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ORPHNOCH-灰虚の迷い子-

作者:蜥蜴石
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ORPHNOCH-灰虚の迷い子-

 
前書き
本作のキャラクターはオリジナルのオルフェノクのみになります。苦手な方は閲覧の際には御注意くださいませ。 

 
それは自らの死の運命から反逆するかのように人外の力を得て甦った異形…『彼ら』は自分達の種を繁栄させるべく、新たな支配者として世界に立つべく人間を次々と消していく。そういった荒唐無稽な存在がいると世間では都市伝説として囁かれていた。

これは人知れず、望まずしてそうなってしまった者達の記録…小さな星で生きる新しき者達の話である。


豹牙(ひょうが)市・獅頭(しとう)通り、駅前のコンビニにて。

「ありがとうございましたー。」

「はぁ…あとはこれだけか…。」

店員の業務的挨拶と共に菓子パン数個入ったビニール袋を片手にコンビニから出てきたボブカットの黒髪に青い鱗の形をした金属片をまばらに散らしたように飾り、幼い顔立ちに反してブレザーの制服の上からもわかるほどの大振りな胸を持つ一人の高校生くらいの年齢の少女…古綱海尋(ふるつな・ミヒロ)は自分の手持ちの財布に残っている小銭数枚を見て深く溜め息をついていた…。

(ああ~…こんなんじゃ一日ももたないよ~…どうせなら家からおこづかい全部持ってから出ていけばよかったな~…。)

彼女は事もあろうに現在、家出中の身である…キッカケは至極、つまらない親子喧嘩だった。

海尋の父親は市内でも高レベルかつ入学が困難なことで知られる有名大学の教授であり、厳格でエリート意識が過剰なまでに強く…そして最も問題なのは娘である海尋に対してなんら理解が無かったことにある。

海尋がいくらテストで高得点を取ろうがことあるごとに『この程度の点しか取れないのか』『私の子供なのになぜこんなに出来が悪いんだ』などという親としても教育者としても最低な暴言しか吐かない、こんな言葉を日頃から言われ続ければどんな心の広い人間でも怒りが爆発してしまうが彼女はなんとか平静を装い、ギリギリ堪え忍んできた…だが、それもとうとう限界を迎えてしまった。

家での鬱憤を晴らすべく学校で始めた水泳部での活動までをも成績に響くような『不必要な要素』と見なされ、それを父親に言い咎められ、海尋は感情任せにキレてそのまま家から飛び出ていってしまったのだった。

「はぁー…これからどうしよう…。」

クリームパンをかじりながら海尋はやはり勢いだけの家出を弱冠後悔しつつ、あてもなく街をさまよう…。



この時の彼女は思いもしなかった…これからの自分の運命が大きく変わることになるなどと…。



「…え?」

「「「ぎゃああああ!!?」」」

「「「たすけ…たすけてく…れぇえっ…!!」」」

「「「あが、あぁぁあ…!!」」」

突如、目にも止まらぬ早さで弾丸のようなものが周囲の人々に次々と命中してはなんと信じられないことに…衣服だけ残して人間の肉体が『灰』と化して崩れ落ち、消滅した。海尋はあまりの突然過ぎることに思わず思考がストップしてしまった…。



「フンッ…なんと脆弱な…誰も適合者がいないではないか?所詮、資格の無い低脳なクズ共には無理だったか…。」

「…な、なに、あ、あれっ…あれ…!!?」


ふと気づけば、背後から不気味な低い声が聞こえる…海尋は恐る恐る顔だけをゆっくり振り向かせて後ろを確認すると、ついさっきまで人間だったモノである灰を一切避けずにズカズカと踏みしめながら、人間ではないナニカが
近づいてきたのだ。

ソレは全身が先程崩れ落ちていった人間の成れの果てである灰と全く同じ色…灰色一色で染まった精巧な彫像を彷彿とさせる姿をした異形の怪人…否、人類から進化した新人類『オルフェノク』。

「…まだ生きてるのがいたのか………ん?はぁ~~~…こんな偶然なんてものがあるものだな…。」

突き出た下顎から頑丈な針か釘を思わせるような太めの尖った牙を剥き出しにしてる大きく見開かれギョロついた目をした魚を意匠とした兜を被り、口元はその凶暴性を抑えるためと思わしき簡素なマスクで覆い、両肩・両肘・両膝・踵から牙のような突起物が生えており、肩からは魚の尾鰭を模した短めのマントがはためいてる、そして胸の鎧には牙を見せながら大きく開いた魚の口を思わせる装飾が施されている全体的に細長いスマートな体型をしているオニカマスの特質を持つバラクーダオルフェノクは海尋の顔を見るなり、何故か呆れたような深い溜め息をつき、両手を開いて『やれやれ』と言わんばかりの仕草をとる。

