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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv47 魔王クラスの魔物

   [Ⅰ]


【我が名はヴィゴール。アヴェラス公の片腕たる我が力を見せてやろうぞ】
 ヴィゴールは馬鹿デカい身体を震わせ、天に向かい、大きな咆哮を上げた。
【グォォォォォォォォン! グォォォォォォォン!】
 野鳥の飛び立つバタバタとした羽音が、至る所から聞こえてくる。
 サイクロプスやトロルよりも大きな身体であるヴィゴールの咆哮は、それはもう凄まじい迫力であった。
 恐らく、今の咆哮で、縮こまった者もいるに違いない。
【者共! 姿を解け! この愚かな蛆虫共に地獄を見せてやれッ】
 するとその直後、冒険者達の中に黒い霧を発生させる集団が現れたのである。
 数にして20名程であった。
(他の魔物達も動きだしたな……。しかし、これだけの魔物が冒険者達の中に紛れていたとは……)
 程なくして黒い霧は晴れる。
 そこから姿を現したのは、ベレスにレッサーデーモンにホークマン、そしてゴールドオークにハンババといった魔物達であった。
 トロルやサイクロプス程ではないが、それに次ぐ強さを持った魔物達である。
 冒険者達から大きな叫び声が上がる。
「なッ!? 俺達の中にも魔物がいたのか、クソッ!」
「お前達まで魔物だったのか! おのれ!」
「嘘でしょ!? なんで貴方達まで!」
 この反応は無理もない。驚愕の事実というやつだし。
 と、そこで、ヴィゴールがホークマンに指示を出した。
【その方、ゼーレ洞窟に行き、同胞達に伝えよ! 捕獲は中止だとなッ。ここへ来て、共に、この蛆虫共を殲滅せよと伝えるのだッ】
【ハッ、ヴィゴール様ッ】
 ホークマンはヴィゴールに一礼すると、空高く舞い上がった。
 そして、ゼーレ洞窟の方角へと飛んで行ったのである。
 俺はそこでウォーレンさんに指示をした。
「ウォーレンさんッ、向こうに合図を送ってください。例の水際作戦を実行しますッ!」
「お、おう、わかった」
 ウォーレンさんは宮廷魔導師の1人に告げる。
狼煙(のろし)を上げてくれッ」
「ハッ!」
 宮廷魔導師の1人が筒状の物を地面におき、下から伸びた導火線みたいなモノに火をつける。
 するとその直後、【ドォォン】という大きな音が響き渡ると共に、筒から何かが打ちあがり、上空で花火の如く炸裂したのであった。
(この林からゼーレ洞窟まで、凡そ1Km……。それ程離れてないから、恐らく、これで気付いてくれる筈だ。後は……ヴィゴールと他の魔物を早目に倒すのみ。どんな力を持っているのか未知数の部分はあるが、幾ら強大な力を持つ魔物といえど、絶対という言葉はない……)
 俺はそこで、アヴェル王子とウォーレンさんに視線を向けた。
「では打ち合わせ通り、行きましょう」
 2人は頷く。
 まずウォーレンさんが宮廷魔導師に指示を出した。
「魔導師隊第1班に命ずる! 前衛の魔導騎士にスカラを唱えて守備力の強化をせよッ。第2班はピオリムにて我々の素早さ向上を行うのだ」
 宮廷魔導師達は即座に作業に掛かった。
 俺も自分自身にスカラを2度掛けしておいた。
 続いてアヴェル王子が指示を出す。
「守備力と素早さを強化された前衛担当の魔導騎士は、木々に紛れ込み、あの魔物を取り囲むのだ。そして後方担当は、秘宝を打ち鳴らせッ!」
【ハッ】
 魔法でステータス強化をされた魔導騎士から順に、林に散らばって、ヴィゴールを包囲し始める。
 それと共に【ドン、ドン、ドン】というドラムを打ち鳴らす、低い音が聞こえてきたのである。
 ちなみにだが、戦いのドラムのビジュアルは、青地に金の装飾が施された太鼓であった。
 マーチングドラムのように肩掛けタイプの物であり、大きさは大人一抱えくらいといったところだ。
 側面には古代リュビスト文字と思わしきモノや、幾何学な模様がビッシリと彫りこまれており、奏者が打ち鳴らすたびに、それらの文字や模様が光り輝くのである。まさしく、魔法の楽器といった感じだ。
 で、効果の程だが、それは不思議な音であった。
 ドラムから発せられる音や振動が体に伝わるに従い、身体の奥底から力が湧いてくるような感覚があるのだ。これは、凄い効能であった。……震えるぞハ○ト……燃え尽きるほど○ート……刻むぞ、血液のビートってなもんである。
 とまぁそんな事はさておき、ここまでは打ち合わせ通りだ。
 ヴィゴールは騎士団と宮廷魔導師にお願いするとして、他の魔物は冒険者達でなんとかしてもらうとしよう。
 つーわけで、俺はラッセルさんにお願いをした。
「ラッセルさん、バルジさん達と共に他の魔物共の掃討をお願いできますか? 親玉の方は魔導騎士団と宮廷魔導師達で対応してもらいますんで」
「わかりました。よし、行くぞ、皆!」
 マチルダさんとシーマさん、それからリタさんは意を決した表情で頷き、武器を手に取った。が、ボルズはドンヨリとした表情をしていたのだ。
 明らかに、ビビっているといった表情であった。
 そこでラッセルさんは大きな声を上げる。
「おい、ボルズッ! お前もだッ。覚悟を決めろ。行くぞ!」
「わ、わかったよ」
 ボルズは少し不安そうな表情ではあったが、そこで剣を抜く。
 そして、この場にいる全員が、魔物との戦闘に入ったのである。

