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英雄伝説~灰の軌跡~

作者:sorano
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外伝~メンフィル・エレボニア戦争の和解調印式~ 第3話

~グランセル城・会議室~



「まず序列一位にして”正妻”であるエリゼだが……先程説明したようにシュバルツァー家は”公爵家”に昇格する事が内定している。よってエリゼはクロイツェン州を治める公爵家の令嬢にして彼女自身女男爵(バロネス)の爵位を持つ者だ。和解したとはいえ、戦争の結果で考えれば”敗戦国”にして戦争勃発の原因の一端を担う皇女と比べればメンフィルとしては”どちらの血筋の価値”が上なのか明白であろう?」

「グッ……そ、それは………」

「……………」

不敵な笑みを浮かべたシルヴァンに問い返されたダヴィル大使は唸り声を上げた後言葉を濁し、アルフィン皇女は辛そうな表情で黙り込んでいた。

「次に序列二位であるセレーネ嬢。セレーネ嬢は”ルクセンベール伯爵家”の当主の妹にして”アルフヘイム子爵家”の当主であり、また竜族の姫君でもある。」

「な――――竜族の姫君ですと!?」

「竜族と言えば、2年前の”リベールの異変”が起こる少し前に起こった”竜事件”で遥か昔からリベールに存在していた竜が現れたとの事ですが……」

シルヴァンの説明を聞いたカラント大司教は一瞬絶句した後驚きの声を上げ、エルナンは考え込みながら答えた。

「セレーネ嬢はその竜とは無関係の存在です。」

「ツーヤ、セレーネ姉妹はこのゼムリア大陸や我等の世界であるディル・リフィーナとは異なる世界から迷い込んできたらしくてな。二人の話によると二人の世界では二人共”アルフヘイム”という名の国の王位継承権を持つ皇女だったとの事だ。確かその話は父上やリフィア達と共に”影の国”事件を解決したクローディア姫やユリア准佐も知らされていたな?」

「”影の国”事件………”異変”の半年後にクローディア達が巻き込まれたあの事件ですか………クローディア、ユリア准佐。先程のシルヴァン陛下の話は本当なのですか?」

セシリアに続くように答えたシルヴァンの説明を聞いたアリシア女王はかつての出来事を思い出した後クローディア姫とユリア准佐に確認した。



「は、はい。”影の国”には私やユリアさんを含めたそれぞれの過去の出来事を見る事ができる”扉”がありまして。その”扉”の中にルクセンベール卿の”扉”もあり、その”扉”の内容はルクセンベール卿の過去であるアルフヘイム王家の王女として過ごしていた頃だったとの事です。」

「殿下の仰る通りです。”影の国”の”扉”には私の最近の出来事である過去もあり、その内容は一つも間違いはございませんでした。」

「王太女殿下達同様”影の国”事件に巻き込まれたケビン神父やシスターリースから”影の国”や”影の国”の”扉”の件についても報告されています。よって、シルヴァン陛下達の仰っている事に偽りがない事は七耀教会が保証致します。」

アリシア女王に問いかけられたクローディア姫やユリア准佐はそれぞれ答え、二人に続くようにカラント大司教は静かな表情で答えた。

「竜と言えば伝説の存在にして、神聖な生物とされている。セレーネ嬢はそのような人間と比べれば遥かに格上の存在の種族の姫君であるにも関わらず序列が二位である事に納得している。そんなセレーネ嬢を差し置いてでも、アルフィン皇女の序列を一位にすべきとダヴィル大使は主張するつもりか?」

「うっ…………で、では残り4人の異種族の方達の血筋はどうなのですか?」

シルヴァンに問いかけられたダヴィル大使は唸り声を上げた後すぐに立ち直って質問を続けた。

「序列三位メサイア・シリオス。彼女は我等の世界に存在する大国――――メルキア帝国に存在したかつてのメルキア皇帝ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナと”アンナローツェの聖女”と称えられた旧アンナローツェ王国の女王マルギレッタ・シリオスの娘だ。」

(ハアッ!?”ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナ”って……ヴァイスさんの事じゃない!)

