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夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和

作者:臣杖特
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LINK-0 後編

 
前書き
前編のあらすじ
夢値「ぼくが家に忘れてきたカードは、《(ひかり)創造神(そうぞうしん) ホルアクティ》。家に忘れてきたカードは、ぼくは使うことが出来ない」

※今話は決闘無しです 

 
「いやー、負けちゃいましたね」
 老伍路(オイゴロ) 夢値(ムチ)は自分のカードを畳むと、デッキを軽くシャッフルした。
「このデッキは超ヘビー級デッキな分ちゃんと回るか自信が無くて、回った時は勝てそうな気がしたんですけれども、樢さんには叶いませんね」
「私関係無くない?」
 哀手(アイデ) (モク)は乾いた眼差しを向けるしか無い。
「あ、そうそう、早くバッテリー切れになる前にっと」
 夢値は織羅(オレラ) 園羅(エンラ)から貰っていたCDの様な物を、頭ぐらいの高さに掲げると、
「ほいぃーっと」
 ずぶずぶと頭にめり込ませた。
「ふー、」
 それが終わると一息ついて、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
「これで大丈夫です」
「な、何なのそれ?」
「スターチップの為のご飯です」
「もうちょっと入れ方とか形とかなんとかならなかったの?」
「複雑な理論によって導き出された理想的なバッテリー補給ですね」
「へ、へぇ」
「これでぼくがぼくのままでいられるようになりました、それで、」
 夢値は居住まいを正した。
「ぼくたちと樢さんは、お別れですね」
「……そっか」
 夢値達の目的はサンサーヴの無力化。それが果たされれば、樢の元にいる理由も無くなる。
「樢さん、長い間お世話になりました」
 夢値はペコンと頭を下げた。
「いいよ、お世話だなんて、そんなこと……な、無いとは言わないけど……」
 樢は目を逸らした。夢値との思い出にいいものは少ない。
 だがそれでも、別れはセンチメンタルなものである。
「まぁ、なんていうか、色々足し引きしたらプラスになったか分かんないけど、楽しかったは楽しかったよ」
 樢ははにかんだ。
「……樢さん」
 夢値が手を腰ぐらいの高さに合わせると、床からせりあがった筒がその高さまで上がった。それの上には、1枚の裏面の遊戯王カードがある。
 夢値はそれを引くと、表に返して樢に差し出した。
「《ファイアウォール・ドラゴン》です」
 それは儀式モンスターに似た青いカードだった。モンスターのイラストの上下左右に、外向きの矢印がある。
「これは?え?なんなの?」
「リンクモンスターです」
「リンクモンスター?」
「新しい召喚法を用いるカードです」
「へぇ、」
「とんでもないルートから手に入れてきました」
「とんでもないルート!?」
「はい、それはもう、あんまんが肉まんなるところでしたよ」
「いまいち意味分かんないんだけど」
 生暖かい表情の樢の目を、夢値が見つめた。
「このカードをあなたにあげます。少し遅れた引っ越し蕎麦です」
「……少しじゃないし引っ越してもないし蕎麦でもないんだけど」
「些細な事ですね」
「些細じゃないでしょ」
 樢はそのカードを受け取った。
「ありがとう。もらっておくわ」
「はい、樢さんの手にそのカードがある限り、」
 ウィィィン
 夢値が喋っている途中に、突然夢値とダードの体が持ち上がった。
「え、どうしたの?」
「あーこれ、間違えてタイマーにしちゃいましたね」
 夢値とダードがいるのは、丈夫そうな筒の中だった。
「え、まじか……ん、じゃあな樢。今までありがとう」
「というわけでさよなら樢さん」
「え?はい?」
 ダードと夢値の巻いた別れの挨拶と共に、筒が割れた窓の先を指す。
「え、あ、夢値、ダード」
 ぼひゅううううううううん!
 心優しいパワーファイターを思わせる音を立てながら、夢値とダードは窓を抜けて空高くへ飛んでいった。
「え、えー……」
 樢が外を見るも、それはただのきれいな青空にしか見えない。
「お元気で?」
 樢はぽかんと空を見つめた。