 準備が整ったところでアヴェル王子の大きな声が響き渡る。
「前衛の魔導騎士は魔法剣による攻撃を開始せよ!」
 続いてウォーレンさんの声も聞こえてきた。
「第1班は引き続き、魔導騎士全員にスカラを掛け続けよ! 2班は負傷した騎士の回復と、隙を見て攻撃魔法を放て!」
 2人の指示通り、魔導騎士と宮廷魔導師達は行動を開始した。
 前衛魔導騎士20名以上の火炎斬りがヴィゴールに振るわれる。 
「でやッ!」
「ハッ!」
「セイッ!」
 ヴィゴールの身体に刃が食い込む。
 だがしかし、ヴィゴールは意にかえした素振りも無く、平然としていたのである。
 ヴィゴールはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべると口を開いた。
【グハハハッ、その程度の攻撃なんぞ、痛くもかゆくもないわ!】
 その刹那、ヴィゴールは巨体に似合わぬ動きを見せる。
 魔導騎士がいる一画へと一気に間合いを詰め、5m以上は優にある馬鹿でかい棍棒を軽々と振るったのだ。
 奴の棍棒は、周囲に密集している木々をへし折りながら、魔導騎士達へと襲い掛かる。
「グワァ」
「ゴフッ」
 その攻撃により、6人程の魔導騎士が吹っ飛んだ。が、魔導騎士達は今の攻撃を受けた後、すぐに立ち上がり、ヴィゴールと間合いを取ったのである。
 あの様子だと、まだまだ戦えそうだ。
 ヴィゴールの忌々しそうな声が聞こえてくる。
【チッ……生きているとはな。木で勢いを殺されたか】
 ここを戦場にして正解だったようだ。
 そう……この林の木々は動かないが、俺達の味方なのだ。
 あの巨体にあの武器だから、これだけ木々が密集していれば奴は全力で戦えないだろう。
 おまけに、これだけの木が見えていたら、無意識のうちに力をセーブしてしまう筈。
 それだけじゃない。この木々に騎士達が隠れる事も出来るので、巨漢である奴との戦闘に限っては、俺達に有利に働くのである。
 とはいえ、戦いは始まったばかりだ。油断はできない。
「ハッ」
「セヤァ!」
 魔導騎士達は手を休めず、ヴィゴールへ攻撃を続ける。
 少しづつではあるが、ヴィゴールの身体から黒い血が滴ってきていた。
 だが、かすり傷程度だったので、あまり大きなダメージは与えれてないようだ。ここだけは誤算であった。
(まさか、これほど打たれ強いとは……。ゾンビキラーを装備する魔導騎士にバイキルト掛けたにも拘らず、これかよ。一体、守備力幾つなんだ……ちょっとヤバいかも……)
 ヴィゴールがイライラとした様子で口を開いた。
【ええいッ、ちょこまかと、うるさい蝿共め!】
 ヴィゴールは尚も、木を薙ぎ倒しながら棍棒を振るう。
 先程と同じように、魔導騎士は吹っ飛ばされる。が、すぐに立ち上がり、魔導騎士達は間合いを保ちながら武器を構える。続いて、宮廷魔導師達の回復魔法が彼等に降り注ぐのである。
 ここで、ヴィゴールが悪態を吐いた。
【クッ……この忌々しい木めッ!】
(とりあえず、こうやって少しづつダメージを与え続けるしかないか。しかし……思った通り、とんでもない力を持つ、パワー型の魔物だな。正直ここまでとは思わなかった。こんなのが自由に力振るえる状態だったら、幾ら魔導騎士達でも太刀打ちできんぞ……)
 と、ここで、宮廷魔導師隊第2班の攻撃魔法が放たれた。
「メラミ」
「イオラ」
「メラミ」
「ルカニ」
「ヒャダルコ」
「ベギラマ」
 中級クラスの魔法が、ヴィゴールに幾つも直撃する。
 だがしかし……奴は雨あられのように降り注ぐ魔法攻撃を受けながら、ニタニタと笑みをこぼしていたのである。
【クハハハッ、この姿になった我を舐めるなよ。その程度の魔法なんぞ、まったく効かぬわ。ククククッ、良いだろう。ひ弱な貴様らにひとつ、魔法の手本というものを見せてやろう。我が最強の爆炎魔法を受けるがいい!】
 ヴィゴールはそう告げるや否や、祈りを捧げるかのように胸元で両手を組む。
 組んだ手に魔力が集まり、真っ赤な光を帯び始めた。
 と、次の瞬間、ヴィゴールは両手を大きく広げ、赤い光のアーチを自身の前に創り上げると共に、呪文を唱えたのであった。

