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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第57話『雨中の集い』

 
前書き
最近忙しいです(´;ω;`) 

 
「やっぱ雨降っちゃったか……」


自室の窓から曇天を見上げ、そこから振り続ける滴を晴登は残念そうに見ていた。


「これじゃ勉強会は無理だな……」


嘆息しながら、晴登は昨日を思い出す。





『――勉強会?』

『そうだ大地。この前と同じように頼めないか?』

『まぁ別に暇だから良いけどよ』

『一応メンツとしては、莉奈だけじゃなくて結月も参加させたいんだが・・・どうだ?』

『それも構わねぇよ。美少女と話せる良い機会だ』ニッ

『あはは…。あ、ただよ、降水確率が高いそうなんだ』

『そりゃ梅雨だし』

『だからよ、雨降ってたら無理して来なくていいからな』

『あー了解』





ピンポーン


「ん?」


不意なチャイムに、回想がかき消される。
時計を見ると、丁度勉強会の予定時刻だった。


「雨降ってるし、莉奈かな」


家が隣だから、雨が降っていようといまいと関係ない。

晴登は一階に下り、玄関のドアを開ける。



「よぉ」

「大地!?」



意外な人物の登場に驚く晴登。その反応が面白かったのか、彼はニヤついている。


「雨降ってたら無理して来なくていいって言っただろ?」

「俺抜きでどうやったら勉強会が進むんだ?」

「う、そりゃそうだけど…」

「別に気にしなくていいよ。傘さして歩いてきたから」

「お前って奴は…!」


大地の言葉に、晴登は思わず感動を覚える。というのも、大地の家は決して三浦家に近くないのだ。少なくとも、歩いて行こうとは思わない。
だからこそ、歩いてまで来てくれた大地を、晴登は嬉しく思った。



「まぁ勉強道具忘れたんだけど」テヘペロ

「俺の感動返せよ!!」


時々ボケる辺りが、やっぱり大地だった。







「さて、始めるか」


正方形のテーブルを四人で囲み、勉強会が始まろうとしていた。ちなみに、晴登と莉奈、結月と大地が向かい合うようになっている。


「とりあえず大地にもテキスト渡したから、大丈夫。さて、始めるぞ・・・」

「ねぇ結月ちゃん結月ちゃん、晴登とはどういう経緯で知り合ったの?」

「出鼻をくじくな!」


さっそく莉奈が結月に質問する。それも全く勉強関係無しの。


「普通に道で会ったかな。けどその後に、不良に絡まれた時に助けてもらって、とても嬉しかった」

「うお、やるじゃん晴登」

「否定できない……」


偽っている訳でも盛っている訳でもないから、素直に晴登は恥ずかしく思った。というか照れた。


「普通の晴登でも、そんな勇気が有ったなんて・・・私知らなかった」

「俺もだ。平凡な晴登がな・・・」

「それ結構ダイレクトにディスってるよな」


鋭い晴登のツッコミに満足するかのように二人は笑う。結月もクスクスと微笑んでいた。


「無駄話はこの課題が終わってからだ。にしても、大地は課題はどうすんだ?」


テストはただの筆記試験ではない。事前に用意される課題を仕上げる事から、既にテストは始まっている。


「いや、俺はもう終わってるから良いんだけどさ」

「嫌味か、嫌味なのか? 勉強道具を忘れたんじゃなくて、元より無かったってか?!」

「ぶっちゃけそうだわ」

「否定しろよぉ!」


大地の天才ぶりにたまらず頭を抱える。
これでは、ただ暇人が遊びに来ただけではないか。


「大地、覚悟しとけよ。バンバン訊くからな」

「他力本願なとこは変わらないのな」


大地の指摘に堪えつつ、ようやくテスト勉強会が始まった。





* * * * * * * * * *

「ハルト、算数って難しいね。なんかゴチャゴチャする」

「俺もそう思う」

「いやいや、慣れれば楽しいぞ?」

「そう思えるほど余裕じゃないんだよ…」


結月と晴登の嘆きを、大地は無慈悲に否定する。
同情して欲しかったのだが、彼にその期待を抱くのは誤りだったようだ。

ちなみに、結月に渡してあるのは課題ではなく、算数のテキストである。まずは数学を攻略しようと考えたのだ。


「たぶん、次のテストに五教科は間に合わないだろうから」

「ハルト、何言ってるの?」

「こっちの話だ」


見たところ、結月は算数が苦手という訳ではない。意欲的に取り組んではいるし、恐らく苦労するのは最初だけだろう。
ただ、その最初が長い。何せ、小学生の内容を総ざらいするのだから。


