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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第04話:大人達の勝手な身の上話!?

 
前書き
第4話をUPします。
話はゲルマニアの首都へと移動しました。
このペースで続けていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。 

 
 こんにちは、アルバートです。

 本日はゲルマニアの首都『ヴィンドボナ』の皇城よりお伝えしています。

 前話でお話ししましたように母上の『お・ね・が・い・!』に端を発して、その天然ぶりで動き回ってくれた為に僕の名前がいきなり有名になってしまった結果、皇帝にいらない興味を持たれ、3歳児にして、とうとうこんな所に呼び出しを受けてしまいました。
 出来れば目立たないようにしたかったのに、皇帝に呼び出しを食らうなんて、母上のせいで完全に予定が狂ってしまいました。

 屋敷から馬車に揺られて3日もかけて、ようやく『ヴィンドボナ』に着きます。
 それにしても、どうして馬車という物はあんなに乗り心地が悪いのでしょうか?
車輪が木枠で車軸の軸受けが直接車体に取り付けられているのではショックがちっとも吸収されません。その上、道路が未舗装で凸凹だらけですから座席に座っていても転がりそうになります。
 せめて、車輪にはゴムのタイヤを取り付けて、軸受けは板バネを介して車体に取り付ける位やれば振動も緩和されると思うんですよね。ついでに座席にもクッションを着けて座り心地を良くしましょう。 それに主要な街道は簡易舗装位はしなければなりません。これは改革計画の中に入れておきましょう。

 皇城には畏れ多くも、正門から馬車のまま入城し、大きな入り口ドアの前に馬車を横付けしました。これも普通では有り得ません。
 こんな事が出来るのは皇族や他国の国賓など、よほど高位の方でなければ許されるはずがないのです。
 僕が目を白黒させている間にそんな事を堂々と実行した両親は、あっけにとられている僕を引き連れ、そのまま女官の方に案内されて、ずいぶん奥の方まで歩いて行きます。ずいぶんと物馴れた様子なのですが、幾らなんでも皇城なんて所に慣れているなんて事はないですよね?
 ようやくたどり着いた大きなドアを見上げて思わず溜息をついてしまいました。
 ここが所謂謁見の間のようで、女官の方がドアの両脇に立っている近衛騎士に僕たちが付いたことを報告すると、近衛騎士がドアを開けて、中に向かって大きな声で僕たちの到着を報告しました。
 そして、その声の反響が収まらないうちに、僕は両親に引っ張られて中に入ります。

 正面に3段ほど高くなった所があって、そこに煌びやかな椅子があり、髭を生やして大きな身体をした立派な人が座っていました。あの人が皇帝なのでしょうね。

 その段々の5mほど手前まで進んで父上と僕は片膝をついて頭を下げ、その隣で母上がスカートの裾を軽く持って膝を屈めて頭を下げます。
 臣下の礼を取った後、父上が顔をあげてご挨拶をしました。

「皇帝閣下、お久しぶりでございます。このたびはお召しにより妻子共々参上いたしました。」

「久しぶりだな、ボンバード伯爵。突然呼び出してすまなかった。しばらくぶりだがソフィアも元気そうで何よりだ。」

「有り難うございます。皇帝閣下。そして、こちらが当家の嫡男アルバートでございます。」

 思ったよりも結構フレンドリーな挨拶ですね。ただの伯爵あいてにしてはちょっと親しすぎるような気もしますが。まあ、僕としては、ここは精一杯真面目に御挨拶と行きましょう。

「皇帝閣下。お初にお目にかかります。ただ今ご紹介にあずかりましたアルバート・クリス・フォン・ボンバードにございます。以後、よろしくお願いいたします。」

 どうですか、僕だってこれ位のことは言えるんですよ。皇帝もちょっと驚いているようです。

「ほほう、未だ3歳と聞いておったが、その物言いはまるでいっぱしの大人のようだの。見た目は確かに子供だが、もしかしておぬし、歳をサバ読んでおらぬか?」

 ちょっと気張ってやり過ぎましたか。どこかのメガネの探偵少年ではないのですからここはごまかしの一手ですね。少しおびえたふりをしてめいっぱい子供っぽく、母上のスカートに縋り付いてみましょう。

