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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第三十二話 暴言

ミッドチルダに現れた空戦型ガジェット。

それを迎え撃つ為に出撃するなのは達。

だが、出動待機から外されたティアナはなのはに詰め寄る。

そして、アスカが動く……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります





outside

「ん……」

ボンヤリとした視界が、徐々にハッキリとしてくる。

目に入ってきたのは、天井の蛍光灯。

「……あれ?」

ティアナは、自分がベッドで横になっている事に気づき、身を起こした。

見覚えのある部屋……まだ記憶が定まらない。

そこに、自動ドアが開いてシャマルが入ってきた。

「あら、ティアナ。起きた?」

シャマルがベッドで半身を起こしているティアナに近づく。

「シャマル先生……えっと……え?」

混乱しているのか、ティアナはキョロキョロと周囲を見回す。

「ここは医務室ね」

ベッドの側に置いてあったイスに腰掛けるシャマル。

「昼間の模擬戦で撃墜されちゃったのは、覚えてる?」

その言葉に、模擬戦の時の記憶が呼び戻される。

フェイトとの模擬戦、アスカの怪我、なのはのクロスファイヤー……

「……はい」

鮮明に思い出したティアナは、沈んだような声を出す。

「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから、身体にダメージは無いと思うんだけど」

シャマルの言葉を聞いている時、ティアナはズボンを履いていない事に気づいて赤面する。

「どこか、痛いところある?」

用意していたズボンをティアナに手渡しながら、シャマルは訊ねる。

「いえ…大丈夫です」

ズボンを受け取ったティアナは伏し目がちに答える。

素早くズボンを履いた時に、時計が目に入ってきた。

「え……9時過ぎ?えぇ!夜!?」

模擬戦を行ったのは昼過ぎだ。そこから計算すると、8時間以上眠っていた事になる。

「すごく熟睡していたわよ。死んでるんじゃないかって思うくらい」

驚いて窓の外を見ているティアナに、シャマルが説明する。

「スバルに聞いたんだけど、最近ほとんど寝てなかったんだってね。溜まっていた疲れがまとめてきたのよ」

シャマルは唖然としているティアナの額に手を当てた。

「うん。熱もないし、大丈夫ね」

シャマルはニコリと笑う。

「あの、スバルは?」

「ずっと付き添うって言ってたんだけどね。ティアナの自主練に付き合っているって聞いたから、無理矢理返したわ。ちゃんと休みも必要よ?」

「……すみません…」

アスカに散々言われた事をシャマルにも言われ、ますますティアナは暗くなった。

「今日はもう休んでね」

立ち上がって医務室を出て行こうとするティアナに、そう声をかけるシャマル。

そして、思い出したようにこう続けた。

「あ、あと、アスカ君から伝言があるの」

ピクン

アスカの名前が出て、ティアナは僅かに身体を強ばらせた。

シャマルはそれに気づいた様子はない。

「今日はいいから、明日ちゃんと話をしよう、だって。何があったかは聞かないけど、アスカ君もティアナの事を心配しているのよ?それは、分かってあげてね?」

「……はい、失礼します」

シャマルの言葉を背に、ティアナは医務室から出ていった。

「………医務官って言ったって、人の心を救える訳じゃないのよね」

シャマルは、ティアナの心の傷を癒せない事に、虚しさを感じていた。





空間シミュレーターの前で、なのははフォワードメンバーの戦闘データをまとめていた。

その表情は決して明るくない。昼間のティアナの事が引っかかっているのだろう。

(アスカ君には話し合うって言ったけど、ティアナが聞いてくれるかな?)

