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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百四十二話 艦隊初会議

帝国暦484年10月22日

■銀河帝国オーディン 宇宙艦隊司令本部 大食堂 

憲兵隊よりシュワルツ・ランツェンレイターオフィスに伝えられた命令に、副官のディルクセン大尉は驚きながら食堂で、艦隊副司令官ハルバーシュタット准将、参謀長グレーブナー准将、副参謀長オイゲン大佐と共に昼食を取っていたビッテンフェルト少将の元へ駆け込んできた。

「ビッテンフェルト提督、大変です」
副官の言葉を聞きながらもモグモグと昼食のアイスバインをぱくつきながらビッテンフェルトが答える。
「どうした、ディルクセン、お前も一緒にどうだ、旨いぞ」

常識人で冷静なオイゲン大佐がディルクセンに問いかける。
「大尉、どうしたのか?大変ではわからんぞ」
オイゲン大佐の問いかけにディルクセンは多少落ち着いてから理由を話し始めた。

「提督に憲兵隊から出頭命令が来ています」
その言葉を聞いて、全員が驚き始めた。
「俺に出頭命令だと、なんで憲兵隊なんぞに出頭せねばならんのだ」

ムッとした表情でビッテンフェルトが口を尖らす。
「提督、又何か為さいましたか?」
「早いうちに弁護士を呼んだ方が宜しいのでは?」
ハルバーシュタット准将とグレーブナー准将が苦笑しながらチャチャを入れる。

「副艦隊司令官も参謀長も冗談では有りませんぞ。大尉、その書類を見せてくれ」
一人冷静なオイゲン大佐がディルクセン大尉から出頭命令書を受け取り読み始める。
「オイゲン、何と書いてある?」
ビッテンフェルトは相変わらずモグモグしながら問いかける。

読んでいくうちにオイゲンの顔に皺が刻まれていく。
「銀河帝国宇宙艦隊旗下第109分艦隊司令官フリッツ・ヨーゼフ・フォン・ビッテンフェルト少将に対する召還命令。きたる10月23日1000時までに第109分艦隊オフィスにて待機すべし、尚、憲兵隊総監部より課員を派遣する旨、フリッツ・ヨーゼフ・フォン・ビッテンフェルト少将以外の人物の同行を禁ず。銀河帝国憲兵隊総監、リヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼン上級大将」

流石にこの文章を読み終わった頃にはビッテンフェルト以外の人間は心配そうな顔をしていた。
「提督、この召喚状は本物です」
「提督、冗談ではなく、いったい何を為さったのですか!」

皆の質問に対してビッテンフェルトは大仰に手を振りながら答える。
「何もかにも、俺にはさっぱり判らんぞ。大体先だって皇帝陛下より直々にお褒めのお言葉を受けているぐらいだ。大方、何処ぞの馬鹿が間違えたんだろう」

そう言いながら、更にアイスバインをパクつく。
「提督、そんな暢気なことを」
「オイゲン、あんまり悩むと禿げるぞ」

「誰のせいだと思っているのですか?」
「まあ、確かに提督のせいで何かにつけて当艦隊は色々言われていますからな」
オイゲンや、ハルバーシュタットが色々言うが、当の本人は何処吹く風で昼食の残りを片付けにあがる。

「まあ、明日になれば判るだろうよ」
「提督」
ビッテンフェルトは部下達の心配も余所に、口いっぱいにアイスバインを頬張りながら、カラカラと笑う。


帝国暦484年10月23日

■銀河帝国オーディン 宇宙艦隊司令本部 シュワルツ・ランツェンレイターオフィス

昨夜の内にオイゲンは、彼方此方をかけずり回り、どうやら今回の召還が逮捕等ではないらしいとの話をなんとか聞きつけ、寝不足のままオフィスへ向かい。其処で迎えが来るのを待っているビッテンフェルトに報告を行ったが、当の本人は、朝飯のサンドイッチをぱくぱく食べながら、コーヒーを飲んでいる最中だった。

「提督」
「おう、オイゲン、大分窶れているようだが、寝不足は体に毒だぞ」
オイゲンは、ビッテンフェルトの、いい加減差にあきれ果てたが、其処は仕事をしなければと気を取り直した。

「提督、憲兵隊にいる知人に連絡をして何とか話を聞いたところ、今回の召還は逮捕等ではなく聞きたいことがあるらしい事などですが」
「なんだ、その歯切れの悪さは、スパッと言わんか」

「つまりは、直ぐに逮捕はないと言う訳です」
「当たり前だ、なんで俺が逮捕されなきゃならんのだ。俺は何も悪い事はしてないぞ」

そうこうしている間に、10時になり、憲兵隊から課員がやって来たが、それは皆うら若く美人な女性大尉に率いられた女性下士官ばかりだった為、宇宙艦隊内でも“なんだなんだ”と野次馬が集まってきた。

