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蒼き夢の果てに

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第7章 聖戦
  第171話 介入者

 
前書き
 第171話を更新します。

 次回更新は、
 7月12日。『蒼き夢の果てに』第172話。
 タイトルは、『蝶のはばたき』です。

「月○蝶であ~る」ではないです。ハイ。
 

 
 並みの人間ならば十センチ先さえ見通す事の出来ないレベルの闇。その真なる闇に包まれたここ……アルザスのシュラスブルグ城。
 そう、当然のように人は闇を恐れる。それはもしかすると()()()()、と言う状態。つまり虚無と言う状態を恐れているのかも知れない。
 何故ならば、真なる虚無と言う物は()()()()()()()、と言う状態。世界のすべてを失って仕舞った状態の事を指す言葉だと思うから。

 世界を失うと言う事はそのまま自分自身をも失うと言う事。つまり、其処から自らの死を連想させるから。
 生者がもっとも忌避したい『死』と言う状態を想像させるから……かも知れない、と思うから。

 異様な気配に包まれたここ石造りの回廊。妙に重苦しく、一瞬でも気を抜くと足元から何モノかに地下深くに引き吊り込まれそうな……通常ならばあり得ない妄想が沸き起こって来る場所。
 本来、この通路の向かう先は……この死に塗れたシュラスブルグ城内で唯一、生者の気配が発生している場所。王の間であり、その先には王や王妃の寝室があるはずなのだが、何故かここが黄泉の国へと続く道。黄泉平坂であるかのように感じる。



「戦闘力五か。……ゴミめ」

 明るい光を纏いながら掛けられる、妙に間延びした男性の声。
 当然、これは知っている声ではない。但し、突然、暗闇の向こう側から声を掛けられたとしても驚く必要もない。そもそも、この男が近付いて来て居た事にはとっくの昔に気付いていたし、有無を言わさずに先制攻撃を掛けて来るような相手ならば、人を呪わば穴二つの法則に従い、物理的な攻撃であろうが、魔法に類する攻撃であろうが、最初の一撃だけは確実に反射出来る術を全員に対して施してある。

 シュラスブルグのアルザス侯の邸宅に侵入して……と言うか、シュラスブルグの街に潜入してから此処に至るまでに終ぞ出会う事のなかった、現在進行形で生きている人間にようやく出会えた事に対して少しだけ安堵する俺。
 確かに死亡した後にも戦い続ける兵士と言うのは有史以来、為政者の大いなる夢のひとつであったのは間違いない。間違いないと思うのだが、しかし、城に侵入してから一度も生者に出会う事がないと言う状況は流石に……。

「其処に直れ犯罪者ども」

 お前たちがこの世界を混乱に導いている元凶だと言う事は既に調べが付いて居る。大人しくお縄につけば御上にも慈悲の心と言う物がある。

 ここに至るまでに倒した不死者の数は十体程度。それ以外にも有無を言わさず襲いかかって来た悪霊の類も数知れず。はっきり言うと、とてもこのような中で霊的な意味で無防備な一般人が生きて行けるとは思えないような状況。陰の気が強すぎる状況だけに、よくぞ生きて居てくれた。そう言う気分で居た俺に対して、行き成り犯罪者扱いの台詞を投げつけて来るその男。

 身長はハルケギニアの男性としてはかなり低い方。俺よりも頭一つ低いぐらいで、湖の乙女よりも少し高いように見えるので百五十台の後半から、百六十の前半ぐらい。顔は妙に締まりのない下膨れ。……と言うか、トリステインの魔法学院に居たマリコルヌと似たタイプと言えば一発で分かるか。見た目も正にそのまんま。つっころばせば、そのまま勢い良く転がって行きそうな体型をして居る。
 髪の毛はくすんだ金髪。その金髪を何故か頭の上で纏めた奇妙な丁髷(ちょんまげ)姿、まるで頭の上にヤシの木を植えているかのような髪型にしている。眼は頭髪の色から推測するに淡い色をした瞳だと思われるのだが、顔の真ん中に人を小馬鹿にしたような赤いフレームの黒いサングラスをして居るので……。
 ……と言うか、この暗闇の中で敢えてサングラスを掛けなければならない理由が謎過ぎ。
 肌は……多分、元々は白。だと思うのだが、日焼けサロンに通うのが趣味なのかと問いたくなるような良く日に焼けた赤銅色。その代わりに磨き抜かれた歯は見事に……むしろ不自然なまでに光る白。単純に歯磨きを繰り返しただけでこの白を手に入れるのはかなり難しいと思うので、普通に考えると……ハルケギニア世界に存在していると思えないのだが、何らかの歯科医的なホワイトニングが行われていると思う。
 更に言うと服装に関しては何故かヤケに涼しげな南洋風。其処に描かれた花は……十六世紀から十七世紀初めのヨーロッパに存在していなかったと思われるハイビスカス。大航海時代が未だ訪れていないハルケギニアには存在していない……と思う。少なくとも、俺が召喚されてから一度も目にしてはいない。
 何にしても、現在の周囲の気温がおそらく氷点下である事を考えると、この服装は常軌を逸して居ると言わざるを得ない。

