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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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ダンジョンに命の使い道を求めるのは間違っているだろうか?







『逝くな、伊月!!』

逝くな、か。もう遅い。オレは此処が限界だ。もう何処も動かせそうにないし、SDPも使えそうにない。そもそもオレのSDPは動けないと意味がないものだし、心にも入られてる。オレが最後に出来るのはコレだけだ。

『フェンリルの起動を確認。5秒後に作動します』

ベイグラントのコアだけは道連れにする。

「先、向こう、に。カ……ノン、今行く」

『フェンリル、作動』









「ベル、お互いに無理をしないって約束だったよな」

手に持つルガーランスをミノタウロスに突き刺しながら展開し、背中から胸に向かって魔石を抉り出す。

「イツキ!!」

「それにしても、ミノタウロスがなんでこんな階層にいるんだ?」

魔石をバックパックに放り投げながら疑問を口にする。

「分からない。逃げるしかなかったから」

「まあ、それが普通だろう。後ろからの奇襲でもない限り、逃げて正解だって。それより、なんか変なことが起こってるみたいだから引き上げよう。立てるか」

座り込んでいるベルに手を差し伸べる。手を握ったベルを引っ張り起こして簡単に怪我がないかを確認する。

「大丈夫そうだな。バックパックは捨てたみたいだな。まあ、命あっての物種だ。バックパック位、買い直せばいい。さっきのミノタウルスの魔石でお釣りが来るさ」

近くでオレ達のことを見ている人がいる以上、早めに立ち去りたい。確実にオレのSDPは見られたはずだ。まあ、オレのSDPはスキルと言い張れば誤魔化せるような物だから問題はない。むしろ一騎とザインのような同化・再生・強化、総士とニヒトのようなワームの使用の方が問題だ。

ベルと一緒にダンジョンを引き返しながら自分のこれまでを振り返る。




ベイグラントのコアとフェンリルで一緒に逝ったはずのオレは何故か島のミールと同化することなく、この世界に生まれ落ちた。人族の赤ん坊ではなくコア型に近い、マスター型の亜種のような存在として。まあ、何となくだが、オレが蒼穹のファフナーの世界に転生したみたいに、この世界に転生したんだろうが、基本的にロボアニメしか見てなかったオレには此処がどんな世界かわからない。

ファフナーの世界に産まれた時も偶々旅行に出ていた日本人の母親から産まれ、孤児になってしまったので人類軍に志願して道夫さんとカノンとトリプルドッグを組んでただけだしな。後は、カノンと一緒に竜宮島に帰化して戦い抜いて、第三次蒼穹作戦で限界を迎えてベイグラントのコアをマークアインのフェンリルで道連れにした。享年22歳。ちなみに発現したSDPは超加速。体感で10秒ぐらいの間を全ての物が止まって見える程の速度で動くことが出来る程度の能力。新種の同化現象は極端な筋力の低下。

正直に言ってオレが何のために転生したのかなんて気にしていない。ただ、フェストゥムとして産まれた意味を知りたい。世界を旅しながら一騎の言う命の使い道を考えながら、オレなりに命を守り、癒やし、慈しみ、壊し、奪い、そして祝福してきた。

未だに答えは出ていないけど、この街でなら答えが出ると思った。地下深くへと続くダンジョンを中心とした街、オラリオ。ここにオレの命の使い道があると思い、ダンジョンに潜ろうとしたのだが、神の眷属として恩恵を得ないと入ることは許可できないと言われてしまい、少し困っていた所に出会ったのがベルだった。

事情を話すと正直に自分以外に眷属が居ないし、拠点もボロボロの教会だけど、それでも良いなら神であるヘスティアに紹介してくれると。その優しさと甘さと正直さが好ましく思い、ベルに神ヘスティアを紹介してもらい眷属として恩恵を授かった。恩恵の簡単な説明とスキルがあることを教えられたのだが、そのスキルが笑えた。


イツキ・テスタ
LV.1

力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0

《魔法》

《スキル》
祝福(フェストゥム)
・■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■


もろにフェストゥムと書かれていたようだ。効果が文字化けしていて読めなかったとヘスティア様には言われたけど、理解しているから曖昧に返事をしておいた。その日はギルドで講習を受けるだけに終わる。ダンジョンにはダンジョンの規則がある以上仕方のないことだろう。

