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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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42話 ア・バオア・クーの戦い② 3.13

 
前書き
足しながら書いておりますので、ややこしいかと思います。
ご了承ください。完結を目指します。


 

 
シロッコは目を見開き、カミーユにこう告げた。

「君が私を打ち負かすことができたら知りたいことを教えてやろう」

カミーユはその挑発に乗り、シロッコと戦うことにした。

最初はシロッコの動きに翻弄されて防戦一方だったが、そのうち五分になってきていた。

戦いのペースに慣れてきたのかと思ったが、カミーユ自身怪しく思った。
そのうちZガンダムを操るカミーユは自覚できる程に五感すべてが研ぎ澄まされていた。

「よく分からないが、やれる!」

カミーユはZの機動性以上にバイオセンサーを最大限に利用し、シロッコの動きの軌道予測をしながら優位に戦闘を繰り広げていた。

理由は不明だった。それを知るのは対峙しているシロッコだった。

「(やはり、影響を受けている。私が対応に遅れるとは)」

ジ・Oを操るシロッコも神懸かりな操縦術でカミーユの攻撃を交わしていたが、機体は幾度もかすり傷を負っていた。自身の能力を過信はしていないが、実力は自負している。そこらのニュータイプに遅れを取るほどの力は劣ってはいない。

が、自分の回避能力とサイコフィールド場を凌駕してくる目の前のガンダムがいる。明らかに異常だった。

「(因果とは、面倒なことだ。全てはアムロ・レイの影響か・・・)」

シロッコ自身も振り返り、ここまでの技量と才能を開花させた理由がいくら探してもアムロ・レイでしか答えが見当たらなかった。

シロッコはライフルで牽制しながらカミーユとの距離を詰めて、Zが持つライフルを破壊しようとした。カミーユはその意図を悟り、敢えて誘導し、シロッコを射程圏内に収めた。

「将軍!覚悟!」

カミーユはそれでも直撃をそらす。理由はカミーユはシロッコとの対話だったからだ。
ジ・Oのライフルを持つ腕に狙撃した。シロッコは持つライフルをカミーユの射線に投げつけて難を逃れる。

「(危ない・・・。が、絶望的だ)」

シロッコは遠距離戦闘の術を失った。今のカミーユには近づくことが困難だ。
暫く考え、非情ながらある結論で戦いをカミーユに挑むことにした。

「どうだ!私を撃ちたいならそうしてみろ!」

自殺行為とも見れるジ・Oの直線的なカミーユへの詰め寄りは彼を怒らせた。

「貴方ってひとは!それで済まそうとするのか!」

カミーユのライフルの照準がジ・Oのどこを定めても貫き直撃になってしまう映像(ヴィジョン)しか見えなかった。

そうしているうちにジ・Oはカミーユの至近に来た。ジ・Oのサーベルがカミーユを切り裂こうとした。

「残念だが、ここで君を摘む!」

シロッコのジ・Oが振り上げたサーベルは振り下ろされることがなかった。その瞬間にジ・Oの四肢の接続部をライフルとサーベルにてで断線させていた。

「なっ!う・・・動けジ・O!」

シロッコが操縦桿を操作するが、足、腕と動かない。カミーユはシロッコに先の約束の件を話し掛けた。

「さあ、将軍。言ってもらうぞ」

シロッコは観念し、ジ・Oのチェックを冷静にするとスラスターは生きていることを確認できた。
これで逃げる様な手前を見せては今度はそこが精密に破壊されることをシロッコは勘付いていた。

「ふう・・・」

シロッコは一息付いた。生憎、隠密でフロンタルとララァとの会談に臨んだ訳でこの空域に自分がいることは友軍は知らない。ましてやア・バオア・クーとカラバ・ネオジオン連合軍を目の前に戦闘での緊張でこちらのことは気が付く訳がないとも思っていた。

