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痩せてみると

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第八章

「そうでした」
「辛かったな」
「正直言って、ですから」
「ダイエットをはじめたな」
「二度と言われたくなくて」
 そう思ったからだ、心から。
「それで、でした」
「そうだな、しかしな」
「それでもですか」
「そんなことをする奴はな」
 それこそとだ、岩崎は飲みつつ言った。
「下らない奴だ」
「そうですか」
「そうだ、気にするな」
「言われてもですか」
「最初からな」
「じゃあ振られた話は」
「俺もそんなことはあった」
 岩崎はコップの酒が空になったのを見てまた自分から入れた、哲承が入れようとするがそれを止めてそしてだった。
 自分で入れて飲む、そうしながらまた言った。
「告白してな」
「振られたんですか」
「俺はそれで終わったがな」
 振られてそれでというのだ。
「誰にも言われなかった」
「それはよかったですね」
「そうだな、しかしそんなことを言う奴はな」
 人が振られたことを嘲笑って言う者はというのだ。
「気にするまでもない奴だ、失恋がどれだけ痛いかわからない奴だ」
「そうした奴の言うことはですか」
「気にすることはない、後御前が告白した女の子はな」
 彩友美、彼はというと。
「同じだ」
「下らないですか」
「ああ、その話も聞いた」
 彼と彩友美のこともというのだ、彼が傷付いた大元の話も。
「人は外見じゃない、よく言われるがな」
「その言葉は真実ですか」
「そうだ、人が太ってるか痩せてるかじゃない」
「心を見ることですか」
「心を見ずに外見だけで判断する奴は最初からだ」
「気にすることはないですか」
「その女の子もな」
 こう哲承に言った。
「辛く思う必要はない、しかしな」
「しかし?」
「御前は立ち上がって必死にダイエットしてそこまでなったんだ」
 痩せたというのだ。
「そして失恋の痛み、それを言われる痛みもわかったな」
「はい」
「人の痛みがわかったな」
 心のそれがというのだ。
「ならもう誰にもそんなことは言わないわ」
「自分が経験して嫌だったからこそ」
「そうだな」
「そこまで意地が悪いつもりはないです」
「それは成長したということだ、つまりな」
 それこそがとだ、哲承は今度はスルメの足、十本あるそれのうちの一本を口に入れて噛みながら話した。
「御前はそれだけ心が太ることが出来る様になった」
「心が太る」
「身体は痩せてもいいさ、けれど心はな」 
 それはというと。
「太っていいんだ」
「そうなんですか」
「その経験は御前の心を太らせてくれる」
 失恋、そして言われたことをというのだ。 
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