 ―― 【ベギラゴン!】 ――

 その刹那!
 赤い光のアーチから、恐ろしいほどの火力を持った爆炎が、扇状に燃え広がったのである。
 奴の正面にいた前衛の魔導騎士達は、ベギラゴンの爆炎が直撃し、吹っ飛ばされる。
 それと同時に、魔導騎士達の苦悶の声が林に響き渡ったのであった。
「グアァァァ」
「ウワァァァ」
「ガァァ」
 直撃を受けた魔導騎士10数名は片膝を付き、ゼーゼーと肩で息をしていた。
 また、彼等の装備する鎧には黒い焦げ跡が幾つも出来ており、そこからプスプスと煙が立ち昇っていたのである。
 今の攻撃で死んだ者はいないが、これを見る限り、相当なダメージを受けたのは間違いないようだ。
 幾ら魔法の鎧を装備しているとはいえ、ベギラゴンクラスの魔法だと、そこまで軽減できなかったのだろう。
 と、そこで、ベギラゴンの威力を目の当たりにした宮廷魔導師の1人が弱々しく呟いた。
「な、なんだ、い、今の魔法は……。あんな恐ろしいほどの威力を持った魔法、み、見た事も聞いた事もないぞ……」
 イシュマリアで確認されている魔法に、ベギラゴンはなかった筈だから、こう考えるのも無理はないだろう。
 まぁそれはさておき、まさか、ベギラゴンを使えるとは……。
 奴の姿を見て、2回目バルザックとギガデーモンを基準に考えた俺が甘かったようだ。
 つーか、パワー型の魔物なのに、一級品の魔法も使えるなんて駄目だろ……。
 ふとそんな事を考えていると、ここでラーのオッサンが小さく囁いてきた。
「おい、コータロー……はっきり言おう。逃げた方がいい。この魔物から放たれる魔の瘴気は、その辺の雑魚とわけが違う。魔の世界最下層でもかなりの魔物だ。ある種の魔王級といえる。コイツは危険な魔物だ」
 周囲に注意しながら俺は小さく答えた。
「んな事を言ったって、ここで俺だけが逃亡するわけにいくかよ。つか、何か良い手はないか? ラーさん、物知りだから、何か知ってるだろ?」
「そんな事、我が知っているわけないだろう」
「ああもう、何でもいいから、何か思いついた事あったら言ってくれ」
「思いつく事と言われてもな……ン? そういえば……」
「な、何だ?」
「もしやすると、あの魔法ならば効果があるやもしれん」
「あの魔法って?」
「……デイン系の魔法だ。あの魔法に耐性もつ魔物はそんなにいなかった気がするからな。ライデインを試してみたらどうだ?」
「デ、デイン系か……使いたくないなぁ。使ったら、ヴァロムさんの計画に支障が出るよ」
 と、そこで、ウォーレンさんの大きな声が聞こえてきた。
【魔導師隊、1班と2班は急ぎ、魔導騎士の治療を開始しろ! ボヤボヤするな!】
【は、はい】
 宮廷魔導師達はベホイミを使い、ベギラゴンで負傷した魔導騎士を治療してゆく。
 そしてウォーレンさんはというと、杖をヴィゴールに向け、呪文を唱えたのであった。
【マホトーン】
 ウォーレンさんの杖から黄色い光が放たれる。
 光の玉は奴に直撃すると、霧となって周囲を覆い始めた。が、しかし、奴は【フンッ】と魔力を身体から放出し、魔法封じの霧を振り払ったのである。
 ヴィゴールは不敵に微笑むと口を開いた。
【ククククッ、先程の言葉を聞いてなかったのか? 我の身体に、貴様等程度の魔法は通じんのだ】
「チッ」
 ウォーレンさんは舌打ちすると、俺の所にやって来た。
 ついでにミロン君も。
