| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

10,八双飛び

 
前書き
気づけば10話でござる~~ 

 
<ヤヨイ視点>

疾い。
数日前なら笑ってあり得ないと断じれる光景が、私の前には確かにあった。

スピードだけならあの二人組ーーイスケとコタローの方が僅かに速い。だけど、ステータスで負けている筈のクロウさんは別次元の疾さで動いている。
移動は近くにある障害物や木を足場にするため、三次元的で飛んでいるかのよう。
気付いた時には接近していて、反撃しようとした時には既に吹き飛ばされている。

システム頼みではない変則的な三次元戦闘。
もしもこれが、天井で覆われた迷宮区だったら、本当に彼は見えなくなるのではないか?

「ーー何が起きてんだ?」
ふと、我を忘れて目の前の光景を見ていた私は誰かの呟きにハッとして周りを見渡す。
面白おかしい決闘を期待していた全ての人がポカンと口を開けて、目の前の奇跡に釘付けになっている。

「クロちゃん、やっぱりステータスが足りてないナ」

ただ一人、全盛期の彼を知っているはずのアルゴさんだけはこの光景にご不満の様だ。ぶつぶつと先程から文句ばかりを言っている。

「アルゴさん、クロウさんは本当にこれでボス戦に参加していないのですか?」
アルゴさんは黙って三本指を突き出し、そして開いた手を差し出してきた。

300コル、ということらしい。今知りたくて私はコインを出してその手にそっと置いた。

「確かに。まあ簡潔に言えばイレギュラーすぎるんだナ。あの戦闘をボス戦でやってもだーれも援護できないんだヨ」

一回だけ参戦した時に周りのプレイヤーと連携ができなくてそれで自重しちゃったそーダ。とコケティッシュな響きでアルゴさんは締めくくった。

なるほど、確かに口では上手く言えないわけだ。こんなもの見ないで納得なんて出来るわけがない。

「しかしヤー嬢は大変だナ。この戦闘についていかないとダメなんだゾ」

ヤー嬢と呼ぶな。というツッコミも忘れ、私は思わず口を噤んだ。

そうだ、私はあの人はのコンビだ。あの戦闘に割ってはいらないといけない。

自分があの場にいる事を想定して、再び私は目の前の戦闘に再び没頭していった。



<クロウ視点>
--旋風が通った後は、ダンジョンには塵も残らない。
--何も無いダンジョンで、モンスターが消滅する。全てが終わった後には突然プレイヤーがリポップする。

ベータテスト時代に俺のプレイングを誰かがこう評したらしい。最速で迷宮区を踏破し、アイテムもモンスターもリソースなら何でも奪い取る。
攻略に勤しんでいた他のプレイヤーからすれば、大事な迷宮でのレアアイテムの半分以上を俺に取られていたのだから、こう揶揄したくなるのも当然だろう。
AGI極振りのリソース泥棒。旋風なんて二つ名はそのプレイスタイルに好意的な人の付けた二つ名で、酷い時には「迷宮盗賊」とか「ゴミ漁り」とかいう二つ名もあった。
そんな下らないことを言う奴にはタップリと決闘でお返ししてたから、その内に言われなくなったけど。


羽もない、魔法もない世界での、反則的な三次元戦闘。
低層のAIなら処理速度が間に合わず、AIに負荷がかかる。プレイヤーなら言わずもがなで如何に猛者の集まりと言えども、対策できたプレイヤーはそうはいなかったはずだ。


木から木へと飛び移り、地面を疾風のごとく駆け抜ける。

現実世界では味わえない解放感に、俺はこの息の詰まるデスマッチで久々に鼓動が高鳴るのを感じていた。


「ーーはぁぁぁ」
陶酔のままに、短剣を振るう。空中からの死角からの攻撃で、コタローのライフは残り6割程度まで落ち込んだ。攻撃力のない俺の一撃でも、次で落とせる。
そのまま、地面へと降り立ち、跳ね返ったように地面を掛ける。反撃で振るわれた刃が俺の頬を掠めていった。