ビッテンフェルトの前に立った女性憲兵大尉が見事な敬礼を行い話してくる。
「第109分艦隊司令官フリッツ・ヨーゼフ・フォン・ビッテンフェルト少将閣下でいらっしゃいますね。小官は憲兵隊総監部クラーラ・ヴォーヴェライト大尉であります。本日は閣下をお迎えに上がりました」

少々ハスキーな声でニコリと笑顔で話しかけてくる大尉に多くの兵が見ほれる。
ビッテンフェルトも思わず見ほれていたが、気を取り直して大尉に質問を行う。
「しかし大尉、いったい何故、小官が召還されるのか?」

「その点におきましては、憲兵総監閣下から直接お伝えになりますので、申し訳ありませんが、小官には話す事はできません」
ハルバーシュタット、グレーブナー、オイゲン達が心配そうにする。

「提督、大丈夫なのでしょうか?」
「ご安心下さい。別に逮捕等ではありませんので、ご同行して頂きたいだけです」
安心させるように大尉が、またも小首をかしげながらニコリと笑顔で話す。

「ここで、どうこうしても仕方があるまい、取りあえず行ってくる」

ビッテンフェルトが、承諾し左腕を赤毛で巨乳のソバカス美人と、右腕を黒髪でキリリとしたスレンダー美人と組んで、それを金髪で美乳の長身なモデル体型美人の大尉が引率して行く姿を多くの野次馬が羨ましそうに眺めていた。

その日の内にビッテンフェルト少将が憲兵隊に逮捕されたという噂をかき消そうとしたオイゲンの活躍も虚しく、“ビッテンフェルト少将が痴漢で捕まった”や“憲兵隊の女性兵士にセクハラした”だのが流れまくった為、ビッテンフェルトが召還された本当の訳を知ることを誰もしなくなった。



帝国暦484年10月23日

■銀河帝国オーディン 憲兵隊総監部

その頃、憲兵隊総監部には次々と出頭命令や事情聴取などで将官が集まってきていた。
ミッターマイヤーはテレーゼ殿下から御茶に誘われた事になっていた。妻や子供達と宮殿まで参上した後、テレーゼに挨拶をし、その後憲兵隊へと移動してきた。テレーゼ自身はエヴァと子供達と共に庭園で散策していた。

各人が憲兵隊総監部に到着すると、それぞれ案内が付き部屋へと案内された。
ミッターマイヤーの案内はごく普通の憲兵大尉であった。

「大尉、今回の召還、何があるんだ?」
「会議室でケスラー中将閣下がお待ちです」
「なるほど、ケスラー中将閣下が絡んでいるのか」

会議室へ案内されると、ケスラー中将が待っていた。

「ミッターマイヤー少将、呼び立ててすまなかった」
「いえ、お気に成されないで下さい。しかし、いったい何の用で小官を?」
ミッターマイヤーの質問にケスラーは答える。

「取りあえず座って待っていてくれ、他にも来るからな」
「ほう、なにかするのですか?」
「まあ」

ミッターマイヤーもケスラーがそれ以上は言わないだろうと暫し待つことにした。


帝国暦484年10月23日

■銀河帝国オーディン 憲兵隊総監部  ウォルフガング・フォン・ミッターマイヤー

ケスラー中将から召還を受けたらしい連中が次々に入ってくる。最初はメックリンガー少将か、芸術家提督として有名で、テレーゼ殿下の記念劇場の壁画も担当している。次はルッツ准将か、テレーゼ殿下の侍従武官だな。ミュラー准将、たしかテレーゼ殿下のローエングラム大公領軍の作戦参謀だな。

ロイエンタールもきたか、当然のように俺の隣へやって来た。
「ミッターマイヤー、今日の集まりは何だと思う?」
「俺にもわからんよ、ロイエンタール」

「しかし、この面子を見ると何かしら判る気がしてくるな」
「ほう、それは?」
「まず第一に軍内部では非主流派ばかりが集まっていると言う事だ、今きたのは、ファーレンハイト准将だが、日頃から放言癖が酷くて癖がありすぎて忌諱されているらしい」

「なるほど、第一はそうだが、他は?」
「ミッターマイヤー達を見れば判るが、大半が、テレーゼ殿下に何かしら繋がりが有る」
ロイエンタールが、苦そうな顔をして説明してくる。そんなに士官学校時代の事件を根に持っているのかよ、あれは確かに悲惨だったが、もう何年たったのやら。

「そうなると、殿下が何かやらかすと言う事か?」
「そうなりそうな気がしてならんよ」
「しかし、それならビッテンフェルトが居ないのは変じゃないか?」

「あの鶏冠頭か、大方暴力事件か何かで留置所にでも入っているんじゃないか?」
「ロイエンタール、その冗談は洒落にならんぞ」
その話をしていた最中、当のビッテンフェルトが本当に憲兵に両腕を組まれて部屋に入ってきたので、俺を含めて部屋にいた全員の視線が向いた。

