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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  208 マッチポンプ…?


SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー

「ねぇ、ロン」

「どうした、ハーマイオニー」

「……〝それ〟、どうするの?」

ダンスパーティーの会場からグリフィンドールの寮へ足を運んで居る最中、ハーマイオニーはまるで御器被(ごきぶり)を処分法をを()くかの様なニュアンスで、俺の小脇に挟まっている瓶の中に居る存在の往く先を訊いてきた。……中に居るのはコガネムシ──に扮したリータ・スキータだ。

リータ・スキータを捕まえてから幾分が経っているので、さすがに俺が掛けた〝全身金縛り呪文〟から回復していて、瓶の壁を内側からカリカリ、と引っ掻いているがさすがにコガネムシの状態では非力が過ぎる。

「殺虫剤でも吹き掛けたら死なないかね?」

「そうね、〝虫〟なら殺虫剤で殺してしまっても問題ないわよね」


――カリカリカリカリカリカリカリカリ


コガネムシの状態でも俺とハーマイオニーの不穏当な会話が聞こえているのか──瓶を引っ掻く力が一層と強くなるが、ハーマイオニーの案で〝不壊呪文〟が瓶に掛けてあるので傷の一つも付いていないし、人型に戻る事も出来ない。

……それに付け加え、〝修復呪文〟も掛かっているので、(よし)んば傷付いたとしても、(たちま)ち瓶の傷が修復されていく様を見ればリータ・スキータも心が折れるだろう。

「ねぇ、ロン」

「またどうした、ハーマイオニー」

「今日は誘ってくれてありがとう、とても楽しかったわ。……実はね、てっきりアニーと行くかと思ってたの」

「そう言ってもらえるなら男冥利に尽きる。……まぁ、それ以前にハーマイオニーとは(はら)を割って話したかったからってのもあるしな」

リータ・スキータ弄りも丁度良いところで切り上げて数分、物憂げに開かれたハーマイオニーの口からの言葉にそう返す。実際ハーマイオニーには話したかった事──と云うより、謝りたかった事があるので、嘘ではないから。

「……どういうこと?」

しかし、ハーマイオニーは俺の言う〝話したかった事〟に心当たりが無かったのか、首を傾げている。

「……確かに、ハーマイオニーの言うとおり、俺達は屋敷しもべ妖精の助けのもとで勉学に励めていると云ってもいいだろう」

「……ええ、そうね…」

「だが──ハーマイオニーも、実は判っているんだろう?」

「……っ…」

やっと俺の〝話したかった事〟に思い至ったらしいハーマイオニー。しかしハーマイオニーはばつの悪そうな顔をして俺から顔を背けようとするが、俺はそんなハーマイオニーを逃がさない様に矢継ぎ早に告げてやると、ハーマイオニーは黙りこんでしまった。

少しだけ(?)話は変わってしまうが、〝アンダーマイニング効果〟と云うものがある。

〝アンダーマイニング効果〟とは、〝アンダーマイニング現象〟とも云われ、自発的に行っている行為に現物的もしくは金銭的な報酬を与えてしまったら、逆にその自発性を奪ってしまう効果の事で、ハーマイオニーがその〝アンダーマイニング効果〟を知っているかは定かではないが、ハーマイオニーもまた薄々判っていたのだろう。

……自身のしようとしている行動がしもべ妖精達の存在意義(レゾンデートル)を脅かしていることを…。

そして、ハーマイオニーの次の言葉も大体想像出来る。

「でもドビーは…」

「それは詭弁だよ、ハーマイオニー」

予想通りドビーの件を引き合いに出してきたハーマイオニーだが、俺はそんなハーマイオニーの反論を一言のもとに切り捨てる。

あくまでもドビーの件は〝特例〟や〝異例〟の類いでしかない。……とは云っても、俺の〝アンダーマイニング効果云々〟についても詭弁になるのかもしれないが、今は置いておく。

「じゃあ、ウィンキーの扱いは?」

「ウィンキーについては、あれは〝クラウチ氏の立場ゆえ〟としか言い様がない」

(ある)いはこう言ってはおしまいだが──〝運が悪かった〟とも。

「賃金や休暇を貰ってないじゃないっ」

「前にも言ったと思うが、人間の価値観を──ってより、ハーマイオニーの価値観をしもべ妖精達に押し付けるのか?」

ハーマイオニーの言葉を反論してやる度、ハーマイオニーの顔が段階的に紅くなっていく。その様はまるでマグマ溜まりにマグマが溜まっていく火山の様で、誰が見るまでもなくハーマイオニーは憤慨していた。

そして、その紅さの度合いが最高潮に達したであろう瞬間…

「じゃあ私はどうすれば良かったのよっっっ!!!」

「〝屋敷しもべ妖精〟と云う一括りではなく、ウィンキーみたいなしもべ妖精の味方になればいいんじゃないか?」

「っ!」

(かね)てより某・プリンスが作成した〝盗聴防止呪文〟を掛けていて正解だった。……もはや裂帛(れっぱく)とも取れる激昂から一転、ハーマイオニーは俺が言った事が全く予想出来てなかったようで、きょとんと、目を黒白させる。

「わ、私…」

「……多少は落ち着けたみたいだな」

俺の言葉を多少なりとも飲み込めたのか、狭窄(きょうさく)としていた視野がようやく回復してきたらしいハーマイオニー。

ハーマイオニーは俺とアニーに≪S・P・E・W≫──≪屋敷しもべ福祉振興委員会≫とやらに無理やり参加を募ってきて、主に俺がそんなハーマイオニーに諫言(かんげん)したのが一連の不和(?)の大まかな原因だった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

