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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第115話「兄として・前」

 
前書き
空白期での原作兄キャラのお話。
前回からそれなりに時間が飛びます。
なお、飛んだ時間の中で、リインには子供サイズに形態変化する機能が追加されてます。(特に関係のない事なので描写なしです。)
 

 




       =out side=





「待てっ!!」

「っ……!」

 とある管理世界で、二つの影が動く。

「(誰かと協力…いや、無理だ。部隊の皆は他の連中と交戦中。今から援軍を要請しても間に合う訳がない。…やはり、俺が…!)」

 追いかける側である、ティーダ・ランスターは牽制の射撃を避けながらそう思考し、追跡を続行する。

「くっ……!」

「ちぃ……!」

 無理に距離を詰めようとすれば魔法が、魔法の対処をしていると距離が。
 追いつ追われつの関係だからこそ生じる一進一退の攻防が続く。

 …事の発端は単純な事だった。
 ティーダが所属する部隊に違法魔導師のグループの検挙を命じられたのだ。
 事は順調に進んだが、リーダー格の男が仲間を見捨てて逃走。
 それをティーダが追いかける事になっただけだった。

「(当たる事はないが…かと言って、距離を詰めれない…!)」

 そんなこんなで、入り組んだ道を駆けながらティーダは追跡し続けていた。
 すると、少し開けた場所に出る。

「(公園……占めた!)」

 ある程度見晴らしのいい場所に出た事で、ティーダは勝負に出る。
 速度を高めた魔力弾を操り、犯罪者の進行方向に着弾させる。

「そこまでだ!…逃げられると思うな…」

「くそが……!」

 僅かな怯み。その隙を利用してティーダはさらに魔力弾を展開。
 デバイスの銃口も犯罪者に向け、不用意に動けなくする。

「こんな所で.…捕まってたまるか!」

「っ……!」

 すると、犯罪者は反撃の射撃魔法を放つ。
 すぐさまティーダは魔力弾で相殺するが、犯罪者は既に次の手に移っていた。

「しまっ……!」

「はぁっ!!」

 魔力を地面に叩きつける事による簡易煙幕。
 視界を奪われたと理解したティーダは、すぐに砂埃の範囲から脱出する。

「……そこだ!」

 どこに行ったのかすぐに見つけ、ティーダは魔力弾を数発放つ。
 相手もこのまま逃げてもすぐに足止めされると分かっていたらしく、その魔力弾を避けてティーダへとデバイスを向ける。

「喰らえっ!!」

「っ!」

 一筋の砲撃魔法。それがティーダに迫る。
 既に魔力弾を展開している今、ティーダはすぐには相殺できる程の魔法を放てない。
 だが、ティーダはそれを読んでいた。

「なっ…!?」

「残念だったな」

 砲撃魔法はティーダに直撃…したかのように見えた。
 幻術魔法…それによって、ティーダはの射程外に逃げていたのだ。

「終わりだ!」

 慌てて逃げ出そうとした犯罪者に牽制の魔力弾を放ち、足止めする。
 そして、ティーダはトドメの魔力弾を撃とうとして…。

「っ………!?」

 視界に移ったものに、硬直する。

「(子供……!?なぜここに…逃げ遅れたのか!?)」

 公園の隅の方。そこに、子供が一人佇んでいた。
 目の前で戦闘が起きていたため、怯えて完全に動けなくなっている。

「そこの子供!早く逃げなさい!」

 慌てて呼びかけるティーダ。しかし、子供は動かない。
 否、動けなかった。恐怖で足が竦んでしまっているからだ。

 …そして、ティーダはここでミスを犯してしまった。
 犯罪者が、その言葉を聞いて利用しないはずがないのに。

「っ…!」

 犯罪者のデバイスが、子供へと向けられる。
 “人質に取られる”。そう理解したティーダは真っ先に子供の下へと向かった。

「…ははっ!」

「くっ…!(避ける訳には…!)」

 身を挺して庇おうとするティーダを見て、犯罪者は人質に取るのをやめ、これを機にティーダを殺そうと砲撃魔法を放とうとする。
 ティーダはそれを見て、対処しようとするが、後ろに子供がいるため、避ける事はせずに防御魔法で防ごうとする。