浮かない顔でパネルを見つめるなのは。

「なのはー」

なのはは名前を呼ばれて、そちらの方を向く。金髪の幼なじみが歩いてきていた。

「フェイトちゃん」

「もう遅いよ。そろそろ終わりにしないとダメだよ」

「うん。これでお終いだから」

残っていたデータをまとめ上げて、なのははシミュレーターのシステムを落とした。

その後、二人は並んで隊舎へと歩き始める。

「さっき、ティアナが目を覚ましてね。スバルと一緒にオフィスへ謝りにきてたよ」

「そう……」

その事を伝えにわざわざ来てくれたフェイトの優しさを、なのはは感じる。

「なのはは訓練場だから、明日、朝一で話したらって伝えちゃったんだけど」

「うん、ありがとう」

感謝を口にしつつも、なのはは少し俯き加減になる。

「でも、ごめんね。監督不行き届きで。フェイトちゃんを危険な目に遭わせちゃったし、アスカ君にも怪我をさせちゃったし……エリオとキャロにも嫌な思いさせちゃった」

「ううん、私は全然。アスカも大丈夫って言ってくれてるし、エリオとキャロも分かってくれてるから」

落ち込むなのはを、フェイトが気遣う。

「ティアナとスバル、どんな感じだった?」

昼間の模擬戦でティアナが叫んだ事、スバルが怒りの眼差しを向けていた事を気に掛けるなのは。

「ティアナは、まだちょっとご機嫌斜めだったかな?スバルは何か思うところがあるみたいだったけど」

「……」

フェイトの言葉を聞き、なのはは落ち込んだ表情を見せる。

「まあ、明日の朝ちゃんと話すよ。フォワードのみんなと」

「うん」

フェイトは優しく微笑む。

フェイトのよく知るなのはは、優しくて、強くて、ちょっとだけ泣き虫で。

きっとティアナも分かってくれると思っている。

少しこじれただけ。みんなで話し合えばきっと良い方向へ行くと信じている。

二人は話をしなががら隊舎へと入った。

その瞬間、緊急召集のアラートが発令される。

緊張感が走った。

「なのは!」「司令室へ行こう!」





アスカside

夜9時を過ぎたのに、オレはメシも食わずにベッドでゴロゴロしていた。

自分の過去を吐き出して、少しは楽になったかと思ったら、全然だった。

不安がまだオレの中に残っているのが分かる。

当たり前だ。問題は解決どころか、進んでもいない。

隊長は分かってくれた。でも、今のティアナの状態はどうなんだ?

下手に話しても、拒絶されたら意味がない。

高町隊長は、ティアナとの話し合いをしてくれると約束してくれた。でも、ティアナが素直に受け入れるか?

