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英雄伝説~灰の軌跡~

作者:sorano
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第21話

~パンダグリュエル・パーティーホール~



「何だ、この滅茶苦茶な内容の条約は!?確かに全面的にエレボニア帝国に非があるとはいえ、幾ら何でも理不尽すぎるぞ!?」

「滅茶苦茶搾り取ろうとしているね、この内容だと。」

「というか、これだと隷属も同然の扱いだよね~。」

「この条約を全て実行したらエレボニア帝国にまた混乱が起きるだろうな……」

「うん………エレボニアの多くの領土が失われる事に加えて”帝国の至宝”と称えられているアルフィン皇女殿下が和解の為に他国に嫁ぐ事をエレボニアの人達が知ったら、みんな凄いショックを受けるよ………」

条約を読み終えたトヴァルは怒りの表情で声を上げると共に机を叩き、フィーはジト目になり、ミリアムは真剣な表情でレン達を見つめ、ジョルジュとトワはそれぞれ辛そうな表情をし

「皇女殿下やエレボニアの多くの領土をメンフィルに差し出した挙句”ハーメルの惨劇”まで公表してしまったら………!」

「………恐らく民達による暴動が起き、エレボニアは今以上の混乱に陥ってしまう事になるだろうな。」

「そ、そんな…………」

「そ、それに……メンフィルに贈与するエレボニアの領土の中でノルティア州の一部もあるみたいだけど、もしかして”ルーレ”も……!」

「間違いなく入っているかと。加えてザクセン鉄鉱山の所有権までメンフィルに贈与されてしまった場合、”ラインフォルトグループ”にも確実に影響が出てしまいますわ……」

表情を青褪めさせているクレア大尉と重々しい様子を纏っているアルゼイド子爵の会話を聞いたマキアスは表情を青褪めさせ、血相を変えたアリサの言葉に続くようにシャロンは真剣な表情で呟いてレンを見つめた。



「レン皇女殿下……どうして両帝国の戦争の和解の為にヴィータ姉さんはメンフィル帝国に引き渡されなければならないのですか……!?」

「うふふ、”蒼の深淵”が所属している結社”身喰らう蛇”は”リベールの異変”を起こした主犯にして今回の内戦やメンフィルとの戦争にも加担している”国際犯罪組織の最高幹部”なんだから、”戦犯かつ国際犯罪者”は処罰されて当然の対象でしょう?」

表情を青褪めさせているエマの質問に対してレンは不敵な笑みを浮かべて答えた

「そ、その……メンフィル帝国は引き渡されたカイエン公とクロチルダさんをどうするつもりなんですか……?」

「カイエン公は”処刑”。”蒼の深淵”も基本”処刑”だけどレーヴェみたいにメンフィルに忠誠を誓ってメンフィルに寝返るのだったら、命は助けて、ある程度の自由は許す所存よ?”蒼の深淵”が持つ能力だったら、様々な方法でメンフィルの”利”を生み出す事ができるでしょうし。」

「……………そ、そんな…………」

「プライドが高いヴィータが負けた相手に命欲しさに自分を負かした相手に命乞いをして結社にとっての敵勢力に寝返るなんて、どう考えてもありえないわね。」

不安そうな表情をしているエリオットの質問に答えたレンの答えを聞いたエマは悲痛そうな表情をし、セリーヌは複雑そうな表情で呟いた。



「…………………レン君、先程この”和解条約の調印も既に終えている”と言っていたが、それは一体どういう意味だい?父上達が幽閉された状況で一体どうやってエレボニア帝国の代表者が調印を……」

「あら、その条約書のコピーの下の方にちゃんと和解条約書に調印した”エレボニア帝国の代表者”も記しているでしょう?」

「何だって………?………………な――――」

「”エレボニア帝国代表、エレボニア帝国皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世名代エレボニア帝国皇女アルフィン・ライゼ・アルノール”………ええっ!?」

「何故貴族連合軍に幽閉されているアルフィン皇女殿下が調印しているんだ……?」

「やっぱり、”パンダグリュエル制圧作戦”かそれ以降に行った作戦で貴族連合軍によって幽閉されていた皇女殿下を拉致して、この和解条約に調印させたのね!?」

自分の質問に対して答えたレンの答えを聞いて眉を顰めたオリヴァルト皇子はもう一度条約内容が書かれている紙を見直して調印した人物の中にアルフィン皇女の名前を見つけると絶句し、エリオットは驚き、ガイウスは不思議そうな表情で考え込み、サラ教官は厳しい表情でレンを睨んで問いかけた。



「うふふ、実は”パンダグリュエル制圧作戦”を行った時にこの”パンダグリュエル”にアルフィン皇女が”偶然にも”幽閉されていてね。その結果、”パンダグリュエル制圧作戦”は”パンダグリュエル”の占領や”総参謀”の殺害に加えてアルフィン皇女の捕縛という”予想外の戦果”をあげる事ができたのよ♪」

「皇女殿下がこの”パンダグリュエル”に………と言う事は今皇女殿下は貴族連合軍ではなくメンフィル帝国の下におられるのですか……」

「よくアルフィン皇女が”パンダグリュエル”に幽閉されていた事が”偶然”とかアルフィン皇女を捕縛した事を”予想外の戦果”って言えるよね~。」

「レグラムの時にメンフィルはエレボニア皇族が幽閉されている場所は全員把握している事も言っていたんだから、あまりにも白々しい嘘だね。」

レンの説明を聞いたアルゼイド子爵は真剣な表情でレンを見つめ、ミリアムとフィーはそれぞれ呆れた表情で呟いた。

「くっ……レン皇女殿下!無礼を承知で申し上げますが、貴国が捕縛し、幽閉し続けているアルフィン皇女殿下に貴国が用意した和解条約に調印させるなんて、余りにも非道な行為ではありませんか!?」

「大方捕縛した皇女殿下に脅迫等をしてこの和解条約に無理矢理調印させたんだろう!?――――遊撃士協会に所属する遊撃士として、あくまで中立の立場で今回両帝国が調印した和解条約について介入させてもらう!」

