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魔法少女リリカルなのは 永久-とわ-の約束

作者:ULLR
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無印編
ジュエルシードを求めて
  過去からの来訪者

 
前書き
段々と、過去と今が交差する。 

 


なのはが決意を固めてから数日が経った。
海鳴市のやや内陸部にある小山の頂上。林道を10分ほど歩けばたどり着くちょっとしたこの広場はよく魔法の練習で使用する。
今日も例に漏れず魔法の練習だが、最近は少々毛色が違うことをやっている。

【Master,power is too strong】

「うぅ……」
「落ち着いて。深呼吸しながらもう一回。一気に放出するんじゃなくて、ゆっくり、自分を中心に周りに意識を拡げていくイメージで」

眉間に皺を寄せつつ、素直に深呼吸して再び魔力を解放するなのは。なのはの魔力の影響で活性化した周囲の魔素がキラキラと燐光を放つ。

(……まあ、1週間と掛からずどちらかと言えば相性の悪い精密操作技術をここまで出来るようになれば合格か)

最初の頃はジュエルシード暴走体との戦闘で役に立つ魔法しか練習していなかったが、なのはが覚悟を決めた今、朝の練習は専ら魔力運用の効率化だ。
今までのように力任せに魔力を放出していてはいくらAAAクラスの魔力を保有するなのはと言えど、すぐに使い切ってしまうのは明白だ。
だからこそ魔法発動時に最少限の魔力で最大の結果を出すための前段階の訓練がこれだ。謂わば基礎の基礎。

「よし、そこまで」

【Cheers for good work,Master】

最初はなのはを名前で呼んでいたレイジングハートも、最近は懐いて来てマスターと呼び方を変えている。意思を持ったデバイスを持つ時は、彼らとの絆も重要になって来るので良い兆候だ。

「う~……何だか不完全燃焼」
「疲れ果ててどうする。今夜もジュエルシード探しだし、昼には出掛けるだろう?」
「……そうだね。せっかくアリサちゃんとすずかちゃんに誘って貰ったんだから、元気でいないと」
「ん、あまり友達に心配かけるもんじゃない」

ちなみにユーノは家で留守番している。勿論サボっている訳では無く、夜の探索の為に力を蓄えているだけだ。こうやってなのはの朝練に同行すると、結界や安全対策などで何気に魔力を消費するためまだユーノには少々負担になってしまう。

「キーラ君はどう?調子」
「大分良くなってきた。全開時の50から60%くらいかな」
「……それって結構微妙なような……」

確かに良くは無いが、ジュエルシードの暴走体ごときに遅れは取らない。なのはレベルの魔導師と戦えと言われても油断さえしなければ、負けはしないだろう。

「大丈夫だ。仮に魔法が使えなくても、なのはを連れて逃げることぐらいは出来る」
「逃げちゃうんだね……」
「労力に対して損害が多いなら、逃げる。これ基本な」
「暴走体を相手にそんなことにならないようにしないとね……」

と、こんな感じに俺流の戦術ミニ講座を交えつつ。朝練はそれなりにメリハリをつけて毎朝行われていた。








場所は変わって月村邸。取り合えず目に入るのは猫、メイドさん、そして猫だ。

「フカーッ!!」
「…………」

流石に警戒心の強い猫は俺がナニモノであるかを感知するらしい。半径数メートルの子猫共はみな一様に俺を睨み付けている。

「キーラ嫌われてるわねぇ……」
「どうしてだろう……皆普段は良い子なのに……」
「ええと……キツネはイヌ科だからじゃないかな?」

地球での分類上、猫はネコ目ネコ科。フェレットはネコ目イタチ科。キツネはネコ目イヌ科キツネ属と案外この場に居る動物は遠い親戚だったりする。犬と猫は仲が悪いという例があるが、犬とてネコ目イヌ科なのだ。
そんなこんなでアリサ嬢が例のごとくユー坊を撫で回したり、ユー坊が猫に追いかけ回されてそれに巻き込まれたメイドさんが紅茶を溢したりしていた時、

『あ……!!』
『来たな』
月村邸の庭にある森からジュエルシードの反応。大分近くだ。
『ユー坊!』
『うん、分かってる』
なのはの膝に乗っていたユー坊が飛び降り、森の中へ。
「あれ、ユーノどうしたの?」
「何か見つけたのかも。ちょっと探して来るね」
「大丈夫?一緒に行こうか?」
「ううん、平気。すぐ帰って来るから、待ってて」






森の中を進んでいる途中、ジュエルシードの発動の兆候が高まった。アリサ嬢やすずか嬢に近いこの場所ではリスクがある。

「結界は俺がやる。ユー坊は封印のサポート」
「了解 !」

足下に群青の魔方陣を展開。体系を表すその形はミッドチルダ式の円形魔法陣。

「座標固定……展開‼︎」

封時結界とは周囲の時間と結界内の
時間をずらすことで、解除時に『修正力』で周囲の損傷を無かったことにするーーーと説明すると難しい事のようだが、結界魔法で言えば初級レベルだ。
周囲の景色が色褪せ、辺りがやや暗くなる。

(ん……?)

