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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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43話 ア・バオア・クーの戦い③ 3.13

* ジェリド艦隊 旗艦内 艦橋

ジェリド、マウアー、カクリコン、エマと並んで戦況を眺めていた。
既に地球落下軌道へ乗ったア・バオア・クーは僅かな抵抗にあっているだけであった。

誰の目でも見ても分かる。絶望的な程地球を壊すだろうと。
ジェリドは半包囲するシロッコ艦隊の前、ア・バオア・クーが目の前を通過する形で航行していた。

位置的にネオジオン、アクシズ分艦隊、カラバとも接触はない。唯一危惧するとなると後方より差し迫っているロンド・ベル本隊であった。

ア・バオア・クーの落下に逆らうように光が見えた。その光は緑白く、そして赤くぼやけても見える。
その光が発する声が何故かジェリドには聞こえた。助けて・・・死にたくない・・・生きたい・・・。

ジェリドは首を振って、幻聴をかき消そうとした。その様子をみてマウアーは心配そうに声を掛けた。

「どうしたの?ジェリド司令・・・」

ジェリドは顔を手で隠し、こめかみを指で掴む。

「いや・・・何か幻聴が聞こえてな・・・」

その答えにカクリコンがジェリドに言う。

「いいから、何でもいいから話せ、ジェリド」

カクリコンの屈託ない言い方に優しさを感じ、ジェリドは素直になった。

「あのア・バオア・クーから声が、いや・・・これは悲鳴だ。あの隕石に何かが集まっている」

ジェリドの言にエマがため息を付く。

「はあ、貴方は一番優れているのよ、この中で。そんな思いつきも情報ない中で無視はしないわ、言って」

ジェリドはエマにも押されて、続けて話した。

「因果関係からすると、あのア・バオア・クーが媒体となって、地球の意思を、地球に住まうものの生命の意思を体現しているのだと思う。その悲鳴だ」

3人とも無言だった。ジェリドは続けた。

「俺らが落とした隕石のダメージは大きい。あのア・バオア・クーが落ちれば止めだ。地球の人の多くが脱出できずに留まっている。半数は逃げることはできても、移動さえ難しい人たちは命運を共にするしかない」

カクリコンは歯を食いしばっていた。犠牲の上にとかいうキレイごとを彼は受け入れるに我慢が足りなかった。カクリコンは3人を前に振り返り、艦橋を後にしようとした。それをジェリドは敢えて悟るように尋ねた。

「何処へ行こうというのは聞くまでもないな」

カクリコンはジェリドの声に一瞬立ち止まるが無言で出て行こうとした。それをジェリドがカクリコンへ語り掛けた言葉で彼は立ち止まった。

「お前の気持ちは良く分かる。これはオレたちの贖罪だ。共に行こう」

カクリコンは振り返り、エマとマウアーを見た。2人共頷いていた。

「お前ら・・・」

エマが少し笑みを浮かべた。

「フフ・・・軍の命令だと言っても、私たちのしたことが払拭はされないわ」

エマがそう言った後、マウアーも続く。

「今更だけど、地球はやっぱり大事だもの。守らなきゃね」

ジェリドがカクリコンの前に立ち、横切って肩を叩く。

「お前の我慢、知っていた。シロッコからは考えて動けと言われた。それはオレ含めて自己を活かせとうことだろうよ。この期に及んで軍規違反など取るに足らんだろう。明日連邦があるかも分からんからな」

ジェリドはそう言って、先に艦橋を出ていった。その後を追って、カクリコン、マウアー、エマと続いた。


* ネオジオン アクシズ分艦隊 サダラーン艦橋

艦長席にユーリー提督、その隣に司令席が設けられ、マハラジャ提督が鎮座していた。
その艦橋の外側、窓側に近い位置でジュドーとプルツーが並んで立っていた。

マハラジャは席を立ち、その2人に近づいて行った。

「君らの話は聞いた。残念だった。彼の行動はそれは未来の宇宙移民の為の事業だった。しかし、彼の意思はそのまま事業として形は残っている」

2人とも無言だった。マハラジャは話し続けた。

「イーノ君と言ったか。彼が月とサイドとの商談を続けてプラント事業を引き続き担っていた。君らの戻れる場所を維持するためにな」

ジュドーは俯いて歯を噛みしめていた。プルツーは目に涙を溜めていた。

「私ら、グレミーもそうだが、暗い光の当たらぬ空間でいつかはこの青い星に戻ろうと熱望していた。それが今は風前の灯火だ。ここに来て私は思わなんだ。想いは儚いものだと」

ジュドーはマハラジャの言葉に初めて言葉を開いた。

「じいさん。オレたちは何も諦めてなんかいない!見ろ!」

ジュドーが地球を指差す。

「あれが諦めている姿なのか!違うだろ!アレは生きたい、まだやれるともがいている姿だ!」

ジュドーの熱意にマハラジャは圧倒されていた。

「想いが儚いと思うのはそれがじいさんの思い込みだ。やるか、やらないかだ!地球は死にはしない。あの姿を見ればわかる」

ジュドーの話を途中から艦橋に入って来たハマーンが聞いていた。そしてジュドーに近寄ってきた。

「何が思い込みなのかな、ジュドー君」

ハマーンが優しく声を掛けた。ジュドーはハマーンを見て、その質問に答えた。

「あの光、あの意思が奇蹟を起こす。オレには分かるんだ」

その理由を何となく知っていたのはプルツーだけだった。あの時の戦闘でフロンタルを退けて、生き延びれた才能、そしてジオングを動かした力、今のジュドーは今までよりも特別だった。