クレア大尉は唇を噛みしめて厳しい表情でレンを見つめて反論し、怒りの表情で声を上げたトヴァルは宣言をした。

「へえ?それで遊撃士協会は、”中立の立場”としてこの状況でどうするつもりなのかしら?」

トヴァルの宣言を聞いたレンは不敵な笑みを浮かべてトヴァルに問いかけた。



「今回両帝国の間で起こった戦争を終結させる為に両帝国が調印した和解条約書はエレボニア帝国側は余りにも不公平な立場で調印したと思われる。よって『支える籠手』の紋章に賭けて、この和解条約書の調印のやり直し並びに公平な和解交渉、そして和解調印の実行が必要である事を宣言する!」

「トヴァル殿………」

トヴァルのレンに対する反論を聞いたラウラが明るい表情でトヴァルを見つめたその時

「クスクス……フフ…………―――――アハハハハハハハハッ!」

笑いを噛み殺していたレンが突然大声で笑い始めた。

「何がおかしいのよ!?」

突然大声で笑い始めたレンの意図が理解できないサラ教官は厳しい表情でレンに問いかけ

「うふふ、だってレン達メンフィル帝国がそんな”余りにも簡単な予想される問題が浮上する事”も予想できないと本気で思っている遊撃士協会―――いえ、トヴァルお兄さんのお気楽な考えが余りにもおかしくてつい大声で笑っちゃったのよ。まさかメンフィル帝国がトヴァルお兄さんが口にした問題点に気づかずに対策も取っていないと本気で思っていたのかしら?」

「え………」

「………どうやらその口ぶりですと、メンフィル帝国はトヴァル様が口にした問題点についての対策も既にされていたようですわね?」

不敵な笑みを浮かべたレンの問いかけを聞いたトヴァルが呆けている中シャロンは真剣な表情でレンに訊ねた。

「クスクス、その様子だとどうやらみんな和解条約書に調印したエレボニア帝国の代表者ばかりに気を取られて、アルフィン皇女以外に調印した人達の事については気づいていないようね?」

「皇女殿下以外に調印した人達って後はメンフィル帝国の代表者しかいないと思うんですけど…………ええっ!?ちょ、調印者の中に”リベール王国代表、リベール王国女王アリシア・フォン・アウスレーゼⅡ世”の名前もあるからリベール王国の女王様もこの和解条約書に調印しているよ……!」

レンの指摘を聞いたトワが困惑の表情で再び和解条約書に記されている調印者達の名前を確認すると驚きの声を上げ

「ええっ!?リ、リベール王国の女王陛下が!?」

「い、一体どうなっているの!?」

「!?リベールどころか遊撃士協会も調印しているわ……!それも”本部長”の”名代”としてグランセル支部の受付をしているエルナンが……!」

「しかも七耀教会も調印しているな……」

「ええ……それも七耀教会のトップである”教皇”の”名代”として調印しているから、リベール、遊撃士協会、七耀教会もこの和解条約書の内容を認めて調印したって事になるわね。」

トワの言葉を聞いたその場にいる全員が血相を変えて和解条約書を読み直している中エマとアリサは信じられない表情で声を上げ、調印者達の中からエルナンの名前を見つけたサラ教官は目を見開き、静かな表情で呟いたガイウスの言葉に頷いたセリーヌは目を細めてレンを見つめた。



「……一体この和解条約書はどこで調印されたんだい?」

「リベール王国の王城――――”グランセル城”よ。」

「グ、グランセル城――――リベール王国で和解調印がされただって!?」

「ど、どうしてリベール王国のお城で和解調印が……」

オリヴァルト皇子の質問に答えたレンの答えを聞いたマキアスは驚き、エリオットは不安そうな表情で呟いた。

「うふふ、リィンお兄さんが望んだ”褒美”の一つである今回の戦争を”和解”という形で終結させる事をメンフィル帝国が正式に決定した後、パパ――――リウイ・マーシルン大使がリィンお兄さん達を表彰したその日の夜にグランセル城にいるアリシア女王とクローディア王太女―――クローゼお姉さんを緊急訪問をしたのよ。――――今回の戦争に関して”中立の立場”であり、”不戦条約”を提唱したリベール王国で和解交渉並びに和解調印の場を行う事と、アリシア女王もしくはクローゼお姉さんが”中立の立場として”和解交渉や調印の場に立ち会う依頼をする為にね。」

「!!」

レンの説明を聞いたオリヴァルト皇子は目を見開き

「で、その依頼をした際にリベールには七耀教会の代表者が和解調印の場に立ち会ってもらう為の交渉を任せて、レンはメンフィルを代表してレマン自治州にある遊撃士協会の本部を訊ねて本部長を含めた遊撃士協会の上層部達と交渉して遊撃士協会にも今回の和解調印に参加してもらったのよ♪」

「何だとっ!?」

「つまりは遊撃士協会の本部が不公平な形でエレボニアが調印したこの和解条約を認めてエルナンに調印させるように命じさせたのもあんたによる暗躍が原因だったのね……!」

説明を続けていたレンの話を聞いたトヴァルは信じられない表情で声を上げ、サラ教官は怒りの表情でレンを睨みつけた。



「”暗躍”とは人聞きが悪いわね~。レンは遊撃士協会の上層部達にメンフィルはエレボニアに対する怒りを鎮める為に必要な”謝罪金並びに賠償金代わり”としてエレボニアの領地の一部を要求する事を教えた後、和解調印で得る事になる”元エレボニアの領地”である新しいメンフィル帝国領にも新たな遊撃士協会の支部の設立を依頼しただけよ?」

「そ、それって………!」

「エレボニアによって撤退させられた支部の一部の復活を条件にこの和解条約を認めさせたのね!?」

「クソッ!本部の連中は何を考えているんだ!?支部の復活の為だけにこんな不公平な形で調印された和解条約を認めるなんて……!」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの説明を聞いてある事を察したトワは不安そうな表情で声を上げ、サラ教官とトヴァルはそれぞれ怒りの表情で声を上げた。

「うふふ、他の遊撃士達の感情はともかく、少なくてもトヴァルお兄さんが遊撃士協会本部の判断を責める”権利”はないと思うわよ?」

「それはどういう事だ!?」

「レンがメンフィルが和解の為にエレボニアの領地の贈与を請求する話をした際、本部長を含めた人達はレンの前でこう言っていたわよ?――――『今回の両帝国間の戦争勃発は僅かとはいえ、アルフィン皇女を護衛していた遊撃士にも責任がある事は明白。よって、本来ならば遊撃士協会はメンフィル帝国がエレボニア帝国に謝罪金並びに賠償金代わりに要求すると思われるエレボニアの領地の領有権の贈与について口出しする権利はない』ってね♪」

