脳裏に1つの疑問が過ぎる。
 つーわけで、ラーのオッサンに訊いてみる事にした。
「今の話を聞いて思い出したよ、ラーさん。さっきはレヴァンという奴が教皇だったわけだけど、アイツからは魔物の気配がしたか?」
「いや、何も感じない。よって、あの者は魔物ではない……と言いたいところだが、ヴィゴールという魔物の件もあるから、断言はできぬな。それに奴は、あの白い魔物から、アシュレイア様と呼ばれていた。例の秘法を施された残りの1体なのかもしれぬ」
 ラーのオッサンが魔物の気配を感じないという事は、つまり、人という事なのだろう。
「コータローよ、秘法が施されたというもう1体は、アシュレイアという名の魔物なのか?」
「はい、恐らくは……。以前、魔物に変身して、ゼーレ洞窟に侵入した時、そこにいたエンドゥラスの女が言っていました。このイシュマリアで、グアルカーマの法が完全に成功したのはアシュレイア様とヴィゴール様だけだと……」
「なるほどの……。ところで、グアルカーマの法とは一体何なのじゃ?」
「そのエンドゥラスの女が言うには、地上に住まう者の魂と、魔物の魂を融合させる秘術だそうです。恐らく、存在そのものを書き換えるような秘法なので、ラーの鏡でも見破れないんだと思います」
 多分、グアル・カーマの法というのは、PC操作でいう所の上書き保存てやつなんだろう。
 とどのつまり、真実の書き換えってやつだ。
「存在そのものを書き換えるような秘法か……なるほどのぅ……」 
 と、その時である。

