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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv21 カーンの鍵

   [Ⅰ]


「ヴァルの奴、一体何を始めるつもりなんじゃ……」
 リジャールさんはそう呟いた後、眉間に皺を寄せ、暫し無言になった。
 この様子を見る限り、リジャールさんは鍵の制作を依頼されただけなのかもしれない。
 恐らく、この鍵を使って何をするのかという事は知らないのだろう。
「あの……リジャールさん、先程、『どこで材料と製法を手に入れたのか知らないが、ヘネスの月に入りかけた頃にやってきて、これを作れと言ってきた』と仰いましたが、それは本当なのですか?」
「本当じゃとも。儂は嘘は言っとらんぞ」
「そうですか……」
 今の話が本当ならば、この鍵の作り方をヴァロムさんは知っていたという事になる。
 でも知っているのなら、何故、自分で作らなかったのだろうか……。
 ヴァロムさんは魔導器の類を自分で作ったりもするので、そこが少し引っ掛かるところであった。
「変だな……作り方を知っていたのに、何故、ヴァロムさんは自分で作らなかったのだろう……」
「なぜって……そりゃ勿論、魔法銀を錬成せねばならぬからじゃよ」
「魔法銀の錬成?」
「うむ。魔法銀の錬成には材料も必要じゃが、それの他に高度な技術と経験がいる。しかも、素材によっては、熟練の技師でも失敗する事は多々あるのじゃよ。じゃから、如何(いか)に稀代の宮廷魔導師と云われるヴァルでも、こればかりはそう簡単にはいかぬのだ」
「ああ、そういう事ですか。なるほど」
 それならば納得だ。が……もう1つ謎がある。
 しかし、それはリジャールさんに訊いてもわからない事なので、今は置いておく事にしよう。
「カーンの鍵か……ヴァロムさんでも作れないという事は、かなり難しい製造技術なのでしょうね……」
 と、ここで、アーシャさんが話に入ってきた。
「難しいも何も、魔法の鍵の製法は、イシュマリア誕生以前の失われた古代の魔法技術ですわ。それにカーンの鍵は、かつてはイシュマリア王家も所有していたと云われる鍵です。ですから、これがあのカーンの鍵ならば、凄い事なのですよ!」
「そ、そうなんですか」
 アーシャさんはやや興奮気味であった。
 目を輝かせながら熱弁するアーシャさんに、俺は若干引いてしまった。
 そして、今更ながらに俺は思い出したのである。アーシャさんが古代魔法文明オタクだという事を……。
 まぁそれはともかく、今、気になる事を言ったので、俺はそれを訊ねた。
「アーシャさん……かつてイシュマリア王家が所有していたと今言いましたが、現在はもう所有していないという事ですか?」
「らしいですわよ。私も本当の事はどうかわかりませんが、王家が所蔵する古い書物には、2000年以上前に紛失したと書かれているそうですわ」
「へぇ、2000年以上前に紛失ですか……」
「うむ。まぁ一応、そういう事になっておるの。じゃが、いずれにしろ、このイシュマリアに魔法の鍵は無いという事になっておる。じゃから、このカーンの鍵の事はあまり口外せぬ方が良いぞ。ヴァルも儂にそれを念押ししてきたからの」
「ええ、わかっております。そこは十分注意するつもりです」
 とりあえず、余計な心配をしなくていいように、後でフォカールで仕舞っておくとしよう。それが一番安全だ。
「しかし、ヴァルの奴、一体どこでこの製法を知ったのじゃろうな。お主は何か聞いておらぬか?」
「それなんですけど、なにも知らないんですよ。先程も言いましたが、ある物を受け取ってほしいとだけしか聞いて無いものですから」
 するとリジャールさんは、顎に手を当てて渋い表情になり、ボソリと独り言のように呟いたのである。