「いきなり家を飛び出したかと思えばこんなところでフラフラしていたのか、やはり貴様は不出来なクズだな。」

「…なっ!?なんで!?なんでなの!!なんで…!アナタなのっ…!?」

バラクーダオルフェノクは足下の影を伸ばし、その影を自身の怪物じみた姿とは異なる半裸の四十代後半の人間の男の姿に変化させて言葉を紡ぐ…海尋はその影の人間の姿に驚愕し、力無く地面に尻餅をつき、顔を青褪めさせて全身を震わせた。

「…と、『父さん』…!?なんで、ウソ…こんなのウソだ!!」

何故ならその男は海尋のよく知る人間…そう、彼女を日常的に心無い言葉で苦しめて家出するまでに追いやった元凶である実父・古綱黒行(ふるつな・クロユキ)、その人だったからである。


「全く、貴様はつくづく…!!」

「ガフッ!?」

「私の思い通りの成果もロクに出せん癖に口答えばかりの…!!」

「ぐぼッ…ンゲェエエエ…!!」

「生まれたこと自体が間違いの不良品めがッ!!」

「いぎゃあぁあああああァーーーーーーーッ!!」

影を引っ込ませ、バラクーダオルフェノクはツカツカと早足で海尋の眼前まで迫り、なんの躊躇いもなく彼女の頬に平手打ちを放ち、更に乱暴に髪の毛を掴んで無理矢理立たせて腹部を殴打、追い討ちと言わんばかりに俯せになりながら嘔吐する海尋の頭をグリグリと踏みにじりながら地面へと押しつける。最早この暴力行為は親が子の愚行に対する仕置きの域を越えた体罰でしかない。

「今の今までは貴様の反抗的極まりない態度を静観していたが、それも今日で終わりだ………。」

「ゴブッ…ゲェエエエエ…ぜひっ…ぜひっ…はあ、はあ…!!」




「死ね。」




たった一言、死刑宣告が下された瞬間
…バラクーダオルフェノクは右手をかざすと同時にそこから牙の形をした弾丸を生成し、全弾を実の娘である海尋に向け、無慈悲に放つ…。



「ぐぶっ…が、げっ…」


弾丸によって貫かれた海尋の心臓はなんと焼失し、そのまま彼女は絶命した…。

「ハッ…こいつもハズレだな、本当の意味で…」

バラクーダオルフェノクは心底つまらなさそうに自分の娘であるはずの海尋の死体を見下ろした…。

今やった行為は『使徒再生』と呼ばれるオルフェノクがオルフェノクという極めて特殊な種族を増やすための手段である。オルフェノクの生成した武器や触手などにはオルフェノク特有のエネルギーがこもっており、それを人間の心臓目掛けて放って相手にエネルギーを流し込んで焼き払うことによって人間をオルフェノクに変化させる…だが、そのエネルギーに耐え切ってオルフェノクとして復活する者はごく僅か、極めて低い成功率しかない、大概が灰と化して死亡するため、大半のオルフェノクの抱く使徒再生への認識は人間の殺害のついでの戯れでしかない。

「いずれ来たる我らだけの世界のため、優れた力を持つ我々の数を増やさねばならないというのに、適応力のないクズしかいない…このままでイカン!」

オルフェノクはまだまだ人間に比べれば小数種族、彼らは仲間を増やし、最終的には人類全てをオルフェノクか灰に変え、自分達の理想の世界を築く…それが最終目的である。しかし、思いの外に使徒再生は成功率が低いため中々に数は増やせず、無駄に灰を増やすだけの徒労に終わっている。バラクーダオルフェノクはこの現状に焦りつつ、また獲物を求めるため足を動かす…と、その時だった。

