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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第49話 水面下の崩壊

 
前書き
~あらすじ~
 ついにやって来たラブライブ!予選。
A-RISEと同じ場所で踊ることになったμ`sは生で見る彼女らのダンスに圧倒されていた。だけど穂乃果の一言で気持ちを奮い立たせてステージへと足を運ぶ。
 綺羅ツバサは笹倉大地に質問する。『なんで君は……踊らないの?』才能を持つ者と持たざる者の違いが、そこにはあった。


そして、彼は見てしまう。


『なんで……アイツがここにいるんだよ』 

 
───私が見たのは、光輝(ひかり)





 9人の女子高生(・・・・・・・)が解き放つ、光の道筋。
知らずして魅せる、無限の可能性。




 ただの素人だった、いいや、今でも十分素人の枠内に収まる彼女たちが、どうしてここまでできるのか……。

 今日という日に備えて準備した新曲と、衣装は『合宿を通して見つけた、自分たちの夢と絆』と彼女らは謳っていた。私の手元にあるパンフレットに写る彼女らは、堂々としていて、ただただ苛立だしいだけで、私に胸には何も響かない。

 純粋に観に来た一般客であれば、私も十分に応援できたのかもしれない。だけどそういう感情にならないのには訳がある。



「高坂……穂乃果」


 無意識に私は、9人の中で一番彼に近く、一番憎い相手の名前を呟いていた。
なんせ、私では得られなかった場所(・・)を彼女は手に入れているのだから。いいや、違う。正確には”私がもう少しで手に入れられた場所”を高坂穂乃果は横取りしたのだ。

 記憶を失い、怯え、挙句の果てには女子高へと転校させられた大地の心情を察すると、心が痛む。


 彼女があの時、あの場所で放った言葉は、今でも鮮明に覚えている。
そして、その一言は私にとって大きな決断を下すのに十分な打撃を与える一言でもあった。高坂穂乃果にとってのその一言は、私に向けたただの慰めの一言だったのかもしれない。それの真意は知りたくないし、知ろうとも思わない。

 だけど、ただただ許せなかった。
何を知り、何を見て高坂穂乃果は考えたのか.....。



「彼のそばにいていいのは......アイツじゃない。






───私だ」










私こそが、笹倉大地の隣に立って支えるにふさわしい女の子なのだ。







~ 第49話 水面下の崩壊 ~







彼は......笹倉大地は、こう言った。




『なんで君が1人で仕事してんだよ』





高校に入学して数週間が経ったある放課後。
彼は、さも『めんどうなヤツと会っちまったな』とでも言いたげな表情で、面倒くさげに話しかけてきた。

笹倉大地というクラスメートの存在は認識していた。
頭良し、運動神経良し、基本的に仏頂面ではあるが、そこに魅力を感じ、クラスの中では笑顔さえ見せればモテるという噂のある青年。

話によると、成績トップで入学したものの、その学力とは似使わず茶髪に染めた容姿が、先生らの注目を浴びていた。

特に仲のいい友達もいる様子もなく、1人で考えて、動く彼は、授業が終わると知らぬ間に教室からいなくなり、行方知れずだった。


『もう1人の日直がサボっていなくなったから私がやってるの。どう?私優しいでしょ』
『ふーん』


興味も示さず、私の席を素通りする。
それを横目に私も自分の作業を進める。今日初めて彼と話をした。どうして彼が話しかけてきたのか、今でもわからずじまい。


『いつも、笹倉君は何してるの?授業終わるとすぐいなくなるよね』
『特に何かしてるってわけじゃないよ。ただ1人で屋上で過ごしてるだけ』
『立入禁止なのに?』
『開いてるんだよなこれが』


相変わらずの投げやりな返答。
コミュニケーション力が無いというより、ただ人と会話するのが億劫なんだな。そう思った。

『どうしていつも1人なの?』

我ながら失礼な質問だなと言ってから気付く。
そんな私の質問に、表情一つ変えない彼はどこか無気力で、自分を見失っているような気がした。

『めんどうなだけだ。いいや違う、怖いだけなんだよな』
『怖い?どういうこと?』
『漠然と、人と触れ合って得たものを失うことが』
『......笹倉くんは何を失ったの?』
『君って結構ストレートに聞いてくるね』
『あぁ、うん。気を悪くしないで?悪気は無いの』
『簡単さ、友達を先月失った。それだけだよ』

