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ソードアート・オンラインーツインズ・リブートー

作者:相宮心
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SAO:tr1―双子の兄妹―

 
前書き
めっちゃ久しぶりですが、頑張って書きたいと思います。 

 
 その日、私達は心待ちにしていた一つのゲームにわくわくという楽しい感情を露わにしたのだろうか。体感したことのないような未知のゲームで遊ぶ事に、ゲーム好きの子供は誰だって心をたぎらせただろうか。
 RPGのジャンルを進化させ、まるでゲームの世界で入ったかのような味わいを体現させるVRMMORPB。
 ゲームの世界へフルダイブを可能にできる新しい家庭用ゲーム機となったナーヴギア。 
 そしてその最初のゲーム。魔法要素を無くし、武器による必殺技を主体としたソードアート・オンライン。
 一つ一つの明らかにされる事に、私達ゲーム好きな子供は必然と熱狂と期待を高めたのだろうか。
 そして当日になったその日、ゲーム好きの私達は誰しも無邪気な子供の様に、ソードアート・オンラインという世界で遊ぶ楽しさを疑いもしなかった。
 でもそれは同時に……。

 私達の日常が奪われるという意味を私達は知らなかった。
 
 私達兄妹も、皆が誰もがやりたがる新しいゲームを遊べる楽しみを抱えながら、何一つこの先、ゲームの世界へ閉じ込められるという真実を疑いもせず、ゲームの世界へと飛び込んだ。



「ぬおっ、ちょ、こらっ」

 剣を振るごとに赤髪に悪趣味なバンダナ男、クラインはまぬけそうな掛け声を漏らす。しかも狙っている青いイノシシ……この世界のモンスター相手を斬りつけることなく空気を切るばかりだ。
 ぶっちゃけ外野からすれば、下手としか言いようがない。
 
「やーい、へったくそ」
「う、うるせぇ! こっちはっておわっ!?」

 私が煽るとクラインが反応する最中、青いイノシシがクラインに向かって猛突進をしかけてきた。当然、よそ見をしていたクラインは吹き飛ばされて、草原をころころ転がっていった。
 その様子を見ていた私の横にいる男……キリトは笑い声を上げた。

「ははは……そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだ」
「いてて……んなこと言ったってよぉ、あいつ動きやがるんだぜ」

 クラインは情けない声で返しながら立ち上がる。
 いや、そりゃあモンスターなんだから動くでしょうよ。という挙げ足を取ろうかと思ったけど、難航しているのは確かだし愚痴りたくもなるよね。

「わた……ぼ、僕も初めてやるけど、ソードスキル使うのってそんなに難しいの?」
「いや、そんなことないよ。ちゃんとモーションを起こして」

 キリトは足元にある小石を右手で拾い上げる。同時に右腕を上げ投げるモーションを構え始めた。

「ソードスキルを発動させれば……」

 キリトが構え始めると小石が穂のかな翠色に輝く。
 キリトは慣れているのもあってか、小石が光ったことを見て驚くこともなく、流れる様に小石を投げ始める。
 投げた小石は鮮やかな光を引き、青いイノシシに見事命中させた。

「こんな風にあとはシステムが技を命中させてくれるよ」
「なるほどなるほど」

 ……なるほどと言っているけど、実はあんまりわかってはいない。でもなんとなくわかったので、私もキリト同様に小石を右手で拾い、投げる構えをした。
 要はソードスキルを使うにはタメてから一気に解き放つ感じ、だよね?
 そんな事を思っていると、私の右手に掴んでいる小石が光り輝いた。
 おおぉ……光ってる。で、後はこれを発動させる様に投げれば、システムが勝手に判定をしてくれる。
 先ほど小石を当てられた青いイノシシは怒ってキリトに向かって突進してきた。

「おりゃっ!」

 青いイノシシの横腹を狙うように小石を投げる。これも先ほどキリトが見せた様に私も小石を投げると鮮やかな光を引き、狙った所へと命中した。

「おお、当たった!」
「そうそう、そんな感じだ。けど、なんで小石?」
「いや、だってこれクラインのためにやっているじゃん? 私が倒したらなんか違くね?」
「別に狩場に『フレンジーボア』の数が限られているわけじゃないんだし、キリカもどんどん倒して慣れた方がいいんじゃないのか? というか元々、お前のレクチャーでもあったんだから遠慮する必要ないだろ」

 ……それもそうか。

「じゃあ、そうするよ(あに)
「その呼び方はここではしないんじゃなかったのか?」
「おっと、そうだったそうだった。ぼ、僕達兄妹が仲良くしているあんまり知られたくないからね」
「それ俺に言う必要なかっただろ」

 そんな話をしながら、私とキリトはクラインが青いイノシシ、正式名称である『フレンジーボア』にまた突進攻撃で飛ばされている所を見守っていた。
 実は私、キリカはいろいろと偽っている。
 一つ、ゲームのアバターは男にしているが現実は女である。
 そしてもう一つ、キリトの現実は私の双子のお兄ちゃんである。
 兄の影響やメディアなどの影響を受けた私はソードアート・オンラインを購入してプレイしている。
 私は事前に兄からソードアート・オンラインのレクチャー頼んでいる。兄はソードアート・オンラインのベータテストを受けているから遊び方を知っている。
だから兄と一緒にログインした後、真っ先に教えられたのは戦い方ではなく安くて強い武器を探す所からだった。兄についていき安売りの武器屋に駆けつけていたところに、クラインと出会った。

「ちょっとクライン。僕とキリトの動きを見てなかったの?」
「だってよぉ、モーションと言ってもこう……なんていうのか……」

 クラインは立ち上がると右手に持っているカトラスをひょいひょいと振り回す。クラインの中ではあんまりイメージ出来ていないっぽい。

「……初動で一回タメて、スキルが立ち上がるのを感じたら、なんかこう、ズバーン! て打ち込む感じかな?」
「ズバーンって……」

 私の曖昧な説明にクラインはイマイチな反応を示すも、カトラスを中段に構える。
 いい加減成功したいクラインは深呼吸して集中力を高める。腰を落とし、右肩に担ぐように曲刀を持ち上げる。
 すると曲刀の刃がオレンジ色に輝き、システムが反応させる。

「おりゃっ!」

 かけ声と共に左足で地面を蹴り上げ、お返しと言わんばかりに青いイノシシを突進する様に斬りつけた。
 これが武器を使ったソードスキル……。
先ほどまでぎこちない動きとは違って、流れるような動きと必殺技を食らわせたという心地よい効果音で相手を仕留める。
 青いイノシシはぷぎーという哀れな断末魔をすると、体がガラスの様に砕け散ってしまった。これは『フレンジーボア』を倒したというエフェクトなんだろう。
 
「うおっしゃああっ!」

 クラインはソードスキルを決めた事、あるいはモンスターを倒した事、もしくはその両方を達せした味わいを全面に出す様にガッツポーズを決めた。
 当然ちゃ当然だけど、リモコン持ってモンスターを倒すよりも現実の様に体を動かしてモンスターを倒す方が遥かに感動も興奮もでかいはず。現に私はフルダイブした時の感動と興奮が高まり過ぎて心臓が破裂しそうだった。

