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タガメ

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第七章

「夏の夜に田んぼのところに行けばな」
「見られますよね」
「こっちはな、けれどな」
「タガメになりますと」
「俺も見たことがないしな」 
 それ程までだからというのだ、課長にしてもこの市で生まれ育ってきている、それで市の虫のことも知っているのだ。
 だからだ、夏樹にも言うのだ。
「難しいな」
「そうですね」
「ああ、そこまで奇麗な水にするなんてな」
「そうですよね」
「本当にどうするかだな」
「真剣に考えてます」
「市全体でタガメがいる位自然なままの奇麗な水にするとかな」 
 課長はこうも語った。
「まずな」
「無理ですね」
「現実としてはな」
 それはというのだった。
「農薬も開発も全部見直しとか止めるとかな
「現実では無理ですね」
「そんなこともう出来る筈がない」
「自然に帰れとはいきませんね」
 ルソーの有名な言葉もだ、夏樹は思い出した。
「やっぱり」
「ああ、人間は結局文明の中で生きてるんだ」
「それならですね」
「ある程度はそう出来てもな」
「完全には出来ませんね」
「そんなことを言ったら野蛮人になるさ」
 課長は笑って夏樹に語った。
「そうしようって思ったらな」
「市政も農業もですね」
「何もないさ」
 それこそというのだ。
「そうなるさ」
「そうですよね」
「そんな生活まず無理だ」
 文明の中にいる人間、つまり彼等がそうした生活に入られるかというと。
「もうな」
「その中でどうしていくか」
「難しいのは事実だ」
「本当にそうですね」
「しかしそれでもだな」
「やってみたいです」
「じゃあ必死に考えてな」
 具体的な案、それをだ。
「そうしてな」
「はい、やっていきます」
「そうしていくんだ」
 課長は夏樹に温かい声で話した、そしてだった。
 実際に考えていった、市のことを細かく調べていった。地形や産業のことまで。それぞれの家の場所や仕事までだ。
 そうして一つの結論が出た、その結論は。
「完全に農薬や除草剤、開発を止めることは出来ないですね」
「やっぱりそうだろ」
「はい」
 課長にだ、今度は仕事の合間の時に市役所の中で話した。
「そうでした」
「そんなことはもう日本の何処でも無理だ」
「そうですよね」
「それが現実だ」
「この市でも」
「そうだ、しかしその中でもな」
「やりたいならですね」
 夏樹は強い声でだ、課長に答えた。 
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