その力をハマーンも潜在的に感じ取れた。

「(このコは何かを秘めている。いや既に何かを越えてきたのかもしれない)」

ハマーンはジュドーが指摘した地球を見据えた。僅かならが自分でも地球からのメッセージが聞こえない訳ではなかった。それがジュドーには直接的に聞こえているらしい。

「ジュドー君」

ハマーンはジュドーに話しかける。ジュドーはその呼び名に文句をつけた。

「ジュドーでいいよ」

「では、私もハマーンでいい。ジュドー、地球へ一緒に行くかい?」

ハマーンの誘いにジュドーは別の提案をした。

「いや、あちらはどうにかなる。それよりもその後のことが一大事だ」

ハマーンは怪訝な顔をした。

「一大事?地球よりもか?」

ジュドーは頷く。プルツーも顔が引き締まった。

「ああ、オレたちを宇宙の漂流者にした原因。アレこそが地球圏を破滅へ導く。そいつを仕留めにいく」

ハマーンとマハラジャが顔を合わせて、ハマーンがジュドーに尋ねた。

「そいつとは?」

プルツーがジュドーの代わりに言った。

「フル・フロンタル。全ての負の感情を力に変えた悪魔。彼はその力で地球圏を破滅させるつもりです」

マハラジャとハマーンはキョトンとした。初めて聞く名だった。そして余りに稚拙な話だった。
しかし2人の目が本気だった。それが真実だという話をプルツーが資料で2人に提示した。

それはゼウスという球体要塞の図面、ジオングの図面とクシャトリアというモビルスーツ、そしてクローンの存在。資料の中にあるシークレットながら名前があるパンドラボックスという代物。
すべてグレミーと一緒にいた時に解析された情報だった。

2人とも資料を目に通し、数値を見て、顔色が悪くなってきた。
ハマーンが声を出し始めた。

「・・・これらが本当のこと。実地の数値でも結果でもジュドーが示したのだな」

「ああ、そうだ」

ジュドーがそう頷くとハマーンが頭に手をやった。

「なら全てが真実として太刀打ちできるのか?奴のテリトリーは全て詰みだぞ。一コロニーの住人を全てダウンできる感応波などどう耐える?」

ジュドーは睨むようにハマーンを見つめた。

「オレならやれる。貴方にもできるはずだ、ハマーン」

ハマーンは唐突な言われように驚愕した。

「なっ・・・私がか?」

「そうだ。生憎このプルツーじゃダメだ」

ジュドーにそう言われたプルツーは俯いた。自分でも非力なことは分かっていた。

ハマーンは手で髪を掻き上げた。ジュドーの言わんとすることは何となく感覚でわかっている。
彼が挑戦するところは常人では耐えれない空域。その向こうを垣間見たことのあるものが耐性があると。彼はその私の力を測ったのかと、その部分も驚いていた。

「・・・今なら誘惑に負けないか・・・」

ハマーンの独り言をマハラジャは聞いていた。

「ハマーン・・・お前は・・・」

マハラジャは先の戦闘でドゴス・ギアへの特攻を思い出していた。見てはいないが戦闘詳報で送られてきていた。ハマーンのキュベレイが戦闘不能に陥ってからの不可思議な現象だ。周囲の話によると発生源はキュベレイにあった。キュベレイより発光した青白いものが味方を一時的に完全防御されたシールドが張り巡らされた。

ハマーンは父に向かい、話し始めた。

「父さま、今ならあの時の様にはなりません。私はその状況を知っております。経験が力になるはずです。彼と独立行動を取る事を許可願えませんか?」

マハラジャは腕を組み、暫く考えていた。今牽制しているシロッコ艦隊に動きはない。有事なときに必要な戦力でもある娘、優秀な部隊指揮官が抜ける穴を彼我でどう補うか。するともう2人艦橋へ入って来た。

「マハラジャ提督、戦況は膠着状態から脱しないか?」

ガルマとイセリナだった。マハラジャは振り返り、敬礼をした。

「これはガルマ様」

ガルマは手を振り、敬意を丁重に断った。

「よしてくれ。最早ザビ家など過去の話だ」

マハラジャは首を振る。

「そうはなりません。この統制はザビ家あってのこと。ゼナ様や幼きミネバ様に担っていただくにはやはり重荷になります。男系の生き残りであるガルマ様に・・・」

「それで秩序が保たれるなら今は道化になろう。して、状況は?」

マハラジャは戦況とハマーンとジュドーの出撃の話をガルマに伝えた。ガルマは暫く考えて、決断を下した。

「わかった。ハマーン、ジュドー。君らは思うように動くがいい」

ジュドーはガルマに言われ、彼の事を知らない為訝しげに見ていた。それについてハマーンは簡単にジュドーに伝えた。

「ガルマ・ザビ様。ザビ家4男で直系唯一の生き残り。シャア・アズナブルと親友で連邦議会ニューヤークを地盤とする議員よ。世界的にも発言力がある」

要するに大人だということだとジュドーは勝手に解釈した。

「ガルマさん、尊重してくれてありがとよ」

ジュドーは余りに偉い人への態度を乱暴にする癖があった。若さ故だとガルマは考え、素直にお礼を受けた。

「ああ、君の行動に私は期待している。勿論応えてくれるんだろうね」

ガルマも若干挑戦的にジュドーに投げかけた。ジュドーはニヤッとした。

「もちろん、世界を救うんだからな。ハマーンを借りていくぜ」

マハラジャはため息を付く。問題の解決が為されないままガルマが決断したことにだった。しかしガルマはそのことについてマハラジャに解決案を下した。

「提督、ハマーンの穴は私が埋める」

マハラジャは驚愕した。ハマーンも手をガルマに指し伸ばそうとし、声を上げようとしたところでガルマが遮った。

「私がこの艦隊の部隊長を務めよう。モビルスーツを操ったことが無い訳ではない。寧ろカラバの運動で秘密裏に何度も前線へ赴いたりもしたものだ」

傍に居たイセリナもガルマの意見に同調した。彼の手並みを妻である彼女が助言をする。

「ええ、主人の腕前は確かだと思います。でなければ、今ここにはおりません。私はその部分も含めて主人に全幅の信頼を置いております」

艦橋内がざわついていた。アクシズはジオンからの鉱物資源基地機能もさることながら、フロンティア開発基地として選民された軍属だった。本国の戦いに参加せず、その風土に培われた自負、自尊があった。

よってマハラジャはカリスマを得て、ハマーンも知られた実力も伴って皆が従っていた。ザビ家を旗頭にしてはいるものの、実戦となればお遊びではない。適材適所に果たしてガルマが合っているのか、そこだけが疑問と不信の種だった。その中でハマーンのナンバー2であるイリアが名乗り出た。