「ぬぅぅぅ。かくなる上は仕方ないでござる。イスケ!あの手でいくでござる」
「心得た!!」

自分の足元に謎のボールを投げつける忍。モクモクと煙が立ち上り、煙が晴れた時には二人の姿は忽然と消えていた。

「っ隠蔽かよ。面倒くせぇな」
正直、マズイ。俺のスキルスロットは「索敵」はとれていない。どうにか視線だけで、隠蔽を看破するしかない様だ。

「「っふっふっふっふっふっふっふ、これが我らの霧隠れの術よ!!」」

なぜか笑い声まで場所がつかめない謎の残響が掛かっている。クルクルと左右を見回すが看破は一点を見つめなくては無理だ。

落ち着け、攻撃を仕掛けてくれば、確実に気付くはず。それに音の方は隠蔽でも無理だ。仕掛けてくるなら、どこかからの不意打ち。もしくは遠距離攻撃。

突然左右の風景が揺らぎ、俺を挟みこむようにして姿を表した。自慢のシミターは地面に突き刺し、手に換装されたのは大型の……
「あ、網だと……」


それは漁業用とでもいうべき、巨大な投げ網だった。網の目は恐ろしく細かく、一本一本も見るからに丈夫そうな作り。
斬って抜け出すのは、まず無理だろう。

二人は完全にリンクした動きで俺に向かって投げつけてきた。
直径8メートルはあろうかという所まで放射状に広がった後、俺へと襲い掛かってくる。虚を疲れて出遅れたせいで、地面には完全に逃げ場がない。

くそ、最後の逃げ道ーー上空に敏捷力の限界までジャンプ。つま先を縄の一片が掠ったが、なんとか拘束からは逃れられた。が、

「「拙者たちから逃れられると思うなぁ」」

やはり下からはイスケとコタローがシミターを振りかぶって飛び上がってくる。
タイミングは完全に同じ。片方をやれば、もう片方の攻撃がクリティカルヒットし、空中での防御ではHPを大きく削られた上に、後が続かない。

俺は賭けとばかりにソードスキルの構えをとった。
焦りは脳のパルスを遮断して、この世界での出力を弱めてしまう。心を落ち着けて、システムアシストの立ち上がりをしっかりと感じ取った。

「「天誅・御免」」

二人の曲刀の動きに呼応するように、俺は「ショットアウェイ」を放った。狙いは忍のどちらでもない。

遥か彼方の上空へと。だ。

まるで、ジェットエンジンでもついたかのように、俺は新たな推進力をもって、地面へと急降下する。そのまま、受け身も取れずに、俺は背中から地面へと打ち付けられた。

タイミングを完全に間違った二人のソードスキル「リーパー」は空を切ればまだ良かったのに、綺麗なフォームでお互いの腹をバッサリと切り裂き合う。
残り僅かだった二人のHPがイエローへと変わるのと、俺が地面で呻き声を上げたのはほぼ同時。

打ち付けられて、しこたま痛む頭を抑えて眼を開けた所に、WINNERのウィンドウがポップアップした。

一瞬静まった周囲から、沸き起こる大歓声と笑い声。俺の戦闘とコントギリギリの「風魔忍軍」に対して思い思いのコメントが投げられていく。

俺は体を起こして、それに右手を上げて応えた。
ややあってから、アルゴとヤヨイが歩いて近づいてくる。

「いい闘いでした。私とももう一度、今度はホ・ン・キで、やってくださいね」
「ああ、うん。今度やります」

ものすごい剣幕のヤヨイに押され、思わず承諾してしまうと、ヤヨイは打って変わってニコリと笑った。
奥の手に近い空中移動は今、晒してしまったし、何か別の手を考えておくべきかもしれない。


「忍びの者は成敗しましたぞ、アルゴ姫。つきましては勝利の報酬を」
と、おちゃらけてアルゴの方を向いた所で、正面から柔らかい何かが、飛びついてきた。

先程とは別の意味で周りがガヤガヤと騒がしくなる。

伝わってくる柔らかい感触と何かに掴まれている温かみ。視界の下に映る布のフードと金褐色の癖毛。微妙に甘い髪の毛の香り。止めは俺の胸の近くからくぐもって聞こえてくる

「かこつけすぎダヨ、クロちゃん」
といういつもとは僅かに印象の違うコケティッシュな語尾の声。

あ、俺。抱きつかれてる?