【お話し中のところ申し訳ない。レイスだが、少しお話したい事がある】

 扉の向こうから、レイスさんの声が聞こえてきたのである。
 俺はそこでヴァロムさんと顔を見合わせた。
 すると、ラーのオッサンは、小さな声で俺に言ったのである。
「コータロー……かまわん、入ってもらえ。それと、あの者達に、剣と鎧と盾を渡すがいい……カーペディオンの民の末裔ならば、これらの武具の力をうまく引き出せよう」
「どういう意味だ?」
「これらは今から5000年前、カーペディオンで作られた高位の武具だからな」
「マジかよ……」
(この武具が、遥か昔のカーペディオンで作られたモノだったとは……)
 意外な事実を聞けた。
 まぁそれはさておき、俺は扉に向かい返事をした。
「どうぞ、入ってください」
「では、失礼する」
 扉が開き、レイスさんとシェーラさんが中に入ってきた。
 シェーラさんが扉を閉めたところで、俺は2人に話しかけた。
「レイスさんにシェーラさん、どうしました? 何かありましたか?」
「話は他でもない……イメリア様を攫った魔物についてだ」
「さっき、アヴェル王子に訊いたら、細かい事はヴァロム様やコータローさんに訊いたほうが良いと言われたの」
「そうですか。で、魔物の何を知りたいのですかね?」
 レイスさんは少し言いにくそうに訊いてきた。
「この国の宮廷魔導師が魔物の親玉だと、アヴェル王子から聞いた……それは本当なのか?」
「ある意味では……そうかもしれませんね」
 するとヴァロムさんが反応した。
「何じゃとッ!? どういう意味じゃ、コータロー」
 続いてラミリアンの2人も。
「コータローさん、どういう意味だ、一体!?」
「ある意味って、どういう事……」
「今はお話しできません……非常に際どい話ですのでね。この件については、後ほど、アヴェル王子達を交えてお話ししましょう」
「アヴェル王子達を交えて?」
 ヴァロムさんは今の言葉を聞き、ニヤッと笑みを浮かべた。
「お主のその表情……何か掴んだようじゃな」
 俺は頷いた。
「今までは疑心暗鬼でしたが……大神殿での戦いのお陰で、ようやく、つっかえていた謎が解けました」
「ほう、謎が解けた、か……。では、後ほど聞かせてもらおうかの」
「ええ、後ほどお話しします。それはともかく……良いところに、レイスさんとシェーラさんが来られたので、コレを渡しておきましょう」
 俺はそこで炎の剣と氷の刃、そして精霊の鎧と炎の盾、水鏡の盾を2人の前に置いた。
 2人は首を傾げる。
「これは?」
「コータローさん、どういう事? 武具ならもう装備してるわよ」
 レイスさんとシェーラさんは今、魔法の鎧に破邪の剣、それと魔法の盾を装備していた。
 一般的な魔導騎士の装備と同じなので、中々の武具ではあるが、これから戦う事になる敵には、やや心許ない武具であった。
 この際なので、これを装備してもらうとしよう。
「これらは古代魔法王国カーペディオンの遺物で、今、レイスさんやシェーラさんが装備しているモノよりも、数段上の強力な高位武具です。なので、これらを装備することを、俺は2人に強くお勧めします」
 2人は大きく目を見開いた。
「カーペディオンの武具だって!? なぜそんなモノをコータローさんが持っているのだ」
「そ、そうよ、なぜコータローさんが……」
 ここで、ヴァロムさんが話に入ってくれた。
「コータローはのぅ、精霊王リュビストの試練を乗り越えたのじゃよ。そして、来たるべき時の為に、これらの武具を精霊王から託されたのじゃ」
 今の話を聞くなり、2人は俺をガン見した。
「せ、精霊王リュビストの試練だって……な、なにを言ってるのだ」
 レイスさんは話に付いていけないのか、少し狼狽えていた。
 無理もない。突然、こんな話されたら、誰だってこうなるだろう。
「今の話は事実です。これらは、精霊王から、来たるべき決戦に備えて、私に託された武具なのです。ですから、カーペディオンの末裔たる貴方がたに受け取ってもらいたいのです」
 2人は顔を見合わせる。
 シェーラさんは武具と俺の顔を交互に見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「せ、精霊王リュビストに託されたって……コータローさん……貴方、一体何者なの?」
「そんな大層なもんじゃないですよ。基本的に、ただの魔法使いですから」
 すると2人は、『何を言ってるんだ、お前は』とでも言いたそうな表情で、俺を見詰めていたのである。
 とはいえ、ただの魔法使いというのも、ある意味では事実なので、致し方ないところであった。
(まぁそんな事はともかく……そろそろ、俺の見解をヴァロムさんや王子達に話しておこう。魔の島に到着したら、そんな暇はないだろうから……)
 というわけで、俺は2人に言った。
「さて、レイスさんにシェーラさん……アヴェル王子は今、甲板にいるのですかね?」
「ああ、その筈だ」
「そうですか。では、お2人にこんな事をお願いするのは恐縮ですが、アヴェル王子とウォーレンという宮廷魔導師の方をこちらに呼んできてもらって良いですかね? 先程の魔物についての見解を彼等にしないといけませんので……」
「それは構わないが……今の魔物の話をするのなら、我々も話に参加させてほしい」
「ええ、勿論、そのつもりです。お願いできますか?」
「わかった。では私が呼びに行ってこよう」
 そしてレイスさんは足早に、この部屋を後にしたのである――


   [Ⅲ]


 レイスさんは、アヴェル王子とウォーレンさんを連れてこちらに戻ってきた。
 扉が閉められたところで、俺はこの場にいる全員に、他言無用と念押ししてから、静かに話を切り出した。
 俺が解いた謎の説明は5分程度。少し端折った部分もあるが、根拠と結論はしっかりと伝えておいた。
 そして、俺が話し終えると共に、いつにない重苦しい沈黙が訪れたのである。

 この場にいる者達は皆、呆然と無言で佇んでいた。
 そんな重苦しい空気の中、第一声を発したのはアヴェル王子であった。
 アヴェル王子は振り絞るように、ゆっくりと言葉を発した。
「コータローさん、な、なな、何を言ってるんです……そ、そんな馬鹿な……そんな事が、ある筈……」
 続いてウォーレンさんが恐る恐る口を開いた。
「う、嘘だろ……そんな馬鹿な事がある筈……か、確証はあるのかッ!?」
「いえ、残念ながら、確実な証拠はありません。ですが、全ての状況が、そう指し示しています」
「し、しかしだ……クッ、そんな馬鹿な事が……」
 ウォーレンさんはそう言って肩を落とし、苦しそうな表情で額に手を当てた。
 それはアヴェル王子やレイスさん、そしてシェーラさんも同様であった。
(こんな話を聞けば、誰だって嫌な気分になるだろう。無理もない。だが……これは避けて通れない話だ。皆には半信半疑でも、今は受け止めてもらうしかない……)
「コータローさん……あ、貴方は……確信を持って仰っているのですか?」と、アヴェル王子。
「はい、確信を持っています。それ以外に考えられませんから」
 俺がそう答えた直後、この場は更に重苦しい雰囲気へと様変わりした。
 アヴェル王子やウォーレンさん、そしてレイスさん達は、まるで死の宣告を受けたような表情であった。
 そんな中、ヴァロムさんが口を開いた。
「しかし、コータローよ……今の話が本当だとして、どうやってそれを(あば)くつもりじゃ? 何か手はあるのか?」
 俺はそこで、謎を解くカギとなるアイテムを道具袋から取り出した。
 ちなみにだが、そのアイテムは今、布で包まれている状態である。
 ヴァロムさんが訊いてくる。
「なんじゃ、それは?」
「これが、今の話を証明してくれる筈です」
 そして、俺は布を解き、この場にいる者達に、鍵となるアイテムを晒したのである――