彼が暗喩しているのは、つまりそういうこと。
仲の良かった友達を失い、その友達との楽しい思い出が、辛いものに変わってしまった。思い出すことで、同時に苦い記憶へと変わってしまった。

『......ごめん』
『なんで君が謝るのさ。もう終わった事。それをどうするかなんて、俺の勝手だ』


なんて寂しい人なんだろうって思った。
まるで両手でかき集めた砂が、手の隙間から零れ落ちてしまうような弱さ。集めては零して、また集めては零しての繰り返し。

『君こそ……ええと、』
『大槻未遥よ。クラスメートの名前くらい覚えて欲しいわ』
『……アンタ(・・・)は、どうして一人でいるんだよ。容姿もいいし聞くところによると優しい性格してるらしいじゃないか。でも彼氏無しで男はおろか女の子すらも寄せ付けないと耳にしているが』


 噂というモノには必ず尾ひれがつく。げんに彼が言う噂にも無いことが混じっていて、だけど彼はそれすらも興味なさげに言い放っていた事に、僅かに腹が立った。



『酷いよー、名前くらい呼んでよ』
『……気が向いたらな』


 自分の席の……引き出しを開けて何か冊子を取り出しながら彼はそう呟く。それをそのまま手に持っていたバッグに乱暴にしまうと、来た時と同様に私を無視して横を素通りしていく。

『手伝ってくれないの?』
『あ?なんで俺が日直の仕事を手伝うんだよ。それはアンタの仕事だろ?』


 ぶっきらぼうに言った彼の背中は大きく見えるようでもあり、小さく見えるような気がした。
わからない。どうして笹倉大地という少年はあんなにも味気の無い生き方をしていうのか。私には理解できない、理解に苦しむ。



……それでも、私の中に何かが残ってしまった(・・・・・・・)。それが何なのかは今でも見つけられていない。


 彼の姿が消えてしまった後でも、彼のいた場所を眺め続けて思う。
『仲良くなりたい』と。出会いがどうであれ、私になかにはただそれだけが残っていた。











────これが、私と大地君の本当の出会い。大地君自身はこのことを覚えていなくて、食堂での一件(・・・・・・)が出会いだと思い込んでいるみたいだけど、私にとってこっちの方が遥かに大きな衝撃を受けていた。


 何かを失い、冷めていても根っこの部分が生きている感覚。
根っこを守る周りの土がだめでも、意地を張って成長しようとする根性。前を見たくても見る機会と勇気が無くて彷徨っているような気配。


 たった数分のやり取りで、大地君からそこまで感じ取ってしまった事に驚きつつも、『これは運命なんだ』と思ってしまった当時の私。だから私は興味を抱かずにはいられなかった。大地君は今の自分に至るまでに何を見て、感じて、考えて、行動を起こしてきたのか。

 彼の行動原理を知りたいと願ってしまった。
それが()という感情にあてはまらなくても、私にとっての初恋(・・)が彼に対する興味だった。それは今でも変わらずに胸の奥深くで根付いている。




 その恋愛感情の中には当然独占、支配、色欲といった欲があるのも自覚している。
大地君の幸福を自分の幸福よりも願い、大地君が苦しむくらいなら私が苦しみ、彼が望むことを自分の望みを犠牲にしてでも叶えたい自己犠牲感が、私の中をうずめいている。

 狂っていることくらい当の昔から自覚している。彼が私以外の異性と楽しそうに話している姿を見るのは我慢ならないし、もしかして付き合っている人がいるんじゃないかと不安にもなる。





 本当は私でもこうなるつもりはなかった(・・・・・・・・・・・・)。ここまで人に興味をもって、依存するなんて……。


「我ながら、遠回りな事してるよね……」


珍しく感傷に浸るような独り言をこぼす。
特段ネガティブ思考を持ち合わせているわけでは無いけれど、あまりにも自分の思うがままに事が動いてくれなくて苛立ちを込めた愚痴だと思う。