「カミーユ君、私の後ろの空間を感じることができるかね?」

カミーユはシロッコに抽象的な問いと言われ、返事して頷いた。

「ええ、前にも感じたことのあるおぞましいプレッシャーです」

「ふむ、だから君には多少なりとも耐性があった訳だ」

「耐性ですか?」

カミーユはキョトンとした。シロッコは話し続ける。

「君が並外れたニュータイプだってことだ。それ以下のニュータイプではこの誘引に対応も難しい。本能的なことだからな」

「・・・何ですか?それは」

「<理>だよ。人智を越えた力。触れた者得た者すべて狂わし、自壊するか暴走するか、或いは両者か。その引き金はサイコミュとアムロ・レイにあった」

カミーユが眉を潜める。

「サイコミュと中佐が?一体なぜ?」

「脳波をフィードバックできる金属、そして彼の経歴だ。エスパーの様な能力は周囲の環境を飛躍して変えていった。弾道を曲げるなど自然現象ではない」

カミーユはよく考え、シロッコの意見に同意した。

「人為的な現象だ。金属による磁場のようなものが発生させているから」

シロッコは失笑した。

「これは・・・クク・・・カミーユ君、もう少し歴史を学んだ方が良い」

「どういうことですか?」

カミーユは不満そうに言った。

「いつの世も新技術が世界を変えていった。思えば、時代を飛躍的に進めたと理解した方が正確だ。人は馬よりも早く移動できる手段を覚え、そして空を飛ぶことで更に早く移動できる手段を知った。それによって人はあるモノの支配から徐々に解き放たれてきた」

カミーユはなぞなぞの様なシロッコの話を少し考えてから答えた。

「時間・・・ですか?」

「ご名答。ここからは私の推論だが、サイコフィールドたるもの果たして磁場なのか?」

カミーユは第一人者であるテムとナガノ両博士からその答えを教えてもらっていなかった。ただ斥力と引力場が生じ、ビット等の遠隔砲台などを操作できると・・・。

「磁場・・・とは聞いていません。正確には。ただ斥力引力という磁石に似た性質なので・・・」

シロッコはカミーユの率直な考え方が凡人には正しいと思った。シロッコは己のセンスを全開で次の意見を言った。

「私はもう一つの提言をする。あれは<時>場だと」

「時場?ときの場!」

「サイコフィールドを展開している間有り得ない現象を起こす。これはその空間に見えないものが作用している他ならない。空間に意思があるように。時に惹かれて、時に拒絶する。技術革新の副産物だ。最早人類は時空に触れてしまった」

シロッコは落胆したようにため息をつく。

「そう仮説を取れば、なし崩し的に説明がつく。アムロ・レイは違う世界の人間だ。そしてその向こうで尋常じゃない戦いを繰り広げている彼らもその手の類なんだろう」

カミーユはシロッコの話に衝撃を受けていた。アムロ・レイがフィクションな話の人間。納得し難いが今までの流れが特にあのダカールの異変が、有り得ない自然災害級の出来事が説明が付く。

「このまま進めばこの世界が崩壊しかねない。それが今日なのか明日なのかも予測できん」

有り得ないことが有り得ること自体が何かがおかしくなってきている。シロッコはそれに人類が到達したことに世界の均衡が壊れ始めていると言っていた。

「では将軍はどうするんですか?」

カミーユはシロッコの答えを聞きたかった。自分で答えを出す事こそが肝心なのだが、突然の事で頭が回らなかった。

「そのためのア・バオア・クー落としだ」

カミーユは愕然とした。どうしてそこに繋がるのか。

「何故ですか!」

「絶望の淵でサイコミュが最高潮になる。そこで起きる奇跡を世界に見せる。人にサイコミュの危険性を伝え封印する。後は時間が収束してくれるだろう」

カミーユはその答えが一定の理解として受け入れるに十分と思った。シロッコは付け足して述べた。

「間に合えば良いのだが、全世界に訴えかける上ではこの舞台以外に方法がにない。それでマスコミを戦場に集めた。上手く行けば、それで世界崩壊から逃れられる・・・と思う」

シロッコの話の最後は歯切れが悪かった。彼にしても不明瞭なことがあるのだなとカミーユは感じた。



* ア・バオア・クー 外縁 ネオジオン アクシズ別働隊

マハラジャ提督の下、少数ながらもシロッコの半包囲下に置かれているネオジオンとカラバの艦隊の牽制の為、シロッコ艦隊の右翼の傍をサダラーンとエンドラ級艦隊が航行していた。