「初勝利おめでとう」

 兄はクラインにハイタッチを交わした。

「イエーイ、ハイタッチ!」

 私もその場のノリに合わせてクラインとハイタッチを交わした。

「でも今のイノシシ、他のゲームだとスライム相当だけどな」
「え、嘘だろ!? おりゃてっきり中ボスなんかだと……」
「なわけあるか」

 クラインの素で驚いているのか、またはわざと盛っているかは定かではないけど、兄の反応は苦笑いしていた。
 でもなんか楽しそうだった。ゲームをして楽しむというよりかは、人と交流して楽しいみたいな感じが伝わって来た。
 これぞ双子パワー。妹はだいたいわかっちゃう。

「最初はRPGに魔法を廃止するのはどうかと思ったし、魔法を出したい気持ちはあったけど……ゲームの世界で自分の体を動かすことだけでなんか十分になっちゃうね」
「へへっ、だよな! いやーSAO買って良かったぜ、ほんと」

 クラインは好きな物を共有する子供みたいに同意する。
 クラインはリアルではどういう人かはわかないけど、ソードアート・オンラインというゲームの世界にいるプレイヤー誰しもが子供の様に楽しんでいるのだろう。
 
「よし、この調子で次行くか?」
「そうだね。よし、クライン。僕達は初心者同士だからどちらか多く倒せるか勝負しようよ」
「おっしゃ、その勝負乗ったぜキリカ!」

 ソードアート・オンラインが配信された日、私とクラインは無邪気にこの世界を堪能していた。訳あって、兄であるキリトは経験と知識を持っている故に達観している事があったけど、そんな私達を見守る様にどこか楽しんでいる様子が伺えた気がする。
 どこまでも広がる草原で私達が楽しみを満喫。気がつけば、辺り一面に夕陽色に染め上げられていた。

「しっかしよ……ここがゲームの中だなんて、信じられねぇよ。これを作った奴は天才だ……もう俺は思い残す事はないかもしんねぇ」
「たく、大げさだな」
「でもキリト、大げさにならないのは無理はないんじゃない? この景色を見ていると……自然とそう思えるよ」

 私達は戦闘する事を一時中断して、四方に広がるフィールドを眺めていた。どこかの海外にありそうな、見ていて気持ちい光景を現実の様に見ている。
 クラインが大げさに言うのもわかる。何もかも幻想に見えるんだから。夕陽があまりにも輝いているせいかもしれないのあるけどね。

「まあ、キリトはフルダイブに慣れちゃったから、あんまり感動はしないかもしれないけどね」
「いや、別にそんな事ないけど……そういえばクラインはキリカと同じ、ナーヴギア用のゲーム自体も、このSAOが初体験なんだっけ?」

 ちょっと、なんで話逸らすの?

「おうよ。といっても、SAOが買えたから慌ててハードも揃えたって感じだな」

 初回の出荷分はたったの一万本。しかも限定千人のベータテストの応募の時点で十万人ぐらい殺到したそうだ。当然、一万本あったSAOは瞬時に完売された。
 こうして今、SAOが遊べるのも幸運でしかないと思う。
 もしかしたら一生分の幸運を先払いしてしまったのかもしれない。

「じゃあ、僕と同じだね」
「なんだキリカもか。たった一万本の狭き門を潜り抜けたんだな、俺達はラッキー組だな。ま、それをベータテストに当選しているキリトの方が十倍ラッキーだけどよな」
「まあ……そうなるかな」

 私は兄妹故に知っていたけど、クラインは兄ことキリトがベータテストを受けたと見抜いたのは、兄の迷いない行動を見てベータ経験者だと見当つけていたからだ。そこで兄に私と同様にレクチャーしてくれたと頼んできて今に至っている。

「なぁ、キリト。ベータの時はどれくらい行けたんだ?」
「二ヵ月で八層までしか行けなかったよ。でも今度は一ヵ月もあれば十分だけどな」

 気軽にかけたクラインの問いに、兄は不敵な笑みを浮かべて答えた。

 ソードアート・オンラインの舞台となり世界となっている浮遊城『アイングラッド』
 全百層に構成され、一層ごとにダンジョンとフロアボスが設置している。
 現時点では一層でしかいられないけど、その上の層に行くにはその層のフロアボスを倒さないと先へ進めない。私達プレイヤーの役目は百層を目指す事が最終目標である。

「でも二ヵ月で八層しか行けなかったのね」
「そりゃあ、いろいろと試したい事があったし、なんだかんだ言ってもベータテストだ。やれる事だけはやったつもりだ」

 ちょっと煽っても余裕の態度を示す兄。思えば、ベータテスト期間中の兄は活き活きしていたというか、SAOの事だけしか考えていなかったというか、子供がわくわくしながらゲームをする子供の様だったわね。いや、中学二年生はまだ子供だよね。
 でもその反動、ベータテストが終わったら喪失感は……なんか笑えたわね。

「おめぇ、相当ハマっているな」
「ゲームバカですよ、この人は」
「おいおい、キリカ。それは褒め言葉だぞ」

 そんな他愛のないやり取りをしつつ、私達はもう少しだけ雑談をしていた。

「さて、二人共どうする? 勘が掴めるまで、もう少し続けるか?」
「ったりめぇよ! ……と、言いてぇところだが……」

 兄はクラインに訊ねると、クラインはお腹を抑えた。
 
「トイレ行きたいの?」 
「違げぇよ! メシだ、メシ!」

 そうかもうそんな時間か。なんだかんだで結構経っているし、人によっては夕食時だよね。
 私は視界の端に表示されている時刻を確認した。

「あぁ……もう五時過ぎているのね」
「そういうわけだから腹減ったし、俺は一回落ちるわ。へへっ、五時半にはアツアツのピサを注文しといたんだぜ」
「準備万端だな」

 呆れ声を出す兄に、クラインは胸を張る。

「おうよ! 飯食ったらまたログインするからよ。あ、そうだ。俺、飯食ったら他のゲームで知り合った奴と『はじまりの街で』落ち合う約束をしてるんだ。どうだ、あいつらともフレンド登録しねぇか?」
「そうだな……」

 私は気軽に返答しようと思った矢先、隣にいる兄が口ごもってしまう瞬間を見てしまった。
 ……正直言えば、兄は友達作りが苦手だし、ネガティブだし暗いし、コミュ障気味で、人付き合いが苦手なタイプである。本来だったら、クラインのレクチャーを頼まれて引き受けたのも珍しいと言える。
 そしてその割にはキザな言動を取るところがあるから困った兄である。
 でも私もあんまり人の事言えないけどね。言うほどポジティブな性格じゃないし、人付き合いもそこまで上手くはない。友達百人作るんだったら、五人ぐらいで満足しちゃうタイプだと私は思っている。
 で、兄の歯切れが悪い理由は、紹介した人達と上手くやれるかどうかを気にしているんだろう。
 兄が困っているのなら、妹の私がなんとかするしかないね。
 
「あー悪い、クライン。またの機会でお願いしたい、かな」
「おうよ。無理に言う必要はねぇって。そのうち、紹介する機会もあるだろうしな」
「キリトもそれでいいよね?」
「ああ……悪いな、クライン。あと、ありがとう」