「ふえっ!?」

「なっ!?」

「ええっ!?ヴァ、ヴァイスさんのご息女がリィンさんと契約している異種族の一人なのですか……!?」

シルヴァンの説明を聞いたシェラザードやアネラス、ユリア准佐はそれぞれ驚き、二人同様驚いているクローディア姫は信じられない表情でシルヴァンを見つめた。



「クローディアはシルヴァン陛下の説明にあった”メルキア帝国”という皇帝陛下の事をご存知なのですか?」

「は、はい。ヴァイスさんとも”影の国”で出会い、事件解決の為に共に協力をしました。ヴァイスさんは遥か昔メルキア帝国の皇族でしたが、”庶子”の為”帝位継承権”は存在せず当時はメルキア帝国の軍人――――”千騎長”という位に就いていた方だったのですが………”影の国”事件解決の際、帰還する時代の順番の関係でヴァイスさんと副官のリセルさんが私達よりも先に元の世界へと帰還した際にヴァイスさん達のその後の経歴が判明しまして。”影の国”の本来の管理者である始祖様――――セレスト・D・アウスレーゼ様の話によるとヴァイスさんは元の世界に帰還後戦争で活躍して”元帥”に昇格、そしてメルキア帝国で起こった内乱を鎮め、更には内乱によってできたメルキア帝国の隙を狙った周辺諸国との戦争にも勝利し、勝利した国の領土を吸収して結果的にメルキア帝国の領土を広げ、最終的にはメルキア帝国の皇帝に即位したとの事です。」

「なあっ!?」

「まるで”獅子戦役”を治めたドライケルス大帝――――いえ、それ以上の偉業を成し遂げたとてつもない皇帝陛下ですわね………」

(そう言えばエステルさん達の話によると転生が存在し、エステルさんもその”転生者”の一人との事でしたね………メルキア皇帝ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナと”六銃士”の一人である”黄金の戦王”ヴァイスハイト・ツェリンダー………まさか同一人物なのでしょうか?)

アリシア女王の質問に答えたクローディア姫の説明を聞いたダヴィル大使は驚き、アルフィン皇女は目を丸くして呟き、エルナンは真剣な表情である仮説をたてた。

「メサイア嬢はメルキア始まって以来の偉業を成し遂げた皇帝と”聖女”と称えられた女王の娘だ。どう考えても確実にアルフィン皇女よりも上の”尊き血”と思われるが?」

「そ、それは………」

「………その、残りの方の説明についての続きをお願いします。」

シルヴァンの指摘にダヴィル大使が言葉を濁している中アルフィン皇女は静かな表情でシルヴァンに続きを促した。

「いいだろう。序列四位は魔神ベルフェゴール。彼女は”七大罪”の一柱―――”怠惰”を司る”魔王”だ。」

「な――――”七大罪”の一柱を司る魔王ですと!?」

「”七大罪”………そう言えばウィルさんと契約している異種族も”七大罪”の一柱である魔王だったと記憶していますが………」

シルヴァンの口から語られた驚愕の事実にカラント大司教は血相を変え、クローディア姫は考え込みながら呟いた。



「”七大罪”の一柱、”色欲”を司り、”ソロモン七十二柱”の一柱でもある魔神アスモデウス殿ですね。殿下の仰った通りベルフェゴール殿はアスモデウス殿にとって同胞にあたります。」

「あのアスモデウスさんの…………リィンさんはそのような凄まじい存在とも契約し、婚約をしているのですか………」

「……シルヴァン陛下。失礼を承知で質問をさせて頂きますが、”七大罪”を司る魔王と人間が婚約関係になるなんて普通に考えればありえないのですが……その件は一端置いたとしても、”人”に魔王を御する事等不可能かと思われるのに何故メンフィル帝国は人と魔王の婚約を受け入れているのですか?」

セシリアの説明を聞いたクローディア姫が表情を引き攣らせている中カラント大司教は真剣な表情でシルヴァンに問いかけた。

「フン、”御する”だと?そんな考えをしている時点でカラント大司教は大きな間違いを犯している。」

「”間違い”、ですか?それは一体どのような間違いなのでしょうか?」

自分の指摘に対して鼻を鳴らして反論したシルヴァンにカラント大司教は再び問いかけた。

「――――メンフィルは”全ての種族との共存”という理想を謳う国だ。そしてその”共存”が例え”魔王”だろうが”神”だろうが同じ事だ。第一私達メンフィル皇家の者達は”魔王”に加えて、”女神”の子孫でもあるのだから人と魔王が結ばれる話等”今更”な話だ。」

