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提督はBarにいる。

作者:ごません
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香味塩でツウな飲み方を・その1

 
前書き
 前回に引き続き、蘊蓄回になると思われます。苦手な方は読み飛ばしましょう。 

 
「そういやぁ鹿島のリクエストは天ぷらだったな。香取の好物なのか?天ぷら」

「えぇ、私日本酒が好きなんですが、揚げ立ての天ぷらを肴に飲む日本酒が美味しくて……」

 その気持ちは凄くよく解る。揚げ立てサクサクの天ぷらをかじり、その味を堪能した所によく冷えた日本酒をキューっと流し込む。想像しただけで堪らんよなぁ。

「んじゃあ、適当にこっちで揚げてくわ。お任せでいいよな?」

「はい、提督の選んだ天ぷらならどれも美味しいでしょうから」

 そうあからさまに褒められると照れるなぁ。……おっと、大事な事を聞きそびれてた。

「天つゆと塩、どっちで食べる?」

「では……塩で」

「なら、どの塩にする?」

「えっ?塩って何種類もあるんですか?」

「あぁ、最近凝っててな。塩と別の調味料なんかと混ぜ合わせて香りや風味を付けた『香味塩』って奴だ」

「それなら、香味塩を何種類か出して頂いて、それに合う天ぷらを何種類かずつ揚げてもらうのは可能でしょうか?」

 成る程、天ぷらのアラカルトって訳か。面白そうじゃねぇか。

「あぁいいぜ、じゃあ今香味塩を支度するから、それまで軽くつまめるのを出しとくから、適当に飲っててくれ」

 さて、生酒に合わせるなら何がいいか。香りは控え目で端麗辛口、清涼感のある白ワインにも似た味わいってのが生酒の特徴だからな。さっぱりした肴もこってり重量感のある肴も広範囲にマッチする。……あ、そういやぁ知り合いの豆腐屋のじいさんから美味い豆腐を貰ってたっけな。そいつを使ってちと珍しい豆腐料理にするか。

《家庭で作れる!温泉湯豆腐》

・豆腐(絹でも木綿でもOK):1丁

・重曹:小さじ1/2

・塩:ひとつまみ

・水:100cc


『温泉湯豆腐』という郷土料理があるのを知っているだろうか?佐賀の嬉野温泉の辺りに伝わる郷土料理なのだが、鍋で豆腐を煮るのに使うのはただの水ではなく温泉の成分が入った温泉水、という変わった料理だ。どこが特徴かと言えばこの湯豆腐、重曹を含む弱アルカリ性の温泉水の作用で豆腐が溶け、豆乳になりかけたとろけるような食感の豆腐を楽しむ、という何とも独特な料理なんだ。まぁ、料理用の重曹を使ってそれを再現してやろうってワケさ。

 まず、豆腐は食べやすい大きさに崩す。包丁で切ってもいいしスプーンで大きく掬って鍋に入れてもいいだろう。

 鍋に水と重曹、塩を入れて点火して塩と重曹を溶かす。重曹が溶けて温まった所に豆腐を入れる。

 弱火でコトコトと煮込み、時々かき混ぜて様子を見る。しばらく煮ていると汁が牛乳のように白濁してきてとろみ始める。その位になってきて豆腐の角が溶けてなくなったら完成だ。食べる時にはポン酢をかけたり、刻みネギや七味、もみじおろし等を添えて。

「ほらよ、今日のお通し『温泉湯豆腐』だ。好みで薬味やポン酢をかけて食ってくれ」

 ただ、この料理には注意点がある。熱いからと放っておくと、豆腐が全部溶けてただの豆乳になっちまう。だから多少熱くても、頑張って食ってくれ。

「ちょっと熱いけど、おつゆがクリーミーで美味しいね香取姉」

「そうね、でもこれって本物の温泉は使ってませんよね?」

「まぁそうだな。正確には『温泉湯豆腐もどき』ってトコか」

「……でも、もどきでもこんなに美味しいなら関係ありませんね」

 まぁ、そうなるよな。美味けりゃいいんだよ、美味けりゃ。そんな事よりも俺は天ぷらと『付け塩』の準備をしなくちゃな。付け塩ってのは読んで字の如く、天ぷら等に付けて食べる塩の事。最近だと刺身にすだちやかぼすなんかを搾って、塩を付けて食べるなんてツウな食べ方をするのも流行ってるらしい。いい機会だし、今回は料理に合う塩の選び方なんかも語っていこうと思う。



《塩は大きく分けて3種類》

 一口に塩、と言っても取れる場所や作り方によって千差万別。しかし産地によって大きく3つに分ける事が出来る。それは

・海水塩

・岩塩

・湖塩(こえん)