 兄が謝ると、クラインは驚きながらもぶんぶんと左右に手を振った。

「おいおい、謝る必要ないだろ? つか、礼を言うのはこっちの台詞だぜ。おめぇのおかげですっげ助かったし、楽しかったしよ。この礼はそのうちちゃんとすっからな、精神的に」

 にかっと笑ってクラインは兄の肩をポンっと叩いた。
 ……兄がクラインと出会って良かったと私は心の底から思えた。

「じゃあ、僕からもお礼を言わせてよ、ありがとうクライン」
「なんでキリカまで俺にお礼を言うんだよ。おめぇにも感謝しているから」
「なら、お互いさまってことで」

 私は右手をグーにして前に出すと、クラインも同様に右手をグーにして私の手にごつんとぶつけてくれた。
 
「んじゃ、マジサンキューなキリト。これからもよろしく頼むぜ」

 クラインは兄の前に右手を出す。私の時とは違って、グーではなくパーだった。

「こっちこそ、よろしくな。また訊きたいことがあったら、いつでも呼んでくれよ」
「おう、頼りにしているぜ」

 兄はクラインと握手をした。
 クラインはこの後、ログアウトして現実世界へと戻る。
 でも永遠に会えないわけじゃない。ソードアート・オンラインにフルダイブする限り、私達はどこでも会える気がするんだ。
 
 私にとって、アイングラッド……あるいはソードアート・オンラインという名の世界という場は、誰もが子供の様にゲームをする未知のゲームであったのは、この瞬間までだった気がした。
 
「クラインはログアウトするけど、私はもうちょっとやりたいから付き合ってほしな」
「お前だったらすぐ慣れそうだけどな」

 クラインがログアウトするのはわかったし、私は兄を引き連れて『フレンジーボア』を探そうとした時だった。

「あれっ?」

 クラインのトンチンカンな声に振り向く。

「なんだこりゃ…………ログアウトボタンがねぇ」

 その一言に私と兄はクラインの傍に寄った。

「ログアウトボタンがないって……まさかわからないの? メニューの一番下だよ、下」
「だから、そこにあるボタンがねぇんだよ。おめぇらもよく見ろって」
「んなわけないだろ……」

 兄はため息混じりに呟く。
 とはいえ、クラインが焦っているのは演技ではなさそうだし、ログアウト場所がわかりにくいところにあるわけでもない、はず。
 …………とりあえず試してみるか。
 私は右手の人差し指と中指を揃えて真下に振ると。メインメニューのウインドウを出現させる。その中から私は一番下に指先を滑らせる。
 そこで私は必然と全身の動きを止めてしまう。

「兄っ……じゃなくてキリト! 僕のところにもない!」
「え?」

 クラインの言う通り、私にもログアウトボタンが存在していなかった。
 流石に兄もクラインが単に不注意なだけではないと思ったのか、確認し始める。私も見間違いなだけかもしれないと思って、ウインドウを一度閉じてもう一度開く。
 そして一番下を凝視するものの、そこにはログアウトボタンは存在しなかった。

「……確かにないな」

 兄も自分のメニューにログアウトボタンが存在しないことを確認できた。

「ま、今日は正式サービス初日だかんな、こういうバグも出るだろ。今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きの真っ青だな」

 暢気に言うクラインに対して、私は笑みを浮かべてツッコんだ。

「そういうクラインも、もうすぐ半泣きになるんじゃないの?」
「え?」
「もうすぐ五時半」
「えっ?」

 クラインは慌てて時刻を確認。
 現在時刻は五時二十五分。後五分でピザが配達されるはずだ。

「このままだとピザは食べられないね」
「うおっ、そうだった!! やべぇ! このままじゃ俺様のアンチョビピッツァとジンジャエールがぁー!」

 事実に気づいてしまったクラインは目を丸くして飛び上がっては喚いてしまった。その光景に思わず口を緩めてしまう。

「おい、キリトォ……こんな時どうすればいいんだ?」
「いや、まずGMコールしてみろよ。システム側が落としてくれるはずだよ」
「それはもうとっくに試したんだけど、反応がねぇんだよ……」

 ……反応がない?
 私はそこで違和感を覚えてしまった。
 
「ねぇ、キリト。他の方法でログアウトする方法ってないの?」

 私は兄に訊ねると、急に顔を強張らせる。

「他にログアウトする方法は…………いや、ない。メニューを操作する方法しかない」
「んなバカな、ぜってぇ何かあるって! 戻れ! ログアウト! 脱出! 開けゴマ!」

 兄の返答に拒否する様にクラインはぴょんぴょんと跳ねたり、なんかへんなポーズを取ったりしてログアウトを試みる。
 だが、同然何も起こらない。

「……それでログアウトできたら、それはそれで駄目でしょ。その方法だと例えば戦闘中、誤作動でログアウトしちゃうんじゃないの?」
「けどよ、普通に考えてみろよ。ログアウトできないって事は自分の部屋、自分の体に戻れねぇって事なんだぜ。こういう時の緊急切断方法ぐらいあるだろ!」
「残念だけどクライン、マニュアルには他の方法でログアウトする方法は乗っていないし、緊急切断方法もないんだ」

 クラインの切望な叫びに、兄は落ち着いた口調で返した。でもきっと内心は不穏だろう。
 ログアウトできないこの状況は、不安でしかない。クラインが言った通り、このままでは現実にいる自分に戻れないんだから。
 そんな中、クラインは何かを思いついたようにポンと手を手でたたいた。

「そうだ! 『ナーヴギア』の電源を切れば脱出できるし、それができなくても頭から引っぺ剥がせばいいんだ!」

 クラインはさっそく『ナーヴギア』を剥がす様に両手で頭を押さえつけ、離そうとする。
 しかし、私達から見れば……。

「頭を押さえつけて上に伸ばそうとしている奇妙な光景しか見えないんだけど……」
「奇妙な光景ってなんだよ、こっちは真剣にやっているんだよ! くっそ、なんとかでねぇのか!」
「それもできないよ。俺達は今、現実の自分を動かす事ができないんだ。『ナーヴギア』が俺達の脳から体に出力される命令を全部ここで遮断している」

 兄はで後頭部の下の部分にある延髄を指しながら告げる。

「それだと派手に動いても現実の自分が怪我をする事はないんだね」
「そうだ。けど今はその機能故に、ギアを外す事はできない」

 安全面を考慮した結果は良いのかしれないけど、今はそれ以前に現実の自分を動かしてログアウトする事ができない。

「結局、今はログアウトできず、現実の自分に戻るためは運営になんとかしてもらうか、バグが直るまで待つか、現実にいる誰かにギアを外してもらうしかないって事なのね」
「そういう事になるな……」

 兄も流石に冗談じゃねぇみたいな顔で深いため息をついた。

「でも俺、一人暮らしだぜ。おめぇらはどうなんだ?」
「兄が一人と妹が一人、あと……母親が一人。父親もいるけど、今は四人暮らし」
「なに!? キリカの妹さんっていくつだ!?」
 