外の怪物との違いとしてはダンジョンの壁から怪物が生まれるのと、強さは段違いだということだろう。最も、それも恩恵を得れば上層であれば問題無いそうだ。

次の日からは朝から夕方にかけてはベルと一緒に浅い階層で怪物と戦い、深夜に拠点を抜け出して中層と呼ばれる階層で勘が鈍らない程度に戦う日々だ。ただ、それでも一般的なレベル1冒険者よりも成長の具合が悪いらしい。1週間でのトータルが84。1日あたり12だ。その殆どが器用と魔力に振られている。

器用が上がるのはやりすぎないように手加減している分だし、魔力が上がるのはルガーランスやガンドレイクで射撃の際に精神力が使われているからだろう。さらに、SDPを発動させることで力が10も下がってしまった。ちなみに昨日の時点でのステイタスはこんな感じだ


イツキ・テスタ
LV.1

力:I11
耐久:I0
器用:I32
敏捷:I12
魔力:I19

《魔法》

《スキル》
祝福(フェストゥム)
・■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■
・■■■■■■■■■■

合計が74しかないのはSDPで低下した分だ。ベルを助けるのにまた使ったから今日の増加分を含めて力は4位だろうね。逆に言えば力のアビリティが残っている限り、SDPによる同化現象は目立つほどではないということだ。これは嬉しいことだ。そんなに連続では使えないけどね。



ダンジョンから戻ったオレ達は装備を外して朝に約束していた豊饒の女主人という店に訪れている。

「あっ、ベルさんにイツキさん」

オレ達に気づいたのか、朝にベルが魔石を落としたと言い張っていたシルさんが駆け寄ってきた。

「こんばんわ、シルさん」

「やっ、来たよ」

「はい、いらっしゃいませ。お客様2名様はいりま〜す」

案内されて店の奥のカウンターに座る。

「アンタ達がシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせに可愛い顔をしてるじゃないか」

「ああ、それはオレも思ってた」

「そっちのアンタは、不思議な感じがするね。まっ、そんなことは良いか。それで、二人共私達が悲鳴を上げるぐらいに大食漢なんだって?じゃんじゃんと食べて、じゃんじゃんと金を使っていっておくれよ」

「ええっ!?」

ベルが驚きながらシルさんを見ているが、シルさんは舌を出して誤魔化すように笑っていた。全く、朝のも全部仕込みだったんだろうな。まあ、予約で団体があるみたいだから味の方は保証されてるものだろう。メニューに目を通して注文する。

「とりあえずサラダとスープとミートソースのパスタにメインをオススメで2種類とパンにデザートで果物の盛り合わせを全部3人前で。アルコールは苦手だから適当に果実水、柑橘系のをジョッキで。ほら、ベルも選べ。奢ってやるよ」

「イツキ!?」

「金の心配はするな。たんまり持ってきてるよ」

深夜に中層で稼いでいる分の財布を見せて安心させてやる。

「いや、お金の心配もあるけどそんなに食べ切れるの?」

「食いだめが得意なだけだ。最近はベル達に合わせて抑え気味だったからここいらで大量に食いたいんだよ」

「残されても気分が悪いから先に1人前ずつ出させてもらうよ」

「う〜ん、それならメインとパスタも変更しても良い?色々食べてみたいからね」

「構わないよ。そっちのはどうする?」

「えっと、じゃあ、この海鮮パスタを。それから、僕も果実水を」

「はいよ。ちょっと待ってな」

先に出てきた果実水で喉を潤しながらしばらく待ち、出て来る料理を片っ端から胃に収める。隣でベルが目を丸くしているがコレぐらいは前々世でもいたからな。それにしても旨い料理だな。量も多いが、最初に言った3人前でも食べ切れる量だな。追加で持ってきてもらいながら食事を続ける。

「本当に食っちまうとはね」

デザートの果物を半分ほど食べた所で女将さんが話しかけてきた。

「気に入ったよ、女将さん。味も量もね。これからは通わせてもらうよ」

「毎度ご贔屓に。それにしてもアンタみたいな冒険者の噂なんて聞いたことがないんだけどね」

「オラリオに来たのはつい最近でね。10日も経ってないさ」

「それにしては鍛え上げられている気がするんだけどね」

「まあ、オラリオに来る前からあっちこっちで戦ってたし、故郷ではよく怪物が襲ってきてたからね。恩恵なしでも戦えるようにって鍛えられてるし、武器もかなり特殊な物が作られてる」