「ぐぅぅうううう………!!」

「はははは!!残念だったな管理局員さんよぅ!」

「ぐ、く……!に、逃げるんだ…!」

 防御魔法で耐えながら、ティーダは子供へと呼びかける。
 その呼びかけにより、子供は竦んだ足を必死に動かして逃げ出す。

「っ、ぁあああああっ!?」

 子供が逃げたのを見送ったティーダは、防御魔法を破られて吹き飛ばされる。
 幸い、ほとんど防げていたため、殺傷設定とはいえ、傷はあまりなかった。
 だが、すぐには動けない程のダメージを負ってしまう。

「ははは!献身的だな!じゃあ、これはどうする?」

「っ……!」

 必死に逃げようとしている子供に対し、犯罪者はデバイスを向ける。
 収束する魔力を見て、子供は慌てて逃げ出そうとする。
 しかし、恐怖と足の竦みから足をもつれさせてこけてしまう。

 このままでは子供が殺される。
 ティーダはそう確信して、痛む体に鞭を打って立ち上がる。

「(させない……!あんな、まだティアナぐらいの子を、やらせはしない…!)」

 それは、管理局員としてよりも、一人の“兄”としての意地だった。
 砲撃魔法を受けて満身創痍ながらも、ティーダは子供を庇うために動く。

「ぁああああっ!!」

「じゃあ、死ね!」

 先ほどの砲撃魔法よりも弱い…しかし、人一人を殺す魔力弾が放たれる。
 それに対し、ティーダは自身を盾のように子供の前に躍り出た。

「っ、ぁ………!」

 そして、その魔力弾がティーダに直撃した。

 …そう。これは、“原作”であれば殉職するはずの出来事。
 相違点が多々あるとは言え、この世界でも同じようになるはずだった。





   ―――優輝と、出会っていなければ。





     キィイイン!

「な、なにっ!?」

 ティーダに当たったはずの魔力弾は、掻き消えるように弾かれる。
 それを見た犯罪者は、突然の事に動揺する。

「(好機!!)」

 その隙を見たティーダは、自身がなぜ助かったか理解する前に体を動かした。
 加速魔法による肉薄。そこからのゼロ距離砲撃魔法が放たれる。

「がぁあああああっ!?」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 一瞬のチャンスを見事モノにし、ティーダは犯罪者を昏倒させた。

「ランスター一等空尉!」

「っ……民間人の保護を!」

「え、あ、はい!」

 そこへ、仲間が駆け付け、この戦闘は無事に終わった。

「……さっきのは…」

「あ、あの…!」

「ん……?」

「ありがとうございました…!」

 先ほど、なぜ攻撃が掻き消えたのか、今更ながらに疑問に思うティーダ。
 そこへ、護り抜いた子供がお礼を言ってくる。

「…無事でいてくれて、こちらこそありがとう」

「えっ…?」

「でも、今度から危ないと思ったらすぐに逃げるようにね」

「あ、はいっ!」

 元気よく返事してくれた事に、ティーダは微笑んだ。

 …こうして、本来ならティーダが死ぬはずだった運命は覆されたのだ。







       =優輝side=





「…よし、調子はどうだ?リヒト、シャル、葵」

〈良好です〉

〈霊力関連の機能も異常ありません〉

 ゼスト隊壊滅から二年。
 僕らは今日、リヒトとシャルのメンテのためにミッドチルダに来ていた。
 葵もユニゾンデバイスには変わりないので、今では僕が定期的に見ている。