その艦隊に帰投、合流をしていたハマーンは修理されたキュベレイに乗り、ニーとランスを連れて哨戒任務に就いていた。

ガズアルに乗るニーが前方に所属不明の機体反応を見つけた。

「ハマーン様、あちらに反応があります」

ハマーンもその反応を既に感知していた。そしてその機体からとてつもなく強いプレッシャーを感じた。が、そこに敵意はなかった。

「ああ、こちらでも確認している。ランス、先行して反応を探れ。この航行速度も異常だ」

ハマーンが言うその未確認の機体速度はただゆっくり流れる様な動きをしていることだった。遭難者の可能性もあった。

ランスはハマーンの命令に従い、ガズエルを操りその機体へ近寄っていった。
するとそれはモビルスーツだと分かった。ただ何も反応しない。機体に誰かいるのかもわからなかった。

ランスはゆっくりと警戒しながら近づく。それでも反応しない。至近にきてその機体に接触し、呼び掛けた。

「おい!生きているか!返事をしろ!」

ランスがそう呼び掛けている間にハマーンと二ーが到着していた。ハマーンはその機体を外見から調べて生体反応が2個あることが確認できた。

「生きているな。このまま牽引してサダラーンへ帰投するぞ」

ハマーンがそう言うと、その機体の中で1人目覚めてハマーンの声に答えた。

「ああ、誰か知らないが助けてくれ!」

そう言うとハマーンがその呼びかけに応えた。

「その機体の女性の方?名前を聞いて置こうか?」

「私はプルツー」

ハマーンは少し笑った。敵パイロットの名前だったからだ。今やアクシズとグレミーとの戦いは自然消滅した形になっていた。それに対してハマーンも返答した。

「私はハマーン・カーンだ。言わずとも分かるな」

プルツーは絶句した。だがどうすることもできない。ハマーンは反応に今度は笑った。

「ハッハッハ、気にせずともいい。お前たちは遭難者だ。手厚く迎えさせてもらうよ」

プルツーは傍で寝ているジュドーを見て、不安そうな面持ちをしていた。



* ア・バオア・クー内

アムロとその部隊はア・バオア・クー内に潜入していた。各所で待ち構えている敵を倒しては導線確保に努めていた。その最中、ラー・ヤークより阻止限界点の通過を知らされる。最もこの質量においての限界点だった。そして艦自体も通信が届くということでア・バオア・クー接舷間近だということも理解した。

「(激戦ながら戦闘宙域も絞られてきたな)」

様々な入り組んだ角を曲がっていくとモビルスーツの気配を感じた。アムロはライフルをその気配の方向へ向けるとそこには同じくアムロに銃口を向けたサザビーがギラ・ドーガ隊を連れていた。それが分かると互いにライフルを下した。

ジェガンに乗っている傍の副隊長のナイジェル大尉がアムロに話しかけた。

「流石赤い彗星ですね。俺たちが先行だと思っていたのに」

「彼らはお前らみたいに若くないからさ」

アムロは経験値の差を言った。シャアが従えていた側近の部隊は7年前の戦争時から付き合いの百戦錬磨の強者揃いだった。

シャアの傍の部隊副隊長のデニムが話しかけてきた。

「ロンド・ベルさんらよ。恐らくは全く逆方向からの侵入かと思うからよ。ここからは合流して要塞内部を目指そうや」

その回答にアムロが答える。

「そんな猶予は無い。現に落下しているア・バオア・クーをどうにか砕かなければならないんだ」

「ということはここでさらに分散かな?」

シャアが答えるとアムロが頷く。

「そうだ。既に深度として中部まで来ている。それ相応の組織的抵抗は敵も難しいだろう。これからはゲリラ戦だ」

「それなら少数精鋭の方がいいぜ」

ギラ・ドーガに乗るジーンが答えた。デニムは苦い顔をした。スレンダーは少し笑っていた。
シャアが全ての決断を代理で下した。

「よし!すでに我が旗艦レウルーラとそちらのラー・ヤークがア・バオア・クーへ接舷体制に入っている。後方支援はマハラジャ提督のアクシズとサダラーンらが請け負っているので大丈夫だ。ここで部隊を9編成で四散し、残敵の掃討に努める。その2隊は私とアムロで請け負う」

