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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第48話 ユメノトビラ

 
前書き
~あらすじ~

 新曲作成は順調に進んだ。そんな中、夜中に聞こえる微かなピアノの音に惹かれて真姫の元を訪れる大地。穂乃果との関係を問われるも、お茶を濁すような大地の態度に不信感を覚えながらその日は終わりを迎える……

 

 
「やっと来たわね……待ってたわ」
「はいはいそういうラスボス感あふれるセリフ吐かなくてもいいから」
「あら、つれないわね」



ちっともそんなこと思ってなさそうな口ぶりに俺は小さく苦笑いを浮かべる。



「大体、君とはそんなやり取りするほど仲良くなったとは思えないんだが?」
「酷いわ~、喫茶店で奢ってあげたじゃないの~」



 甘ったるい声で語尾を伸ばすA-RISEの一員優木あんじゅ。
彼女は、俺から苦手意識を持たれていると気づいていないのだろうか。呑気の髪をくりくりと弄りながら……だけど、今日だけはスカートのひらひらも手直ししている。



「μ`sのみんなと、他のお二人は何処に行った?」
「ツバサと英玲奈は衣装(・・)に着替えるついでにμ`sのみなさんにステージの使い方と今日の流れの確認をしているわ。なぁに?彼女たちがいなくてそんなに不安なのかしら?」
「んなわけあるか。それより、君も一緒に居なくていいのかよ」




 ここはUTX内の一室。控室とドア上のプレートに書かれた部屋に真っ先に通された俺は、先に来ていた優木あんじゅの無駄話に付き合わされていて、かれこれ20分近くは経つ。誘惑しているのか、そうでないのか……わざわざその綺麗な足を組み替えて見せびらかしているあたり、嫌でもそっちに目がいってしまう。実に情けなくも、眼福と思っている自分が悲しい。



「新曲……だそうだな。なんて言ったっけ?しょ、しょ~」
「shocking partyよ。いい名前でしょ?」


 誇らしげに言う。確かに英語表記で今どきらしい曲名、衣装は変わらずともアダルティな色彩。正直な話飲まれかけたのは事実だ。



だけど。


「まぁ、それでも俺らが勝つけどな」
「あら?言うようになったわね。流石はツバサの元カレ(・・・)さんね」
「コラ待て。誰が元カレじゃ誰が。冗談も大概にしておけよ」



 一回しかあったことないのに(俺の記憶上)そういう関係の扱いをされるのは心外だ。今日という大切な日に限ってどうしてこうイライラさせるような相手のお茶に付き合わなければならないのか。とはいえ、控室はここ一か所。A-RISEの膝元を借りる以上、変な対応はできない。



 俺も好きで優木あんじゅの相手をしているわけではない、という気持ちを再度確認して深く深呼吸する。


「緊張しているのかしら?」
「そりゃあな。キミらA-RISEと違ってμ`sの初陣なんだよ。緊張くらいするさ」
「貴方が出るわけでもないのに?」
「俺が出ないからこそ、だ」







 その時、バタンと豪快な音が背後からし、振り向いた先には衣装に着替え終わったμ`sのメンバーがわいわいと入って来た。
 
 新曲ユメノトビラ(・・・・・・)に合わせて作成した衣装は、水色、白をベースにドレスのように纏う形状となっている。華やかというよりは可憐さを強調し、白い花のリースを頭に乗せて妖精のように舞い踊る彼女達。男性視点から見て、少し露出が多めで、少し透けていて目のやり場に困るけど……まぁいい。

 さっきも言った通り、μ`sにとっての初陣。そして、後ろには絶対引けない大切な予選。ここで負けたら今までの行いがすべて無駄になる、そんな一戦。



A-RISEが一つになり。

μ`sが一つになり。


ラブライブ!東京都予選、いよいよ開幕である。











~第48話 ユメノトビラ~











「………」
「……」
「………」





 何故か彼女らは入って来て早々、俺と優木あんじゅを交互に見比べて無言で軽蔑の眼差しを向けてきた。とくに真姫とにこ、海未は汚物を見るかのような眼差しで。





「な、なんだよお前ら。俺がなんかしたのか?」

 みんなにそんな目で見られるようなことはしていないはず。衣装に誘惑されて、目を泳がせながらもガッツリ見てたのは否定できないが、その視線に気づいたとでもいうのだろうか?



