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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第94話:嘘は人の心を守り、真実は傷付ける。

(グランバニア城・娯楽室)
ピエッサSIDE

「普通さぁ……妊娠したのなら家族に一報入れるんじゃねぇの? 何で妹にすら教えてないの?」
「うるっさいわねアンタも! 私達夫婦よりも先にお父さんが知ってたから、私から知らせる必要がないと思ったのよ」

グランドピアノが置いてあるグランバニア城娯楽室に、少しお腹が大きくなってる美しい女性と共にウルフ宰相閣下が文句を言いながら入ってきた。
因みに、その後ろからはマリーちゃんと妊婦さんの旦那と思われる方が入室してきた。

「はっ! 一体何年あのオッサンの娘をやってるんだ? アイツが自分に用の無い事柄をベラベラ喋る訳ねーだろ! いい加減、自分の父親を知れ!」
「はぁ? 知ってるわよ、お父さんの事は十分に! 大方お前が変な企みを立てるから、それに利用されないようにと秘密にしてくれてたんだろ!」

如何やらこの美女がマリーちゃんのお姉様で、リュカ陛下とビアンカ陛下の娘さんである事が判る。そして性格も覗える……
妹さん(マリーちゃん)同様、人を食ってる性格らしい。王家の人達は皆様こんな感じなのだろうか?

「何でもかんでも俺の所為にしてんじゃねーよ! お前の親父が全部悪いんだろが!」
「その台詞をそのままお返しするわ、何でもお父さんの所為にするんじゃないわよ! アンタがもっと信用出来る大人に成長してれば、お父さんだってグランバニアで公表してたわよ」

……何でこの二人は、こんなに言い合ってるの?
他国に嫁いだとは言え元はグランバニアの姫君……いや他国に嫁いだ他国のお偉いさんとして、もっと閣下は敬意を払う必要があるんじゃないのかしら? だって、これって国際問題に発展しない!?

「俺をこんな大人に育てたのは、お前の親父だ。お前等姉妹を見れば解るとおり、お前の親父が純真無垢な少年少女を捻くれた大人に変貌させてるんだ!」
「はん! 言ってくれるじゃないの……でもねアンタが寝てる女も「いい加減にしなさい、二人とも!」

部屋に入って観賞用に設置した椅子に座っても言い争いを止めない二人を見かねたラインハットの王子様が、堪らず厳しい声で争いを止める。
正直助かった……真面な人間も存在してくれてて。

「偉そうに……殿下が嫁を操縦出来てないから問題が拗れるんでしょう! 上に乗ってるだけで女を操縦出来ると思うなよ」
「あ~ら残念ねウルフ。基本的に上に乗ってるのは私なのよ。彼は私の下で喘いでるだけ(笑)」

効果無し!
グランバニア王家の人々は灰汁が強すぎて、真面な人々の咎めに耳を貸す事は無い。
王太子妃殿下やマリーちゃんはグランバニアの人間(もしくは元グランバニアの人間)だがら良い(本当は良くない)けど、ラインハットの王子様にその態度は拙いと思うわウルフ閣下。

「ポピーは勿論の事、君も相変わらずだなぁ……流石はリュカ陛下の愛弟子だよ。俺はもう帰っても良いかい?」
「一人で帰れるのなら良いですけど、一人では帰れないのならダメです。我慢して嫁の音楽鑑賞が終わるのを待ってて下さい」

あぁ……王太子殿下は私と同じなんだ。
常識人なのに非常識人に掴まって苦労なさってるんだわ。
でもゴメンなさい、私は殿下と違って権力を持ってないので、何もお助け出来ません。

「じゃあ早く嫁の音楽鑑賞を終わらせてくれよ。君等に付き合ってたら、胃が幾つあっても足りやしない。半日もここに居たら胃潰瘍で死んでしまうね」
「そう言って皆、慣れていくんですよ……」

殿下が羨ましいわ。用事が終われば平穏な場所に戻れるのだから……
私は今日が終わっても、また明日が来て胃が痛くなる。胃薬なんて飲んだ事無かったのに、城へ来る事になってからはダース単位で購入し始めたわ。

「まぁ良いや。ピエッサさん、早速だけど始めて貰えるかな?」
「は、はい! じゃ、じゃぁマリーちゃん。今日は“Everything”を演奏するわね……大丈夫かしら?」
「わぁお! 流石ピエッサは分かってるぅ……ナイスなチョイスね」

ええ私は分かってるわマリーちゃん。
分かってないのは貴女なのよ……
でも直ぐに分かるわよ……お姉様がいらっしゃった本当の理由を。










恙無く私のピアノ演奏は終了し、静寂が室内を包むのに合わせてマリーちゃんが深々とお辞儀をする。
披露した曲が終わった事を察したラインハットの王太子殿下が、空気を読んで拍手を送ってくれる。
だけどお姉様とウルフで閣下は、苦笑いで拍手などしてくれそうに無い。