「おい、コータロー……何か良い手はあるか? 秘宝を使っているにも拘らず、奴はピンピンしている。こんな化物だとは思わなかったぞ」
「コ、コータローさん。あの魔物、強すぎますよ」
「それは同意ですが、今のところ、このままの戦い方を続けるしか手はありません。ですが、1つだけ試してみたい事があります」
「試す? 何をだ?」
(デイン系は最終手段だ……まずはコイツを試そう。最高出力で振るうのが前提だが……魔導騎士の振るうゾンビキラーでの傷跡を見る限り、なんとなく行けそうな気がする……)
 つーわけで、俺はそこで魔光の剣を手に取った。
「コレを使って、奴にどれだけの傷を与えれるのか試してみます」
「おお、それか。行けそうなのか?」
「わかりません。ですが、その際、魔力を相当使いますので、魔力回復できる道具を借りれるとありがたいのですが」
 するとウォーレンさんは、2つの小瓶を俺に差し出してきた。
 それは魔法の聖水であった。
「今、俺が持っている魔力回復薬はこれだけだ。他の魔導師達から掻き集めれば、まだまだ用意はできるだろうが、アイツ等も役目があるからな……今はこれが限界だ」
「1つですが、僕のも使って下さい」とミロン君も。
「ありがとうございます。では、ありがたく頂戴致します」
(魔法の聖水は3つか……。どうやら、最大出力の魔光の剣は1回しか使えないようだ……仕方ない、とりあえず、やるだけはやってみよう……ン?)
 と、その時である。
 丁度そこで、険しい表情をしたアヴェル王子も俺の所へとやって来たのだ。
 多分、ベギラゴンの威力を目の当たりにして、ヤバいと思ったのだろう。
 アヴェル王子は他の騎士に聞こえないよう、俺に耳打ちをしてきた。
「ちょっ、ちょっと、コータローさん……あれほどまでの魔物とは聞いてないですよッ。秘宝を使っても、奴にかすり傷程度しか与えれないじゃないですか。おまけに、あんな魔法を連発されたら、前衛騎士の体力がもちませんッ。しかもあの様子だと、まだまだほかにも色んな魔法が使えそうです。な、何か妙案は?」
 少しテンパっていたので、俺は落ち着かせる意味も込めて、現実的な方法を話しておいた。
「落ち着いて下さい、ハルミア殿。奴が使用したベギラゴンという魔法は強力ですが、ベギラマと同じく、正面のみの範囲攻撃魔法のようです。なので、奴の正面に集まらず、散らばって、死角から攻撃するよう、騎士達に指示してください。あの手の範囲攻撃魔法は、ある程度まとまった数に対してじゃないと旨味が無いですから、単体に対しては、奴も使わない可能性が高いです」
 俺の言葉を聞き、ハッとしたアヴェル王子は、そこで顎に手を当てる。
「……なるほど、確かに」
 ウォーレンさんも俺の言葉に頷いた。
「言われてみりゃ、そうだな……。確かに、ベギラマと同じような範囲攻撃魔法だ。名前も似てるし……。もしかして、失われた古代魔法の一種か?」
「多分、そうでしょう。おまけに、奴はさっき、『我が最強の爆炎魔法』とか自信満々に言ってましたから、あれ以上の魔法は使えない可能性があります。というわけで、ハルミア殿、今の指示をお願いできますか?」
「わかりました。では早速」
 そしてアヴェル王子は、騎士達の元へと戻ったのである。
 俺はそこでウォーレンさんに言った。
「さて、じゃあ俺も、ちょっと行ってきます」
「あまり無理はするなよ。あの魔物は相当ヤバい感じだからな」
「気を付けてください、コータローさん」
「お気遣いありがとうございます。では」――