「まぁ、ね。良いんだよ?だって大地だし」
「おい、どういう意味だにこ」
「そりゃ年頃の男子だもんね。女の子と部屋に二人っきりにされたらそういうこと(・・・・・・)しちゃうもんねー」
「だからどういうことだって!!」

 遠回しに蔑まされて、否定することもできずにうがるだけの俺。
本当に理解できていない俺に親切に教えてくれたのは凛だった。



「なんで大地君は優木さんの()に座っているのかにゃ?」
「……え?」


 言われて気づく。
確か俺は優木あんじゅが座る反対側の長椅子に座っていたはず。しかし冷静になって見渡すと、”何故か”優木あんじゅは俺の隣にいて、”何故か”優木あんじゅは楽しそうに……いや、愉しそうに空になったカップに新しく紅茶を注いでいる。

 瞬間移動どうこうの前に、何故そんなことに気づかなかったのかが疑問。
かくして俺は、μ`sのみんなに告げるべきことはただ一つ。


「ままままま待ってくれ違うそうじゃない話を聞いてくれ!これは何かの間違いで、最初は俺はコイツの向かい側に座ってたんだけど今指摘されて初めて隣に座ってたって自覚したんだ!だから狙ってただなんてそんなことは微塵たりとも思ってな────」
「知ってた。ええ知っていたわよ」
「な、なにがだよ~」

 絵里が満面の笑顔で、でも内心穏やかじゃなさそうなオーラを纏いながら続ける。
それを聞くのが怖くて、思わず耳を塞ぎたくなる衝動を堪えながらも、耐える。


「大地くんは女の子好きで、見境なく侍らせるのが大好きな最低で最悪な女の敵だという事をね」
「だから誤解だって!!」
「最低」
「最低死ね」
「最低やね」
「最低です…」
「最低にゃ」
「最っ低」
「最低です!」
「さいて~」



 異口同音に並べて、まだ言っていない穂乃果はきっと女神。自分で言うのもアレだけど穂乃果は俺の事が好きならきっとフォローしてくれると信じている。
 そしてさり気無く死ねといったにこはあとでしばく。
だから穂乃果、俺が無罪だということを君の言葉で証明して───








「大くんそんな人だったなんて…最低だよ」







 くれないって思ってました。確かに無自覚とはいえ、良くなかったのかもしれない。ましてや、そういう男女間に敏感なお年頃な女子高に通う男子代表としてあるまじき姿だったのかもしれない。当然音ノ木坂にいる間の時間は除いて。
1対9で、当然勝てるはずもなくちょっと泣きそうになったのを堪えて、泣く代わりに大きなため息で我慢する。


「ため息つきたいのはこっちよ。何してんのよこんな大事な時に好敵手(ライバル)の女の子を口説くなんて。馬鹿じゃないの?」
「はいごめんなさいすみませんでした」


 この世界に神はいない、そう悟った。
力が抜けてソファに腰掛ける中、蚊帳の外だったA-RISEは漸く話を切り出す。


「とりあえず、痴話喧嘩(・・・・)も済んだみたいだから今日の流れを説明するわね」
「痴話喧嘩って……ここは一夫多妻制の国じゃないんだぞ、ツバサ」
「あらそうだったわね、まぁいいわ」


 誰もツバサと英玲奈の発言を咎めずに今夜の流れを確認する。咎めずにというか、これ以上疲れることをしたくなかったという気持ちと”今日の流れ”と聞いて気持ちを切り替えたのだろう。俺もとりあえずこの件は放置し、ソファに座り直して話を聞く。












「───という流れとなっているわ。一応係員も要所要所にいるから迷ったら彼らに確認してもらって構わないわ。」



 一通り確認し、ふと控室の時計は18時を回っていた。同じく予選に出場しているスクールアイドルらも各々の場所でライブを終え、残りわずかとなっているこの時間。




「もうすでにUTX前の電子パネル前や、テレビ中継での観客数も増え続けていて、このライブは重みの大きいモノとなり始めているわ。大丈夫?」
「もちろんです!覚悟はできてます」
「そう……今日の予選楽しみにしているわ」
「負けませんから、貴女なんかに……」