「終わったのね」

「んー、バッチリ!」

「よし、じゃあ帰るか」

 ミッドチルダでの用は終わった事なので、家に帰る事にする。

 …この二年、特に変わった事は起きなかった。
 なのはが怪我から復帰したり、フェイトが執務官試験のリベンジで受かったり、ユーノが最近になって無限書庫の司書長に就任したりと…その程度だ。
 管理局の黒い部分は調べたら大体はジェイルに情報送っているものの、上層部に特に変化はない。…と言うか起こせない。ガードが堅いのもあるが、不用意に瓦解させるような事をすれば、管理世界の秩序はたちまち崩壊するだろうし。
 まぁ、違法研究所は何回かジェイル達が潰したけど。

 他にあった事は…まぁ、僕らが小学校を卒業した事だろう。
 と言っても、何事もなく中学に進学したが。
 聡は結ばれてからは玲菜とさりげなくイチャイチャしてばっかりだし…。
 …あいつらカップルになってから素直になりすぎだろ。そう言うものなのか?

 学校と言えば、アリシアは高校にも進学するようで、受験勉強に取り組んでいる。
 偶に僕らやアリサ達を交えて勉強会も開いているな。
 なお、高校には既に管理局関連で度々休む事をぼかして伝えてある。
 定期的に行う特殊な試験を受けて合格すれば、出席日数や成績などによる留年の心配がほとんどなくなるとの事らしい。所謂特待生みたいなものだ。
 だからアリシアも必死になって勉強しているのだが。

 霊術に関しては、もうほとんど出来上がっている。
 アリサ、すずか、アリシアの三人はその気になれば管理局の並の武装隊ぐらいなら相手取れるだろう。力量としては、アリシア≒アリサ&すずかと言った所だ。
 司と奏も両立できるようになって、最近は五人で競い合わせるだけでも十分な修行になる。…と言うか僕らも混ざって模擬戦をしたりする。結構楽しい。
 霊術と言えば、那美さんと久遠も使うようになったが…。
 那美さんは相変わらず戦闘系は苦手なようだ。一応、一般人には早々負けないようにはなっているし、回復や防御はアリサやすずか以上だ。
 そして、久遠は…うん、やばい。霊術限定なら葵に迫れる強さを持ってる。大人モードによる全力に至っては、椿と葵じゃないと相手取れない程だ。
 さすがに望んで戦闘をする性格ではないので、実戦ではもっと弱いが。

 以前に会った蓮さんや、シーサーさんは…ほんの少ししか連絡を取っていない。
 シーサーさんは一度椿や葵に会いに来て、その際に蓮さんも探し出して交流したけど。
 だけど、それ以来は特に連絡を取り合ってない。
 まぁ、お互いにそこまで干渉しあう必要がないからな、気にする事もない。

