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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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日本神話

 
前書き
やらかした自覚はしている。反省はしていない。
というか、日本神話だから仕方ないと思うんだよね、うん。ボクワルクナイ。

・・・ボクワルクナイ、って便利なワードだな。今後もどんど使っていこう。 

 
「そなたも日ノ本の子、すなわち我の子のようなものじゃ。ほれ、ちこう寄れ」
「うっせえ日本最古の引きこもり。弟がぐれた程度で部屋に引きこもって仕事もしなくなるような豆腐メンタルが偉そうにしてんじゃねえぞ。ってか服とか飾りとかギラギラしすぎて見てらんねえんだよジャージでも着てろや引きこもり」

次に訪れたのは、日本神話。他国の様々な神話のエッセンスを何のためらいもなく取り込んだりする面もあり細かく読み解くと若干カオスだったりする神群であり、一輝の出身国の神話。そことの会談はお互いにジャブから始まる。ここから互いに探り合い、口撃の応酬が始まる・・・

「うわーん!!!!もういやー!天の岩戸(お部屋)引きこもるー!!」

なんてことはなかった。一瞬で取り繕っていた表情がぶっ壊れ、涙と鼻水で汚くなり、天岩戸(お部屋)に帰ろうとする。主神がこんなメンタルで大丈夫なんだろうか、日本神話。

「ちょ、オイツクヨミ!アネキ抑えとけ!」
「はいはい分かってる分かってる。姉さん、たのむから会談終わるまでは耐えてくれな?そもそも天岩戸、貸出したまんまでしょ?」
「じゃあ別のとこ!冥界!お母様のところ行く!」
「それは冗談にならないからやめましょうねー」

どこかに引きこもろうとしているアマテラスをツクヨミが全力で抑え込んでいる。スサノオは剣を取って一輝の方に近づいてきて、三人の後ろでは益荒男が一人腹を抱えて笑っている。括目せよ、これが日本神話の真実である。

「オイオマエ!敬えとまでは言わないけどせめて普通に接するくらいのことはしてくれたのむから!」
「悪いけどこれが俺の平常運転だから諦めてくれ」
「だったら頼むから少し装って」
「ってかなんだ、あれか。シスコンこじらせた結果構ってほしくて実の姉の部屋で暴れてクソしたのか?シスコンこじらせすぎだろ」
「頼むアニキ!こいつをぶった切らせてくれ!」
「いやいや、さすがにそれはマズい。ぶった切ることはできないだろうが、やろうとするだけでもヤバイ」

躊躇いなくスサノオも弄り倒しにかかった一輝、そのやっすい挑発に簡単に乗ったスサノオ、笑いながら羽交い絞めにして抑え込むヒルコ。カオスである。何とも言えないカオスである。

「・・・なあ、従者。聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「マジで、何でもなく、本当に、あれが素なのか?」
「素ですね。・・・申し訳ありません、なんだか」
「・・・いや、気にするな。こちらも挑発していくと決まっていたからな」

そして、その背後で鳴央とイザナギが会話をしているわけだ。何と言うカオス、何と言う混沌の空間なのか。なお湖札は安定のどっかに消えている。アメノウズメと一緒にいたので、二人でどこかへ行ったのだろう。自由にもほどがある。

十分後。

「それでは、互いに不干渉ということでよろしいですね?」
「ああ、それでいい。面倒事にさえならなければ正直なんでもいいよ」
「では、そのように。妾はこれで退室しますので、兄上、あとはよろしくお願いいたします」
「はいはい、かしこまりましたよ妹サマ」

その後。一旦のクールタイムとして一輝たちに食事を出し日本神話サイドの落ち着くための時間を設け、どうにか協定を締結させた。その瞬間アマテラスは部屋を後にしたのだが、おそらく引きこもるのであろう。しばらく出てこられないかもしれない。

「ったく、日本神話は本当にあれが主神で大丈夫なんかね?」
「まあ、なんだかんだで問題なく回っているからな。大丈夫なのだろうよ」

と、そう言って先ほどまでアマテラスが座っていた席に腰かけるヒルコ。当然のように座った彼に対し、一輝なりに気になったことを述べる。

「本当に大丈夫なのかよ?ってか、アマテラスってことで男性像が出来てるとか、あれから一体どうやったらそうなるってんだよ」
「あー、あれなぁ。言っていいやら悪いやら・・・」

と、ヒルコは周りを見回す。会談も終わったということで主要の神以外は席を外しており、大国主は天部の関連で出向中、スサノオとアマテラスは席を外している。別に問題ないとツクヨミとのアイコンタクトで決議を下し、面白話として話すことにした。

「あれな、アマテラスがメンタルやられてミニ引きこもり期間した時、代わりに仕事をした俺の像なんだよ」
「ふぅん・・・なるほど、それで剣をもった男の姿になったわけか」
「そう言うわけだ。アメノムラクモを構える俺の姿、ってな」
「ヒルコではなく、昼媛と対を成す昼彦として。天に昇る太陽神の片割れ、スサノオの原型となった時代の姿なわけだ」
「ハッハッハ!まあ、こちらの姿も便利で良いのだがな。覗きし放題ということで、アマテラスから正式に禁止令がだされてしまった」