「特に、かけ算って難しい…」

「日常は、足し算と引き算で事足りるからなぁ…」

「ハルト、この"九九"ってやつ教えて」

「いや、それ覚えるものだし・・・ってあぁ、理屈を教えなきゃか」


晴登にとっては九九は常識。しかし、結月にとってはいわば未知の領域なのだ。一から教える必要がある。


「"倍"ってわかるか?」

「あーボンヤリとしか…」

「やっぱ日常で使わないからか。とりあえず、倍っていうのは、かけ算と同じ意味だ」

「うん」


首を傾げながら、結月は何となくという様子で話を聞いている。



晴登はこの後も説明を続けるが、結月は要領を得ないらしく、表情が晴れなかった。


「さすがに教師みたいには説明できないな…」

「わかった晴登、俺が代わる」

「お、大地。こっちからも頼むわ」


痺れを切らした大地が、晴登に交代を申し出る。無論、大地の方が賢いので、晴登が説明するよりはいくらか良いだろう。


「さてと、まずは自己紹介をしようか。俺は鳴守 大地。晴登の親友だ。よろしく!」

「ボクは三浦 結月。ハルトの許嫁です。よろし──」

「おい待てストップ!?」


いきなり自己紹介を始めた所は許容するとして、明らかに怪しい点を発見した晴登は、直ちに会話を遮る。
会話する機会を邪魔されたのが不服なのか、大地は晴登をじっと見据えた。


「どうした晴登?」

「いや『どうした?』じゃないよ! おかしかっただろ、今の自己紹介!」

「俺はちゃんとしたつもりなんだがな…」

「お前の事じゃねぇよ!?」

「別に疑いはしねぇよ。むしろ納得した。そうか、許嫁だったのか…」

「やめろォ!!?」


必死に弁明するも、聞く耳持たず。
大地は晴登を無視し、強引に結月との会話を再開した。


「さて、早速かけ算について教えていこう。準備はいいか?」

「うん、いつでも」

「よし。じゃあ、まずは2倍とか3倍の概念からだ。例としてはそうだな・・・晴登でいいや」

「──待て待て待てぃ!」


真面目に教えそうだったから黙っておこうと思ったが、そうや問屋が卸さない。
大地は「今度は何だ?」と言わんばかりの顔だが、むしろツッコまれないとでも思ったのか。


「何で俺が例えなの?! 他に有るだろ?!」

「いや〜結月ちゃんにはこれが良いかなって」

「ボクは気にしないから大丈夫だよ、ハルト」

「そ、そうか……」


少しどころかかなり腑に落ちないのだが、結月が気にしないと言うので、大人しくしておく事にする。
それでも、自分で例えられるのはあまり良い気分ではない。


「話を続けるぞ。まず晴登が1人居るとしよう」

「そもそもハルトは1人だけど?」

「そこはスルーしてくれ。例えばここで晴登を2倍するとする」

「すると・・・?」


結月は興味津々といった様子の面持ちだ。
それを見て大地はニヤリと笑ったかと思うと・・・



「晴登が2人になる」


「へ?」


今しがた素っ頓狂な声を上げたのは晴登だ。大地のことだから、何かしら凄いオチがあると思ってたのだが、まさかのそのまんま。タメの意味がない。


「ちょっと大地、それって──」

「なにそれ凄い!!!」ズイッ

「うおっ、結月!?」


結月が身を乗り出し、驚きをアピール。その瞳はキラキラと輝いており、至高の表情だ。

晴登は察する。そして、苦笑いするしかなかった。
自分を例えにすれば、結月のやる気は想像以上に上昇するのだ。


「これが3倍だと晴登は3人、4倍だと・・・」

「4人!」

「その通り! どうだ、少しはわかったんじゃないか?」

「うん、かけ算って凄いんだね! ありがとうダイチ!」

「うっし、これを待ってたぁ!」


結月のお礼を受けて、大地はガッツポーズ。その様子を見て晴登は、「そういや結月は美少女だったな」と思い直す。そんな娘に感謝されたのだ、男子には嬉しいことだろう。晴登は慣れてしまったが。