「大変恐縮ですが、ならば私と模擬戦をしていただけますでしょうか?」

仮にこの場にラルとガトーがいた場合、イリア始めとするアクシズの面々は一喝され、教育を施されていただろう、とマハラジャは思った。自身もガルマの実力を見た訳ではないので半身半疑ではあったので積極的には部下の進言を止めはしなかった。

そしてハマーンが口を開く。

「イリア、出過ぎた真似だ」

ハマーンの凛とした声にイリアは萎縮した。

「も、申し訳ございません」

ハマーンは少し笑った。そしてガルマに頭を下げた。

「ガルマ様、部下が大変失礼致しました」

ガルマはその行為に腕を組み、髪を指で絡めていた。

「(余興に付き合ってやらんと、信頼は勝ち取れんな)」

ガルマはそう考えると、イリアの進言を受け入れ、その根拠も付け足した。

「ハマーン、かの者や周囲の動揺など特殊能力が無くとも見て取れる。これにてそれを払拭してしんぜよう。後、皆には詫びねばならない」

ガルマは艦橋のクルーに向かい合った。

「既に本国とは連絡は途絶え、私残す直系のザビ家はミネバを残して行方知れずだ。そんな状態で君たちをアクシズのフロンティアに残し、憂慮しなかったことをまず謝罪する。単に私の力不足であった。済まない」

ガルマは頭を下げた。全クルーがそれに動揺した。ザビ家はマハラジャ以上にカリスマとしては神格だったからだ。

「私は兄のやり方に付いていけなかった。これは私なりの反省である。その為連邦に属し、君らの想いを無にしようとしたようには見て取れるだろう。だが、私は私なりに戦いを連邦に挑んでいた」

マハラジャはガルマの言わんとしていたことを察していた。ガルマは話し続けた。

「戦い方は1つではないこと。それをあの赤い彗星に教えてもらった。私は兵器をなるべく用いず言論、思想によって連邦に戦いを挑むことにしたのだ。連邦議会にジオン派閥を作る。その想いだった。して今日の私がある」

ガルマは一息付き、再び話し始めた。

「しかし努力しようが武力衝突は沈静せず、事態を沈静するまで今日のような有事が起きてきたのだ。時に武力を使わなければならないことはある。そこで今だけはイリアの要望に乗ろう。そして皆はこれからのことを覚悟して欲しい」

ガルマの話に皆が集中して聞いていた。覚悟とはなんだとざわついていた。

「私のジオン派閥も過去のものだ。ジオン公国という政体は無くなり、各個人で思想の判断を求められる時代が間近に来ている。この艦隊も、全ての軍機能も一度解体されるだろう。自分で考えて決断するという責任が1人1人に求められるのだ。そこにはもうマハラジャ提督や私、ガルマというザビ家は君たちの中には存在しない」

クルーの中で悲しい顔や困惑する顔のものが見て取れていた。ハマーンも少し俯いていた。ジュドーは目を丸くし、ガルマを見ていた。

「言われて依存することはとても楽な事だ。そのような状態が今までの悲劇を生んできたことも一理あると私は思う。まずはこのような私を疑う状況の様に万事疑え、そして考えて議論し尽くすのだ。扇動に惑わされることなく人が死なない、殺し合わない社会を作ることを皆が願って考えて欲しい」

ガルマは周囲の反応を見ていた。流石にキツイかなと思うが語らない訳にはいかない。

「無責任だと私のことを思う者もいるだろう。考え方は人それぞれだ。故に私の考えに共感するものはそのまま付いてきて構わない。私個人の意見だが、主義思想で沢山のひとが死んだ。この事を教訓にすることは必要だと思う」

ガルマは話し終えると、イリアに声を掛けた。

「さて、行こうか・・・」

イリアは呆然となっていた。が、ガルマに話し掛けられて我に返った。

「は・・・はい」

イリアはガルマに続き艦橋を出ていった。イリア自身、否艦橋に居たほとんどのクルーがジオン公国に属していて、地球圏に戻ってきたこともジオン公国の為、地球に対する望郷の念の為であった。

その為の多少の血は仕方ないで片づけてしまっていた。そのようなことが日常自然に起きていたので、感覚が狂ってきていたことは否めなかった。誰だってまともに考えれば殺し合いは良くはない。

ガルマはその為には精神的支えなど無くても良いと、寧ろその精神的支柱が今日の殺し合いになっているならばその柱が悪い。建て替えが必要だと言っている。

不安定ながらも安定を求めるのが人の性。アクシズという組織、今はネオジオンと変わったが、それに属する理由は皆が一つの目標に向かうと言えば聞こえが良いがそこで思考停止していないかと問えという意見にいざ受け入れてみたら、イリアも含めて複雑な想いに駆られるひとがほとんどだった。

マハラジャはため息を付く。ガルマという人間を計り損ねたかと。ただの導き手としてジオンを統率していただける存在だと思っていた。勿論、導き手としての役割は彼はするだろうとマハラジャは思った。が、向いている先が我々と異なっていることに事態の難しさを覚えた。

「だからと言って、誰を旗頭に据えて、この難局を乗り切る?」

マハラジャは独り言をつぶやいた。聞こえたのはハマーンとジュドー、プルツーだけだった。
そこでハマーンが話しだした。

「我々の歩む道に住める世界はないのでしょう」

マハラジャはハマーンが自分のつぶやきに対する回答を述べていたのを聞いていた。

「こじんまりとした我々の様な組織を維持したところで世界が、運命が我々を淘汰するに違いない。遅かれ早かれこのままでは我々は滅びる」

マハラジャも同感だった。

「だな。それを皆が苦しみ悩みながら答えをゆっくりと出していくだろう。ガルマ様は厳しいが優しい。投げかけた問題提起の答えでまずは今を棄てろと言い切ったのだからな。それだけでも死路を択ばずに済む」

傍に居たイセリナもマハラジャの意見に賛同した。

「ええ、主人は優しいひとです。その為に家を棄てて、味方を棄てて、己を棄てて迄、自分を律しました。辛かったと思います。しかしそれは後日、その者達の拠り所になる場所、帰れる場所を作るためでもありました」