「ええっ!?」

「何ですと!?」

シルヴァンの答えを聞いたアルフィン皇女とダヴィル大使はそれぞれ驚き

「……それは真なのですか?魔王に加えて女神の子孫等、普通に考えればありえないのですが………」

「―――事実だ。父上―――リウイ・マーシルンの父である魔神グラザは”深凌の楔魔”と呼ばれていた魔王達の一柱であり、リウイ・マーシルンの母にしてグラザの妻アリア・マーシルンは女神――――”姫神フェミリンス”の子孫だ。」

(フェミリンス……そう言えばエステルさんが”影の国”事件で新たに契約し、更にサポーターとしても登録している異種族の方が同じ名前でしたが……恐らく同一人物なのでしょうね。確かフェミリンスさんの種族は”女神”との事ですし……)

「ま、まさかメンフィル皇家が魔王と女神の子孫だなんて……!」

「エレボニア帝国(わたくし達)はこの世で決して怒らせてはならない方達を怒らせてしまったのですね……」

カラント大司教の問いかけに答えたシルヴァンの説明を聞いたエルナンは考え込んだ後疲れた表情でため息を吐き、ダヴィル大使は表情を青褪めさせ、アルフィン皇女は重々しい様子を纏って呟いた。



「―――話を戻す。序列5位は精霊領域”リスレドネー”の主である”精霊王女”リザイラ。リザイラはその名の通り、精霊達を統べる”精霊の王女”―――いや、”精霊王”だ。」

「”精霊王女”と言うとプリネさんが契約しているフィニリィさんも確か”精霊王女”という種族でしたが……先程話に出たベルフェゴールさん同様そのリザイラさんという方もフィニリィさんの同胞の方なんでしょうか?」

「ああ。加えてリザイラは自身が支配している”領域”を持ち、その”領域”には多くの精霊達が生活し、精霊達は皆リザイラを主として崇めているとの事だ。」

「エレボニアの伝承でも登場する精霊達を統べている凄まじい御方ともリィンさんは婚約しているのですか……」

「そのような凄まじい存在達が揃って寵愛を授ける事を決めたリィン・シュバルツァー殿とは一体どのような人物なのでしょう……?」

(あたしもその意見には同感よ……ヴァイスさんの娘に魔神、精霊王女って………下手をすればエステルが契約した異種族達の上を行くじゃない!)

(おまけにミントちゃんと同じ”竜”とも契約しているって話ですしねぇ。この調子だと”女神”が出てきてもおかしくないんじゃないですか?エステルちゃんもフェミリンスさん―――”女神”と契約しましたし。)

クローディア姫の推測にシルヴァンが頷くとアルフィン皇女は信じられない表情で呟き、戸惑いの表情をしているダヴィル大使の言葉にシェラザードは内心同意し、アネラスは苦笑していた。

「そして序列六位であるリィン・シュバルツァーの婚約者にしてリィン・シュバルツァーと契約している異種族は”慈悲の大女神”アイドスだ。」

「な―――――」

「”女神”ですと!?それは真なのですか!?」

シルヴァンの口から語られた驚愕の事実にアリシア女王が絶句している中カラント大司教は血相を変えて訊ねた。



「事実だ。ちなみに”慈悲の大女神アイドス”はクローディア姫達が”影の国”で出会った”正義の大女神アストライア”の妹神にあたる。」

「なっ!?」

「ええっ!?で、ではそのアイドスさんという方はサティアさんの妹君なのですか!?」

(うわぁ……ホントに”女神”が出てきましたよ、先輩。)

(しかもあのサティアさんの妹って……セリカさんはその事を知っているのかしら?)

シルヴァンの説明を聞き、ユリア准佐と共に驚きの声を上げたクローディア姫はシルヴァンに訊ね、その様子を見守っていたアネラスは冷や汗をかいて苦笑し、シェラザードは表情を引き攣らせていた。

「クローディア、シルヴァン陛下は”影の国”でその”正義の大女神”という存在とも貴女達は出会ったと仰いましたがそれも本当なのですか?」

「はい。”正義の大女神”アストライア様は私達”人”が生きる世界では正体を隠して”サティア”と名乗っていたそうで………サティアさんは三姉妹の次女で妹と姉がいるという話は聞いていましたが、まさかその妹の方がリィンさんの婚約者の一人だなんて………」

「そう言えば王太女殿下達と共に”影の国”に巻き込まれたケビン神父達からもその”正義の大女神”という異世界の女神とも出会い、協力した話は七耀協会にも報告されていましたな………」

