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奇妙な暗殺教室

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移動の時間

 『コミュニケーション』というのは知っての通り、私達人間に問わず全ての生命が生きていく為には必要不可欠な物の1つだ。

動物の求愛行動もしかり、食べ物を得る為に集団で獲物を狩りもしかり、上司の接待もしかり、これらの事からこの世にはコミュニケーションを取らない生き物など存在する筈もなく、ましてやそれを怠るということはなんらかの不利益を被るということでもある。


だからこそ、苦手な相手であったとしてもコミュニケーションからは逃げてはならないのだ。


『それでね〜あの人ったら何も言わずにフランスに行っていたのよ!?本当信じられないッ!結婚する前から身勝手な人だったけど…死ぬまで全く変わらなのかしら…』



「うん…そうだな…俺は死んでも変わらないと思うよ。」



そう言い丈一郎は苦笑いを浮かべるが、無理もなく、現在の時刻は深夜の『2時』既に必要な準備を終えた丈一郎は明日の修学旅行の移動に間に合わせる為には寝坊をしてはならないので直ぐに就寝したい所なのだが、丈一郎の電話の向こう側にいる彼の祖母の愚痴はゲリラ豪雨のように止む気配を全く見せないでいた。


『え〜やっぱり〜…丈一郎がアメリカに帰って来てくれればまだ違うのかしらね…』


「いや、アメリカには義妹がいるんだから暫くは安心だと思うよ」



『確かに、最近はあの子と一緒に過ごしているから大人しいけど…いつまでモツのかしら』


「あははは…まぁなんとかなるんじゃないかな?それじゃあ俺は…」


祖母のマシンガントークが若干緩み丈一郎さ一戦一隅のチャンスを逃すまいと電話を切ろうとする。だが、そうは問屋がおろさない。


『そうそう!最近スモーキーに孫が出来てねサクラっていう女の子なんだけどもうお人形みたいに可愛いのよ〜』


「へ、へぇー…スモーキーさんの子供もそんなに大きくなったんだ…知らなかったなぁー」


『でしょ〜』


こうして一戦一隅のチャンスを物に出来ず、無情にも朝の日が昇るまでこの電話の回線が切れる事はなかったという。










◆◇◆◇◆◇◆◇





「大丈夫か?ジョジョ…目にクマができてるそ……」


「千葉…俺にも色々あるんだよ」



4時間にも及ぶ死闘とも言える長話を乗り切った俺は結局一睡もせずに駅に来ることに目的地は修学旅行の定番とも言える古き時代から日本の尊い場所とされて来た京都。既に他のクラスは新幹線に乗車して残すはE組の生徒を残すのみとなっていた。



「うわ…A組からD組までグリーン車だぜ」



「E組だけ普通車……いつもの感じね」



修学旅行だからといって他のクラスと同じ扱いを受ける訳がなく、さも当然の様に他のクラスは快適なグリーン車で俺たちE組は普通車両…まぁ修学旅行があるだけでもマシか。



「うちの学校はそういう校則だからな。入学時に説明しただろう?学費の用途は成績優秀者に優先される」


「おやおや君たちからは貧乏の香りがしてくるねぇ」


窓から顔を出し戯言をほざくモブ共は朝から絶好調らしい。正直お互いの為にも放っておいて2度と関わらないでほしい。と普段の俺なら思うだろう。だが、今日の彼らは運が無かった。


「うぜぇ……黙らすか(永遠に)」


「おう…先に席に座ってるぞ」


「あぁ…直ぐに済む」


千葉にそう言い丈一郎は殺気を押し殺し新幹線のドアがある所まで近づき


「フッ!!」


ドアに波紋を流し込む。



「まぁ僕たちは貧乏人と違ってグリーン車で優雅な「あ゛いでぇっ!」」



突然静電気を喰らった時の様な激痛が走り余りの痛みにモブ達はその場で転倒した。公共の施設でそんな醜態を晒した彼らは当然…



「うわぁ…なにあの子達チョー痛いんですけど」


「椚ヶ丘の生徒ってダサいんだ…プププ」


「これだからゆとりはダメなんだ。」


「キモ……」


等々、様々な辛辣な言葉を投げられる。しかも学校のど底辺であり、彼らが見下し、唯一優越感を得られるあのE組の前でそんな醜態を晒した彼らはなにも言わずに自分達の席に戻っていった。