劣等感……マイナス思考を逆手にとってティアナは頑張ってきた。

負けず嫌いってのは、その反動だ。

それをエネルギーに変えて、ティアナはどんな訓練も、難題も乗り越えてきた。

時に自分の身体を省みずに。

でも、そのやり方は隊長のやり方と違う。そこに温度差が出て、今回の騒動に繋がった。

間違いじゃないと思うけど、何だ?何かが足りない。

劣等感の根元にある物。それが分からない。

あと1ピース、足りない。

「アスカさん、大丈夫ですか?」

一人で色々考えていたら、エリオが心配そうな顔でのぞき込んできた。

……まったく、兄貴失格だな。エリオに心配かけっぱなしだよ。

「大丈夫だよ。シャマル先生に治してもらったんだからさ」

「違いますよ。ティアさんの事で悩んでいる事です」

………言葉を失ってしまった。

まあ、確かにオレがティアナの事で悩んでいるのは丸分かりだったろうけど、そんな心配まで掛けてしまったとは。

「正直、参っているよ。女の考えは分からん」

苦笑いを浮かべて、オレはそう答えるのがやっとだった。

その時、ラピとストラーダからアラートが鳴り響いた。

「緊急警報?」

「行くぞ、エリオ!」

オレは反射的に跳ね起きて、素早く制服に着替える。

「は、はい!」

エリオもすぐに着替え、オレ達は待機場に向かった。





outside

司令室には、はやて、グリフィスとロングアーチスタッフが敵戦力を捕捉していた。

「東部海上にガジェットドローン2型が出現しました!」

「機体数、現在12機。旋回行動を続けています」

アルトとルキノが、敵航空戦力の状況を報告する。

「レリックの反応は?」

「現状では、付近に反応は有りません」

グリフィスの言葉に、アルトが答える。

「ただ、これ……機体速度が今までよりも大分、いえ!かなり速くなってます!」

敵機のデータを収集していたルキノが、驚きとともに報告する。

「敵は航空戦力、場所は海上か。新人には荷が重いなぁ」

はやてはモニターに映るガジェットを見て呟いた。

そこに、なのはとフェイトが駆け込んでくる。

「「状況は?」」

ピッタリな呼吸で二人は聞いてきた。

「グリフィス君」

「はい。現状は……」

はやてに促され、グリフィスは二人に状況を説明した。

その間にも、ガジェットの数は増えていく。

「航空2型、4機編隊が3隊、12機編隊が1隊!」

アルトの声が響く。

「発見時から変わらず、それぞれ別の軌道で旋回飛行中です」

ガジェットの動きを観測していたルキノがデータを映す。

「場所は何もない海上。レリックの反応も無ければ、付近には海上施設も無ければ船も無い」

それまでガジェットの様子を伺っていたはやてはグリフィスに目を向ける。

「まるで撃ち落としに来いと誘っているようですね」

「そやね。テスタロッサ・ハラオウン執務官、どう見る?」

いつもの”フェイトちゃん”ではなく、仰々しい言い方をするはやて。

このような言い方をする時は、あくまで職務としての意見を求めている。

つまり、執務官としての意見を聞きたいのだ。

「犯人がスカリエッティなら、こちらの動きとか、航空戦力を探りたいんだと思う」

「うん。この状況なら、こっちは超長距離攻撃を放り込めば済むわけやし」

短期決戦なら、それも一つの手段である、

「一撃でクリアですよー!」

リインがグッと拳を突き上げる。その可愛らしい仕草に、はやてが微笑む。

「でも、だからこそ、奥の手は見せない方がいいかなって」

フェイトは超長距離攻撃案を否定した。

「まあ実際、この程度の事で隊長達のリミッター解除って訳にもいかへんしな。高町教導官はどうやろ?」

もともと超長距離攻撃をする気は無かったのか、はやてはなのはにも意見を求めた。

「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報は出さずに、今までと同じやり方で片づけちゃう、かな」

