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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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=USJ襲撃編= ヘイトセレクト

 
前書き
実は書いてた続き。 

 
 
 黒霧は、今回の襲撃にはあまり乗り気ではなかった。

 死柄木の立てた作戦はそれなりに理があり、脳無も確かに対オールマイトを想定したものとしては十分な性能を備えている。しかし、幹部格2名、切り札一枚、その他の有象無象のヴィランたちという戦力は平和の象徴を確実に倒せると確信できるものではないし、何より死柄木の精神はまだ未熟極まりない。

 彼の判断には従うが、果たして黒霧は彼の立てた筋書きが必ずしも完遂されるとは考えていなかった。

 しかし、黒霧は死柄木をサポートする主従の従。作戦が成功したにせよ失敗したにせよ、彼の成長に欠かせない経験は手に入れることが出来るだろう。ゆえに黒霧は今回の作戦に口を出さず、参加した。

 成功すれば儲けもの。失敗しても生きて帰れば問題なし。
 どちらに転んでも問題はない。

 そう、思っていた。

 ヴィランの配置、予定通り。13号の隙を突いて背後に回るのも、予定通り。
 イレイザーヘッドは善戦しているが、死柄木の戦闘能力に加えて脳無がいる現状では万が一にも敗北はない。

 そしてヒーローの卵たちを散り散りにさせる作戦も、爆発の個性を持つ少年にはヒヤッとさせられたが成功した。そう思った。生徒たちの誰もが周囲を覆った霧に驚き、恐怖し、無駄だと理解せずに警戒していた。

 ただ、一人を除いて。

 その少年は美しい水色の瞳で、じぃっと見ていた。
 死柄木がまず敵を観察することから始める事と同じように、眉一つ動かさず、瞬きひとつせず、彼はじぃっと黒霧という一人の犯罪者を俯瞰した瞳で観察していた。怯えた仲間に裾を掴まれても、彼は言葉を交わしながら瞬きすらせずこちらを見つめつづけていた。

 黒霧は、思わずその少年だけをワープホールに放り込み損ねた。

 理由は分からない。珍しかったからか、ヒロイックな蛮勇で自分は倒されないと信じ切った哀れな愚か者に直接制裁を下そうと考えたとか、そういったことではない。ただただ一つの思いで。

 ――彼を視界の外に野放しにするのは危険だと、黒霧のカンが告げていた。



 = =



「――ったく、何でこうなったんだか!」

 ぼやきながら疾走。前部に展開した黒い霧の合間を抜けて13号の所に行こうとする。しかし、当然の如く回り込んできたヴィラン連合の大動脈、黒霧。ワープホールで一人だけ飛ばされないわ、13号と分断されて俺だけ超ピンチだわ、マジで何なんだこの状況。

 ベルトに引っかけてあった閃光手りゅう弾を黒霧に間髪入れずに投げ飛ばす。だが、小細工は通用しないとばかりに投げた手りゅう弾はワープホールに吸い込まれ、次の瞬間に頭上から目の前へと落ちてくる。恐るべき応用性――息をするように空間座標を指定してくる技術は素直に敬服するほかない。

「実践経験不足――自分の武器で自滅なさい」
「そういうあんたは観察不足らしいな。これ、破裂しないんだよ」

 俺は手りゅう弾を片手で掴み取り、人差し指と親指でつまんでプラプラさせる。手りゅう弾のピンはこれを見越して端から抜いていないのだ。もちろん超人的な推理の結果ではなく、未来視で目つぶし食らったマヌケを目撃したが故である。やだ、俺格好悪い……。

(――しかし、本気で厄介なのに目ぇつけられたな。前から只者じゃねえとは思ってたが、邪魔するんじゃねえよ!)

 俺の事前計画は概ね上手く行っている筈だった。申し訳程度だが先生に幾つかグレネードを押し付けることにも成功した。当初先生は「自分で使え」と渋ったが、遊撃担当の先生が生命線だからと説得したら黙って持っていった。

 問題はその後、黒霧が個性のワープで皆がUSJ 内に散らされる時、さりげなく囲まれ組から抜けようとした所でつくもちゃんが怖がって俺の服を掴んだのである。
 結果、演技に集中してた俺は彼女を宥めなければならなくなり、未来が変わって俺だけモヤに置いていかれた。つくもちゃんは悪くないというか、未来視に胡座をかいた俺の自業自得である。お粗末過ぎて泣けてくる。

