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英雄伝説~灰の軌跡~

作者:sorano
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第28話

同日、18:20―――



~パンダグリュエル・パーティーホール~



「あ…………」

「ユーシス君……」

「よかった……話には聞いていたけど、無事で本当によかったよ……!」

「皇女殿下もご無事で何よりです。」

部屋に入って来たアルフィン皇女達を見たトワは呆けた声を出し、ジョルジュとエリオットは明るい表情でユーシスに、アルゼイド子爵は安堵の表情でアルフィン皇女にそれぞれ声をかけ

「皆さん……この混沌としたエレボニアの今の状況で皆さんが無事で本当によかったですわ………」

「…………バリアハートの件はレン皇女殿下から聞いた。迷惑をかけたな。」

アルフィン皇女は安堵の表情でアリサ達を見回し、ユーシスは重々しい様子を纏って答えた。

「そんな……迷惑だなんて……」

「オレ達は当然の事をしたまでだ。」

「まあ、結局あのリィンって人達に邪魔されて失敗しちゃったけどね~。」

「ミリアムちゃん………」

「頼むから少しは空気を読んだ発言を覚えてくれ………それよりも色々あったようだけど、無事で何よりだ。”憎まれっ子世にはばかり”というし、無事だったのもうなずける。」

ユーシスの言葉に対してエマは苦笑し、ガイウスは静かな表情で答え、ミリアムが呟いた言葉を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中クレア大尉は呆れた表情をし、疲れた表情で指摘したマキアスは気を取り直してユーシスに視線を向けた。

「フン、お前の方こそ。あっさりと領邦軍あたりに捕まったと思ったが、悪運だけは強いらしいな。」

「な、なにおう!?」

鼻を鳴らしたユーシスの言葉に対してマキアスはジト目でユーシスを睨んだ。

「あはは、それじゃあ――――!」

その時ミリアムが勢いよくユーシスに抱き付こうとしたがユーシスは身体を横に背けてミリアムを避けた。

「な、なんでよけるのさー!?」

ユーシスの行動に対してミリアムは不満げな表情で声を上げた。

「抱きつこうとするからだ。暑苦しい。」

「ぶー、照れ屋なんだから。」

「ハハ……早速いつもの調子が戻って来たようで何よりだよ。」

「うん……本当によかったよ……」

「ふふっ、これでようやくクロウ様を除いて”Ⅶ組”は全員揃う事ができましたわね。」

ユーシスの答えを聞いたミリアムは頬を膨らませ、その様子をジョルジュとトワ、シャロンは微笑ましそうに見守っていた。



「う~ん、銀髪のあの娘や緑色の学生服の女の子もだけど、水色の髪のあの娘も中々可愛いな~♪先輩、三人ともお持ち帰りしてもいいですか!?」

「あんたね………緑色の学生服の娘はともかく、他の二人のプロフィールはメンフィルから渡されて、二人の情報も知っているのに、よくあの二人に対しても通常運転でいられるわね―――って、あのレンに対しても通常運転でいられるのだから今更よね………」

「はい!可愛い事に罪はありませんから!」

するとその時アネラスとシェラザードが会話をしながらアルフィン皇女達の背後から現れ

「お前さん達は……!」

「シェラザードにアネラス……!まさかあんた達が皇女殿下の護衛だったとはね………」

「おお……シェラ君にアネラス君じゃないか。フフッ、”影の国”に続いてこのような奇妙な場所で再会する事になるとは、これも女神による導きかもしれないね♪」

二人の登場にトヴァルと共に驚いたサラは苦笑しながら二人を見つめ、オリヴァルト皇子は目を丸くした後酔いしれた様子で答え、その様子にその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて脱力した。

「あはは……お久しぶりです。オリヴァルト殿下は相変わらずの様子ですね………」

「ハア………和解調印式でその”女神”とも会って来たから冗談抜きで洒落にならないわよ、その言葉は………というか祖国が悲惨な状況になっているのに、よくいつもの調子でいられるわね、このスチャラカ皇子は………」

アネラスは苦笑しながら答え、シェラザードは疲れた表情で頭を抱えた後呆れた表情でオリヴァルト皇子を見つめ、オリヴァルト皇子を”スチャラカ皇子”と呼んだシェラザードの発言にその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「いや~、再会していきなり褒めてくれるなんて、ひょっとして私の事が恋しかったのかな♪」

「……和解条約の件もあるから、ちょっとは大目に見てあげようと思っていたけど、どうやらその必要はなかったみたいね。再会の挨拶代わりに”影の国”から帰還して以降に覚えた新技か魔術の実験台にしてあげようかしら?」

笑顔を浮かべて話しかけたオリヴァルト皇子に対してシェラザードは静かな表情で呟いた後威圧を纏った笑顔を浮かべると共に自身の得物である鞭に魔力によって発生した竜巻を纏わせて構え

「ガクガクブルブル……!ごめんなさい、調子に乗った事は謝るのでマジで鞭や魔術は勘弁してください………!」

シェラザードの行動を見た瞬間すぐに疲れた表情で身体を震わせて謝罪したオリヴァルト皇子の行動を見たその場にいる多くの者達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

(あの二人って、一体どういう関係なのかしら……)

(一国の皇子を”スチャラカ皇子”って呼べる程の仲なんだから、ひょっとして恋仲とか?)