「そうか……ならば、カーペディオンの遺物でも手に入れたのかもしれぬな。もしかすると、ラミナスから逃れてきた者達から手に入れたのかもしれん」
 カーペディオン……これは聞き覚えのある名前であった。
(賢者のローブを見て、サナちゃんが言っていた古代国家の名前と同じだな……)
 というわけで、俺は訊いてみる事にした。
「あのぉ、今、カーペディオンって仰いましたが、それは古代魔法王国・カーペディオンの事ですか?」
「ああ、そうじゃ。魔法の鍵は古代魔法王国・カーぺディオンで編み出された製法じゃと云われておるからの……ン?」
 と、そこで言葉を切ると、リジャールさんは俺の胸元に視線を向けた。
「お主の胸元に描かれている紋章……それはもしや、サレオンの印か?」
「え? ええ、確か、そういう名前らしいですね」
「お主、それをどこで手に入れたのじゃ?」
 カーペディオンの名前が出てきたので、この紋章について訊いてくるだろうとは思った。
 さて、どうしよう……。かなり知識がありそうだから、あまり下手な事は言えない。
 とりあえず、今までの話の流れから、ヴァロムさんに貰ったという事にしておいた方が良さそうだ。
「実はこのローブ、ヴァロムさんから貰ったんです。なので、どういう物なのかは、私もよく分からないのですよ。名前は賢者のローブというらしいのですが……」
「ヴァルから貰ったじゃと……。という事は、やはり、ヴァルの奴はカーペディオンにまつわる何かを手に入れたのじゃな。いや、きっと、そうに違いない」
 多分、違うと思うが、あまり余計な事は言わないでおこう。話がややこしくなる。
「ところでリジャールさん、今、ラミナスから逃れてきた者達から手に入れたのかもしれないと仰いましたが、それはどういう意味ですか?」
 だが俺の言葉を聞くなり、リジャールさんはキョトンとしながら首を傾げたのである。
「は? 何を言うかと思えば……そんな事決まっておろう。古代魔法王国・カーペディオンは、ラミナスのあったグアルドラムーン大陸で栄えておったからじゃよ。もう滅んでしまったが、ラミナスには古代魔法王国の遺跡が数多く残っておるからの」
「そうですわ、コータローさん。知らなかったのですか?」
「は、初めて知りました」
 どうやら俺は、また無知をさらけ出したようだ。
 訊いておいてなんだが、俺は少し恥ずかしくなってきた。
 するとそこで、リジャールさんは豪快に笑ったのである。
「カッカッカッ、しかし、まぁなんとも妙な話じゃな。賢者の衣を纏う者が、古代魔法王国の栄えておった場所を知らぬとはの。まぁよい、それはともかくじゃ。話を戻すが、ラミナスの王宮には古代魔法王国の遺物が沢山あったと云われておる。じゃから、その中に魔法の鍵の製造法を記した物があったとしても不思議ではないわけじゃ。なので儂は、ヴァルの奴はそういった遺物を独自に手に入れたのかもしれぬと思っただけじゃよ。それほど深い意味はないわい」
「そういう意味だったのですか。なるほど」
 少し恥ずかしい思いをしたが、意外な話を聞けた。
 宿屋に帰ったら、早速、サナちゃん達にその辺の事を少し聞いてみよう。
(さて、用事も済んだし、そろそろ帰るとするかな。サナちゃん達も待ってるだろうし……)
 というわけで、俺はそろそろお(いとま)させてもらう事にした。
「さて、それではリジャールさん、今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。面白い話も聞けたので、非常に勉強になりました。それと、鍵の方は確かに頂戴いたしましたので、私達はこれで失礼させて頂こうと思います」
「ん、ああ……もう帰るのか?」
「ええ。日もだいぶ暮れてきましたので、私達もそろそろ帰らせてもらおうと思います。それと、旅の仲間を宿屋に待たせておりますので」
「ふむ……」
 するとリジャールさんは、顎に手を当てて妙に思案顔になったのである。