「…ん?優輝君じゃないか」

「あ、ティーダさん」

 これまでの事をなんとなく振り返っていたら、ティーダさんと遭遇した。
 どうやら、休憩時間のようで、偶然僕を見つけたらしい。

「奇遇ですね」

「そうだな。…っと、そうだ。優輝君達にちょっと言っておきたい事があったんだ」

「……?」

「そのためには、この間の任務の事を言わなければな。実は―――」

 そういって、近くの椅子に座ってティーダさんは語り始めた。



「―――それで、君達を探していたんだ」

 説明が終わり、ティーダさんは僕らを見る。

「……それで僕らにお礼を言いに…」

「…ああ。後から見れば、あの攻撃を弾いたのは君から貰った御守りのおかげだと気づいてね。もしなければ、俺は死んでいたかもしれん」

 どうやら、つい先日にあった任務で、御守りが働いたらしい。

「いいですよお礼なんて。元より戦いなんて死ぬ可能性が高いんですから、ただ今回は助かったって思うだけでいいですよ。」

「む…そうは言ってもな…」

「気持ちだけで十分です」

 と言うより、気持ちだけがいいんだけどね。
 物で感謝されるよりは、そっちの方がいい。対価を求める気もなかったし。

「御守りを作ったのは私だけどね」

「…………」

「まぁ、私も礼の品はいらないけど」

 うん、事実を言っているだけなのに、椿の言葉が何故か刺さる…。

「…とりあえず、今回は仕方ないですけど、無茶はしないでください」

「優ちゃんも無茶をよくするけどねー」

「うぐ…そうせざるを得ない状況でしか無茶をした覚えはないんだけど…」

 今度は葵が口を挟む。…こっちも刺さるなぁ…。

「分かってる。ティアナがいるんだ。成人するまで、死ぬ訳にはいかない」

「そうですね。…家族、それも妹がいるのに死んでられませんからね」

「……君は毎度の事、そういう話になると随分重みのある事を言うな」

「………」

 …さすがに露骨すぎたらしく、ティーダさんにそう言われる。

「……数年前の話です」

「優輝?まさか…」

「少し話すだけさ。少しだけな」

 せっかくだ。一部分だけ話すとしよう。
 ティーダさんには同じ事になってほしくないからな。

「……まさか、君は…」

「…はい。僕には妹がいました。…もう、過去の事ですけどね」

「っ……」

「どうしてなのかは……まぁ、僕の力不足とだけ言っておきましょう」

 本来ならティーダさんに…と言うより、人に話す事ではないだろう。
 でも、同じ“兄”として、少しは伝えようと思った。

「だから、か…」

「…僕も一人の“兄”ですから。同じ“兄”として、選択を間違えないようにと」

「そうか…」

 家族…それも大切にしていた妹(もしくは弟)を喪うのは途轍もなく辛い事だ。
 それが自身の力不足が関わっているとなれば、なおさらだ。

「僕のように事情がある訳ではないですから、ティーダさんがいればティアナちゃんは大丈夫でしょう。…ただ、だからと言って貴方が死ぬような事はやめてください」

「…分かっているさ。さっきも言ったように、ティアナがいるのに死ぬ訳にはいかない」

 …うん。これならティーダさん自身が選択を誤る事はないだろう。
 問題は、外的要因での事だけど…こればかりはどうしようもない。

「…あ、そういえば、あの御守りは今持っているかしら?」

「御守り?一応、肌身離さず持っているが…」

「少し見せてもらえないかしら?」

 椿がティーダから御守りを受け取り、その中の御札を見る。

「…まだまだ持つけど、こっちの方がいいわね」

「中身の交換か。まぁ、そっちの方がいいわな」

 どうやら、改良型の術式を込めた御札と交換するようだ。

「…御守りだからあまり気にしてなかったんだが、魔法を弾くって、どういう物なんだ?それ…」

「どういうものかと言われましても…。次元世界のどれかには、魔力ではない力があったりするでしょう?地脈とかそう言った類の…」

「興味はあまりなかったが…聞いた事はあるな。…そういう話をするという事は、そっちの世界にもそういった力が存在して、その御守りは…」

「持ち主を守護する力が宿っている…。今回交換したのはより強力なものと言った所です。…と言っても、大抵はミッドチルダでも売られているような、形だけの御守りですが」

 霊力に関しては一応秘密にしておく。
 ちなみに、地脈云々の話だが、それは事実であると僕らは調べてあるし、管理局も知っている。ついでに言えば地脈の力は霊力で、実際は霊脈でもあるようだ。

「…と、いう事は高いんじゃないのか?相応の効果があるって事は…」

「値段にすれば高いかもしれませんね。まぁ、費用自体はほぼタダです」

「…そういえば、作ったと言っていたね」

「そうね」

 一応誤魔化すように言ったが、椿の“作ったのは私”と言う発言を覚えられていた。
 椿も少し迂闊だったような表情をしていて、動揺しているみたいだ。

「…次元世界によっては、独自の戦闘スタイルとかがあったりするから…まぁ、こういう事もおかしくはない。偶然知り合った君達が、偶然御守りの作り方を知っていた。…そう思う事にするよ」

