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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ Another

作者:月神
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第3話 「朝からひと悶着」

 自分の知る世界に酷似した世界に来てから数日が経過した。
 アリシアとリニスさんとの暮らしにはまだ慣れてはいないが、昔から義母さんと一緒に暮らしていたし、一時期はシュテルやディアーチェとも生活を送っていた。男女比で言えば今と変わらないので、日に日に慣れつつはある。
 ただ……アリシアもリニスさんもあのふたりとは大違いだからな。
 アリシアは一言で言えば、実に明るく活発な少女だ。表情もころころと変わるし、身振り手振りも実にバラエティに富んでいる。
 ただ予想される流れでは、近々ジュエルシードを巡る事件が起こることもあって、アリシアは外出を控えている。そのため、有り余った元気をどうにか発散させようと何かと俺やリニスさんに絡んでくるのだ。

「お姉さんだって自分で言うならもう少し落ち着いてほしいもんだ」

 リニスさんは、よくアリシアの行動に何でも嬉しそうに付き合えるよな。
 まあリニスさんからすれば、アリシアだけでなく俺も見た目的には年下なので可愛く見える存在なのかもしれないが。
 ただ……ここ数日間どうにも落ち着かない。リニスさんは真面目で優しくて、家事も万能にこなせる……普通に考えれば凄く頼りになる存在だ。だがどうにも彼女が何かしてくれているところを見ると、地味にそわそわしてしまう。
 ……あれか、手間の掛かる年上と一緒に暮らしていたから違和感を感じてしまっているのか。
 今の外見は小学3年生ほどだが、中身は大人。中学の間はディアーチェに家事全般を任せていた時期もあるが、トータルで考えれば自分でやっていた時間の方が長い。
 それだけに……人に任せて何もしないのが落ち着かないのかもしれない。
 とはいえ、リニスさんは私がやりますからって基本的に断ってくるし。これが自分の仕事だからっていうか、家事をやっていて幸せそうだから強く言えないんだよな。

「……慣れるまで時間が掛かりそうだ」

 でも学校に行ってる間とかは何もできないし、休日とか手伝えるときは一声掛けてみよう。
 やっぱりリニスさんだけに家事をやらせるのはあれだし、家事をやってたほうがこちらの気分も落ち着くだろうから。見られて困るようなものはないけど、自分の部屋くらいは自分でしたいし。
 そんなことを思っている間に、日課であるランニングが終了する。
 ただいまと言いながら中に入ると、リビングのほうから良い匂いが漂ってきた。どうやらリニスさんはすでに起きていて朝食を作ってくれているらしい。

「……やっぱり落ち着かないな」

 ありがたいことだとは思うし、社会人になってからもディアーチェが度々してくれていたことではあるが……俺の中では自分がすることの枠に入ってしまっている。
 と言っても……するなとは言えないし、料理が不味いわけでもない。感謝はすれど文句は言えないよな。それは人として間違っているし。
 そう思いながら自分の部屋に戻って着替えを手に取る。そのあと素早く汗を流した俺は、髪の毛を拭きながらリビングへ向かった。中に入ると、テーブルに朝食を並べていたリニスさんと目が合う。

「あ、おはようございます。その年で毎日欠かさずランニングなんて感心です」
「おはようリニスさん……あのさ、今ではこうだけど俺は少し前まで大人だったんだけど」
「それでもですよ」

 そう言ってリニスさんは笑う。
 まあどうこう言ったところで、今ここに居る俺は見た目は小学生なのだ。年下に扱われても仕方がないと言えば、仕方がない。それ故にこだわっても意味はないだろう。
 それに……褒められているので悪い気分でもない。この話題はここまでにしておこう。

「って……ショウさん、ダメじゃないですか」

 何が? と思った次の瞬間には、リニスさんが俺の目の前に立っていた。
 何やら少し怒っているようにも見える。そう思っているとリニスさんは俺の首に掛けていたタオルを手に取り、半乾きだった俺の髪を拭き始めた。

「ちゃんと拭かないと風邪を引いてしまいますよ」
「えっと……自分で拭けるんだけど」
「そう言う子に限って拭かないんです。顔も何だか赤くなってますし」

 リニスさん、だから俺は見た目は小学生でも中身は大人なんだって。
 誰かに頭拭かれたりするのは普通に恥ずかしいから。それにリニスさんは美人なんだからさ、俺も意識してしまうわけで。大人の男とまでは言わないけど、最低限異性としては扱ってほしいんだけど。

「体調悪かったりしませんか?」
「それは大丈夫です……そろそろ離れてもらっていいですか?」
「ふふ、ずいぶんとマセた小学生さんですね」
「からかわないでください。俺の中身が小学生じゃないって知ってるでしょ」

 と本心を伝えたものの、リニスさんは笑顔のままだ。
 理解してくれているのかいないのか……今後はきちんと髪を拭くようにしよう。また今日のような目に遭っては精神的にきついものがある。アリシアに見られて彼女までするなんて言い出したら……心に来るものがあるし。