ビッテンフェルト、お前本当に憲兵隊の世話になっていたのか?俺の心の声を知らないように、すっとぼけた事を言ってきた。
「ん?どうしたんだ卿等、雁首並べて?」
何処吹く風のビッテンフェルトだ。

「では、ビッテンフェルト少将閣下、小官はここで失礼致します」
指揮官らしいエヴァには劣るが美人の大尉の挨拶と敬礼と共にビッテンフェルトが部屋に残された。しかし、あの女に目がないロイエンタールが静かだとは不思議だなと思うと。

「あれは、偽物だな」
「なんだって?」
「喉仏があからさまに有った。あれは女じゃない」

「なんだって?」
「ここの受付もだが、考えても見ろあんな若い女性士官が我が軍に居ると思うが?」
なるほど、確かに大尉にしては若すぎるし、帝国軍女子士官学校から卒業生も未だ出ていないのだから、ロイエンタールの言う事なら、真実かも知れんが、とても信じられない程の美貌だ。

「ビッテンフェルト少将、空いている席に座ってくれ」
ケスラー中将が苦笑しながら突っ立ていたビッテンフェルトに空いている席を示す。
「はっ」

さて、何が始まるのやら。ケスラー中将の話が始まる。

「全員揃ったようだ。今日は貴官達に、迷惑をかけ申し訳ない。今回集まって貰ったのは、今回小官が臨時に宇宙艦隊を率いることとなった。その基幹メンバーに卿等が選ばれたからだ」

ケスラー中将の言葉に皆が皆声を上げる。

「ケスラー閣下、艦隊と言いますとどの程度の規模になるのですか?」
メックリンガーが質問した。
「15000隻を予定している」

15000隻と皆が呟いた。

俺の指揮している艦隊でも3000隻だ、ケスラー中将の緊張した姿も判る気がする。中将は主に地上戦を遂行して居たはずだ、そうなると我々が呼ばれた訳も判る。

「ケスラー閣下に質問なのですが、我々が基幹メンバーに選ばれたのは、閣下が艦隊戦の素人だからですか?」
おい!ロイエンタール挑発風に質問するじゃない。

「確かに、小官は地上がメインであり、大規模艦隊を指揮したことは、無人艦隊以外は無いが、今回の件は皇帝陛下直々のご命令でもある」

皇帝陛下直々のご命令に皆が皆、驚きの声を上げる。

「つまり、勅命という訳ですか?」
「それに近いことは確かだ」
「しかし、我々のような、軍内部でも非主流派を集めて陛下はいったい何をご命令に?」

メックリンガー少将とケスラー中将の会話から、ロイエンタールの言う事が真実みを得てくる。

「此は他言無用にして貰うが、叛乱軍がヴァンフリート星域に前線基地を建設中らしいと情報が入った」

なるほど、それを叩きつぶすのか、しかし、正規艦隊で事足りるはずだが何故我々を?

「ケスラー閣下、つまり我々が叛乱軍の基地を叩きつぶせば良い訳ですな」
ビッテンフェルトが立ち上がって大声で主張するが、五月蠅すぎだぞ。
「しかし、前線基地と言えば、正規艦隊が攻め込むのではないですかな?」

ケンプ准将の懸念も尤もだ。
「それなのだが、敵基地にはローゼンリッターが配属されるらしい」
“ローゼンリッター”と皆が口々に喋る。

「皇帝陛下を害し奉ろうとし、皇太子殿下を害し奉った、あのリューネブルクの原隊か!!!」
ビッテンフェルト、大声で叫ぶな、皆が耳が痛そうだ。

「つまりは、陛下のご意志でローゼンリッターに裁きを受けさせる訳ですかな?」
ロイエンタール、お前陛下を馬鹿にしたような話様は幾らお前でも腹が立つぞ。
「当たり前だ、あの様な恥知らずの裏切り者達は銀河から一片残らず消滅させてやる!!」

ビッテンフェルトが益々ヒートアップして五月蠅すぎる。
「いや、エーレンベルク元帥から聞いた話だが、恐れ多くも皇帝陛下は『怨むべきはあの様な卑劣な行為を命じた叛乱軍の首魁であり、ローゼンリッターは利用されているだけに過ぎない哀れな赤子達じゃ。例えば、そち達が暴漢に襲われナイフで刺されそうになったとして、そのナイフを罰するのか?』と仰ったそうだ」

なんと、皇帝陛下のお優しき事、あの様な裏切り者達にまでお慈悲をお掛けするとは、希代の名君と言って間違いはない。

「なんと、陛下のお優しいこと、このビッテンフェルト、陛下の御為に死力を尽くすぞ」
感激屋のビッテンフェルトが今度は泣き出した。

「其処で、卿等には我が艦隊がヴァンフリート星域基地を降伏させるために此から4ヶ月間猛訓練をして貰う。何分艦隊の指揮に不慣れなところが有ると思うが、宜しく頼む」

こうして、俺達の艦隊訓練が始まった。
 
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