 

また、だ。
綺羅ツバサに食ってかかるような穂乃果の態度。何故穂乃果があんなにも綺羅ツバサを毛嫌いしているのだろうか。穂乃果が彼女に会ったのは喫茶店の一度と今回の件だけ。今回はともかく、前回の出会いで、綺羅ツバサが穂乃果に直接なにかしたという訳ではない。

どちらかというと俺にちょっかいをかけていたような気がするし、穂乃果が敵対心剥き出しになるほどなにかされたわけでもない。

故に、穂乃果が睨みつける理由が俺にはわからない。単純にライバルとして───というわけでも無さそうだ。




「(もっと仲良くしてくれよ......)」


しかし、俺自身もA-RISEに対して良いイメージを持っているわけでもないので、言ったところで───というのもある。


ギリッと歯軋りの音を立てて威嚇する彼女を見兼ねて、絵里が間に入って仲介する。


「今はそんな時間じゃないわよ穂乃果。するならライブを終えてからにして頂戴」
「止めてくれるわけ、ではなさそうですね」
「もちろん止めたいですけど、穂乃果とツバサさんの間で何があったのか私にはわかりませんし、下手に横槍入れてもなと思うだけです」
「そんな私も、自覚ないんですけどね」



お互い苦笑した後、穂乃果を引き下げてようやく場の雰囲気が変わる。もはや息をすることすら忘れていたらしい凛はぷはーっと大きく息を吸ってはいてを繰り返している。


「今日はよろしく、μ'sのみなさん。予選突破を目指し、お互い高め合え良いライブにしましょ!」
「ええこちらこそ。同じ場所でライブをする以上、A-RISEに遅れをとるようなことなんてしませんから」




 お互い認め合った良きライバル同士。
多少なりとも関係の良し悪しはあれど、μ`sとA-RISEの間に生まれた関係は向上心となって、目の前にやってくる。

 A-RISE(彼女ら)に憧れてスクールアイドルを始めた高坂穂乃果をはじめとするμ`s。
過去の俺とひと悶着あって、俺をライバルと認識し、また同時に期待と応援、超えてみろという挑戦状を送り続ける綺羅ツバサをはじめとしたA-RISE。

 絵里と綺羅ツバサが握手する光景を見て、そして、数分後に始まる彼女らのライブを間近で観て、俺はようやく認識することになる。






───A-RISEは、嘘偽りのない、正真正銘の日本の頂点のスクールアイドルだということを。




 









~☆~








 チカチカと街灯に照らされて、明滅を繰り返す学生や社会人の影は夜という時間を指し示している。
静寂と呼ぶには程遠いUTX周辺はようやく最大の盛り上がりを見せる。



 すでに準備を終えてステージに立つ、A-RISEの面々は余裕に満ちた表情で目を閉じている。
数人のスタッフの合図の元、A-RISEの生ライブが始まるのだ。今までにない至近距離で。

 爛々と輝かせて応援するつもりもなく、ただ押し黙ってじっとライバルの力を見定めようとしているにこや花陽。 
 他のメンバーも固唾をのんで、先行く彼女らを見守る。



「本番30秒前です!」


 一人のスタッフの声を合図に彼女らは最初の姿勢をとる。その際、俺は綺羅ツバサと視線が合ったような気がした。口だけ小さく動かしていて、何か伝えたそうな彼女の口元を注視してみる。



───思い出して


 そんな一言を言い残して、綺羅ツバサは目を閉じた。
隣のの穂乃果は誰よりも真剣な瞳でA-RISEを見つめていた。相変わらずの様子が可笑しくて、人知れず微笑んでしまいそうなところを抑える。