ハマーンはイセリナの話に反応した。

「それはジオンが負けると想定してのことだったのですか?」

イセリナは首を振った。

「そこまでは主人は考えておりません。争いの中でジオンからの脱落者を拾うためだけを考えていました。対岸の火事のようなスタンスでしたが、両勢力の力が強すぎて介入すらできません」

「ただ世界の片隅で人の本道を説いていたわけか」

ハマーンの言にイセリナは頷く。

「私の住まう北アメリアだけが有事でありながらもティターンズやジオン、連邦にも影響受けずに独自の政体を維持できて、それは皆が安定し幸せそうな日常を送っております。昼間働き、夜は家族との団欒、休みには出掛けて、安心してベッドで休み明日に備えられる。こんな当たり前を宇宙は主義主張で放棄しているのです」

ハマーンは腕を組み深呼吸をする。ジュドーが話に加わった。

「イセリナさんの話、ごく単純なんだ。それをオレらが享受できないことが世界が狂っているんだよ。挙句の果てに・・・」

ジュドーは彼方の宇宙を見つめた。

「そんな大人たちの怨念が世界を壊そうとしているんだ。あのパンドラボックスの力に触れたとき、そう感じた。サイコフレームは大人たちの不満の結晶となってしまう。大人の都合で世界が壊されてたまるものか」

マハラジャはジュドーの素直な意見に弁解の余地が無かった。ハマーンはジュドーを見てクスクス笑っていた。ジュドーがハマーンを何が可笑しいという表情で見た。ハマーンは弁解した。

「いや・・・悪い。私はそんな純粋さが無くなってしまっていたなあとね・・・」

「ハマーンはそうは思わないのか?」

「思いたいのだが、ある部分で大人になってしまったということかな?だからガルマ様の意見も賛同したい気持ちもあるが、そうでない部分もある」

ハマーンはジュドーの傍に居たプルツーを見て話し掛けた。

「君もまだ純粋だと感じる。その心は大事にした方がいい。私みたいに捻くれては多分生き方が窮屈だろうよ」

プルツーは黙って頷く。ジュドーはハマーンに真意を尋ねた。

「そうでない部分とはなんなんだ?」

「周囲を見るといい。クルーで困惑しているものがいるだろう?」

ジュドーは周りを見渡した。確かに面持ちが暗い。

「その者らの為に、私は再びアステロイドベルトに行こうと思う。フロンティア開発だ。あそこにいたことを思い出す。望郷の念があったが、それはそれで幸せだった。世俗から離れた生き方もまた一つだろう」

ハマーンの意見に父マハラジャは同意した。

「ふう、そうだな。希望者で良いのだ。地球に残るもの、我々と共に生きるもの。敢えて考えられないから、だが即座に答えを求める事態ならばそのような選択肢を作っておくのは良いと思う」

プルツーは素直な気持ちを口にしていた。

「みんな・・・優しいな」

ジュドーもそう思った。

「ああ、自分を大事にする前に人を考えている。周囲の困惑ぶりも野心の無い者ばかりだからな。でも自己はいいのか?」

ハマーンはジュドーの意見に再び笑う。

「ハハ・・・、実はこれは私の願いでもあるのだよ。こう見えて私も楽な方に行きたい性でな」

マハラジャは娘の意見に初めて笑った。

「ハッハッハ、そうだな。人は怠惰な生き物だということを思い出したわ。地球を久しぶりに見たことだし、またあの暗い穴倉で細々と生きるのも悪くないな」

ハマーンも頷いていた。マハラジャが想い耽って話した。

「・・・その頃を思えば、こんな忙しい環境よりかは天気のような自然の驚異だけに気を配ればいいだけだからな。また里帰りしたければ皆が一人一人戻ってくれば良いことだ」

するとオペレーターが淡々と2機のモビルスーツの発進を伝えた。

「リゲルグ、イリアとギラドーガ、ガルマ様発進します」

全員が2機の動向を見つめていた。

ガルマは久しぶりの宇宙空間で周囲に気を撒いていた。

「この感覚は久々だ。地面が無い。360度隙だらけだ」

すると、目の前に赤いリゲルグが立ち憚った。

「ガルマ様、勝負にはペイント弾を使用します。これを3発機体に喰らったほうが負けとなります」

ガルマはイリアの音声を受け取り、「承知した」と一言だけ述べた。

すると視界からリゲルグが消えた。ガルマは横目、縦目を使い、ギラドーガを前進させた。

「(先ずは出方だな)」

すると天底の方から銃弾が飛んできた。辛うじて交わすと、次は真後ろから銃弾が飛んでくる。

「良く動く!」

ガルマは体を捻り、交わしてその方角にライフルを連射した。そこには誰もいなかった。
ガルマはギラドーガをその方角へ少し動かす。すると今度は真上から銃弾が飛んできた。

「単調すぎる」

ガルマはそれを交わし、振り向き正面に照明弾を放った。辺りが眩く光った。
ガルマは目を凝らし、自分の放った照明弾を迂回するようギラドーガを動かした。

イリアは辺りの眩しさを目の当たりにしてしまっていた。

「なんだ?この照明弾は、目くらましか!」

イリアは後方を両脇に気を配っていた。そこには何もなかった。

「ギラドーガはどこへ?」

すると、照明弾の方角からプレッシャーを感じた。そちらにリゲルグの体を向けた時、すでに試合が終わっていた。

ガルマよりイリアに通信が入って来た。

「これで納得していただけたかな?イリアさん」

イリアはリゲルグのカメラを用いて、自機の様子を伺った。既にペイント弾が3つ頭部、腹部、背中を色鮮やかに染まっていた。

イリアはため息をついた。

「はあ、上手くペースを握れたと思ったのですが・・・」

ガルマはイリアの言に困っていた。

「相手を翻弄するに機動性能だけで稚拙だよ。君は攻撃した場所から動くがその箇所には戻る気もなく初めての場所場所へ動きたいようだ。3,4つ攻撃パターンを見せても悟られないように動かないと、歴戦の猛者相手なら即死だ。現に撃たれた事すら気が付かない」