「…心遣い感謝します」

 その動揺が、またもや気づかれてしまったのか、ティーダさんはそう言った。
 これだと、ぼかした言い方だった事にも気づいているのだろう。

「けど、それだとますます何かお礼した方がいいんじゃないかなと思うんだが…」

「あー…でしたら、この御守りの事は口外しない事を約束してください」

「そう来るのか。まぁ、当然だな。分かった。そっちにとっても都合の悪い事があるのなら、俺は口外しないと約束しよう」

「助かります」

 …これからは、もっとばらす可能性を減らそうか。
 と、言うよりも…同じ“兄”として、妹を大事にしているティーダさんだから、ここまでお節介を焼いて口を滑らせたのかもな…。

「では、僕らはこれで」

「ああ。呼び止めて悪かったな」

「いえ、これからも無茶しない程度に頑張ってください」

 話も終わった事なので、席を立って僕らはティーダさんと別れた。
 色々と口を滑らしてしまったけど…これからは用心しないとな。





「…………」

「…………」

「…………」

 ティーダさんと別れ、適当に買い物をして帰る…はずだった。

「…なぁ」

「皆まで言わないで。分かってるから」

「でも見過ごせないよねー」

 見上げる先には、ナイフを持った男が、マンションのベランダで少女を人質に何かを叫んでいた。...典型的な立てこもり事件と言った所だろうか。

「…僕って間違いなく巻き込まれ体質だよな」

「そうね」

 管理局も既に集まっており、誰かが前に出て交渉しようとしている。
 だが、やや錯乱しているのか、犯人は聞き入れようとしない。

「(…という割には、周りは結構見えているタイプだな。アレ)」

 下から魔力弾などで狙うのは可能だろう。
 だが、そんな素振りを見せればすぐに犯人は気づいていた。
 今の所人質に手は出されていないが、次に変な素振りを見せれば命はないだろう。
 例え不意を突いた一撃を入れようとも、それで倒せなければ人質がアウト。もしくは盾にされてどの道アウトになってしまう。

「千日手だね」

「となると、使うべき手段は…」

 マンションから遠く離れた、同じくらいのビルへと視線を向ける。
 そう。この場合、最善の手は知覚外からの一撃必殺。すなわち…。

「……狙撃か」

「人質に当てずに狙撃…結構難しいわよ?」

「だけど、それ以外に確実な方法はないさ。僕らなら何とかできるかもしれないが…」

 霊力による気配遮断ならば、気づかれない可能性は高い。
 だけど、要請が出ていない今の僕は、一般市民と変わらない。
 霊術を魔法と誤魔化したとしても、無許可での行使は厳禁だ。
 …さすがにいざとなればそんなの関係ないが。

「狙撃、上手くいくかな?」

「分からんな…」

「遠距離からの狙い撃ちは精神状態にも関わってくるわ。射手が冷静且つ腕が良ければいいのだけど…」

 ……なんだろうな。嫌な予感がする。

「…椿、もしもの時は、代わりに犯人を頼む」

「優輝?」

「狙撃の保険さ。誤射の場合、僕が気を逸らすから、その隙に椿が撃ち抜いてくれ」

「…わかったわ。葵、行くわよ」

 手順は簡単だ。
 魔法によっては、離れた場所にシールドを張る事ができる。
 もし、誤射で人質に当たってしまいそうな時は、それで防ぐ。
 少なくとも、狙撃という事で犯人は動揺するだろう。
 人質に誤射しなかったとしても、それは変わらない。
 そこで、その隙に椿が近場のビルから矢で射貫いてもらう。
 もちろん、葵とユニゾンしているから非殺傷設定の魔力の矢だ。

 これで、誤射しなければそれでよし。
 もし失敗しても、僕らがフォローするから無事解決できる。
 …その場合、無断で魔法を使用したとして厳重注意とかされるがな…。

「(僕らがそれなりに離れた位置にいて良かった)」

 僕らは、マンションを遠目で見るぐらいの位置で、この事件に遭遇した。
 つまり、見つからないように適当な建物の屋上に移動する事など容易いのだ。
 そのため、僕はシールドが張れる範囲内の建物。椿たちは気配を消しつつ狙撃しやすい建物の屋上に、それぞれ移動した。