そう認識した瞬間、感情表現を誇張しすぎるナーヴギアは俺の顔をゆでダコへと変貌させた。

「こんなことされたらオネーサン、情報屋のオキテ第一条を破りたくなりそうじゃないカ」
「……あ、、相棒のピンチだし……ナ。別にいつでも頼って良いぞ」

しどろもどろの回答は単に驚いただけだ。
繰り返すけど、顔が赤いのも俺のせいじゃない。
第一、こんな場面公衆の面前で始められたら、だれだって周りの目とか気にするだろ。

あ~~もう。誰に言い訳してんだ、俺は。

「借りは作らない主義なんダ。何でも1つ頼みごとをきいたげるヨ」

未だに、俺の胸板に顔をうずめて、アルゴは俺に言ってくる。
どんな顔してるかはわからないけど、いつもと感じが違うから笑い顔では無さそうだ。

「考えとくわ……だから、ちょっと、マジで、」

こんなことされたら、俺だって何か大事なものを破ってしまいそうだ。
フワリと抱き返してから、そしてゆっくりと肩を掴んで距離を取る。

「クロちゃんのいくじなし」
むっとした顔を浮かべたのはほんの一瞬。俺の手をすり抜けてヤヨイの横に戻ったアルゴはいつもの小憎たらしい雰囲気に戻っていた。

「「ごっござるぅぅ」」

後ろに気配を感じて振り返ると、先程以上に何やら禍々しい気配を纏った「風魔忍軍」の二人が立っていた。

まだアルゴを狙ってんのか!!思わず、彼女との対角線に入ろうと右に一歩ずれる。
ずい、っと右に一歩ずれる風魔忍軍。

「ん?」

思わず、気になってもう一歩右に避けると、風魔忍軍も右に一歩。

っす
ズイ

っす
ズイ

ダダダ
ザザザザザ

思わず走って右に移動したが、完全についてくる。

「おっ、おい?」

「あの疾風のような高速体術」
「クナイを扱う正確さ。そしてなによりーー」
「「あの空中歩法はまさに忍の奥義『八双飛び』!!!!」」

キラーン。と輝く4つの瞳。俺は今さらながら、コイツラの心のイベントフラグを全て回収し尽くしたことに気付いた。

「クロウ殿……いやオカシラと呼ばせてたくでござる!!」
「オカシラ!!拙者らと共に『風魔忍軍』を今こそ旗揚げする時で、ござる!!」

「ま、待て。俺のあれは別に忍術なんかじゃ……それに体術はいいのか?」
「忍に二言はござらん。アレは自力で探すでござるよ!!」
「それに、今はオカシラに教えを請う方が大事でござる!!」

ジリジリと後退しながら、さまよう瞳で頼りになる相棒たちを探す。
いつの間にか先ほどの位置から他の観客たちに紛れるように立っており、二人とも苦笑いをしながら、視線を逸らしている。。。

「おい、アルゴぉぉ、ヤヨイぃぃ!!見捨てんのか?」
「済まない、クロウくん」
「こいつはサービスだけど、そいつらのしつこさ……鬼ダヨw」

「「オカシラぁぁ!我らに忍術を!!」」

二人して、ズイ。と近づいてくる。援軍はなし、孤立無援な状況で俺は戦略的に合理的な決断を下した。
瞬間的にUターン。敏捷度をフルパワーで村の向こうへと駆け抜けた。

「「オカシラぁぁ、待つでござるぅぅ」」
「お頭呼ぶなァァ」

アルゴですら振り切れなかったこいつらを果たして俺が振りきれるのか?
自由をかけた逃避行は今、まさに始まったばかりだった……
 
 

 
後書き
キーボードが流れるように止まらない。風魔忍軍の進撃、いかがでしたでしょうか?

因みに、出てきた煙玉?と大網はプレイヤーメイドの品です(当然自作)

彼らのスキルスロットは「隠蔽」「曲刀」は共通で残りの1つをそれぞれ生産スキルをとって日々忍び道具を自炊しているわけです。

<追伸>
ここのところ、プロットの余裕が無いという危機。

以前、どこかで漏らしましたが、更新速度を保てなくなると思います。
呼んでいただいている方、本当に申し負けないです。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