イリアは頭を垂れていた。

「弁解の余地もない」

ガルマはイリアにサダラーンへ戻るよう促した。

「では、その辺も修正して私が指揮を取ろう。帰りますよ」

「は、はっ!」

ガルマとイリアは旗艦に向けてスラスターを吹かした。


* ロンド・ベル ロンデニオン別働隊 クラップ級旗艦 艦橋

エマリーが目の前のア・バオア・クーを見て苛立ちを覚えていた。

「シロッコ、私らの動きよりも早い」

エマリーの持つ艦隊自体の練度にも問題があったが、それでもブライトの艦隊よりは距離も短く戦闘宙域に到着していた。

と、言っても既に終局面だった。ア・バオア・クーは内部破壊がされて、半分は処理され、半分が地球の引力によって落下コースに入っていた。

ルナツーへの下半分の物量を除いてもア・バオア・クーは地球を破壊しつくすに相当量な物質を持っていた。それを半分にしても尚その威力は凄まじい。

ミリイがオペレーター席で計算をしていた。質量と落下軌道より可能性と被害を想定して。
その計算がエマリーの言の直後済んだ。

「艦長!あの質量での阻止限界点は後2分です。但し、友軍の抵抗で若干の遅れが見込めております」

エマリーはミリイに更に回答を求める。

「ミリイ、被害想定は?」

「地殻を壊して、北半球の半分が破壊されます。あと・・・」

「あと?」

「ダメージで火山活動が活発になり、巻き上げられた埃が地球全土を包み込み、陽が射しこむことはないでしょう。いつまでかは分かりません」

要は地球滅亡というシナリオだとエマリーは理解した。外にいるルーの部隊へ連絡を取った。

「ルー?聞こえてる?」

エマリーの応答にルーは艦橋内のモニターワイプに搭乗した。

「艦長、命令を!」

ルーはいきり立っていた。目の前の危機に今すぐでも飛んでいきそうだった。

「分かってるわね。オーキスの出力と部隊の力をあの石っころに見せつけにいきなさい」

「了解!」

エマリーの命令にルーとその舞台はア・バオア・クーへ飛んでいった。
ミリイが不安そうにエマリーに話し掛けた。

「・・・艦長。地球は、私たちは、どうなるのでしょうか?」

エマリーは目を閉じて、暫く考えてから答えた。

「どうにかなる、とは考えない方が良い。努力は時には叶わぬことがある。滅ぶとしたらそれがまたその時期だったのでしょう」

「そんな・・・」

エマリーはミリイに現実を話した。

「あなたが願ったとしても、あなたは実際に何もできない。私もよ、ミリイ。友軍の抵抗も期待してみるだけ。ただ願うだけ。人一人の力なんてそんなものよ」

「願いが届きますように・・・」

ミリイは手を組んで願っていた。エマリーはため息を付いていた。

「(私たちは無力だ。だがあの地球を滅ぼそうとしているひとも無力なひとたちの集まり。僅かな力でもあそこまでできる)」

エマリーは何故その力をこのように使ってしまったのかとシロッコに問いただしたかった。

* ア・バオア・クー 落下抵抗現場

アムロ、シャアを始め、彼らの部下が地球への落下を防ごうと懸命だった。そこへ後部より敵機接近の反応を捉えた。

「なんだと!こんな急場に」

アムロが吼えた。シャアは苦虫を噛み潰したような顔をした。ナイジェルやデニムもそれに倣った。が、誰一人として振り向いて彼らを相手にしようとは考えなかった。

皆が意見が一致していた。殺るなら殺せと。しかしその敵機はアムロたちの傍に至って、ア・バオア・クーを押し出そうと貼り付いてきた。その数20機。

「お前たちだけじゃ無理だ。言う立場ではないが加勢する」

ジェリドがガンダムに向かって、アムロに向かって通信で話し掛けた。
アムロは黙って頷いた。シャアは皮肉を言った。

「そうだな。ルナツーを落として、ア・バオア・クーを押し出そうとは」

シャアの皮肉にカクリコンが答えた。

「地球が持つか持たないかの瀬戸際なんだ。やってみる価値ありますぜ」

エマもカクリコンの言葉に賛同した。

「そうね。弁解はしませんわ。今はただ純粋に地球を救いたい」

全てのひとが無言になりア・バオア・クーを押し出そうとスラスターを吹かしていた。

そして今度はエマリー艦隊からの増援でデンドロビウムが見事に大きな巨体と桁違いの推進力でアムロの傍に突撃しめり込んでいた。

様々な増援がアムロたちの応援し、それに呼応するように不可思議な現象が起き始めてきた。

今度は緑白い光がアムロたちの傍に集まり始めて何かを形成しだした。
アムロとシャアはその異変に気付き、バックモニターを見つめていた。

すると、その光の中からパラス・アテネが出現した。
パラス・アテネのシーマは目を覚まし、理解不能な現状を見ていた。

「な・・・なんなんだい。これは!」

迫り来る巨大隕石とそれを押しているような数十のモビルスーツ。背後にはキレイな青い星。
その状況を解釈し、静かに笑い始めていた。

「ックックック・・・シロッコ。どうやら終局面らしいねえ。あたしがこれを落とせばいいんだろ!」

パラス・アテネの全火力を目の前のモビルスーツらに照準を合わせた。

「これであたしは救われる」

シーマがそう呟くと、後方から数機のモビルスーツがシーマのパラス・アテネを羽交い絞めにした。
その衝撃にシーマが驚いた。

「なっ!何が・・・うわっ!」

シーマが確認しようとした時、シーマのコックピットはビームサーベルに貫かれ消失してしまっていた。掴んでいたのはZⅡ2機コウとキース、貫いたのはもう1機のZⅡのユウだった。

「ふう、間一髪でしたね」

キースがアムロへ声掛けした。アムロは「助かった」と礼を言うと、再びア・バオア・クーと対峙していた。

ユウ、コウ、キースもア・バオア・クー押しを手伝おうとしたとき、ユウはまだパラス・アテネの出てきた光が収まっていないことに気が付いた。

「・・・!」

光の中から黒い腕が出てきた。そして全体像が現れて、光は収束した。

コウ、キース共にその姿に腰が引けていた。アムロもその姿を見ては舌打ちをしていた。

「何でこんなところにあんな怪物が・・・」

キースが発した言葉に見たことがあるものが皆が同意した。
ダカールの天変地異の黒いモビルスーツがそこに鎮座していた。

ユウだけは戸惑い動けないでいるコウ、キースとは違っていた。即座にそのモビルスーツにサーベルを持って飛びかかっていた。しかしその動きは黒いモビルスーツによって阻まれた。