場所を〝別荘〟に移して数分。隣を歩くハーマイオニーはやはり所在無さげで──(やが)ていつも四人で麻雀や決闘(デュエル)などで使っているテーブルに辿り着き、そしてそのまま、まるで言い合わせていたかの様に向かい合わせで椅子に腰掛ける。

……ちなみにアニーに〝守護霊(パトローナス)〟で、〝ハーマイオニーと二人で話したい〟と連絡してあるし、今日ばかりは訓練を免除しているので後の二人は来ない事が判っている。

「………」

「……こうしてハーマイオニーと一対一(サシ)で話すのも、なんやかんやで久し振りだな。……去年、アニーの告白騒動以来か」

「……そうね」

あいも変わらず黙りこむハーマイオニー。流石にそんなハーマイオニーに、ハーマイオニーから会話を始めさせようとは思ってないので俺から会話の(いとぐち)を模索しようとするも、取り付く島も無いとは正にこの事と云うのか──もしくは暖簾(のれん)に腕押しでも良いか。

「……確かにハーマイオニーのやり方は(いささ)か強引で早計過ぎたかもしれない」

「………」

「……ああ、別にハーマイオニーを(なじ)りたいわけじゃないんだ」

「……えっ?」

そんな豆腐に(かすがい)な状況のハーマイオニーだったが、会話の切り口を変えてやれば、ようやく反応を見せる。驚いているようなリアクションからして、ハーマイオニーはまた俺に詰問(きつもん)されると思っていたようだ。

「ハーマイオニーに謝りたいことがあったんだよ」

「……どういうこと…?」

「前に≪S・P・E・W≫についてハーマイオニーと話した時、ハーマイオニーにちょっとキツく当たっただろ?」

「あれはロンは悪くないわっ! ……私がロン達を無理矢理≪S・P・E・W≫に加入させようとしたりしなければ、ロンにあんな事を言わせずに済んだもの…」

声は萎み、訥々(とつとつ)としながらもハーマイオニーの独白は続く。

「私、ロンに言われて、改めてホグワーツで働いている屋敷しもべ妖精たちを観察してたら気付いたの。……少なくとも皆洗脳されている様に見えなかった──」

「〝でも〟──だろう?」

「〝でも〟──えっ、ど、どうして…?」

ハーマイオニーと出会って数年。流石に言動も予想出来るので、そう言葉の頭を先取りしてやると、ハーマイオニーはまたもや目を黒白とさせる。こういうのを鳩が豆鉄砲──もとい、〝ピクシー妖精が百味ビーンズ〟と云うのだろう。

「これでもハーマイオニーのことは見ているつもだ。わからいでか」

「えぅ…」

「〝でも〟──それでも何かをしてやりたいんだろう? どこかで虐げられているであろう屋敷しもべ妖精の為に」

「……ええ」

恥ずかしかったのか顔を朱に染めるハーマイオニーだが、流石にそこに突っ込むほど野暮ではない。俺が話を戻すと直ぐに顔を引き締める。〝それ〟の難しさをハーマイオニーは知っているのだ。

ハーマイオニーがしようとしている運動はある種の、〝革命〟と云っても差し支えがない。ハーマイオニーが一人ならそれこそ〝独り善がり〟と切り捨てられて終了である。

「だったら俺はあの時の言葉を、こう言い直そう。……〝貴方たちは立ち向える権利(ちから)があります。〝私達と〟一緒に戦いましょう〟──ってな」

「あ…」

「……まぁ、なんだ、それなら何の気兼ねもなしにハーマイオニーの力になれるって事だ。……世が世なら、国1つ程度なら治められるんだぜ、俺」

「うん…うん…っ」

ぽろぽろ、と滂沱が如しと流れ出るハーマイオニーの涙をハンカチでそっと拭ってやる。

……云ってしまえば至極単純な話で、〝独り善がり〟と切り捨てられるのなら、〝一人〟でなくなれば良いだけなのだ。今はまだ俺とハーマイオニーの二人ぽっちだけだが、3、4、5と人数が増えればと思う。

皮算用の話と、これから≪S・P・E・W≫の展望について思案している俺を(いぶか)ったハーマイオニーが、涙は治まったが未だに瞳を赤くしながら聞いてくる。

「どうしたの?」

「≪S・P・E・W≫の会員が増えれば良いな、と考えていただけだ」

「ふふっ、そうね♪」

弾けるような笑顔のハーマイオニー。その〝別荘〟での夜はハーマイオニーと踊り明かしたのだった。

くるくる、くるくる、と。

……しかし、ハーマイオニーから向けられる様になった──以前に確かに感じられていた朧気(おぼろげ)だったがものだが、今日改めて明確になった〝それ〟を身に受けながら一つの心配ごとに駆られる。

(……マッチポンプだよなぁ…。多分。……それに…)

そんな疑問には誰も答えてくれないし、“答えを知るもの(アンサートーカー)”や“模範記憶(マニュアルメモリ)”は使うまでもなく野暮だと判りきっている。

……かと云って朴念仁や特異性難聴になりたいとも思わない。過ぎた無知は(ひと)を傷付ける事くらいは判っているから。

それでも俺は男でハーマイオニーは女。男にとって〝女性(にょしょう)〟とは全くの別の生き物で──きっと男が〝女と云う生き物〟を知悉(ちしつ)するには、たったの三百うん年ぽっちでは足りないのだろう。

SIDE END 
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