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汚い飯屋

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第四章

「このお店」
「その前の建物は空襲を生き残ったとかな」
「空襲ですか」
「谷崎潤一郎も来たらしい」
 今度は明治から昭和にかけての文豪だった。
「あの人関西に長い間いたからな」
「神戸にいたんですよね」
「大阪にいた時もあるんだよ」
 彼等が今いるこの街にというのだ。
「一時期な」
「そうだったんですか」
「その頃に来たらしいな」
「田淵さんも谷崎さんも美食家でしたね」
「ああ、味にはこだわる方でな」
 しかも大食漢で有名である、二人共。
「それでこの店にも来たらしいな」
「そうですか」
「まあ噂だけれどな」 
 彼等が店に来たこの話はというのだ。
「店の人が言ってるだけでな」
「実際はですか」
「俺はどうかは知らないんだよ」 
 その話が事実かどうかはというのだ。
「この話はな」
「そうですか」
「ああ、けれどわは止めてな」
「中に入ってですね」
「食おうな」
「わかりました」
 高橋は名倉の言葉に頷いた、そしてだった。
 二人で店の中に入った、扉の立て付けは高橋の予想通りどうにもよくなかった。店の中もだった。
 かなり古く白い壁がすすけた感じになっている、紙の品書きも年代を感じる。店の中のテレビもカラーであるが昭和の趣がある。
 カウンターの席も四人用の席もだ、椅子もテーブルもかなりの年代を感じるもので高橋は言った。
「いや、これは」
「いい感じだろ」
「昭和ですね」
「ああ、俺達は平成生まれだがな」
 それでもと言う名倉だった、それも笑って。
「生まれる前からのな」
「年代を感じますね」
「凄いだろ」
「はい、何か」
「まあ番組は平成だけれどな」
 その古い番組で放送されているそれはそうだった、十二時からの番組だ。
「この通りだよ、店の中は」
「昭和ですか」
「ああ、じゃあ空いている席に座ってな」
 そしてというのだった。
「注文しような」
「はい」
 高橋は名倉の言葉に頷いた、そのうえで割烹着のおばさんが二人のところに来たので注文した。まずは高橋が注文したが。
「豚カツ定食を」
「豚カツ定食ですね」
「はい」
 五十位のおばさんに答えた。 
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