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提督はBarにいる。

作者:ごません
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実録!ブルネイ鎮守府24時・その5

15:00 【オヤツの時間なのに地獄です……】

「い、痛いぴょん司令官!うーちゃんの頭に穴が開いちゃうぴょ~んっ!」

……え~、ただ今の時刻は15:00。午後の一服をする時間です、つまりはオヤツの時間です。ですが今、目の前では地獄のような光景が繰り広げられています。

「う~づ~き~、お前は何時になったら『反省』と『後悔』という言葉の意味を理解してくれるんだ?なぁ?」

 提督が卯月ちゃんの頭を鷲掴みにして(後で聞いたらプロレス技のアイアンクローという技らしいです)、親指でこめかみの所をグリグリとやっています。向い合わせのソファに座って眺めているだけの私でさえ、こめかみの辺りがキリキリしてきそうな位痛そうです。

「は、反省してるぴょんっ!今度からは気を付けるから離して欲しいぴょ~ん……」

「ダメだ、お前の反省してるは信用できん」

 どれだけ卯月ちゃんは提督に怒られて来たのでしょうか、全く信用されてません。

「ってか提督よぉ、俺はいつまでハンコ押してりゃいいんだ~……?」

 呻き声を上げているのは天龍さん。卯月ちゃんと同じ遠征部隊で旗艦をしていた天龍さんも監督不行き届きという事で、罰を言い渡されてました。それは、『サインの終わった提督の書類の捺印』という物です。それも大淀さんが良いと言うまでひたすらです。

「勿論、私達の休憩が終わるまでです」

 そんな天龍さんの嘆きを一刀両断する大淀さん。

「お、大淀の鬼ぃ~……」

 天龍さん、既に泣きが入っています。天龍さんと卯月ちゃんは可哀想だとはおもいますが、まぁ自業自得という事で。今は全力でオヤツを楽しみたいと思います。

 今日のオヤツは『夏みかんのゼリー』と『皮のシロップ煮』です。間宮さんの春の新作だそうで、夏みかんの酸味と仄かな苦味がゼリーの甘味を引き立ててくれます。それにシロップ煮も甘さと風味が丁度良くて、紅茶を美味しくしてくれます。

「……提督、そろそろ卯月ちゃんを離してあげたらどうです?」

 さっきから静かになったと思っていましたが、卯月ちゃん気絶してます。

「チッ、気絶してんなら仕方ねぇか。大淀、俺にも紅茶くれ」

「ホットですか?アイスですか?」

「アイスだ。あいつと付き合ってるとアイスティーなんざ滅多に飲めねぇからなぁ」

 と、苦笑いの提督。あいつと言うのは恐らく、奥様の金剛さんの事でしょう。『アイスティーなんて邪道デース!』とぷりぷり怒っている姿が目に浮かびます。それが何だかおかしくて、クスクス笑ってしまいました。

「あ~美味ぇ。あいつは暑くても頑なにホットのミルクティーばっか飲みたがるんだよなぁ、訳が解らん」

 グラスに注がれたアイスティーを、喉を鳴らしてグビグビと飲み干す提督。何だかワイルドで男らしいです。

「提督、ハンコ全部押し終わったぞ……」

「お疲れさん。天龍もこっち来て、オヤツ食って一服しな」

「え、良いのか!?」

 天龍さん、途端に元気を取り戻してソファの方にやって来ます。よっぽど嬉しいのか、頭に付いてる犬の耳みたいな電探がピコピコ動いています。

「美味っ!流石は間宮さんだぜ!……でも、何で春先なのに夏みかんなんだ?」

「そりゃ夏みかんの旬は4~6月位までだからな」

「元々夏みかんは晩秋に黄色くなって食べ頃に見えるが、この時は強烈に酸っぱくてな、食えたモンじゃない。だから年末に収穫して熟成させるか、木に成らせたまま放っておく。そうして酸味が抜けて食べ頃になるのが4月の終わりから5月にかけて……初夏が食べ頃になるから夏みかんってワケだ」

「へぇ、てっきり夏が旬だから夏みかんかと思ってました」

「まぁ、大体の柑橘類が春先から初夏にかけてが旬だからな。意外と知らない奴は多いが」

 提督は博識で凄いです!……怒ると物凄く怖いですが。





16:00 【明日の業務の準備です!】

 オヤツの時間が終わると、残りの書類仕事を片付けます。と言っても残っている書類は少なく、翌日の業務が滞りなく進められるように資料を整理したり、机周りを整理整頓していく方向にシフトしていきます。

