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魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』

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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第一章 《凍てつく白銀の大地》
  ゼスタ事変②

 
前書き
なのはの動かし方がイマイチ良く分からないんだよな……… 

 
ゼスタ中央病院

「ッ…………。」

フェイト、はやての二人を撒き、氷雪達を追って病院に着いた暁人だが、ここで新たな問題に直面した。

(何で奴までいる!?)

先に行かせた氷雪だが、何故か待ち合いブースで高町なのはと仲良く談笑している。隣ではミミが青ざめながらキョロキョロと辺りを見回していた。

「(おいミミ、どうなってる!?)」

「(あ、ご主人様!助けてくださーい!)」

「(その前に説明しろ!!)」

「(なんか、ちょっと目を離した隙に仲良くなってたんですー!)」

主従が漫才みたいな会話を繰り広げている間にもなのはと氷雪の会話は盛り上がりを見せていた。

「そっか、氷雪ちゃん、お兄ちゃんが大好きなんだね?」

「はい……自慢のお兄ちゃんです。」

「私にもお兄ちゃんがいるんだけどね、とっても強いんだよ?」

「私のお兄ちゃんも…強いです…。誰にも負けないくらい……。」

「へぇ……会ってみたいな、そのお兄ちゃんに。」

「もう少しで……来る筈なんですけど……」

(まずいな……氷雪の名前も知られてるし、下手したら俺の名前もバレてるかもな。)

とにかく、いまここで姿を表す訳にはいかない。どうしたものかと暁人が思案していると、思わぬ助け船がきた。

「高町さん、検査の時間ですよ?」

「あ、はい!今行きますね!じゃ、行ってくるね?」

看護士に呼ばれ、席を立つなのは。暁人が胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。しかし、

「はい……お兄ちゃんと待ってます。」

再び硬直する暁人。氷雪に甘い彼女は恐らく妹の頼みを断り切れない。つまり、彼にとって現状は先程の二人との接触以上の危機なのだ。

(どうする?何か騒動でも起こすか?いや、それで気付かれでもしたら逆効果だ。さっきの二人もまだ俺を探している可能性もある。徒にリスクを増やすだけだ。)

「………不用心に外に出た、俺のミス、か。」

諦めた暁人は、さっきと同じように警告すれば、少なくとも戦闘は避けられると判断し、最愛の妹の元へ向かうのだった。










「……経過は順調ですね、明日にでも退院できるでしょう。ですが、無茶は出来ません。仕事復帰には一週間、戦闘に出るなら二週間は待って下さい。いいですね?」

「………はぁい。」

担当の医師に釘を刺されるなのは。彼女としては二年前のあの一件以来、これでもセーブしているつもりなのだが、それでも周りから見れば無茶を繰り返している様にしか見えない。

世間一般と、彼女の『無茶』という言葉の意味は、相当に食い違っているという事だろう。

「リンカーコアですが、こちらも異常はありません。回復率は五割、後二、三日もすれば全快するでしょう。」

幸い、以前と違ってそこまで深刻なダメージは無い。さしたる障害は無ければ、リハビリも不要であった。

「こんな言い方をすると可笑しいですが……犯人の方に感謝してください。」

「え?」

「氷で凍結させただけの大雑把な処置でしたが、最小限かつ精密な魔力操作で行われていました。施さなければ失血で、やり過ぎていれば凍傷と低体温で、いずれにせよこんなものでは済まなかったでしょう。」

ましてや、当時のなのははその状態で魔法を使おうとしていたのだ。そんな事をしていたら、命すら落としかねない程に危険な状態だったのだ。むしろこうして順調に回復しているのが奇跡に近い。

「尤も、怪我をさせたのも犯人の方ですから色々複雑でしょうが。」

「ええっと……逮捕してから言わせてもらいます。」

「構いませんが、安静期間は守って下さいね?上司の方にも連絡はしておくので。」

「う…………分かってますよぉ………。」

医師にジト目を向けられ、再度釘を刺されるなのはは拗ねた様な声を出して目をそらす。

(私ってそんなに信用ないかな……?ううん、きっとそんな事無い筈!……だよ、ね?)