「!!」

「それは……………」

「………つまりは遊撃士協会本部がそのような判断を下した原因の一端はトヴァル様も担っているという事ですか。」

「シャロンッ!」

トヴァルの疑問に対して不敵な笑みを浮かべて答えたレンの答えを聞いたトヴァルは目を見開き、オリヴァルト皇子は複雑そうな表情をし、静かな表情で呟いたシャロンをアリサは声を上げて睨んだ。



「結局今回の件の一番の原因はメンフィルとの戦争の件同様あんたって事じゃない、トヴァルっ!!」

「ガッ!?」

するとその時サラ教官は怒りの表情で自分の隣に座っていたトヴァルの胸倉を掴んだ後殴り飛ばし

「きょ、教官!?」

「大丈夫ですか、トヴァルさん!?今、傷を治療します……!」

サラ教官の行動にエリオットが驚いている中エマはトヴァルに駆け寄って治癒の魔術をかけはじめた。

「そんな奴をわざわざ治療してやる必要はないわよ、エマ!―――いえ、いっそむしろここで息の根を止めた方が―――って、離しなさい!」

「冷静になってください、サラさん!今は味方同士で争っている場合ではありません!」

一方サラ教官はトヴァルの傷を治療する事は不要である事をエマに指摘した後席を立ちあがってトヴァルに近づいて追撃しようとしたが、サラ教官の行動に気づいたクレア大尉がサラ教官を背後から抑えつけて指摘した。



「うふふ、クレアお姉さんも言っているように冷静になって落ち着いたら?第一わざわざサラお姉さんがトヴァルお兄さんを処罰しなくても、既に本部の人達もトヴァルお兄さんを処罰する事を決めたし。」

「え…………」

「”処罰”って………遊撃士協会の本部の人達はトヴァルさんに一体どのような処罰を下す事にしたのですか……?」

トヴァル達の様子を面白そうに見守っていたレンの指摘を聞いたトヴァルは呆け、ジョルジュは不安そうな表情でレンに訊ねた。

「『B級正遊撃士トヴァル・ランドナーはエレボニア帝国の事情を優先してユミルの領主にユミルの領主がアルフィン皇女を匿っている件をメンフィル帝国に報告する事を止める要請―――つまりは”国家権力に不干渉”を規約の一つとして掲げている遊撃士でありながら国家権力に干渉した為、結果的に今回の戦争が起こってしまった。よって規約違反並びに戦争勃発の原因に間接的に関わっていた処罰として2階級降格処分並びに内戦終結後オレド自治州にある支部―――”オレド支部”に異動』―――との事よ。ご愁傷様、トヴァルお兄さん♪」

「に、2階級降格処分に加えて”異動”って…………!」

「それ程までに遊撃士協会は今回の戦争についての責任を重く受け止めているのか………」

「というかむしろ”その程度”で済ませる方が驚き。普通に考えたら解雇(クビ)になっておかしくないし。」

「ま~、遊撃士協会は常に人手不足だからね~。そんな状況なんだから幾ら失態を犯したと言っても、さすがに高ランク正遊撃士を解雇(クビ)にする事はできなかったんだと思うよ~?」

「いい加減君達は遠回しな言い方を覚えるべきだぞ……」

レンは説明をした後小悪魔な笑みを浮かべてトヴァルに視線を向け、エリオットは信じられない表情をし、ガイウスは重々しい様子を纏って呟き、フィーの疑問を聞いたミリアムは自身の推測を口にし、マキアスは呆れた表情でフィーとミリアムに指摘した。



「ハハ……ある意味解雇(クビ)にされるよりも、キツイ処罰だな………内戦が終結してもメンフィルとの和解条約の件も含めてエレボニアの混乱は続く可能性が非常に高いのに、遊撃士として少しでもその混乱を鎮める為の活動すらもさせてもらえないんだからな………」

「トヴァル殿………」

「―――すまない、トヴァル君。私が君にアルフィンの護衛を依頼しなければ、君が遊撃士協会に処罰される事もなかった……」

「殿下………」

疲れた表情で肩を落とした様子のトヴァルをラウラは心配そうな表情で見つめ、トヴァルに謝罪するオリヴァルト皇子の様子をアルゼイド子爵は辛そうな表情で見守っていた。

「殿下が謝罪する必要はありませんよ。本部の言う通り、遊撃士の癖に国家間の関係を気にして、シュバルツァー男爵閣下にアルフィン皇女殿下を匿っている件をメンフィル帝国政府に報告しないように要請したそこのバカの自業自得ですから。」

「返す言葉もねえ………こんな事なら、国家間の関係なんて一切気にせずシュバルツァー男爵閣下を通じてメンフィル帝国政府にアルフィン皇女殿下の保護か亡命の受け入れを要請した方がよっぽどマシだったな………」

「―――それについてはレンも同意見ね。今回の戦争の件が無かったら遊撃士協会自身も責任を取る事も無かったもの。」

一方冷静さを取り戻して落ち着いて席についたサラ教官はオリヴァルト皇子に指摘した後トヴァルを睨みつけ、睨まれたトヴァルは疲れた表情で答えた後席に戻り、レンはトヴァルが呟いた言葉に小悪魔な笑みを浮かべて指摘した。

「ゆ、”遊撃士協会自身”も責任を取るって………」

「………遊撃士協会自身は一体どのような責任の取り方をする事にしたのでしょうか?」

レンが呟いた言葉を聞いたアリサが不安そうな表情をしている中シャロンは真剣な表情でレンに訊ねた。



「うふふ、遊撃士協会本部の人達はエルナンお兄さんに『僅かとはいえ、遊撃士協会の関係者が今回の戦争勃発の責任の一端を担ってしまった為、遊撃士協会は両帝国に対する責任を取る為にエレボニア帝国にまだ残存している支部を全て撤退。並びに今回の戦争でメンフィル帝国が得る事になる元エレボニア帝国の領地に新たな支部を設立し、その支部に残存しているエレボニア帝国の支部から撤退した受付や遊撃士達を配属させる』って伝えたそうよ?」