「母上、教えて頂いたとおりのご挨拶を致しましたが、いけなかったでしょうか?」

「あらあら、アルバート。いいのよ猫なんかかぶらなくても。いつも通りのご挨拶で、とても良かったと思うけど、でも、もう少し子供らしいご挨拶も覚えましょうね。」

 母上、ちっともフォローになっていません。もう少しましなフォローをお願いします。

「ハッハッハ。まあ良い。ところで今日おまえ達を呼び出したのは他でもない。なにやら最近素晴らしい効き目の秘薬が作られたと巷の噂で耳にしてな。さっそく家臣に調べさせてみたのだが、その秘薬を作ったのがおまえ達の子供だと言うではないか。まだ顔を見たことがなかったからこの機会に一度会って、どのような子供なのか見ておこうと思い呼び出したのだが、アルバートと言ったか、なかなか面白いぞ。さすがはジョンとソフィアの子供だ。」

「恐れ入ります。アルバートの魔法の訓練があまりに進みますので、早めに必要かと思い自分の部屋を与えたのですが、私にも内緒で見たこともない秘薬を作っているものですから驚きました。アルバートは隠しているつもりだったようですけど、屋敷の中で魔法を使って秘薬など作っていれば私にはすぐに解ります。」

 そう言って僕の方をちらっと見ます。どうも僕は油断していたようですね。母上にこれほどの力があるとは気づきませんでした。何しろいつも天然でしたからね。

「かなりの効果がある秘薬だということは感じられたのですが、実際の効果を確かめたかったので、アルバートから少し分けて貰い、ちょうど近くで重病人が出たというので早速試してみましたの。そうしたら、私が作ったどの秘薬よりも素晴らしい効き目で、瀕死の重病人が投与して半日たらずで全快してしまいました。アルバートは未だ水系の魔法はラインレベルのはずなのですが、必ず私より腕の良い水メイジになりましょう。お父様のお眼鏡にかなうこともできましたようですし、私も嬉しく思っております。」

 えっと?なんか今色々と引っかかる言葉が飛び交っていたような気がしますが?ジョン?ソフィア?なんで皇帝がファーストネームで呼んでるんですか?それに母上、お父様って誰ですか?

「クックック!鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているが、おまえ達、アルバートにまだ話していないのか?」

「はい、実はまだ内緒にしていて話しておりませんのよ。オホホホ・・・」

 オホホホ・・・って、何楽しそうに笑ってるんですか?父上も皇帝もそのニヤニヤはキモイので止めて下さい。

「やれやれ。それではアルバートも話しについて来れず、困ってしまうだろうに。いい加減、話してやったらどうだ?」

「そうですわね。もうちょっと黙っていて楽しみたかったのですけれど。」

 母上はそう言って僕をみると、にんまりと笑いました。

「それではアルバート、今まで話していなかったボンバード家の裏話を教えてあげるわ。知っている人は知っているし、知らない人はまったく知らないって言う秘密のお話よ。
 実はね私は皇帝閣下の娘なの。一応第三皇女になるわ。お姉様が二人と妹が四人いる。
 それからお父様は昔、皇帝閣下に選ばれて、このゲルマニアの魔法研究所の初代所長を勤めたの。魔法研究所の立ち上げから、数々の魔法や技術の研究・開発を指揮して、今のゲルマニアで使われている鉄鋼業の技術開発とか、すばらしい功績を挙げたことで皇帝閣下の絶大な信頼を得ていたのよ。
 私は、その頃皇城に頻繁に出入りしているジョンと出会ってね、もう一目惚れしちゃったの。それでお父様にお願いして結婚させて貰ったんだけど、どう驚いた?」