 少し瞳に能力(ちから)を籠め、その男を見つめる俺。しかし、彼に従う精霊の姿は確認出来ず。更に言うとその男自身が何らかの身体を冷気から護るタイプの術を行使していない事が理解出来た。
 そう、おそらくこの男が現在行使している魔法はハルケギニアのライトの魔法。それに、少し微妙な気配なのだが正体不明の小さな術。多分、エンハンスト系に分類される術が行使されている気配がある。
 ただ……。
 ただ、よく分からないのが、奴が最初に発した戦闘力五と言う台詞の意味なのだが……。
 これはもしかすると……。

「失礼ですが貴卿は?」

 何と言うか、出来る事ならばこう言う輩は無視をして先を急ぎたいトコロなのだが、狭い回廊の中心に仁王立ちの相手。それも、どうやら敵らしい相手の横をすり抜けるのも難しい。まして、俺の立場。世界の陰陽の均衡を保つべき仙人としての俺の立場から言うと、有無を言わせぬ先制攻撃は流石に問題がある。
 そう考え、普段通りのガリア王太子ルイのペルソナで話し掛ける俺。

 しかし……。
 本人はどうやらニヒルに笑った心算らしいのだが、どうにもいじけたアヒルが不満げにくちばしを歪めたようにしか見えない笑みをコチラに見せた後、

「匿名希望のチンチクリンとでも名乗って置きましょうか」

 もう何処からどう突っ込んで良いのか分からない答えを返して来る男。
 ただ、その中でも一番気になるのは……。

【有希】

 もっとも、流石に現実の言葉にして問い掛ける訳にも行かないので、【念話】にて自らの左隣に立つ彼女に問い掛ける俺。

【この目の前に現われた道化者は、どうも日本語で会話している様に俺には感じられるのだが、オマエさんにはどう聞こえている?】

 此方は普段通りの気易い言葉使いで。
 そう、此方の世界に戻って来てから分かったのだが、彼女は自らが名乗った『湖の乙女』と言う名前よりは、何故か有希と呼び掛けられた時に良い感情を発する事の方が多い。ただ、前世に関係する名前で常態的に呼び続けるのは真名の関係がある以上、流石に問題があるので、出来るだけ人前で使用する事はないようにしている。

 普段通り、まったく感情の色を見せない……まるで良く出来た人形のような、平坦で、ただ其処にあるだけの、仮面の如き静謐な表情で。しかし、心の方はかなりの高揚感を発しながら小さく首肯く有希。

 成るほど。
 俺にはこのハルケギニアに召喚された際、ハルケギニアの言語を日本語に同時通訳をする能力が与えられている。この能力の御蔭で最初にハルケギニアの言語を覚える必要がなかったのだが、相手が日本語を話していても、ハルケギニアの言語で話しているのと同じように聞こえていたのも事実。
 例えば、有希や妖精女王こと弓月桜などは、俺と二人きりの時は間違いなく日本語を使って会話を交わしていたと思われるのだが、しかし、俺の方は多少訝しく思いながらも、その辺りの事実に思い至る事はなかった。
 そう、これも思い込み。異世界なのだから言葉が通じないのは当たり前。異世界で暮らす彼ら、彼女らが使って居る言語は日本語以外の何か別の言語であるに違いない。だから、今、俺が言葉を理解出来て居るのは特殊な魔法の作用なのだ……と思い込んでいたから起きて仕舞った齟齬。

 何事に付いても思い込みと言うヤツは問題がある。そう言う事なのだと思う。

「成るほど、貴卿は元日本人と言う事ですか」

 此奴がここ……ハルケギニアに居る原因は分からない。次元孔に落ち込んだのか、俺のように何モノかに召喚されて終ったのか。
 それとも――

 俺の問いに対して、何故か妙に自慢げに厚ぼったい唇を歪める自称、匿名希望のチンチクリン。
 ……と言うか、確かに見たまんま此奴がチンチクリンなのは間違いないのだが。