(フフ、実際の所はどうなのでしょうね。)

(というかあの銀髪の女遊撃士が鞭に霊力(マナ)を宿らせた事を考えると銀髪の女遊撃士は間違いなく魔術師でしょうね………)

アリサやフィー、エマがそれぞれ小声で会話をしている中セリーヌは目を細めてシェラザードを見つめていた。

「もう、お兄様ったら。可愛い妹をほおっておいて、旧知の仲間の方達との再会を優先するなんて薄情ですわね。」

一方アルフィン皇女は頬を膨らませた後ジト目でオリヴァルト皇子に指摘し

「ハハ、すまないね。―――お帰り、アルフィン。…………事情はレン君から全て聞いた。私達の代わりに君に辛い役目を押し付けてしまって、本当にすまなかった………」

アルフィン皇女の言葉に対して苦笑したオリヴァルト皇子は優し気な微笑みを浮かべた後辛そうな表情でアルフィン皇女に謝罪をした。



「いえ………わたくしはアルノール皇家―――いえ、帝位継承者の一人として当然の事を行ったまでですし、今回のメンフィル帝国との戦争はわたくしも戦争勃発の原因の一端を背負っていますから、その責任を果たしただけですわ………」

「皇女殿下………」

「申し訳ございませんでした、皇女殿下……!護衛の任に就いていながら、肝心な時に護衛から離れていた挙句、俺が殿下の判断を惑わせるような発言や提案をしたせいで皇女殿下―――いえ、エレボニア帝国が辛い立場に立たされる事になってしまいました……!」

寂し気な笑みを浮かべて答えたアルフィン皇女の様子をアルゼイド子爵は心配そうな表情で見つめ、トヴァルはアルフィン皇女を見つめて頭を深く下げて謝罪した。

「その件についての責任はトヴァルさんだけでなく、わたくしにもありますから、トヴァルさんがわたくしに謝罪する必要はありませんわ。それよりも謝罪するのわたくしの方です。幾らかつてエレボニア皇家と縁があったとはいえ、既に他国の貴族になったシュバルツァー家に頼る事をわたくしが提案しなければ、トヴァルさんも遊撃士協会本部より処罰を言い渡される事も無かったのですから………本当に申し訳ございませんでした………」

「皇女殿下がそこの遊撃士失格のバカに謝罪する必要はありませんよ。ユミルの件に関する責任の大半は貴族連合軍で、残りの責任は”国家権力の不干渉”を規約の一つとしている遊撃士の癖に国家権力に干渉したそこのバカですから、そこのバカの場合は自業自得です。」

「その意見には同感ね。今回トヴァルが行った行動は遊撃士どころか、中立勢力に所属している関係者として失格な行動だったのだから。」

「ぐっ………」

「サ、サラ先輩にシェラ先輩~。トヴァル先輩もその事に関して深く反省していると思いますし、処罰まで受ける事になっているのですから、これ以上その件を蒸し返すのは幾ら何でも可哀想だと思いますよ?」

トヴァルに謝罪するアルフィン皇女に指摘したサラとシェラザードの言葉を聞いたトヴァルは唸り声を上げて肩を落とし、アネラスは苦笑しながらトヴァルを責めた二人に指摘した。

「……何はともあれ、ユーシス様と皇女殿下もいらっしゃったのですから、まずは御二方からそれぞれの事情を詳しく伺った方がよいかと。」

そしてシャロンの提案によって、アリサ達はアルフィン皇女達との情報交換を始める為にそれぞれ席についた。



「話を始める前にまずは俺の方から謝罪をさせて欲しい………――――すまなかった。父が猟兵達に他国の領土であるユミルを襲撃させた事を命じた事を知った時点で父を捕縛するか処刑して、父の身柄と共にメンフィル帝国に出頭して謝罪を行っていれば、このような事が起こらなかったかもしれなかった………」

「ユーシス…………」

「……ま、今回の戦争勃発の一番の”元凶”であるアルバレア公の身柄をさっさとメンフィルに渡して謝罪していれば、戦争勃発にまではならなかった可能性はあったかもしれなかったわね。」

「セリーヌ!」

頭を深く下げて謝罪する様子のユーシスをガイウスは心配そうな表情で見つめ、静かな表情で呟いたセリーヌの言葉を聞いたエマは声を上げてセリーヌを睨んだ。

「頭を上げてくれ、ユーシス君。君の責任ではないよ。今回の戦争も内戦も元を辿れば、両派閥の争いを止める事ができなかった我々”アルノール皇家”の責任だよ。それよりも君は私達アルノール皇家の不甲斐なさによってルーファス君を含めた家族全員を失うどころか、実家や地位まで失ってしまったんだ。その償いになるかどうかはわからないが、エレボニアに所属し続けてくれるのならば君―――いや、”アルバレア家”に新たな貴族としての地位を用意する事は約束する。」

「お兄様………勿論わたくしも内戦が終結した際にはお父様にもお兄様が仰ったユーシスさんの待遇についての嘆願をしますから、できればどうかメンフィル帝国との和解の為に内戦終結後エレボニアを去るわたくしの分も含めてお兄様達―――いえ、今後のエレボニアを支えてあげてください、ユーシスさん。」

「殿下達の寛大なお心遣い、心より感謝致します……ッ!アルバレア家は殿下達より受けた御恩を返す為……そしてエレボニアを衰退させてしまった償いをする為にも、今後永遠にアルノール皇家の方々に忠誠を捧げます………!」

オリヴァルト皇子とアルフィン皇女の気遣いにユーシスは頭を下げたまま身体を震わせて感謝の言葉を述べた後宣言をした。

「ありがとう。今後のアルバレア家の働きに期待している。」

ユーシスの宣言に対してオリヴァルト皇子は静かな表情で答えた。



「えっと………メンフィルに捕まってからのユーシスの事はレン皇女殿下から聞いてはいたけど……捕まっている間は本当に何もされなかったの?」

「ああ。”軟禁”とは言っても、城館内ならばある程度の自由は許された上軟禁場所は自室で、食事の配膳もメンフィル兵ではなく公爵家が雇っていた使用人達で、その使用人達もメンフィルが改めて雇用してくれた。………今回の戦争勃発の元凶であり、メンフィルが最も怒りを抱いていた父の関係者に対する待遇とは思えない程の好待遇だった。」

「そうか………」

「ちなみに食事はどうだったの~?毒が入っていたり、食事内容が貧相じゃなかったの~?」

エリオットの質問に答えたユーシスの答えを聞いたラウラは安堵の表情をし、ミリアムは興味ありげな表情でユーシスに訊ね、ミリアムのとんでもない質問内容にその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「お願いしますから、もう少し遠回しな言い方で訊ねてください、ミリアムちゃん……」