作戦は決まっていたのか、はやてとグリフィスは頷いていた。

「うん、それで行こう」

はやての言葉に、なのはとフェイトも頷いた。





ヘリポートに、なのは達隊長と副隊長二人、、フォワードメンバーが集まっていた。

ティアナはアスカと目を合わそうとはしない。

スバルは何か言いたげにアスカをチラチラ見ているが、今は私語をしている時ではないので黙っている。

「今回は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の3人」

フォワードメンバーに説明するなのは。

「みんなはロビーで待機ね」

心配を掛けないようにか、フェイトが落ち着いた声で言う。

「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ」

「「「「はい!」」」」「……はい」

ヴィータに返事をするフォワード達だったが、ティアナが若干遅れる。

その様子を、なのが心配そうに見た。

そして……

「あぁ、それと、アスカ君とティアナは出動待機から外れておこうか」

「え……」

なのはの言葉にティアナの目は大きく見開く。

「その方がいいな。そうしとけ」

ヴィータの何気ない一言がティアナに突き刺さった。

「そうですね。オレもまだ右が使えないし…ティアナも体調が万全とは言えないですから」

アスカは、なのはの命令を受け入れた。特におかしな事は言ってないと思ったからだ。

元々、アスカは出撃させないでくれとシャマルからの連絡があったし、ティアナは疲労が残っている状態だ。

アスカには普通に思えたこの命令。だが、ティアナは違った。

「うん、じゃあ行って……」

「言うことを聞かない奴は……」

不意にティアナがなのはの言葉を遮る。

「ティアナ?」

アスカが驚いてティアナに目を向ける。アスカだけではない。その場にいた全員がティアナを見ていた。

「使えないって事ですか」

ティアナの言葉から悔しさが滲み出ていのが分かる。それを聞いたなのはが、一瞬悲しそうな瞳になる。

だが、すぐにため息をついて厳しい表情になった。

「自分で言ってて分からない?当たり前の事だよ、それ」

少し強めに言うが、ティアナは引き下がらない。

「現場での指示や命令は聞いてます!教導だってちゃんとサボらずやってます!それ以外の場所の努力まで教えられた通りじゃないとダメなんですか!」

震える声で訴えるティアナ。

強くなりたい、その一心で努力し、それを否定された悲しみが溢れている。

だが、出撃前に口論するような事ではない。

ヴィータがティアナを止めようと前に出ようとする。だが、なのはがヴィータを抑えた。

「なのは……」

ヴィータがなのはを見上げる。

まっすぐにティアナを見る瞳に一瞬躊躇したが、ヴィータは引き下がった。

「やめろ、ティアナ!隊長はこれから出撃するんだぞ!」

アスカがティアナの前に出て止めようとする。だが、

「邪魔しないで!」

ティアナはアスカを押しのけてなのはの前に立つ。

「アタシは、なのはさん達みたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも、アスカみたいな柔軟な発想もない!」

ティアナの言葉がアスカに重くのしかかる。

才能、レアスキル、発想。ティアナの嫉妬心が形として出てきたしまった。

「……やめろよ……そんな事……言うなよ……」

ティアナの言葉に、アスカが呟く。その顔は苦渋に満ちていた。

「少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ強くなれないじゃないですか!」

ティアナがなのはに詰め寄る。

「このバカが……」

状況を納めるべくシグナムがティアナに掴みかかろうとした時、それよりも速くアスカがティアナの肩を掴んだ。

そして強引に自分の方に向けさせ……

バシィッ!!