 このままあの子(・・・)の思うがままにさせていたら、間違いなく取り返しのつかない結末を迎えそうで、かと言って、その結末に導かないようにするためにはどうしたらいいのか……ここ数日思考が止まりっぱなしなのも事実だ。

 大地君の家で……彼のスマホを敢えて(・・・)通話中にしていたのはこのため(・・・・)
話の内容から察してμ`sの一人ということだけはわかっていた。だから敢えて繋げて、絶対大地君が彼女らに話していないだろう記憶喪失(・・・・)の話題を振った。

 これで少しは関係性にヒビでも入れば────そんな考えがそもそも甘かったと気づくのに時間がかかってしまった。




 既に彼の心の支えとなっているμ`s。
どういった経緯で親密な関係になったのかは知らないし、知ったところで虫唾が走るだけ。とくにリーダーの高坂穂乃果。彼女にだけ見せる大地君の感情はもはや恋愛のソレ。

 調べてわかったことは大地君の幼少期の近所絡みの幼馴染で今はスクールアイドル”μ`s”の創設者兼リーダー。そして……



────七年前の事件の被害者の一人。



 

 私は、知ってしまった(・・・・・・・)
私が調べて得た情報は間違いく事実で、これが嘘偽りないものであるのは確かだ。


であるのなら……



高坂穂乃果は大地君の隣にいていい人間じゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。いちゃいけないんだよ」

 そう。
高坂穂乃果という女の子はあの事件(・・・・)で大地君を苦しめるきっかけを創り出した張本人。自分の犯した罪から目を背け、記憶の無い大地君をうまく言い包めて利用し、まるでそのことが無かったかのように接している。

そんな女が、守ってくれた彼の隣にいていいはずがない。








「おい待てよ!!」
「!!っ」



 声が聞こえた。
それは私の背後から聞こえてくるようでもあり、遠くから聞こえてくるようでもあり、正面から聞こえてくるようでもあり、耳元で囁かれるように聞こえるようでもあった。








ベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャ……。






 その声を遠ざける様に、夜の街中を行き交う人から発せられる音が私の耳にめり込んでくる。
ベチャベチャ、と耳障りな雑音が神経を通って脳髄へと響き、そのまま頭痛へと変わる。



「……ぁ」
「はぁ、はぁ……お前、なんで、ここにいるんだよ」
「……わざわざ走って私の事を追ってくれたのかな?もしそうなら嬉しいな」
「誤魔化すな。なんであの場に君がいるんだよ未遥!」
「……」










~☆~




「誤魔化すな。なんであの場所にいるんだと未遥!」
「……」



 前から……それこそ、出会った当初から変なヤツだなと思っていた。いきなり話しかけてきては一人で勝手に笑い転げるし、別に笑いどころじゃないところでツボにはまるわ、清楚で大人しそうという見た目に反してアクティブな性格しているし。だけど、人の悩みは真剣に聞き、その悩みの解決までお手伝いするというお節介を極めているのだろうか、というくらい世話焼きな奴だった。

 

とにかく、ただひたすらに変な奴だなと思っていた。


 だけど、これ(・・)は違う。
俺が追っかけていた目の前の少女は違う(・・)未遥であることに間違いは無いのだが、違う。

 自慢の髪もボサボサで、俺どころか何処も見ていない虚ろな目をしている。
最後に会ったのはいつだっただろうか、と模索する中、未遥はたどたどしい足取りで近づいて口を開けては閉じてを繰り返している。

 たった数週間でこの風変わりはただ事じゃないと判断し、ふらつく彼女を支える。
服越しからでもわかる彼女の冷たさに一瞬手を引きたくなるも、俺は意地を張って力強くそのまま抱きしめる。


「どうしたんだよ一体!未遥、なにがあったんだ!」
「……か────には────ない」
「え?」

 震える唇から僅かに漏れる声に意識を集中するも、何を言っているのかわからない。
だけど、予想外の姿に居てもたってもいられず、彼女の口もとを注視すると……ようやくわかった。