「な――――」

「何ですって!?」

「そ、それって……!」

「……メンフィルに対する”汚名返上”をする事でメンフィルとの関係の修復を重視して、エレボニアとの関係は完全に”切り捨てる”って事だね。」

レンの答えを聞いたトヴァルは絶句し、サラ教官は驚きの声を上げ、ある事を察したトワは信じられない表情をし、フィーは真剣な表情で呟いた。

「ハハ………まさか遊撃士協会がそんな思い切った決断をするなんてね…………これも遊撃士協会に圧力をかけたエレボニアの自業自得だろうね………」

「殿下………―――レン皇女殿下、エレボニアは内戦が終結してもメンフィルが要求した和解条約実行後確実に今以上の混乱に陥る事が予測されます。そしてその混乱を鎮める為には遊撃士協会の協力も必須です。アルフィン皇女殿下が貴国の英雄――――リィン・シュバルツァー殿に嫁ぐ事に免じてどうかエレボニアとの関係を切り捨てようとする遊撃士協会本部の方達の判断の撤回の為のご協力をお願いします。その”見返り”に私で応えられる事があれば、可能な限りお応えさせて頂きます。」

「父上………」

オリヴァルト皇子が疲れた表情で肩を落としている様子を心配そうな表情で見つめたアルゼイド子爵はレンを見つめて頭を下げて嘆願し、その様子をラウラは驚きの表情で見つめていた。

「うふふ、”光の剣匠”に”貸し”を作れるんだったら正直な所エレボニアと遊撃士協会の仲裁に入ってあげてもいいけど、オリビエお兄さんが言っていたように最低でも肝心のエレボニア帝国政府やエレボニア帝国の領土を治めている多くの貴族達の遊撃士協会に対する態度を改めさせないと、幾らレンが仲裁しても遊撃士協会はエレボニアと和解してくれないと思うわよ?」

「そ、それって………」

「……遊撃士協会本部がエレボニアとの関係を”切り捨てる”事に決めた原因は”殲滅天使”による交渉だけじゃなく、”鉄血宰相”や”情報局”、”貴族派”による遊撃士協会への圧力も間違いなく関係しているって事でしょうね。」

「セリーヌッ!」

「それは………」

「っ!!」

「うわっ!?と言う事は遊撃士協会はあの件についてまだ根に持っていたんだ!?」

「……そしてそのツケがよりにもよって今になって返ってきたって事だね。」

レンの指摘を聞いてある事を察したエリオットは不安そうな表情でクレア大尉やミリアムを見つめ、呆れた表情で呟いたセリーヌの言葉を聞いたエマは声を上げてセリーヌを睨み、ガイウスは複雑そうな表情をし、クレア大尉は辛そうな表情で唇を噛みしめ、ミリアムは驚き、フィーは真剣な表情で呟いた。

「ねえねえ、鉄血の子供達(アイアンブリード)の人達は今どんな気分?”鉄血宰相”による政策が全て裏目に出て、祖国が大混乱に陥る危機が訪れようとしていて、その混乱を鎮める為に必要な遊撃士協会まで祖国から追い出してしまったこの状況を知って♪」

「返す言葉もございません…………」

「む~……!オジサンのやった事が裏目に出るように仕向けた大半の原因は、メンフィル(そっち)のせいじゃないか~!」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの問いかけに対してクレア大尉は頭を項垂れさせて辛そうな表情で答え、ミリアムは頬を膨らませてレンを睨んだ。

「ま、遊撃士協会と和解したかったら最低でも遊撃士協会の上層部達に”革新派”で”鉄血宰相”に次ぐ有力人物である帝都知事とメンフィルに処刑されるカイエン公と今回の戦争で既に討ち取られたアルバレア公を除いた残りの”四大名門”の当主達が頭を下げて謝る必要があると思うわよ?」

「父さん………」

「ハハ………レーグニッツ知事なら内戦終結後のエレボニアの状況を知れば遊撃士協会の上層部達に謝罪してくれると思うが、”四大名門”の当主達に遊撃士協会の上層部達に頭を下げて謝罪するように説得するなんて、そっちの方が遊撃士協会との和解よりも難しいかもしれないね……」

レンの推測を聞いたマキアスは複雑そうな表情で父の顔を思い浮かべ、オリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた。




「―――話を戻すけど、実はパパ達がアリシア女王達を緊急訪問した話には続きがあってね。パパはアリシア女王達に和解調印の依頼の他にある”提案”をしたのよ。」

「”提案”、ですか……?」

「その”提案”とは一体どのような内容なのでしょうか?」

レンの話を聞いてある事が気になったエマは不思議そうな表情で首を傾げ、アルゼイド子爵は真剣な表情でレンに訊ねた。

「うふふ、その”提案”とはね……――――和解調印式までの公平性を保つ為にメンフィルが捕縛したアルフィン皇女を和解調印式の日まで”中立地帯”であるリベールに預ける提案よ。」

「何ですって!?」

「まさか皇女殿下は、和解調印式の日まではリベールに保護されていたのか!?」

驚愕の事実を知ったその場にいる全員が血相を変えている中サラ教官とトヴァルは信じられない表情で声を上げ

「大正解♪幾ら帝位継承権を持つアルフィン皇女がユーゲント皇帝の代わりに調印しても、アルフィン皇女はメンフィルの”捕虜”だから、それを理由にエレボニアが今回の和解調印について難癖を付けて中立勢力に協力してもらって和解条約内容の変更を主張してくることはわかりきっていたから、それを防ぐ為に”不戦条約”を提唱し、両帝国と友好を結び、今回の戦争に関しては”中立の立場”であるリベールにアルフィン皇女を預ける提案をしたのよ。―――で、慈悲深いアリシア女王は調印の日までの公平性を保つ為かつメンフィルの捕虜になってしまったアルフィン皇女の身を心配して、アルフィン皇女の保護を受け入れたのよ♪」

「ハハ……確かにリベールはアルフィンを預ける相手としてうってつけの相手だね……ちなみにメンフィルに捕縛されたアルフィンはいつリベールに移送されたんだい?」

レンの説明を聞いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた後レンに訊ねた。

「アルフィン皇女を捕縛したその日の夜――――つまり、パパがアリシア女王達に和解調印の依頼等をした後にアルフィン皇女を移送してアリシア女王達に預けたから、アルフィン皇女がメンフィルの捕虜であった期間は実質たった約4時間の上、捕虜にしたアルフィン皇女はメンフィルの旗艦である”モルテニア”の貴賓室で過ごしてもらったし、移送までの間アルフィン皇女に接触したメンフィルの関係者は移送する際に同行したパパとママを除けば一人だけで、しかもその人物はオリビエお兄さんも信用できる人物よ?」