「というか何でそんなどうでもいい事が気になっていたんだ、君は………」

「阿呆。第一食事に毒が入っていれば俺は今頃この場にいないし、食事内容も”ガレリア要塞”の”特別実習”の時に出た食事とは思えない酷い食事内容ではないどころか、そこの第三学生寮の管理人が毎日出した食事と同等のまともな食事内容だ。」

「ふふっ、お褒めに預かり光栄ですわ♪」

「シャロン、貴女ねぇ………」

ミリアムの発言にクレア大尉とマキアスが疲れた表情をしている中、ユーシスは呆れた表情で答え、ユーシスの話を聞いて微笑んでいるシャロンをアリサはジト目で見つめた。



「えっと……ユーシスさん。ルーファスさんの事ですが………」

「……兄上が”パンダグリュエル”にて父の時同様シュバルツァー卿のご子息である”特務部隊”の総大将に討ち取られた話や兄上が”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の”筆頭”で、”鉄血宰相”の指示によって内戦の状況を調整していた疑いがある話も既にレン皇女殿下から伺っている。」

言い辛そうな表情をしているエマに対してユーシスは僅かに辛そうな表情で答え

「その………レン皇女殿下の話だとユーシス君はリィン特務准将に対して恨んでいるどころか、感謝しているって言っていたけど………」

「ユーシス君は本当にリィン特務准将の事を恨んでいないのかい?その……もし、”Ⅶ組”が”特務部隊”の指揮下に入る事になれば、家族の仇である彼の下で戦わないといけない事になるけど……」

「――ああ。父も兄上も当然の報いを受けただけで、俺がその事に対して二人を討ち取ったリィン特務准将を恨むのは筋違いだ。………俺に限らず、エレボニアの民達もリィン特務准将に感謝しているだろうな。リィン特務准将は内戦で自分達を苦しめ続け、挙句の果てにはメンフィルとの戦争勃発の元凶となった父上と兄上を討ち取り、これ以上愚かな真似をしないように阻止してくれたのだからな………」

「ユーシスさん………」

トワとジョルジュの疑問に辛そうな表情で答えたユーシスの様子をアルフィン皇女は心配そうな表情で見つめていた。



「……皇女殿下。レン皇女殿下の説明によりますと皇女殿下はアルバレア公が雇った猟兵達がユミルを襲撃した際に貴族連合軍の”裏の協力者”の一人であったアルティナという少女に拉致され、カイエン公の下へと連れて行かれ、その結果”パンダグリュエル”に幽閉されていたとの事ですが、皇帝陛下達は”パンダグリュエル”に幽閉されていなかったのですか?」

その時重苦しい空気を変える為にアルゼイド子爵はアルフィン皇女に質問をした。

「はい。お父様達は別の幽閉場所に幽閉されているとの事です。」

「何で貴族連合軍は、アルフィン皇女だけ”パンダグリュエル”に幽閉したの?」

「わたくしだけが”パンダグリュエル”に幽閉されたのは貴族連合の……カイエン公の狙いだったそうです。内戦が始まって占領した地域にわたくしが顔を出して声をかける……そうする事で民の反発を抑え込もうとしているのでしょう。」

「……それは…………」

「チッ、皇族を味方にしている事で自分達に”大義”がある事を民達に知らしめる為か……!」

「殿下を傀儡にし、利用するなど不敬にも程があるぞ……っ!」

「兄上………」

フィーの疑問に答えたアルフィン皇女の答えを聞いたオリヴァルト皇子やトヴァル、ラウラは表情を厳しくし、ユーシスはカイエン公の考えに同意し、アルフィン皇女を利用しようとしていたと思われる今は亡きルーファスの顔を思い浮かべて辛そうな表情をした。



「ですが皇女殿下には失礼になりますが、皇女殿下が”パンダグリュエル”に幽閉されていた事によって、皇女殿下は”パンダグリュエル”を占領したメンフィル帝国によって拉致され、その後メンフィル帝国の提案に応じたリベール王国に保護されて皇女殿下が皇帝陛下の名代として和解調印式に出席し、メンフィル帝国との戦争を”和解”という形で終結させ、メンフィルの監視下という形ですがこうして無事に戻って来られたのですから、皇女殿下が”パンダグリュエル”に幽閉されていた事は不幸中の幸いだったかもしれませんわね。」

「シャロン!」

シャロンの指摘を聞いたアリサは声を上げてシャロンを睨み

「………アルフィン。”パンダグリュエル”で君は先程の特務部隊の一員の中にいたフォルデ特務大佐に捕縛されたとの事だが、”パンダグリュエル”での幽閉場所で捕縛されたのかい?」

「いえ……”パンダグリュエル”から脱出しようとしたルーファスさんや、”帝国解放戦線”の幹部、後は結社の使い手の方と僅かな数の護衛兵達と共に脱出用の飛行艇がある格納庫に連れられた際、既に先回りしていたレン皇女殿下やリィンさん達によってルーファスさん達が討たれ、その後護衛兵の中に紛れ込んでいたフォルデ特務大佐に捕縛されたのです。」

「ええっ!?ル、ルーファスさんどころか、”帝国解放戦線”の幹部や”結社”の使い手も一緒だったんですか!?」

「ちょっと待って……ルーファス卿が”パンダグリュエル”で討たれたという事はルーファス卿と一緒にその場にいた”帝国解放戦線”の幹部や結社の関係者も同時に討たれた可能性が高いって事じゃない!」