 気になったので、とりあえず、訊いてみた。
「あの、何か気になる事でもありましたか?」
「そういえばお主達……ヴァルの弟子だと言ったな」
「ええ、そうですが」
「なら1つ訊くが、お主達はキアリーの呪文は使えるのか?」
 何でこんな事を訊くのか分からなかったが、俺は頷いた。
「はい、一応、私は使えますが……」
「おお! お主、使えるのか」
「ええ、まぁ……」
 俺の返事を聞いたリジャールさんは、そこで笑みを浮かべ、ホッとしたように柔らかい表情になった。
 反対に俺は、何が何だかわからないので、思わず首を傾げてしまったのである。
「今、キアリーの呪文の事を訊かれましたが、それがどうかしたのですか?」 
「ヴァルの弟子という事は、お主達、その辺の魔法使いではあるまい。儂の見立てでは、かなりの使い手と見た」
 俺は頭を振る。
「いえ、私はまだまだ未熟者にございます。ヴァロムさんからも、そう言われておりますので」
「そう謙遜せぬでもよい。ヴァルの奴は、真に才のある者にしか手解きはせぬからの。ヴァルに見込まれたという事は、只者ではないという事じゃ」
「本当ですか? でも私は成り行き上、弟子になったみたいなものですからね」
 そういえば以前、ソレス殿下もそんなような事を言っていたのを思い出した。
 もしそうならば照れる話である。
「儂もヴァルとはそれなりに付き合いが長いのでな。あ奴の事はよう知っておるつもりじゃ。じゃから、お主達はかなり魔法の才があるのじゃろう……」
 と言った直後、リジャールさんはそこで目を細め、少し鋭い表情になった。
 俺はこの表情の変化に嫌な予感を覚えた。
 そして、その予感は的中する事になるのだ。
「さて、そこでじゃ。そんなお主達を見込んで頼みがあるのじゃが……聞いてもらえぬじゃろうか?」
「頼み……ですか」
「うむ。長旅をしてきたお主達に、こんな事を頼むのは儂も気がひけるのじゃが、実は今、このガルテナには非常に厄介な事が起きておってな。儂も困ったことに、村長からそれの対応を迫られておるのじゃよ」
 この言い方は、かなりキナ臭い感じがした。
 ゲームだとこういう場合、殆どが魔物がらみのイベントだからだ。
 その為、どうせ碌な事じゃないだろうと、俺は思ったのである。
 だがとはいうものの、無視するわけにもいかないので、とりあえず、話だけは聞く事にした。
「……厄介な事と仰いましたが、一体何があったのですか?」
 リジャールさんはそこで目を閉じると、静かに話し始めた。
「この村の奥にラウムを採掘していた時代の古い坑道があるのだが、実はそこで今、少し異変が起きているのじゃ」

 ラウム……この名前は以前、ヴァロムさんの口から聞いた事があった。
 確か、青い魔鉱石の事をラウムと言っていた気がする。
 ちなみに魔鉱石とは、魔力を蓄えた石の事で、高位の武具や魔導器の製造に用いられている貴重な素材だ。
 マルディラント守護隊が装備していた魔法の鎧等の武具は、この鉱石を使って作られているそうである。
 種類も幾つかあるそうで、それらは色々と性質も違うそうだ。
 また、同じ魔鉱石でも、その質はピンからキリだそうで、当然、市場で値付けられる相場も違うようである。
 というわけで話を戻そう。

「坑道で起きた異変とは、一体何なのですか?」
「実はな……坑道に性質の悪い魔物が棲みついたみたいなのじゃよ」
「魔物ですか」
(やっぱりな。はぁ……やだなぁ、もぅ……さっき、キアリーを使えるかどうか訊いてきたから、多分、毒を持った魔物が棲みついているんだろう。はぁ……溜息しか出てこない)
 内心ゲンナリとしつつも、俺は質問を続ける事にした。
「という事は、この村に沢山いる冒険者みたいな方々は、それと関係が?」
 リジャールさんはコクリと頷く。
「うむ、お主の推察通りじゃ。外の冒険者達は、その為に村が雇うておるのじゃよ。争いごとに慣れておらぬこの村の者達では、不測の事態に対応できぬからの」
