| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五章 Over World
  もし、うまくいくならば


翼刀の刃が、公園を囲うように突き立てられていく。
それは魔女結界ごと包み込む、さらに巨大で強大な結界だ。

映司は杏子に肩を借りて、まどかはほむらに抱えられて公園から出る。



四人が出てきたところで結界を張り終えた翼刀が降りてきて、五人はすぐにその場から離れて行った。



------------------------------------------------------------




目覚める。
どれだけ寝ていたのか、感覚では全くわからない。

そも、寝ていたというべきか気を失っていたというべきか。



目覚めたのは、ベッドの中。
見渡すと、どうやら誰かの家の中らしい。

石造りの壁。
丸い窓から差し込む光。

ベッド脇の机には、明かりの代わりなのかロウソク台が立てられている。


その装飾や雰囲気からは、まったく日本らしいものを感じない。
というより、現代らしくない。いうなれば近代西洋の趣だ。


と、そこで寝ぼけていた頭が、急にはっきりしてきた。



「わた・・し・・・・!!」

ガバリと

一人の人間の上体が、掛布団をはねのけて起き上がる。



周囲を見渡し、ペタペタと体を触って――――




「あれ?」

綺堂唯子は、そんな気の抜けた声しか出せなかった。




------------------------------------------------------------


「ほうほう。空を行く魔女にですか」

「そうなんですよ!!いきなり襲ってきて、なんでか私だけ連れて行って・・・あ、これおいしいですね!!」

「はっはっは。こんなものですが、それだけおいしそうに食べてくれると私もうれしいですよ」


場面を移して、唯子がそう語りかけるのは口髭を蓄えた老紳士だ。
実際には紳士ではなく牧師なのだが、どう見えるのかは着ている服の違いだろう。

目の前の大皿に出されているのは、山盛りのパスタ。
安くて大量に用意されたそれは、当然唯子とこの好々爺だけの物ではない。


「おねーちゃん!!もっとお話聞かかせて!!」

「魔女ってデカいの?」

「バーカ。魔女って言うのはちっこいお婆さんなんだよ。本に書いてあったぞー」

「でも怖いんでしょ?よくおねーさん大丈夫だったね!!」


「う、うーん・・・・大丈夫だったの・・・かなぁ?」


周囲を取り囲むのは、三人の少年少女だ。
男子が二人、女子が一人。

ここは教会。
彼等はここに引き取られた孤児らしい。



「ふぅ・・・・おいしかったーーー」

「では、皆さん祈りましょう」

「えっと・・・私お祈りってわからないんですけど・・・・」

「おや。では私たちの言うことを聞いて、心の中で復唱して下さい」


そうして四人の食後の祈りが唱えられ、唯子も見よう見まねでポーズをとる。

言ってることは難しくて・・・というより、かしこまった言葉でよくわからなかったが、とりあえず食した命に感謝しましょう、という物らしい。
食前にもやったので、なんとなくわかった。




「よーし!!あそぼーぜ!!」

「何するー?」

「家族ごっこ!!」

「それ昨日やったよ?」

「じゃあ・・・・おねーさん、何かない?」

「え?私!?」


食後、教会の外で遠くを見て考えている唯子のもとに、子供たちが寄って来た。
どうやら遊びに誘いたいらしい。

ここにいるのは、皆小学生くらいの子ばかりだ。
新しい遊びを思いつこうとも、なかなか案がないらしい。



教会は丘の上に建っている。

丘の形は山型ではなく、一方向だけになだらかな坂道があり、他の方面は切り立った形になっている。
当然、崖の方には柵が設置されており、協会の周囲には木も数本立っている。

風が吹く。
決して強いわけではないのだが、厳しく激しい風だ。



だがそんなものなど彼等には慣れたものなのだろう。

崖の下は荒野になっており、なだらかな坂の方を見ると少し先に村が見える。
街ほどではないが、大きな集落。

つまり、この教会は町はずれにある、ということだ。


その集落からも子どもたちが数人やってきて、唯子の提案した鬼ごっこに混ざって興じることになった。






これはある一幕。
幸せだった時間の反芻。

少女は求める。
幸せという物の、そのカタチを。



------------------------------------------------------------




「くそ・・・・・なんでだ・・・・どうして誰も救えない!!!」

ガンッッ!!!