「……その人物は一体誰だい?」

「――――ユミル領主の娘にしてリフィアお姉様の専属侍女長であるエリゼ・シュバルツァーお姉さんよ。」

「ええっ!?そ、その人も確かバリアハートで戦った……!」

「あのリィンって黒髪の軍人の妹にして”聖魔皇女”の専属侍女長だね。」

「何故彼女だけが皇女殿下に接触したのだろうか?」

オリヴァルト皇子の質問に対して答えたレンの答えを聞いたアリサは驚いてエリゼの顔を思い浮かべ、フィーは静かな表情で呟き、ガイウスは考え込みながら自身の疑問を口にした。



「捕虜の立場とはいえ、アルフィン皇女は他国の皇族なんだからエリゼお姉さんを臨時のアルフィン皇女付きの侍女としてアルフィン皇女の世話を一任してあげたのよ。――――貴賓室で過ごしてもらった事に加えてメンフィルの次代の皇帝たるリフィアお姉様の専属侍女長をわざわざ臨時の専属侍女としてつけてあげたのだから、”捕虜”に対して破格の待遇でしょう?」

「それは……………」

「ハハ………確かにエリゼ君ならば私も信用できる相手だから、まさに文句の付け所がないね………」

レンの説明を聞いたアルゼイド子爵は複雑そうな表情をし、オリヴァルト皇子は疲れた表情で答えた。

「うふふ、ちなみにエリゼお姉さんはリィンお兄さんの婚約者の一人で、リィンお兄さんの”正妻”になる予定よ?」

「へ…………」

「ちょ、ちょっと待ってください!皇女殿下がリィンさんに嫁ぐのに、何でリィンさんの妹さんまでリィンさんと結婚するんですか!?」

「それに二人は兄妹の間柄だが………兄妹でも結婚はできるのか?」

「―――少なくても七耀教会では”近親婚”は認めていません。混沌の女神(アーライナ)教や癒しの女神(イーリュン)教はわかりませんが………」

エリゼがリィンの婚約者である事を知ったエリオットは呆け、マキアスは困惑し、ガイウスの疑問にクレア大尉は静かな表情で答えた。

「リィンお兄さんはシュバルツァー家の”養子”で、エリゼお姉さんとは義理の兄妹の間柄の為血縁関係はないから、”近親婚”にはならないわよ。」

「そ、そうなんですか?」

レンの答えを聞いたエリオットは目を丸くして訊ね

「ええ。リィンお兄さんの出自についてはレンが説明しなくても、オリビエお兄さんとサラお姉さんも知っているから後で二人に教えてもらったら?」

「ええっ!?ど、どうしてオリヴァルト殿下とサラ教官がリィンさんの出自について知っているのですか………?」

「それは…………」

「…………………」

(どうしてオリヴァルト殿下とサラ教官が……………――――!も、もしかしてリィンさんはⅦ組のメンバー候補だったんじゃ………)

レンの説明を聞いたエマは驚いてアリサ達と共にオリヴァルト皇子とサラ教官を見つめ、その場にいる全員が自分達に注目している中オリヴァルト皇子は複雑そうな表情で答えを濁し、サラ教官は重々しい様子を纏って黙り込んでいる中ある事に気づいたトワは不安そうな表情でアリサ達を見回した。



「ま、リィンお兄さんの出自については一端置いておいて、話をリィンお兄さんの婚約者の件に戻すけど……リィンお兄さんには既にアルフィン皇女以外に6人の婚約者がいるのよ♪」

「ろ、”6人の婚約者”って………!」

「ほえええ~!?あの人、”六銃士”の”黄金の戦王”みたいに冗談抜きのハーレムを作ったんだ~!?」

「とんでもない女タラシだね。」

「ふふ、まさに”英雄色を好む”ですわね。」

「ハア……何でアタシ達が”導く”はずだった起動者(ライザー)に限って、様々な意味で”規格外”の人物なのよ………」

レンの答えを聞いたアリサは信じられない表情をし、ミリアムは驚き、フィーはジト目で呟き、シャロンは苦笑し、セリーヌは疲れた表情でため息を吐いた。

「確か七耀教会は重婚を認めていなかったから………リィン君達はアルフィンとの結婚も含めて混沌の女神(アーライナ)教か癒しの女神(イーリュン)教に結婚式を頼むつもりなのかい?」

「ええ。リィンお兄さん達の結婚式を取り仕切る司祭はママ―――ペテレーネ・セラ神官長とティアお姉様―――ティア・マーシルン・パリエ司祭長に務めてもらう予定よ。」

「ペテレーネ・セラ神官長にティア・マーシルン・パリエ司祭長………確かその名前はゼムリア大陸に存在する異世界の宗教の……」

「―――”ゼムリア二大聖女”と称えられている混沌の女神(アーライナ)と癒しの女神(イーリュン)、それぞれの宗教の”聖女”認定されている聖職者にしてゼムリア大陸での両宗教の活動を取り仕切っている方々です。」

オリヴァルト皇子の質問に答えたレンの答えを聞いたガイウスが考え込みながら呟いた言葉の続きをクレア大尉が答え

「そのような重要人物達が協力して、彼らの結婚式を取り仕切るとは……何故メンフィル帝国は彼らの為にそれ程の好待遇をするのでしょうか?」

「うふふ、リィンお兄さんは今回の戦争を早期に終わらせたメンフィルの新たな”英雄”にして将来はクロイツェン州の統括領主になるんだから、その程度の好待遇は当たり前でしょう?ああ、それと”シュバルツァー男爵家”は今までの働きを評価してリィンお兄さんの代で”公爵家”に昇格する事が内定しているから、リィンお兄さんは将来の”シュバルツァー公爵”よ。」

「ええっ!?リ、リィンさんが将来のクロイツェン州の統括領主で、しかも貴族の爵位では一番上の”公爵家”の当主!?」

「幾ら戦争による手柄の件があるとはいえ、”男爵”から一気に”公爵”に昇格させるなんて、常識では考えられない出世の速さね……」

「ハハ、エステル君達がメンフィル帝国から貴族の爵位を貰った時以上かもしれないね。」

「それは……………レン皇女殿下。殿下もご存知の通りクロイツェン州の統括領主は”アルバレア公爵家”です。和解条約でクロイツェン州の大半がメンフィル領と化する事ですから新たな統括領主を決める事は当然ですが、元クロイツェン州の統括領主であった”アルバレア公爵家”に対してはどうするおつもりなのですか?」