「・・・」

ユウは感覚でそのモビルスーツの敵対心が無いことに気が付いた。触れたことが一番の理由だったが、反撃もしてこないことが何よりだった。そのモビルスーツより通信があった。

「・・・理由は知らないが地球が危機のようだ」

若い男の声だった。そのあと今度は若い女の声が聞こえた。

「このバンシィも手伝います」

そう女性が述べると黒いモビルスーツはゆっくりとνガンダムの隣に付いた。
男性がアムロに語り掛けた。

「オレはシロー・アマダ、こっちはアイナ・アマダ。先は迷惑を掛けて済まなかった」

アムロはバンシィからのワイプモニターを確認した。黒髪の若い男性と薄水色な髪の若い女性がそこに映っていた。

「お前たちが手伝うなら喜んで」

アムロはそれだけ伝えた。シローは頷いた。そしてバンシィをNT-Dモードに強制移行させて、周囲のサイコフィールドに同調させた。

アムロとシャアはとてつもない力を肌で感じていた。バンシィが発するフィールドは何か異常なものを感じていた。が、次第に異変にも気付いていた。

バンシィの姿が徐々に薄ぼやけてきていた。そのこともシロー、アイナ共に悟っていた。

「どうやら仮初の命だったらしい」

シローがぼやく。アイナは笑っていた。

「それでも地球を救うに巡り合えた奇跡に感謝しますわ」

アムロ、シャア共にバンシィの姿を見ていた。するとバンシィがνガンダムにそっと触れてきた。

「あなたに全てを託します」

アイナが喋る。シローがそれに続く。

「オレたちは居るべき場所へ還る。想いは叶うはずだ。オレらは向こうの世界より誤ってきたからな」

アムロはバンシィの腕から流れこむ力を体で受けていた。アムロが意識してバンシィの居る方を向いたときそこには何もいなかった。

シャアは唸っていた。

「ええい、どういうことなのだ。この期に及んでまやかしなどとは」

アムロはシャアの疑問に少し笑って答えた。

「フフ、こんな状況下だから変な親父たちの技術が最大限に発揮される環境下だから、見たくないものや見なくてもいいものが見えるのかもしれないな」

アムロは深呼吸をして、シャアに事態についての解決策を言った。

「そのまやかしなどの奇跡とやらでニュータイプの一種の力をこのサイコミュに転化できそうだ」

「何だ、その奇跡とやらは」

「共感だ。この力が地球上の祈り、想いを全て転化できる」

シャアはアムロの言に首を傾げた。アムロは気にせず話した。

「サイコミュは人の考え、想いに作用する。それを受け入れる器か入出力できるブースターが有れば、それこそ天変地異を起こすことができる」

「まさか・・・」

シャアはアムロの意見を一笑した。疑うシャアをアムロは実力行使で証明しようとした。

「つまりこういうことだ!」

一瞬でアムロのνガンダムが発光し、シャア含めて周囲の全ての者が手で眩しさを手で遮っていた。

「な・・・なんだ!」

ナイジェルが叫ぶ。しかしそれは数秒のことだった。
収まるとνガンダムが赤いオーラに包まれ、両手でア・バオア・クーを続けて押し出した。
すると今まで受けていた落下へのプレッシャーが嘘の様に消えていた。

シャアはその現象に驚いていた。

「アムロ・・・お前は一体・・・」

アムロはシャアに答えでなく感想を話した。

「多分、ガンダムのサイコフレームの作用だと思う」

「ならば私にも内蔵されているぞ」

「それならばたまたまだろう」

「偶然だと?」

シャアはアムロの話の疑問に呈する。が、アムロ自身もよく理解していなかった。

「オレにも分からない。ただできる気がした」

シャアは少し考え、先の黒いモビルスーツの話をした。

「あの見たことの無い黒い機体のせいか?」

「その後だからな。この力の転化の理解を得たのは」

アムロは悟ったように答えた。未だにシャアには理解不能だった。

「それは私にもできるのか?」

「教え方、覚え方がわからない。ただできるんだ。今、オレには世界の想いが自分に入力されて、介してブースターとして出力できる」

アムロはそう答えてからシロッコとの話を補足した。

「シャア、お前には話していなかったがオレとカミーユはシロッコと遭遇した」

「何!シロッコと」

「奴が話していた。この隕石と地球、サイコミュ、言わば人類文明の最先端技術。今の舞台が何かを起すと」

「シロッコが何かを待っている?この隕石を跳ね返すことか」

「隕石自身の阻止限界点はあと少しだが、隕石自身の推進力が無い、脱出手段が最早尽きているところで既に阻止限界点は超えている。それをこんな小さなモビルスーツらが跳ね返す。現実的に不可能な話だ」

するとカミーユのZもシャアの傍に取りついてきた。

「遅れました」

「カミーユ!」

「シャア総帥。この隕石をはじきましょう」

カミーユの発言にアムロが少し笑った。

「カミーユ、何か仕掛けてきたな」

「ええ、浮遊する撃墜された機体をア・バオア・クーに十字を斬るように取りつけてきました。誤算だったのがアムロ中佐の得体の知れない力が備わったことです」

カミーユはニュータイプとして段階経た覚醒を果たしていた。彼自身の力も今の自分と遜色がないかもしれないとアムロは思った。現存している機体にサイコフレームが施されていないものは皆無に等しかった。

「皮肉るな、カミーユ」

「冗談でいったつもりでしたが」

カミーユは笑っていた。アムロはカミーユが事態の結果に確信を得ているのを感じ取った。

「効果覿面だな。よくやったカミーユ。押し出すぞ」

「はい!」

すると、アムロのア・バオア・クーを抑えていた力がカミーユの力の転化でア・バオア・クーを今度は本格的に押し出そうとしていた。

シャアは途方に暮れた。

「アムロ、私の力などいらないんじゃないか?」

アムロはそれを否定した。

「シャア、実は君らの力をつかっているんだよ。サイコミュの力の本領は全員と繋がり、出力できる点だ。それに・・・」

「それになんだ」

アムロは息を吸って、話し続けた。

「この力は人に希望の光を見せる。この悲観的な状態から逃れる術が皆の願い、祈り、想いで可能にする」

それを聞いたカミーユはシロッコの話を言った。

「アムロ中佐。シロッコはそれを悪だと言ってましたよ。彼はきっとこの現象を・・・」

シロッコはこの戦闘にマスコミを利用している。彼の発信力が世論を利用して、サイコミュの在り方を禁忌にしようとしていたことを。それによって見せたロンド・ベル、カラバともに異物として世界に認知させようともしているとカミーユは何となく察しがついていた。