携帯を握りしめ、反対の拳で翼刀が街の街灯を殴りつけた。

公園は翼刀の結界が覆っており、公園の管理者には、翌朝「EARTH」から閉鎖の旨の連絡がいくはずだ。
というか、もうすでに「KRRP OUT」のラベルで出入り口を封鎖しているし、入ろうとしても翼刀の結界で公園の反対側に抜けるだけだ。


「俺は・・・あの人たちみたいにできないのか・・・・!?」

何よりも無力な自分に憤る言葉を聞いているのは、ベンチに座り込んだ映司と杏子だ。
まどかは気絶してしまったので、ほむらが自宅に送っている。

彼女はそのまま彼女につくらしい。
こうなった以上、キュゥべえが近づくのは危険すぎる。




あの後。

結界を張って「EARTH」に電話すると、ワンコールもしないうちに通信がつながった。
まるでこうなることがわかっていたかのように、それに出たのは蒔風だった。


「舜さん!?いえ、それよりも・・・」

『魔法少女が魔女になったか?』

「!?・・・・知って・・・たんですか・・・・」


蒔風の言葉は、すでにすべてを知っているかのような響きを含んでいた。
だが、直後に蒔風はこうも言う。


『翼刀。もしもお前に何もできなかったからって、自分を責めるな。俺にだってショウにだって、それはどうにもならない』


どうにもならない。
あの人たちをして救えないのならば、一体彼女たちを救えるものはなんだというのか。


「じゃあ・・・何もできないとわかって俺を送ったんですか!?」

『お前の目的はワルプルギスの夜だ。そこで魔法少女と出会い、関わったのはお前自身だ』


嫌に冷たい蒔風。
だが、言うことはわかるのだ。

そう。
自分の目的は、あくまでもワルプルギスの夜にさらわれた唯子の救出だ。
それまでの時間、彼女たちに関わろうと言ったのは他でもない自分自身なのだから。


今更それを否定する気もないし、後悔する気もない。
だが


「最初からそれを言ってくれれば、俺にだって・・・・・」

『お前にだって救えたか?最初からすべてを知っていれば、本当に彼女たちを救えたと?』

「だって・・・そうすれば・・・・」

『無理だ』


断言する蒔風。

確かに、思えばそうかもしれない。

マミがやられたとき、自分は手出しできる状態じゃなかった。
たとえ知っていたとして、自分があの場に手出しできたか・・・・

さらに、あの場にいなければさやかの魔法少女化は防げない。

そして、そうなってしまえばこの結果は避けられない。



そこで、最初の翼刀の言葉に繋がる。



「俺には・・・・なにも・・・・」

『関わった以上、目を背けるな。お前は最後まで彼女たちの希望になれる男なのだから』

「でも!!そのせいで彼女たちがより大きな絶望に堕ちるんですよ!?」




「そうだね。君は非常に厄介だったけど、その点では感謝しているよ」

「ッ・・・貴様・・・・!!」


そこに唐突に表れるキュゥべえ。
恐らくはまどかの元へと向かい、ほむらに妨害されたのだろう。

もっとも、今のまどかのもとに行って話を聞いてもらえるかどうかだが。





キュゥべえの脳裏に記憶がよみがえる。


昨日のあの時間。
マミの枕元に立ってソウルジェムに手を触れて意識を戻させたのだ。

起き上がろうとしたマミは、自分の手足がないことに絶望し、一気に魔女化した。

魔法少女は確かに、身体の破損を魔力で修復できるが、本人が死を意識してしまうともうそれは止まらない。
マミのソウルジェムが濁ったままだったのはそう言うことだ。



そこからさやかを絶望させることは容易だった。
翼刀や映司があれだけの影響を及ぼすとは思わなかったが、今となっては結果オーライだ。

より多くのエネルギーを集めることができた。


「君たちには感謝しているよ。これで一気に予定の三分の二までエネルギーが集まったんだからね」

「貴様という奴は・・・・人間を何だと思っているんだ!!!」



「別に・・・・まるでそれじゃあ僕は君たちを家畜同然に見ているようじゃないか。簡単なことじゃないかい?宇宙全体の未来と、地球人の少女数百分の一。天秤にかければ、どちらに傾くのかは明白じゃないか」