とはいえ、自分以外の人物と触れ合う結月に、晴登は安心感を覚えた。


「その例えの勢いだと、九の段とかは大変だろうなぁ…」


話をずっと横から見ていた莉奈は、そう冷静に呟いた。







「今日はもうお開きだな」

「「賛成ー!」」

「なんだかんだずっとやってたからな。疲れたー!」


グッと伸びをして、晴登は今日の勉強会を振り返る。

まず、大地はもちろん、晴登と莉奈は課題を終えることができた。しかし、結月はずっと算数をやっていたため、終わっていない。


「一日じゃ全部はできなかったか」

「それが普通だけどな。でもビックリしたぜ、結月ちゃん覚えが早いから」


大地はニカッと笑って言った。

確かに、今日だけで結月は算数をマスターできているはずだ。
並外れた記憶力、というよりは吸収力だろうか。異世界からこちらに来ても、馴染むのが早かったし。


「今日は悪かったな、大地。雨の中来てもらったのもあるし、結月に教えてくれたのもあるし、感謝してる」

「気にすんなって。結月ちゃんとも話せたから、俺はそれで満足だ」

「そうか。今日はホントにありがとうな。じゃあまた」

「おう」


大地はそう返事すると、三浦家を後にした。



玄関のドアが閉まった途端、一瞬で室内が静まり返ったが、まだ家には一人居る。


「…なぁ莉奈、お前今日はやけに静かだな・・・って、何してんの?」

「見ての通り、プリンを戴いております」


部屋を振り返ると、ソファに横たわりながら、勝手に冷蔵庫から取ったのであろうプリンを、幸せそうに頬張る莉奈の姿があった。

もちろん、晴登は理由を問う。


「なぜ?」

「気を利かせて、静かにしててあげたんでしょう。お礼ぐらい貰っていいでしょ」

「お前気遣いとかできたんだ」

「だいぶ失礼だよ晴登」


静かにしててあげた、というのは結月の為だろう。軽口を叩きはしたが、莉奈の行動には感謝する。


「じゃあハルト、ちゃんと結月ちゃんの課題を手伝ってあげてよ?」

「はいはい…」


結月が課題を終わらせるには、必然的に晴登の手助けが要る。本来なら大地とかの方が適任なのだが、生憎時間がない。明日くらいには終わらせたいから、今日は夜遅くまでやることになるだろう。



そう考えてる内に、いつの間にか莉奈も帰宅したようだ。
これで部屋に残っているのは晴登と、床に仰向けで寝ている結月だけに・・・ん?


「おい結月、もしかして寝たのか? 課題やらなきゃなのに?」


晴登が疑問を投げかけてみたが、応答はない。どうやら、寝たフリとかではないようだ。それはそれで困るのだが。


「・・・でもまぁ、一日中頑張った訳だし、少しは寝かせてていいかな」


一日中知らない知識を詰め込まれ、彼女の脳は休息を欲しているはずだ。だったら、休ませてあげる方がこの後の課題に対しても、効率が良くなるだろう。

そんなお母さん目線で晴登は結論づけると、結月にタオルを掛ける。


「一応外は雨だし、風邪引くなよ?」


返事が来ないとわかっていても、晴登は無意識に呟いていた。無論、結月は起きるどころか、寝返りも打たないほど熟睡してる。


「・・・さて、夕食の準備をするか」


晴登は立ち上がり、キッチンに向かった。








「──ハルト、ありがと」


寝言か否か、タオルを抱きしめながら結月が微笑んでいたのを、晴登が気づくことはなかった。
 
 

 
後書き
大して長くもないのに、更新が遅れて申し訳ありませんでした。これからは2週間に1話ではなく、1ヶ月に2話を目標にしたいと思います。悪しからず。

やっぱり新生活は大変です。しかし、圧迫されないよう頑張ります! では、また次回で会いましょう! 
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