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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第61話『領域』

魔術バトル真っ最中で騒ぎに騒いでいる裏庭。しかし、未だに誰一人として近づく者・・・いや、気づく者さえいなかった。

そんな怪しい空間で、一人の少年が右手に光を宿したまま、ぶつぶつと呟いている。


「集中集中・・・はぁっ!」パシュン

「遅いっ!」ヒュ

「くっ…」


発射時間が遅いため、弾速が速いとはいえ当たらない。緋翼の反射神経が勝ってしまうのだ。やはり、まだ使いこなせているとは言い切れない。

伸太郎は嘆息しながら、正面で様子見とばかりに佇む緋翼を見据える。威勢の良い啖呵を切っておきながら、この有様だ。辛いものがある。


「さすがに無策で突進はマズいのだけども、こうして遠距離でやっても勝ち目はない。なんかこう…もうちょいクリエイティブに技を発想しないと・・・」

「…いやアンタ、技が全てじゃないからね?」


独り言が緋翼に届き、軽く呆れられる。だが、それ以外に方法が無いのが現実。素手で相手の懐に飛び込んだ所で、刀相手に敵う訳がないのだ。


「それにさアンタ──もう魔力尽きるでしょ?」

「っ…!?」

「なに驚いてんの? アンタが体育祭の時にぶっ倒れたの忘れてないからね?」

「あ…」


図星だった。体力は魔力と比例して、もう残り少ない。隠していたつもりだが、緋翼には見抜かれていたようだ。

さて、どうするか。特攻でもされたら勝ち目はない。


「…だったら、ぶっ倒れる前に悪あがきさせて貰うぜ!」


伸太郎は再び指に光を凝縮させる。残り全ての魔力で。集められた光は、先程と比べて一回りほど小さいが、一層眩しく輝いている。


「今さら無駄なことよ。溜め切る前に片付けてやるわ!」ダッ


緋翼が刀を構え、忍者の様な速さで迫ってくる。


──しかし、これは予想の範疇。


伸太郎は照準を真下に定めた。


「っ!?」

「道連れだ!」


光が伸太郎の指から放たれる。


──その瞬間、轟音と共に閃光と衝撃が訪れた。要は爆発が起きたのだ。緋翼はもちろん、伸太郎にすら爆風が直撃し、双方に吹き飛ぶ。



爆音の余韻が消えた頃だろうか。緋翼が口を開いた。


「一体…何が…?」

「元から、熱のある光を…俺の炎で、増幅させたんすよ。凝縮させたのも…衝撃を与えることで、一気に光が拡散し、爆発するのを…狙ったんす」

「……完全に、油断してたわ。やるじゃない」


緋翼に褒められたようだが、今は喜ぶ気力もない。言わずもがな魔力が切れて、立ち上がれそうにないのだ。緋翼もダメージを負い、戦闘不能。結果、二人して地面に突っ伏していた。


この勝負──引き分け。







「結月、なのか…?」


恐る恐る、晴登は目の前の"鬼"に訊く。すると、それはゆっくりと振り返り、


「そうだよ。これがボクの本来の姿」


寂しげにそう言った。

目つきが鋭くなり、牙があり、何より角が生えている。いつもの穏やかな結月の表情とは、似ても似つかない。
そして、一度の呼吸で一度気温が下がっているのでは、と錯覚するくらい、彼女からは絶えず冷気が洩れていた。近づくだけで、肌が凍みて痛い。


「今のところは意識はハッキリしてるから、心配していることにはならないと思う。ただ、時間が限られるね。短期決戦だよ」

「そうか…」


『勝負が長引けば、鬼の力に蝕まれるかもしれない』という、いかにもマンガでありそうな展開を危惧しての発言だろう。しかし、気にする必要性はない。だって・・・結月を信じているから。


「それが鬼の力か。それじゃ見せてみろよ、その実力を──」


終夜は途中で言葉を区切る。──否、区切らざるを得なかった。


「ふんッ!」ブン

「うおっ!?」ヒュ


終夜が驚いているが、晴登も驚いた。なぜなら、今の今まで隣にいた結月が、いつの間にか終夜を攻撃を加えていたからだ。速い──というレベルじゃない。もはや瞬間移動の領域だ。
ただそんな結月の一撃を、間一髪で避けた終夜も流石である。