 俺は一体どんな表情で眺めているだろうか。
きっと穂乃果と相も変わらず厳しい顔で眺めているかもしれない。『5!4!……』とスタッフのカウントダウンのもと───




曲が流れる瞬間、俺たちの間に戦慄が走る。






「───っ!?」


 直後に硬直。
あまりに急なA-RISEの雰囲気の変化に俺たちは飲み込まれてしまった。気、プレッシャー。そんな言葉がお似合いなA-RISEから放たれる何かに、たった一瞬でμ`sは飲まれてしまった。

 何も考えさせてくれない。
そんな隙すら、俺たちに与えてくれない。

 

力強くも、透き通った歌声。

μ`sやそこら辺のスクールアイドルでは成し得ない、到底及ばないダンス技術。

何処を見ているのか、まっすぐな表情。



───持っていかれた。




 μ`sがここまで来るにあたって掲げてきた目標というものがある。
その目標を達成するために日々の練習を本気で頑張り、この舞台に足を運ばせた。本気で……A-RISEを超えるためにここに来た。





……だけど、それでも。






───今日初めて、気持ちだけでは越えられない()があるという現実を突きつけられた気がした。


 





 A-RISEのライブが終わり、観客の方から歓声のような声が届く。
それをBGMに、俺たちはただぱちぱちと乾いた拍手しか、送ることはできない。



「これは……すごい」


 最初に口を開いたのはことり。
続いて呟いたのは凛だ。



「直に見るライブ……かっこいいにゃ……」
「これがトップに君臨するスクールアイドルの実力」


 希は声を震わせながら悲痛に呟き、これが本当にさっきまで忌み嫌っていたA-RISEなのかと疑ってしまう。映像で見る綺羅ツバサ、優木あんじゅ、統堂英玲奈。プライベートで話す綺羅ツバサ、優木あんじゅ、統堂英玲奈。そして今の綺羅ツバサ、優木あんじゅ、統堂英玲奈。



「認めないといけないわね......」
「ラブライブ!出場するためにはA-RISEを超える......ほんと、大変ね」
「叶わないよ」



あの絵里や真姫ですら悲観的な感想を持つ事で、μ'sなやわ指揮が下がっていくのがわかる。


これ(・・)が、A-RISEとμ'sの違い。


───持つ者と持たざる者の差。




才能を持ってして現れたA-RISEと、未だ才能を世間体に露呈していないμ's。



......俺は、あまりにも彼女達(μ's)に危険な場所に立たせているのかもしれない。


いける!諦めるな!なんて強がりを言えば、またどれだけ傷つけるかわからない。
圧倒的な実力と才能の差、それを見せつけられた後の大敗。

今回のライブはそういう(・・・・)ライブ。
だけど、既にネガティブになっているμ'sを誰かが止める必要がある。



俺は......



あの時の......穂乃果と、海未と、ことりの3人のファーストライブを思い出した。
あの時は、誰も来なくて、今までの努力が報われないかもしれないというそんな境地に立たされていた。


だけど、今は違う。見てくれる人がいて、μ'sを評価してくれるライバル(A-RISE)がいて、支えてくれる仲間が大勢いて。


なのに、する前から諦めるなんてことは出来ないし。
今の穂乃果ならきっと......



「なんで諦めようとしてるの!みんな!」



俺らが進む道を導いてくれる声。
明るく、力強い穂乃果の一言は俺たちに力をくれる。


「何もしてないよ!何の為に今まで()達は頑張ってきたの!?ここで何もせず指を加えて負けを認めるため?凄いねってA-RISEを褒めるため?違うよ!絶対違う!ここで諦めようとしちゃダメ!!ここで諦めたら私達は何の為に毎日頑張ってきたのかわからなくなるよ!!!」



それはかつて、俺が穂乃果と海未、ことりに向けた言葉。それを今度は穂乃果が自分の意志をのせて受け継いで、みんなに届ける。


感情論ではあるけれど、みんなの気持ちを奮い立たせるには充分だった。前を歩かせる為には、充分すぎる事だった。


「私達は負けない!他のスクールアイドルにも、A-RISEにも!絶対負けたくない!!」


力強く握られた拳を前に突き出して、ピースのサインを見せる。それを見た他のみんなは、もう何をするのか決まっていた。



「何言ってんのよ穂乃果。そんなの、当たり前でしょ」
「そうね。まだ始まったばかりなんだから」
「行きましょう!私達ならできます!」



にこに続いて絵里と花陽も穂乃果に周りに集まって同様にピースサインを作る。



「始めよう。μ'sのライブを!1!!」



 
 穂乃果の合図に合わせて、数字を言っていく。
もう気の迷いはない。立ち向かえる。A-RISEに通用するかなんてことはわからない。でも、必死に向かっていけば予選突破は夢じゃない。