「はっ?母上、何の冗談ですか?その話でいけば私は皇帝閣下の孫になってしまいます。いくらなんでもそんなのあり得ないでしょう?いや、あり得ないって言って下さい。」

「残念だったなアルバード。ソフィアの言っていることは全て本当だぞ。皇帝閣下はおまえが生まれた時にとても喜ばれ、色々なお祝いの品を下された。まだおまえには見せていないが、全部しまってあるから今度ゆっくり見せてやろう。どうだビックリしたか?」

 父上もニヤニヤ顔で言っても冗談にしか聞こえません。両親揃って3歳児をショック死させたいのですか?

「そればかりではないぞ。今のところ儂には世継ぎの男子がいない。それにソフィアの姉妹達にも男の子は生まれていないのだ。つまり、現在おまえだけが我が皇帝家の血を引くただ一人の男子と言うわけだ。儂の孫として皇位継承権第一位、言わば皇太子と言っても良い立場になる訳だが、どうだ、うれしいだろう?」

 母上や父上ばかりでなく、皇帝はいったい何を言っているのでしょうか?僕が皇帝の孫?継承権第一位の皇太子?神様いったい何を考えているんですか?僕は平穏な人生を送りたかったのにこんな無茶なストーリーはないでしょう?

 困った大人3人のトリプルコンポにより、受けた精神的ダメージは3歳児にはちょっと厳しすぎたようで、この段階で僕の意識は途切れてしまった。
 ああっ、何なんだこの大人達は………………。

 それからどのくらい時間がたったのでしょうか。気がつくと豪華な部屋で柔らかな布団にくるまれていました。ここはお約束の一言でしょう。

「知らない天井だ………。」

 ベッドに寝ながらでも見える窓の外の景色は夕焼け色に染まって、部屋の中までピンク色になっています。この景色から判断するとまだ皇城にいるようですね。
 ボ~としていると扉が開いて女の人が入ってきました。どうやら皇城の女官のようですがかなりの美人です。もしかして面接試験には美人の選抜基準でもあるのでしょうか?なんて考えていたら目が合ってしまいましたね。

「あっ!お目覚めですか?御気分はいかがですか?」

「はい、気分は良いです。ところで此処は何処ですか?それから私の両親は何処にいるのでしょうか?」

「ボンバード伯爵様は伯爵夫人と御一緒に皇帝閣下と晩餐中でございます。此処は皇城の中にあるボンバード伯爵家専用の御部屋でございます。アルバート様がお倒れになられましたので此方の御部屋でお休みさせるようにとの皇帝閣下の御指示で私共がお連れいたしました。申し遅れましたが、私は女官のミッシェルと申します。御気分がよろしければ食堂に行かれますか?」

「ありがとうございましたミッシェルさん。あらためまして私はアルバートと申します。それでは食堂まで連れて行ってくださいますか?なんかとってもお腹が空いてしまいました。」

「畏まりました。それでは、まず此方の服にお召し替え願います。」

 ミッシェルさんに服を着替えさせて貰い、案内されて食堂に行きました。食堂までは少し歩きましたが、ミッシェルさんが気を遣って手を繋いで、良く話しかけてくれるので退屈しないですみました。とても優しい人で、16歳だそうです。皇城の女官になるのですから優秀なのでしょうね。
 食堂について扉を開けて貰い中に入りました。この食堂も本当に豪華で広々としています。父上と母上は皇帝を挟んでテーブルに着いていました。周りの壁際には女官の方や執事風の人が10人位並んでいます。父上達三人の姿を見たとたん、気を失った原因を思い出してもう一度気を失いそうになりましたが、何とか我慢できました。