先に反応地点に向かったなのは達を追いかけようとした時、結界内になのはとユー坊以外の《異物》を探知した。

(管理局にしては早すぎる……何者だ?)

いずれにせよ、人の張った結界内に堂々と入って来たと言うことは、介入する気満々に違いない。
不測の事態に備え、魔力を全身に漲らせるとその場から駆け出した。







いつもと違ってジュエルシードは願い主の望みを正確に叶えたらしく、依代となった猫さんは大きくなっていた。バリアジャケットをまといレイジングハートを構える。

「……とりあえず、封印しないと!」
「そ、そうだよね。これだけ大きくなっちゃうとすずかちゃんも困っちゃうだろうし。レイジングハート、お願い‼︎」

【All right, Master. Stanby ready,Set up.】

意識を集中し封印魔法を放とうとした時ーーー金色の光が猫を撃った。








「バルディッシュ、フォトンランサー連撃」

【Photon lancer. Full auto fire】

斧型デバイスの相棒、バルディッシュが魔力弾を生成しジュエルシードの暴走体を撃つ。

(まだ、子猫かな……)

決して良い気分では無いが他ならぬ母の頼みだ。まずは封印をし易いよう宿主を弱らせることにし、魔力で出来た弾丸を撃ち込んでいく。が、その弾丸は魔力による障壁に阻まれた。

「魔導師……」

ジュエルシードのものでは無い。第三者の介入。飛行魔法を発動し、空へ上がる。開けた場所にいたのは白いバリアジャケットをまとった同い年くらいの女の子。

「バルディッシュと同型のインテリジェントデバイス……」
「バル、ディッシュ……?」

殆ど独り言のようなものだったが、どうやら聞こえたらしくその子もまた独り言のように呟いた。
改めて目の前の女の子を見てみる。僅かに感じとれる魔力量こそ規格外だが、杖を構える姿、注意力は素人同然。それに、彼女に見えているのは私だけで上空に控えている()に気付いた様子は全く無い。

「……ロストロギア、ジュエルシード。申し訳ないけど、頂いて行きます」

【Scythe form. Set up】

「…………っ⁉︎」

胴を一薙し魔力ダメージで昏倒させようとした時、多くの事が一瞬で起こった。
群青色のシールドがバルディッシュの一閃を弾くとそこからチェーンバインドが伸び、間髪入れずに上空から巨大な魔力反応。それは一度収縮すると、直径10cm程の砲撃となって向かって来た。しかし、私にそれが当たる事はさ無く、その砲撃との間に割り込んだ黒い影によって魔力は《吸収》された。
彼が超人的スピードで私とその魔法の間に滑り込んで攻撃を無効化したのだ。

「ーーー大丈夫か、フェイト」
「ありがとう。助かったよ、グレン」








「お前は……‼︎」

突然の攻撃から守ってくれたキーラ君は同じく向こうに現れた人を見て驚いた様に言った。その人の髪の色から服装まで、とにかく黒い。そして手には黒い剣を持っていた。よく見て見ればその刀身に金属の輝きは無く、逆に光を吸いこんでいる印象がある。歳は私や金髪の子より少しだけ歳上だろうか。物静かな印象は見た目より大人びた雰囲気を醸し出していた。

「久しぶりだな、キーラ」
「……グレン、何故お前が……アリスの封印をどうやって……?」
「この子に助けられた」

雰囲気と会話の内容が不穏だった。さらに、キーラ君は今までに無いほど動揺し、声がかすれている。
思い切ってキーラ君に思念通話で呼びかけてみる。

『キーラ君、知り合いなの?』
『……ああ。詳しくは後で。2人共、残念だが今回ジュエルシードは諦めよう』
『『ええ⁉︎』』

でも、直後にキーラ君はとんでもない事を言い出した。らしくない言葉に当惑していると、更に信じられないことを言う。

『グレン・グラディウス。昔の仲間で、恐らく今の俺の100倍は強い』
『ひゃ、ひゃく⁉︎』
『1分は稼ぐ。結界の外まで騒動を持ち越しはしないだろう。ユーノ、なのはを連れて逃げろ』