「分かってる。オレたちが世界の敵に回ろうが、今、この瞬間、地球が潰させないという想いはこのガンダムに届いている。うおーっ!」

νガンダムが緑白く光り強く発光した。呼応してΖと周囲のモビルスーツも輝いた。

遠目で見ていたラー・ヤークのハヤト、カイらは肉眼でも地球より離れていくア・バオア・クーを確認していた。観測のクルーも歓声を上げて報告していた。

「やった・・・やったー!ハヤト艦長。ア・バオア・クー進路変更確認。地球から離れます」

ブリッジ全体が歓声に包まれていた。ハヤトはホッとした表情で艦長席に収まった。カイはミハルを見ては次の指示を出した。

「ミハル、報道を確認しろ。シロッコが何かを仕掛けるかもしれん」

「わかったわ」

ミハルはブリッジから離れて通信室へと向かって行った。
カイはハヤトに歩み寄ってはハヤトの肩に手をおいた。

「とりあえずはよくやったな」

カイの語り掛けにハヤトは頷いた。

「ああ。そうだな」

「3方向からの隕石落とし。一つはやられたが、それにしても防ぎ切った」

カイが戦略と戦術を称賛した。絶対的戦力の不備をハヤトたちは乗り切ったのだった。

ホッとしていた皆が次の瞬間、戦慄が走った。ラー・ヤーク自体が謎の振動に襲われていた。

「な・・・なんだこの揺れは!」

カイが叫び、ハヤトの艦長席を掴んで倒れないように踏ん張っていた。立っていたものは倒れ込んだり、壁に打ち付けられたりしていた。観測オペレーターが調査し、分かる範囲で答えていた。

「・・・宇宙潮流です。恐らくはア・バオア・クーの爆破時の細かい礫が各方面へ四散していたからだと思われます」

デブリによる宇宙に潮目ができたという話だ。ハヤトは特別珍しいことではないと認識した。が、余りにも振動が強すぎた。

「こんな揺れの強いものは聞いたことが無い。ましては最新鋭艦だぞ!オペレーター!」

ハヤトが再度確認を急がせた。すると地球圏全体に何らかの歪が起きていることが確認できた。

「全ての軌道、ラグランジュポイントらに変化はありませんが、各サイド、月、航行中のものに影響があります」

カイはそれを聞いて、一目散にテレビを付けた。こういうときはメディアの方が話が早いと思ったからだ。

ハヤトとカイはそこから各サイドの状況を見た。7,8割方が機能不全でコロニーの人口重力が失われていた。しかしながら宇宙空間なので、無重力状態ということで人的被害はそこでは見受けられなかった。

だが、至る所でのライフラインの事故が多発していた。特に顕著に出ていたのは医療機関だった。
そこでの被害は現在調査中だということだった。

* シロッコ艦隊 前線 

シロッコは周囲を見渡しては驚愕していた。サラが矢継ぎ早に報告を入れてきていた。

「パプテマス様!後方のアレキサンドリア級多数航行不能、並び沈艦、ジュピトリスも2番から7番までエンジン大破。ああ!!何で・・・」

「サラ、ジュピトリスに総員退艦命令を」

シロッコはなるべく動じずにサラに命じたが、続けてそれに関する報告がサラよりもたらされた。

「ジュピトリス、通信途絶・・・」

シロッコは深呼吸をしながらシートにもたれかかった。ついに恐れていたことが起きた。
可能性は自身の中では感じていたが、ここにきてここまでダイレクトに来るとは想像もしなかった。

「・・・というよりもそんな想像がそもそもナンセンスなのかな」

シロッコは自嘲していた。その様子をサラがモニター越しで不安そうに見つめていた。

「(パプテマス様が、笑っている。・・・何故!)」

そんなサラの様子など介さず、シロッコは軽く自体の把握に努めた。

「さて・・・我が艦隊が半数以上が機能不全、ア・バオア・クーは地球から離れて、彼らは残っている。マスコミはこの異変に踊らされて、私の話など聞く耳ももたないか」

シロッコはサイコミュの告発をできない状況になったと結論付け、次取るべき行動を考えていた。

「(最早、歪が出るほど我々は禁断の領域へと来たわけだ。だがそれ程の力を求めなければ、あ奴らに勝てなかった)」

シロッコはサラに艦隊の編制を委ね、同時にロンド・ベル、カラバにティターンズが即時戦闘放棄することの旨を伝える様命じた。サラは反発した。

「どうしてですか!私たちはまだ戦えます!あんな反連邦組織に・・・」

そんなサラにシロッコは優しく声を掛けた。

「サラ、ア・バオア・クー落としの失敗で全てが終わったのだよ。この結果は私は負けを認めざる得ない。それに」

「それに?」

シロッコはアムロらが居る方向を見つめていた。

「彼らは世界を救うかもしれない力を得ることができた。この揺れが世界の終焉たる揺れかも知れない」

サラが困惑した。なぜ世界が滅ぶなんて急に言うのと。シロッコはそんなサラを放って話続けた。

「人の想いが巨大隕石を跳ねのけた。全てはサイコミュによるものだ。だがその力は極めて危険なものだ」

「・・・どうしてですか?」

サラはサイコミュについて余りに自然に使ってきていた代物で危険とは思わなかった。それをシロッコは否定した。

「念じただけで物理法則を崩す力を世界は許容できない。私たちではない、自然界でだ。今までも高度な文明を追い求めてきた人類は天候を壊し、地球を汚染してきた。防ごうとしても、欲求がそれに勝ってきた」