「そうでしたか……」
 理由はわかったが、村内にいる冒険者達の数を考えると、かなり厄介な魔物なのかもしれない。
 だが少し引っ掛かる部分があったので、俺はそれを訊ねた。
「今、冒険者を雇ったと仰いましたが、マルディラントの太守であるソレス殿下や守護隊に陳情はされないのですか? こういった事は冒険者よりも、その地方を治める武官に頼んだ方が良いと思うのですが……。年貢も納めているのだと思いますし」
「陳情はもう既にやった。しかし、マルディラントの方でも魔物の数が増え始めている為、守護隊の人員を裂けないようなのだ。で、その代わりという事で、マルディラントの方から彼等を斡旋してもらったのじゃよ」
「そうだったのですか。……申し訳ありません。そうとは知らず、生意気な事を言ってしまい」
「いや、構わぬ」
 そういえばヘネスの月に入った頃、ティレスさんと一度会ったが、その時、魔物の対応に追われて困っているような事を言っていた気がする。なので、今の話は事実だろう。
 まぁそれはともかく、肝心なところを聞かねば……。
「それでは話を戻しますが、私達に頼みたい事というのは、一体何なのでしょうか?」
「それなんじゃが、実は、儂の護衛をお主達にお願いしたいのじゃよ」
「え? 護衛……ですか?」
 なんか意外な言葉が出てきた。
 俺はてっきり、魔物退治でも頼まれるかと思ったのである。
「うむ、護衛じゃ。儂は坑道の中で何が起きているのか、それを知りたいのじゃよ。しかも、坑道の中におる魔物は、厄介な事に毒を持っておる。じゃから、キアリーを使えるというお主達に護衛を頼みたいのじゃ」
「そういう事だったのですか」
 思った通り、毒を持った魔物のようだが……さて、どうしたもんか。
 俺はそこでアーシャさんに視線を向けた。
 するとアーシャさんは、少し眉根を寄せ、微妙な表情をしていた。
 まぁこうなるのも無理はないだろう。誰だって厄介事は御免だからだ。
 おまけに俺達は先を急ぐ身でもあるので、少々心苦しいが、断ることにしたのである。
「あのぉ、大変申し上げにくいのですが、私達は荷物を受け取り次第、王都へと向かってほしいとヴァロムさんに言われております。ですから、その依頼をお受けするのは難しいですね。それと旅の仲間が宿屋にいますので、私の一存で決めるわけにもいかないのです」
 俺の返事を聞いたリジャールさんは、残念そうに大きく溜め息を吐いた。
「フゥゥ……そうか……難しいか。しかし、今、この村にはキアリーの使い手がおらぬ上、備蓄してある毒消し草の数も残り少なくなってきておるのじゃ。しかも不味い事に、毒消し草はここから一番近い町であるフィンドでは手に入らん。マルディラントにまで行かねばならぬのじゃ。じゃから、儂も困っておるのじゃよ」
「そうだったのですか。しかし、ですね……」
 どうしたもんか……。
 俺1人で考えるのもアレなので、とりあえず、アーシャさんの意見を訊く事にした。
「アーシャさん、どうしましょう?」
「今朝も言いましたが、私はコータローさんの判断に従いますわ」
「そ、そうっスか」
 こう返されると俺も困ってしまうが、まぁ仕方ない。
 と、そこで、何かを思い出したのか、リジャールさんはポンと手を打ったのである。
「ああ、そうじゃ。言い忘れておったが、勿論、タダでとは言わん。ちゃんと報酬も考えてあるぞ。もし、手を貸してくれるならば、レミーラの魔法書と、儂が作成した魔導器を幾つか進呈しよう。どうじゃ、引受けてくれぬか?」
「レミーラの魔法書に、魔導器……」
 俺は今の話を聞き、ヴァロムさんが以前教えてくれた事を思い出した。
 確かヴァロムさんは、こんな事を言っていたのだ。
 レミーラは現在でも使える古代魔法の1つだが、通常の洗礼で修得する事が出来ないと。
 それからこうも言っていたのである。
 レミーラを修得するには、レミーラの魔法が封じられた魔法書が必要だとも。