 クラインは急に眼を輝かせて私の量型を両手で掴みかかってきた

「は、はぁ!? そんな事言うわけないでしょ! つうか近いってば、こら!」

 私は力いっぱいクラインを押し戻した。

「ちぇっ……で、キリトはどうなんだよ」

 クラインの質問に兄は先ほどの私とのやり取りを見たのか、少し躊躇うもちゃんと答えてくれた。

「妹が二人、キリカと同じ父親はいるけど、今は母親と含めて計四人。だから晩飯の時間になっても」
「おおぉ!? き、キリトの妹さんっていくごほっ!?」

 再びクラインは目を輝かせ、キリトを掴みかかろうとする。けど、兄は私とのやり取りを見ていたので、掴まれる前に蹴り飛ばしていた。
 草原に寝転がっているクラインはすぐさま立ち上がって、キリトに文句をぶつけた。

「おい、キリト! いきなり蹴り飛ばすとはどういう事だ!」
「この状況でそんな事を聞くか普通」
「こういう状況だからこそだな」

 なんか変に追及される前に無理矢理話をバッサリ切るか。

「というかさ……普通に考えてさ、深刻な問題になっているんだよね」
「深刻な問題? そりゃあ、そうだろう。ログアウトできねぇんだから」
「……おかしいと思わない?」
「おかしいだろうよ、なんせバグってんだもんよ」
「うん、それは間違いない。でも……」

 自分で振っておいて、この先の事をクラインに告げていいのだろうかと余計な心配をしてしまい、思わず渋ってしまった。

「キリカの言った通り、おかしいんだよ。ログアウトができないなんて、今後のゲーム運営にかかわる大問題だよ。現に俺達は現実世界へ戻る事ができなくなっている。クラインの様に一人暮らしだったら、直るまでずっとこのままだろ。この状況なら、運営サイドは一度サーバーを停止させて、プレイヤーを全員強制ログアウト、その後にメンテナンスを行うのが当然の措置なんだ。それなのに切断されるどころか、アナウンスすらないなんて……」
「……言われてみりゃ、確かにな」

 そうだ。兄が口にした通り、普通はそうするべきなんだ。
 兄は言わなかったけど、この状況は監禁に等しい。私達三人……いや、他のプレイヤーも同じバグがあるとすれば、最高で一万人のプレイヤーがソードアート・オンラインという世界に閉じ込められている。
 その事実に運営からの声は全くない。何度もGMコールをしても反応はないし、対処法も置かせてくれない。
 そう、ゲームに監禁されている状況にも関わらず、運営からは何もない。
 なんだろう……嫌な予感がする。なんとも言えない悪寒…………心なしか背筋辺りが妙に冷えていて、気持ち悪い。

「どうしたキリカ?」

 私が不安になっているのを見抜いたのか、兄が声をかける。と思ったら、私が無意識に兄の袖をギュッと掴んでいた事に気がついたみたいだ。
いけないいけない、またやっちゃった……。

「あ、えっと、その……と、とりあえずここにいてもなんだしさ、ちょっと情報取集しない? 一旦『はじまりの街』に戻って他のプレイヤーもバグがあるのかどうか聞いてみようよ」

 兄に変に心配されたくないがために慌ててしまうもなんとか落ち着いて提案を出してみる。
 
 その直後。私が感じてしまった恐怖を露わになり始める、音が鳴り響いた。

 その音はリンゴーン、リンゴーンと鐘の様な音が大きく鳴り響くだった。でも私は大ボリュームのせいもあるのか、警報音の様に聞こえてしまい、それが一段と恐怖を覚えてしまう。
 そしてそれが何なのか、言葉にすることもなく、私達の体は鮮やかな青い光に包まれていく。
 青い膜の先にある草原の風景がみるみるうちに白く塗り潰され、視界が奪われていった。
 それがなんなのかわからないまま、次の瞬間に視界がクリアになっていく。
 だけど目に見える先は、夕陽が沈み夜へと変わりゆく幻想的な光景だったものが、中世風な街並みの一部へと変わっていた。
 ここはそうだ。私が……いや、皆のゲームのスタート地点となる『はじまりの街』の中央広場だった。
 なんでいきなり『はじまりの街』に移動させられたのか、あの鐘はなんの意味があるのか、今の私は次々と起こる不可思議な出来事に混乱してしまう。驚愕を通り越して今、自分が何者なのか見失いそうになる。
 そ、そうだ。
 
「兄、兄はどこ?」

 私は周りを見渡すと、すぐそばに兄のアバター姿を目撃した。
 すぐそばに兄がいる事で私は胸を撫で下ろした。
 それでも不安は残るものの、先ほどよりかは大分周りが見られる様になった。私の周りには兄だけではなく、クラインもいる。
 けど、周りには兄やクラインだけではなかった。装備、髪の色、男女といった色とりどりのプレイヤーが存在している。
 ざっと見ただけで、その数は数千人……いや、もしかしたらSAOを購入してログインした全プレイヤーがいるのではないかと疑いたくなるくらい、とにかく多かった。

「兄、これはどういう事なの? 何が起きようとしているの?」
「わからない……だけど、俺達は強制テレポートされたのは事実だ」

 強制テレポート。
 フィールドにいたはずなのに気づいた時には『はじまりの街』にいさせたのは、運営の仕業って事か。
 だったら強制ログアウトするべきなんじゃないの?

「やっぱりバグとなんかあるのかな?」
「関係ないとは言えないな……」

 ここにいる誰もが何故集められたのかわからないままでいるだろう。
 一つ一つ不安を漏らす声はやがて大きくなり、ざわめき始める。徐々に、苛立ちの色合いをマシ、喚き声の数も多くなる。このことから、全プレイヤーはログアウトできない事を示されている気がした。
 
「あっ……上を見ろ!」

 誰が言ったか定かではないが、一人の声に反応して私達は視線を上に向けた。
 上空にピンク色の様な鮮やかな赤い枠とフォント。よく見れば、二つの英文が交互にパターン表示されている。
 一つは『Warning』二つ目は『System Announcement』
 意味は確か警告、そして二つ目はシステムの……発表だったかな。
 という事は、先ほどまで何も言ってくれなかった運営からようやくアナウンスされるのか。
 全く、驚かせないでよ……と、私は肩の力を抜こうとした。
 それに伴って、一つの疑問が浮かんだ。
 ……わざわざ一か所に集める必要はあったのだろうか?
 そんな疑問を他所に、現象は変化して行った。
 夕暮れの空が一瞬で赤く染め上げた。そして見えない隙間かなんかから、血液みたいなドロドロ状の物が垂れ落ちる。そのドロドロは地面に落ちることなく、高い粘液を感じさせる様に集まっていき、形状変化していく。
 そして現れたのは、二十メートルはあろう真紅のフード付きローブをまとった巨人。だけど、その巨人には脚と顔が存在せず、唯一白色の手袋だけが残っている。
 私はそれがなんなのかはわからない。
 けど周りの反応は一部の人だけが正体を知っていた様だ。「あれ、GM」とか「なんで顔がないの?」など聞こえてくる。
 少なくともあれはGMで本来は顔とかあったんだろう。
 仮に紅いローブがGMだったとしよう。彼は何しに現れた? アナウンスだけだとしたら、演出する必要はないはずだ。
 そんな疑問を抱えていると、ざわつきを抑えるかのように、右袖を動かす。そして低くて落ち着いた透き通る男の声が『はじまりの街』を包むように渡らせた。

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 挨拶から始まり、そして紅いローブは一呼吸つく様に発した。

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 紅いローブが名乗った瞬間。

「な…………っ」

 隣にいた兄が驚愕する。
 茅場晶彦。…………奴は確かにそう名乗った。
 私が知り限りの茅場晶彦と言えば、若き天才ゲームデザイナーであり、量子物理学者であり、SAOの開発ディレクターでもあり、ナーヴギアそのものを基礎設計者の人。つまりソードアート・オンラインというゲームができたのも茅場晶彦の存在がいたからこそ実現出来ていた。ただ、露出を極力避け、目立つ人ではないそうだ。
 あんまりそういうのに詳しくない私でも、彼がすごい人だというのは理解している。
 私は兄が茅場晶彦に憧れを抱いている事を知っている。というか私に熱弁するほど、彼を尊敬していたんだと思う。
 その人が今、上空に現れている。でもなぜ幽霊の様な紅いローブだけを私達に見せつけているのだろうか? 茅場晶彦自らアナウンスをしようと言うのだろうか?
 …………何が目的なの?
 その疑問は最悪な形で知る事になってしまった。

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気がついているだろう。しかし、それはゲームの不具合ではない』

 …………なっ!?