アリシア女王の確認にクローディア姫は頷き、カラント大司教はクローディア姫の説明を補足した。



「―――これで理解しただろう、ダヴィル大使。例え”血統主義”を主張した所で、幾ら”帝国の至宝”と称えられているアルフィン皇女でもリィン・シュバルツァーの婚約者達には敵わないと。」

「次代のメンフィル皇帝であるリフィア殿下の専属侍女長という名誉な仕事に就いている事に加えて将来は公爵令嬢兼女男爵になる事が内定しているメンフィル・エレボニア戦争によって生まれたメンフィルの新たな”英雄”―――リィン・シュバルツァーの妹、竜の姫君に偉業を成し遂げた皇帝と”聖女”と称えられた女王の娘、七大罪の一柱である”魔王”、精霊達を統べる”精霊王女”、そして”女神”。一人で彼女達相手に”血筋”で勝利できる者等、この世に存在しませんわ。」

「うっ…………」

シルヴァンの問いかけとセシリアの推測を聞いたダヴィル大使は唸り声を上げた後黙り込んだ。

「…………ダヴィル大使、わたくしの為にシルヴァン陛下達に色々と意見をしてくださり、ありがとうございました。例えわたくしはシュバルツァー家での立場が低くても、誠心誠意リィンさん達―――”シュバルツァー家”を支える所存です。ですから、第二条の件でわたくしは反論や条件緩和等の嘆願をするつもりはございませんわ。」

「皇女殿下…………」

「………………」

そしてアルフィン皇女に感謝の言葉を述べられたダヴィル大使は辛そうな表情をし、アリシア女王は重々しい様子を纏って黙り込んでいた。

「ハア……ダヴィル大使はアルフィン皇女の妻の序列が低い事によってアルフィン皇女はシュバルツァー家では肩身の狭い立場になる可能性を心配しているようだが、そもそもユミル襲撃前と襲撃後のシュバルツァー家の行動を考えれば、ダヴィル大使の心配は無用である事が何故理解できない?」

「え……そ、それはどういう事でしょうか?」

呆れた表情で溜息を吐いたシルヴァンの指摘を聞いたダヴィル大使は戸惑いの表情でシルヴァンに訊ねた。



「ユミル襲撃が起こる前はシュバルツァー家の現当主であるテオ・シュバルツァー男爵は他国の貴族であり、かつユミルが内戦に巻き込まれる可能性があると理解していながらユミルに避難してきたアルフィン皇女を匿った。更にはアルフィン皇女を匿った事でユミルが猟兵達に襲撃され、自身も重傷を負いながらもその原因の一端を担っているアルフィン皇女を恨んだり憎んだりする所か、貴族連合軍に拉致されたアルフィン皇女の身を心配し、更に我が国とエレボニア帝国が戦争状態に陥った事に対してアルフィン皇女を含めた”アルノール皇家”の者達に罪悪感を抱いていた。そしてリィンはその両親の為に今回の和解調印式へと導く為に今回の戦争で妹のエリゼや仲間達と共に大活躍をした。それらの事を考えれば、シュバルツァー家がリィンに嫁いで来たアルフィン皇女に肩身の狭い立場で過ごさせる訳がないだろうが。」

「た、確かに言われてみればシュバルツァー家の今までの行動を考えれば、皇女殿下の嫁ぎ先がシュバルツァー家である事はエレボニア帝国としても安心できる話ですな………」

シルヴァンの説明を聞いたダヴィル大使は安堵の表情で呟き

「――ダヴィル大使も口にしたように、シュバルツァー家が第二条に記されているメンフィルが指定するアルフィン皇女の嫁ぎ先として、今回の戦争の和解を仲介した”中立の立場”としても安心できるだろう?しかもリィンの年齢は17歳だから、15歳であるアルフィン皇女の年齢との年齢差は僅か2年と年齢も釣り合いが取れている。」

「それは…………」

「………確かにシルヴァン陛下の仰る通りですね。」

「そうですな。それにシュバルツァー家は将来”公爵家”に昇格し、広大なクロイツェン州の統括領主に任命されるとの事ですから、皇女殿下が嫁ぐのに年齢、家柄共に文句の付け所がありませんな。」

「……まさかアルフィン皇女殿下の嫁ぎ先をシュバルツァー家の跡継ぎであるリィン・シュバルツァーさんにしたのはエレボニア帝国に加えて中立の立場である(わたくし)達をも納得させる為ですか?」