「なるほどね。故郷を離れて大丈夫なのかい?」

「大きな群れのボスらしき奴も確認されている分は全部狩り尽くしたから、当分は大丈夫なはずだし、別格のエースは残ってるし大丈夫さ。オレなんて精々上の下でしかないから」

単純に戦ったら一騎にも総士にも勝てないし、甲洋にも負けそう。芹にも同化されて負けそうだし、そもそも剣司と一緒で電池切れだったからな。前線から引いていた分、遅れをとってしまいベイグラントの硬さを見切れなかったのが死因だ。

やっぱ第一次蒼穹作戦の時に強引にメガセリオンとベイバロンとグノーシスとノートゥングとティターンのごちゃ混ぜになった機体に乗ったのが悪かったな。流石にグノーシスのカスタムモデルで北極海には行きたくなかったからな。それでもベースにノートゥングと要所要所にティターンを使った所為か搭乗時間を大幅に削ることになった。

第二次蒼穹作戦では新造されたマークアインに搭乗し時間を全て使い切り、前線から引いて武器の新造を行っていたのだが、新種の同化現象を恐れて押されている後輩たちを救うために再びマークアインに搭乗。SDPの覚醒と共にそれを恐れずに命の使い所と定めて暴れに暴れた。おかげで速攻でリタイアした。

「足を引っ張りたくないから、また故郷に怪物が現れた時にもっと皆を守れるように、そう思ってるんですよ」

第四次蒼穹作戦では強引にマークアインに乗り込み、力が足りずにベイグラントのコアと共にフェンリルで逝った。嘘は言ってない。故郷に、竜宮島に戻れたのなら、オレは再び島と島に住む人達のために命を使う。あの島はオレに生きるという意味を教えてくれた場所だから。

「そうかい。そんなことがもう起きないと良いね」

「そう願っているよ。ご馳走様。これ、お代ね」

財布から食べた分よりも多い代金を渡す。

「うん?そこそこ多いけど」

「ベルはまだ残るでしょ?オレはこの後行きたい場所があるから。ゆっくりしていくといいよ」

「ありがとう、イツキ」

「気にしなくていいよ。それじゃあ、また寄らせて貰います」

豊饒の女主人を出てダンジョンに向かう。そろそろゴライアスって言うボスみたいなものが復活するらしい。それと戦えば少しはアビリティも育ってくれると思っている。フードを被ってダンジョンを素早く駆け抜ける。怪物の相手はせずにどんどん潜る。しばらく17階層で待っているとゴライアスが生み出される。

それを見ながらルガーランスとレヴィンソードを再生する。倒すだけならガンドレイクで良いんだろうけど、恩恵を育てるにはこちらの方がいいはずだ。

「せめてディアブロ型位の強さではあってくれよ」

ゴライアスもオレのことを認識したのか襲い掛かってくる。それに合わせてオレもゴライアスに向けて走る。











ゴライアスを討伐し終えて、18階層で魔石とドロップアイテムをぼったくり料金で買い取って貰いダンジョンから引き上げる。6階層まで戻った所でベルが防具も付けずにウォーシャドウと戦っていた。何をしているのかと説教をしようと思ったのだが、何かの強迫観念に追われている顔を見て、限界までは見守ることにする。

疲労から倒れた所で残っている怪物にマインブレードを投げつけて仕留める。ベルもオレに気付いたようだけど、呼吸を整えるのを優先するようだ。オレは怪物から魔石を回収していく。それが終わってから周りの壁を切りつけて、壁に体を預ける。しばらくそのままで居ると、ようやくベルが口を開く。

「強く……なりたいんだ」

「ああ」

「強く、もっと強く!!イツキほどじゃなくても良い!!あの人に覚えてもらえるぐらいに!!」

「そんな気持ちじゃ駄目だな。オレぐらい、軽く超えてもらわないと」

「イツキよりも強くなんて」

「諦めて良いのか、ベル?お前の目指す英雄は諦めないぞ。オレの身近にいた英雄もそうだった。そいつは一時は何もかもが嫌になって故郷を去っていった。だけど、故郷の危機に舞い戻ってきた。そして、英雄と呼べるほどの活躍を見せた。それを見て、追いつけないと思ったさ。だが、諦める理由にはならない。むしろそこまで強くなれるんだって知れた。なら、それを追い越す気で戦ってきた。同じようには成れなくても、オレはオレで強くなるんだって。気持ちだけは絶対に折らないように」