「(さて、何事もなければいいが…)」

 実際、これは無駄に用心を重ねただけだ。
 少し嫌な予感がして、対策に対策を重ねるような、神経質な程の用心だ。
 だから、杞憂に終わるに越したことはない。

「『椿、そっちで狙撃手の確認はできるか?』」

『ちょっと待って頂戴。…………見つけたわ。犯人に向かって五時の方向にある建物よ。…若干、緊張しているわね』

「『なるほど。…まぁ、狙撃で緊張するのは仕方ないだろう』」

 言われた通りの方向を見ると、一人の男性が狙撃用のデバイスを持っていた。
 …後は、成り行きに応じて動くだけだ。

「(っ…!来た…!)」

 狙撃手から魔力の弾丸が放たれる。
 そして、その軌道は……。

「っ、リヒト!」

〈分かっています!〉

 …誤射する角度だった。
 咄嗟に僕は動き、人質の少女の顔の前に障壁を張る。
 僕が張れる遠距離障壁の限界範囲ギリギリなため、強度は期待できない。
 だが、非殺傷だったおかげか、弾丸は少女から逸れ、事なきを得た。

「『椿!』」

『任せなさい!』

 狙撃され、さらにはそれが少女に命中しかけた事で犯人は大きく動揺していた。
 そこへ、すかさず椿が矢を放ち、昏倒させた。

「…また嫌な予感が的中したか…。喪われた特典の影響が残ってるのか?」

 もし僕らが何もしなかったら、少女は片目を失明していたかもしれない。
 それほどまでに、危ない軌道だった。

「(…さて、事情聴取に付き合わないとな)」

 ふと、狙撃手の方へ視線を向ける。
 視力を魔力で強化して、狙撃手の顔を見てみると…狙撃手は顔を青くしていた。
 おそらく、僕が防いだとはいえ、誤射しかけた事が分かったのだろう。
 “やってしまった”。そんな感じの後悔が彼を責めているのだろう。

「優輝」

「椿、お疲れ」

「あれぐらい近ければ当然よ。…でも」

「…狙撃手の精神ダメージが相当大きいみたいだね」

「…………………」

 管理局が僕らの所までやってくる間、僕は狙撃手の事について考えていた。
 …後で、会った方がいいかもな。





「………ふぅ」

「しつこかったわね」

 事情聴取が終わり、僕らは一息つく。
 担当した局員が異様にしつこく聞いてきたので、結構時間がかかった。
 とりあえず、誤射による緊急事態だったのを認めてもらい、厳重注意で済んだが。

「うーむ、時間は…きついな」

「買ったものは霊術で無事だけど…夕飯に間に合うかしら?」

「外食で済ませようか。ここから近い場所は…」

 近くの飲食店を探し、僕らはそこで食べて帰る事にする。

「三名様ですね、こちらへどうぞ」

 案内された席に座り、メニュー表を見る。
 適当にメニューを決めて注文し、待ち時間を適当に潰そうとして…。

「……優輝」

「…ああ」

 僕の後ろ…隣接した席に座っている人の溜め息に、僕らは気づく。
 まず向かい側に座っている椿と葵が、遅れて僕が、その人物が誰か気づく。

「(…今日の狙撃手…)」

 この様子だと、相当落ち込んでいるようだ。
 …いや、この場合は後悔や罪悪感に苛まれていると言った所か。

「……………」

 本来なら、無関係な人間だ。
 そんな相手の悩みなど、聞く義理はないし、権利もない。
 ……だが…。

「………誤射した事、後悔してますか?」

「っ………!」

 その、今にも押し潰されそうな姿の彼が、どこか僕と同じ雰囲気だったからなのか。
 ……僕は、声を掛けていた。









 
 

 
後書き
用心しようとか思っていながらその日の内に首を突っ込む主人公。
まぁ、どっかの主人公にありがちな“超絶お人好し”をやっていますからね。

次回は狙撃手な彼視点から始まります。 
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