シルヴァンの指摘に対してクローディア姫は複雑そうな表情で答えを濁している中エルナンとカラント大司教はそれぞれ同意し、ある事に気づいたアリシア女王は真剣な表情でシルヴァンに訊ねた。

「リィン・シュバルツァーとアルフィン皇女の政略結婚はメンフィル・エレボニア戦争が開戦してから既に決定していた。結果的にそうなっただけの事だ。―――それと第二条の件で一つ伝え忘れていたから、それを今伝える。もし序列最下位が不満ならば、アルフィン皇女は自分自身を正妻にする男性と結ばれても構わん。」

「え………そ、それはどういう事でしょうか……?まるでわたくしとリィンさんの夫婦関係が破談になってもいいように、聞こえるのですが………」

アリシア女王の問いかけに答えた後に語られたシルヴァンの説明に呆けたアルフィン皇女は困惑の表情でシルヴァンに問いかけた。そしてシルヴァンはアルフィン皇女自身が結ばれる事を望む男性が現れた際、リィンとの夫婦関係を破談にしてその男性に嫁ぐ事をメンフィルが黙認する事をリィンが褒美の一つとして望んだ事を説明した。



「リィン・シュバルツァーさんがそのような”褒美”を望んだのですか………」

「彼は一体何故自らアルフィン殿下との離縁をしても構わない事を口にしたのでしょうな……?」

シルヴァンの説明を聞いたエルナンは驚き、カラント大司教は困惑の表情をしていた。

「―――今回の戦争で辛い立場となったアルフィン皇女殿下にせめて”一人の女性”として幸せになって欲しいと思い、そのような内容を望んだとの事です。」

「あ……………」

「リィンさん……………あの、シルヴァン陛下。リィンさんのお気持ちは嬉しいですがわたくしはエレボニア帝国にとって”恩人”にあたるリィンさん―――いえ、”シュバルツァー家”にユミルの件に対する償いと今回の戦争和解に対するせめてもの恩返しをする為にもわたくしはリィンさんと離縁をするつもりは一切ございません。」

セシリアの説明を聞いたクローディア姫は呆けた声を出した後複雑そうな表情をし、リィンの心遣いに嬉しさ等を感じて一筋の涙を流したアルフィン皇女はすぐに自分のハンカチで涙をふいた後決意の表情でシルヴァンを見つめて自分の意志を伝えた。

「その件についてはリィン達と話し合って互いの納得が行く結果にするといい。和解条約第二条実行後のリィン・シュバルツァーとアルフィン皇女の関係についてメンフィルは一切口出ししないと父上がリィンに確約したからな。よって、アルフィン皇女がリィンと離婚するか、本物の夫婦になるかはアルフィン皇女の自由だ。」

「……はい。メンフィル帝国の寛大なお心遣いに心から感謝致します。」

「え、えっと……第二条についても、エレボニア側は反論や条件緩和等はないと判断してよろしいのですね?」

シルヴァンとアルフィン皇女の会話を見守っていたクローディア姫はアルフィン皇女に訊ねた。

「はい。続きをお願いします。」

「……わかりました。それではシルヴァン陛下。次は第三条について―――――」

その後会議は進み、第三条の話へと進んだ。第三条は”賠償金”としてエレボニア帝国の広大な領地をメンフィル帝国に贈与しなければならないというエレボニア帝国が確実に衰退する内容である為アルフィン皇女とダヴィル大使は少しでもエレボニア帝国の衰退を防ぐ為に必死に条件緩和の嘆願の主張をし、更にはアリシア女王を含めた中立勢力も条件緩和の嘆願をし続けていたが遊撃士協会の代表であるエルナンだけは何故か何も語らず、状況を見守り、シェラザードやアネラス、カシウスは何も口出ししないエルナンの様子を不審に思いながらも会議での発言権が無い為会議の様子を見守っていた。



第三条についての会議は休憩を挟む程長引いたがアルフィン皇女達の必死の嘆願やアリシア女王達の嘆願の甲斐もあり、シルヴァンは第三条の条件緩和をする事に同意し、その結果クロイツェン州の貴族連合軍に加担していない貴族達が治めている領地とメンフィル帝国が指定するサザ―ランドの領地の贈与は撤回され、また第四条の内容も『貴族連合軍に加担していた”四大名門”を除いたエレボニア貴族のメンフィル帝国への帰属の不許可を条件付きの許可(条件、爵位を一段階下げる。)に変更。』という条件へと緩和され、会議は第五条の話へと移った―――――




 
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