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タガメ

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第五章

「そして現実を深く知りね」
「そのうえで、ですね」
「環境への政策も勧めるといい」
「市長になってからの」
「もっと言えば公務員でも出来る」
 環境への政策はというのだ。
「市役所の中からもね」
「では」
「市役所の試験も受けてはどうかな」
 職員のそれもというのだ。
「そうしてみたら」
「それじゃあ」
「うん、考えてみるといいよ」
「わかりました」
 夏樹は教授に確かな顔で答えた、目は輝いたままだった。そしてその目のままであった。彼は実際に地元に一旦戻り市役所の職員試験も受けて無事に合格してだ。
 市役所職員としての生活もはじめた、勿論大学は卒業している。その彼に上司である課長は首を傾げさせて言った。
 昼食の時だ、近くの吉野家に誘ってそこで食べながら聞いたのだ。
「君の学力ならこの市役所どころか」
「県庁もですか」
「行けたと思うんだが」
「いえ、県じゃなくてです」
 牛丼を食べつつだ、夏樹は課長に答えた。
「僕はこの市のことを考えていまして」
「それでなんだ」
「はい、市役所に入りました」
「採用試験の面接で言ったそうだね」
 課長は自分の牛丼を食べつつ横にいる彼にさらに問うた、彼の丼の中には卵と紅生姜がある。二人共特盛だ。
「市の環境を奇麗にしたい」
「はい、タガメがいる様な」
「タガメねえ」
 その虫のことを聞いてだ、課長は言った。
「あの虫はね」
「課長が子供の時は」
「いや、もうね」
 課長は夏樹にすぐに答えた。
「いないよ」
「そうですか」
「見たことがないね」
「課長もそうなんですね」
「あれはそうそういないよ」
 課長は真剣な顔でこうも言った。
「他の水の虫もね」
「ミズカマキリとかもですね」
「本当に相当にね」
「水が奇麗でないとですね」
「この市はね」
 課長はさらに話した。
「農地も多くて産業はね」
「それ絡みですね」
「そう、そちらが有名で温泉もあって」
「その観光もありますね」
「そうだよ、ただね」
 ここでだ、課長はこうも言った。
「農業だからね」
「農薬ですね」
「それを使うからね」
「水がですね」
「そうした虫は農薬に弱いそうだね」
「はい、そうです」
 その通りだとだ、夏樹は子供の頃から学んできた知識を課長に話した。 
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