サラは無言で頷く。

「その影響が今度は世界の空間に起きた。それを許容できない何かがこの世界にあるのだ。そのものに対抗できる手段をアムロたちは備わった。あのア・バオア・クー落としでだ」

サラは驚きを示した。

「ま、まさかパプテマス様・・・そのためのア・バオア・クー落としを・・・」

「それでもある。全ては予測でしかなかったが、人の想いが有り得ないことを起し、事態を覆す。それは諸刃の剣ではあったが、有象無象の敵に打ち勝つにはこちらも同等の力でなければ挑めない」

シロッコはサラにデータ通信である文面を送った。受け取ったサラはそれを少し読み複雑そうな顔をした。

「・・・これは?」

サラの不思議そうな声の問い掛けにシロッコが答えた。

「私のあらゆる論破、筋書きの知識を駆使した論文めいた駄文だ。これで世界はサイコミュに関しての見識を改めて生きてゆくという選択肢を選ぶしかないと思い込ますことのできる。私がもし帰ってこれなくてもそれをマスコミに流せば私の想いは達せられる。最もそんな未来があればだがな」

「パプテマス様」

「意思疎通は言葉で重ねていかねばならない。念ずることではない。それで世界を君の様な女性が統治していくようであればいい」

そう言ってシロッコはアムロたちの居る宙域へジ・Oを走らせていった。

* ア・バオア・クー後方宙域

フロンタルは平然としていた。一方のララァは息を切らしていた。
フロンタルがララァに話し掛けた。

「流石境界の民だ。一サイドの住人を全て制圧できるような力を与えても尚崩れんとは」

ララァはかく顔の汗を手首ですくい、フロンタルのジオングを見据えていた。

「貴方こそ、異常です。死霊の類か何かです」

ララァの言い分にフロンタルは笑った。

「ハッハッハ、幽霊か・・・。違いない」

「何ですって」

ララァが驚く。それにフロンタルが驚く。

「おや?私の姿が感知できないと?世界の調律者様だというのに?」

「ぐっ・・・」

ララァは口を歪ませた。フロンタルはため息をついた。

「まあ、シロッコのせいで不完全体でいる貴方には仕方ないことなのかもしれない」

ララァは、だからと言ってこの世に自分を凌駕する力を持つ者がいると納得はしていなかった。
絶対にどこかに仕掛けがあるはずだとララァは考えていた。

まず、フロンタル自身を制圧しようと試みた。それも幾度も。しかし実態が掴めなかった。
それに虚を突かれて、ララァ自身が同じような攻撃を幾度も受けてしまった。

そして予想したことが彼に実態が無いということだった。
彼自身が何かに扇動されているのではと考えた。彼を自我を持って動かすエネルギーの源が。
それにより彼自身が汚染されて、彼の生命活動を止めてしまったのかもしれないと。

彼のそのエネルギーに触れるには、彼の攻撃を受けるしかない。
そこから彼の源へ入り込む。

「フロンタル。私は貴方には負けません。世界に均衡をもたらす為、貴方を消します」

ララァは毅然な態度をとり、フロンタルに再び攻撃するよう挑発した。
それにフロンタルは難なくのる事にした。

「面白い。もう1度とは言わず、何度も味合わせてやろう」

するとフロンタルのジオングより再び精神攻撃がやって来た。今回もまともに受けたが、返す刀でその精神攻撃の根源へララァは精神を飛ばす事に成功した。

ララァはジオング内のある部分へ意識を飛び込ませていた。そこは無であり、闇でもあった。
人の持つ闇だとわかる。大抵のひとは心に闇を潜ませている。

が、その闇の深さにララァはたじろいでしまっていた。

「これほどまでの怨念とは」

その重厚さ、幾人分とは言えない。その数は果てしなく、そして年月もあった。
ララァはこれを1つずつ紐解いて行かなければならなかった。

ことは至って単純だった。解くだけなら数秒と掛からない。が、数が余りにも多い。少なく数えるだけでも千人いるグループが千通り合って、それが1ヵ月に1括りで7年分あると考えてもいい量。そしてそれが少なくともなのだ。

「しかし、出来る限りやらねばならない」

ララァは暗闇に腰を下ろして、1つずつ怨念という名の結ばれた紐を解いていった。

フロンタルはララァがパンドラボックスに飛び込んだことを認知した。そしてユニコーンを見た。
中には生体反応はあるが、そこにあったその存在の意識が無かった。

「肉体を棄てたか。かの者にとっても肉体は道具に過ぎなかったわけだ」

それは自身ことを言っていた。が、フロンタルはユニコーンに新たなる意思の存在を感じた。
それに驚愕はせずとも驚きを示していた。

「ほう、本来の持ち主も相当の逸材のようだ」

フロンタルの視線の先のユニコーン内に本来のララァが意識を持って座ってた。
自身がこの体に帰ってきたのはオーガスタ研究所で研究していた時以来だった。

「はあ・・・はあ・・・」

ララァは息を切らして回顧していた。あの時私を攫ったシロッコは演技だったことは後に知った。
あの人は私を他の誰かに利用されないよう、あの人の持ちうる力で外在的にも内在的にも守り、世界を
守っていた。その為に悪役をかった。

目の前の忌まわしい巨大なモビルアーマーが今日までの問題。この力に勝てないと人類が終わる。
彼は台風のような自然災害だ。理由などない。今まで台風として成長するまで蓄えてきた力を今彼は
これより発揮するのだろうとララァは感じていた。

ララァは後方を見て、そして意識も向けてみた。するとアムロとシャア、他優れた力を感じた。
ララァは彼らの力を持って挑めば勝算があるかもしれないと思った。

それでも一縷の望みなのかもしれない。彼の抱える力は強大だ。

「・・・それでも人類は今まで様々な苦難を乗り越えてきました」

思うだけで良かったのに口に出てしまう。そう言い聞かせたいほどの重圧をフロンタルより感じていた。

ララァは牽制しながら、その宙域から離脱していった。それをフロンタルは敢えて見逃した。

「フフ・・・まあいい。元々はシロッコから持ち込まれた相談事。私はゼウスを用いてパンドラボックスと共に世界を蹂躙することが目的だからな」

フロンタルはゼウスへとジオングを向けて、ララァと同じく宙域を離れていった。




 
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