一瞬、骨が消え流動体に崩れたヒルコだが、すぐにもとの形に戻る。

「まあ、こっちの裏事情なんざどうでもいいだろう。またの機会に笑い話として披露してやるよ」
「兄上、抑えられますよう。あまり披露しすぎましては、貴方の主催者権限に関わります」
「何、俺の主催者権限なんざいくらバレタところで被害はすくねえよ。アマテラスの方はコミュニティの危機だがな」

いくら深い歴史を持つ神であっても、今はただの捨てられた失敗作。失われたとしてもコミュニティとしての被害は少ないものである。そうはっきり断言して見せたヒルコは、そんなことよりもと、一輝にも聞こえるように言う。

「アマテラスのやつの化身(アバター)にはちゃんと連絡とったんだろうな?あれがあの様子じゃ役に立たんぞ」
「連絡は済んでおります。明後日こちらに来られると」
「であれば大丈夫だろう」
「化身、ねぇ・・・アマテラスの代わりに働くヤツ、ってことか?」
「そう言うことだ。神が外界で活動するには限界がある故、その名代のようなものだな」
「ふぅん・・・ま、おおよそ見当が付くからそれはいいとして、了解。肝に命じとくよ」

遠回しに外界に行くんじゃねえ面倒な制約があるから、と言われたので素直に聞き入れた一輝はちょうどそこで食事が終わったので、湯のみの茶を飲み干して立ち上がる。

「ところで、スサノオはどこに行ったんだ?気付いたらいなくなってるけど」
「あー、アイツなぁ。もう簡単に挑発に乗って問題起こしそうだから、追い出した。今は隔離部屋」

三貴士の一人がそれでいいのかと思うが、まあスサノオはずっとそんな様子だったので問題ないと思われる。

「つまり、今のスサノオなら挑発すれば乗ってくるわけだな?」
「……まあ、体を動かせばそれなりにスッキリするだろうし、都合はいいか」

少し悩んだのち、妹と弟の二人についてアフターケアするのが面倒だと考え、片方をぶん投げることにした様子である。すぐ隣に座っているツクヨミ、後ろにいるイザナギに声をかける。

「ツクヨミに父上、悪いがスサノオのところまで案内してやってくれるか?ついでにゲーム盤を展開して、好きなだけ暴れさせてやってくれ」
「・・・まあ、スサノオに好きなだけ暴れさせてしまえば、周囲は更地になりますからね。仕方ないですか」
「いっそのこと封印しているイザナミのところに向かわせないか?な?な?強いのと戦いたいならいいだろう?」
「父上、いい加減夫婦喧嘩に終止符を打ってください。いつまでも付き合わされる子孫の身になっていただきたいです」
「いや、もう既にあれは夫婦喧嘩じゃないって・・・ないよね・・・ないはず・・・だから、ね?」
「どうでもいいからとっととスサノオのところに連れてってくれないか?」

なんだかもうどうしようもない感じの会話をしながら一輝を案内していく二神。スレイブがいないため空間倉庫から師子王を抜き、とっても楽しそうな笑顔になっている一輝。そんな一行を苦笑いで見送った鳴央は湯呑を取り、一口飲んでから顔を上げ、気付いた。
一輝は遊びに行った、湖札は気付いたらどこかに消えていた。音央、スレイブ、ヤシロは北欧神話の時点で別行動だ。この場に残っているのが自分一人のみという、何といえばいいのかな状況なのだ。唯一の救いは、

「さて、一気に人がおらんようになったなぁ」

相手側も、ヒルコだけなことだろうか。

「そうですね。すいません、一輝さんがあんな感じで」
「いやいや、気にしてねえよ。あの絶対悪の魔王を倒し、従えるような奴だ。民の理想とする英雄か、もしくはそうとうなやんちゃ坊主って相場が決まってら」
「そういってもらえると、こちらとしても気が楽です」

と、主の不敬を謝罪した後に、彼女は考え込む。北欧神話の際に自らの妹がした決断、そこから彼女自身も自身の成長を願っている。当然といえば当然のことだろう。
一つ、当然のこととして。彼女自身のスペックは非常に高い。神隠し、という誰もが知っている概念そのものとなった存在。だからこそ、神隠しの力だけでなく神隠しを行うものの力も手に入れることを可能とし、一定範囲、一定時間のみに限定されこそするものの、無敵になることすらできる。だが、それでも。到底、一輝に並び立てるほどのものではない。
肩を並べて戦うなどできるはずもなく、後方からの支援すら不可能。ヤシロや湖札と違い、『極めて高い水準の力』を持っている存在であっても、『常識を鼻で笑う力』は持っていない。