 の3つだ。海水塩ってのはその名の通り、海水を煮詰めたり乾燥させたり電気分解したりして作る塩の事だ。アイドルが副業の某農家グループが作ってた『藻塩』も海水塩の一種だな。

 岩塩も割かし有名になってきたよな。かつて海だった地層に塩が堆積して、岩石化した物だ。実は世界中に出回ってる6割の塩が岩塩なんだぜ?知ってたか?日本には岩塩層が無いし、四方を海に囲まれてるから海水塩の方が手に入り易いからな。自然と国内のスーパーは海水塩が主流になっている。ま、お国柄って奴さ。

 岩塩が6割、海水塩が3割。世界に流通してる塩の内、残り1割が湖塩って奴だ。南米のボリビアにあるウユニ塩湖って聞いた事がねぇか?あんな感じで地下水脈や氷河の溶け出した水が地中の塩分を集めて湖に堆積させたって代物さ。それぞれに味の違いがあるんだが……お次はその辺の話をするとするか。



《ミネラルバランスで味が変わる塩の不思議》

 塩は含まれているミネラルのバランスで味が変化する。題字にも書いたがその通りなんだ。塩に含まれているミネラルは主に4つ。ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウムだ。それぞれ、

・ナトリウム……塩辛味(しょっぱ味)

・カルシウム……甘味

・カリウム……酸味

・マグネシウム……苦味

 に影響を及ぼしている。塩が甘いとか意味が解らねぇよ!という人は想像して欲しい。舌を刺すような塩辛さが無く、角が取れているというか、円やかな塩っ気というか……甘味のある塩だ。後は最近有名になってきてるのはマグネシウムを多く含んだ塩だな。『にがり塩』なんて名前とかで売られていて、苦味のある塩味が特徴なんだが、このマグネシウムがいい仕事をする。

 よく『塩を入れて野菜を茹でると発色がよくなる』なんて言うが、実はアレは製塩技術が拙い頃の話で、塩にマグネシウムが混じっていたから起きていた効果だったりする。最近のほとんどマグネシウムを含まない塩だと、ただの塩ゆでになっているだけだ。色を良くしたいならにがり塩を加えるか、にがりを鍋に何滴か垂らすといいだろう。……話が脱線したな、すまん。料理や食材に合わせた塩選びがテーマだったな。次はその本題について語るとしよう。

《塩選びのポイントは大きく分けて2つ!》

 食材に合わせた塩選びに重要なポイントは、『塩の粒の大小』と『塩辛さの強弱』だ。いくつか例を挙げて説明してみよう。

(赤身肉に合わせる場合)

 厚切りのステーキ等、赤身肉に合わせるなら『粒の大きな塩辛い塩』が適している。何故なら、筋の強い赤身肉はよく噛んで食べる。粒の小さな塩だと噛んでいる内に溶けてしまい、肉の臭みだけが口の中に残っちまう。だから飲み込むまで溶け残り、ガツンと塩味の感じられる塩が向いているというワケだ。

(野菜に合わせる場合)

 野菜に合わせるならば『粒が小さくまろやかな塩』が適している。例えば、トマトなんかは素材本来の酸味や甘味、旨味が強いが、そこに粒の粗く塩辛い塩を合わせると折角の素材の味と食感を邪魔してしまうんだ。ただ、漬け物は話が別だけどな。しっかりと漬けるには粒が粗く塩っ辛い粗塩が向いている。

(生魚に合わせる場合)

 刺身やカルパッチョ等の生魚に合わせる場合は、『粒が大きくまろやかな塩』が向いているな。肉同様によく噛んで食べる生魚も、長期間塩味がしていて欲しいが、肉のようなガツンと来る塩味は魚本来の味を殺してしまう。だからこそ大粒のまろやかな塩が向いている、というワケさ。

(天ぷら等の油物に合わせる場合)

 さて本題。天ぷらやフライ、豚カツなんかに合わせる塩は、『小粒で塩辛い塩』が向いている。何故向いているかと言えば、最初にガツンと塩味を感じて油のしつこさをパーンと打ち消してくれて、粒が小さいとすぐに溶けて塩辛さが長持ちしない為、その後は衣の中の素材の味を楽しめるからだ。この特徴は岩塩や湖塩に多い特徴なんだが……岩塩や湖塩はほとんどが輸入品の為、高い。それによっぽど料理に凝っている人でも無いと常備していないだろう。

 しかし、実はこの天ぷら向きの付け塩は手軽に作る事が出来る。それが先に出てきた香味塩等だ。今回は長くなったので、次回からその辺を解説していこう。


  
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