『繰り返す。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である。諸君は、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトする事はできない』

 仕様……茅場晶彦は確かにそう告げた。
 ログアウトできないのはバグではなく、運営からの仕様。
 つまり、現実世界に戻れないのも不具合ではなく運営が仕組んだものだという事をGM直々から伝えてきた。
 そして現実世界に戻れるのは、城……つまりこの世界の舞台となっている浮遊城アイングラッドをクリアするまで私達はできないのではなかろうか。
 その事実を知った私は湧き上がる怒りを抱き始めた。
 でも私は自分に言い聞かせる様に落ち着かせる努力をした。
 落ち着きなさい、落ち着け私。ここで茅場晶彦に怒りをぶつけても、ログアウトできるわけでもないし、過激な演出かもしれない。
 それにここはゲームだ。現実世界の私に少なからず影響は受けないし、誰かがギアを外せばログアウトできるはず。
 そんな甘い考えを茅場晶彦は無情に淡々と事実だけを伝えてきた。

『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みた場合はナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 …………。
 一瞬彼が何を言っていたのかわからなかった。
 きっと誰もがそうだ。ここにいる皆は茅場晶彦の言うことを理解できなかった。それを言われた私は、呆けているであろう表情で兄とクラインの顔を見合わせた。
 いや、違う。
 彼が理解したくはなかった。
 遠回しに言っていないけど、彼が言っている事を簡単にまとめれば…………。
 何かしらの原因でナーヴギアを取ると……その人は死ぬ。
 茅場晶彦はそう宣言した。
 ざわざわと周りがざわめく。当然だ、余計な事をしたらお前らは殺されると告げられた様なものだから。
 ざわめく中、プレイヤーが悲鳴を上げたり、暴れたりする者はいない。でもそれは、理解をしていないもしくは理解を拒んでいる人達が多かったから。

「ハハッ……まったく、あいつは何を言ってんだが、んなことできるわけねぇだろ! ただのゲーム機で脳を破壊するなんて、んな真似ができるわけねぇんだ!」

 乾いた笑いから怒りをぶつけるような叫びをするクライン。
 私はそれに乗っかる様に、理解を否定するかの様にクラインに賛同した。

「そうだよ! 漫画やアニメじゃないんだし、ゲーム機で人を殺せるわけないじゃない! そうだよね、兄!」

 私は兄妹関係を隠していたのにも関わらず、一目気にせず兄と呼び助けを求めてしまう。
 私とクラインが理解を拒もうとする中、兄は落ち着いた様に呟く。

「……信号素子のマイクロウェーブは……確かに電子レンジと同じだ。リミッターさえ外せば、確かに脳を蒸し焼きにする事は可能だ」
「……か、可能なんだ」

 私はすぐさま首を振って兄が言った事を否定した。
 否定しなければならなかった。

「いや、そんなのあいつのハッタリでしょ? ナーヴギアの電源コードを引っこ抜けば、そんな高い電磁波を発生しないんじゃないの?」
「……いや、それができる。ナーヴギアには内蔵バッテリーがある……」
「そ、そんな…………」

 兄が言った事はゲーム機で殺す事は可能である事を示されてしまった。
 ……じゃあ、停電とか、誰かに無理矢理引っぺ剥がされたら…………。

『より具体的には、十分間の外部停電切断、二時間のネットワーク回線切断、そしてナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊を試みた場合実行される』

 私の不安に答える様に彼は伝えてくる。いや、誰もが抱いている恐怖に答えてくれたんだろう。
 でもそれは、その条件で死んでしまう事を告げられた警告でもあった。

『さっそくだが、残念な事に現時点でプレイヤーの家族友人らが警告を無視をして、ナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずある。その結果、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 それを言われた私はSAOを買った時の事を思い出した。
 多方面のメディアや話題、兄の影響もあって買ったSAO。兄よりかは深くないけど私もゲームが好きだったので、ゲームの世界に飛び込んで自分の体を動かしてゲームをする事は何よりも嬉しかったし、わくわくしていた。きっと他の人もそうだ。誰もがSAOを楽しみにしていて、誰もがゲームの世界でゲームをする事に感動を覚えていたんだ。
 誰がこんな結末を予想していたのだろう。
 誰が楽しみにしていたゲームで二百十三人が死んでしまうと思ったんだろうか。
 信じたくない事実。私の耳の奥から、二百三十人も死んだという恐怖が何回も繰り返される。
 私は兄の袖をギュッと掴んだ。
 昔からの癖で、怖くなった時よく兄の袖を掴んで安心したかった。
 
「信じねぇ……信じねぇぞ俺は!」

 クラインが叫ぶ。
 周りもその事実を否定するかのように喚き、叫び続ける。
 しかし、茅場晶彦は淡々とアナウンスの内容を告げるだけだった。

『諸君の肉体を心配する必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディア等が多数の死者が出ている事を含め、繰り返し報道している。よって、諸君のナーヴギアが外される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。安心してゲーム攻略を励んでほしい』

 現実世界に戻れず、ギアを外せば死んでしまい、すでに二百十三人も死んでいる事実を受け入れさせて、私達にゲームをしろというのか。
 そんなの……。

「できるわけ……ない……っ。なんなの…………なんの意味があるの! 早くお家に帰りたいよ……っ」

 淡々と告げられる事実、確かな恐怖に私は弱音を吐きだしてしまった。
 それを聞いていた兄は、

「……ログアウト不能の状況で暢気に遊べってか!? ふざけるな、こんなのもうゲームでも何でもないだろうが!」

 押し黙っていた兄もとうとう。茅場晶彦に向けて怒りをぶつけていた。
 しかしそれももはや無駄だった。私達がどれだけ喚こうが、茅場晶彦は淡々と伝えるだけの役割でしかなかった。

『しかし、充分に留意してもらいたい。何故なら、ソードアート・オンラインという世界はもはやただのゲームではない。もう一つの現実である事を理解してほしい。……今度、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポインがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に……』