「……皇女殿下。お辛い事を聞くようで申し訳ませんが、ルーファス卿以外に誰が討たれたのでしょうか?」

オリヴァルト皇子の質問に答えたアルフィン皇女の答えを聞いたエリオットは驚き、ある事に気づいたサラは血相を変え、クレア大尉は真剣な表情でアルフィン皇女に訊ねた。



「……スカーレットという名前の眼帯の女性がエリゼさんとセレーネさんに、ヴァルカンという名前の大柄な男性がレン皇女殿下に討たれましたわ………」

「ええっ!?レン皇女殿下達が”帝国解放戦線”の幹部の”S”と”V”を!?」

「教官達の加勢とオレ達が全員で協力してようやく退ける事ができたあの二人をレン皇女殿下達は僅かな人数で討ち取ったのか……」

「”S”と”V”が討ち取られたという事は”帝国解放戦線”の幹部クラスは”C”を除けは全滅したという事になりますね………」

「フン……”G”同様ロクな死に方はせんと思っていたが、エレボニアではなく、エレボニアの戦争相手であったメンフィルに討ち取られるとは皮肉な話だな。」

「というか、温厚な性格に見えるセレーネお嬢さんやエリゼお嬢さんまで帝国解放戦線の幹部を殺ったなんて、正直信じられないぜ……」

「最低でも”執行者”クラスと推定されている”殲滅天使”や”竜”のセレーネって人はまだわかるけど、軍人でもないエリゼって人まであの”S”を討ち取るなんて、かなりの実力を持っているみたいだね~。」

(……ま、エリゼの”師匠”を考えたら、そのくらいできてもおかしくないわよね。)

(エリゼちゃんはよりにもよって、あのエクリアさんの愛弟子だそうですものねぇ?)

アルフィン皇女の説明を聞いたアリサは驚き、ガイウスは重々しい様子を纏って呟き、クレア大尉は真剣な表情で考え込みながら呟き、ユーシスは鼻を鳴らした後静かな表情で呟き、トヴァルは疲れた表情で呟き、興味ありげな表情で呟いたミリアムの言葉を聞いたシェラザードは疲れた表情で溜息を吐き、アネラスは苦笑していた。

「なるほどね………”殲滅天使”が今回の戦争によってあのバンダナ男がメンフィルに憎悪を抱いているって言っていたけど、その憎悪の原因は”帝国解放戦線”の幹部達が討ち取られた件に対する”敵討ち”でしょうね………」

「あ………」

「そう言えばレン皇女殿下はそのような事を言っていたな………」

セリーヌの言葉を聞いたエマは呆けた声を出し、ラウラは複雑そうな表情で呟いた。



「……皇女殿下。結社”身喰らう蛇”の使い手は何という名前の方がレン皇女殿下率いるメンフィル帝国軍の部隊に討ち取られたのでしょうか?」

「いえ、結社の方は結社の方が戦った相手との戦闘の際に、その相手の方の攻撃によってできたパンダグリュエルの穴から空へと飛び出した後ペテレーネ神官長やレン皇女殿下が扱っていた転移魔術のような方法で消えましたから、恐らく結社の方は死んでいないと思いますわ。……それとその方とは会う機会もなく、名前も伺っておりませんので、その方が誰なのかは申し訳ございませんがわたくしはわかりません。」

「せ、”戦闘の際に、相手の攻撃によってできたパンダグリュエルの穴”って………」

「間違いなくその結社の関係者と戦った人物は凄まじい使い手だろうね……」

「生身で戦艦に穴を空けるなんて非常識な………」

シャロンの質問に答えたアルフィン皇女の答えを聞いたトワは信じられない表情をし、ジョルジュは不安そうな表情で呟き、マキアスは疲れた表情で呟いた。

「……皇女殿下。レン皇女殿下の説明によりますと皇女殿下がパンダグリュエルにてメンフィル軍によって捕縛された後、メンフィル軍の戦艦の貴賓室に軟禁され、その後皇女殿下が捕縛されたその日の夜の内にリベール王国に移送され、和解調印式まではリベール王国の王城―――グランセル城に滞在されていたという話も真実でしょうか?」

「それと軟禁されている際、メンフィル帝国は皇女殿下に危害を一切加えず、また皇女殿下と接触したメンフィル帝国の関係者はリウイ皇帝陛下とペテレーネ神官長、そしてエリゼさんのみとの話も真実でしょうか?」

「はい。全て御二方の仰る通りですわ。」

「最初から期待していなかったが、”殲滅天使”が俺達に語った事に偽りはなかったようだな………」

「そうね。メンフィル帝国のアルフィン皇女殿下に対する待遇で偽りがあったら、和解条約内容を少しでもマシな内容に変更できる方便が作れたかもしれなかったしね。」

「ハハ、レン君に限って、それだけは絶対にありえないよ。」

アルゼイド子爵とクレア大尉の確認に頷いたアルフィン皇女の答えを聞いて複雑そうな表情で呟いたトヴァルの言葉にサラは頷き、オリヴァルト皇子は苦笑しながらトヴァルとサラに指摘した。

「何で”殲滅天使”は絶対に嘘を言っていないって、言い切れるの?」

「以前君達にも説明したが、レン君は13歳という幼さでありながら、あらゆる”才”に長けている。そしてその”才”の中には当然論争や交渉のような外交に関する知識も含まれている。そんな知識を持つ彼女がアルフィンや和解調印式に出席した他勢力の人達に確認すればすぐにわかり、その結果メンフィル帝国が少しでも不利になるような嘘をつくと思うかい?」

「そもそも今回の戦争の結果はメンフィルが多くの有利な条件をエレボニアに承諾させて和解するという”メンフィルにとって最高の形”で終わったのですから、今更その結果を少しでも変更させるようなミスをたった一人で私達の反論を全て封じ込める事ができる程論争のような才にも長けているあのレン皇女殿下がするなんて、ありえないかと。」

「それは…………」

フィーの質問に対して答えたオリヴァルト皇子の話とシャロンの推測を聞いたジョルジュは複雑そうな表情をし、他の者達もそれぞれ辛そうな表情や複雑そうな表情で黙り込んでいた。