────こ う さ か に は わ た さ な い








……高坂には渡さない。
未遥はそう言っていた。間違いない。何を渡さないかなんて、もはや言われなくてもわかっている。憎悪に満ちた表情は俺じゃなくて、今ここにいない穂乃果に向けられている。

「……穂乃果には手を出すなよ」
「っ!?どう、して────」
「アイツには……助けてもらってばかりだからだよ。まだ何にも恩返しができていない」
「……あんな子に、恩返しなんて必要ないよ。大地君も隣にいる必要は無いんだよ?私が、あの時みたいに支えるから。ね?」


人が変わってしまったかのような虚ろな瞳、揺れ動く感情、殺意、嫉妬......浮き沈みするその感情は、俺の知っている未遥じゃない。
それは、出張に行く父親を無理やり引き留めようとする娘のような光景。
人はここまで変わってしまうのだろうか。
そうしてしまったのは俺の責任。だけど、それを背負うわけにはいかない。


「なぁどうしてしまったんだよ!何が君をこうしてしまったんだよ!」
「私は変わってない!大地君が前みたいに私だけを見てくれないから!!変わったのは大地君なんだよ!!!」



 激昂を露わにする彼女を見るのは初めてで、思わず一歩後ずさる。
ただ言ってることも確か。前の高校にいた時は、人と触れ合うのが怖くて自分自身を閉ざし、関わることを拒んできた。そんな中唯一心を開いた子が未遥だ。未遥だけを見ていた……というのには語弊があって、未遥だけ(・・)を見ていたのではなく、未遥しか(・・)見れなかったのだ。

 気を許した彼女を見て、人と触れ合うことの魅力を思い出し、もしかすると恋愛の対象として接していたのかもしれない。だけど、それはあくまで一時(いっとき)の話。勿論感謝はしているし、未遥の気持ちをないがしろにしているつもりも毛頭ない。

 
「……人は変わりゆくもの。これはどうあがいても逃れられない。俺も、未遥も変わっただろ。性格も、関係も!」
「変わってない変わってない!!私は大地君の隣にずっといるって決めたの!!だから大地君も私の隣にいなきゃダメなの!!」
「どうしてそんなに短絡的なんだ!」

 
 俺は呆然としてしまった。
俺が、俺という存在が温厚だった彼女を変えてしまったとでもいうのだろうか。さっきも投げかけたように、人は変わるべくして変わる。それは避けようにも避けられない。だから俺は自分の変化を受け入れた。

 未遥と距離が離れてしまった事を受け入れた。
記憶を失っている自分を受け入れた。μ`sのメンバーとして共にラブライブ!を目指すことを受け入れた。その受け入れる、という変化が、自分の新たな前進だと信じてきた。

 だけど、今ここで俺の変化を嘆いている彼女はどうだろうか……?
過去の関係に縋り付き、相手が望んでもいないのにそれを強要する。実に身勝手に他ならない。もし相手が未遥じゃなかったら、俺は前の────頑固絵里へ向けたように言葉を並べていただろう。

 でも、相手は未遥だ。
これでも心を許した女の子で彼女の事を一番理解しているつもり。故に俺の心のどこかで『更生の余地がある』と信じているから。


「……もう一度聞く。どうしてあの場に、観客席に君はいたんだ!『アイドルに興味ない』って言ってた君が!どうして!」
「……」
「なぁ、答えろよ!!」
「好きだからだよ」
「なに?」

 俺の問いに即答した彼女の瞳には────光が無かった
初めて彼女に対して恐怖(・・)という感情を覚えた。何の迷いも無く即答したことにではない。『好きだからだよ』というたった7文字の中に様々な感情が含まれている気がしたからだ。

「大地君のことだから全て知りたいの。μ`sという雌豚どもをどんな顔で見ているのかなって。笑っているのかな?驚いているのかな?楽しんでいるのかな?って。私の知らない大地君はいないって思っていたけど……最近信じられなくなっちゃったんだよ。幼少期の大地君を話を聞いただけ(・・・・・・・)で実際隣にはいなかったわけだし。なんで私が大地君の幼馴染じゃないんだろうって悲しく思った時もあるんだよ」
「お前……」
「私もね、狂ってるなって思うよ」
「ならどうして────」
「だって……」