 私が彼が何を言うのかを理解してしまった。
 ここが現実世界のもう一つだというのなら、命が失った時は……。

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 ヒットポイント……。
 私は視界左上にある青く光っている細い横線に視線を向ける。当然それは自身のアバターとしての命の残量ともいえる物で、本物の自分に影響する事は本来あり得ない事である。
 しかし、今となってはそれもゲームとしての残量ではなく、正真正銘の自分自身への命である事を示されていた。
 ヒットポイントが失くなれば死ぬ? RPGのジャンルで、一回も死ぬ事が許されない状況で戦い続けろって事なの?
 そんなことできるわけがない。
 そんな条件でモンスターやボスなど戦う奴なんかいるわけがない。自分の命を守るのなら、安全な街区園内に引きこもり、この『はじまりの街』から出ないに決まっている。
 だから向こう側が私達が絶対にゲーム攻略しなければいけない条件があるはずだ。

『諸君らがソードアート・オンラインから解放される条件は二つ。一つはアインクラッドの最上部、第百層にいる最終ボスを倒してゲームクリアすること。もう一つは最終ボスに匹敵する裏ボスとも呼ばれる存在を見つけ出し、倒すこと。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトすることを保障しよう』

 やっぱり……そうなってしまうか。
 自分の命を守るのなら、安全な所から一歩も出ない方が良いに決まっている。でもそれではいつまで経っても安全な場所どころか、このゲームの世界からも一歩も出ることができないだろう。
 今となっては危険度が増したフィールドや迷宮区、そこの層にいるボスを倒して百層を目指すか、どこにいるのかもわからない裏ボスという存在を探すしか方法はない様にしている。
 茅場は先ほどこう言った。『この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトする事はできない』と……。
 最初それを聞いた時は怒りを抱いていたけど……今改めて思うと、その事実に私は恐ろしくて仕方がなかった。
 怒りを消し忘れさせる程、私は今の状況が怖くて仕方がなかった。
 周りはどんな事を考えているのだろうか。兄もクラインもどんな風に今の状況を呑み込もうとしているのだろうか。
 これがオープニングイベント過剰な演出だったら、ふざけるなと一言だけで済まされたかった。でも、私の本能が絶叫している。
 これは紛れもない…………本物だと。
 昨日まで……ううん、五、六時間前までは母親の作った昼飯を食い、双子の兄とSAOの話をして、妹と短い会話を交わしたあの日常があったんだ。
 漫画やアニメの様な、理不尽な目に遭わされるなんて誰が思うのだろうか。そんな現実を受け入れたくないのは、当たり前のことじゃない。
 たった数分、茅場晶彦から伝えられた言葉にその日常を預からされた……いや、最悪の場合、もう二度と、戻って来れないのかもしれない。 
 
『それでは最後に……諸君らにとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君らのアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してあるので、確認してくれたまえ』

 それを言われた私は、自然とウインドウを開く。隣にいた兄も、傍にいるクラインも、周りのプレイヤーも連鎖する様にウインドウを開く。
 出現したメインメニューから、アイテム欄のタブを叩く。
 表示された所持品リストに中にはあるはずもない物、それは『手鏡』だった。
 私はそれをタップすると、甲高い効果音と共にどこにでもありそうな手鏡が出現する。
 手に取ってみるも何も起こらない。鏡に映っているのは、この世界で造り上げたキリカというアバター、銀髪の美少年だった。
 今更自分の造った顔を見たところで…………と。
 当然、兄の袖から白く光り出す。反射的に兄の顔を見上げると、袖が光ったわけではなく、キリトというプレイヤーが白い光に包まれていたのだ。
 驚く暇も与えず、その瞬間に私も同じ光に呑み込まれ、再び視界が白く塗りつぶされる。
 ほんの数秒、光が消え、元のまま風景が現れる。
 一点だけを除いて。
 兄を見上げた状態で光に包まれたために、私は視点を変えてはいなかった。
 真っ先に私は目の前の光景に衝撃を受ける。
 そこにはアバターとしてのキリトの顔ではなく、私の双子の兄である桐ヶ谷和人の顔が目の前にあったのだ。
 間違えるはずもない。双子としてなら尚更だ。近くにいるキリトは間違いなく、私の双子の兄の顔に変化していたんだ。
 兄も私を見合わせて、何を思ったのか叫ばずにはいられなかった。
 私も理由がわらかないまま、咄嗟に発してしまう。

「なんで兄の顔が!?」
「お前優香か!?」

 驚愕の事実に同時に声が重なる。
 兄に至っては驚愕のあまりアカウント名ではなく私の名前を発していた。
 そして私は本名を言われたことで、慌てて手に持っている『手鏡』を覗き込んだ。
 そこには先ほどまで私がアバターとして作った銀髪の美少年ではなく、桐ヶ谷優香としての顔が映っている。髪は銀髪だけど、見間違えるはずがなかった。
 兄も現実の私の容姿を確認したからか、持っている手鏡を覗き込んで確認していた。

「ねぇ、なんで……そうだクライン!」
「呼んだか?」

 私達の近くにクラインらしき人物が近寄って来た。
 私達が知る限りのクラインというプレイヤーの容姿は、ちょいとあごひげを生やした涼やかな若侍みたいだった。
 しかし、今目の前にいるクラインという容姿は、むさ苦しい無精ひげが浮いている野武士のようだった。
 その違いに私は、確認を取るために訊ねる事にした。

「えっと…………どちら様ですか?」
「俺か? 俺はクラインだけどよぉ」
「「クライン!?」」

 私と兄はハモる様に口を揃えて驚く。
 その様子を見た、クラインは瞬時に理解して兄の方へ指して叫んだ。

「て、ことはおめぇがキリト!? じゃ、じゃあおめぇの隣にいるのってまさか…………」

 ぶるぶると差す指を私に向けて、言おうか迷っていた躊躇いを放つように叫ぶ。
 
「お、女だったのかキリカ!? つか、おめぇら顔似て……まさかおめぇら双子なのか!?」

 こんな形で兄妹だとバレるなんて、誰が思いつくのだろうか。私は状況に戸惑いながら自分達が双子の兄妹であることを肯定した。
 クラインは「マジかよ……」と、唖然としていた。

「いや、その……ね、ねぇ、なんで私達の容姿が現実の物になっているの?」 

 周りを見渡せば、私達の他にも容姿が変わっている。先ほどまでは十人十色の男女様々なファンタジーキャラの群れだったのが、今ではリアルな若者達の集団と変わっていて男女の差は明らかに男の方が多かった。
 つまり運営は一万人近いプレイヤー達のアバターを現実物へと変化させることに成功したのだ。
 本当はこういうの良くないけど、現状の把握を兄に任せてしまう。

「それは、俺にも……いや、待てよ。そうか! ナーヴギアは高度の信号素数で頭から顔前面をすっぽりと覆っているんだ」

 ナーヴギアはバイクのヘルメットの様な形状をしている。つまり……。
 
「ということは、アバター姿だった時、表情を変化できたのなら現実の顔も可能って再現できるってことになっちゃうんだよね。あれ、でもそうなると身長や体格は? ナーヴギアだけでは把握できないよね?」
「確かに……」

 その疑問を抱えながら私と兄は周囲をもう一度見渡す。変化する前のおおざっぱな記憶と今見渡している光景と重ね合わせると……アバターよりも慎重は低くなっているし、体格の方も横幅に大きくなっている人達がいる。
 かく言う私もアバターの時は身長を十センチぐらい盛っていた。今は現実の自分と同じ身長と体格を再現させている。
 その疑問に答えたのはクラインだった。

