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提督はBarにいる。

作者:ごません
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キスの味はさくらんぼ?・その1

 ダーツマシン、ビリヤード台、麻雀卓。これまでも艦娘達の要望と彼女達が稼いでくれた予算によって、様々な遊び道具を入れてきた『Bar Admiral』だったが、今まで無かった物をついに導入する事にした。カラオケである。妖精さんと明石に防音壁の工事を頼み、それが終わった所でカラオケマシンを購入し、設置。勿論最新型のいい奴を購入……予算はこいつらが稼いだ金だからな、せめて良いのを入れてやらにゃ。お陰で今ウチの鎮守府には空前のカラオケブームが到来している。今も空母連中と何故か駆逐艦達が飲めや歌枝の大騒ぎをして、スッキリした顔で帰っていった。その熱気が冷めやらぬ中、歌を聞きながら酒やツマミの支度をしていた俺と早霜は先程までの歌の感想を語り合っていた。

「いや~、アイツらあんなに歌上手かったんだな」

「歌唱力よりも私は曲のチョイスに驚かされましたが」

「特に空母連中な。加賀は演歌かと思ったら……」

「まさかのきゃ〇ーぱみゅぱみゅ、しかも振り付けまで完璧でしたからね」

「ものっそい笑顔だったもんな」

「その点、赤城さんの歌謡曲は流石でした」

「あぁ、チョイスも良かった。久し振りにあんな上手い美〇ひばり聞いたよ」

「二航戦のお二人が歌っていた曲、アレ何だったんですか?私存じ上げないのですが」

「あぁ、P〇FFYとか解んねぇかお前らだと。俺からしたらすげぇ懐かしかったが」

「後は翔鶴さんの演歌でしょうか」

「あぁ、津軽海峡〇景色な。コブシも効いてたし、モノホンの演歌歌手かと」

 瑞鶴は……まぁ、頑張れ。後は第六駆逐隊の4人が揃ってミ〇モニ。の曲を振り付きで歌ってたのが印象的だったな、チョイスが微妙に古いが、丁度4人だし可愛らしいと思ったな。ただ、学芸会の発表に見えたってのは黙っておいてやろう。

「んで、お前は飲み足りなくて残ったってワケか?荒潮」

「うふふふふふ、せ~いか~い♪」

 トロンとした表情でグラスを傾けているのは朝潮型4番艦の荒潮だ。先日改装して改二になってから、それまであまり興味の無かった酒に興味が湧いてきて、ここの所毎日のように飲みに来ているらしい。特に酔っ払ってもあのマイペースさが崩れる事はなく、酒に強いタイプの様だ。

「で?そろそろ飲み干してしまいそうだが、お代わりは?」

「勿論もらうわぁ……でも、何のお酒にしようかしらぁ?」

 左手の人差し指を顎に当て、う~んと小首を傾げる荒潮。

「なら、先程荒潮さんが歌っていた『さくらんぼ』を使ったお酒などいかがでしょうか?」

 早霜、ナイスアシストだ。

「あぁ、そういや歌ってたな『さくらんぼ』。あぁいうアップテンポな曲が好きなのか?」

「うん、だって元気になるでしょ~?」

 荒潮はそう言いながらニコニコと笑っている。

「お、って事は好きな男でもいるのか?ん?」

 荒潮が歌っていた大〇愛の『さくらんぼ』は、ラブソングだ。今の満ち足りたような笑顔を見る限り、誰か好きな相手を思い浮かべて歌っていたように見えたんでな。

「あ、あらあら?どうしてそんな事言うのぉ~?」

 荒潮は俺に言われた事に焦ったのか、酒で少し赤くなっていた頬を更に赤く染める。その慌てぶりから見ても、ますます怪しいな。まぁいいさ、その話は追々、酒の肴にでも聞くとしようか。





「さぁてと、荒潮……どっちが飲みたい?」

 俺はそう言って、カウンターの上にガラス瓶を2つ、ドンと置いた。

「あらぁ?何これぇ」

「これか?これはどっちも『チェリーブランデー』と呼ばれる代物だが……実は中身は全くの別物だ」

 世界的に見ても、チェリーブランデーと呼ばれる酒には大きく分けて2種類があり、その作り方も味わいも大きく違う。1つは本格的なブランデーの作り方をしたもの、そしてもう1つは、梅酒のようにブランデー等のスピリッツにサクランボを漬け込んで味や風味を移した物だ。