「テメェ・・・・」


だが、キュゥべえの言うことは最悪だが合理的だ。

確かに、その天秤ならば宇宙の方が重いだろう。
しかも宇宙そのものだけでなく、他の星の生命すらもひっくるめて考えるならば――――


「クソッ!!」

翼刀は頭を振って、その考えを捨てる。

そう。
いくらそうだとしても、その考えだけは許容できない。


否定しきれず、受け入れ難く・・・・

まるでこれでは、感情が邪魔をしているようじゃないか。
まるでこれでは、こいつの言うとおり本当に感情が無駄なものみたいじゃないか――――



『よう。お前がインキュベーダーか』


と、まだ会話を聞いていたのか、電話越しに蒔風が話しかけた。

その声にピクリとキュゥべえが反応し、頭をそちらに向ける。



『何とも高尚な話をありがたいんだが、ちょっとお話よろしいかな?』

「なんだい?君は誰だい?」

『そこの男の上司』

「そんな感じしませんけどね」

『だまらっしゃい。それが俺のいいとこでしょうが。っと、で』

「だからなんだい?」



『約束しよう、インキュベーダー。この星で君がまだ知らないことを、いずれ俺が教えてやると、な』

「僕の・・・・知らないことだって?」


キュゥべえが疑問の声を上げる。
それに対し、蒔風が芝居がかった口調で答える。


『お前は気づいていない。嗚呼、なんと悲劇的なことか・・・・』

「だから・・・・それはなんだというんだい?」

『・・・・プっ・・・いや失礼。まだ気づいていないのか?インキュベーダー。君のその変化を』

「僕の変化?・・・僕に変化はないよ。もしかして混乱させようとしているのかい?」

『いやいや、感情のないというお前にそんなことをしようとしても無駄だろうよ。全く、合理的に考えればわかることだろう?訳が分からないね』

「・・・・・」



不気味だ。
声だけしかしないというのに、相手の姿がわかる気がした。

いや、何も顔や体つきがわかるという意味ではない。
ただ


この一対の目それぞれが、相手の両眼で射抜かれているかのような、そんな視線を感じるのだ。



『インキュベーダー。オレももう少しでそっちに行く。そこで会える時を、大いに楽しみにしているよ』

「・・・・君は、誰だい?」

『蒔風舜』

「・・・・・・・」

『ああ、本当に楽しみだ。君の破滅を、約束しよう』

「そんなことは」

『不可能?』

「そうさ」

『だから楽しみにしてるんじゃないか』

「・・・・・・」


無言。
それ以上、キュゥべえが語ることはなく、電話の相手も何も言わない。

そして、そのままキュゥべえは夜の闇に消えた。


それを見届け、翼刀が電話に話しかける。


「舜さん・・・倒せるんですか?」

『まぁな。算段はついてる』

「じゃあ、さやかちゃんも!!」

『いや、それは俺には救えない。それを救えるとしたら、一人しかいない』

「え・・・・」


蒔風は言う。
そこまでは自分でもすらも救えないと。


ならば、誰が救うというのか。



銀白の翼人は答える。
その言葉に、聞くだけで希望を感じさせる響きを携えて。



「彼女たちの運命を打ち破るのは、彼女たち自身に他ならない。もし、うまくいくならば―――――」



救えなかったその命すら、彼女たちは取り戻して見せるだろう。




to be continued
 
 

 
後書き

翼刀(荒ぶる日本海に向かって)
「唯子は一体、どこにいるんだァーーー!?唯子ォーー!!」

ザッパーン!!



唯子が経験していることは、一体何につながって行くのか!?
それが綺堂唯子誘拐事件の内容につながって行くのでした・・・・


さやか
「あー・・・あたしやっちゃったかー」

マミ
「すぐ倒されないだけいいわよ」

さやか
「すみませんでしたぁ―!!」



そしてキュゥべえに宣戦布告蒔風。

ショウはどうしたかって?
フロニャルドの戦興行のセットに忙しいのです。


翼刀
「なんかつめてーですけどね」

蒔風
「だって無理っしょ。あんなもんどう扱っていいか俺だってわからん」

まあだから蒔風も「彼女自身」に任せるしかないと。

蒔風
「この運命を打ち破るには、やはりそれを繰り返した彼女しかいないだろう」



翼刀
「電話越しであの迫力とか舜さんマジぱねぇ」


杏子
「てかあたし空気だった・・・・」


一同
「あ・・・・」

唯子パートもからめつつ、物語は深淵へ



さやか
「次回、私撃破なのかな?」

蒔風
「作者の予定を当てにするな・・・・」

ではまた次回


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