アルゼイド子爵の疑問に答えたレンの話を聞いたエリオットが驚いている中サラ教官は疲れた表情で呟き、オリヴァルト皇子は苦笑し、ラウラは複雑そうな表情をした後すぐに気を取り直してレンに訊ねた。



「あ…………」

「だ、だが今の”アルバレア公爵家”で生きている人物は………」

「ユーシスさんだけですから、現当主であるアルバレア公とアルバレア公の跡継ぎであるルーファス卿が戦死した以上、ユーシスさんが現時点で”アルバレア公爵家”の当主と言う事になりますね。」

ラウラの質問を聞いたエマは呆けた声を出し、マキアスとクレア大尉はそれぞれ複雑そうな表情で呟いた。

「逆に聞くけど、どうしてそんな質問をしたのかしら?―――和解条約の第4条にも”四大名門”が”貴族として”メンフィルに帰属する事は許さないって書いてあるのに。」

「確かに和解条約の第4条の緩和条件の所にも書いてあるな………『貴族連合軍に加担していた”四大名門”を除いたエレボニア貴族のメンフィル帝国への帰属の不許可を条件付きの許可(条件、爵位を一段階下げる。)』だから、”四大名門”である”アルバレア公爵家”は貴族としてメンフィル帝国に帰属する事はできねぇな………」

「そ、そんな……それじゃあ家族どころか、実家の地位や故郷まで失ったユーシスはどうなるんですか……!?」

不敵な笑みを浮かべたレンの指摘を聞いたトヴァルは複雑そうな表情で和解条約書を見つめながら呟き、エリオットは悲痛そうな表情でレンに訊ねた。

「さあ?レグラムでも説明したようにユーシスお兄さんには”アルバレア公爵家”が所有していた莫大な財産の四分の一を渡す事になっているから、”平民”として生活するんだったら少なくても一生生活費には困らないはずよ。”平民”としてメンフィル帝国に帰属してリィンお兄さんみたいに手柄をあげてお家復興を目指すか、もしくはエレボニア帝国がユーシスお兄さんを引き取って、ユーシスお兄さんに”貴族”として今後のエレボニア帝国を支えてもらう等今後どう生きるかはユーシスお兄さん次第よ。―――まあ、それ以前に今回の戦争や内戦の件があるからエレボニア帝国がユーシスお兄さんを引き取った所で、”アルバレア公爵家”の爵位を剥奪するかもしれないけどねぇ?」

「それは……………」

「――確かに今回の戦争や内戦の元凶の一つは”アルバレア公爵家”だが、ユミル襲撃に関わらず、貴族連合軍にも加担していないユーシス君まで罰するつもりはない。さすがに爵位は下げざるを得ないだろうが………ユーシス君が望んでくれるのならば、私達エレボニア帝国はユーシス君を”貴族”として受け入れる所存だ。」

「殿下………」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの推測を聞いたガイウスが複雑そうな表情をしている中静かな表情で語ったオリヴァルト皇子の意志を知ったラウラは明るい表情をした。

「まあ~、何だかんだ言ってもユーシスは”四大名門”だからね~。例え今回の戦争や内戦の件で”四大名門”の権威が落ちても、”四大名門”の一角である”アルバレア公爵家”を味方にできる事はアルノール家にとっても”利”はあるしね~。」

「ミリアムちゃん!時と場所を考えて発言してください!」

「後、頼むから遠回しな言い方をいい加減少しでも覚えてくれ………」

そしてミリアムが呟いた言葉を聞いたアリサ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中クレア大尉は声を上げてミリアムに注意し、マキアスは疲れた表情で指摘した。



「あの……先程レン皇女殿下はエリゼさんがリィンさんの”正妻”になる予定だと仰いましたが、エリゼさんが正妻だとするとアルフィン皇女殿下は正妻になれない事になるのですが………」

「そ、そう言えば………!」

その時ある事が気になっていたジョルジュはレンに質問し、ジョルジュの質問を聞いたアリサは不安そうな表情で声を上げた。

「ええ。さっきも説明したようにアルフィン皇女がリィンお兄さんと婚約するまでにリィンお兄さんはエリゼお姉さんを含めて既に6人の女性達と婚約しているんだから、アルフィン皇女はリィンお兄さんの側室でリィンお兄さんの妻としての序列は最下位である7位になるわね。」

「お、皇女殿下が側室で、しかも序列が最下位だなんて………!?」

「失礼を承知で意見させて頂きますが、皇女殿下に対する扱いとして幾ら何でも非常識すぎませんか?皇女殿下は”帝国の至宝”と称えられている上、帝位継承権もお持ちになられているのですから正妻は無理でもせめて、側室としての序列は一位にすべきだと思われるのですが………」

レンの答えを聞いたトワが信じられない表情をしている中ジョルジュは複雑そうな表情でレンに指摘した。

「あのねぇ……リィンお兄さん達は妻の序列を全員で話し合った上それぞれが納得する序列にしてレン達メンフィル帝国もその序列を承認したのに、そこにアルフィン皇女が割り込んでせっかくリィンお兄さん達やメンフィル帝国が納得した序列を乱すなんて、そっちの方が非常識だと思うのだけど?―――しかも戦争の和解の為に”政略結婚”として嫁いで来た皇女が。」

「それは…………」

「リィンさんもそうだけど、エリゼさんを含めたリィンさんの婚約者の方達は政略結婚でリィンさんに嫁いでくる事になるアルフィン皇女殿下の事をどう思っているのでしょうね………?」

「…………レン皇女殿下。素朴な疑問なのですが、何故リィン殿がアルフィン皇女殿下のお相手としての候補に最初からあがっていたのでしょうか?」

呆れた表情で指摘したレンの正論に反論できないジョルジュが複雑そうな表情で答えを濁している中エマは不安そうな表情で呟き、アルゼイド子爵は真剣な表情でレンに訊ねた。



「え………それって、どういう事なんですか?」

「レグラムの時もリィンがバリアハートでの手柄の件で最有力候補にあがったって言っていたから元からリィンがアルフィン殿下のお相手としての候補に挙がっていたって事になる事だよ。」