 まぁ要するに、このレミーラという照明魔法は、フォカールのような方法でしか覚えることが出来ない魔法のようである。

 話は変わるが、レミーラの魔法書は仕組みが解明されているそうで、古代の魔法書の原本を複製した物が出回っているそうである。
 というわけで、魔法書があれば修得できる古代魔法なのだが、複製はそれなりに技量がいるらしく、出回っているとは言っても、その数は少ないそうだ。なので、貴重な魔法という事には変わりないのである。
 話を戻そう。

 前者はともかく、リジャールさんの作った魔導器というのが気になるところであった。
 だが、今この瞬間も、ヴァロムさんは牢獄にいるかもしれないのだ。その為、余計な事に首を突っ込んで時間をロスするのは、極力避けなければならないのである。
 以上の事から、ここは断るべきだと考え、俺はその旨を告げることにした。
「あの、リジャールさん。やはり、お引き受けするわけには……」
 と言いかけた時だった。
「レ、レミーラの魔法書を持ってらっしゃるのですか!?」
 なんとアーシャさんが、興奮気味に言葉を発したのである。
「持っておるから、報酬にしようと言っておる。もし引き受けてくれるのなら、お主等2人にやっても良いぞ。丁度、2冊あるしの」
「ほ、本当ですか!?」
「うむ。儂にはもう必要の無い物じゃし、この依頼を引き受けてくれるのならば、お主等に2冊とも進呈しようぞ」
 アーシャさんはそれを聞き、目をキラキラと輝かせた。
 そして、俺に振り向き、ニコニコと微笑んだのである。
「コータローさん、ここはリジャールさんのお力になって差し上げましょう。やはり、困っている人を見過ごすわけにはいきませんわ」
 どうやら、物欲に負けたようだ。
 アーシャさんは魔法関連の事と古代文明の事には目が無いので、これは予想通りの反応であった。
 だが肝心な事を忘れてるようなので、俺はそれを指摘した。
「でも、アーシャさん。毒を持った魔物ですよ。危険だとは思わないんですか?」
「そ、それは……」
 アーシャさんも依頼内容を思い出したのか、少し口ごもる。
 しかし、そこですかさず、リジャールさんは合いの手を入れてきたのである。
「じゃが、毒を持っているとはいえ、お主がキアリーを使えるのなら、それほど大事にはならぬかもしれぬぞ。今、この村で冒険者達を統率しておるカディスという者の話じゃと、毒を持ってはいるが、それほど力を持った魔物ではないらしいからの」
 でも、だからといって安請け合いする依頼ではない。
「しかしですね……」
 だが俺がそう言いかけたところで、リジャールさんは深々と頭を下げたのである。
「どうか、この村を助けると思うて、手を貸してくれぬだろうか。坑道の中を調べるには、解毒できる者の力がどうしても必要なのじゃ。頼む、この通りじゃ」
「ちょっ、リジャールさん。何もそこまでしなくても」
 ここまでされると、俺も断りにくい。
(引受けた方がいいのだろうか……いや、しかし……あまり道草をするわけにはいかない。それに、アーシャさんやサナちゃん達を危険に巻き込むわけにもいかないし……参ったな……)
 と、そこで、アーシャさんの声が聞こえてきた。
「コータローさん、リジャールさんはオルドラン様の友人なのですから、引受けたらどうですか。それにレミーラの魔法書も手に入るのですよ」
 まぁ確かに報酬は魅力的だが、危険や時間的なロスを考えると、簡単に返事するわけにはいかないのである。
「でもですね。俺達は先を急がないといけないですし……」
「坑道はそこまで深くはない。じゃから、それ程、時間はかからぬかもしれぬ。とりあえず、一緒に来るだけでも来てもらえぬじゃろうか。解毒の魔法を使える者が、ここにはいないのじゃ。頼む!」
 リジャールさんはそう言って、頭を下げ続けた。
(手を貸したほうが良いのだろうか……はぁ、悩む……)