   [Ⅱ]


 俺は魔導の手を使い、木々の枝を飛び移りながら、ヴィゴールの付近へとやって来た。
 ヴィゴールは周囲にいる魔導騎士に気を取られており、俺の接近には気づいていない。
 魔導騎士達は今、先程のアヴェル王子の指示に従い、1つの場所に集まらず、バラけて攻撃を開始しているところであった。
 片や、ヴィゴールはその攻撃を受けてはいたが、相も変わらず、ビクともしてない様子だ。恐ろしいほどの守備力である。
 ゲームならば、ラストダンジョンに出てくる魔物以上の守備力なのかもしれない。
 とはいうものの、流石のヴィゴールも、背後から斬りつけられる回数が多くなっている所為か、少しイライラとしている感じであった。
(魔導騎士の攻撃はゲームでいうなら10数ポイントってとこか……。塵も積もれば何とやらとはいうが、奴の様子を見る限りHPというモノがあったならば、相当高いに違いない。ゲームならば、1000は優に超えてるだろう。この魔光の剣で、どのくらいダメージを与えられるかは未知数だが、現状を打開する為にもやるしかない……。だが、中々タイミングが難しいな……。奴の死角には魔導騎士がいるから、俺が行くと邪魔になりそうだ。かといって、正面からいくとあの棍棒の餌食になってしまう。う~ん……何かいい方法はないだろうか……)
 ふとそんな事を考えていると、背後から声が聞こえてきた。
「ご苦労さん、コータロー。こんな所で何してるん? 戦況でも確認してるんか?」
 声をかけてきたのはラティであった。
 少し、ドキッとしたのは言うまでもない。
「なんだ、ラティか。今から奴に攻撃するんだよ。ところで、そっちはどうだ? 冒険者達は上手い事やってるか?」
「おう、もう大分倒したんちゃうか。金の階級以上の冒険者ばかりやし、コッチの方が数も多いさかいな。でも、あのボルズっちゅう奴は駄目やわ。アホやで、アレ。ごっつい身体してるのに、他の冒険者の後ろに隠れて、コソコソと臆病すぎやで、ホンマ」
「言うなぁ、ラティ。まぁでも、アイツはなぁ……」
 昨日のボルズを見た感じだと、多分、そうなるだろうとは思っていた。
「あれだけゴツイ図体してんだから、弱いわけないんだが……。昨日も思ったが、あの魔物達への怯えようを見る限り、以前、トラウマ的な出来事があったのかもな」
「せやな、それはあるかも」
「アイツの場合、そこを越えたら結構いけそうな気がするけど……って、今はそれどころじゃない。冒険者達の方は彼等に任せるとして、俺はすべき事をしないとな」
「ワイ、何か手伝うことあるか?」
「いや、別……」
 俺はそこで言葉を止めた。
 なぜなら、脳裏にある事が過ぎったからである。
「そうだ、ラティ、1つ頼めるか?」
「頼み? なんやろ?」
 俺はアヴェル王子を指さした。
「あそこにいる髭を沢山生やした騎士に伝えてほしい事があるんだよ。銀色の鎧を着た騎士だ」
「おお、アソコにいる騎士団のお偉いさんやな。で、あの騎士に何を伝えるんや?」
「ハルミアさんというんだが、あの方に、『コータローが、光の剣を使って奴に目晦ましをしてほしいと言っていた』と伝えてほしいんだ」
 これには理由がある。
 以前、ドラクエⅡの攻略サイトを巡回してた時、光の剣の目晦ましはマヌーサと違い、ボス級の敵にも結構効くような事が書かれていた気がしたからだ。
「それを伝えるんやな。わかったで」
「じゃあ、頼んだぞ」
「ほな、行ってくるわ」――

 ラティがアヴェル王子の元へ行ってから暫くの後、それは実行された。
 アヴェル王子は剣を鞘から抜き、自身の前で縦に掲げ、眩い光を奴に放ったのである。
 すると次の瞬間、ヴィゴールは眩しさのあまり、左手で目を覆い隠したのであった。
【グッ……目晦ましか! おのれ!】
 どうやら成功したようだ。
 やってみるもんである。
(さて、それじゃあ行きますか……)
 俺はこの隙を利用し、奴の真上にある木の枝に魔導の手を伸ばす。
 そして奴の真上に来たところで、俺は最大出力の魔光の剣を発動させ、振りかぶりながら落下したのである。
 脳天に目掛けて、俺は魔光の剣を振り下ろす。が、しかし……なんと、奴はそこで俺の攻撃に気付いたのであった。
【ムッ、上か! き、貴様は!? お、おのれッ!】
 奴はそこで上体を仰け反らせる。
 その為、光の刃は奴の脳天ではなく、左目の辺りに振り下ろす形になってしまった。
(チッ……狙いが外れてしまった。今更、剣の軌道は変えられない。もうこのまま振り下ろすかしない。糞っ!)
 光の刃は奴の左目とそれを覆う左手首へと走り抜ける。
 その刹那!

【グアァァァ!】

 ヴィゴールの悲鳴にも似た苦悶の叫びと共に、奴の左目と左手首から黒い鮮血が噴き上がったのである。
 俺は僅かばかりの魔力を左手に向かわせ、魔導の手を使って、地面に着地する。
 と、そこで、奴の左手首がボトッと地面に落ちてきた。
 これを見る限り、今の攻撃はかなり効果的な手段だったようだ。
 しかし、連撃は不可能な為、俺は林の中へと猛ダッシュし、奴と距離を置く事にしたのである。