「おりゃ、ナーヴギア本体も昨日買ったばっかだから覚えているけどよ。初めて装着した時に、キャリ……部レーションだっけか? こうやって、自分の体をあちこち触らされたんだけど……もしかしてそれか」
「そうか……それだったら再現は可能だ」

 ポンポンと自分の体を触りながら答えたクラインの問いに兄は納得していた。
 キャリブレーション…………装着者の体表面感覚を再現するために基準値を測る作業。私も兄もそれをやったおかげで、ゲームの世界で自由に動かせることができた。
 兄が納得したのも頷ける。それで自分達の体格や身長を今こうしてちゃんと再現されているのだから。

「でも、でもよぉ、あいつはなんでこんな事を……」

 クラインの問いかけに、兄は茅場晶彦を指す。

「どうせすぐに答えてくれる……」

 兄の予想通り、茅場晶彦は全プレイヤーが仮の姿ではなく、本物の自分であることを確認したことを見計らったかの様にアナウンスを再開させた。

『諸君らは少なからず思っているのだろう。なぜ、茅場晶彦はこんなことをしたのかと? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金の誘拐事件なのか?』

 どこかこれまでのGMとしての茅場晶彦。淡々と私達に告げるだけだった存在だったのか、目的を告げることに関してはどことなく……楽しそうとか嬉しそうとか、憧れたものが現実にした実感を共感する様な感じはした。
 私の思い込みだったら変な奴だと冷ややかな目で見られるだけで良かった。

『私の目的は既に達成したのだ。このソードアート・オンラインという世界を創り出し、鑑賞するために私はナーヴギアを、ソードアート・オンラインを造った。そして今、全ては達成しめられた』

 …………たった。
 たったそれだけの理由で、私達は理不尽にもデスゲームという茅場の娯楽に巻き込まれてしまったのか。昔憧れていたヒーローになりたい様に、茅場は世界の神になりたかったというのか?
 
『以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君…………健闘を祈る』

 ずっと。
 ずっとアナウンスが終わるまで、私は茅場が言うこと全てを拒み続けた。これは現実ではなく、ゲームとしての設定、夢みたいな話だと否定したかった。
 けど、現実だ。
 ソードアート・オンラインはゲームの世界でありながらも、現実になってしまったんだ。
 私は茅場晶彦が天才であることぐらいしか知らない。でもそんな私でも、これまで言ってきたアナウンスは何一つ偽っていない、真実であることを…………受け止めらなくちゃいけない。
 もう始まっているんだ。アインクラッドという世界で私達の日常を始めなきゃいけないんだ。
 アナウンスが終わった時、私達はそれぞれの日常を送るのだろう。クリアを目指して現実の世界へ取り戻す者、街から出ない日々を送る者。様々な想いを秘めて、私達はソードアート・オンラインという世界で暮らす羽目になる。
 どれくらい経ったら、現実の世界へ帰れるのだろうか。少なくとも数ヶ月、いや一年や二年をかけてクリアを目指す。
 その時、どれくらいのプレイヤーが減っているのだろうか…………想像したくはない。
 ……気がつけば、GMからのチュートリアルは終わっていた。私が気がつかない間、紅いローブは上空から消えている。
 上を見上がれば綺麗な夕暮れの空と雲、耳をすませば、ゲームのBGMが聴こえる。
 ああぁ……もう、始まってしまったんだ。
 家に…………帰りたかったな。
 なんて、みんな嘆きたいに決まっているよね。
 …………。
 
「ちょっと二人共来て」
「え?」
「いいから早く!」

 残酷な事実に誰もが耐えられるはずもなければ受け入れるはずもない。きっとチュートリアルを受けたプレイヤーは悲鳴を上げ、泣き出す者、怒り狂う者がいる。パニックになるはずがなかった。
 それをすぐさま危惧した私は弱音を無理矢理抑え込み、兄とクラインを連れ、私はすぐさま兄とクラインを中央広場から離れることにした。唖然とするクラインには申し訳ないけど強めの口調で言い、とにかく私は今いる場から離れたかった。
 人込みの中を縫い、とにかくどこでもいいから落ち着ける様な場所と、なるべく中央広場から離れたかった。
 どこかわらかないけ街路で私達は今後の事を話した。

「わ、わかっていると思うけど……これは現実だってことを受け止めなくちゃならない……クライン大丈夫?」

 どこか魂を抜けたような顔をするクライン。無理もない、私にはその気持ちが痛いほどわかる。あんな現実受け止められたくないよ……。
 私は両手でバッシと頭を挟む様に叩いて気持ちを取り戻す。

「…………キリカ、信じているのか?」
「え?」
「あいつが……茅場晶彦が言った事は…………全部、本当だって信じているのか?」

 クラインのその問いかけは気迫もなければ、弱々しい泣き言にも聞こえなくはない。

「…………私も信じたくはないよ、今すぐ家に帰りたい。茅場が言った事は過激を通り越した恐喝だったけど、実は冗談でライフが失っても再生された。実はログアウトできたりするだったら怒り話で済まされるんだよね。でも、そうじゃないことが問題だから…………無理矢理信じるしかないの」
「……ハハ。それもそうだよな…………」

 クラインは乾いた笑い声を漏らす。
 そう。無理矢理、茅場の言うことを無理矢理信じるしかないんだ。どうせ、嫌でも現実だったって事が思い知らされるはずだ。
 私はウインドウを開いて一番下にあるはずのログアウトボタンに手を伸ばそうとする。
 そこには当然、ログアウトボタンは表示されていなかった。仕様なんだから当たり前だよね……。
  
「……二人共、よく聞け」

 どこか落ち着いている様にも見える兄が真剣な表情で低い声で話し始めた。

「俺達三人で今すぐ次の街に向かう事にする。これからこの世界で生き残っていくには、ひたすら自分を強化しなければならない」

 兄はクラインがついていく前提で話を続ける。それに対し、私とクラインは現実世界へ帰れないショックを一旦置かせて、一つ一つ聞く。

「MMORPGってのは、プレイヤーのリソースの奪い合い。簡単に言えば金とアイテムと経験値をよく多く獲得した奴だけが強くなれる。このままだと『はじまりの街』の周辺のフィールドは他のプレイヤーに狩り尽され、すぐに枯渇するだろう。効率良く稼ぐには、今すぐ次の村を拠点したほうがいい。俺は道も危険なポイントもルートも全部知っているから、レベル1の今でも安全に辿り着ける」

 それを聞いた私は生き残るために兄についてく事を決断する。
 けど、クラインはそれを聞き終わると表情が曇り始める。

「キリトが言っている事はなんとなくわかった……生き残るためには強くならないといけねぇ。でもよ……他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んでソフトを買ったんだ。そいつらもログインしていて、さっきの広場にいるはずなんだ。悪いけど俺はあいつらを……置いて行くことはできねぇ」
「…………」

 それを聞いた兄が今度は曇り出す。
 きっとクラインはその友達を一人も欠けることなく連れて行きたいことを望んでいる。
 でも、兄はそれ望んではいなかった。どれくらいいるかもわからない人達と多く連れて行く事に何らかのリスクがあると見ているからだと思う。
 おそらくクラインと仲良くなっていなければ、きっとクラインを連れて行くことはしなかったと思う。
 あるいは……仲間を守れなかった責任の重みを受け止められるかどうかで、悩んでいるのかもしれない。
 兄は何も言えない状況の中、クラインは兄の心を読み取ったかの様に、強張っているものの太い笑みを浮かべた。