「クズ共が…」



そう言い汚い汚物を見る目で彼らを見つめる丈一郎を見ていたクラスメイト達は後にこう語る。普段ならスカッとして同情の余地などないが、今回は彼らに同情するしかない、と



「やれやれ…俺の心の平穏はいつになったらやってくるんだろうか」



そう言い頭を抱えつつ、新幹線に乗うとすると周囲の人々の視線を釘付けにする場違いな女がキャリーケースを持ってこちらに近づいてきた。



「あら、ごめんあそばせ…御機嫌よう生徒達」



「……おいこらクソビッチなんだその格好はどう見たって修学旅行に来てくる服じゃあねーだろうが。あれか?今までの人生で世間一般の常識を太平洋に放流して来たのか?」



毛皮のコートにどう見たって高そうなサングラス、皮のブーツに毛作りのキャップ…ハリウッドスター顔負けの服装は明らかに修学旅行の引率の先生の格好には見えなかった。



「フッフッフッやっぱりガキには分からないか……女を駆使する暗殺者としては当然の心得よ。狙ってる暗殺対称にバカンスに誘われるって結構あるの。ダサいカッコで幻滅されたらせっかくのチャンスを逃しかねない。良い女は旅ファッションにこそ気を使うのよ」



いや、確かにプライベートだったりあんたの仕事では正しいだろうがよ、TPOって物を考えろよ。


「目立ち過ぎだ着替えろ。どう見ても引率の先生の格好じゃない」


そう言い烏間先生はなんとかビッチを着替えさせようとするが等の本人が聞く耳を持つ訳がなく


「堅いこと言ってんじゃないわよカラスマ‼︎ガキ共に大人の旅があるのよ」


そう言い自分が楽しむ為の旅を押し通そうとするビッチ…これが彼女に心底惚れている下僕やターゲットなら速攻でYESと答えただろう。だが、今彼女の目の前にいる男はそんな下僕でも彼女に惚れたターゲットでもなかった。



「……脱げ、着替えろ」



「………はい。」



こうして彼女の考える旅は目の前にいる男の怒気によって直ぐに覆る事となり修学旅行中は寝巻きとして持ってきていたジャージで凄く事となった。


「苦労してますね…烏間先生」


「これも仕事だ。それにそろそろ出発の時間だ…乗らないと置いて行かれるぞ」


「はい…そうさせてもらいます。」


俺はそう言い烏間先生と項垂れているビッチと一緒に新幹線の中に入っていった。









◆◇◆◇◆◇◆◇










「あはははは!いやーあのビッチ先生でさえ、烏間先生には勝てないか」



「だから寝巻きに着替えて隅っこで泣いていたのか」


先に席に座っていた千葉達に合流し新幹線が予定通り出発すると不破があのモブ共にどんな制裁をしたのか聞いてきたので、事の顛末を告げると中村はツボにハマったのか腹を抱えて爆笑し、三村はビッチ先生の行動に合点がいったのかウンウンと縦に頷く


「おいおい…見ていたコッチは冷や汗かいたぞ…お陰で眠気が吹っ飛んだわ」


いや、マジでアレは怖かった。普段から殺せんせーに対してピリピリする事はあるけど、本気で怒っている…いや、本気ですらないのに俺が気圧された…とんでもない怪物だよ…全く。


「へーあのジョジョが怖いって思う事があるんだ。」


そう言いながら不破はスナック菓子を頬張る。


「そりゃあ俺だって怖いと思う事ぐらいはあるさ…むしろ怖いって思えないことほど怖い物はないんだからな」


「どういうこと?」


「ヤクザの事務所の中に俺を放りこんだ時に師匠が言っていた。戦場じゃ臆病な奴ほど生き残る…戦いにおいていち早く危険を察知することは強者に大事な技術だからここで手っ取り早くここで身につけろ……ってな」


まぁこれは後で分かった事だが、あの人がイマイチ気分が乗らない面倒な仕事の依頼を俺の修行に当てていたらしいんだけどな…世界広しといえどここまで弟子想いな師匠はいないよ逆に。


「うわー…鬼畜だぁ…そういうのって漫画の中の話だけだと思っていたよ。」


「まぁ、師匠の育成能力がずば抜けて高かったのもあるが一歩間違えばとっくの昔に無残な死体を晒して土に還っていたかもしれないな」


そう考えると師匠は人としては終わっていたが人に何かを教えることに関しては超一流の達人だった訳だ…何せ波紋の才能のない俺が今こうして最低限の波紋の修業を修めて五体満足で生きているのだから…