「日本で死んだと思ったら、何故か神様が顕われてコッチの世界に転生させてくれたのさ」

 前世の記憶を持ったままでな。
 成るほど、此奴も這い寄る混沌に能力を貰った一人。つまり、このハルケギニアを混乱させる為に盤上に並べられた駒のひとつ、と言う事か。

 前世の記憶を持ったままでの転生。ならば日本語が話せても問題はない。
 ある程度の納得。しかし尚も残る疑問。そもそも、俺たちの行動の何処が犯罪に当たると言うのか。
 それともヤツの前世の記憶。……日本とハルケギニアに何の関係があるのか分からないが、それでもヤツの前世の記憶が何かハルケギニア世界と関係があって、其れと俺の行動に何か犯罪的だと思わせる内容があるのでしょう。
 もしかして見た目がローティーンの湖の乙女やタバサに手を出したと考えているのか?

「俺が日本人だった事が分かれば、オマエたちのやって来た事の何が問題だったのか分かるだろう?」

 妙に自慢気な雰囲気。ただ、俺の方はその言葉の内容では更に訳が分からなくなったのも事実。そもそも、此奴が元日本人だったと言う事と、俺がこの世界に召喚されてからやって来た事の間違いだった部分について、一体何の関係があるのか謎すぎるのだが……。

「何もしなければ。介入を最小限に抑えればこの世界の歴史はルイズとサイトがどうにかしてくれた。そうなったと言うのに――」

 オマエと言う余計な介入者が居たから世界が滅茶苦茶になって仕舞った。
 まるで、その歴史……。ハルケギニアの未来の事についても知っているぞ、と言う雰囲気で言葉を続ける匿名希望のチンチクリン。

「例えば、オルレアン大公を殺したのは無能王ジョゼフのハズなのに、何故かそうではないと言う作り話が定説に成って居たり、レコンキスタに女王にされる事がなかったはずのティファニアが女王になっていたり」

 それもすべてオマエの所為だ。
 本当なら今頃の時期、ティファニアはサイトと一緒にサウスコーダの森で静かに暮らしていたはずなのに。

 何か、良く分からない事を言い出すチンチクリン。
 ……と言うか、これは矛盾だらけなのだが。

「あのなぁ、一応言って置くが、ティファニアがレコンキスタに囚われて洗脳を施されたのは、俺がこの世界に関わる前の話だ。それに、オルレアン大公を殺したのはレコンキスタの三銃士と元東薔薇騎士アルタニャンの四人。これは間違いない」

 まして、そのオルレアン大公が殺されたのも俺が召喚される数年前の出来事。いくら俺が世界に影響を与える存在だからと言って、このハルケギニア世界にやって来る以前の出来事まで俺の所為にされてはたまった物ではない。
 これでは恐竜が絶滅したのも、地球が誕生したのもすべて俺の所為となって仕舞う。

 ただ……。
 ただ、此奴の話が事実だったとするのなら、少しばかり気になる点がある。
 それは……。

「トコロでな、匿名希望のチンチクリンさんよ。アンタはさっき聞いた話に因ると元日本人で、その頃の記憶があるのは間違いないんやな?
 その結果、このハルケギニア世界の歴史についてもあるていど知っていると」

 成るほど、此奴は星読みの類か。非常に単純な思考でそう考え掛けて、その瞬間に違う可能性がある事に気付く俺。確かに此奴は前世で日本にて暮らして居た頃の記憶があるとは言ったが、その事と、ハルケギニアの歴史。過去の事は兎も角、未来について知っている事がヤツの持っている前世の記憶とイコールで繋げられると限った話でない事に気付いたから。
 此奴がこの世界の理を越えて、前世の記憶を持った状態で転生を果たした理由が這い寄る混沌ならば、這い寄る混沌の方の理由……例えば、この自称匿名希望のチンチクリンに這い寄る混沌に取って都合の良い未来の出来事を教える可能性はある。そう考えたから。
 その分だけ。此奴に、自分にとって都合の良い未来の出来事を教える事が、今よりも余計にハルケギニア世界が混乱する可能性があるのならば、這い寄る混沌は間違いなく、その未来の出来事を教える。そう考えたから。

「当たり前。だから貴様が混乱の元凶だと気付いたんだ。この介入者が」

 何故か頭から俺が悪の権化だと決めつけて掛かって来る自称匿名希望のチンチクリン。もっとも、その匿名希望と名乗っている部分についても、実はハルケギニアの似非魔法使いどもに比べるとマシと言う部分かも知れない。
 何故ならば、少なくとも術者相手に自らの本名を名乗る馬鹿はいない。俺の知っている世界で、真面な師匠に付いて術を学んだ人間ならば。