 黒霧は原作じゃイマイチ戦闘に参加しないしやられる場面も多いが、どうにもまだ本気を出す機会に恵まれてない感があって得体の知れない相手だ。実践経験が豊富そうな物言いもしているし、序盤では死柄木の粗に気付きつつも敢えて放置していた節がある。
 デクくんを助けるという目標の為に目立ちたくはないっていうのに、もう手遅れなんじゃなかろうか。これ完全にマークされて殺すリストとかに乗っちゃうパターンだぞ。

「予想外の事態に際してのいっそ冷めた態度に加え、私の思考の一歩先を読みますか。ふむ……お名前をお聞きしても?」
「ヒーローネーム未定だ。本名が知りたいなら雄英体育祭まで待ったら?」
「それまで君が死ななければの話になりますが?」
「道理だな。尤もそれも、あんたが今日ここで逮捕されなきゃの話になるけど」
「……………やはり、君はどうにも毛色が違う」
「毛が生えてるかどうかも怪しい野郎の言うセリフか?」
「口も達者だ。目の前に本物の人殺しがいるというのに――まったく、君のような子供に怖がってもらえないのではヴィランとしては恥辱の限りだ」
「そのまま憤死しな。止めないぜ、俺は優しいから」

 喋りまくって時間を稼いでるが、正直シャレにならん。流石は死柄木のサポートを任されてるっぽい男というか、黒霧の位置取りが嫌らしいせいで同級生ズも13号も手が出せないでいる。後ろの方から聞こえる瀬呂の嘆きが聞こえてきた。

「くっ……!テープの射角が取れねぇ……これじゃあ水落石を助けに行けねぇぜ!!」
「……しかし、あの男の意識は水落石くんに逸れている。不本意ですが今なら……飯田くん!!」

 13号さん、その判断はつらかったろうと思うがナイスだ。

「仲間を囮に使うようで業腹だが……くそぅ!!」

 瞬間、飯田の俊足が俺と黒霧を迂回してUSJ出口に向かう。オールマイトを呼びに行く気だろう。原作で飯田を援護した連中も黒霧を警戒する。

 あちらは外に助けを呼ばれたら事態が外に知れるため、是が非でも飯田を外に出したくない筈だ。その瞬間にこちらへの気が一瞬逸れる筈。あとは援護脱出なんでもござれだ。そろそろ黒霧の弱点である胸のプレートに攻撃するべきか――と思っていた俺だが、そこでおかしいことに気付く。

「………ふむ、抜けられましたか」

 黒霧が動かない。

「てめぇ、仲間を呼ばれたらアウトな状況で随分呑気な……?―――ッ!!」

 瞬間、眼球の裏に未来が映し出され、俺は瞬時に背後に飛ぶと同時に十手を使い高跳びの要領で上に飛ぶ。視てしまった、この場に留まった自分が迎える最低の末路を。

「くそっ、間に合わな……ーー!?」

 瞬間、俺の頭上から膨大な質量の『巨大な岩石の雪崩』が次々に降り注いだ。

 ズドドドドドドドォッ!!!と凄まじい崩落音が響く。人間が下にいれば間違いなく全身を砕かれて死に至る即死技。さっきまで周囲を取り囲み続けていた靄は、恐らくは上方からの本命攻撃を取っておくためのパフォーマンスだ。

 死を連想させる光景ーー岩雪崩の中に姿を消した同級生。壮絶な光景を前に皆が絶句するなか、芦戸の悲痛な叫び声が響いた。

「たっくん死んじゃヤダぁぁぁぁ~~~~~ッ!!」
「たっくんはやめいと言ってるだろが!!生きてるよ!!はぁ……っ、はぁ……っ、ガキ相手に本気で殺す気かよ……ッ!!」

 どうやらたっくん呼びは生存フラグらしい。辛うじて岩の密度的に攻撃の逸れるコース取りをしていたのが幸いして、岩が足先にカスっただけできっちり生き延びることが出来た。すぐさま岩を離れると、黒霧は落下してきた岩の上から静かにこちらを見下ろしていた。

 これが、黒霧の本気――あるいはその片鱗。
 不意から致死へ、唐突な死の宣告を下す者。

 ――これが、本物の『(ヴィラン)』。

「逃げられぬよう霧で囲っての不意打ちで仕留める腹積もりだったのですが、これも躱しますか………本当に、子供にしては過ぎた判断力だ。いや、そういう個性かな?」
「いやぁ、俺って天才なんで。未来のスーパーヒーローなんで?あんたの作戦くらい目ぇ瞑ってても避けきれるし?」
「個性不明のアドバンテージを持続させるために敢えて挑発的な多弁を用いていますね?」
「正解!いやーバレバレか……本当、嫌な奴に目ぇ付けられたよ」