「……強くなれるかな?」

「違うぞ、ベル」

「強くなる!!」

「そうだ。お前は強くなるさ、ベル」

倒れたままのベルの手を引っ張り上げて起こす。

「オレは外で8年も戦ってる。だから強く見えるだけだ。8年後のお前は今のオレを軽く超えてるさ」

フェストゥムとの戦いだけでな。こっちの世界の怪物は正直言ってただの練習みたいなものだ。ゴライアスもスフィンクスB型程度でしかなかった。パワーはB型以上だったが、それだけだ。ちょっとがっかりだった。多少の勘は取り戻せたが、命の奪い合いにまでは発展していないのだ。

「冒険者は冒険をするな、良い言葉だ。だがな、冒険は無謀や無理とはイコールであっても、無茶とはイコールではない。無茶をするからこそ、それが偉業となるんだ。それを覚えて置くと良い。さあ、今日の所は帰ろう」

「うん」










「ベル君、イツキ君、僕は今夜、いや数日出かけてくるよ」

「出かけるって、何処へですか?」

「男でも出来ましたか?」

「そんなわけあるか!!友神の所のパーティーに行ってくるだけさ」

「その格好で?」

ヘスティア様はいつもどおりの裸足にワンピースによくわからない紐といつもどおりの格好である。

「いや、その、コレ以外無いし」

その返しに物凄く情けなくなる。ゴライアスの魔石を売った分は手を付けてなかった。それをヘスティア様に渡す。

「それでちゃんとしたドレスを買ってください」

「いやいやイツキくん、こんな大金受け取れないって!?」

「ちゃんとした正装すら出来ずにパーティーに出席する神を持つ眷属の気持ちにもなってくださいよ。情けなくてダンジョンに篭りたくなりますから」

「そこまで言う!?」

「そこまで言います。というわけで、ちゃんとしたドレスを着ていって下さい。お金ぐらい、幾らでも稼いできますから。ベルが」

「ええええっ!?」

「出世払いでかまわないよ。すぐに稼げるようになるさ。英雄を目指すならね。それからベル、今日からは別々にダンジョンに潜ろう。この前、あんなことがあったばかりだけど強くなりたいなら、一人でも潜れるようにならないとな。心の何処かで、オレに頼ろうとしている。そんなんじゃあ、強くはなれない。絶望的な戦いじゃないんだ、一人でもやれるだろう。それとも、まだ一緒に居たほうが良いか?」

少し挑発的に言えば、簡単に乗せられた。

「やるよ。一人ででも」

「まあ、無理はするな。またエイナさんに説教されるぞ」

一人で潜るのはオレのためでもある。ゴライアスを倒した日のステイタス更新では過去最大の伸び率だった。だが、それでも合計で50しか伸びていない。筋力は上がったが、それでもSDP1回分にしかならない。その問題を解消するために更に深い階層を目指す必要がある。それこそ泊まり込みで潜る必要がある。金はかかるけど、18階層での補給も考えた方が良いだろう。まあ、そこら辺は担当のミィシャさんに相談してみよう。それでも実際に潜るのは数日後からだろう。ベルが無理をしないかどうかを確認しないとな。








「怪物祭?」

ベルと別々に潜るようになったために晩飯の時間もずれるようになり、一人で色々な店に寄ってみたのだが、最終的には豊饒の女主人亭に落ち着いた。オススメのグラタンを食べていると女将のミアさんが明日はどうするのかと尋ねてきたのだ。

「ガネーシャ・ファミリアが主催の祭りさ。メインは闘技場で怪物の調教だけど、それに合わせて露天とかが出るんだよ」

「へぇ、楽しそうだね」

「あんたはどうするんだい?」

「掘り出し物が見つかるかもしれないし、適当にブラブラするかな。店の方は?」

「明日はかなり混むことになるだろうね」

「じゃあ、パスかな。ゆっくり大量に食べたいからね」

リューさんが追加で持ってきてくれたグラタンを食べる。

「あちっ、うまっ、あちっ」

「あんたは子供かい。冷ましてから食いなよ」

「熱いものは熱く、冷たいものは冷たくが料理の基本だよ。それはともかくミアさん、ちょっと相談があって」

「ツケは効かないよ」

「そっちは問題ないから。ミアさんを高レベルの冒険者と見込んでの相談なんだ」

「そういう相談は他にしな。こっちは一線を引いてるんだ」

「正直に言って高レベルの冒険者の伝手がなくてね、話半分にでも聞いてくれると嬉しいんだ。勝手に話すんだけど、ゴライアスを一人で倒してもトータルで50ほどしか上がらなかった」