   [Ⅳ]


 話し合いを終えた俺達は、周囲の警戒にあたる為、船室を出て甲板へと戻った。
 外は雲一つない青空が広がっており、穏やかなそよ風が、俺の頬を優しく撫でてゆく。
 そこで、のんびりと背伸びしたい気分になったが、ここはもう魔物が支配する領域。常に周囲に気を配らねばならない所である為、俺は気を引き締めた。
(魔物の姿は見えないが、とりあえず、いつでも魔法を使えるよう、魔力のコントロールはしておこう……)
 周囲に目を向けると、キビキビとした動作で警戒にあたる魔導騎士達の姿があった。
 全員が手練れの騎士なので、頼もしい事この上ないが、少し気がかりな事があった。
 それは何かというと、この甲板には魔物と戦った形跡がないという事である。
 俺は隣にいるアヴェル王子に確認をした。
「アヴェル王子、見たところ、戦った形跡がないですが、魔物とはまだ遭遇していないのですかね?」
「ええ、実はまだ一度も現れてないのです。変だと思いませんか?」
「一度もですか……確かに妙ですね」
 湖を進み始めて20分ほど経過したが、魔物が1体も襲ってこないというのは、少し変である。
「王子、魔の島まで、あとどのくらいでしょうか?」
「もう少しですよ……アレがそうです」
 アヴェル王子はいつにない険しい表情で、斜め前方を指さした。
 王子の指先を追うと、黒い点のように見える小さな島が俺の視界に入ってきた。
(あの位置だと、到着まで、恐らく、10分くらいか……そろそろだな……)
 と、そこで、アヴェル王子は面白くなさそうに言葉を発した。
「このままいけば、魔物と戦闘することなく島に上陸できそうですね。何か釈然としませんが……」
「ええ……」
 王子の言う通り、どこか釈然としない。が、しかし、別の見方もできる。
 以前、ウォーレンさんは確か、こんな事を言っていた……このアウルガム湖は、魚介類だけでなく、魔物もまったくいない湖だと。
 理由はわからないが、魔物が避けたくなる何かが、この湖にはあるのかもしれない。
 だが、とはいうものの、俺達は以前の調査で、テンタクルスとホークマンに襲われたのである。これは無視できない事実であった。
(俺達が以前襲われたのは、無理して行動に移したという解釈もできなくはないが……そう決めつけるには早計だ。ラーのオッサンなら、何かわかるかもな。後で訊いてみよう)
 ふとそんな事を考えていると、ヴァロムさんの声が聞こえてきた。
【魔の島はすぐそこじゃ! 総員、装備を整え、いつでも戦えるように備えよ!】
【ハッ!】
 魔導騎士と宮廷魔導師達は武器を手に取り、臨戦態勢に入った。
(そういや、この部隊の指揮権は今、ヴァロムさんがもっているんだったな……忘れてたわ。まぁそんな事はともかく……いよいよだ。俺も戦闘態勢に入ろう)
 程なくして、船は船着き場へと到着する。
 そして、ヴァロムさんの大きな声が、この場に響き渡ったのであった。
【我々はこれより、島の中心に位置する魔の神殿へと向かう! 敵はそこじゃ! 島に上陸した後、説明した通り、隊列を整えよ! 道中、警戒を怠るでないぞ!】
【ハッ!】
【では、いざ行かん!】――
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