「はあッ!」ズガガガガ

「……っ、弾けろ!」ドゴォン


地面から勢いよく突出してくる氷柱にも、終夜は対応し、破壊していく。ただ、走り続ける終夜に対して、結月はその場から動いていない。体力の消費には大きく差があった。


「黒雷鳴!」ズガァン


逃げるばかりではダメだと判断したのか、終夜が攻撃に転じる。今しがた使った技は、簡潔に言うと"巨大な落雷"だった。それは結月を的確に狙って落ち、大きな砂煙を上げる。
その威力と迫力に、晴登は思わず後ずさってしまう。


「結月っ!!」

「……平気だよ、ハルト」


急いで声を掛けると、結月は何事も無かったかの様に返事を返した。無傷で右手を掲げたまま、砂煙から姿を現す。


「オイオイ嘘だろ…? アレを防いだってか…?」

「ヒョウに比べれば、まだマシです」

「…はっ、面白くなってきたぜ!」バチバチィ


終夜から洩れる電撃が増したように感じた。しかし結月は、それを見ても動じることはなかった。

二人が互いを見据えながら対峙する。晴登は二人の中に入り込むことができずに、ただただ眺めていた。


「鬼の力って凄いな。感動したぜ」

「御託は良いので、早く仕掛けてきたらどうですか?」

「態度も鬼みたいにデカくなったじゃねぇか。ま、気にしねぇけどよ!」バチィ


瞬間、黒い閃光が空を駆け巡る。あまりの速さに晴登の目は追いつかないが、結月は右手で軽く往なした。


「ちょっと、いい加減にしないと部長怒っちゃうよ?」

「それは筋違いです。防がれるブチョウが悪いんです」

「言ってくれるな。じゃあ、とっておき魅せちゃおっかなー?」


勿体ぶる終夜を他所に、結月は掌を突き出す。そして、冷気を収縮させた。


「ノーリアクションかよ。…んじゃ、いくぞ大技」


わざわざ予告までして、終夜は魔力を溜め始めた。無論、結月はそれを待たずに、創り出した氷柱を放った。

・・・氷柱? 危なくね!?

横腹を抉られた記憶がフラッシュバック。傷は癒えているが、無意識に晴登は横腹に手を添えていた。

それにしても、氷柱は危ない。さっきまで地面からポンポン突き出てた気がするけど、やっぱり危ない。まして今の終夜は無防備。先程みたいに防げないだろう。


「おい結月、スト──」

「その必要はないぜ」ズドン


晴登の声を遮り、氷柱を破壊しながら轟音が落ちる。それはまさしく・・・


「"黒雷鳴"…?」

「──と思うだろ? けど違うんだなぁこれが」

「何が・・・、ッ!?」


終夜が不敵に微笑んだ途端、結月の身体はピタリと止まる。正確には、小刻みに痙攣していた。

──この光景には、見覚えがあった。


「合宿の時の…!!」

「正解。地面に電気を流したんだよ」ニッ


合宿の時というのは、GWの頃の終夜と緋翼の戦闘の時だ。その時も終夜は地面に電気を流し、緋翼を麻痺させていた。

やってやったと言わんばかりの終夜。それを見て、結月は悔しそうに唇を噛み締める。


「さてさて、じゃあトドメと参りますか──」

「まだです!」

「……来ると思ったぜ、三浦。ほら、彼女がピンチだ。もちろん、助けるよな?」

「彼女かどうかはさておき──助けるに決まってます」

「ハルト…!」


鬼化した結月ですらも無力化した終夜に恐怖心を抱いたが、それが結月を助けない理由にはならない。
晴登は立ったまま動けない結月の前に立ち、終夜を見据える。


「俺らの領域に入って来れるのか?」

「確かに…さっきまで俺は動けませんでした。二人とも動きが全く見えなかったし、俺が混ざれるとは思いません。でも、例え相手が強大でも、俺は結月を守るんです」

「はっ、頼もしいじゃねぇか。じゃあ、見せてもらうぜ!」バチィ


終夜の右手に纏う黒雷の電圧が上がった、その時だった。





ドゴォォォォォン!!!


