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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第四章 RE:BIRTH
  綺堂唯子


「EARTH」の中にあてがわれた彼女の部屋。
外一面がガラスになっており、街が一望できる開放的な部屋だ。


その扉が開かれ、入ってきたのは三人。
取り調べ担当としてティアナ、あの街を直に見た矢車、そして、彼女を診ていた長岡である。



三人が入ると、景色でも眺めていたのか少女が窓辺で振り返ってきた。
少女はこれから女性という域に踏み込むくらいの年で、ティアナと同じくらいだろうか。



服は真っ白で、ワンピースのような、診察服のような形をしている。
なびいたスカートが日光の中を泳ぎ、とてもきれいな、まるで絵画を切り取ったかのような感覚になる。




「あ・・・・長岡さん・・・・」

「大丈夫ですか?」

「はい・・・・」



そう言って、少女がベッドに座る。

それを向い合せになるようにして、ティアナが椅子に座り、長岡が少女の横に座る。矢車は壁に寄り掛かった。



「話を聞かせ・・・いえ、話せますか?」

「・・・最初に、これだけは教えてください」

「・・・・なんでしょう」

「私の街は・・・・・どうなりました?」

「・・・・・・・・」

「俺たちの見たうちじゃ、生存者はあんただけ。何名かが行方知らずだ」

「そう・・・・ですか」



矢車の言葉に、そう言って少女が顔をうつ向かせる。



「大丈夫ですか?」

「はい・・・・ごめんなさい。大丈夫です」



そう言って、目に少し溜まった涙をぬぐい、少女が顔を上げた。



「綺堂唯子、19歳です。あの街の事・・・・お話します」




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あるところに、街がありました。
その街は、長い長い一本の道の途中にありました。

ここを通る人の休憩所として、一つのお店が立ったところから大きくなったそうです。


そして、数十年前までは「大きな町」としてあたりにも知られる場所となっていました。




そんな町が、今知られているような「大きな街」になって行ったきっかけが、十八年前にやって来ました。






ある会社の研究機関が、ここに研究所を設けることにしたのです。


その研究所の人たちも住むそうなので、街は一気に大きくなると聞き、そして実際にそうなりました。
街の人たちはより豊かになって大喜びです。
研究所からの公害や騒音といった被害もなく、すぐに町の一部になり、溶け込みました。

その様子を見ながら、少女・綺堂唯子は育っていきました。


街が大きくなると犯罪も増えましたが、研究所の人たちが作ってくれた道具ですぐにつかまりました。
捕まった彼らは研究所での手伝いをさせられ、しだいに街の警察のようになってきました。



そうして十年と少しが経ち、彼女が小学校の高学年になった頃。


彼女の学校に研究所の人がやってきて、同じクラスの男の子を一人、研究所に呼びました。
このころすでに「研究所の人たち」と言えば街の平和を守るヒーローだったので、男の子たちはその子を羨ましがりました。



「オレ、かっこいいヒーローになるんだぜ!!」



彼とは隣の家だったので、彼女は男の子からよくそんな話を聞きました。




それからも彼は研究所に通い続け、そうして八年もの時間が過ぎました。





彼女と彼はその間も、男女間が離れていくという年になってもたまには一緒に遊んでいました。
本人たちは腐れ縁と言ってますが、いわゆる「幼馴染」でした。

そしてそのお話の中で、彼がたまに研究所の中での話をしてくれるのです。



「本当は極秘だって言われてんだけどな」



そう言って話してくれる彼は本当に楽しそうです。
誰にも言ってはいけない秘密を知っている楽しさと、それを話してしまうというタブーを踏むのが楽しい年頃なのでしょう。

そして彼女もまた、その話を聞くのが楽しいと感じていました。



「ね、あそこで何やってるの?昔ヒーローになるとか言ってたけど」

「ん?今でも変わらねーよ。俺はあそこでヒーローになるんだ」

「じゃあピンチになったら助けにきてよね」

「うちの道場で稽古してんだから自分でどーにかしろ」

「ちょっと、レディーのピンチに駆けつけるのがヒーローでしょ?」

「レディーがいればな」

「ムカッ・・・まあ?あんたに助けられるほど弱くないしね、私」

「小学三年生に一本取られる高校三年生が何を言う」

「うるさい(ぽか)」

「アテ」





しかし、一年前のある日。
研究所から帰ってきた彼はいつもと様子が違っていました。


顔は強張り、口は固く閉じられ、拳は握りしめられていました。



「もう来るな」




そう一言だけ言って、彼との話は終わりました。



しかし






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「だからと言って、言うとおりになんかできませんよ」

「だから・・・調べた?」

「街の小娘の・・・無駄な抵抗でしたけど」





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彼女は調べました。

といっても本当に町の少女一人です。
出来ることは限られています。

彼の跡をつけ、放課後を見張り、研究所に入るまでを観察するだけ。
当然中になどは入れないし、彼も突っぱねてきました。




そして、一年後。
あの事件の数日前に、彼は学校に来なくなりました。




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「もう止まってなんていられない。私は、研究所に踏みこみました」