故に、自らの新たな可能性を探る手段をどうするか考えた。神隠し的伝承は様々な神話、民話、伝承で見られる。その中で日本のものは既に天狗を具現しているため、他の神話にするべきかと思っていたのだが・・・

「・・・すいません、一つお聞きしてもいいでしょうか?」
「あん?なんだ?」
「貴方の主観で構いません。『一を突き詰めた結果』と『広くて札を得た結果』、どちらの方が強いと考えますか?」
「そんなもん、前者に決まってんだろ」

即答であった。

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「別に大した理由があるわけじゃねえし、俺の主観だけどな」

前置きしてから、胡坐をかいて話し始める。

「全能神、って類のやつらは、ぶっちゃけ雑魚だ」

色んなところに怒られそうな発言である。

「より厳密には、『すべて等しくできる』という類の全能神は、ってことになるか。結局のところ、生き物、戦士、って類のやつらは『突き詰めた一』ってもんが必要なんだよ、いざってとき、自分の命を預けられるモンがな」
「全能だと、それがない、と?」
「ああ、ねえな。すべて等しくできる、ってのは『全部等しい価値観』になる。んなもんに価値はねえし、いざってとき反射的に頼れるような技術でもない」
「・・・だったら。一つ、お願いがあります」

ヒルコ。先ほどの一輝の言によれば、元太陽神であり、アマテラスと同等の神。そんな存在からはっきり断言されれば、それは信用するに足る。故に、彼女もまた。
決意と覚悟を持って。凡庸性という強みへ進む道を断ち、自らの行く末を決定する。

「しばらく、こちらでお世話になることはできませんか?」
「ああ、うん。いんじゃね?」

まあヒルコの反応は非常に軽いものだったのだけれど。


こうして、彼女たちは歩み始める。
妖精は、新たな神格のギフトを正しく理解するために。
終末は、滅びの物語を紡ぐために。
魔剣は、己が呪いの原点へ至るために。
神隠は、その伝承を固定するために。

はてさて、彼女たちの行く末はどうなるのか。
強くなるのか、弱くなるのか。
未来を手にするのか、滅びを迎えるのか。
皆々様、どうぞお楽しみに。

 
 

 
後書き
一応、本文中で述べたヒルコ関連について捕捉を。
あ、自分の『少年と女神の物語』という駄作で同じことを述べていますので、読み飛ばしでOKです。

まずヒルコとはどんな神様なのかといえば、現在の日本神話においては。

夜の営みの際、イザナミからイザナギに声をかけて切磋琢磨し、その結果生まれた第一子。
骨がなく、三つだか五つだかになっても立つことすらできず、不出来な子供として海に捨てられた。
夜の営みについて『女から声をかける』ことをよろしくないことであるという戒めとして記される。

といった感じですかね。だからといって海に捨てるのはありなのかというか、現代なら絶対無しですけど、まあそこは神話だし。昨今の創作物の世界に対してすら行われる過剰極まりない規制が神話やら宗教内の文言に対してすら言われるようになったら末期だと思っています。とまあそんな話は置いといて。

さすがに、これは暴力的に過ぎます。子供ができた。失敗作だった。捨てた。そんな様子では、それを神話として信仰する人は現れないでしょう。であれば、元は別の形であり、捨てられるという物語についても何かしら納得できる理由があっただろうと思われます。
まず、捨てられたという物語について。これについては、昔の日本において子供を捨てる民間伝承のようなものが存在するので、そちらが原因と思われます。
その内容としては、『双子を忌子であるとし、厄払いのために片方を捨てる』というものです。すなわち、

ヒルコは元々、双子の片割れとして生まれた神であった。
それが時代の流れの中で双子を忌子とされることになり、その影響で捨てられた。

というわけです。双子は忌子である、とされていたのならその片割れが捨てられたとしてもおかしくない。むしろ自分たちの常識とかみ合うものであり、また『忌子』としてもみたまんまですから。
では、誰と双子であったのか。これについては、名前から推測することが出来ます。
先に答えを言ってしまうと、アマテラスです。引きこもりですね。

自分は『アマテラスはニックネームであり、本名は別にある』派なのですが、これについては正直諸説あります。ヒルコの別名、女神名であるとする場合もありますからね。ですが今回はそれは考えません。

ですので自分の作品の中では
アマテラス=ヒルメ
という形で行きます。明らかに名前が似ていますよね、つまりそう言うことです。名前も、

ヒルコ=ヒルヒコ=昼彦
ヒルメ=ヒルヒメ=昼媛

ですね。元々はこの名前で、太陽神の片割れであったのだと考えています。
なお、アマテラスの男性像が云々というのは全くもって根拠のないお話です。面白エピソードになるかなぁ、って悪ふざけしました。反省も後悔もしていません。

とまあ、そんな感じのヒルコをベースとし、現代の姿も取ることのできるハイブリッドヒルコさんです。これにスサノオ関連のお話も加わったりするのですけれども、まあそれは省略で。 
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