「えっと……先程から気になっていたのですけど、お二人がアリシア女王陛下とダヴィル大使閣下の依頼を請けて、アルフィン皇女殿下の護衛を新たに担当する事になった遊撃士の方達ですか?」

「あ、そう言えばまだ名乗っていなかったね。私の名前はアネラス・エルフィード。ランクはBで、レンちゃんから既に説明があった通り、私とシェラ先輩が内戦終結までの間皇女殿下の護衛を担当する事になったから、よろしくね~。」

「ちなみにアネラス君はカシウスさんが修めている剣術である”八葉一刀流”の創始者にして、カシウスさんの師匠でもある”剣仙”ユン・カーファイの孫娘なんだよ。」

「ええっ!?あのリベールの英雄の!?」

「アネラス殿があの”八葉一刀流”の………という事はアネラス殿も”八葉一刀流”の剣士なのですか?」

トワの疑問に答えたアネラスの自己紹介に続くようにアネラスの事を補足したオリヴァルト皇子の説明を聞いたエリオットが驚いている中ラウラは興味ありげな表情でアネラスに訊ねた。

「うん。まだまだ修行中の身だけどね。」

「ユン殿から孫娘がリベールで遊撃士を務めている話は聞いていたが、そなたがユン殿の話に出て来た人物だったとは………フフ、このような形で邂逅する事になるとはこれも女神による導きかもしれぬな。」

「ふえ……?子爵閣下はお祖父(じい)ちゃんと会った事があるんですか?」

アルゼイド子爵の話を聞いたアネラスは不思議そうな表情でアルゼイド子爵に訊ねた。

「”剣仙”ユン・カーファイ殿。そなたの祖父にして、”八葉一刀流”を開いたあの御老人とは面識があってな。何度か手合わせを願ったこともあるくらいだ。」

「ええっ!?あ、あのお祖父ちゃんと!?そ、その……失礼ですが勝敗はどうなったんですか?」

アルゼイド子爵と祖父の関係に驚いたアネラスは興味ありげな様子でアルゼイド子爵に訊ねた。

「いや、決着はつかなかった。互いの理合いが心地よくて存分に斬り結んでいたらいつも時間が過ぎてしまう。」

「父上と互角……カシウス卿のように武の世界は広いのですね。」

「あ、あはは……まさかあのお祖父ちゃんと互角だなんて、さすがはエレボニア最高の剣士にして”光の剣匠”と名高い子爵閣下ですね………」

アルゼイド子爵の話を聞いたラウラが考え込んでいる中アネラスは苦笑していた。



「フフ、それはともかく……”八葉一刀流”―――東方剣術の集大成というべき流派だろう。その理合いの深さと玄妙さ……修めた者が”剣聖”と呼ばれるようになるのも頷ける。ユン殿の剣を受け継ぐそなたもいずれは、”剣聖”と呼ばれるようになるだろう。機会があれば、私もだが(ラウラ)とも仕合ってもらいたいな。」

「父上………アネラス殿との仕合いは私自身から申し込まないと、アネラス殿に失礼ですよ。」

「あ、あはは………私達の”八葉一刀流”と違って、先祖代々受け継がれてきた”アルゼイド流”の伝承者である子爵閣下やラウラちゃんにそこまで評価されるなんて、正直光栄ですね。二人の期待に応える為にも私もリィン君のように、もっと精進しないとね。」

「え………ど、どうしてそこでリィンさんの名前が挙がるんですか?」

「まさかリィン様も”八葉一刀流”の剣士なのですか?」

アルゼイド子爵の話を聞き、ラウラと共に苦笑しながら呟いたアネラスの言葉を聞いたエマは呆けた声を出した後不思議そうな表情で訊ね、ある事に気づいたシャロンはアネラスに訊ねた。

「ええ、リィン君もお祖父ちゃんから”八葉一刀流”を教わりましたから、リィン君は私にとっては弟弟子に当たります。」

「リィン特務准将殿も”八葉一刀流”の剣士なのですか……」

「リィンの扱っている剣技にはアネラスを含めた”八葉一刀流”の剣士達が扱っている剣技もあったから、何となくそんな気はしていたが………やっぱり、リィンも”八葉一刀流”の剣士だったか。」

「……アネラス、リィン特務准将の伝位はどれに当たるのかしら?バリアハートで彼と戦った時、アリオスさんの奥義の一つである”風神裂波”まで使ってきたわよ。」

アネラスの答えを聞いたラウラとトヴァルは複雑そうな表情で呟き、サラは真剣な表情でアネラスに訊ねた。



「ハアッ!?アリオスさん―――”風の剣聖”の奥義を!?」

「えっと………リィン君から聞いた話だと”IBC”による資産凍結がされた頃あたりにお祖父ちゃんから”中伝”を認めてもらっていたそうですけど、カシウスさんは今のリィン君の実力は正直”皆伝”でもおかしくないって言っていました。」

「ほえっ!?”IBC”による資産凍結がされた頃って、まだ2ヵ月前くらいじゃん!」

「僅か2ヵ月で”皆伝”―――”剣聖”クラスに成長するなんて、常識ではありえない成長速度ですね………」

「多分だけど、そんなありえない成長速度は今回の戦争による経験が一番関係しているでしょうね。」

「そしてその経験の中には兄上との戦いも含まれているだろうな………」

「ユーシス…………」

サラの問いかけを聞いたシェラザードが驚いている中リィンについて答えたアネラスの情報を聞いたミリアムは驚き、クレア大尉は真剣な表情で考え込み、目を細めて呟いたセリーヌに続くように重々しい様子を纏って呟いたユーシスをガイウスは辛そうな表情で見つめていた。

「あの……アネラスさん。リィンさんからリィンさん自身に何らかの特別な”力”が宿っている事について何か聞いていませんか?バリアハートで”力”を解放し、変貌したリィンさんの様子や教官達を圧倒した戦いを考えるとそうとしか考えられないのですが………」