「あら、目が覚めたのアルバート。よく寝たわね。もう晩餐の時間よ。あんまりよく寝ているから先に頂いていたわ。」

「まあまあ、寝る子は育つと言うじゃないか。よく寝る事は良い事だよ。」

「その通りだな。よく寝てよく食べて、そしてよく遊ぶ。子供にはもっとも大事な事だぞ。さあ、こっちに来て座りなさい。」

 いったい誰のせいで気を失っていたのか、小一時間ほど問い詰めたいところですが、仮にも両親と皇帝が相手ですからとても勝てるとは思えません。仕方ないので大人しくテーブルの母上の隣に座りました。
 すぐに僕の分の食器が並べられます。テーブルの上のメニューは鶏の照り焼き風とコンソメスープ。パンにサラダに魚のマリネみたいなのもありますね。晩餐なので量も種類もかなりあります。見ていると執事風の人が僕の分を取り分けてくれました。子供用なのでしょう、小さめに切り分けられています。

「それでは、いただきます。」

 手を合わせて、いつもの習慣で食前のご挨拶をしたら皇帝から聞かれました。

「変わったことをやるな。いただきますとはどんな意味があるのだ?」

「家にいる時も、食事前は必ずこの挨拶をするんですよ。家ではアルバートだけなんですが、やっぱり変わっていますわね。」

「いただきますとは東方の習慣で、私たちが生きるためにいただく動物や植物の命に感謝するという意味と、いつも料理を作ってくれる人に感謝するという意味があるそうです。前に読んだ本に書いてあったのですが、僕もその通りだと思ったのでそれ以来この挨拶をするようにしています。食後はごちそうさまでしたという挨拶をします。」

 一応、東方の習慣と言うことでごまかします。生前の日本ではごく当たり前のことなのですが、ハルケギニアではこの習慣はありませんからね。

「それはめずらしい習慣だな。しかし東方の事が書かれている書など、そのような難しい本を読んでいるのか?」

「アルバートは3歳になった頃から本ばかり読むようになって、もう屋敷の書庫にある本はほとんど読んでしまったようですわ。最近では出入りの商人に珍しい書物が手に入ったら持ってきて欲しいと頼んでいるようなのです。あまり本ばかり読んでいるのも身体に悪いと思うのですが、自分で時間を決めて午前中は勉強、午後は外に出て身体を動かすようにしていますから、無碍に止めることも出来ません。近くに同じ年頃の子供もいませんから遊び友達も出来ませんし、少し心配なのです。」

「なに、そのように自分で決めて実行できるとは、誠に素晴らしいことでわないか。心配することも無かろう。そうだ、本が読みたければ皇城の書庫に入ることを許そう。自由に入って読むが良い。まあ、皇城まで来ることは難しいだろうが何とか方法を考えてみるのも一興だろう。ところで身体を動かすのはどんなことをしているのかな?」

「はい、身体を動かすのは午後になりますが、軽く走ってから身体を柔らかくする運動、筋力を付ける運動、その後木剣を使って素振りを行います。最後にまた軽く走って終わりになります。後は身体の手入れを充分にして夕食の時間まで本を読んで休みます。」

「3歳でそこまでするか?いったい何時からそのようなことをしているのだ。」

「3歳になってすぐの頃ですから、もう8ヶ月位続けています。少しずつ走る距離を伸ばしていますが、なれると気分が良いのですよ。」

 メイジだからって身体が鈍っていてはろくに戦えませんからね。
 結局、この日は皇帝にあきれられたり、誉められたりと忙しい一日でしたが、皇帝の孫だったなんて冗談にしかならない話が出た他は、話もきちんと出来たと思いますし、概ね良い感じで終わったようです。納得は出来ませんが。

 ついでに、このまま泊まっていくようにと言われて、さっき目が覚めた部屋で休むことになりました。
 父上と母上はまだ皇帝とお話ししながらお酒を飲むと言っていましたので、僕は先に部屋に戻ります。戻る時も女官のミッシェルさんに連れて行って貰いましたが、この人は優しくて良い人ですね。着替えも手伝って貰って布団にすっぽりと収まりました。

 では、お休みなさい。 
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