「…う、うう…?あれ、私…一体…。


死んだと思われていた海尋はゆっくりと立ち上がると無意識に顔に奇怪な紋様を浮かび上がらせながらその姿を父親同様の異形の姿に変化させていた…。



全体的には父親と同じく魚類を彷彿とさせるオルフェノクではあるが、見た目は全く異なる…童話や神話などに出てきそうな人魚を思わせる妖しくも美しいイメージのあるビジュアルを持ち、頭部にはポニーテールの髪型にも見える様にあしらわれた長い胴体をした何かしらの魚のオブジェ、顔は錦模様が走りそれら全てが顔に必要なパーツを象り、両腕と太股は水飛沫を思わせる装飾で彩られている。更に太股には左右三本ずつの計六本の小太刀が納められている魚の装飾をあしらった鞘がマウントされていた。

「なん、だと…?ふっ、ふざっ…ふざけるなァアアアア!貴様は失敗作のはずだろうがァアアアア!!何故、全知全能たる私と同じ領域に入り込むゥウウウウーッ!?認めん…認めんぞォオオオオ!!私の立つ世界に貴様は要らん!!再び死ねェアアアァアアー!!」

バラクーダオルフェノクはその信じがたい光景を目の当たりにした後…絶句、忘我、激昂…。自分に逆らい、自分の思い通りの結果さえ残せない海尋という名の失敗作(むすめ)が自分と同じく選ばれた種族として覚醒したという事実に怒り狂い、本来ならば同胞として彼女を迎え入れるべき事実を完全に私情と私怨剥き出しで抹消しにかかるという暴挙に走った。

「ハァー…ハァー…フゥ、フゥーッ…!!シャアアアアアアッ!!」

息を荒げ、獣の如く咆哮しながら海尋が変化した鯉の特質を持つカープオルフェノクは芽生え始めたオルフェノクとしての本能に従い、太股の小太刀を二本抜き取り、迫り来るバラクーダオルフェノクに立ち向かう。

始まったものは最早、単なる親子の争いとは呼べないコロシアイだった。

「ガゥアアァアアア!!ギェアァアアッ!!シギギィイイイイーッ!!」

「グルァアアアアッ!!ガウウウウッ!!グルォアァアァアアアーッ!!」


お互いを完全に排除すべき敵と認識した理性の無いケダモノ二匹は荒々しく吠え上げ、正面からぶつかり合った。

「ゲォアアアァアァアア!!ジャギィイイイイイッ!!ギギェアアアアアーッ!!」

「グジュルルルル!!ヴォアァアア!!ゲジャアァアァアアーッ!!」

カープオルフェノクはバラクーダオルフェノクの脳天目掛けて小太刀を振り下ろすが、バラクーダオルフェノクは瞬時に無数の牙を寄り合わせて作ったまるで巨大な釘のようにも見える槍を精製してガードする。そしてバラクーダオルフェノクはカープオルフェノクに鋭い蹴りを入れ、自分から引き剥がしてすぐさまバックステップで距離を取る。

「ギャゴォオオオオオ!!ジィヤ゙ァアアア゙アア!!」

「ギヘァッ!?ギルルルル…フシュウウ…ジャバァアァアァッ!!」

「ウギッ!?ギィジャアアッ!!?ジャヴバァアアァアァアア!!」

バラクーダは槍を構えて突進したがカープはそれが自分目掛けての突きと瞬時に悟ると体を仰け反らせて回避、槍の切っ先が脇腹を掠めてしまうがそれを気にせずバラクーダに接近して小太刀で顔面を一閃…その結果、右目が斬り潰され、バラクーダは情けない悲鳴を上げてしまう。

「ギザマ゙ァアァアァアア!?ヨ゙グモ…ヨ゙グモ゙ヷダジノ゙メ゙ヺォオオオオーッッッ!!ヴァジャアァアァアア!!ギョエアガァギャガァアアアア!!」

激痛、そして自分よりも格下と見なしている相手からへの思わぬ反撃に対する屈辱の怒りにより、バラクーダはただでさえ失いかけてる理性をますます無くして錯乱状態に陥ってしまい、手当たり次第に牙の弾丸を発生させて乱射する。

「ギッ!?ガッ…グッ…!!ジィネ゙ェエ゙エエエ゙ェエエエ!!グゾヤ゙ロ゙ォ゙オ゙オ゙!!ガァヒィアアアア!!!」

「オグブッ!?グベァアアアア!!グギャオルアァアァアアアッ!!」

牙の弾丸はカープの頬や首筋、腕や足などに次々命中するが、痛みなど感じてる暇は脳ミソから既に除外されており、弾が当たっての自分へのダメージなど気にせずに、カープは背中から勢い良く水を噴射してまるでロケットの如く空中を飛行して突撃し、互いに取っ組み合いになりながら地面を転げ回り、バラクーダを組み伏す形でマウントポジションを取った。