 木々に隠れながら、俺はヴィゴールへと視線を向けた。
 ヴィゴールは斬られた左目を右手で押さえながら、叫び声をあげているところであった。
【ウグァァァ! お、おのれェェェェッ! 我が体にこれ程の傷を与えるとは! 小賢しい奴め、どこにいるッ! 我が正体を暴いた貴様は、どんな事があっても始末してくれるわ!】
 と、その直後、ヴィゴールは右手で棍棒を持ち、めったやたらと振り回し始めたのである。
 あまりにも滅茶苦茶振り回すので、魔導騎士達は棍棒の間合いから逃げるように後退した。
 流石にあの感じだと、魔導騎士達も中々近づけないだろう。
(う~ん、凄い怒ってる……こりゃ見つかったら、俺、狙打ちされるな……どうしよ……早く次の手を考えないと……ン?)
 と、そこで、慌てた様子のホークマンが上空に現れたのである。
 恐らく、ゼーレ洞窟へ向かった奴だろう。
 ホークマンは大きな声でヴィゴールに呼びかけた。
【た、大変でございます、ヴィゴール様ッ!】
 ヴィゴールは振り回す棍棒を止めた。
【ムッ、お前か。して、首尾はどうなった?】
【そ、それが……ゼーレ洞窟の入口は魔導騎士達によって魔法の玉で爆破され、崩れてしまっており……な、中に入る事が出来ませんでした。い、如何なさいましょう?】
 それを聞くや否や、ヴィゴールはワナワナと身体を震わせた。
【お、おのれェェェェ! 小賢しい奴らめッ! ゆ、許さんぞォォォ!】
 どうやら、怒りはピークに達したようだ。
 これはチャンスかもしれない。
 というわけで、俺はこの隙に、アヴェル王子の所へと移動を開始したのである。


   [Ⅲ]


 俺は魔法の聖水で魔力回復をしながら、ヴィゴールに見つからないよう木々に隠れ、少し離れた所にいるアヴェル王子の元へと移動した。
 ちなみにだが、魔法の聖水で回復できたのは、半分より少し下といったところであった。
 魔法の聖水はゲームだと、20ポイント程度のMP回復だった気がするので、俺の全MPを数値化すると120ポイント程度なのかもしれない。とりあえず、そんなもんだと思っておく事にしよう。
 まぁそれはさておき、アヴェル王子は今、魔導騎士達に細かな指示を送っているところであった。
「今の奴は、何をするかわからん。奴の間合いに迂闊に近づくな! 今まで以上に間合いを取り、隙を見て死角からの攻撃を再開せよ!」
【ハッ】
 そんなやり取りをしている王子に向かい、俺は背後からコッソリと近づいた。
 そして、後ろから耳打ちをしたのである。
「ハルミア殿……今よろしいですか?」
 アヴェル王子はビックリしたのか、ハッと俺に振り返った。
「な、なんだ、コータローさんか。脅かさないで下さいよ。で、どうしたんです?」
「今が絶好の機会です。ホークマンの口振りを見る限り、ゼーレ洞窟の入口は、向こうで待機していた魔導騎士達が崩してくれたようです。つまり、援軍は暫く来ないという事ですから、畳み掛ける良い機会ですよ」
「確かに……。それにコータローさんの攻撃で、奴に結構な傷も負わせられましたしね」
「ええ。おまけに、他の魔物達も、冒険者達が粗方片付けてくれたようなので、残すはヴィゴールと上空のホークマンだけと見ていいと思います。ですので、手数をかけて背後から奴に攻撃を加えましょう」
 アヴェル王子はそこで顎に手を当て思案顔になると、俺に訊いてきた。
「それはそうですが……コータローさん……先程のあの攻撃なんですが、あと何回くらいできそうですか?」
 変に勘違いされるのもアレなので、正直に言っておこう。
「それがですね……実はあれで打ち止めなんです。全魔力と引き換えに得た切断力なので」
「そうですか。という事は、後はもう、魔導騎士の魔法剣による攻撃しか残されてないんですね」
 アヴェル王子はそう言って、少し残念そうな表情をした。
 今のところ効果的な攻撃方法はアレだけだし、こういう反応をするのは無理ないだろう。
「そうなりますね……でも、まだ試してない事がありますから、それを試してみるのも良いかもしれません」
「試してない事? それは一体……」
 俺はとりあえず、ラーのオッサンの受け売りを話しておいた。
「デインですよ。アレならば、奴に効果があるかもしれません。デインに耐性を持つ魔物はあまりいないと聞いた事がありますから」
 アヴェル王子は渋った表情をする。
「デインですか……しかしですね。私は今、こういう姿でして……」
「まぁ言わんとする事は分かりますが、一応、考えておいて下さい」
「……わかりました。状況を見て、その辺は判断します」
 と、その時である。

【グアァァァ! どこまでも腸はらわたが煮えくり返る奴等よ! ブチ殺してくれるわッ!】

 ヴィゴールが力任せに棍棒を振り回すのを再開したのだ。
 その勢いは凄く、奴の周囲にある木々はバキバキへし折られていた。
 先程と同様、魔導騎士達は迂闊に近づけない程であった。
 もはや、形振り構ってられないといった感じだ。が、そこで、予想外の事が起きたのである。