それきりキーラ君は思念通話を切ると、威嚇するように全身の毛を逆立てて唸り声をあげる。

「流石、理解が早いな。俺たちの目的の為、ジュエルシードを全て置いて行け。という要求は跳ね除けるか」
「当たり前だ」

グレンと言われた剣を持った子も、目を細めると自然体で剣を構える。

『行け‼︎』
「……っ‼︎」

キーラ君の思念が飛んできた瞬間、凄まじい速度で振り抜かれた剣がキーラ君の張った防御陣に防がれ、拮抗する。だが、それは少しずつひび割れ今にも砕けそうだ。

「そんな、キーラの盾が⁉︎」
「グレンの剣が、防がれてる……?」

ユーノ君と金髪の魔導師の子がそれぞれ驚きの声をあげている。

「っ、ユーノッ‼︎早くしろ!」
「フェイト。あの子たちを追いかけるんだ」

必死さを滲ませるキーラ君の怒鳴り声に、体がびくりと反応し徐々に後ずさって駆け出す。後ろから追いかけて来る影を何とかかわしながら、結界の端まで逃げる。

「ジュエルシードを渡して下さい」
「……っ!」

しかし寸前のところで回り込まれて道を塞がれる。後ろで続く戦闘音は徐々にこちらへ向かって来ており、キーラ君が押されている様子が伺えた。
目の前の女の子も、あまり待っていてくれる様子は無い。

『労力に対して損害が多いなら、逃げる。これ基本な』

今朝、キーラ君が言っていた言葉を思い出す。ここで立ち向かったとして、目の前の女の子の方が戦い方は上手だろう。勝利、あるいは引き分けに持ち込めるビジョンは浮かばない。だから逃げの一手は戦略として間違ってはいない。ただし、タダで逃げられればの話だ。

「……このジュエルシードは、ユーノ君が探してる大切なもの。理由も言わないでただ渡すことは出来ないよ」
「…………」

すると女の子は一層眉を顰めて杖を構え直す。衝突は避けられないようだ。だから、突破する。

「……バル【Conic lancer , strike】……ッ⁉︎」

最近朝に練習している魔力の精密運用とは真逆の放出を行う。同時にレイジングハートが杖先に円錐状のシールドを展開し、そのまま突撃した。
本来の用途が防御なので、相手が怪我をすることはない。不意の突撃が相当意表をついたようで、結界の端に着いた時にようやく相手は体勢を立て直した。

「ユーノ君!」
「うん!」

慌てたようにこちらに向かって来る女の子を見て、少しだけ自分に呵責を覚えながら結界から離脱した。






グレンは剣闘奴隷の出だ。その剣技は生き残るための剣であり、圧倒的力の差を覆す技だ。勿論、そこに優美さや駆け引きなどの読み合いは無く、いかに自分を殺そうとする相手を自分が殺される前に殺すかを追求したものだった。生き残るためにグレンは強くなり続け、やがてリリア様の目に留まり、剣神と名指された。それが弱冠8歳の頃と俺は聞いてる。それから5年後に俺がリリア様に拾われた頃には名実ともに統一次元世界最強の剣士として奴は君臨していた。
奴が手にする剣もまた特別製だ。女王直下の6柱が手にする固有の武器は《神器》と呼ばれ、特徴として、全て同じ素材から作られてる。使われている鉱物元来の属性《魔力吸収・蓄積》と《不壊》がそのまま作用するように概念的に加工されたグレンの剣は銘を《神の涙(クリスタルレイン)》。如何な防御も魔力・物理関係なく問答無用で粉砕する。

「ふっ……‼︎」
「……ッ‼︎」

必殺の剣と必殺の技が一体となり、絶死の一撃が振るわれる。あらゆる条理を一笑して敵を殺すその一撃を群青色の魔法陣が受け止め、弾き返した。

「腕は鈍っていないようだな」
「……お前も数千年寝てた割には技が冴えてるな」

一方、俺はリリア様に拾われた後しばらくして、ご息女の護衛として仕えることになったので防御や結界の魔法を教わり、神器もそれに応じたものを下賜された。
要するにグレンが攻撃に特化しているのに対し、俺は守りに特化している。剣士として人外の領域に至ったグレンを何とか捌けているのはそれが理由だった。
攻撃と防御の衝突1つ1つに自らの全力を込め、グレンが上回れば防御を切り裂き、俺が上回れば弾き返す。
反撃の糸口は無かったが、グレンもまたこれ以上は攻め入れない様子だ。

