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悪魔の劇薬

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第八章

「あれっ、気が」
「上向いてきただろ」
「妙に。目が冴えてきた感じで」
「頭もな」
「すっきりしてきました」
「いい感じだろ」
「不思議ですね」
 実際に覚醒した顔でだ、ハンスはイブンに答えていた。
「これは」
「コーヒーを飲むとこうなるんだ」
「目が冴えてですね」
「頭もそうなってな」
「元気が出るんですか」
「そうなんだよ、だから皆飲んでいるんだよ」
 イスタンブール、そしてイスラム圏ではというのだ。
「こうしてな」
「そうなんですね」
「それでどうだ、味は」
「苦かったです」
 この味の感じは変わらないというのだ。
 しかしだ、ここでイブンにこうも語った。
「ですが不思議とです」
「また飲みたくなるよな」
「はい」
 その通りだとだ、イブンにまた答えた。
「不思議と」
「これがコーヒーなんだよ」
 イブンはにこりと笑ってハンスに話した。
「あんたが思ってた毒さ」
「イスラムの」
「ああ、まさにそれがなんだよ」
「そうですか」
「毒なんかじゃないだろ」
 イブンは笑ったまままた言った。
「これでわかったな」
「いえ、これは毒です」
 ハンスもまたにこりとしてイブンに答えた。
「間違いなく」
「おいおい、飲んでも死なないのにか?」
「はい、飲むとです」
 そうしてというのだ、今の彼の様に。
「気持ちが昂ってついついさらに飲んで」
「飲んでかい?」
「癖になりそうです、ですから」
「そうなるからか」
「毒です」
 それになるというのだ。
「これもまた」
「それで毒か」
「はい、そう思いました」
「そういう意味での毒か」
「そうですよね」
「言われてみればそうだな、コーヒーは毒だな」
「恐ろしい毒です」
「じゃあその毒をだよな」 
 イブンはハンスが言いたいことを先読みして言ってみせた。
「もう一杯だな」
「はい、頂きます」
「わかった、じゃあもう一杯」
「楽しみましょう」
「甘い菓子があると尚美味いんだ」
「じゃあお菓子も」
「これでさらに病み付きになるんだ」
 菓子を食べつつ飲むと、というのだ。 
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