「ショウさん、もう少しで準備終わりますからアリシアさんを起こしてきてもらっていいですか?」
「それは……別にいいですけど」

 見た目はあんなだし、精神は見た目よりは大人だけど……子供の異性には慣れてないって言ってたからな。俺が起こしに行くと何か起きそうな気もする。
 なのでリニスさんに行ってもらいたいところだが、彼女の優しい目を見ていると俺に行かせる気満々に思えてならない。
 まあ今後一つ屋根の下で過ごす間柄であることを考えると、こういうことに慣れておくことも必要か。さすがに着替えてるときとかに入るつもりはないし、ノックもきちんとするけど。
 そう割り切ったのだが、血の繋がりもない異性の部屋に入るというのに抵抗はあるもので、アリシアの部屋に向かう俺の足取りは重めだ。すでに起きているか、ノックで起きてくれることを切実に願う。

「アリシア、起きてるか?」

 ノックしてから話しかけてみたが返事はない。なので一度目より強めにノックをし、やや大きめの声で彼女の名前を呼ぶ。だが返事はない。
 ……あぁもう、どんだけ寝ぼすけなんだよ。
 内心で舌打ちしながら再度ノックし、反応がないことを確認してから扉を開ける。
 ほんの数日前まで飾り気のない部屋だったのだが、今では実に女の子らしい部屋になっている。そこのベッドでアリシアは布団を抱きしめながら幸せそうな顔で眠っていた。

「もう……ショウは意外と甘えん坊さんだね」

 何の夢を見ているのが分からないが、今の発言と寝顔からして実にアリシアには楽しいものなのだろう。俺からすると楽しくなさそうな可能性が大だが。
 とはいえ、ここで胸の内に芽生えた苛立ちをぶつけてしまうのは大人気ない。
 相手は見た目よりは大人だがやはり子供であり眠っている。また夢くらいは誰だって自由なものを見ていいはずなのだから。
 さて……どうしたものか。
 話しかけて起きない以上、肩を揺するといった手段を取るのが無難だろう。
 しかし、触るとアリシアに怒られる可能性も……勝手に部屋に入っている時点で文句は言われるか。ならば心地よい感触がしそうな頬を突いてみるのも悪くない。
 と思いもしたが、ここは普通に揺することにした。頬を突いて起こしたりすれば、あとでからかわれるのが目に見えている。

「おいアリシア」
「んぅ……」

 何度か瞬きをしたものの、アリシアはまたまぶたを下ろしてしまう。
 寝直したのかと思った矢先……体の向きを変えながらのそりと起き上がり、手で目元をこすり始めた。

「うぅ……あれショウ……どうしたの?」
「朝食が出来るから呼びに来たんだ」
「そっか……ありが――とッ!?」

 急に目を見開いたアリシアは後ろに倒れるように下がり壁に頭をぶつけた。聞こえた音と両手で押さえている姿を見る限りかなり痛そうだ。
 しかし、ここで泣かないのが自称お姉さんのアリシアの良いところである。彼女は目元に涙を浮かべているものの、こちらに視線を戻して話しかけてきた。

「な……なんでショウがここに居るの?」
「それは今言っただろ」
「そうじゃなくて! 異性の部屋に無断で入るとか何考えてるのって言ってるの!」

 うわぁ……予想してとおりの展開だ。こんな風になりそうだから来たくなかったのに。

「文句なら起こしに行くように言ったリニスさんに言え」
「ぐぐ……リニスのバカ。でもショウもショウだよ、勝手に入らなくていいじゃん」
「勝手にって……何度呼んでも返事がないから入ったんだろうが。人を常識がないみたいに言うな。というか、お姉ちゃんぶりたいなら自分ひとりで起きろ」
「そ……そこまで言わなくてもいいじゃん」

 拗ねてしまったのか唇を尖らせるアリシアの姿は、どう見ても自分より年上のようには見えない。今後もしあまり大きくならなかったならば、きっと彼女は年下からも年下扱いされるのだろう。
 そうなった場合は同情するが、今考えても仕方がないことでもある。
 アリシアという存在は一般的な流れでは死んでしまっているだけに、彼女がどのように成長していくのか知っている者はいない。
 また俺は自分の知る流れと少しでも変えるためにこの世界に来た。
 持っている力は鍛え上げてきた魔導師としての力と積み上げた技術者としての能力のみ。神のような奇跡を起こせるものではないのだが、未来が変化させるには十分な可能性があるだろう。今はただの目の前のことに意識を向けておくのが無難のはずだ。
 そう思った俺は、ふてくされるように座っているアリシアに声を掛けながら室外へと向かう。

「先に行ってるからさっさと来いよ」
「言われなくてもすぐに行くよ~だ!」
「ベー……って、子供だな。まあアリシアは子供か」
「子ども扱いしないで。そっちだって子供のくせに!」


 
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