 夢値とダードがいなくなって3年。
 樢はなんとなく快晴の空を見上げた。
 意味も無く見上げただけの空は、どこまでも明るくて、希望に満ちていた。
「いい天気だなぁー」
 そう呟くと、彼女の体中に漠然とした期待が充満していった。
「なんかいいことありそう」
 だが上ばかり見ていては歩けない。樢が目線を前に戻すと、
「探したロボ。痛い目に遭いたくなければおとなしくムーラキーを寄越すんだロボ……!」
「ひひひ、人違いじゃないでしょうか?」
 遊戯王カードのデッキを構えた変な少年が男児を威圧していた。
「人違いのはずがないロボ。ろぼはこの数ヶ月、ムーラキーのことばかりを考えていたロボ。ろぼの直感に狂いはないロボ」
「ひぃぃ、だ、誰かぁ……」
 年上に睨まれ足をガタガタさせながら悲鳴を上げる男児を見て、(そう言えば夢値もこんなぐらいの年だったわね)と思いながら、2人に近づいた。
「ちょっと、あんた何やってんの?」
 少年に声をかけると、少年がこちらを向いた。
「貴様……ろぼの邪魔をするロボ?」
「そうやって詰め寄って無理矢理決闘(デュエル)挑んでさー、やめた方がいいよ?」
 少年は睨みつけてくるが樢の方がある程度年上だ。樢は全く怯まなかった。
「ふん、じゃあ貴様がこいつの代わりに決闘するロボ?」
「うーん……」
 樢はキョロと辺りを見渡した。男児は真後ろで震えている。樢はそれを一瞥した。
「僕はいいです、なんでもいいです……」
「ん、分かった。それでいいよ」
「フーフーン、騎士気取りめ、ボコボコにしてやるロボ」
 少年はデッキを再び構えた。
「騎士気取りじゃないわよ、ただの通りすがり」
 樢は荷物からデッキを取り出した。
「「デュエルプレートオン!」」
 2人の宣言と共に透明なパレットのようなものが1人辺り1つ中に浮かぶ。樢と少年はそれぞれそれにデッキを置いた。
「「決闘!!」」

「あ、わわ……」
 男児は腰を抜かして樢の背中辺りを視界に入れながらぐるぐると考えていた。
(あの板は何?なんで遊戯王してるの?何これ?)
「リンク召喚、LINK-4、《ファイアウォール・ドラゴン》!」
 樢のフィールドに新たなモンスターが現れた。
(なんでお姉さんは最初からそれを知ってたの!?)

「ロボオオオおオオおオぉオオ!!」
LP800→0
 樢は決闘に勝利した。『YOU WIN !!』の電光掲示が流れる中デッキを仕舞う。
「ば、馬鹿なロボ……。先攻1ターン目で……」
「はい。勝ったんだから、もうこの子につきまとったりしないこと。いい?」
 樢はまっすぐ少年の顔を見つめた。少年がうなだれているので、どうしても見下すようになってしまう。
「くぅ、わ、分かったロボ」
 少年はよろよろと立ち上がるとすごすごと引き返していった。
「……ふぅ」
 樢が一段落ついていると、
「あ、ありがとうございます」
 後ろから消え入るような声がした。
「大丈夫?」
 樢は振り返りかがんで目線を男児に合わせた。
「はい。大丈夫です」
 男児はガクッと頷いた。
(この子、ムーラキーってののせいで狙われ続けるのかな?もしそうなら誰かに守ってもらえるならいいけど……)
 樢がぼんやりと憂いていると、ふと背後に気配を感じた。
「お前、噂に見たことあるぞ。確かアイデ キトリとかいう」
「哀手 樢よ。木に鳥で樢」
 樢は振り返った。声の主は真っ黒のかなり大きなマントで素性の分からないぐらい全身を覆っている。
「アイデ キニトリデモク」
「喧嘩売ってんの?」
「クククク」
 マントの上の方が、愉快そうに揺れた。
「例え今どこにあろうとムーラキーは必ず吾輩の物にする」
「……あのね、」
 決闘による略奪に文句の1つでも言いたくなった樢だったが、
「いいや、俺の物だ」
 突然の声に思わず口を止めた。
 声のする右斜め前を観ると、十字路の影から何者かがこちらを見つめていた。
「いいや、私の物だ」
「いいや、我の物だ」
「いいや、アタシの物だ」
「いいや、拙者の物でござる」
「いいや、もうなんでも」
 前から、後ろから、横から、人の重く囁くような声が聴こえる。
「クフフフ、まぁ、精々頑張るといい、哀手 樢……」
 黒マントの男は後ろを向くとゆっくりと歩き去っていった。
「頑張るって……え!?」
「あの、哀手、樢さん、」
「うん」
 樢は振り向いた。
「守ってくれるんですね。ありがとうございます!」
「え?」
 周囲の人影がカサカサと揺れる。
「哀手 樢がムーラキーを守っている」
「哀手 樢からムーラキーを奪い取る」 
「哀手 樢を倒す」
「哀手 樢を滅ぼす」
「哀手 モクヨを」
 揺らめく人影の人相は見えなかったが、彼らの視線は全て樢に注がれていた。
「え、え、うわあ……」
 樢は、これから起こることが容易に想像出来たので、
 息を大きく吸った。
「あぁあもう!やってやろうじゃん!!」
 樢はデッキを突き出した。
 これから暫くして、樢は決闘者として語り草になっていくのだが、それはまた別の話。 
 

 
後書き
完結!ここまで読んでくれてありがとうございますです!感想誤字脱字や「あれ?この伏線回収してないくない?」みたいなのがあれば、無くてもコメントくれると僕が喜びます
多分次書くのは一次創作だけど、もしよければ読んで欲しいです。
ではまたいつか 
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