【そこかッ! まずは貴様から始末してやるッ! 息の根を止めてやるゥゥゥ】

「や、やばッ」
 不味い事に、奴は俺を見つけてしまったのだ。
 そして、その直後、奴は信じられないような跳躍を見せたのである。
 なんと奴は、魔導騎士達を飛び越え、俺達の方へと大きくジャンプしたのだ。
 ドスン! という大きな衝撃音をたて、ヴィゴールは俺達のすぐ近くに着地した。その距離、20mといったところであった。
 そして着地するや否や、重戦車の如く、棍棒を振り回して木を薙ぎ倒しながら、コッチに向かって突進してきたのである。
 それはもう、物凄いスピードであった。しかも馬鹿デカいので、そのインパクトたるや、とんでもない迫力であった。
 三崎光太郎、大ピンチである。
「せ、戦略的撤退!」
 俺は後方にダッシュした。
「チッ、コッチに来た! クソッ!」
 ついでにアヴェル王子も。
【まてぇ! この蛆虫がァァァ。原型留めぬくらいに、その身体を擦り潰してくれるわ!】
 奴の狂ったような怒声が林に響き渡る。
 俺とアヴェル王子は全速力で逃げた。
 擦り身になるのは、流石に御免である。
「デカいのに、なんて速さだ! コータローさん、ど、どうしましょう?」
「あのぉ、ハルミアさん……奴は明らかに俺を狙っています。あ、貴方まで逃げる必要はないのでは?」
「この距離だと、そんな事言ってられないでしょッ。そんな事より、このままだと、すぐに追いつかれますよ! 何か良い手を考えてくださいッ!」
「い、良い手と言われましても」
 俺は後ろをチラ見した。
 奴と俺達の距離は10m程。少しでも気を抜けば、すぐに追いつかれる距離であった。
(クソッ、巨体の癖に、なんつう足の速さだ。怖ぇぇ……。それはともかく、このままじゃやばい。……ど、どうしよう、何か良い手ははないか……アッ!?)
 丁度そこで、俺の脳裏にとある漫画の一コマが過ぎったのである。
「ハルミアさんッ、光の剣ですッ。あれで目晦ましをしてくださいッ!」
 天津飯、技を借りるぜ、てなもんだ。
「あ、そうか、その手があったかッ。わかりました」
 アヴェル王子は剣を奴へと向け、柄の上にある水晶球に手で触れた。
 と、次の瞬間、カメラのフラッシュを思わせる眩い光が、ヴィゴールに向かって放たれたのである。
 太陽拳ならぬ太陽剣といった感じだ。
【グアァァ! またあの光か! おのれェェ】
 ヴィゴールは目を押さえ、勢いよく木に衝突する。
 そして、木をへし折りながら、ヴィゴールは派手に転倒したのであった。
(た、助かったぁ……)
 俺とアヴェル王子は、奴と少し距離を置いてから立ち止まる。
 その直後であった。
「今だ! 魔導騎士隊は間合いを取りつつ、魔物を包囲するんだ。急げ!」
【ハッ】
 丁度そこで、ウォーレンさん達もやって来たのである。
 魔導騎士達も一緒であった。ナイスタイミング!
 ウォーレンさんとミロン君は、俺達の所に駆け寄ってきた。
「ハルミア殿、お怪我は? それとコータローも大丈夫か?」
「大丈夫だ、ウォーレン」
「俺もなんとか。ン? おおッ!」
 ここで更なる援軍が駆け付けた。
 なんと、ラッセルさんとバルジさんのパーティも、俺達の所にやって来たのである。ついでにラティとボルズも。
「コータローさん、大丈夫ですか?」と、ラッセルさん。
「ええ、今のところ大丈夫です。ところで、他の魔物はどんな感じですか?」
「冒険者に化けていた魔物達は、先程、すべて倒しました。後はもう、この親玉の魔物だけです。なので、俺達も加勢しますよ」
 頼もしい限りだ。
 続いてバルジさんが、申し訳なさそうに口を開いた。
「まさか、ゴランが魔物だったとは……すまない、コータローさん。貴方の忠告を無視して……」
「その話は後です。まずはこの魔物を倒すのが先です。ですが、気を付けてください。コイツはとんでもない化け物です。恐ろしい魔法を使ってきますから、間合いを大きくとってください。それと、決して、正面から戦おうとしてはいけませんよ」
「わかりました」
 俺達がそんなやり取りをする中、ヴィゴールはゆったりとした動作で立ち上がり、周囲を見回した。
 ヴィゴールの周囲は既に、冒険者と魔導騎士達によって完全に包囲されていた。
 状況を確認したところで、ヴィゴールは不敵に微笑んだ。