アムロは頷き、周囲も納得した。この2人で1個大隊に匹敵する戦力だと各々承知していたからだ。

「では、各自検討を祈る」

そして各自ア・バオア・クーの制圧に乗り出していった。

アムロがア・バオア・クーのあるルートを制圧していた時、とある倉庫的大空間へ出た。そこは何も照明が無く、そしてただならぬ違和感を感じた。

「なんだ?・・・ここは?・・・」

アムロが認識しようとすると突然耳鳴りと頭痛が発生した。

「な!・・・ぐっ・・・」

それと共に周囲が緑白く光り輝き始めた。

「これは・・・サイコフレームの共振!」

その空間にある物質がほとんどサイコフレームを形取る素材でできていた。
すると目の前の空間が歪み始めてきた。

「(何が・・・何が・・・起ころうとしているのか)」

アムロは身構えてその歪みに対応しようとした。するとそこから物質が揺らぎ幻のようで、形成されるように数十体のモビルスーツと艦船が順番に現れ始めては消えていった。

「馬鹿な・・・何もない空間から・・・」

アムロは呆気に取られていた。1つは百式。そしてエンドラ。ヤクト・ドーガにゲーマルク、ザクⅢ。離れてヤクト・ドーガ、ローゼンズール、さらにパラス・アテネ。

アムロは見たことのある無い機体、艦船などを放心状態で眺めていた。

「理解ができない。・・・これは・・・」

「それがお前の撒いた種の結果なのだ」

アムロの背後から突然声があり、アムロは振り向いた。そこにはジ・Oとシロッコが居た。

「シロッコ!」

アムロがライフルを向けようとするとZのカミーユがそれを遮った。

「アムロ中佐。今はそれどころじゃない」

「何故だ!カミーユ」

アムロは激高した。カミーユは一息付き話し始めた。

「貴方が選び歩んできたその道はその貴方でありながら貴方を超えた貴方が選んだ。それがこの結果だ。これを覆す、バランスを戻すには意識して大それたことを実行する他ない」

アムロは困惑した。カミーユは自分が2度目の生を受けて生きていることを知っているような口ぶりだったからだ。

「カミーユ。お前は・・・」

「正直貴方のことは知りません。事実、目の前で起こりえない事が起きている。それだけで十分でしょ」

「だが、これが・・・オレが何かをしたせいなのか・・・」

そこでシロッコが口を開く。

「ふむ。・・・私なりに7年前からの戦争をシュミレートしてみたのだ。まず、アムロ。お前の緒戦の戦績が異常すぎる」

「!」

アムロは苦虫を潰したような顔をした。確かに自分でも戦いを経験しているものならば認識がいくことだ。

「そこが私においても全てのきっかけだったかもしれない。たかが15歳のメカマニアの少年があの赤い彗星を手玉に取るような戦いなど・・・。あってはならない」

アムロは黙って聞いていた。

「バタフライエフェクトは知っているか?」

シロッコがアムロに問う。アムロは深呼吸をして答えた。

「ああ。カオス理論だな」

「そうだ。私は何もア・バオア・クーを地球に落とすなどどうでもいいのだ」

「ならなぜ!」

「事象の地平に立ち向かうには在り得ないこと、馬鹿げたこと、それ以上の無意味で無価値で無責任なことをすることで私はアムロという1個人の異物に立ち向かうことにした」

アムロは呆けていた。シロッコは続けた。

「勿論、世界の異物は君だけとは考えておらんよ。何か作用しているものはまだあると思っている。私の行動が皆、何故、何のためなど考えたりするだろう。理由は真実は何もない。動機は先言った通りだ。理由なき争いこそ、均衡を保つために必要だと考えた」

アムロはシロッコの今までの行動を暫し考えた。簡易的に言えばシロッコは自分らにとっては悪事を働き、自分らは善行を積んできたつもりでいた。と考えた時にハッと我に返り、たじろいだ。