 まぁ、この真名や忌み名。それに言霊と言う部分に関しては、その系統魔法を伝えたとされるブリミルによって意図的に隠された可能性もあるので、ハルケギニアの魔法使いたちに非がある可能性は少ないのだが。
 自分だけ。もしくは一部の特権階級にだけそう言う魔法の知識を伝授して、その結果、人々を支配し易い環境を作り出した可能性もゼロではないので。
 相手の名前を知り、その名前を操る事で、無意識の内に相手の行動を制御する方法はある。そう言う魔法を一部の特権階級だけに伝える、もしくは自分だけ、始祖ブリミルだけが行使した可能性はゼロではない。

 ワザとらしく首肯いて見せる俺。そして、何時の間にか俺と匿名希望のチンチクリンとの間に立っていたタバサの更に前へと身体をすべり込ませ、

「……と言う事は、オマエはシャルロットの父親が何モノかに殺される事も、更に言うとティファニアの身に降りかかる不幸についても最初から。事件が起きる前から知っていた。
 知って居ながら、何も具体的な行動に移る事もなく、そのまま見てみぬ振りをし続けた。
 そう考えても良い、と言う事なんやな?」

 聞きたかった部分にズバッと切り込む俺。
 そう、これが気になった部分。正義の味方面をした此奴の化けの皮を剥がすのに、これは十分な質問となる点だと思う。
 何故ならば、これは未必の故意と言えるかも知れない部分だから。オルレアン大公やティファニアの両親が殺される事を知って居ながら、そのままにして仕舞ったのだから。

「俺が犯罪者だと断罪する前に、自らの罪をタバサ……オルレアン大公遺児シャルロット姫の前で告白し、許しを請う方が先なのでは?」

 俺にはオマエのような生き方は出来ない。俺の本質は運命に抗う者。天に背く者だから。
 冷やかにそう告げる俺。当然、タバサの前に一歩踏み出した理由は、この事実の為。実際、手を下したのは目の前のふざけた髪型、アロハシャツにバーミューダパンツと言う真冬のヨーロッパには相応しくない出で立ちの道化者ではないのだが、結果としてオルレアン大公が殺される事を見てみぬ振りをしたのは事実なのだから。

 少なくとも、俺がこの世界にやって来る遙か前に起きて仕舞って居た事件の原因である、等と言うこじつけ臭い断罪よりも、その事件が起きる事を知っていながら何もアクションを起こさなかった此奴の罪の方が大きい。
 ……はず。

 しかし――

「馬鹿か貴様は?
 そんな事をすれば俺自身が歴史を改竄する事となるだろうが」

 歴史の改竄。そう言い切る匿名希望のチンチクリン。……と言うか、それは、この目の前の道化者が神の視点で物を考えている、と言う事だと思うのだが。
 確かに歴史上、どうしても起きなければならない事件と言う物があるのかも知れない。神の視点で物を考えるのならば。
 しかし……。
 しかし、その事に因って自らの父親を。更に母親を失い、今も双子の妹が狂人たちの元に囚われの身となっているタバサの目の前で言葉に出来るその神経の太さに脱帽する俺。

 確かに世界を神の視点から見つめて居れば、回り道を選ぶよりも最短ルートを選んで歴史を早く進めた方が結果として失う物が少ない可能性があるのは理解出来る。但し、その結果、現在進行形で不幸な境遇に置かれているタバサに対して何の配慮もしようとしない態度は流石に……。

 唖然として、咄嗟に返す言葉も思い付かない――大の虫を生かして小の虫を殺すと言う思考を簡単に受け入れて仕舞う事の出来ない俺に対して、更に言葉を続けるチンチクリン。

「一度歴史を改竄すれば、其処から先の歴史が俺の知っている歴史の流れから外れる事となり、結果、俺のウハウハ・ハーレム計画にひびが入る事となる」

 もっとも、その遠大な計画もオマエと言う余計な介入者が居た事に因って頓挫(とんざ)させられる事となったのだがな。

 ウハウハ・ハーレム計画って……。もう呆れて言葉も出て来ない状態なのだが……。
 ただ、ひとつはっきりした事がある。それは此奴が星読みでも何でもないと言う事。星読み……つまり未来を予知する事が出来る能力者ならば、自分が動く事に因って、自らの予知した歴史的な事実を改竄すれば、その直後にもう一度能力を行使すれば改竄した結果で変化した未来を改めて予知する事が可能となる。しかし、此奴は自らが動く事に因って歴史を変えると、自分の知っている歴史の流れから外れる事と成る……と言った。
 これはこの道化者の能力を知る上では重要なヒントとなるのは確実でしょう。