「フーッ!!フーッ!!ジゲェエ゙エエ゙!!ユ゙ル゙ゼナ゙イ゙!!オバエ゙ダゲバァア゙ァア゙ァアア!!」

「ギャメ゙ロ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!?ゴノ゙グズメ゙ェエエエ!!ヤ゙バリ゙ギザマ゙バ…ダダノ゙ゴミ゙グズダァアアア!!」

「ダマ゙リ゙ャガレ゙ァヤ゙ァア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」

「アガゴッ!?ゲベッ!ビガッ!!ギベバッ!!?」

カープは溢れ出る憎悪、オルフェノク特有の殺人衝動に駆られるままに小太刀を両手に握り締め、力を込めて振り下ろしてバラクーダの顔面や喉に突き刺し始めるため、彼のオルフェノクとしての顔はドンドン石膏の如く削れていく…これが人間の顔ならば間違いなく原型が消えてしまってるほどグチャグチャの血塗れになってることだろう。

「ジネ゙ッ!!ジネ゙ッ!!ジネ゙ェエエエェエエエッ!!!!」

「ア゙ォ…ゲボブッ!!?ヴォギャアアアアアアッ!!」

カープはトドメにとバラクーダの頭を力任せに掴みかかり、ブチブチッ…と死の音と共に首を乱暴に引っこ抜き、更には小太刀で両腕・両脚を解体し、残った胴体を灰になるまで執拗に刺し続けた。

「ウクッ…クックックックッ…アハッ…アハハッ…アッヒャヒャヒャヒャッ…!!」

カープは気づけば笑っていた。そしていつしか自分の中に渦巻き出した感情の正体を本能的に悟り、狂笑を辺り一面に響かせた。

「私は、解放されたんだ…私は自由だ…自由になったんだァアァアアッ!!ヒャッハハハッ!アキャキャキャ…アッハァアアァアァアアッ…!」

自分を散々制限という名の枷を嵌めて、その癖やることなすこと全てを一切否定してきた最悪な父親をこの世から消した。その事実が堪らなく可笑しく、嬉しく、そして絶頂した。

海尋はもう人間ではない、その証拠に自分と同じくオルフェノクであった黒行をも排除してしまえる力を持ったオルフェノクの一人…自分を解放してくれたこの力が父親と同じものなのが皮肉だが、これを授けてくれたものは敢えて神様だと思い、切り捨てた…。


そして海尋は再び、カープオルフェノクへと変化し、姿を消した…。




その一ヶ月後…町のパン屋にて。



「ふぅ…はぁ、はぁ…うん、やっぱり美味しいな、菓子パン…。」

そこには力に溺れ、欲望と衝動に溺れた一匹の灰色のケダモノ…否、海尋が居たが、その姿は以前と変わりない十代の少女のものだったがどこか狂気に満ちた表情をしていた。店内であるにも関わらず平然と商品であるクリームパンやシュガーラスクなとといった主に甘い系統の菓子パンを手掴みしながらムシャムシャと食べていた…本来ならばここで店員に注意されるものだが誰も来なかった。何故ならば…。




既に店員は全員、衣服を残してその肉体は灰と化していた…。



オルフェノク、それは小さな星に生まれた新たな存在…疾走する本能に駆られながら堕ち行く果てにあるものは…?




 
 

 
後書き
いかがでしょうか?書くこと自体から離れてるため拙い部分もございましたがこんな感じです。今尚オルフェノクの独特の造形や設定はお気に入りのため主役で書きました。

最後に古綱親子の簡単なオルフェノク態の説明で〆させてもらいます。それではまたどこかで、蜥蜴石でした。

カープオルフェノク:古綱海尋が変化する鯉の特質を持つオルフェノク、使徒再生にも使用できる腰の六本の小太刀を用いて戦う、また、背中から水を噴射してロケットのように空中を飛び交いながら相手に奇襲を仕掛けることも得意

バラクーダオルフェノク:古綱黒行が変化するオニカマスの特質を持つオルフェノク、相手に向けて右手を翳すことで使徒再生にも使用できる牙型の弾丸を生成しての遠距離攻撃や牙を寄せて作ったような釘型の槍での近距離攻撃などバランスの取れた戦法を取る 
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