「ポピーお姉ちゃん、如何だった私の歌?」
「う~ん……最初に確認しておくけど、貴女は王家の人間である事を隠して歌手活動してるのよね? 王位継承権が無いとは言え、両親が王様と王妃様って秘密にしてるのよねぇ?」

「そうよ。世界に愛されるトップアイドルになる為に、コネは使わないようにしてるの。それが如何したの?」
「ううん、安心したの。だって貴女が私の妹だと知られる事が恥ずかしいから(笑) 私も絶対に姉だとは公表しないでおくわね。赤っ恥だから(ニッコリ)」

「ちょっと……それ、如何いう意味よ!?」
「如何いう意味って、そのままの意味……ヘタクソすぎて家族だと思われるのが恥ずかしいのよ。解るかしら(ニッコリ❤)」

流石は実の姉。
言いにくい事をズバズバ言ってくれる。
ありがたいけど、この後が怖くもある。

「ポピー……直球すぎて身も蓋も無いよ。もう少し評価しても良い部分とかあると思うんだが……」
「何よ……評価できる部分って?」
どうせ歌詞が素敵とかだと思う。

「そ、そうだなぁ……か、歌詞が良かったと思うよ」
ほらね!
「はっ! 何それ……それじゃぁ、身も蓋も無いうえ、底も浅いじゃない。何も乗ってない皿よ、それじゃ!」
上手いお姉様。でも正にそんな感じ。

「くっくっくっ……皿とは上手いですね義姉さん。まぁ見た目だけはズバ抜けて良いから、芸術性が高すぎて皿として使用できない皿って事かな?」
あ~ぁ……ウルフ閣下までマリーちゃんの批判に入った。

「わ、私は既にデビューしてて、しかも結構な人気を得てるのよ! それを解ってて言ってるの?」
「解ってるわよ。だからウルフが言ったじゃない……芸術性が高いだけの皿だって(笑)」
つまり“芸術性(見た目)だけで、(歌唄い)として役に立たない”と言う事。

先刻(さっき)コリンズが言った感想をよく聞くんじゃないの? 皆も分かってるから誰も歌唱力については何も言わないのよ。大方アンタ達も難易度の低い曲ばかりを人々に聴かせてるんでしょ? 良い曲、良い歌詞、可愛い歌い手……真新しいし、文句を言わず見守っていてやろうって事じゃないのかしらね?」

お姉様のグゥの音も出ない物言いを受け、難しい曲を発表拒否してきた私に向き直り、ギロリと睨みを利かせるマリーちゃん。
私は何も言えない……何も言う訳にはいかない。だがそれこそが私の本音だと受け取って貰いたい。

そして今後の事を早急に決めて欲しい。
ヘソを曲げて『もう唄わない!』と言うのか、心を変えて『これからは猛練習する!』と頑張るのか、皆大嫌いって事で『このままで良いんだもん!』とコレまで通りのスタンスで行くか……

『もう唄わない!』と言ってくれれば私は解放されるだろう。
既に教わってある幾つかの素晴らしい楽曲を、私の方(マリーちゃん以外の人)で発表して良いのかウルフ閣下に確認しよう。出来る事なら発表したいけど、多分ダメと言われるだろう……まぁあの()から解放されるだけでも大助かりなので、文句は無い。

『これからは猛練習する!』だったら、あの()との付き合いが続くけど、良い楽曲を世間に発表出来るチャンスが大きいので、何とか我慢出来るだろう。
また我が儘言い始めたら、お姉様を呼んで貰えるようにウルフ閣下にお願いすれば良いのだし。

最悪なのは『このままで良いんだもん!』って選択肢だ。
意固地になって練習もせず、現状のままを世間に見せ続けるのであれば、私も我慢の限界だ。もう王家の恥とか関係ない……ガンガン高難易度の曲を彼女に歌わせて、世界中に恥を晒させてやるわ!

お姉様もウルフ閣下も指摘したのにも拘わらず、それでもなお音痴な歌声を世の中に轟かさせるのだから、私の責任にはならない。
……私の音楽家としての人生も終わるだろうけど、我が儘女(マリーちゃん)に付き合って心身共に壊して人生を棒に振るよりかはマシだ。

「じゃぁ私はこれで失礼するわね。お母さんに妊娠た事を教えなきゃ♡」
そう言ってお姉様は立ち上がり退室して行く。
「あ……じゃ、じゃぁ俺も……」
そして奥さんを追うように出て行くのがラインハットの王子様。

「じゃぁ次のコンサートも頑張れよ(フッ)」
ウルフ閣下も立ち上がり出て行くが、捨て台詞と共にニヒルな笑顔を残していった。
マリーちゃんの神経を逆撫でする事間違いなし!