激しい音がしてティアナが倒れた。

「いい加減にしろ!」

怒声。

ティアナに平手打ちをしたアスカが怒鳴った。

その場が騒然となる。

「ティアナ!」

なのはは目の前で倒れたティアナに駆け寄ろうとするが、アスカがその前に立ち塞がる。

「敵がいるんです。行ってください、隊長」

「何を言ってるの、アスカ君!そこをどいて!」

取り乱すなのは。だが、アスカは両手を広げてなのはを通さない。

「今は出撃する時です、隊長。行ってください!」

「そこをどきなさい!」

目の前で行われたアスカの暴力に、冷静さを失ったなのはが叫ぶ。

上司であるなのはの声に、アスカは一瞬目を伏せた。

よく見ると、手の先が小さく震えている。

だが、すぐに顔を上げてなのはの目を真っ直ぐに見る。

そして、あり得ない事を言い放った。

「今、この瞬間、出撃しないのならオレはあなたを軽蔑する!」

その場が凍り付いた。

「な……!」

アスカの強い言葉に怯むなのは。

アスカは目を逸らさずになのはを見ている。

射抜くような強い意志を持った目に、なのはは動けなくなった。

その時、なのはの上体がグラリと揺らめいた。

「ほら行くぞ、なのは」

ヴィータがなのはの手を取ってヘリに向かって歩き出したのだ。

「ちょ、ちょっとヴィータちゃん!」

抵抗したが、見かけより遙かに力のあるヴィータは、グイグイとなのはをヘリに押し込めた。

フェイトが慌ててその後を追う。

「ティアナ!思い詰めちゃっているみたいだけど、戻ってきたらゆっくり話そう!」

なのははそう言い残し、ヘリは離陸した。

それまで唖然として事の成り行きを見ていたエリオとキャロに、フェイトから念話がきた。

『エリオ、キャロ。ごめん、そっちのフォローお願い』

『は、はい!』『頑張ります!』

それとは別に、ヴィータからアスカに念話がくる。

『アスカ、帰ってきたらツラ貸せ』

たった一言だった。

『はい……分かってます』

アスカは飛び去るヘリを目で追いながら念話を返した。





ヘリのカーゴの中で、なのはは見て分かる程しょげていた。

「大丈夫だよ、なのは。ちゃんと話せばティアナも分かってくれるよ」

「うん……」

隣に座るフェイトがなのはを慰める。

「それに、アスカだって本気でなのはの事を軽蔑しているわけじゃないよ」

「そうだぜ、なのは。ヤツは帰ってからシメてやるから安心しろ」

何を安心するのか分からないが、ヴィータもなのはを慰める。

「違うよ、ヴィータちゃん」

俯いていたなのはがヴィータを見る。

「違うって、何が?」

「あの軽蔑って言葉。アスカ君は言いたくなかったんだよ。凄く苦しそうな目をしていた。私が止まらなかったから……私が言わせちゃったんだ」

なのはは、今まで陰では色々言われた事はあった。

生まれつきの膨大な魔力と、根っからの努力家で異例とも言える早さで教導職につき、羨望と嫉妬の眼差しで見られていた。

だが、誰も面と向かってなのはを否定する事はなかった。

正面切って否定の言葉をぶつけられたのは、ミッドチルダに来て初めての事だった。

だから動揺した。

「私がちゃんと任務に行かないから、アスカ君に怒られちゃったんだ」

動揺して、そして気づいた。自分が何をするべきだったか。

「じゃあこの任務を早く終わらせて、みんなで話し合おうね?」

「フェイトちゃん……うん、そうだね」

フェイトの気遣いに、なのはが静かに笑った。





バシィッ!!

ヘリポートに再び激しい音が響いた。

スバル、エリオ、キャロが慌ててそちらに目を向ける。

ティアナだった。

立ち上がったティアナが、アスカめがけて右手を振るったのだ。

最初からティアナを見ていたアスカは、避けられる筈の張り手を、あえて顔で受け止めた。

至近距離で二人が睨み合う。

「ティ、ティア……」「「アスカさん……」」

スバルも、エリオもキャロも、どうすれば良いかわからずオロオロしてしまう。

シグナムは黙って事の成り行きを見ていた。

いざとなれば、自分が2人を打ちのめしてでも止めればいいと考えていたからだ。

今にも掴みかかりそうなアスカとティアナ。

ティアナは完全に怒りの矛先をアスカに向けている。

「何で……何でアンタはいつも邪魔ばかりするのよ!」

右拳を握りしめ、ティアナがアスカを睨みつける。

「……いいぜ。その気があるならトコトン付き合ってやるよ。けどよ、手加減はしてやらねぇぞ」

アスカも剣呑とした空気を醸し出す。右手は使えないので、左手を握る。

「バカにするな!」

ティアナが右拳をアスカの顔面に叩き込んだ!

バシッ!