「踏み込んだ!?」

「といっても、入口から5メートルのところで捕まりましたけどね」




そうして、彼女が知ったのはこの研究所の実態でした。




研究され、開発されていく兵器
身体をいじくられる人体
吐き気を催すような形をした「何か」


その先で、唯子は彼を見つけました。



今までの彼とは思えないような、虚ろな目。
だらりと下がった両腕、立っているのに、浮いているような感じな見た目。



到底普通ではない状況でした。




そして、連れて行かれる彼女は、そのまま青年の目の前に連れて行かれました。



声をかけました。
体をゆすりました。
腕を引っ張りました。
全身で抱き締めました。



しかし、青年は一切反応することはなかったのです。



『幼馴染というその女に反応するかの実験ですが、何事もなかったようですね』

『安定してます。大丈夫でしょう』

『ではあの女を処分しなさい』

「!?」



唯子に聞こえていることを十分知っているだろうに、平気でそんな事を話す男たち。

逃げだそうとする唯子だが、押し入ってきた男たちに取り押さえられる。



目隠しをされ、手を縛られ、どこかに連れて行かれる途中で、彼女の耳にこんな声が聞こえてきた。





―――この街にはもう必要なものはないな

―――明日にでも焼き払っておくんだろ?問題ねぇよ

―――ああ、あの男の性能を試す実験でもあるみたいだけどな






それを聞いて、彼女は死の淵にありながらも力の限り叫びました。



「街には何もしないで!!何でもするから!!みんなを殺さないで!!」



もちろん、そんな叫びなど聞き入れてもらえるはずがありません。

しかし



「確か、一つやり残した実験があるしょう」

「え?ああ、だけどあれは被験者が耐えられるもんじゃないぜ?」

「どうせ死ぬ女。有効活用しようじゃないか」

「・・・オイ女」



その言葉とともに、唯子の目隠しが取り払われて、目の前の男が言いました。




今からお前を実験する。
切ったり埋め込んだりするもんじゃない。

ただ、お前は確実に死ぬだろうな。

もし生きられたらみんな解放してやるよ。





それを聞き、唯子は敵意と殺気を込めて、睨みつける。
今まで感じたこともないようなその感情に、自分の目が焼けているんじゃないかと思うほどの怒りが脳を焦がしました。



そして、彼女は別の部屋に放り込まれました。




男の話では、体感時間はとてつもなく長いが実際の時間はそう経たない空間であるらしいのですが、彼女はそれどころではありませんでした。


次々に襲いかかる試練、訓練
拷問ともいえるような特訓、実践

あのクリスタル状の戦士も、死人兵士も、何人も何人も相手にしました。
何度も何度も死にかけ、耐え、勝ち、どんな手を使ってでも生き残ろうとしました。

体感時間が長いだけで肉体へのダメージは実際の時間と一緒に負っていくのですから、それはとんでもない地獄だったのでしょう。




決して彼女は、肉体的に秀でた少女ではありません。
潜在的に何かを秘めているわけでもありません。


そんな少女が、一日を数何カ月ともいえる時間で過ごし、そしてそのダメージを一気に背負って、生きていけるはずなどないのです。



しかし、彼女は耐えきりました。



腕を片方失い、目は潰れ、もう五分も放っておけば死ぬような身体でしたが、その「実験」が済んだ時、彼女は確かに生きていました。




そして、次に気付いた時には、彼女は自分のベッドの上で寝ていたそうです。

腕も、目も、身体の傷は一つ残らず消えていました。
まぎれもない、自分自身の身体でした。


街はいつもの通り。
研究所など、最初からなかったかのよう。


彼女は、満足して日常に帰りました。



そして、蒔風たちが遭遇した事件が起こったのです。







「私は・・・利用されたんですよ。結局彼も、街も、何も救えなかった・・・!!!」

「綺堂さん・・・・・」




その話に、ティアナも長岡もどう声をかけていいか分からなくなる。
結局、彼女が耐えきった実験は何だったのだろうか。すべてが無駄になってしまったのか。


そこで、落ち着くようにと紅茶を注いできた矢車が、唯子に差し出していく。


「飲め。落ち着くぞ」

「ありがとう・・・・」



紅茶に唯子が口をつけ、ほっと一息つく。

考えてみれば、彼女は目覚めてから今までしゃべり通しだ。



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「おいおい・・・・注射はやめてくれよな。苦手なんだ」

「なに、上手にやりますがら、痛みは感じませんよ」

「そーかい(プスッ)・・・・・ウぐっ!?」



「バイタルは?」

「正常です。暴れているのは、おそらく薬に抵抗しているからかと」

「だ・・・から言ってんだろ・・・・そんな薬何本打ちこまれ・・・・たって、今の俺なら・・・・いくらでも耐えられるぜ・・・・・うぷっ」

「ふむ、まだ行けそうですね」

「ハッ・・・おウッ!?がァ・・・・ッは・・・・」



「翼人に薬物が効かないわけではないのですが、彼は強いですねぇ」

「こちら側に引き込むのは無理では?」

「まだ時間はたっぷりある。それに、改造できれば問題はないでしょう」

「・・・・ですね」



「ガァァあああああああああああ!!!!やってみろォア!!全部の血液垂れ流してでも、テメェらの思い通りには動かネぇぞ!!!ッ!?ゴォあぁぁあアアアア・・・・・・!!」








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「綺堂さん。この写真の彼、見覚えないかしら?」


一段落ついて、ティアナが再び唯子に聞く。
クロスミラージュの映像には、蒔風を連れ去った青年が映っており、そしてそれを見た瞬間、唯子の相貌が見開かれた。



「これ・・・どこでですか!?」

「え?ちょ!?」

「この写真!!どこで撮ったんですかっ!!!」


ドタン!!