「成る程…うん、ちょっと王道すぎるけど変な要素をぶち込むよりは読者は喜ぶか」


不破は一字一句残さず何処からか取り出したのか知らないメモ帳に俺の体験談を書き記していく…こいつ本当たくましい奴だな…


「まぁ……あの人に言わせれば弟子に人権は無いらしい…そもそも俺の師匠は人の皮を被った鬼だからな…修行の内容が地獄顔負けの殺人メニューなのはしょうがない」


 今思えば、思い当たる節は幾つもある。危険で獰猛な猛獣達がうじゃうじゃいる危険な無人島に放り出された事に始まり。いきなり飛行機に乗せられ見知らぬ土地で4日間も不眠不休で修行させたり…明らかに堅気の人達には見えない怖いお兄さん達がいる部屋に押し込んで暴言をメモした紙に書かれたスピーチを話させたりとかなりクレイジーな師匠だったな


「まぁ師匠が師匠なら弟子も弟子っていうことだね」


「確かに」


「言えてるわね」


「おいコラそりゃあどういう意味だ?」


上から中村、不破、速水が俺にとって受け入れがたい現実を言い放つ。失礼な奴らだ。



「おいおい…千葉に三村お前らも何か言ってくれ」


それは違うよ!ジョジョは至極真っ当な中学生だ…とか、ちょっと腕っ節があって波紋が使える人徳者だよ…とか、なんでも良いからあんな性格が歪みきった師匠と同じ穴のムジナなんでゴメンだ。


「悪いなジョジョ…ノーコメントだ。」


「右に同じく」


だが、現実そう上手くいくものではなく、悲しい事に俺の味方はここにはいないらしい。



「まぁ、殺せんせーよりはマシだから良いでしょ。来年まで地球が続いていたらこんな変人(?)なんて一生会う事なんてないよ」


いや、あんな生物に何度もあってたらいくら命があっても足りねーし、殺せんせーだけでお腹が一杯だ。ん?そう言えば朝から肝心の殺せんせーを見てない気が……


「おい…中村。お前この新幹線に乗ってから殺せんせーを見たか?」


「え?いやー…どうだっけかな…」


ふと周りを見渡してみるとそれぞれ京都に着くまでトランプやUNO等で旅を楽しみ始めていてその中に必ずいるであろう2mは超える変装のへ文字もない国家機密のターゲットである俺たちの担任の姿が何処にも見当たらなかった。


「……………」


「……………」


見つめ合うコト数十秒お互い同じことを思ったのか嫌な沈黙が始まり、額から変な汗がでる。あぁ…嫌な予感しかしない。


「い、一応電話してみる…」


「頼む……」



そう言い中村が電話を掛けようとした次の瞬間『ゴンッ!』と窓に何かがぶつかった音が聞こえた。


「ん?…って何で窓に張り付いてんの殺せんせー‼︎」


中村が振り向いた先には殺せんせーが窓に張り付いていた。


『いやぁ、駅中スウィーツを買ってたら乗り遅れまして……次の駅までこの状態で一緒に行きます。ご心配なく、保護色にしてますから服と荷物が張り付いてるように見えるだけです』


「それはそれで不自然だから‼︎」



「これでバレたら確実に烏間先生の胃に穴が空くから次の駅まで先回りして待ってろよ!」



目の前で繰り広げられる芸人さながらの喜劇を前に、丈一郎は本日何度目か分からぬ溜息をついた。そして、この茶番劇は次の駅に着くまで続けられた。


「いやあ……疲れました。 目立たないように旅をするのは疲れますねぇ……」


「いやいや、目立ってるからな国家機密」


「完全に不審者ね……」


「それで目立ってないと思っているって逆に凄いよね」


言われたい放題の殺せんせーに見かねたのかE組の中でも手先が器用な菅谷が殺せんせーの付け鼻をカッターで削り始めた。


「……殺せんせー、ほれ。まずそのすぐ落ちる付け鼻から変えようぜ」


「おお!凄いフィット感!」


「顔の曲面と雰囲気に合うように削ったんだよ。俺そんなん作るの得意だから」


成る程な。人間の鼻にするんじゃなくて丸めを帯びる事で殺せんせーの顔にフイットするよう作ったわけか。


「やるじゃあねーか菅谷」


「まぁな、何せこれだけが取り柄だからな」


その後、京都についたE組は千手観音像で有名な三十三間堂などといった由緒正しいお寺を周り、京都の歴史の一部に触れた俺たちはそれなりの満足度の中宿泊先の旅館に着くが約1名それどころじゃないのが居た。