「ま・・・まさか・・・」

シロッコはアムロが気づいたことに笑みを浮かべた。

「お前らは世界がより良くなったと思っていただろう。私がそのように誘引していったとしたらどう思う?」

アムロは唇をかんでいた。

「だが、そんな単純なことではなかった。サイコミュという技術が拍車をかけた」

シロッコの話にアムロは疑問を呈した。

「何故サイコミュが?」

シロッコはカミーユへ話した仮説と同じ内容をアムロに話した。アムロは腕を組み複雑そうな顔をした。

「世界的にはある程度の着地点は見えてきた。しかしサイコミュという負の遺産、メシアとフロンタルという不純物が代わりに残った」

「メシア?フロンタル?」

アムロは初めて聞く名だった。シロッコはそれを説明した。

「メシアはお前らが知るララア。フロンタルはこの世の怨念だ。サイアムが作り出したな」

アムロはララアの名を久しぶりに聞いた。彼女の事を聞かない訳にはいかなかった。

「シロッコ。お前はララアを拉致した。ララアはどこだ!」

「ララアはメシアとして覚醒し、フロンタルと対峙している。世界を震撼させるほどの戦いがな。その余波がどうやら目の前に現れたようだ」

アムロは振り返った。この空間に入るわけのない艦船と種別ないモビルスーツら。これがシロッコが言う異質な結果の1つなのかと。

「しかしこれは・・・」

余りに滅茶苦茶だ。すると突然出現した全ての機体、艦船が光出して、その空間から消えた。それにアムロが驚く。

「今度は一体・・・」

「アムロ中佐」

カミーユがアムロに語り掛けた。

「最早、何が起きても不思議でないんです。シロッコ将軍の抱えていた想いがそこでした」

シロッコは頷いた。

「苦渋の決断だった。カミーユくん、彼に教えるに彼のある可能性の恐怖に躊躇ったが、彼は思った以上に理解があった」

「ある可能性?」

アムロは質問した。シロッコがそれに答える。

「彼は世界を変える才能がある」

「カミーユに?」

「彼の戦闘におけるかいまみえた揺らぎ。あれは事象の地平線の彼方、理だ」

カミーユには自覚はなかった。振り返れば自分の意思の強さは増していたことが今理解できていた。
ここにきて何か魅せられた様な熱を帯びていたことに。

「私は理に触れる者たちを見てきた。ほとんどがその手前で自壊して死んでいった。私もそれに近い体験をし、意識的に閉ざした」

「近い体験?将軍もそれに触れたのですか?」

カミーユが尋ねると、シロッコは少し悩み答えた。

「間接的かな・・・。それを目覚めようとしていたものがいて、もう本能としか言いようがない。私は危険を感じ、それから離れた」

アムロはダカールのことを思い出していた。あの天変地異が自身もこれが対処できるような代物でもないと本能では悟っていた。だからあのもう一つの怪物とぶつけるという作戦に乗った。カミーユが同じことを思い出したかのようにアムロに話し掛けてた。

「中佐・・・これって」

アムロが頷く。

「ああ、ダカールの時の状況とシロッコ将軍がやろうとしていることが酷似している」

シロッコは2人が話していたことに興味を持った。

「何の話だ?」

アムロは簡単にその時の状況を話した。シロッコは「なるほど、確かにな」と一言、そして話続けた。

「カミーユくんはそれに触れ始めているにも関わらず変化がない。いや魅せられた誘引があっただろうが、正義感、意思力と言うものか・・・。理を手にする者は世界を改変、創生できる力があるといっていい」

アムロはシロッコの話を聞いていても、とてもでないが現実的でなく信じられなかった。が、現に起きた在りえない不思議を体験している。否定しようにも術がなかった。

「ニュータイプなんて幻想が人の可能性以上のモノを実現し、世界の調和を崩し始めている。宇宙に適応できれば良いだけの事が便利だからという理由だけの制御できないハイクオリティーによって破滅に向かおうとしている」