 すぅっと、俺に絡みついていた腕を離し、未遥は離れる。
さっきまでの嫌な雰囲気を漂わせつつも、どこか上機嫌な彼女はトントンと片足でとびはねる。どうしてこんなにも年相応な少女なのに……

 足がすくんで動かない。
手が恐怖のあまりかじかんで震えている。嫌な脂汗が全身を駆け巡り、Tシャツに染みていくのがわかる。


 思えばあの時────俺の家でキスをし、電話を奪うという言動が既におかしかったのだ。いくら変な奴だとはいえ、そういった人の気持ちを考えずに強引にしてくるなんてありえないのだ。
 


 

「(俺が……未遥を変えたのか)」


 
と、未遥はそのままピタリと足を止める。首だけぐるりとこちらに向けてにんまりと笑って彼女は言った。

















「だって……私の大地君を奪った高坂穂乃果が憎くて憎くて、殺したいくらい憎いんだもん」
「お前……」
「今日はもう遅いし、このまま帰るよ。またね、私の大好きな大好きな……大地君」






 にんまりと淀んだ笑みを浮かべたまま、彼女は手を振る。
止めないといけない。止めなければこのまま未遥は本当に穂乃果を襲いかねない、でも。



「(俺に……なにができるんだ)」







 遠ざかる彼女は、次第に大きく見えてくるようでもあった。
これは俺の責任。俺が何とかしなければ……








あまりにも彼女の変貌に、気づくのが遅すぎた。













~☆~






「貴方は一体何をやっているのですか!」
「だから悪かったって言ってるだろ!仕方ないだろちょっと用事があったんだから!」
「でも急にいなくなるのは……不安になりますよ?」
「う、ぐ……それを言われると反論できない」


 なにはともあれ、遠ざかる未遥の背中を見届けた後、UTXに戻ってきた矢先に海未に迫られたり、花陽を不安にさせるという事後処理に明け暮れていた。
 そもそも未遥を見つけた瞬間に足が勝手に追いかけていたのだから、その場から離れることを誰にも告げていない。つまり怒られて当然である。

「どこ行ってたのよ。閉会式もほったらかしにして」
「んまぁ……ちょっと、野暮用がだな」
「言いたくないなら無理して離さなくてもいいけど今度からは気を付けてよね」

 現生徒会長の絵里に言われては頷くしか選択肢が出てこない。
9人の蛇に睨まれながらちらりと横に視線を向けると、そこには綺羅ツバサが腹を抱えてこっちを指さして笑っている。



「ねぇ大くん?」
「あ、あぁ穂乃果……なんだ?」
「何か、あった?」


 俺がみんなと離れたところを狙って、穂乃果が耳元で囁く。
正直、さっき起こったことをすべて話すべきか、そうでないか迷った。もし話せばみんなは間違いなく相談に乗ってくれて解決策を考えてくれるだろう。痛みも喜びも共に分かち合う、彼女らは決して口にはしていないけど、心で繋がっている。だから苦しんでいる仲間を見捨てたりはしないだろう。

 だけど、これは俺の問題だ。それに未遥は穂乃果だけを敵視しているわけではなく、あの様子からしてμ`sそのものを憎んでいる。仮に穂乃果だけー、誰かだけ―、なら話し合って策を施せる。だけどみんなが対象となっている以上守るのではなく、未遥を説得し、攻めるしか見いだせない。

 それに、俺の根っこの部分が叫んでいる気がする。
二度と(・・・)穂乃果を傷付けさせてはいけない』と、脳が、心が叫んでいる。

 つまりは、これは俺の戦い。μ`sにはμ`sの戦いがあるのと同じように、俺には俺の戦いがある。命を懸けなければならない。


「大くん?」
「あ、いや……なんでもないよ。ただ」


だから俺は話さない。守るために……俺がちゃんとけじめをつけるために。





「穂乃果は……俺が守るから」
「……え?」


 そう言い残して、俺はみんなのところに足を運ぶ。
何もなかったかのように、本音を塗り固めて、自ら瓦解していかないように。




「よし!!ひとまずライブも終わったんだ、帰るぞみんな!!」







……東京ブロック予選、無事終了




 
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