 だが手を貸すにしろ、貸さないにしろ、判断を下す為の材料が少ないので、俺はまずそれを訊くことにした。
「リジャールさん顔を上げてください。とりあえず、今の現状をもっと詳しく教えてもらえますか? でないと、私も返事が出来ませんので」
 そこでリジャールさんは顔を上げる。
「それもそうじゃな。わかった。もう少し、詳しく説明しよう」
「お願いします」――

 で、わかった事だが……坑道に住み着いた魔物というのは、毒の霧を吐く、人の死体だそうだ。
 俺がそれを聞いて思い浮かべたのは、腐った死体と、どくどくゾンビである。
 ゲームだと、この2体の魔物は毒の霧を吐く攻撃をしてきたので、8割方、それではないかと俺は考えていた。
 また、その魔物は夜になると現れるそうで、今は坑道の入り口でなんとか食い止めているそうだ。
 それと魔物が現れだした時期は、アムートの月に入り始めた頃のようである。なので、どうやらここ最近の事のようだ。
 ちなみにだが、今のところ死傷者というのは出ていないらしい。
 リジャールさんと村長が、早めにマルディラントへ行って陳情した事もあり、早期の段階で冒険者の手配を出来たのが良かったそうである。
 だが、備蓄してある毒消し草にも限りがある為、未だに中で何が起きているのかはわからないそうだ。
 とりあえず、聞けた話は大体こんな感じである。

 そんなわけで、俺達はどうするかだが……一応、渋々ではあるが、手を貸すという方向で俺は返事をした。
 しかし、それは俺だけが手を貸すという事であって、アーシャさんやサナちゃん達もというわけではない。
 他の皆が手を貸すかどうかは、宿屋に戻って話し合った上で決めるという事になったのだ。
 そして、他の皆が来る来ないにかかわらず、俺は明日の朝、リジャールさんの家に向かうという事で話がまとまったのである。
 だがとはいうものの、リジャールさんは別に俺だけでも構わないと言っていた。
 恐らくリジャールさんは、この村にいる冒険者達に同行してもらうつもりなのだろう。

 話は変わるが、報酬は前払いとしてレミーラの魔法書だけ貰い、魔導器に関しては全てが済んだ後に頂くという事になった。
 リジャールさんも無理を言ってお願いする手前、そこは少し気を使ったようである。


   [Ⅱ]


 リジャールさんの家を後にした俺とアーシャさんは、宿屋には戻らず、人気のない場所へと移動を始めた。理由は勿論、アーシャさんがマルディラントに一時帰宅する為の場所探しである。
 外もだいぶ暗くなってきているので、早く帰らないと不味いのだ。
 村内を暫し散策すると、村の外れで、人気のない物置小屋のようなモノを見つけた。
 この小屋の付近には、冒険者や村人たちの姿もないので、風の帽子を使うには好都合の所であった。
 というわけで、俺はそこで風の帽子をフォカールで取り出し、アーシャさんに手渡した。
 そして、アーシャさんはすぐさま風の帽子を発動し、マルディラントへと帰って行ったのである。

 アーシャさんが帰ったところで、ラーのオッサンが俺に話しかけてきた。
「コータローよ……先程、あの者の依頼を引き受けたが、良いのか?」
「良いも悪いも、仕方がないだろ。俺もあそこまでして頼まれると断りづらいよ。それにヴァロムさんの友人だから、あまり無碍にも出来ないしな。まぁ本当は断りたかったところだけど……」
「そうか……。ならば、1つ忠告だけはしておこう」
「忠告? 何だ一体?」
 ラーのオッサンは、さっきの話を聞いていて、何かに気付いたのかもしれない。
「先程、あの者が言っていた死体の魔物だが……恐らく、それとは別に、それらを操っておる魔物がおるやもしれぬ」
「操っている魔物だって!?」 
 死体を操るってことは、死人使いって事だ。
 もしかして、魔物はネクロマンサーなのだろうか……。
 ダイの大冒険とかだと、なんちゃら傀儡掌とかいう技で死体を操ってはいたが……。
