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艦隊これくしょん~舞う旋風の如く~

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出会う風と乗り越える壁
  出会う風と乗り越える壁③

初風に連れられて執務室を後にする舞風、初風の説明は少々事務的ではあったものの、どこに何があるのかとりあえずは理解できた。しかし、この泊地を回るうちに舞風にはいくつかの疑問点が浮かび上がった。

第一に、と言ってもこれはここについた時点で気になっていたことなのだが、ここの泊地には守衛がいないのである。鎮守府や泊地、警備府といった艦娘達の拠点となる施設には軍の最高機密が山のように眠っている。当然それを狙ったり、もしくは艦娘そのものを狙って鎮守府や泊地などに侵入を試みようとする者は実際に多数存在する。もちろんそういった機密情報や艦娘達が賊の手に渡る前に艦娘達や提督、もしくは憲兵といった者たちによって侵入者は排除される。しかし、警備を自分たちで行うということは、ただでさえ普段の業務や出撃で忙しい艦娘や提督の仕事を増やすことになってしまうため、基本的にはどこも守衛を雇っている。舞風が所属する横須賀鎮守府には総勢20人以上の守衛が日替わりで警備に当たっている。少しくらいよそに分けてあげてもいいのではないかと常々思ってはいるが

第二に、設備がどれも古くなっており、尚且つこれらが古びたまま放置されている点である。特に気になったのは出撃ハッチで、本当にここから出撃しているのだろうかと疑いたくなるようなひどさであった。横須賀鎮守府の提督はよく『鎮守府の損傷具合とレベルは反比例する』と言っていた。つまり、レベルの高い鎮守府ほど、施設や設備の損傷具合に気を配っているということだろう。そう考えるとこの泊地は・・・・・・舞風は呆れたようにため息をついてかぶりを振る。・・・・・・何やら初風がじっと見つめているが気にしないでおこう

そして第三に、先ほどから様々な場所を回っているが他の艦娘に一向に出会う気配がない点だ。そこまで広くもないのに、いや広くないからこそ普通はそこら中で他の艦娘に出会うはずである。なのに着任してから今まで出会った艦娘は片手で数え切れるくらいしかいないのだ。もちろん出撃や遠征に駆り出されているという可能性もある。しかし鎮守府や泊地には非常事態に備えて多くの艦娘達が配備されているはずである。

そんなことを考えていると、初風がとある部屋の前で足を止めた。それを見て慌てて舞風も足を止める。

「で、ここが私たちの私室。どうも相部屋みたいだから、一応案内しておくわね」
「う、うん」

相部屋かぁ・・・・・・と小さな声で呟く。いままで見てきた感じでは、この初風という艦娘はあまりコミュニケーションが得意ではないように思う。自分の言いたいことをとっとと伝え、こちらには何も聞かない、そういう態度が目立った。そんな舞風のつぶやきを聞いたのか定かではないが、初風が舞風の方を向く

「これで最後だけど・・・・・・何か質問があったりするの?」
「あ、うん。えっとねぇ~」

舞風はここまでこの泊地を見てきて思ったことを素直に話した。話を聞き終わった初風はしばらく考えるように唸ると、ため息をついてから話し始めた

「まず、1つ目と2つ目の疑問の回答は同じね、ズバリそんな資金や資源がないから。ここは比較的小規模だしこれといった戦果も挙げていないから本当に運営していける最低限度の資金しか確保できないわ。でもまぁそれは私たちが気にしてどうなることじゃないから、解決するのを気長に待つしかないわね。で、3つ目。これは単純に艦娘が少ないからよ。多分あんたも含めて30人いないんじゃなかったかしら」
「え!?30!?」
「仕方ないのよ、さっきも言ったけど戦果を上げられない以上艦娘が派遣されることなんてないし、建造しようにも資材が無いしで八方ふさがりよ。確かあんたより前に誰かが入ったのは・・・・・・何年前だったかしら?」
「何年!?」

驚く舞風を見て、初風はクスリと笑う。初めて彼女が笑顔を見せた瞬間だった

「何年っていうのは流石に言い過ぎかもね。でも覚えてないくらい久しぶりなのよ、新人が来るのって」

以上よ、と初風は話を締めくくる。初風の話を聞いて分かったのはここが相当火の車であるということ、大した任務を行っていないということ、そして・・・・・・初風が案外おしゃべりだということだ。 
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