鈍い音がして、ティアナの拳がアスカを捉える。

「?!」

だが、打ち抜けなかった。全力の筈の一撃を止められた事にティアナが驚く。

アスカはティアナの拳を頬で左頬で受け止めると、首の力だけで押し返した。

「どうした?近接戦の練習をしていてその程度かよ」

ティアナの拳を食らっても、グラリともしないアスカが挑発するように言う。

「上等よ!」

再びアスカに殴りかかろうとした瞬間……

「いい加減にしなさい!」

空間を切り裂くような声が二人の動きを止めた。

全員が声のした方を向く。

そこには、シャーリーがいた。

ふだん、温厚で冗談を言い、気さくなシャーリーが出した、悲しみのこもった怒鳴り声に、誰もが目を丸くした。

「持ち場はどうした?」

シグナムが、オペレーターを行っている筈のシャーリーを問いただす。

「メインオペレートはリイン曹長がいてくれますから」

そう説明したシャーリーは、アスカとティアナを見た。

「なんかもう、みんな不器用でみてられなくて…」

大きくため息をついて、そして…決意したようにこう言った。

「みんな、ちょっとロビーに集まって。私が説明するから。なのはさんの事と、なのはさんの……教導の意味」





ロビーに集められたのは、フォワードメンバーにシグナム、シャマルだった。

シャーリーを囲むように座っている。

アスカとティアナは、氷嚢を頬に当てていた。

「昔ね」

シャーリーがパネルを操作しながら話し出した。

「一人の女の子がいたの。その子は本当に普通の女の子で、魔法なんて知りもしなかったし、戦いなんてするような子じゃなかった」

そう言って、シャーリーはみんなの前にパネルを映し出す。

そこに映っていたのは…

「高町…隊長?」

アスカが見た物は、子供の頃のなのはだった。

「友達と一緒の学校へ行って、家族と一緒に幸せに暮らして、そういう一生をおくる筈の子だった」

映像には、なのはの子供の頃が流れている。

シャーリーの言う通り、そこには普通に暮らす女の子がいるだけだった。

「だけど、事件が起こったの」

モニターに一匹のフェレットとなのはが映される。

「魔法学校に通っていた訳でもなければ、特別なスキルがあった訳でもない」

幼いなのはが魔法を使うシーンが次々と現れる。

「こんな子供が、こんなに魔法を使えるものなのか?」

アスカは映像のなのはに圧倒された。

映像で見る限り、術式もへったくれも無く、ただ強大な魔力を感性で施行しているなのはに驚いている。

「偶然の出会いで魔法を得て、たまたま魔力が大きかったってだけの、たった9歳の女の子が、魔法と出会ってから僅か数ヶ月で命がけの実戦を繰り返したの」

モニターの中のなのはが、デバインバスターを撃つ。

「9歳の子供が砲撃!?」

9歳でデバインバスターを撃ったと言う事実に驚愕するスバル。

「身体が保つのか…え?」

映像を見ていたアスカが、突然出てきたもう一人の登場人物を見て声を上げた。

それは、よく知る人物だったからだ。

「これ…」「フェイトさん?」

エリオとキャロも、その映像を見て言葉を失ってしまう。

モニターの中で、なのはとフェイトは戦いを繰り広げていた。模擬戦ではない。

明らかに実戦だ。

「フェイトちゃんは当時、家族環境が複雑でね。あるロストロギアを巡って敵同士だったんだって」

映像を見て固まってしまっているフォワードメンバーに、シャマルが説明する。

「この事件の中心人物はテスタロッサの母。その名を取ってプレシア・テスタロッサ事件、あるいはジュエルシード事件と呼ばれている」

シグナムが映像を見ながら言う。

モニターの中の戦闘は苛烈を極めた。

なのはが魔法陣を展開し、バインドで拘束したフェイトに向けてレイジングハートを構えている。

「あの術式!うそだろ!?」

アスカが声を上げた瞬間、ピンクの光がフェイトに向けて撃ち放たれる。

「収束砲?こんな大きな!」

エリオが唖然としてしまっている。

「9歳の…女の子が…」

衝撃の連続でスバルが呟く。

「そんな…ただでさえ大威力砲撃は、身体にひどい負担がかかるのに…」

自分より1歳年下の時に、収束砲を撃ち出すなのはを見て、キャロも言葉を無くしてしまう。

「どんな状況だったんだよ…9歳でスターライトブレイカーなんて…」

アスカの呟きがティアナの耳に届く。

ティアナは何も言わず、ジッとモニターを見つめている。

ただ、その目はどこか悲しげだった。

「その後もな、さほど時を置かず戦いは続いた」

シグナムは淡々と言うが、モニターには更に信じられない映像が映し出された。

なのはとヴィータの戦闘シーンだ。

「な…んで?」(どういう関係なんだ?隊長達と副隊長達って?)

アスカがシグナムとシャマルを見る。

「私達が深く関わった”闇の書”事件」

シャマルが目を伏せる。

「襲撃戦での撃墜未遂と敗北」

「「あ!」」

モニターでは、ヴィータがなのはを打ちのめしたシーンが映し出された。

スバルとエリオが思わず悲鳴を上げ、キャロは口に手を当てて何とか声を出さずにいた。

「それに打ち勝つ為に選んだのは、当時はまだ安全性が危うかったカードリッジシステムの使用」

シグナムの言葉に、アスカは思い当たる節があった。

(カードリッジシステムが主流になり始めたのが10年くらい前だってオヤジが言ってたな…計算は合う、か)