「大淀さん、このファイルはどちらに?」

「それは隣の資料室ですね、まとめて持っていくのでそこに置いておいてください」

「了解です」

 私と大淀さんが忙しく整理している間、提督は机の上を片付けたりはしますが、ほとんど動かずに煙草をふかしながらボーッとしています。

「あの……大淀さん?」

「どうしました?何か問題でも?」

「いえ、問題というか何というか……提督はこの時間あまりお仕事をされないんですか?」

「あぁ、そういう事ですか。実はあれ、私達の方からお願いしてるんですよ」

 え、そうなんですか?ちょっと意外です。

「提督はこの後お店の切り盛りも控えてますし、オーバーワークを控えて頂かないと際限無く仕事をしてしまうタイプなんですよ?実は」

 大淀さんの話によると、過去にも提督は軽い過労で倒れた事があったらしいです。その時も、『俺はほとんど現場に出られないんだから、このくらいの無理は当然だ』と言って、明石さんの制止も聞かずに仕事に戻ろうとしたんだとか。それを重く見た先輩方が、日替わりでの秘書艦業務の当番制と提督になるべく仕事をさせない今の就業スタイルを作ったんだそうで。

「まぁ、大規模作戦の時なんかは今でもほぼ不眠不休で指示を出したりしてますから。普段は腑抜けてる位で丁度いいんですよ」

「……聞こえてんぞコラ、腹黒眼鏡」

 寝てると思ってましたが提督、起きていて私達の話を聞いていたようです。

「あら嫌だ提督、乙女の内緒話に聞き耳を立てる物ではありませんよ?」

「誰が乙女だ、誰が。実年齢アラフォーが何言ってやがる」

「でも肉体年齢は10代後半から20代前半ですよ?」

「だ~から、俺ぁ精神年齢の話を……って面倒臭くなってきた。もういい」

 提督と大淀さんの論争は、のらりくらりとかわす大淀さんを言いくるめるのを諦めたお陰で、大淀さんに軍配が上がったようです。

「まぁそういう訳ですから、親潮さんも頑張って提督を休ませてあげてくださいね?」

「はいっ!」

 今日のお仕事終了まで、あと少しです!




17:00 【今日のお仕事終了です!そして……】

 17:00になると鎮守府にサイレンが響き渡ります。本日の業務終了の合図です。夜勤の当番の娘達もいますが、ほとんどの娘達は日勤なのでこれでお仕事を終えます。この鎮守府は前線のはずなのですが、勤務時間は8-17時の昼休憩が1時間と実働8時間体勢なのです。他の鎮守府や本土のサラリーマンの方々は残業や休日返上が常だと聞いているのに、どうしてこの時間で仕事が終わるのでしょうか?もう訳が解りません……。

「まぁまぁ、残業ナシで仕事が終わるなんて素晴らしい事じゃねぇの。それとも何か?親潮は残業してもっと仕事がしたいのか?」

「いっ、いえ!そういう事では無いのですが……」

「なら良いじゃねぇか。ウチは効率的に仕事を進めて、他の鎮守府以上に稼いでるんだ。定時に終わって身体を休めるのも、仕事の内だぜ?」

 まぁ、俺が残業嫌いってのもあるんだがな!と提督はケラケラ笑っています。

「親潮さん」

「はい、何でしょうか大淀さん?」

「今日の秘書艦業務を以て、親潮さんの訓練課程が全日程を修了しました。改めて、ようこそブルネイ第一鎮守府へ!」

 訓練が全て終了。つまり、今日から私も一人前のこの鎮守府のメンバーだという事です。何だか、こそばゆいような嬉しい気持ちです。

「お?今日で親潮が訓練課程卒業だったのか。なら俺からの祝いだ、ウチで飯でも食ってけよ。好きなモンくわしてやるぞ?」

「え、良いんですか!」

「勿論。何が食いたい?」

「じゃあ、えっとーー……」 
 

 
後書き
 ここで親潮のターンは終わりです。ここからは提督のターン……つまり、解るね? 
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