ティアナの体を揺さぶり、しまいには床に倒して唯子が激しく聞く。
もはやその風体は「聞く」というよりは「問いただす」といった方が正しいかもしれないが。




「ちょっとちょっと!!落ち着いてって!!」

「その写真をどこで撮った!!教えろ!!!」

「だぁ~かぁ~らぁ~・・・・どけっての!!!」



押し倒されたティアナも、人の話を聞かない唯子に落ち着くように言うがやはりそこは人の子である。
この状態で叫ばれれば、ムカッとする。

ティアナは言いながら唯子の手首を掴み、寝ながらだというのにそれを捻って投げ、ベッドに倒した。



「落ち着きなさいっての!この写真は、先日私たちが戦った時に撮ったもの」

「その様子だと、ただの知り合いってわけじゃないようだが・・・・まさか?」


あの体勢から投げられてびっくりしたのか、唯子は五秒ほどそこで大の字になり、そしてその口がすぐに動いた。



(くろがね)・・・・翼刀・・・・」

「この人の名前ね?・・・そして・・・・」

「私の言っていた・・・男の子です・・・!!!」



目に涙をためながら彼女がそう言って、ついに嗚咽を漏らして泣き始めてしまった。




それは、彼がまだ生きていたことに対する喜びか、それとも救いだせなかった悔しさか。





「ティアナさん」

「呼び捨てでいいわよ」

「ティアナ、私を・・・強くして」

「・・・・・・・え?」



そう言って、唯子がティアナに土下座する。
ベッドの上だが、その誠意は確かなものだった。


そしてそこから顔を上げ、イエスと言わなければ殺すとでもいいそうな目つきで、心の底から懇願してきた。



「お願いします。私を・・・・もっと強くしてちょうだい!!」






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ガキン!!




ザッ・・・・・タタタタタタタタ・・・・・






(どうにか・・・外には出れた・・・・だがどうする・・・・通信手段はない・・・・・こんなカンカン照りじゃあ、一発で見つかる・・・・)





ゴゥン!!!ヴィーーーー!!!!ヴィーーーーー!!!!





(見つかった!?いや・・・・逃げたのがばれたかクソッタレ!!!)








蒔風が、荒野と砂漠を足して二で割ったような世界を見渡す。

服は簡素なもので、まるで入院患者のような風体だ。
しかも、この日照りの中を裸足である。


施設は刑務所のような形であり、高い塀はあったがそこはとりあえず突破していた。
今はその塀の陰に隠れる形で張り付いている。



少しして、塀の扉が開き、そこから数台のジープと兵が飛び出してきた。
その兵の一人(やはり死人兵士だった)を捕まえ、服を奪って隊に混じる。




(この施設はやばい・・・・こいつらは、「あれ」の対となる、対抗しうる兵器を作ろうとしている。このまま「あれ」を開放させられたら・・・・!!!)




蒔風、脱出。
しかし、本番はこれからである。






to be continued
 
 

 
後書き
今回は二人の登場人物が出てきましたね!!


青年の名は「鉄翼刀」
少女の名は「綺堂唯子」

です!!


翼刀はリュウガ様、唯子はソーヤ様から、それぞれいただいたキャラクターです!!

ではお二人から頂いたプロフィールの一部をば


名前 鉄翼刀(くろがねよくと)

年齢 19

身長 172cm

体重 54kg

性別 男



名前 綺堂唯子(きどうゆいこ)

年齢 19

瞳 紫




だそうです。

書かれているデータが二人で違う?

HAHAHA
それは武闘鬼人に創作力がないからさ!!



ちなみに、いただいたキャラですが一応カテゴリーとしては「オリジナルキャラ」とさせていただきます。
私としてもいただいたキャラを盗むような名称になってしまうのは申し訳ないのですが、この言い方がしっくりくるので。

それにキャラ設定も結構変わってますしね。




というわけで本編の話。

過去話で何かわからなくなったら聞いてください。お答えします。
もちろんネタバレにならない程度で。

あれだけ書いてるとちゃんと全部説明したか心配だ・・・・


ちなみに唯子がきちんと街に返された理由は、もう書いた気がするので省きました。
さあ、読みなおそう!!(アクセス数ウマウマ



そして脱出の蒔風。
どうやって抜け出したか?


・・・・・蒔風さんならしょうがないよね


しかし、逃げ切れるかは別問題。
どうする蒔風!?


次回は蒔風メインでいきたいと思ったりなんだったり。


ではまた次回で


 
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