 死にかけた恐怖と内蔵が痙攣するような震えを誤魔化すように、黒霧を不快成分割り増しで睨みつける。
 黒霧の暴走エヴァみたいな黒目のない瞳もまた、どこか冷たい温度で俺を見ていた。
 空気がひりつく、本物の殺意。どういう訳か知らないが、今回の作戦を棄ててでも俺を殺そうとしやがった。次が来るか――と身構える。だが、それは杞憂だった。

「……これ以上は難しい、か。貴方の言う通り既に作戦も半ば失敗しました。素直に引き下がりましょう」
「不意打ちしても構わないぜー」
「牽制ですか。そつがないですね。だからこそ………」

 言うが早いか、黒霧は自らワープホールに入り込み、その場を後にした。

 直後。

(クソッたれ……怖ぇよ、ヴィラン。怖ぇよ、死ぬのは……)

 俺は極度の緊張が解かれたことで、短期間に未来を見過ぎた反動の睡眠欲に飲み込まれた。

 所詮は平和な日本の平和な町で、命の危機もなく生きてきただけの凡庸な男。
 この一件は、俺が自分の身の程を知るという大きな意味を持って、俺の課題となった。



 = =



「――10トンはあるぞ、この岩雪崩。しかも土砂より岩が殆ど。落下してきた地点は頭上6メートル前後……まともに当たれば死んでる所だ」
「あたし、本当にたっくんが死んじゃったかと思った………」

 膨大な瓦礫を前に轟が思わずそう呟き、芦戸は俯きながら弱々しい声でそう漏らした。

 オールマイト登場以降の騒乱を終え、オールマイトとデク以外唯一のグロッキー組となった水落石が心地よさそうな寝顔で運ばれていく中、A組の残りの面々は黒霧と水落石の戦闘痕を見て青い顔をしていた。
 組の大多数の生徒がぶつかったヴィランは精々が個性を持て余して暴れた程度の存在だ。厳しい入試を突破した新進気鋭の若者たちの多くがそれを難なく撃破出来た。そんな中、唯一本気で殺しに来る本物の犯罪者とタイマンを張る羽目に陥った生徒が水落石だった。
 教師の援護どころか同級生の援護すら出来ない孤立無援の状態で、彼はこの規模の攻撃を見事に避けきったものの、やはり彼自身の精神には相当な負担だったのだろう。黒霧の撤退と同時に見事にぶっ倒れてすやすや寝息を立て始めた。

「下らねぇ。個性で正面から吹き飛ばせば殺せんだろ」
「それはミスター爆豪(グレネード)の個性ならの話じゃん?」
「避けられたのもあいつの超感覚の個性か?」
「でもよぉ、それなら孤立する前にあの黒モヤのワープ攻撃を避けきれたんじゃね?」
(わ、私の所為だ……水落石くん、最初に避けようとしてたのに……!)

 様々な生徒たちが、それぞれの思惑を交えつつ。
 緑谷出久というヒーローの成長を交えつつ。
 そして様々なヴィランに小さな波紋を齎しつつ。

 USJ襲撃事件は幕を閉じたのだった。


 ……付母神つくも:ワープ後は暴風エリアに飛ばされ、尾白と常闇の配慮で後方支援に回されたために出番なし。自分の所為で水落石が危険な目に遭ったことにより大きく心が揺れる。

 ……削岩磨輪里:水難エリアに飛ばされる。体のアタッチメントを変形させて水中高速移動が出来たのだが、流石に水中特化の敵複数が相手では厳しかったのでデクの作戦で突破。移動要員として梅雨以上の速度で陸地に辿り着いた後は相澤先生の援護をしていた。力不足と思考の柔軟さがない事を痛感。本人は気付いていないが相澤先生の怪我が彼女のお陰で原作より少し軽くなっている。

 ……砥爪来人:爆轟と切島のエリアに飛ばされていたが、個性のコントロールが雑なせいで建物内をぐちゃぐちゃに破壊してしまい、チンピラ共が逆に逃げ始める事態に陥った。最終的に建物は倒壊し、今回の事件でオールマイトに次ぐ2番目の被害総額を叩きだして校長に軽く説教される。
  
 

 
後書き
ヒロアカ二次書いててすごく苦しいのが、原作好きすぎて本筋の流れを変えるのが物凄く辛いことです。こんなに苦しいのならば二次創作など……。 
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