後半部分を他の客に聞こえないように小さな声で伝える。

「何を言ってんだい?ゴライアスは推定4だろうが。一月ほど前に冒険者になったばかりの」

そこまで言った所でオレの目が嘘を付いていないのに気付いたんだろう。真剣に考えて答えを出してくれた。

「レベル4の700以上、それぐらいだったらトータルで50程度になるはず」

「ありがとうございます。今日はオレのおごりだ。常識の範囲内で好きに飲み食いしな」

本日の稼ぎを全部カウンターに乗せながら店中に宣言する。相談のお礼代わりだ。直接は受け取ってくれそうにないからな。

「まいどあり。さっきのだけど、私の予想なだけだから無茶はするんじゃないよ」

「分かってますよ。また来ますね」









怪物祭当日、適当にブラブラしていたのだが、街に怪物が現れたのを処理する。どうやらガネーシャ・ファミリアが捕まえていた怪物が逃げ出したようだ。その大半が中層の怪物のようだ。レヴィンソードを再生して怪物を切り捨てながら騒ぎが大きい方に屋根を伝って走る。

魔法の炸裂音が聞こえ、街中で魔法を使わなければならないような大物が出たと思われる方を見ると、魔法を撃ったと思われるエルフの少女が仕留めた怪物と同種の怪物の攻撃が直撃しそうになっていた。それと同時にオレは迷うこと無くSDPを発動させる。

世界が止まったように感じられるほどの超加速空間を駆ける。少しでも早く駆けるためにレヴィンソードを同化して身軽になり、時間の都合上からエルフの少女を抱き寄せて転がると同時にSDPが解ける。スライディングから倒れている怪物を踏みつけ、近くの建物の屋根に身体を捻りながら飛び上がると同時にガンドレイクを再生して迫ってくる蔓を撃ち落とす。

「えっ、何が」

「気を抜くな!!」

着地して少女を降ろしてから背中を軽く叩いて一時的に冷静にさせてから、素手で戦っている三人の元にレヴィンソードを投げる。

「そいつを使え!!」

そう叫びながら、オレ自身も両手にガンドレイクを持って巨大植物の怪物に飛びかかる。先程ガンドレイクを叩き込んだ感じからスカラベ型に似ている。耐久力はこいつのほうが上だが、同化されないし、パスタも少ないから多少は余裕だ。あのエルフの少女は遠距離なら問題ないだろうし、レヴィンソードを握って戦っている三人はスパスパと蔓を斬って、って褐色の子の片方がレヴィンソードを折った!?そんな簡単に折れるような代物じゃないんだぞ!!

「ゴメン、折っちゃった!!」

「もうちょっと丁寧に使ってよ!!」

二人して蔓を躱しながら、代わりのロングソードを再生して投げる。

「さっきのより切れ味は落ちるけど多少は頑丈だから!!だけど、壊さないで!!一度に作れる量に制限があるから!!」

ガンドレイクで蔓を切り払いながら折れたレヴィンソードに近づいて同化して回収する。

「便利だね、それ」

「話は後で!!本体は花の方なの?」

「根っこの方の太くなってるとこ!!」

「なら、一気に片付ける!!蔓の方は任せるよ!!」

ガンドレイクからルガーランスの2刀流に切り替えて、こちらに伸ばしてくる蔓に飛び移りながら突っ込む。ワームショットの弾幕やスカラベ型のパスタに比べればこの程度余裕余裕。

「行けええ!!」

蔓をくぐりぬけ、根本の太くなっている部分にルガーランスを突き刺して展開させる。繊維に沿って突き刺したから簡単に展開でき、すかさずプラズマを内部に叩き込む。プラズマが中枢部分を焼き払ったのか花の怪物が力を失ってぐったりと倒れる。

「他には居なさそうだな」

「凄いね、君!!」

褐色のレヴィンソードを折った方の子がロングソードを振りながらこっちに向かってきて、罅が入っていたのかロングソードが折れる。フェストゥム用に頑丈なはずなのにこんな簡単に折るとは、武器の使い方が下手にもほどがあるんだろうな。