「身体への負担を無視して、自身の限界値を越えた出力を無理矢理引き出すフルドライブ。エクシードモード」

映像に過激さが増す。

限界値を超えたなのはの魔法が”闇の書”本体に攻撃を仕掛けたシーン。

アスカはティアナに目を向けた。

ティアナは信じられないと目を見開いてモニターを見ている。

「……」

アスカは何も言わず、再びモニターに目を向ける。

「誰かを救う為、自分の思いを通す為の無茶を、なのはは続けた。だが、そんな無茶を繰り返して身体に負担が生じない筈もなかった」

シグナムの声に苦しみの音が混ざる。

「事故が起きたのは、入局2年目の冬」

シャマルがモニターの映像を切り替えた。雪が降っている映像が映る。

「異世界での捜査任務の帰り、ヴィータちゃんや部隊の仲間達と一緒に出かけた場所、不意に現れた未確認体」

「「「「「!!!!!」」」」」

画像が切り替わり、フォワードメンバーは絶句した。

そこには、血塗れで横たわるなのはが映っていたのだ。

「いつものなのはちゃんなら、きっと何の問題も無く味方を守って落とせる筈だった相手」

ヴィータがなのはを抱きかかえ、必死に声を掛けている映像が流れる。

「……いつもの状態、ではなかったんですね」

アスカが言うと、シャマルは頷いた。

「溜まっていた疲労。続けていた無茶が…なのはちゃんの動きを、ほんの少しだけ鈍らせちゃった」

そこで黙り込むシャマル。何か、悩んでいるように俯く。

「シャマル」

シグナムがシャマルを促した。見せてやれ、と小さく囁く。

「その結果が……これ…」

次に映し出されたのは、病院のベッドでいくつものチューブを身体に刺し、横たわっている包帯姿のなのはだった。

あまりのショックに、フォワードはただモニターを見る事しかできなかった。

無意識のうちに、エリオとキャロがアスカを掴んでくる。

アスカは二人を抱き寄せて、大丈夫だ、と安心させる。

「なのはちゃん、無茶して迷惑掛けてごめんなさいって、私達の前では笑っていたけど、もう飛べなくなるかもとか、立って歩く事さえできなくなるかもって聞かされて…どんな思いだったか」

最後の方は涙声になるシャマル。

映像は、なのはが必死にリハビリを行っているシーンになっている。

思うように動かない身体を、何とか動かそうとするなのは。

痛みに声を上げ、自由にならない身体に涙する。

ポトリ

ティアナが手にしていた氷嚢を落とした。その目には涙が滲んでいる。

「無茶をしても、命を賭けても譲れぬ戦いの場は確かにある。だが…」

シグナムがティアナを見据える。

「お前がミスショットをした場面は、自分の仲間の安全や、命を賭けてでも、どうしても撃たねばならない状況だったか?」

諭すようなシグナムの言葉に、ティアナはその時の情景を思い出す。

限界を超えた魔法。制御できなかった力。

「あ……」

「訓練中のあの技は、いったい誰の為の、何の為の技だ」

シグナムは静かにそう言った。

ここにきて、ティアナはようやく理解した。

自分のしてきた事を。俯き、唇を噛む。

「なのはさん、みんなにさ、自分と同じ思いをさせたくないんだよ」

シャーリーがフォワードメンバーに目を向ける。

「だから、無茶なんてしなくてもいいように、絶対、絶対みんなが元気に帰ってこられるようにって…本当に…丁寧に……一生…懸命考えて教えてくれてるんだよ」

シャーリーは震える声で、涙を流した。

静まりかえる中、モニターの中のなのはが懸命にリハビリを行っている映像が流れ続けた。
 
 

 
後書き
はい、なのはさんファンの皆様、怒らないでください。次回でアスカはヴィータさんに〆られますので、勘弁してください。

今回も長文になってしまいました。申し訳ありません。ミステナイデ!!!

さて、今回アスカが結構大胆に動いたと思います。
まあ、ティアナをビンタするくらいは先読みされていたかなーと思いますが、まさかなのはさんに”軽蔑”という言葉を叩き付けるとは思わなかったのではないでしょうか。

文中なのはが言っているように、その言葉は任務に意識を持っていかせる為であって、本当に軽蔑している訳ではありません。
むしろ、アスカは隊長達には並々ならぬ尊敬心を持っています。
まあ、ヴィータの姉御がトシマエをつけるてくれるので、次回に持ち越しと言う事で。 
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