「そ、そう言えば……バリアハートでも髪の色や瞳が変わったわよね……?」

「ん。多分だけど、あの”力”の解放によって、”気功”や”戦場の叫び(ウォークライ)”のように一時的に身体能力が爆発的に強化されたと思う。」

「”気功”……そう言えば”泰斗流”を修めているアンも”気功”が扱えて、その”気功”によって身体能力が一時的に上昇するとの話を聞いた事があったね。」

「あ………今思い出しましたけど、”パンダグリュエル”でルーファスさん達と戦う直前にリィンさんの髪と瞳の色が変わりましたわ………」

エマの質問を聞き、かつての戦いを思い出したアリサの言葉にフィーは頷き、ジョルジュは静かな表情で呟き、アルフィン皇女は呆けた表情で呟いた。



「う、う~ん……そんな話は今初めて聞いたから、悪いけど私もその件についてはわからないよ。」

「ハア……まさかそう言う所もエステルと似ているとはね………―――あたしの名前はシェラザード・ハーヴェイ。アネラスと一緒に内戦終結までの間のアルフィン皇女の護衛を担当する事になったわ。ちなみにランクはAよ。」

「え、A級正遊撃士……!」

「遊撃士の中でも一番上のランクだったサラ教官と同じランクじゃないですか!」

「ま、厳密に言えば”A級”は一番上じゃないけどね。それにしてもあんたとアネラスが皇女殿下の護衛を担当する事になったのはちょっと驚いたわ。今回の依頼内容を考えるとA級は担当させると思っていたけど、あたしはA級の中でも荒事関連を率先して引き受けている”重剣”かそこのバカと違って思慮深い”方術使い”あたりが担当すると思っていたわ。」

「ぐっ……今回の戦争勃発の件があるから、反論できねぇ………」

シェラザードがA級正遊撃士である事を知ったエリオットとマキアスは驚き、マキアスの言葉に苦笑しながら答えた後に口にしたサラの推測を聞いたトヴァルは唸り声をあげた。

「……ま、色々と理由はあるけど、あたしとアネラスが選ばれた理由の一つとしては護衛対象の性別と同じだから護衛する上で色々と都合がいいからよ。」

「……なるほどね。」

「同じリベールの女性の遊撃士ならエステルとミントもいるが……何でエステル達は皇女殿下の護衛担当に選ばれなかったんだ?エステルはS級正遊撃士候補の中でも筆頭候補で、ミントはその次の候補の上、エステル達は”英雄王”を含めたメンフィルの上層部とも親しい仲だし、オリヴァルト殿下とも親しい仲なんだから、今回の護衛依頼はエステル達が一番うってつけなんじゃねぇのか?」

シェラザードの話を聞いたサラが納得している中、ある事が気になっていたトヴァルは不思議そうな表情でシェラザードに訊ねた。



「あの娘達は和解調印式には全く関わっていない上他にも複雑な事情もあるから、和解調印式の安全保障として王室親衛隊と一緒に和解調印式の警備を担当していたあたしとアネラスに白羽の矢が立ったのよ。一応あたしもメンフィルの上層部の一人と親しい仲だから、それもあたし達が選ばれた理由でしょうね。」

「ほう……?シェラ君とアネラス君が和解調印式の安全保障を担当していたのか……」

「その事にも驚きましたが、シェラザードさんがメンフィル帝国の上層部の一人と親しい仲ってどういう事なんですか?」

「あ~、そう言えば”嵐の銀閃”って、”闇の聖女”唯一の弟子だったね~。」

「なっ!?”闇の聖女”って言ったら……!」

「異世界の宗教の一つ――――”混沌の女神(アーライナ)”教の神官長にして”英雄王”の側室の一人ね。という事はやっぱりあんたも魔術を扱えるのね?」

シェラザードの説明を聞いたオリヴァルト皇子は目を丸くし、トワの疑問に答えたミリアムの話を聞いたマキアスは驚き、セリーヌは真剣な表情でシェラザードに訊ねた。

「ま、正確に言えば師匠の弟子はあたし以外にもいるけどね。昔師匠―――ペテレーネ神官長に弟子入りする機会があってね。その頃自分の力不足を感じていたから、熱心に弟子入りを頼んだら承諾してもらったのよ。」

「ちなみにシェラ君が主に扱う魔術は竜巻や雷を発生させる魔術である事から彼女は”嵐の銀閃”の異名で呼ばれているのさ。」

「魔術で竜巻や雷を………」

「あ、”嵐の銀閃”…………」

「竜巻に雷……どちらも”嵐”に関わる天候でシェラザードさんは銀髪ですから、まさに異名通りですね。」

「というか生身でアーツも使わずに竜巻や雷を発生させるなんて、非常識な……」

「フン、言葉通り”歩く自然災害”だな。」

シェラザードの説明に続くように答えたオリヴァルト皇子の説明を聞いたガイウスは興味ありげな表情でシェラザードを見つめ、エリオットは驚き、エマは静かな表情で呟き、マキアスは疲れた表情で呟き、ユーシスは鼻を鳴らして呆れた表情で呟いた。

「あたしの魔術なんて、異世界組と比べれば大した事ないわよ。異世界組が扱う魔術―――いえ、”大魔術”の中にはそれこそ隕石を呼び寄せたり、”列車砲”の砲撃を遥かに超える威力の超越爆発を起こすといったその魔術一発で軍隊どころか”国”すらも壊滅に追いやれるような”戦略級”の魔術があるのよ?」

疲れた表情で答えたシェラザードの話を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「隕石を呼び寄せたり、あの”列車砲”の砲撃を遥かに上回る爆発を起こすって……!」

「その魔術一つで戦況が変わるのですから、まさに言葉通り”戦略級”の魔術ですわね。」

「異世界ではそんなとてつもない威力の魔術が存在しているのだから、当然民達の生活等にも魔術を扱った技術―――”魔法技術”も存在しているでしょうね……」

「……そうね。恐らく異世界は科学技術の代わりに魔法技術が盛んなのでしょうね。」

アリサは信じられない表情で呟き、シャロンは静かな表情で呟き、不安そうな表情をしているエマの推測に頷いたセリーヌは目を細めた。



「話を戻すけど……―――あたし達はあくまで”中立勢力として”皇女殿下の護衛を担当しているわ。だから、あたし達は貴方達に協力しているトヴァルと違って貴方達の”味方”ではない事を先に言っておくわ。」