「将軍は何をすればよいと考える?」

「サイコミュが悪いのだ。人付き合いなど文通で済ますぐらい遠く面倒な対話が大事なことを知るべきだ。そこでサイコミュをここで使い切ってもらう」

アムロとカミーユが訝し気な顔をした。カミーユが先に尋ねた。

「使い切るって?」

シロッコはこの宙域のリアルモニターを見て答えた。

「ここで戦闘を中止する」

突然の休戦宣言にアムロとカミーユが面を食らった。

「最早ア・バオア・クーは落下コースに入った。人類への挑戦だ。これを止めてみるがいい」

アムロは挑発に「なんだと!」と食いつく。シロッコは気にせず続けた。

「どちらに転ぼうが何かが起きる。この空間がそうだ。人の欲が集まり易い隕石が何か物理的なもの以外の現象を全世界で放映されれば、おのずと人はサイコミュに恐怖し、忌嫌うだろう。ありえない力など核と同じで禁忌として遠ざけるだろう」

確かにこの戦いが各放送局によって全世界に放映されていることは開戦時に知っていた。シロッコはそれによりサイコミュの存在と摩訶不思議な現象を認知させるつもりだった。

シロッコの言にカミーユが質問した。

「本当にそうなるのか?人の欲は際限がない。だから今までも核を使ったりしてきたのでは?」

シロッコはカミーユを見て、その回答をした。

「警告をすることが重要なのだよ。その意識を芽生えさせることが。人は元来保守思想だ。どんなにアグレッシブに動こうが何かを守りたい意識は捨てきれない。それがエゴだとしてもだ」

