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北欧の鍛治術師 〜竜人の血〜

作者:観葉植物
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プロローグ 始まりの咆哮
  始まりの咆哮Ⅳ

一夏がアルディギアに来てから3日が経った。その間、王宮の隣にある屋敷で過ごしていた。そんな好待遇は自分には勿体無いと言いはしたがどうせこの屋敷を使う人間はいないから自由に使ってくださいとラ・フォリアに言われ結局ここで落ち着いている。さすが竜の回復力と言うべきか、1日ででおぼつかなくはあるが立てるようになり、2日目には歩けるようになった。今では走るにしても運動するにしても支障は全くない。今はアルディギア産の紅茶を飲みながら一日中庭の風景を眺めるのが唯一の楽しみである。アリアの顔を思い出しながら感傷に浸るのも悪くはないだろうと思いながら紅茶をカップに注ごうとすると視界の端にこちらに歩み寄る人影が見えた。ラ・フォリアだ。
「調子はどうですか?」
一夏は椅子から立って一礼すると、ティーカップをもう1セット取り出して紅茶を注いだ。
「おかげさまで傷も癒えました。もう運動しても問題はなさそうです」
「そうですか。それは良かった。そこで一夏。一つ、試したいことがあるのですが協力してくれますか?あ、紅茶いただきますね」
「どうぞ。俺にできることであればなんでもおっしゃってください」
「では、まいりましょうか。詳しい事は現地で話します」
そう言って紅茶を飲んだラ・フォリアが一夏を連れて行ったのは城の地下。広間にあった隠し扉(巧妙に隠されていた)を通るとそこには広間よりも遥かに大きな穴があった。壁沿いに削って作られた階段が緩やかに敷かれ、所々にランタン型の光源が壁から吊るしてあった。おそらくこれも魔導技術でエネルギーを確保してあるのだろう。下を覗くとその最奥は真っ暗で何も見えない。足を滑らせて落ちればまず体はグチャグチャだろう。
「目的地はこの下です。柵などはありませんので注意してください」
そのまま五分ほど階段を下ると、ランタンの光に反射しているのかチカチカと光る物が一番下に見えた。最下層まで降りきって、それを間近で見ようとして一夏は衝撃を受けた。それがあまりにも異様な形をしていたからだ。言うなれば、針の(むしろ)。所狭しと剣が地面に突き立てられている。よく見れば短剣や槍までもが所々に入り混じっている。ざっと数えても500は下らないだろう。
「これは先代の打ってきた剣です。仕上がりは他の工房よりも遥かに良い良質なものなのに先代からしてみればどれも(なまくら)同然だったそうです」
本当に切れ味の良い刀や剣は正面から見たときに薄すぎるがために刃が見えないらしい、とどこかで見聞きしたことがある。ここの剣は5、6本見ただけでもすべてそうだった。一夏が剣を見ているとラ・フォリアが階段を降りきってすぐにあった道を指差して目的地はあの先です、と言った。一夏は剣を眺めるのもそこそこに切り上げ、ラ・フォリアについて行った。その通郎を抜けると2人は小さな空間に出た。壁や床には火挟(ひばさみ)(つち)などの工具が大量に壁に掛けられたり立て掛けられたりしていた。おそらく、すべて鍛治の為の道具だ。そして一夏は空間の一番奥にある火の入っていない炉に目が留まった。その瞬間、頭の中に膨大な量の情報が流れ込んでくる。鍛治の手順、道具の扱い、先達が打ってきた数多くの剣や武器。それらの固有蓄積時間(パーソナルヒストリー)は脳に入ってきた時点で映像化され、それらの情景を一度に、それも大量に見せられるのはおそらく一般人であれば廃人確定の事象だろう。
「あ・・・がっ・・・!ああっ・・・⁉︎」
「一夏⁉︎どうしたのですか⁉︎」
傍目にはいきなり呻き声を上げて苦しみだしただけだろうが、本人としてはこの痛みは少々耐えづらい。急に脳の活動が無理矢理活性化させられたから当たり前ではあるが。もうどれくらい呻き声を上げていたか覚えてもいないが、急に頭痛がふっと消えた。何故自分がそう動いたかは分からなかった。体は考えるよりも先に動き、炉の前に立つと自分は右手を炉にかざしていた。
「鍛錬を開始する」
そんな言葉が表情筋が一切動いていないであろう自分の口から出てきた。次の瞬間には冷たかった炉に業火が宿り、地面が盛り上がり2メートルほどの人型の土人形(ゴーレム)が2体出現した。彼らの片方は壁に立て掛けられてあった向槌(むこうづち)を手に取り、もう片方は部屋の端に保管してあった鉄を持ち上げて炉に放り込んで平嘴(ひらばし)と手槌を一夏に手渡して地面に還っていった。燃えさかる炎に包まれて鉄はすぐに溶け出し、一夏が気を見計らって平嘴で固定したまま金床の上に乗せる。そこに土人形が向槌を振り下ろして概形を成形していく。鉄が冷めてくれば再度炉に突っ込み、また成形する。そうやって、ある程度、形が出来れば次は一夏が持っている手槌で細かい部分を調整していく。この作業は数十分にも及んだがラ・フォリアはその間一言も漏らさず一夏の後ろで黙って見ていた。そんなラ・フォリアでさえ、驚く事があった。椅子から立ち、ラ・フォリアを一瞥した一夏の目が爬虫類のそれのように瞳孔が縦に開き、目が黄色く染まっていた(・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・)のだ。おそらく固有蓄積時間(パーソナルヒストリー)が目に見える形で出てきた結果と思われるが、アルディギア人に見られる氷河を思わせる瞳の面影は見られなかった。まだ赤熱し、赤い雫を滴らせる剣を平嘴で挟んだまま土人形の胴体に手をかざして小さく文言を呟いた。
「急速冷却・研磨」
次の瞬間、平嘴で挟んだ刀身で土人形の胸を貫いた。土人形はたちまち唯の土塊になり、剣もろとも地面に崩れ落ちて小さな土の山を築いた。そこに刺さっていたのは炎に反射して輝く、刀身だけの一振りの剣。それを丁寧に山から摘み上げて近くにあった木製の台に乗せ、ラ・フォリアに向き直った。
「リハヴァインを、継ぐ者、よ。この少年を、当代の、宮廷鍛治術師、として、迎え、入れよ」
一夏らしからぬ口調で喋ったのはおそらく血の記憶に込められた先達の意識たち。よく聞いてみれば一言ひとこと、独特のニュアンスや訛りがあるような気がする。爬虫類じみた目の一夏は一種のトランス状態にあるのだろうとラ・フォリアは考えた。
「さすれば、我らの、血と技術は、受け継がれよう。これらが、途絶えるのは、我らとしても、本意では、ない。そらは、そちらも、同じだろう」
「はい。私は現国王の娘、現在の王女、ラ・フォリア・リハヴァインと申します。この度はこのアルディギアを支えてきた方々とお話する事ができて光栄です」
「は、はは。そんなに、畏まって、くれるな。我らが、困って、しまう」
「いえ。これは私なりの敬意です。それで、当代の宮廷鍛治術師はその少年、一夏を据えれば良いのですね?」
「その、通り。事情は、概ね、察して、いる。それよりも、宮廷、鍛治術師の、名が、これでは、不便、だろう。これより、この者の、名は、アイン・フィリー、リアス、だ。この者が、目覚めたら、伝えて、おけ」
その言葉を最後に先達たちの意識は消え、あの碧眼を取り戻した一夏は一瞬、何かを言おうとしてそのまま鍛冶場の床に倒れ伏した。 
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