「μ`s!!ミュージック、スタート!!!」







 次は俺たちの快進撃。
A-RISE……見ていろ。これがμ`sの領域だ。




















~☆~






───μ`sのユメノトビラが幕を閉じた。





彼女らの踊る姿をスタッフのいる位置から静かに見守っていた。



 素晴らしいライブだった。
それが贔屓目無しにしても言える感想だった。隣で見ているA-RISEの一人、綺羅ツバサも不敵な笑みを浮かべながらも嬉しそうに拍手を送っていた。



 今まで以上の出来だったと言える。
だけど、それでもA-RISEに劣ってしまうのは一目瞭然だった。それを綺羅ツバサだけでなく、優木あんじゅも統堂英玲奈も気づいているだろう。


 過去の作品よりは圧倒的な成長は感じられた。だけど、それでもやはり結成して半年の素人グループ。A-RISEと比べたら、未だに大きな技量の差があるのは否定出来ない。






 でも彼女たちは違った。踊り切ったことに対する達成感、満足感のみしか感じられなかった。
A-RISEに勝つどうのことのは後回し、やりきるための足かせでしかなかったのかもしれない。勿論そうでないことは理解しているけど、流れ出る汗や、笑顔で言葉を交わ彼女らを見ていると……楽しかったという感想が出てくる。




「なるほど。だからツバサはμ`sを応援しているのか」


 背後で称賛する声が聞こえた。ステージから飛び降りると、元気よくスタッフの皆にお礼を言っている彼女らを眺めながら、俺は言う。


「今からμ`sのファンにでもなるか?」
「ふ、それは遠慮しておこうかな」




さらっと統堂英玲奈に流されて肩をすくめる。


「大丈夫よ、彼女達は予選通過できるわ」
「ほぉ?断言するあたり流石だよな」
「一つ、いいかしら」
「なんだよ……改まって」



 視界の隅に写る綺羅ツバサの表情は見えない。
でも、何かとても大切な事を言いたそうな間の空き方にもどかしさを感じる。



「おい」
「なんで君は……踊らないの(・・・・・)?」
「踊らないのって、何言ってんだ?ラブライブ!は女子高生しか────」
「そうじゃなくて。なんで”笹倉大地”は踊らないの(・・・・・)かしらって聞いてるのよ。意味わかるかしら?」
「……」


 綺羅ツバサが言っていることはつまり、何故俺はダンスという道を選ばずにここでスクールアイドルのサポートをしているのか、ということだ。




「貴方には才能(・・)がある。私なんかより遥かな才能を持っているのに、それを持て余してどうして君はここにいるのかって、私はずっと思っていたわ」
「俺に才能なんてない。しかも、そのあるかどうか不明な才能とやらを磨くためにダンスを続けていたわけじゃないんだ」
「それは……持つ者の発言だわ」


 綺羅ツバサは俺の事を妬んでいたんだと知ったのはこの瞬間。
昔の俺の俺を知っている数少ない知り合いの彼女は、急に俺の胸ぐらをつかみ、怒りに満ちた目で俺を壁に一瞬で追いやる。







ドン!と強い衝撃を受けて視界が明暗する。


「いい加減にしなさいよ!私がどれだけ貴方に憧れて!どれだけ貴方に追いつこうと必死に続けたのか知りもしないくせに!!」
「お、おいツバサ……今は────」
「英玲奈は黙ってて!!これは私と彼の問題よ!」