その時ア・バオア・クー全体が小刻みに揺れだした。3人とも周囲を見渡した。アムロ宛てに無線が入った。

「聞こえるか!」

「ハヤト!どうなっている?」

ラー・ヤークのハヤトからだった。カミーユも無論無線を聞いていた。

「ラー・ヤークとレウルーラは既に接弦し、工作部隊が侵入している。各箇所で分離破壊の為の爆破を行っている」

シロッコはジ・Oの手をカミーユのZの肩に乗せて無線傍受していた。ハヤトの話が続く。

「しかし、いきなりティターンズの攻撃が鳴りやんだ。我々を包囲しているだけだ。何故だか知らんが助かっている」

アムロはそれは何故だか知っていたが敢えて話はしなかった。

「ハヤト、地球落下までは?」

「3時間もないだろう。出来るだけモビルスーツと工作船を使い、砕いた隕石を除去している最中だ」

「間に合うのか?」

ハヤトは間をおいて回答した。

「正直分は悪いな・・・」

アムロはコンソールパネルを叩く。

「くそ!・・・」

「中佐・・・」

カミーユがアムロに呟く。ハヤトがその時ぼやき始めた。

「・・・何か神がかり的な・・・何か奇跡があれば・・・」

アムロはその言葉で我に返り、シロッコとカミーユを置いてその場を離れ、要塞出口へ向かった。その速さにカミーユは呆気に取られた。シロッコは一笑した。

「フッ・・・奇跡・・・か。彼は奇跡を起こしに出かけたか・・・」

カミーユはシロッコの発言に質問した。

「奇跡ですか?」

「そうだ。それでなければこのア・バオア・クーは止められない」

するとシロッコもアムロを追って要塞出口へと向かった。カミーユもそれに続いた。

一方、シャアは要塞中枢部に核をセットし、各小隊と合流を果たしていた。

「デニム、無事か?」

シャアが話し掛けるとギラドーガの手を振り、無事であることを伝えた。シャアは外に接弦しているレウルーラのナナイと連絡を取っていた。

「どうなっている?」

「総帥、実は敵の交戦が止みまして・・・」

シャアは不思議に思ったが、ナナイが話し続けた。

「外郭にあるアクシズのマハラジャ提督によれば、ア・バオア・クーは既に地球落下軌道に乗り、落下阻止困難で彼らの目的は達成された為、戦場から距離を置いたかと・・・」

「成程な。して落下はまでに隕石を砕ききれるか?」

ナナイは俯き、答えた。

「無理かと・・・」

「了解した」

「総帥!」

シャアは通信を切り、部隊をア・バオア・クーの外へ率いていく。

シャアが外に出ると、ア・バオア・クーは中央部が2つに割れて、下部は粉々に砕かれていた。それを各部隊が工作船と処理しては地球から遠ざけていた。問題は・・・

「上部の塊か・・・。ん?」

上部の隕石部は地球の引力に惹かれて落下の摩擦熱を帯びていた。それに相対するの様に1つのエンジンの光が見えた。

「ガンダム・・・、アムロか。あいつは1人で押し出そうと」

シャアはデニムらに命令を下した。

「今から我々はガンダムを援護する。目標ア・バオア・クー上部落下相対逆向きだ。急ぐぞ!」

「了解!」

シャア達は急ぎアムロの下へ急行した。

シャアが先着する前に先に来ていた者たちがいた。アムロの部隊指揮下のナイジェルたちであった。
ナイジェル、ダリル、ワッツ他数機のジェガンがアムロ傍のア・バオア・クーに取りついてはスラスター全開で地球へ落とさないよう押し出していた。

「なっ!何しに来た!」

「中佐だけに良いカッコさせませんよ」

ナイジェルがアムロに答えた。

「しかし、ジェガンでは・・・」

「地球が持つか持たないかなんだから、贅沢言っていられません」

「ダリル!お前たちは良いんだ!知っているんだ。ジェガン並の機体では・・・」

「摩擦熱とオーバーロードで自爆ですか?上等です!」

アムロの科白をワッツが代わりに答えた。暫く経ってシャア達がアムロの傍に取りついた。

「シャア!」

「アムロ、お前だけに責を負わさんよ。我々の不始末は我々でもやるさ」

シャアのサザビーもフルスロットルでア・バオア・クーを押し出そうとしていた。周囲のギラドーガもだった。

「デニム、スレンダー、ジーン!サイコフィールドを全開展開しろ!」

「了解!」

サザビーとギラドーガ周辺が緑白い光に包まれた。それを見たアムロは合点がいき、ナイジェルたちにも同様に命じた。

「お前たちもフィールドを展開して、摩擦熱からの緩和をしろ!」

「中佐、アレは機体へのダメージが違うところで激しい」

サイコミュの使用は適性がない普通のひとには強制的に脳を疲れさせる。ナイジェルがその事を暗に言うと、アムロは説得した。

「それでも、熱で爆走するよりかはマシだ。それ程肉体的な我慢は長くはない。この石ころとの決着までにはな」

「・・・わかりました」

ア・バオア・クーの落下する方向に数十機の光が見えていた。
シロッコ艦隊は半包囲の状態からア・バオア・クーと距離を取っていた。その最前線で遠目からサラが見ていた。

「きれい・・・とても・・・」

サラがそう呟くと、「そうだろう」と言う感想に応える声が聞こえた。

「パプテマス様!」

サラが横を見ると、ジ・Oが確認できた。

「生者の祈りだ。地球を潰さんとする一心の想い。それが集約されつつある」

「それじゃあ、地球は潰れないのですか?」

サラが不満そうにシロッコに詰めた。シロッコはサラに質問をした。

「サラは地球が潰れてもいいと思うか?」

「はい!パプテマス様がそうなさりたい訳だったから」

サラは即答した。シロッコは一笑した。

「フッ、私は地球に生き残って欲しいと思う」

シロッコの答えにサラが困惑する。

「何故ですか!大掛かりな準備をしておいて・・・」

「そこまで無駄な無為なことをすることで世界の傾いたバランスを整えるのだ」

サラは理解できず不服そうだった。

「世界の動向はコイントスのようなものだ。表裏一体。表が9回出て、裏が1回しか出ないとする。裏4回分はそこでない何かに変換されて動く。それがサラ、もしかしたら明日君の命で償われるかもしれない」

サラは意味不明な脅迫で身を強張らせた。

「何を・・・仰りますパプテマス様!」

「フフフ・・・冗談だよ。冗談で終われば良いのだがな・・・」

シロッコは各部署に伝達し、マスコミを全面にア・バオア・クーへ押し出した。光景を全世界に放映させるために。

視聴率は物凄いことになった。地球が終わるかどうかの瀬戸際なリアルタイムコードだからだ。
地球内も混乱し、市場も乱れた。

しかしシロッコはそんなことには無関心だった。関心事はこの光景の後起こるだろう奇跡に全世界を説得して世界を正しいレールに載せる事が肝心だったからだ。
 
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