「へ………」

「それってどういう意味。」

「シェラザード………」

「………………」

「シェ、シェラ先輩……何もわざわざそんな事を言わなくても……」

真剣な表情で答えたシェラザードの説明を聞いたエリオットは呆けた声を出し、フィーは真剣な表情でシェラザードを見つめ、シェラザードの言っている事がどういう事かを理解していたトヴァルとサラはそれぞれ複雑そうな表情をし、アネラスは不安そうな表情でシェラザードに指摘した。

「―――アネラス。今回の依頼内容はこれ以上状況を悪化させない為である事も理解しているわよね?だからこそ、トヴァルの件で遊撃士は自分達の味方と思っているエレボニア帝国の勢力である彼らにもあたし達の”立場”をハッキリさせておく必要があるわ。」

「それは………」

そしてシェラザードの正論に反論できないアネラスは複雑そうな表情で答えを濁した。

「シェラ君。君達が”中立勢力として”アルフィンの護衛を担当していて、私達の味方ではないとは一体どういう意味なんだい?」

「既にレンからも説明されていた通り、あたしとアネラスはアリシア女王達から、つい最近まで戦争していたメンフィルと共に行動する事になったアルフィン皇女殿下の身の安全を保証する為と”特務部隊”――――メンフィル帝国が和解条約の第五条に付与されている緩和条件の実行を行っているかどうかの確認の為にアルフィン皇女殿下の護衛を任されたわ。そして条約内容を実行しているかどうかの確認の中にはメンフィルだけでなく、当然エレボニアも含まれている事はわかるでしょう?」

「そ、それは…………」

「………つまり貴女方は我々が条約内容の対象者である皇女殿下に危害―――いえ、皇女殿下をメンフィルから奪還して、どこかにお逃がしする事を防ぐ為にも”特務部隊”だけでなく、我々エレボニアの動向も監視しているという事ですか。」

オリヴァルト皇子の質問に答えたシェラザードの説明を聞いたマキアスは不安そうな表情で答えを濁し、クレア大尉は真剣な表情でシェラザードを見つめた。



「ハッキリ言ってしまえばそうなるわね。今回の戦争の和解条約はエレボニアにとって不利な条件ばかりなんだから、その状況を覆す為にも後の事も考えずに皇女殿下を”特務部隊”の下から連れ出して、状況を膠着させるような事をして、その結果エレボニアが和解条約が守らない事によって、最悪両帝国の戦争が再度勃発する事は和解調印式に調印した中立勢力として絶対に阻止すべき事なのよ。」

「………………」

「我らは決してそのような浅はかな行動はしませんし、今回の戦争は我が国に全面的な非があり、殿下達はメンフィル帝国との和解を心から望んでいるのですからシェラザード殿達が推測しているような愚かな真似は絶対にしません!」

シェラザードの説明を聞いたアルフィン皇女が辛そうな表情で黙り込んでいる中ラウラが反論した。

「まあ、あたし達も貴方達がそんな事はしないと思っているけど…………今回遊撃士の一人であるトヴァルがユミルの件を含めてエレボニア寄りな行動ばかりしたから、貴方達に改めて遊撃士は”中立の立場”である事を教える為にも宣言させてもらったのよ。」

「なるほどね……確かによくよく思い返してみたら、最近のそこのバカの行動は”中立の立場”である遊撃士としての行動じゃないわね。」

「ぐっ……というかバリアハートの件も含めてお前さん達に手を貸したのに、サラが俺の事を責めるのは間違っていねぇか……?」

シェラザードの答えに納得したサラにジト目で見つめられたトヴァルは唸り声を上げた後疲れた表情で呟いた。

「―――それとトヴァル。ユミルの件もそうだけど、皇女殿下の護衛任務は規約による優先で貴方には皇女殿下の護衛から外れてもらったわよ。」

「規約による優先……本来は正遊撃士と準遊撃士が同じ任務内容を希望した際、どちらを優先させるかの規約か………まあ、俺はユミルの件もある上D級に降格する事が内定しているから、A級とB級のお前さん達に皇女殿下の護衛任務を取り上げられるという”異例”もありえて当然だな………」

「すみません、トヴァル先輩……」

「トヴァルさん………」

シェラザードの説明を聞いて疲れた表情で肩を落としているトヴァルの様子を見たアネラスは謝罪し、アルフィン皇女は辛そうな表情で見つめていた。



「君達が同行している事によってメンフィル帝国の監視下にいるアルフィンの身の安全が約束されているだけでも私達エレボニアとしても十分ありがたいよ。―――それよりも、シェラ君、アネラス君。レン君の話によるとアルフィンやアリシア女王陛下達は”ハーメル”の件で”空の女神”と邂逅したとの事だが……」

「あー……そんな事もあったわね。確かに”空の女神”本人だったわよ。”空の女神”と一緒に現れた”空の女神”の”眷属”である2年前の竜事件の時の竜―――レグナートも”空の女神”本人である事を証言していたわ。」

「ちなみに”空の女神”は母親であるフィーナさんに物凄く似ていましたよ。」

「そうか……予想はできていたが”空の女神”はフィーナさん似か……」

「”レグナート”……確か2年前の”リベールの異変”が起こる少し前に起こった”竜事件”で現れた”空の女神”の”眷属”の竜だったわね。」

「”空の女神”の”眷属”……」

「竜と一緒に現れるなんて”空の女神”は一体何を考えていやがるんだ?竜なんてとんでもない存在が和解調印式の場に―――グランセル城に姿を現せば、グランセルは大騒ぎになる事は誰でもわかる事だろうに……」