「いや……やっぱいいわ。ほんの数時間だけだけど、世話になったんだ。これ以上世話になるわけにはいかねぇよな」
「クライン……あんた」
「おいおい、暗い顔すんなってキリカ。俺だって、前のゲームじゃギルドの頭を張ってたんだ。今まで教わったテクで何とかしてみせら。だから俺の事は心配せずに、次の村に行ってくれ」
「でも……」

 私は不安だった。大丈夫だと言っても絶対ではない。生きて欲しいと強く願っても、きっとどこかで神様の悪戯であっさり死ぬ事だってある。そう考えたら……不安だった。
 言いたい。クラインも一緒に行こうよと言いたい。
 でも、それを口にすれば私は兄に迷惑をかける。
 それだけは絶対にしたくはなかった。

「キリト、キリカを連れて行け」

 クラインは兄に私を連れて行くように推した。
 兄は悩んで悩んで、数秒間考え続けて決断した。
 
「…………そっか。なら、ここで別れよう。何かあったらメッセージを飛ばしてくれ。行くぞ、キリカ」

 兄は私の手を掴んで振り向こうとした時に、クラインが叫ぶ。

「キリト!」

 兄のアカウント名を発する。けどそれから続く言葉はなかった。
 兄は振り返ることもなく、次の拠点である村の方角へと足を動かす。
 その時にもう一度、クラインの声が投げかけられた。

「おい、キリトよ! キリカよりかは見劣りするけど、案外かわいい顔してやがんな! そっちの方が好きだぜ!」
 
 続いてクラインは私へ向けて叫ぶ。

「キリカ! 男の姿よりも今の方が断然かわいいからな! 今度会った時は俺とデートでもしねぇか?」

 それを聞いた私と兄は苦笑いで返す。

「考えておくよ」
「妹に手を出してんじゃねぇぞクライン。お前もその野武士ズラの方が十倍似合っているよ!」

 この世界で初めてできた友達に背を向けたまま、兄は私の手を引き連れて、真っ直ぐ歩き出す。
 不意に兄は振り返るのを見て、私も後ろへと振り返る。
 そこにクラインの姿はどこにも存在していない。きっと言った様に、友達を探しに戻ったんだろう。
 それを見た時、兄の…………心臓を締め付けられ、感情を歯を食いしばった表情を見て私は察した。
 クラインを連れて行かない選択をしたことに兄は深い後悔をしている。自分を責めているんだ……クラインが連れて行かなかったのは自分のせいだと葛藤している。
 兄のことだ……もし、どこかでクラインが死んだら、クラインが死んだのはあの時に俺が見捨てたからだと激しい自責をする。
 止めなければ……兄のせいじゃないって言わなければ。
 
「……兄のせいじゃないから」
「え?」

 兄は私がそんなことを言われるのが思いがけなかったのか、目をパチクリとしていた。

「兄がクラインを誘わなかったのは兄の責任でもない。クラインのせいでもない。しょうがないことなんだから。その……後悔しないでよ」
「……わかっている」

 わかっているのなら、悲しい顔しないでよ。
 ……今の兄に何を言っても、気休めにもならないか。先ほどまで現実世界に帰れないという衝撃もあった影響もあるだろう。
 
「じゃあ、拠点に向かう前に最後に言わせて」

 しっかりと兄の目を見て、私は伝える。ブラコンと言われ様が、私は兄にこれを伝えないといけなかった。

「例え周りの人達が嫌われても、世界から見放されてしまっても私だけが……兄の味方だから。だから……覚えてよね」
「キリカ……」

 兄の顔がちょっとだけ和らいだ気がする。
 それを確信する様に、笑みを浮かべていきなり私の髪を上からわしゃわしゃと撫で始めた。

「心配するなって、俺が強いの知っているだろ」
「いや、そうだけど……」
「まあ、でも心配させて悪かったな、俺はもう大丈夫だ。必ずお前を家に帰らせるからな」 

 兄が二カッと笑うだけで私はホッとする。
 でも同時に、私の中で不安を覚えてしまった。
 贅沢は言わないけど、私に対して必ずとは言って欲しくはなかった。それを破られた時、きっと兄は深い後悔に呑み込まれしまいそうだ。
 そうなった兄を……私は見たくない。
 もし……私の弱音が、時に兄の負荷をかけてしまうとしたら、あんまり頼りにしちゃ駄目だよね……。
 本当は今すぐ家に帰りたい。思いっきり兄に甘えて泣きたいこともあるけど、少しでも兄に負担かけない様に頑張らないと。

「ありがとう」

 私も精一杯頑張る。

「よし、行こう」
「あぁ」

 私は兄の後ろへ着いてく。『はじまりの街』のゲートをくぐり、広大な草原と森林地帯を駆け抜け、新しい拠点となる小さな村へと駆け抜けた。
 


 「んっ…………」

 目が覚めるとそこは今現在拠点となっているとそこは村にある宿ではなく、街にある自分の部屋にいた。
 あれ、さっきのは出来事は…………夢か。
 私は改めて周りを見渡す。
 どこからどう見ても現実世界の自分の部屋ではなく、今現在使用している自分の部屋だった。
 
「……全部が夢だったらなぁ……」

 誰に伝えることもなく、独り言を口にする。
 今となっては懐かしい始まり、そして楽しいゲームとしての終わりの出来事。それでもあの出来事は懸命に覚えていた。
 あれからもう……約二年は経過した。
 現在七十四層まで攻略、残り二十六。それまでに生き残っているプレイヤーはおよそ六千人まで減少してしまった。
 この約二年間……いろいろとあった。良くも悪くも、もう一つ世界であり新しい日常に私は少なからず影響を与えていた。
 あの時、兄の味方だと言っていた私は、そんな兄と別々で行動している。一時期はお互いに敬遠していたこともあったけど、今は仲の良い兄妹に戻っている。
 人生何が起こるかわからない。疑いもせず、わくわくしていたソードアート・オンラインが生死をかけてゲームクリアをするなんて夢にも思わなかった。
 それの繰り返しなんだ。生きるってことはそういう事なんだろう……。

「……いけないいけない」

 暗い気持ちになりそうだったので、わざわざ口に出して気を確かめる様に顔を軽く両手で叩いた。
 私は時刻を確認する。
 現在時刻は八時十五分。アラーム設定よりも十五分早く起きてしまった様だ。
 アラームよりも先に起きるのは何かもったいない気持ちが沸いてしまうわね。
 完全に目を覚ました私はウインドウを開いて、ステータスウインドウに指で滑らせ、装備フィギアを操作して衣服の変更をする。
 白いパジャマ姿から白いハーフパンツの様なものと、白いロングコートをまとい、そして髪をサイドテールにして準備完了。
 
「さて、行きますか!」

 理不尽にも茅場晶彦に与えられたもう一つの現実で、私達は今日もそれぞれの日常へと送るのだった。 
 

 
後書き
ちょっとキリカのキャラが前と違うかと思いますが、これからお願いします。 
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