「あっ、また折れちゃった」

「そんなにもろい武器じゃないんだけどね」

折れた刀身と柄に残っている分を返してもらって同化して再生させる。

「まだ必要になるかもしれないから貸しておくよ。折ってもいいけど、ちゃんと回収だけはしてね」

「オッケー。それにしても便利だよね、一体どういう仕組なの?」

「そういうスキルとしか言いようがないです。それにしても、こいつは一体何なんですか?明らかに怪物祭のための怪物とは違うみたいですけど」

「私達もよくわからないんだよね。素手とは言え、私達でも傷がつけられないぐらい堅いし。あっ、そう言えば名前を言ってなかったけ。私はティオナ・ヒュリテだよ」

「イツキ・テスタ。1月程前から活動している駆け出しさ」

「えっ、嘘でしょ!?」

「信じられないのは分かるけど、まだ終わってない。三日後の夕方に豊饒の女主人で。じゃあね」

再び屋根に飛び乗って怪物を探して狩っていく。







約束よりも早い時間に豊饒の女主人でいつもよりも大量に食事をとる。最悪の場合は、二度とこの店に訪れることはないだろうからな。暫くの間、食事を続けていると約束をしていた人物とその仲間がやってくる。

「あっ、居た居た」

「お久しぶりです、ティオナさん」

「久しぶり、それからごめんね、また折れちゃった」

そう言って手渡された袋には粉々になったロングソードが入っていた。

「こ、これはまた、どうやったらこんなことに?」

「思いっきり全力で振り降ろしたらこうなっちゃった」

丁寧に使ってと言ったはずなんだけどな。とりあえずロングソードを同化して回収してから袋を返す。残りの二人からもレヴィンソードを返してもらい、同じように同化して回収する。

「なんやけったいなスキルやな」

ティオナさん達の神様がそんなことをいった。

「まあ、そうですね。それから申し遅れました、自分はヘスティア・ファミリア所属のイツキ・テスタと申します」

「ドチビの所やって?まあええやろ、ウチはロキや。よろしゅうな」

その後もロキ・ファミリアの方達と自己紹介を交わしてから席に着く。

「それでやねんけど、ホンマにレベルが1なんやって?」

「ええ、本当です。確認してもらっても構いません。と言うよりもこんなことを頼むのもおかしいと思うのですが、確認して欲しいんです」

「あん?どういうことや?」

「アビリティの伸びが異常に低いのと、スキルの効果が文字化けしてるらしいんです。恩恵自体に問題があるのではと悩んでしまって。さすがにヘスティア様に面と向かって相談するのは躊躇われてしまって」

「ぶふっ、眷属にそこまで気い使われとるなんてドチビらしいわ。よっしゃ、ウチが見たる」

「ありがとうございます」

上半身裸になりロキ様に背中を向ける。

「ほぅほぅ、ホンマにスキルの効果の部分が文字化けしとるな。名前は祝福か。なるほどな〜、レベルも確かに1やな。うん?ステイタスを更新したんはいつや?」

「昨日の夜ですね」

「更新をミスっとる?いや、でも、確かに低いな。異常は、ない。機能的にも問題なし。どういうことや、これは?」

「ロキ、そんなに低いの?」

「ちょい待ち。更新前のステイタスは覚えとるか」

「写してもらった紙があります」

ポケットから折りたたんだステイタスの紙を渡す。

「低い。アレとまともに戦っとるのにこれは低すぎや。ティオナの半分も上がっとらん」

「ええっ!?嘘でしょ」

「ホンマや。これは、経験の殆どをスキルの方に持ってかれとるんやろな。割合で経験がアビリティから削られとるんやろ。若干、というより一文字だけやけど文字化けしとらへんものがあるさかいな」

経験がスキルに持って行かれて文字化けが解除される。まさか、この世界のどこかにゴルディアス結晶が育っているのか?もしくは、向こうにある島のミールのゴルディアス結晶が育っている?なるほど。オレがこの街に命の使い道があると感じたのは間違いじゃなかったんだな。ここでゴルディアス結晶を育て上げる。それが、オレの命の使い道だ。

「ありがとうございます、ロキ様。それが分かっただけで十分です」

「ウチからも保証しといたる。恩恵に問題はないってな。ホンで、次はウチラの番なんやけど、まずはレフィーヤを助けてくれてありがとう。話を聞く限りじゃあ、まともに食らっとったら本気でやばかったはずやからな」