 そもそもブランデーってのは『焼いたワイン』ってのが名前の由来で、ブドウの醸造酒……つまりはワインを蒸留・熟成させた酒だ。これはつまり、ブドウのように甘く醸造酒に加工が出来る果物であればブランデーに仕立てる事が出来るという事になる。これらはフルーツブランデーと呼ばれ、リンゴやスモモ、ミカン、木苺等から作られる事が多い。中でもサクランボは有名で、『キルシュヴァッサー』等の有名なボトルが多い。

 同じくチェリーブランデーと呼ばれている酒にはもう1つの作り方がある。先程も言ったが梅酒に良く似た作り方の酒だ。どちらかというとリキュールに近いんだが……何で同じ名前になったかまでは定かじゃねぇ。ベースとなるスピリッツにサクランボと砂糖、隠し味程度にハーブや柑橘類等と漬け込む事が多く、有名なボトルとしては『チェリー・ヒーリング』がある。ウチで仕入れてるのは有名所の『キルシュヴァッサー』と『チェリー・ヒーリング』だ。



「ふ~ん……どういう飲み方が美味しいの?」

「そうだな……『キルシュヴァッサー』はストレート、『チェリー・ヒーリング』はカクテルかな」

 『キルシュヴァッサー』は蒸留酒であるために度数が高い。しかしそのサクランボのいい香りや爽やかさを活かすにはカクテルよりも水割りやストレートで酒自体の味を楽しむのに向いている、と言えるだろう。本場ドイツのシュヴァルツヴァルト地方ではキルシュヴァッサーをストレートで飲んだ後に、ビールをチェイサーにして腹の中のアルコールを希釈してやるんだ。キルシュヴァッサーはサクランボの甘味と酸味が前面に出てくるが、後味に仄かな苦味が混じる。それがまたビールを引き立ててくれる。そしてビールを飲む事で口の中がリセットされ、再びキツいのをグイッとやりやすくなる。

 『チェリー・ヒーリング』に代表される作り方のチェリー・ブランデーはリキュールに近い物だ。ソーダ割りや水割りでも十分に美味いが、真価を発揮するのはやはりカクテルだろう。以前高雄に出した事もある『シンガポール・スリング』を始め、意外とこの酒を使ったカクテルレシピは多い。

「さぁ、どっちにする?」

「そうねぇ……甘いのが飲みたいから、こっちにするわぁ♪」

 荒潮が選んだのは『チェリー・ヒーリング』のボトルだった。

「カクテルの種類はお任せか?」

「そうよぉ、私解らないからぁ……提督に教えて欲しいわぁ♪うふふふふふ♪」

 その笑い方といい空気感といい、独特の物があるなぁ荒潮には。

「んじゃまぁ適当に作ってくわ。ツマミも適当でいいか?」

「はぁい、お任せしま~す♪」

 んじゃ、まずはやっぱりシンガポール・スリングかな。


《おさらいの意味も込めたシンガポール・スリング》

・ドライジン:45ml

・レモンジュース:20ml

・チェリー・ブランデー:15ml

・炭酸水:適量

・砂糖(またはガムシロップ):1/2tsp


 まずはドライジン、レモンジュース、砂糖をシェイカーに入れてシェイク。砂糖が溶けるようにしっかりとな。しっかりとシェイクできたら氷の入ったタンブラーグラスにシェイカーの中身を注ぐ。

 タンブラーの中を炭酸水で満たし、チェリー・ブランデーを注ぐ。仕上げにマラスキーノチェリーを飾ったら完成だ。


「さぁ出来たぞ、『シンガポール・スリング』だ」

「甘くて美味しいわぁ♪」

 荒潮はタンブラーに挿したストローでチューチュー啜っている。さて、何をツマミに出してやるか……そうだ、敢えてツマミもサクランボ尽くしにしてやるか。甘い物も酒に合わないなんて事は無いしな。
 
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