 わからないので、とりあえず訊いてみる事にした。
「ラーさん、どういう事だ? やっぱ死体が動くという事は、誰かが操っていると考えるのが自然なのか?」
「いや、そうではない。お主に昨日、魔物と魔の瘴気の関係について話したと思うが、コレもそれが当てはまるのだ。なぜなら、お主等の種族の死骸が魔物と化すには、それ相応の濃い魔の瘴気が必要だからだ。しかし、この地域に漂う魔の瘴気はそれほど濃くはない。つまり、足りないのだよ。もし仮に死骸が魔物と化したとしても、小型の動物程度が精々なのだ」
 まぁ要するに、腐った死体やどくどくゾンビは無理だが、アニマルゾンビやバリィドドックくらいなら、いけるかもしれないという事だろう。
「じゃあ、何者かが死体に手を加えない限り、この地で人の死体は動かないって事か……」
 オッサンの言う理論が正しいならばそうなる。
 暴れ牛鳥やお化けキノコ程度の魔物しかいない所に、腐った死体やどくどくゾンビという上位の魔物が現れるのだから。
 但し、それはあくまでも、この世界の魔物がゲームと同じ強さならばという前提で成り立つ話である。なので、今はとりあえず保留だ。
「それから実はな、ここに来るまでの道中、我は邪悪な魔力の波動をずっと感じていたのだ。そして、その波動の出所は、この村の奥……つまり、あの男が言っておった坑道の方角なのだよ」
「ほ、本当かよ」
「ああ、本当だ。勿論、今も、得体の知れない禍々しい波動を感じる。だから今の内に忠告しておくが、明日は気を付けた方がいいとだけ言っておこう」
「マジかよ。はぁ……引き受けるんじゃなかったな」
 後悔先に立たずというやつだ。
 とりあえず、不測の事態に備えて、準備だけは万端にしておいた方が良さそうである。
 まぁそれはさておき、俺はリジャールさんとの会話で気になる事があったので、それをオッサンに訊いてみる事にした。 
「ところで話は変わるけどさ。ヴァロムさんはどこで、魔法の鍵の製法を手に入れたんだ? ラーさんが教えたのか?」
「うむ、そうだ。我が教えた。あれは元々、精霊王リュビストが知的種族に授けた技法だからな。精霊ならば、わかる事だ」
「へぇ~、意外と物知りなんだな、ラーさんは……」
 物を知らないようでいて、妙な事をよく知っているなと俺は思った。
 またそう思うと共に、奇妙な引っ掛かりも覚えたのである。
 だが、それが何なのかはわからないので、今は置いておくことにした。
 俺は質問を続ける。
「それと、これも訊いておこう。ヴァロムさんの手紙には、リジャールさんから荷物を受け取り次第、王都に向かえと書いてあったけど、その後はどうするんだ?」
「ふむ……まぁそれについては、王都に着いてから話そう。まず、今は王都に向かう事を考えるのだ」
 どうやらこの様子だと、これ以上の事は聞き出せそうになさそうだ。
 仕方ない。諦めるとしよう。
「それはそうと、コータローよ。レミーラを修得するのなら今の内にやったらどうだ。どうせお主の事だ。リビュスト文字は読めぬのであろう?」
 オッサンの言うとおり、俺はまだ古代リュビスト文字については全く読めない。
 勉強したいのは山々だが、イシュマリア文字の読み書きで、今のところは手一杯だからだ。
 やはり、日常生活で使う文字なので、学ぶ順序としてはどうしても、イシュマリア文字を優先してしまうのである。
 勿論、一緒に学んでゆくという方法もあるが、両方を同時にやると混同してしまいそうなので、1つに絞って俺は学ぶことにしたのだ。
 まぁそれはさておき、今がタイミング的に良いのは事実なので、ここはオッサンの指示に俺は従う事にした。
「それもそうだな。じゃあ、魔法書の朗読の方をお願いするよ」
「うむ。では、魔法書を用意するがよい」 
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