残念ながら、こと無茶に対する自制については、なのはの信用度はゼロに等しかったりする。

「……なら、良いのですが。貴女の“前例”については当時の担当医の方からよぉく聞かされてますので。確か……シャマルさんでしたか?」

「うう……あんまり言わないでください。」

言い返そうにも相手が全面的に正しいために反論出来ないなのは。結局、退院許可は貰えたのだがこってり絞られたのだった。










「………落ち着いてきてるね。前回の検診から発作は?」

「えっと……ありません。」

「そうか……よし、お疲れ様。後はお兄ちゃんと話すからね。」

「あ…ありがとうございました。」

そう言って診察室を出ていく氷雪。ミミもそれに付き添っていく。後に残ったのは暁人と氷雪の担当医である若い医師だけだ。

「……ミハイル、氷雪は……安定してきてるって考えていいのか?」

「ああ、そういう意味では君の“治療”は効果を上げている。けど……」

氷雪の担当医であるミハイル・ミハイロフは暁人の“計画”を知っている。暁人の両親に恩があったミハイルは元々『訳アリ』な氷雪を隠す上で大きな役割を担っている。

「……何だ?」

「………この安定は、恐らく一時的なものだ。スノウスフィア自体が安定しない限りは完治とはならない。」

「……やっぱり、か。」

分かってはいた事ではあるが、まだ長い道程を想像し、現実を再認識する暁人。その様子を見てミハイルは何かを言いたそうにしたが止めた。

「……それと、もう一つ。このままだと氷雪ちゃん、近い内に大きな発作を起こす。」

「ーーー!?……どういう事だ?」

「いまの氷雪ちゃんは魔力の暴走を不安定なスノウスフィアで無理矢理押さえつけている状態だからね。押さえ付ける力が強く、押さえ付ける時間が長いほど反動も大きい。」

要はプレート性の地震と同じである。

「じゃあどうすれば……」

「落ち着け、暁人君。氷雪ちゃんの魔力そのものを奪う薬を処方する。特殊な薬だから二、三日掛かるし、普通の人なら毒にしかならないけど氷雪ちゃん程の魔力があれば苦にはならない筈だよ。絶対量が少なければ発作の規模も小さくなる。」

「………そうか。すまん、取り乱した。」

「いいよ、妹の為に必死になるその気持ちはよく分かる。……けどね、暁人君。」

ここで、ミハイルは先程言えなかった事を口にする事に決めた。

「氷雪ちゃんの未来(あす)を拓いても、君自身の未来(あす)が無ければ何の意味も無いんだ。それを覚えておくんだよ。」

「………ああ。」










「お兄ちゃん……先生と…何お話してたの?」

「うん?ああ、氷雪の薬の事でちょっとな。」

「……ミハイル先生の薬…苦い…不味い…嫌い…。」

「そう滅多な事を言ってはいけませんよ、お嬢様。良薬口に苦し、良いお薬ほど苦いものです。」

「………う〜。」

普段は味方のミミに諭され、頭を抱える氷雪。その姿さえ暁人には愛らしく、何者にも代えがたく感じる。

今更言うべき事でも無いが、暁人はドが付くほどの超ド級シスコン野郎である。彼の世界の中心は常に氷雪であり、物心ついた頃から氷雪を護り抜く為の鍛練は一日足りとも欠かした事はない(事実、暁人の戦闘スタイルは守勢、受け身やカウンターを得意とする)。