「確かに普通に考えたらありえないよね~。”男爵”は貴族の爵位の中では最下位なのに。」

「もしかして身分にうるさいエレボニアに対する嫌がらせとか?」

アルゼイド子爵の疑問を聞いたエリオットの疑問にトヴァルとミリアムはそれぞれ静かな表情で答え、フィーはジト目でレンを見つめて訊ねた。

「そんなバカバカしい嫌がらせをメンフィルがする訳ないでしょう?―――リィンお兄さんがアルフィン皇女の相手として最初から候補にあがっていた理由の一つはシュバルツァー家に対する”詫び”の為よ。」

「へ………”シュバルツァー家に対する詫び”………?」

「その”詫び”とは一体どういう事に対する”詫び”なのでしょうか?」

フィーの推測を呆れた表情で否定した後答えたレンの説明を聞いたマキアスは呆け、クレア大尉は真剣な表情でレンに質問した。



「エレボニアの内戦が勃発した際、内戦に無関係のメンフィルは巻き込まれないと高をくくっていたせいでユミルには防衛の為の臨時の派遣兵の一人も送らなかったから、その”詫び”よ。で、レン達メンフィル帝国の怠慢によってユミルが襲撃された”お詫び”としてアルフィン皇女をシュバルツァー家の跡継ぎであるリィンお兄さんに嫁がせる為にリィンお兄さんもアルフィン皇女の結婚相手の候補としてあがっていたのよ。特にリィンお兄さん達の両親――――シュバルツァー男爵夫妻は戦後のアルフィン皇女の処遇について随分心配していたと聞いているわ。アルフィン皇女がリィンお兄さんに嫁ぐ事で自分達の所でアルフィン皇女を可能な限りの好待遇で過ごしてもらう事ができるでしょう?」

「それは……………」

レンの説明を聞いたラウラが複雑そうな表情をし

「それにアルフィン皇女がシュバルツァー家の跡継ぎであるリィンお兄さんに嫁げば、リィンお兄さんとエリゼお姉さんの両親は当然として、リィンお兄さんやエリゼお姉さんも両親の意志を組んで強制的に嫁がされてきたアルフィン皇女を大切にするでしょう?どうせアルフィン皇女の処罰の件でもお人好しなリベール王国あたりが口出しして来る可能性が高いでしょうから、アルフィン皇女を大切に扱う可能性が高いシュバルツァー家にアルフィン皇女を嫁がせた方がリベールを含めたアルフィン皇女の件で文句を言ってくる勢力も納得せざるを得ないでしょう?しかもリィンお兄さんとアルフィン皇女の年齢差はたったの2年だから、アルフィン皇女の嫁ぎ先はあらゆる意味でシュバルツァー家の跡継ぎであるリィンお兄さんが適任なのよ♪」

「……言われてみれば皇女殿下の政略結婚相手としてシュバルツァー家はエレボニア帝国としては安心できる皇女殿下の嫁ぎ先ですわね。シュバルツァー男爵夫妻は戦争勃発前は皇女殿下を匿い、戦争勃発後も故郷が襲撃され、シュバルツァー男爵閣下ご自身も重傷を負ったにも関わらず皇女殿下の身を案じ、お二人のご子息であるリィン様はご両親の為に今回の戦争に参加して手柄をあげて、和解へと導いたのですから。」

「それらの件を考えると”シュバルツァー家”が跡継ぎに嫁いで来た皇女殿下を肩身の狭い立場で過ごさせる可能性はないでしょうね。」

「しかもシュバルツァー家は公爵に昇格する上、クロイツェン州の統括領主になる事が内定しているから、結果的にエレボニアのメンツも守られる事になるよね~。」

「ハハ……アルフィンの政略結婚でエレボニア(わたしたち)を含めた勢力の苦言の対策にもなるからリィン君がアルフィンの相手の候補として最初から挙がっていたのか………アルフィンの兄として、そしてエレボニア皇家の一員として、その事は不幸中の幸いと思うべきだろうね。そのお陰でアルフィンは敗戦国の姫君として嫁いでも、嫁ぎ先で肩身の狭い立場で過ごす事もないだろうしね………」

「…………………」

更なるレンの説明を聞いたシャロンとサラ教官、ミリアムはそれぞれ静かな表情で呟き、オリヴァルト皇子は疲れた表情で呟き、アルゼイド子爵は目を伏せて黙り込んでいた。



「クスクス、色々と話が逸れたけどこれでわかったでしょう?今回の和解条約の件は既に遊撃士協会自身も認めている上、メンフィルが捕虜にしたアルフィン皇女には何の危害も加えていない所か捕虜として破格の待遇で過ごしてもらったし、和解調印までのほとんどの期間は”中立地帯”にいた為和解調印までの公平性は保たれている上”中立地帯”で和解調印がされ、その和解調印に遊撃士協会を含めた”中立勢力”も立ち会って和解条約に同意して調印しているのだから、トヴァルお兄さんの宣言―――――『支える篭手』の紋章を賭けての宣言は何の意味もない事に。」

「ッ!!……すまん………役に立たない所か俺自身がお前達の足を引っ張っていた………!」

「トヴァル殿………」

「…………………今までの話を聞いて一つだけ気になる事が出て来たわ。今までの話からすると本部の連中も和解調印が行われる事や皇女殿下がリベールに保護された事もあんたとの交渉で知っていたのに、何でその情報がレグラム支部に回って来なかったのよ?あたし達がレグラムにいる事もレグラム支部の受付をしているハインツを通して本部の連中もあたし達の居場所を把握していたはずよ。」

「そ、そう言えば………」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘に唇を噛みしめた後辛そうな表情で身体を震わせて謝罪したトヴァルの様子をラウラは心配そうな表情で見つめ、重々しい様子を纏って黙り込んでいたサラ教官は真剣な表情でレンに訊ね、サラ教官の疑問を聞いたトワは目を丸くした。



「クスクス、これは和解調印式の後でわかった事実なんだけど本部の人達はエルナンお兄さんに『エレボニア帝国支部の受付並びにエレボニア帝国支部所属の遊撃士達に両帝国の間に起こった戦争の和解調印式の件を教える事を厳禁とする』って指示を出していたそうよ?」

「何だとっ!?」

「ええっ!?何で、遊撃士協会の本部はそんな指示を出したのですか!?」

「なるほど…………そういう事ですか………」

「え……今の話を聞いてシャロンは何か気づいたの……?」

レンの説明を聞いたその場にいる全員が血相を変えている中トヴァルとマキアスは驚きの声を上げ、考え込みながら呟いたシャロンの言葉が気になったアリサはシャロンに訊ねた。