オリヴァルト皇子の質問に対してシェラザードは疲れた表情で答え、アネラスは苦笑しながら答え、二人の答えを聞いたオリヴァルト皇子は静かな表情で呟き、考え込みながら呟いたセリーヌの言葉を聞いたガイウスは呆け、トヴァルは疲れた表情でエイドスの考えについての疑問を口にした。

「……恐らく”空の女神”が竜と共に現れた理由は遥か昔より現代まで生き続けてきた”生き証人”である竜に自身が”空の女神”である事を証明してもらう為に、竜と共に現れたかと。」

「あ………っ!」

「そう言えば”空の女神”はどんな容姿をしているかとかは僕達は何も知らないね……」

「ええ……七耀教会にある女神像も教会に伝わっている古い文献や伝承を参考にして創られた物だから、”空の女神”の正確な姿や容姿は七耀教会も知らないはずよ。」

シャロンの推測を聞いたトワは目を見開いて声を上げ、不安そうな表情で呟いたジョルジュの言葉にサラは静かな表情で頷いて答えた。



「実際会ってみるとまさに彼女が本物の”空の女神”である事が思い知らされましたよ……何せ”空の女神”が”ハーメル”の件でエレボニアに対して怒りを見せた瞬間突然快晴だった天候が雷雲が現れて今にも落雷が落ちそうな天候になった上、グランセル城に小規模な地震まで起こりましたから。」

「レグナートの説明によると”空の女神”は常にゼムリア大陸の力の源である”七耀脈”自身から力を与えられ続けられている影響で、”空の女神”が”怒り”を見せればゼムリア大陸自身の自然現象もそんな風に変わるそうよ。」

「ええっ!?”空の女神”が怒りを見せただけでゼムリア大陸自身の自然現象が変わる!?」

「しかも”七耀脈”自身から常に力を与えられ続けられているという事は、”ゼムリア大陸自身”が”空の女神”に味方しているという事でしょうね………」

「ええ。”空の女神”がその気になれば、地震や火山の噴火、津波や土砂崩れと言った”天災”を人為的に起こせるでしょうね。」

「な、何ソレ~!あらゆる意味で反則過ぎる存在だよ~!」

「非常識にも程があるぞ!?」

「フン……そんな事よりも”空の女神”がエレボニアに対して怒りを抱いたという事実の方が重大だぞ。」

アネラスとシェラザードの説明を聞いたアリサは驚き、不安そうな表情で呟いたエマの推測と目を細めて呟いたセリーヌの推測を聞いたミリアムとマキアスは疲れた表情で声を上げ、ユーシスは鼻を鳴らした後厳しい表情で指摘した。

「うん……特に”空の女神”を崇めている”七耀教会”は今後エレボニアの窮地に協力してくれない可能性があるだろうね……」

「協力してくれないだけならまだマシな方だぜ。下手をすればエレボニア全土にある七耀教会の支部を全て撤退させることもありえるぞ。」

「それどころかエレボニアの民達自身が暴動を起こすかもしれないな………」

「はい……エレボニアを含めてゼムリア大陸の多くの人々が信仰している宗教は七耀教会―――”空の女神”ですから、当然エレボニアが”空の女神”の”怒り”を買った事をエレボニアの民達も知れば民達の不満や怒りはエレボニア皇家や帝国政府に向けられる事になるでしょうね……」

「ハハ………少なくてもエレボニアは内戦が起こっている今の状況よりも酷い状況になる事は間違いなしだろうね………」

「そ、そんな………」

「そのような事が起こる事を防ぐ為にも”ハーメルの惨劇”を公表する前に何とか”空の女神”の”怒り”を鎮める方法を考えなければならないな……」

「しかも公表するタイミングは内戦が終結してから1ヵ月以内だから、考える時間もそんなに残されていないから、できれば内戦が終結するまでに”空の女神”の怒りを鎮める方法を考えた方がいいだろうね。メンフィル主導によって内戦が終結させられるんだから、メンフィルは内戦を終結させる為にそんなに時間をかけるつもりはないと思うし。」

ユーシスの指摘に悲しそうな表情頷いたトワの言葉に続くように厳しい表情で呟いたトヴァルや重々しい様子を纏って呟いたアルゼイド子爵やクレア大尉の推測を聞いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で肩を落とし、エリオットは悲痛そうな表情をし、ラウラは重々しい様子を纏って呟き、フィーは真剣な表情で呟いた。



「―――その件についての心配は無用よ。”空の女神”の怒りを知ったアルフィン皇女殿下がその場で”空の女神”に”ハーメル”の件について謝罪して、”空の女神”にエレボニアが”ハーメル”の件を許してもらう為の償いの機会を与えてもらっているわ。」

「へ………」

「今のシェラ君の話は本当かい、アルフィン?」

その時シェラザードが意外な答えを口にし、シェラザードの話を聞いたマキアスは呆けた声を出し、オリヴァルト皇子は目を丸くしてアルフィン皇女に訊ねた。

「はい。ですが、”ハーメルの惨劇に対するエレボニアの償いを示す条件”として女神様が口にした5つの条件をエレボニアが守る事を誓う事を宣言しましたわ。」

「”空の女神”に与えられた”ハーメルの惨劇に対するエレボニアの償いを示す条件”………」

「な、何だか不安を感じる言葉だね……」

「”空の女神”の怒りを鎮める為なんだから、メンフィルの時みたいにエレボニアが更に衰退するような条件なんじゃないの?」

アルフィン皇女の説明を聞いたガイウスは考え込み、エリオットは不安そうな表情で呟き、フィーは真剣な表情で呟いた。

「………皇女殿下。”空の女神”に与えて頂いたという”ハーメルの惨劇”に対する”エレボニアの償い”とはどのような内容なのでしょうか?」

「それは―――――」

そしてアルゼイド子爵の問いかけにを聞いたアルフィン皇女はアリサ達にエイドスに誓った5つの償いの条件を答えた――――――







 
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