「成るほど、良く分かったよ」

 もう、ウハウハ・ハーレム計画の一言で、此奴の相手をする事に疲れ切って終った俺が、嘆息混じりにそう吐き出す。
 そして、

「オマエが平行世界の存在と言う思考を持っていない事も理解出来たし、カオス理論が一切理解出来ていない事も理解出来たよ」

 本当に話してくれてありがとサンやな。
 かなり投げやりに気分でそう言う俺。本当に気分的には、命冥加な奴だな。阿呆の血を分けてくれた両親に感謝すると良い。少なくとも俺はオマエを相手にする気力も湧かなくなったよ……と言う感じ。
 取り敢えず、貴方は何処か他所の国で自分一人だけで幸せになって下さい。出来るだけ俺から遠くに存在する国で。そう言う気分。

 そう言いながら、右手でまるで野良犬を追い払うかのような仕草をして見せる俺。
 そう、平行世界。おそらく、この目の前の道化は何モノかに、ソイツに取って都合の良い未来と言うヤツを教え込まれ、その言葉に従って世界を動かせば混乱したハルケギニア世界を救う事が出来る……とでも言われ、それを馬鹿正直に信じ込んだのでしょう。
 但し、そんな物は砂上の楼閣に過ぎない。

 そもそも、その介入者と言う表現を此奴が使った事からも分かろうと言う物。
 まして、コイツは自らが英雄となって世界をより良い方向に導くとは言っていない。ヤツが言ったのは、ルイズとサイトがどうにかしてくれた、と言う内容。
 つまり、本来ならコイツ自身もその介入者と呼ばれる存在の可能性がある……と言う事だと思う。
 その理由は、何故、オルレアン大公やティファニアの両親が死ぬ事を阻止しようとしなかったのか、の問い掛けに対する答えが証明していると思う。
 やろうと思えば歴史に対して干渉出来るけど、それを行うと其処から先の未来の展開が読めなくなるのでやらなかった、と言う部分に。

「何とでもほざけ、介入者」

 本来いないはずのガリアの王太子と言う存在が世界の混乱の中心に居るのは間違いない。
 そもそも、ガリアの王にはトリステインの魔法学院でタバサと偽名を名乗っていたシャルロット姫が無能王ジョゼフを倒した後に戴冠する物。そこに横入りしたオマエが一番怪しいに決まっている!

 取りつく島もない、と言うのはこう言う時の事を言うのでしょう。初めから聞く耳など持っていないと言わんばかりに、そう叫ぶ匿名希望のチンチクリン。
 但し、これは間違いなく虚勢。声の調子はそれまでと一切変わる事はないが、奴が放つ雰囲気から心の部分が丸分かり。ほんの少しなのだが、それまでの狂信者が放つ独特の気配の中に、少しだけ冷静な色が混じり始めている。
 おそらく、心の中に僅かな蟠りのような物が出来つつある状況なのでしょう。

 ならば――
 やれやれ。そう言わんばかりにわざとらしく肩を竦めて見せる俺。そして、

「オマエさんが知っている歴史と、今のこの世界の状況。何故、然したる介入もしていないのに、其処に違いが発生しているのか。その理由を知りたいとは思わないか?」

 表面上は酷く穏やかな表情で。しかし、心の中ではある種の属性。高名な錬金術師であり、降霊術者でもあったとされるとある博士に、己の魂を代価に用いた契約を交わす際、その悪魔が浮かべていたと言われている笑みを口元に浮かべながら、そう問い掛けたのだった。

 
 

 
後書き

 それでは次回タイトルは『蝶の羽ばたき』です。

 ちなみにチンチクリンは漢字で珍蓄林と書きます。あれ、珍竹林だったかな。……と言うか、要らん情報だなこれは。
 ……古すぎて資料が。探せばリアは出て来ると思うけど引っ越しの時にかなり処分したからなぁ。
 例えばクトゥルフの邪神に精神を乗っ取られた時のリア(商業ネット参加時)は手元に残してあるけど、無能の術者養成学校の時のリアは全部処分したから。
 そりゃ教師(NPC)が八○大蛇に対して自爆系の術。使用したら重症となる術を使って相手は無傷。自分は重症。などと言うマヌケなリアが戻って来たら呆れるって。
 もっとも、これは未だマシだった事が同社のМ○9に参加して理解出来たのだが。ルールブックすら読んでいないゲームマスターと言うヤツに遭遇したのはアレが最初で最後だった。
 
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