「にゅにゃ〜〜…きぼじ悪い」


俺たちの目の前にいる殺せんせーは、ソファに座りグッタリしていた。新幹線とバスの乗り物酔いで今にも死にそうな顔をしていた。


「大丈夫?寝室で休んだら?」


岡野はナイフを振りおろしながら聞くが、殺せんせーは避けながら答える。


「いえ…ご心配なく、先生枕を忘れてしまったんで1度東京に戻ります…」


「あれだけ荷物あって忘れ物かよ!」



旅行中でもなんら関係ないと言わんばかりの殺せんせーのボケと俺達のツッコミ…何時もとなんら変わらない光景だが、寝ずにここまで移動してきた俺には消化しきれねぇ…よってここはさっさと退散するに限る。


「ちょっと夜風あたってくる…部屋に行く時に呼んでくれ」


「了解…でも、分かりやすい所にいてくれよ。」


千葉の言葉に丈一郎は手をひらひらと振りながら答え旅館の外に出ていった。


「相変わらずクールな奴だな」


「頭脳明晰で容姿も整っていて…女子にもモテるとか最強じゃん……死ねばいいのに」


「そういう事を言う岡島には一生そんな状況は来ねーだろうな」


「そんな事ないわ!チクショォォォお!俺は絶対に諦めねーぞぉぉぉおおお!」


余談だが、菅谷曰くこの日を境に岡島の部屋には『女子にモテる為の方法百選』や『女子はこんな男に憧れる』などといったいかにも残念な人達が読みそうな本がちょくちょく増えたらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



一方、旅館にある庭にある壁に寄りかかり夜風に当たりっている丈一郎はというと、



「やれやれ…いつものことだが騒がしいな」


まぁどうせカルマ辺りが原因だろう。ジジイ並みに我の強い連中がみんなで仲良く修学旅行してるんだ…浮かれて普段以上に騒がしくもなるか


「まぁそこら辺は今も昔も変わらないって事か」


良くも悪くも俺はそういう星の元に生まれてしまったらしく死ぬまで毎日がお祭り騒ぎの様に喧しい奴らと過す可能性があると考えるとかなり憂鬱になるけどな


「やれやれだぜ……」


もし、自分に子供や弟子なんかができた時には今の自分の立場に彼らがなったときには余計な苦労をかけさせない大人になっていたいものだ。…さて、



「中村…さっきから俺に足音立てず近づいて何企んでるんだ?」



そう言い後ろの壁に振り返る。すると観念したのか壁の向こうにいる少女は照れ臭そうに、



「あははは…バレた?」



精一杯の愛想笑いを浮かべてこちらの方にひょいと顔をだした。


「バレバレだ。凡人ならともかくその程度じゃ俺に気がつかれずに背後は取れねーよ」


まぁここに来る前なら気づかなかったも知れないが最近は烏間先生との模擬戦のお陰で鈍っていた感覚が少しずつ鋭くなってるからな。しょうがない。


「んで…なに黄昏てんの?ジョジョ」



そう言い中村は丈一郎と同じ様に壁に寄りかかる。


「別に…ただこんなに騒がしい旅行は久しぶりだったから少し懐かしく感じていただけだ」


それを黄昏てるというのではないか?と中村は思ったが敢えてここは触れずに話題を変える。


「ふーん…んで、明日殺れると思う?」



「あ?なんだ藪から棒に…お前らしくもねぇ」



「んー…いやさ、ウチら今日まで狙撃の為のルートとか調べたり私達なりにあの超生物の暗殺してるけど正直殺せる気がしないからさ…」'


そう言い中村は俯く、確かにあんな規格外もいい奴を自信満々にやれるとは中々思える訳がなく弱音の1つや2つも吐きたくなるだろう。


「そんなもん殺れる可能性がたとえ兆に一つ…いや、それがたとえ0だとしても殺るしかねーだろ。この世にはやるかやらないかの二択しかねーんだから」


不敵な笑みを浮かべ、そんなこと当たり前だと言わんばかりに、彼はそう言い切った。そんな丈一郎の真っ直ぐな目に中村は今の発言がばかばかしくなり笑みがこぼれる。


「だね…ウチらなら殺れるしょっ!」


決行は明日、ターゲットは得体の知れないターゲット。正直殺せる可能性は限りなくゼロに近いだろう。だが、目の前に彼はなんとかしてくれると彼女は思わずにはいられなかった。
 
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