(まあそれも、奴が俺をここに釘付けすることを前提に動いているだけだからだが……)

恐らく俺が本調子じゃないのはバレてるし、じきに限界が来るのも読まれている。奴が本気なら俺はもう戦闘不能でみっともなく地面に這いつくばっているだろう。本当ならさっさと逃亡したいところだが、少しでもグレンから気を逸らせば無視できないダメージが体に刻まれる。
その時、結界が一時的に綻ぶのが直感的に伝わって来た。

「……む」
「予想が外れたみたいだな」

俺にはなのはたちが結界の外へ離脱していったのが感じ取れた。この時点で外とこの結界の中では時間にズレが生じているので、結界を張った俺が制御を放棄しない限りなのはとの時間的距離は増えていく一方だった。

「……ならばお前を倒せば良いこと」

そう言ってグレンは剣を大上段に構える。一見隙だらけだが、グレンの反射神経と剣速はその隙を無意味にする。実質隙など無い。
いかに《絶対防御》と謳われた俺の魔法でも次の一撃は受け切れないだろうという確信があった。かといってかわすのはもっと無理だ。距離を詰められ、不可視の一撃で殺られる。

「殺しはしない。しかし少し寝ていてもらうぞ」
「その殺気で言われても信じられないが」

一閃。
音すらも置き去りにした斬撃が、展開した防御陣をいとも簡単に粉砕し俺に迫る。
あわやそれが致命的な攻撃になる寸前、俺はギリギリで仕掛け終わった自分の神器を起動した。

起きろ(inceptiv)

その様子はまるで世界が変わるようだ。俺とグレンの周りの世界が漆黒に染まり、グレンの攻撃を乱す。

「しまっ……」
「遅い」

ようやくこれの正体を思い出したらしくグレンが対応しようとするが、黒の暴風が吹き荒れグレンを包み込む。キン、キン、と澄んだ音が鳴りグレンの周りに暴風が収束していき、やがて黒い球体の中へ奴を閉じ込めた。

「《星屑(スターダスト)》はこうも使える。忘れたか?長期戦は望むところだ」

無形神器《星屑(スターダスト)》もまた《神の涙(クリスタルレイン)》と同じ素材で作られている。本来この素材は不壊属性というものにより、細かく砕いたり変形させるといったことは出来ないが、魔法で概念を一部捻じ曲げる加工を施すことによって神器として形を成している。俺の神器は無数の欠片へそれを分割することによって『形』を無くしたものだ。逆に今のようにある程度形を作るとなると、作用してる概念改変魔法を部分的に緩めることになり少々処理に時間を要するのだ。
故に俺が神器を使用する場合、戦闘はある程度長期化せざるを得ず、その間は自前の防御魔法でどうにか凌ぎきることになる。

「今回のジュエルシードはお前らにやる。それで今日のところは終いだ」

この拘束とて後数秒もすれば破られるだろう。本当ならそんな柔なものではないが、ことグレン相手ならばそんな不条理が平然と起こり得る。何よりかなり消耗してしまったので、そろそろ俺が限界を迎えつつある。
焼け石に水だが、やらないよりはマシ程度に拘束を強化し結界から離脱する。適当な地面に魔力を込めた結界維持の為のアンカーを突き刺し、なのはの気配がする方に向かっていく。

厄介な相手だ。しかし同時に複雑な気持ちになる相手でもある。
グレンは強い。強いが、逆に奴にはそれだけだった。人外の強さを手に入れながら、どこまでも純粋に人であった。
本来、それは喜ぶべきものだ。何より得難いものだ。

しかしそれは、奴を焦燥に駆らせる楔でもあったのだった。


 
 

 
後書き
少し間を空けすぎましたね。すみません。
というわけで、今回はみんな大好きフェイトちゃん遭遇回。こらそこ、ヒロインが空気とか言わない!
原作ではユーノ、アルフを含めて2対2でしたが、拙作ではこれで3対3になりますね。

キーラやグレンの過去も段々と明らかになり、遥か昔、何があって彼らが今まで生きてきたのかも開示されていきます。
もちろん、本筋のジュエルシード集めも忘れずに。

次回は恐らくキーラによる説明回になると思います。

それでは…… 
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