「「!!?」」


耳を(つんざ)くような爆音が響く。音のした方を見ると、黒煙が入道雲の様に立ち上っていた。


「何だ、今の音…?」

「──っ、暁君!?」

「な……辻っ!」


音のした方で何が行われていたか。それを察した晴登は、急いで爆発地点に向かう。
終夜も後に続いた。結月はまだ動けない。

目的地に辿り着くと、まずその光景に目を疑った。


「なに…これ…」

「隕石でも落ちたのか…?」


目の前に広がるのは、直径5mほどのクレーター。その表面は所々赤く、まだ熱を持っているのだとわかる。
そしてそのクレーターの外側に、伸太郎と緋翼は倒れていた。


「暁君、大丈夫?!」ユサユサ

「…あ、あぁ三浦か…。大丈──」

「部長、暁君ボロボロです!!」

「あれ、無視…?!」


伸太郎が何やら言っているが、ボソボソしてて聞こえない。晴登は終夜に指示を仰いだ。


「辻もやられてんな。試験は一旦中止だ。とりあえず保健室に運ぶぞ!」

「はい!」


快活に返事をして走り出したのも束の間。晴登は痺れて動けない結月を遠目に見て、終夜に告げた。


「結月はどうします?」

「そうだな・・・じゃあ、お前が運んで来い」

「え、二人も持てないですよ!」

「暁は2年生に持って貰えば良いだろ。それとも何か? お前は2年生に結月を持たせたいのか?」

「いや、それは・・・」

「正直で何よりだ。ほら、急げ」

「は、はい!」


何か、まんまと罠に嵌められた気分だった。






保健室に着いて、怪我人の二人を空いているベッドに寝かす。幸い、先生は見当たらなかったので、怪我についての説明はしなくて済んだ。

ちなみに二人はとある理由で、もう目覚めていたりする。晴登は伸太郎に事の次第を尋ねていた。


「──という訳なんだ…」

「暁君ってバカなの?」

「いや、発想は良かったはずだ…!」

「けど、もしお前らに火耐性が無かったら大事故に繋がってたぜ? 今度からは自重しな」

「う、はい……」


所持する能力(アビリティ)の属性と同じ属性の耐性を持つというのが、魔術ではお約束らしい。だから二人とも軽傷で済んだし、意識が戻るのも早かった。
しかし、だからと言って、今回の伸太郎の技は聞く限りかなり危険だ。魔力が残り少ない状況下でもあの威力となると・・・この先は考えたくない。


「さてと・・・問題はこっちだな」


終夜が、二人の寝るベッドとは違うベッドの前に行って呟く。彼の眼前、ベッドの上で苦しそうにしている結月の姿があった。


「三浦、これをどう見るよ」

「…たぶん、鬼化の副作用とかじゃないですかね」

「俺もそう思う。きっと本人の自覚している通り、練度の問題なんだろうな」


腕を組み、そう語った終夜。晴登はそれに賛同し、頷く。

ちなみに、今の結月の症状は風邪に近い。いつもはヒンヤリとしている手が熱いのだ。


「・・・え、なにお前、いつも手とか触ってんの?」

「正確には向こうから触ってくる・・・って、違うんです!」

「はいはい、わかったわかった」


軽くあしらわれ、肩を落とす晴登。何を言っても墓穴を掘る気しかしない。


「さてと、試験の結果については考えとくとして・・・とりあえず、今日は解散だ。三浦は結月をどう連れ帰るよ?」

「おんぶしてでも連れ帰りますよ」

「うわ、大胆……」

「そろそろ怒りますよ部長」


少し語調を強めると、終夜は「怖い怖い」と言って離れていった。とはいえ、きっと緋翼と伸太郎をどうにかしてくれることだろう。


「俺は結月の面倒を見てやらないと…」


晴登は結月を背負い、先輩に別れを告げて帰路についた。






家へ帰り、晴登は自室のベッドに結月を寝かせる。彼女の頬は少し赤みを帯びていて、常に呼吸を乱していた。


「結月、調子はどうだ?」

「まだ怠い、かな……」

「やっぱ普通の風邪だな。体温は33.2℃で・・・まぁ、結月からすれば平熱より高いんだよなぁ…」


風邪の度合いをいまいち把握できず、困惑する晴登。病院に連れて行ったとして、まともに検診してくれるだろうか。


「病院に連れて行かないとなると・・・看病する必要が出てくるな。でもそれだと明日の学校が・・・」


学校には出たいが、結月は助けたい。そんな葛藤が晴登を悩ました。しかし、その選択肢だと答えは自然と一つに絞られる。


「もちろん、結月を助けないと」


忘れかけていたが、この世界は彼女にとっての異世界。慣れたとはいえ、まだ不安要素はいくつもある。独りにしておくなど、誰ができようか。


「智乃の風邪だってよく看てたし、大丈夫だ」


自信を胸に、晴登は結月の看病を始めた。
 
 

 
後書き
最近地の文が上手く書けないんですよねぇ……どうしたものか。波羅月です。

さてさて、次回は看病回。正直、長く書ける気がしません。こうなったら、あんなことやこんなことして伸ばすしかないかー(黒笑)

『短いなら内容を濃く』をモットーで頑張ります。では! 
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