故に、

「……!?………う…………あ………。」

「氷雪っ!?」

「お嬢様っ!?」

暁人にとって氷雪は、最大の弱点となる。

「氷雪、どうした!氷雪!!」

突然、胸を押さえて苦しみだす氷雪。その矮躯からは蒼氷色(アイスブルー)の魔力光が溢れだしている。目に見えて取り乱す暁人。

「(発作か!?不味い!こんな……所で……!)ハボクック!!」

Aye sir(了解).Limiter release(リミッター解除).〉

暁人が自身に課していた軛を解く。単純な魔力量で三倍以上開いている氷雪の魔力暴走。暁人の全力を以てしても止めきれる保証はない。

「ミミ!周りの奴らを下がらせろ!」

「了解です!」

意思の無い、けれどそれ故に純粋な破壊力が弾ける。暁人は多数の氷の盾を創り出し、威力を抑えつつも拡散させる。規模は違えど、缶スプレーのガス抜きの様なイメージだ。

「う……っあ………うあ”あ”あ”あ”あ”!!?」

「っ〜〜〜、氷雪ぃ!!」

氷雪の様子が変化する。それまでの純粋魔力暴走から、氷雪自身の変換資質を巻き込んだ氷の魔力となり、氷の盾が氷の槍によって貫かれ、氷雪を中心として放射状に氷の針が広がっていく。

「このっ……《ヘイルストーム》!!」

暁人の持つ中でも最高の手数を持つ包囲殲滅魔法《雹の嵐(Hail Storm)》を発動させ、相殺を図る。が、雹の弾丸により砕ける量より、生み出される氷の量の方が多いのかジリジリと押されていく。

そんな中でも暁人は並列思考(マルチタスク)をフル活用してヘイルストームを維持しつつ別の術式を組み立てる。

「クソッ!(後もう一人俺が居ればな……無い物ねだりをしてもしょうがないか)」

暁人がそんな事を悪態と共に考えた時だった。

「皆さん!管理局の者です!避難してください!」

パニック状態の中でも良く通る声。その声の主は真っ直ぐ混乱の根元に向けてやってくる。

「どうしてこんな……」

そして直ぐに、ハボクックを掲げた暁人と、その魔法に狙われる氷雪を認識する。

「あの人、あの時の………って、あなたが原因ですか!」

「厄介なのが増えた……状況見て言え!」

既に暁人は自身の総魔力量の半分近くを消費し、カートリッジも併用している。それでも抑えきれない現状、なのはの相手をしている暇は無かった。

なのはもレイジングハートを起動、バリアジャケットを纏い、取り敢えず暁人のすぐ側に立つ。

「何が起こってるんですか!?」

「説明してられるかっ!……おい高町なのは。お前、今魔法使えるのか?」

「……?カートリッジ以外なら全然。」

「なら砲撃、お前の得意分野だろう。それを頼めるか?」

「この状況で砲撃って……何考えてるの!」

「この状況だからこそだ!詳しくは省くがこの暴走は妹の病気に起因する物だ。そんで、魔力が尽きるか本人が耐えきれなくなるまで続く。……そして、氷雪の魔力はお前のざっと三倍だ。」

「……!?」

「けど、俺なら止められる。その為には氷雪に近付き、直接触れる必要がある。だから、そのご自慢の砲撃を貸せっつってんだ。」

一見冷静そうに見える暁人のその瞳を見てなのはは驚く。あの一切の感情を氷の奥に閉ざしていた暁人の瞳が、今は雪崩の様な焦燥感に支配されている。彼にとってはそれほどの事態なのだと理解する。

「……うん、分かったよ。レイジングハート!」

〈OK.《Divine Buster》.〉

なのはの意図に一切のタイムラグなく反応するレイジングハート。似た者主従の十八番が炸裂し、ピンクの魔力光が辺りを照らす。

蒼氷を貫き進む閃光は氷雪までの道を切り拓く。

「おおおおお!!」

暁人の咆哮、ハボクックに純銀の光を宿し、砲撃が拓いた僅かな隙間を駆け抜ける。

「〈《ハイバネーション(Hibernation)》!!〉」

暁人とハボクックの声が重なり、辺りを純白の極光が包み込んだ。 
 

 
後書き
《Hibernation》→《ハイバネーション》→冬眠・効果は次回で(予想は出来るかもしれませんが)

次回予告

平穏の最中、突如暴走する氷雪。なのはの支援もあり、暁人は氷雪の傍までたどり着く。

暁人は暴走を止めることが出来るのか?そして、氷雪と暁人の関係を知ったなのはは?

次回《ゼスタ事変③》 
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