「はい。恐らく遊撃士協会本部はトヴァル様達――――エレボニアの遊撃士協会の関係者達に和解調印の件等が伝われば、トヴァル様達がオリヴァルト皇子殿下に連絡を取って和解調印の件等を教え、それを知った殿下が皇女殿下と共に和解調印式に参加する為にリベール王国を訪問する事によって、殿下の動きに注意していた貴族連合軍にまでリベール王国が皇女殿下を保護していた事が把握され、その結果ユミルの二の舞のような事が起こる事を防ぐ為かと。」

「”ユミルの二の舞い”って……」

「メンフィル帝国に奪われた皇女殿下の”救出”を大義名分にした貴族連合軍―――いや、エレボニア帝国とリベール王国の戦争へと勃発する事を防ぐ為か………」

「なるほどね………既にユミルの件による”前科”をそこのバカが作ってしまったから、これ以上遊撃士協会による失態を避ける為に本部の連中はあたし達に和解調印の件の情報を回さなかったって事ね………!」

「ッ!!すまん………!これも全部俺のせいだ……!」

複雑そうな表情で答えたシャロンの推測を聞いたトワが不安そうな表情をしている中ジョルジュは複雑そうな表情で呟き、サラ教官は厳しい表情で呟き、辛そうな表情で唇を噛みしめたトヴァルは再び謝罪をした。

「クスクス、状況から考えてサラお姉さんの推測は当たっているでしょうね。―――ああそうそう、ちなみにメンフィルの代表者であるシルヴァンお兄様と和解交渉をするエレボニアの代表者であるアルフィン皇女はまだ交渉をした事がない事に気づいていたアリシア女王達がパパに和解交渉の場にダヴィル大使も参加させてアルフィン皇女の補佐をさせる提案をして、パパもその提案を了承したから、アルフィン皇女は一人でシルヴァンお兄様と和解交渉をした訳ではないわよ?」

「ダヴィル大使………?一体誰の事なんだ……?」

「――――ダヴィル・クライナッハ男爵。エレボニア帝国の大使の一人で、リベール王国の王都にあるエレボニア帝国大使館に務めておられる方です。」

「と言う事はエレボニア帝国の大使も皇女殿下と一緒にメンフィル帝国と和解交渉をしたのですか………」

レンの話を聞いてある事が気になったガイウスの疑問にクレア大尉が答え、マキアスは複雑そうな表情で呟いた。



「ええ、そうよ。わざわざリベールとエレボニアの戦争勃発のリスクを背負ってまでオリビエお兄さんを和解調印式に呼ばなくても、オリビエお兄さんよりよっぽど交渉事に関して経験豊富なダヴィル大使がアルフィン皇女の補佐をしてシルヴァンお兄様と交渉をしたのだから、オリビエお兄さんが和解調印式にでなくても問題無かったでしょう?」

「ハハ……確かにリベールの旅行から帰ってくるまで滅多に社交界にも出ず、皇族としての交渉もして来なかった私と比べれば長年”大使”として様々な交渉に関わって来たダヴィル大使の方が適任だろうね。ちなみに和解調印式はいつ行われたんだい?」

「今日の午前9時に始まって、午後3時頃に終わったわよ。」

「ええっ!?きょ、今日!?」

「よりにもよって、今日に和解調印式が行われていたなんて………」

「ふ~ん、なるほどね~。午後5時以降でないと君達に会えないって言っていたのは、和解調印の件を知ったボク達が和解調印式に乱入しないようにする為だったんだ。」

「あ……っ!」

和解調印式が今日行われた事を知ったトワは驚き、ジョルジュは複雑そうな表情で呟き、意味ありげな笑みを浮かべたミリアムの推測を聞いたアリサは声を上げた。

「うふふ、メンフィルの同盟国であるリベールまでメンフィルのようにエレボニアとの戦争勃発を防ぐ為の”措置”なんだから、その程度の情報操作はしても仕方ないでしょう?―――まあ、例え今朝レン達がオリビエお兄さん達に和解調印の件を教えて、その件を知ったオリビエお兄さん達が和解調印式に乱入しちゃったら、お人好しなリベールはともかく他の中立勢力のエレボニアに対する心象は最悪になってその結果、シルヴァンお兄様達―――メンフィル側が要求する和解条約に対して”中立の立場”としてアルフィン皇女達と一緒に条約内容の緩和の嘆願はしなかった可能性も考えられたから、”全部終わった後に知って”良かったでしょう?」

「………………………」

不敵な笑みを浮かべたレンの説明にその場にいる多くの者達は複雑そうな表情をしたり、辛そうな表情で黙り込んでいた。



「……レン皇女殿下、本当にアリシア女王陛下―――リベール王国もこの和解条約内容を全て把握し、納得した上で調印したのでしょうか?この和解条約が成立してしまえば、リベールまで混乱に陥る可能性があると思われるのにアリシア女王陛下がこの和解条約内容を認めて、調印したとは正直信じられないのですが………」

「へ………それってどういう事ですか?」

「多分―――いえ、間違いなく第六条の件の事を言っているのだと思うわ。」

クレア大尉の質問を聞いて不思議そうな表情をしているマキアスの疑問にサラ教官は重々しい様子を纏って指摘し

「第六条って………」

「『”百日戦役”の”真実”―――――”ハーメルの惨劇”を世界中に公表する事』、か。」

サラ教官の指摘にエリオットは目を丸くして条約が書かれてあるコピーの書類を読み直し、ガイウスは静かな表情で呟いた。

「”百日戦役”…………12年前に起こったリベールとの戦争の件か。」

「”百日戦役”の”真実”――――”ハーメルの惨劇”って一体どういう事なのよ……?シャロンは何か知っている?」

「…………それは………………」

ラウラは考え込み、アリサに視線を向けられたシャロンは複雑そうな表情で言葉を濁した。

「………………―――わかった。ちょうどいい機会だ。”ハーメルの惨劇”の内容をみんなにも教えよう。」

「……本当によろしいのですか、殿下?」

オリヴァルト皇子の答えを聞いたアルゼイド子爵は静かな表情で問いかけた。

「ああ。”ハーメル”の件を公表する事も含まれている和解条約が成立した以上、私達が黙っていても、どの道判明してしまう事だ。”ハーメルの惨劇”とは―――――」

そしてオリヴァルト皇子は決意の表情になってその場にいる全員に”ハーメルの惨劇”を説明した――――――


 
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