案の定、お三方を見送る表情は膨れっ面だ。
両頬をプクッと膨らますその顔は凄く可愛い。
性格さえもう少し普通だったら、妹にしたいくらいなのになぁ……

ピエッサSIDE END



(グランバニア城・プライベートエリア:リビングルーム)
リュカSIDE

「お母さん、お久ぁ! 私ね妊娠したのよ。勿論お父さんからは聞いてたわよね。だって私達夫婦よりも先に知ってたんだから(ニッコリ)」
マリー問題で里帰りしてるのは知ってたが、出会い頭に凄い報告をブッ込む我が娘。

「え、何!? 貴女も子供が出来てたの!!?? ぜ、全然知らなかったわよ……何で教えてくれないのリュカ?!」
ヤバイね。皆に言うのスッカリ忘れてたんだよね。でも本当の事言ったら怒られそうだよね。

「え~と……アレだよ、ほらアレ」
「何よアレって?」
何だろうアレって??

「ウ、ウルフがさぁ……何か企んでたじゃん! 何だかは分からなかったけど、それに利用されたりしたら嫌じゃん! だからさぁ……下手に言う訳にいかなかったんだよね。うん……そうなんだよね!」
一緒に現れたウルフに視線を移したが、呆れたように顔を顰めてる。ゴメン……

「やっぱりアンタの所為じゃん!」
「お前……」
ここまでに何度か話し合ってたんだろう……ポピーとウルフは出てきた良い訳に何も言わない。ウルフは俺を睨んでるけどね。

「って事は、私も信用してなかったて事!? 妻の私に知らせたら、ウルフ君に筒抜けになると思ってた訳!?」
あう! この言い訳はダメっぽいぞ!
何か別の言い訳を……

「……って言うのは冗談でぇ、本当は本人から直接報告を受けた方が感動も大きいかなって思ってたんだよね。直ぐに連絡が来ると思ってたからさぁ……ま、まぁ気が付いたら随分と時間が経過しちゃってたけどね……は、はははははっ」

「ほら、義姉さんが報告を怠ったのが悪いんじゃん! 何でも俺の所為にするなよ」
「な、何で実の父親が知ってる事を、ワザワザ連絡しなくっちゃならないのよ!?」
う~ん……この二人はこの話題で結構言い争ってたのかもしれない。どっちの言い訳を採用しても問題が収拾しなさそうだ……

「そ、そんな事よりさぁ……グランバニアのジャ○アンは如何なったの?」
うん。ここは話題変更で有耶無耶にしなければ。
「ジャイ○ンって何だよ!?」
いけね……ジ○イアンなんて言ってもマリーしか解らないんだった。

「ジャイア○ってのはね『音痴なくせに強制的に人々に歌を聴かせるヤツ』の事だよ」
「あぁ、それだったらポピー義姉さんがズバリ言ってくれたから、多分解決するはずだ。どんな解決になるかはマリー次第だけどね」

「ズバリねぇ……細木○子みたいじゃん(笑)」
「だから誰だよ其奴!?」
そうだった……それも知らないんだった。

「良いんだよ誰でも! 面倒くせーなぁ、お前も!」
「じゃぁ言うなよ!」
あぁもう、相変わらず生意気だな。

「そんな事よりポピー。お兄ちゃんにも教えてきなさい、妊娠の事」
「そうね、そうするわ!」
色々面倒臭くなったので、俺から遠ざける事で問題解決を図る。

「あ、俺も行きます。ティミーさんの驚いた顔を見てみたいから」
それが良い。もう面倒臭いから皆行けば良い。
そんな思いを汲み取ってくれたのか、ビアンカもコリンズも立ち上がり部屋から出て行ってくれた。

だが……

「あ、ティミー! 丁度良い所に現れたわね。見て見て、このお腹♡」
如何やら部屋を出て直ぐにティミーが居たらしく、部屋の外で騒がしい声が聞こえてくる。
「あ、如何したこのお腹!? も、もしかして子供が出来たのかポピー?!」
あれ? そうかティミーにも言ってなかったから、先刻(さっき)のビアンカと同じ驚き方をするのか。

「ここまで大きくなる前に気付いてたんだろ? 何で教えてくれなかったんだよ!」
って事は、先刻(さっき)の面倒臭い遣り取りが再発になるんだよね。
ヤ、ヤバイ……ルーラでサンタローズにでも逃げるかな?

リュカSIDE END



 
 

 
後書き
リュカさん、娘の妊娠スッカリ忘れてた。
そりゃぁ奥様に怒られますよね。
言い訳も酷いし。 
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