 今まで見たことない、A-RISEリーダーの怒声。
周りのスタッフもμ`sも驚いて、身動きできずにこっちを見ている。そんなこともお構いなしに綺羅ツバサは続ける。



「笹倉大地という目標を追いかけて、寝る間も惜しんでダンスの事だけ考えてきたわ。それこそ、恋狂う乙女のように、いつでもどこでも!!高校生になれば、またどこかの大会で会えると信じて!だから私はスクールアイドルを始めたの!私が全国で一番のスクールアイドルの一人になれば、貴方が絶対無視しないって!反応してくれるって!」




 今までの経緯を俺にぶつけるようにがなる。
俺に憧れて今まで頑張って来たのに、当の本人はダンスを辞めてのうのうとここにいる。もうそれが許せないのだ。今まで何のために頑張って来たのか、それがわからなくなってしまっていたのだから。



「それなのに……それ、なのに……」
「……綺羅、ツバサ……」


 



言うだけ言って、彼女は襟から手を離して、こぼした涙を拭う。
そして顔を上げたかの彼女はいつもの綺羅ツバサに戻っていた。


「ごめんなさい。ただ、それだけは貴方に言いたかったの。貴方に憧れて、頑張って今頂点に立つスクールアイドルのリーダーもいるんだってことを。それだけは、忘れないでほしい」
「……ごめん、気づかなくって」
「謝るならダンス、再会してほしいわ」


 冗談じみた口調でそう言うけど、答えはもう決まっているし、向こうも悟っている。
だからこれ以上何も言わずに、綺羅ツバサは言うだけ言って、μ`sの元へと足を運ぶ。


 統堂英玲奈も優木あんじゅも、彼女に続けて、だけど俺に会釈だけ残して後をついていく。
一人取り残された俺。どっと疲れが押し寄せてきたせいか、うまく立てずにそのままずるずると壁を伝ってしゃがみ込む。




そして。










───ふと、視線が脇の生ライブを見ている観客席の方にうつる。



その時は、特に何も思わなかった。
強いていえば、『あんなにも客がいるんだな』程度。


だけど、そこには確かな異質(・・)がいた。
間違いなく、俺は見てしまった。



そう気づいた時には俺は観客席を二度見してしまった。
何故......ここにいるのだろうか、考えたけど答えは出てこない。
だってアイツ(・・・)はアイドルなんて興味なかったはずだ。

アイツの家は、こっち方面ではないはずだ。


だから、理解できない。見知った顔、見知った容姿、見慣れた高校の制服に懐かしさを覚える。それと同時に───どうして?という感情が沸き起こる。



───視線が交錯する。



彼女は......ふっと小さく歪な笑みを浮かべてその場を立ち去ってしまった。
この行動に反応して俺はその場から走り出すのを止められない。




「────!?」




 どうして彼女がここにいるのかはわからない。
追いかけて聞きたいところだけど、妙に疲れた俺の体が言う事を聞いてくれず、意識を外した一瞬のうちに、その影は姿をくらましてしまった。





「なんで……アイツ(・・・)がここにいるんだよ」


漸く呟いた一言。







何故……大槻未遥(・・・・)がここにいたのだろうか。






 
 

 
後書き
~綺羅ツバサと笹倉大地の関係性~


 幼少期からダンスをしていた二人。
その頃から成績を残していた笹倉大地に対抗心を燃やしていた綺羅ツバサは、ライバルであり、目標の選手として笹倉大地を認識。高校生になって、急に彼の姿が大会で見れなくなり、悔しさのあまり綺羅ツバサはスクールアイドル”A-RISE”を統堂英玲奈と優木あんじゅを誘い、結成することになる。

 本作の綺羅ツバサは圧倒的な努力の賜物が今の彼女を形成しており、どちらかというと才能より努力が秀でている努力家だ。
 笹倉大地はそういった点で才能に恵まれており、どんなに努力しても越えられない壁を綺羅ツバサに与えていたのであった。

ちなみに、二人の間に恋愛感情なるものは存在せず、綺羅ツバサの一方的な尊敬のまなざししか無い。





読了ありがとううございました。最後のワンシーンでユメノトビラ回を持って行かれてしまったのは否めない(笑)
こういう流れにするつもりではありましたが、まさかここまでとは書いた本人ですら予想外(笑)


最後に現れた大槻未遥。彼女は何故ここにいたのだろうか……? 
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