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白髪

作者:夢叶
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五話 変化前日 放課後

外に出るとむかむかする暑さが体を包んだ。

「ばいばーい」

後ろから友達が肩をたたいて去って行く。
目が合っているので声は出さず手を振った。

クラスの帰りの集まりが思いのほか早く終わり、一緒に帰る相手を玄関で待つことになった。
西日が強く腕に当たる。
少しでも日陰にと思い柱の裏に回った。

この学校の玄関は二つある。
生徒たちはそれらを呼び分け、待ち合わせの失敗を防いでいる。
今いるここは校舎を出てすぐの、いわゆる「玄関」。
そしてもう一つは校庭と道路とを隔てる「門」。
門で待ち合わせをすることは、あまり無い。
登校であれば、もうすぐ学校に着くというその場所で会う必要はないし、下校ならば同じところから出てくるのだ、近い玄関の方がいいだろう。

柱の裏はひんやりと涼しかった。
下駄箱の壁はガラスになっている。
何に気なしにガラスを見る。
校庭を歩いて、門の方に歩いていく生徒たちが映っていた。

楽しそうだな

羨ましいのではなくただ客観的にそう思った。
まるで映画のワンシーンか、小説の一文を再現しているかのようだ。

思いがけない感慨にふけっているところ、また声をかけられた。

「あ、六組終わったから、もうすぐ来ると思うよ」

おそらく親友と呼べる親しさの友人だった。
彼女とは小中高と同じ学校に通っている。
内部進学の多いこの学校ではさして珍しいことでもないのだが、全員が全員親友になるわけでは無い。

「長かったね」

「朝やれんかったテスト、今やらされた」

「なんでできなかったのさ」

「担任が、全員そろわないところでやっても意味ない!とか言って」

「じゃあ今日遅刻したお前のせいじゃん」

「いやいや連帯責任だから。私を起こさなかったあんたが悪い」

「いつもおこしてねえわ」

粗暴だともとれる会話。
しかしそれが日常なのだ。二人は楽しそうに笑う。
親しい仲にも礼儀ありというのは、大人の事情だろう。
若者の仲には礼儀がないことが礼儀であることもあるのだ。
若者が大人の世界をややこしいと思うように、大人にとっても若者の世界はややこしい。

「そっちも待ち合わせしてんの?」

「そうよ。その辺にあいついなかった?」

「お熱いねえ。さっき靴履き替えてたような気がする。
今日は一緒に帰らない日なのかと思った。」

「人の事言えないでしょうよ。はあマジか。まただよ」

「玄関間違えねえ。もう高校通いだして三年目よ?わざとなんじゃない?」

彼女と恋人は付き合って半年になる。
いつも一緒に帰るわけではないが、時々一緒に帰ろうとすると、八割門へ行ってしまうらしい。

「ワザとにしたってなんのためなんだかな。問い詰めるわ。じゃね」

さっと彼女は手を挙げて去って行った。
あの二人はいつだって言い争いをしている。
本気で怒っていることもあるのだが、その内容がいつも少し変わっていて、聞いてる方としては
少し不謹慎だが面白いとも思う。

「おまたせぇ」

今日はよく後ろから呼ばれるな、とぼんやり考えながら振り向く。
間延びした声にもうその声の主はわかっていた。

「遅い」

「ごめんよ」

「なんでこんなに長かったの?」

「学園祭の話してたー」

これが今の恋人だった。
背は高いが、決してがっしりした体格ではない。
中学で部活をやめたため帰宅部のこの恋人とは付き合いだしてもうすぐ一年と半年になる。
話しながら歩き出す。

「はやくない?」

「なんか今年俺のクラス張り切ってるんだよねぇ」

「あと半年もあるのに。随分だな」

「ほんとにな」

いつも会話はふわふわと進む。
親友の彼女と話すのとは大違いだ。
同性との楽しさを異性に求めるような野暮なことはしないが、やはり少し物足りなく感じるときはある。
それを親友に話せば
「あんたがかわいこぶってるだけだよ」という事らしい。

恋人と別れて一人で道を歩いていると、雨が降り出してきた。
傘など持っていない。
幸い家はすぐそこだった。
走って玄関の戸を開けた。

「ただいま」

「おかえり、雨降り始めでよかったねえ」

我が家には父方祖母が一緒に住んでいる。
共働きの両親が、帰宅するのは夜遅くで、いつも迎えてくれるのは祖母だけだ。
少し話して自分の部屋に入った。


 
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