【ククククッ、なるほど……同胞達は既にやられ、残ったのはもう我だけという事か。ククク、やるではないか。蛆虫共の分際で、中々に手際がいい。まさか、ゼーレ洞窟の入口を爆破して崩すとは思わなかったぞ。お蔭で援軍は期待できそうもない。良い手だ。そこは褒めてやろう。だが……それで我を倒せると思っているのなら、それは甘い考えだ、クククッ……。とはいえ、如何に我の力が貴様等よりも強大とはいえ、これだけの数を相手するには、チト骨が折れるのもまた事実。よって……我もこの期に及んでは、不本意だが、撤退も考えねばならぬようだ。が……その前に1つだけやっておかねばならぬ事がある……】
 ヴィゴールはそこで俺に視線を向けた。
【貴様……確か、コータローとか言ったか。我を見破ったその鋭い洞察力といい、我の左目と左手首を奪った先程の攻撃といい……貴様からは非常に危険な臭いがしてくる。今にして思えば……木々が密集するこの林を戦いの場とした事や、洞窟の入口を塞ぐといった、この一連の流れも、恐らく、貴様が考えた事なのだろう。……一体何者か知らぬが、貴様からは、我等の悲願に支障をもたらす、危険な気配を感じる……。この危険な気配……これは是が非でも、取り除かねばならぬなぁ。クククッ……よって、貴様だけは必ず殺すと宣言しよう。そして、その舞台へ今、貴様を招待してやるッ!】
 と、その直後、ヴィゴールは棍棒を大きく振りかぶったのである。
 そして、俺のいる方に向かい、高く跳躍したのであった。が、しかし……その跳躍距離は思ったほどではなかった。
 なぜなら、奴が着地するであろう地点が、俺から50m以上離れた位置だったからである。
 そこは誰もいない所であった。あるのは地面のみだ。
(なんで、あんな所に……わけが分からん)
 と、そこで、ヴィゴールの声が聞こえてきた。
【クククッ、この林で戦う事で、貴様は有利に戦いを進めるつもりだったのだろうが、そう甘くはないッ! 地の利は我にあり! それを今、貴様に教えてやろうッ、シャァァァァ!】
 ヴィゴールは着地すると共に、馬鹿デカい棍棒をこれでもかというぐらい、思いっきり地面に振り下ろした。
 そして、次の瞬間!

 ―― ドゴォォン ――

 地響きが起きると共に、なんと、大地に大きな亀裂が走ったのである。
 亀裂は俺達の方にまであっという間に到達する。
 そして、俺はこの突然の地割れに、成すすべなく飲み込まれてしまったのであった。
「う、嘘だろッ、こんな事が!」
 アヴェル王子やウォーレンさん、そしてミロン君の悲鳴に似た声が聞こえてくる。
「な、何ィッ!」
「なんて奴だ! 地面を崩すなんて」
「ウ、ウォーレン様ァァ」
 続いてラッセルさん達の声も。
「ば、馬鹿な、こんな事が!」
「なんという化け物だッ」
「ヒィィ」
「キャァァ」
「地面かち割るって、なんやねん!」
 そう……運が悪い事に、俺の近くにいた面子は、殆どが地割れに引きずり込まれたのだ。

 地に足のつかない感覚は、すぐに終わりを迎えた。
 ドスン! と鈍い痛みが尻に走る。
「イテテテ……」
 どうやら、ケツで着地したようだ。
 とはいえ、それ程の痛みではなかった。
 多分、一緒に降ってきた柔らかい土がクッションになったからだろう。
 そこで、アヴェル王子達の声が聞こえてきた。
「なんて奴だッ」
「クッ、地割れを起こすとは」
「イッ……ン、なんだこの空間は?」
 俺もそこで周囲を見回した。
 すると、見覚えのある光景が目に飛び込んできたのである。
 なんとそこは、鍾乳洞だったのだ。
 しかも、結構広い空間であった。
「こ、ここは……一体どこだ……まさか、ゼーレ洞窟か……」
 と、俺が呟いたその直後であった。
 ドォォンという大きな着地音と共に、低く太い声が洞窟内に響き渡ったのである。
【……その通り、ここはゼーレ洞窟だ。よくわかったな。そして……我が地下世界にようこそといったところか、クククッ】
 アヴェル王子は声高に叫んだ。
「皆、奴から距離を取れ! 迂闊に近づくな!」
 その言葉を号令に、俺達は全員、ヴィゴールから距離を取る。
 そして武器を手に取り、すぐに身構えたのである。
 ヴィゴールはニヤニヤしながら口を開いた。
【クククッ、さて、ではそろそろお前達に引導を渡すとしよう。ココならば我の力は発揮できるからな。覚悟するがいい!】
(チッ、不味い……奴の言うとおり、ここには奴の攻撃を阻むモノがない。どうしよう……この展開は予想できんかった。ちょっとヤバいかも……)
 と、その時であった。
 地の底から響くようなおどろおどろしい声が、突如、この空間に響き渡ったのである。

《……ヴィゴールよ……そなたに命ずる。この者共を全て始末せよ。生かして返すな……確実に始末せよ……》

 ヴィゴールは声が聞こえた方向に向かって、恭しく頭を下げる。
 そして、丁寧な所作で言葉を紡いだのであった。
【ハッ、アシュレイア様の仰せのままに……。必ずや仕留めて御覧に入れましょう……】と―― 
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