「間に合って良かったです。島じゃあ、間に合わないことが何度もあったものですから」

「そうか。それは辛かったやろうな」

「話しておいて何ですが、この話は止めておきます」

「まっ、湿っぽいのは止めとこか。そんでや、レフィーヤを助けてくれたお礼を考えとったんやけどな、武器も防具も自分で用意できるやろうし、あんな特殊な物はオラリオにもあらへんからな。だから、どんなお礼がええ?」

「本来なら断っていたのですが、ロキ様のおかげで目標が出来ました。オラリオには目標を探しに来ていたものですから」

「目標?」

「オレのスキル、『祝福』を育て上げる。それがオレが産まれた役目で、今のペースだと間に合わなくなるかもしれない。その為に、ロキ・ファミリアの遠征に参加させて欲しい」

「役目?間に合わなくなる?」

「あくまで直感だけど、間違っていないはず。島のためにオレがやらないといけないんだと思う」

「嘘を言っとる感じはせえへんな。せやけど、甘くみとると簡単に死ぬで」

「構わない。命がけなのは故郷でもいつものことだったよ。ダンジョンはまだ楽な方だ」

フェストゥムとそれに対抗するためのファフナーの両方から殺されそうになるんだからな。怪物や地形だけを相手にできるダンジョンはまだ楽だ。

「はっ、コレだから雑魚は甘えんだよ!!いくら便利なスキルがあろうが、弱けりゃ他を巻き込んで死にやがる。オレはゴメンだぜ!!」

「ベート・ローガだったね。つまり強ければ問題ないってことだな」

「あたりm」

SDPを発動させてベート・ローガを床に投げてルガーランスを再生して展開、そのまま顔を挟み込むようにして床に突き刺す。SDPが切れた瞬間、何が起こったのか分からずにロキ・ファミリアの面々が驚く。

「弱いな、ベート・ローガ。オレを巻き込まないでくれよ」

「て、テメエ!!」

「喚くな、雑魚が!!自分が言った言葉だろうが。恩恵の数値でしか強さが測れないからこうなる。少なくとも、オレがティオナさん達ですら視認できない速度で動けることは知っていたはずだ。情報面を疎かにした結果がコレだ。お前、オレの故郷に産まれていたら初陣で死んでるぞ」

知っていて慣れていないとフェストゥムの相手は辛い。ルガーランスを同化して回収する。

「別に遠征の参加を断ってもらっても構わない。ある程度の情報を貰えるなら一人で潜るよ」

「私は全然オッケーだよ。ベートよりもちゃんと話を聞いてくれるだろうし、ベートよりも強いし、ベートよりもちゃんと連携とか考えてくれそうだし、ベートよりも紳士的だし、むしろベートが上の部分って何?」

「恩恵の数値上は上のはずなんやけどな、何処で差がついたんやら。苦手なもんは?」

「攻撃は受けるより躱すか反らすが基本だから耐久が全く育ってないぐらいかな?あと、戦闘中に止まるのも基本的にはしたことがない。常に動いてないと故郷の周辺に出てくる怪物に一撃で殺されるから」

「あん?なんや、そんな怪物の噂なんて聞いたことあらへんで?」

「見た目は色々な型がいるけど、特徴としては全身金色で生物っぽい感じはしない。体の一部が発光すると同時に空間の一部が抉り取られる。読心能力を持っている。接触時間が長いと食い殺されるのが共通だね。あとは個体ごとに能力が違う。デカかったり、残虐だったり、こちらの戦術を学習したり、触手を伸ばしたり、小さな個体を生み出したり、まあ色々な種類がいたさ。それに対抗するための術がベート・ローガを圧倒した技であったり、ルガーランスなんかの武器だったりさ」

「……嘘やない。まじでそんな怪物共がおるんか」

ロキ様の言葉にロキ・ファミリアの面々が絶句する。

「まあ、大きな群れは徹底的に叩き潰したし、故郷の中でもオレは上の下から中程度の戦力でしかなかったからね。オレより上が4人もいるんだ。問題はないだろうさ」

普通の人間という意味でなら最強だったんだけどな。

「まあ、そういう訳で場数だけは踏んでいる」

「何処らへんが場数だけなのかは分からないけど、当てにしていいか分からないから、まずは何人かでパーティーを組んで実際に実力を見せてもらうことになるかな」

「分かりました」

頑張ってゴルディアス結晶を育てようか。

 
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