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二人の騎空士

作者:高村
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The fate episode
二人目の騎空士
  進行度 7/7

 
前書き
最強のふたり 

 
 グランの右腕は前腕を弾が貫通し、上腕にまで損傷を与えていた。しかしそのおかげで右手に力は込められなくなったようで、彼が自殺することはできなくなった。
 弾が飛んできた方を伺えば、シルヴァが近くの森の木陰で銃を構えているが見えた。使ったのは彼女のものではなく、他の団員が使っていた威力の小さいもののようだ。
「あいつを人質に取ったのは間違いだったか」
 忌々しくグランが呟く。いつの間にか気絶から覚め、森のなかで隙を窺っていたのか。
 グランは左腕を私の顔にあて、押し倒すように立ち上がった。瞬間、また銃声が聞こえ、直ぐ近くで着弾する音がした。見れば、グランが右肩辺りを撃たれていた。
 右腕が全く使えなくなったグランはふらふらとあるき続ける。それを、私はただ見ている事しかできなかった。
「ジータ!」
 艇からの叫び声ではっとする。声はカタリナのものだ。気づけば、グランは港の絶壁の傍にいる。
「シルヴァ!」
 グランの方へ近寄りながらシルヴァの方へ声をかけるが、彼女は首を横に振った。下手に足を打てば寧ろ危険ということか。
 私が追いつくよりも先に、グランは空へと身を投げた。私は追いかけるのをやめて、立ち尽くした。
 彼との思い出が頭のなかで犇めく。……なんだったのだろう。私の人生は。今思えば、グランの意図はある程度理解できる。目的等は明言できないが、ただ一つ、私を殺そうとしてはいなかったことは確かだ。
 私も、身投げでもしてしまおうか。それで、空の底まで落ちながらグランに聞いてみればいい。何のために会いに来たのかと。そうしてそのまま地獄まで一緒に行けばいいじゃないか。
 一歩、二歩と崖に近づく。グラン。私は。
 突然私の目前を巨大な黒い何かが下から上へと駆け抜けた。次いで、爆風が私を襲う。何事だろうと上を仰げば、そこにいるのは。
「プロトバハムート」
 一年前、私達を救った黒竜が、ゆっくりと高度を落とし私の傍で足を開いた。その瞬間、地面に何かが落ちる音がする。そちらを伺うとそこにはグランがいた。私は急いで彼の元へ近寄ると、無事な左肩に腕を通し崖から離れた位置まで引きずった。
「ありがとう、プロトバハムート」
 黒竜はこちらを見て、以前と同じように頭に直接語りかけてくる。
「礼には及ばぬ人の子よ。そしてまだ、安心するには早い」
 そう言うと黒竜は空の一点を見る。私も釣られてそちらを伺えば、小さめではあるが黒い竜が此方へ近づいてくるのが見えた。
「人の子よ。あれはお前たちに課せられた試練だ。見事生き延びてみせよ」
 そう言うとプロトバハムートは以前と同じように透けていき消えた。艇の方を伺えばルリアが手を此方に振っている。また、彼女に助けられたのか。
 そうこうする内、黒い竜が私達のもとへたどり着く。背中には私とさして年齢の変わらぬ少女が乗っていた。少女は竜から飛び降り、私達から十間程先へ着地する。彼女が乗っていた竜と他にも小さな竜が彼女を守るように付近を滞空した。
「世界の均衡が崩れる可能性が生まれた時、私は顕現する」
 少女のよく通る綺麗な声は、しかし私には緊張しかもたらさない。いや、グランも感じ取っているはずだ。見た目に騙されてはいけない。あれはプロトバハムートの様に、強大な力を携えている。
「人の子達よ。お前達たちは秩序を乱す可能性を持っている」
 少女が剣を構える。ようは、一つの島の港を壊滅させるような人間は危険分子、ということか。
「確か、グランと言ったか。以前もバルツの街を荒らしただろう」
 グランを伺えば、グランはばつの悪そうな面持ちをしていた。見に覚えがあるのだろう。
「あの時は赤の騎士や秩序の団も傍に居た故に関与しなかったが、此度は違うぞ」
 少女の言葉に害意が滲む。
「待てよ、お前は何者だ」
 少女はグランをしかと見つめる。グランは目を逸らさずそれを受けた。
「我々の名前はジ・オーダ・グランデ」
 グランデ、オーダ……もしや、彼女は。
「貴方が、秩序の権現と言うの?」
 私に視線を向けた少女は頷く。
 嘗て、まだ星の民と空の民が戦争をしていた時代に、第三勢力とも言われる者たちがいた。空の民にも星の民にも属さず、どちらとも不干渉を貫くか、またはどちらとも諍った古強者の事だ。
 その殆どは後世の創作と言われている。当たり前だ。空の民、星の民共に世界を二分する程の勢力であり、敵対などできるはずがない。すれば忽ち殺されよう。
 ジ・オーダ・グランデもそんな昔話の一つ。竜を従えた少女が、種族を問わず、勢力を問わず、秩序を齎したという昔話。本気で信じている人間なんて居ないはずの、お伽噺。
「有り得ない。そんなお伽噺の存在が実在するなんて」
 自分で言いながら、しかしと否定する。あの少女の存在の密度が人間のそれではない事は見て分かる。あれは人の形をした別のもの、と言われたほうがまだ理解できる。星晶獣の一体や二体では到底足りない。十、百、もしくはそれ以上が集まって人の形を取ればあのような規格外の存在になるだろう。
「ならばお前達全員、そのお伽噺に討たれろ」
「待て! 全員とはなんだ」
 少女は剣を握らぬ左手で、グランサイファーを指差した。
「あの者たちにも世界の均衡を揺るがす可能性があるのだ」
 言葉に迷う。つまり、この少女はその莫大な力を持って私達を皆殺しにすると言うのだ。
「バザラガ!」
 グランが声を張り上げる。そうすれば、艇の方からは「何だ!」とバザラガの声が返ってきた。距離があるためそうでもしないと声が届かないのだろう。
「シルヴァがまだ艇に戻っていないから、依頼はまだ終わっていないよな!」
 艇からはバザラガの「そうだ!」という声が返ってきた。そう言えば、バザラガはグランにソフィアとシルヴァを連れ戻す依頼をしていたのだったっけ。
 グランが立ち上がる。満身創痍だが、その目にはまだ闘志がある。
「失礼だが、こいつらを殺させるわけにはいかないんでね」
 そうやって、嘗てのように困ったような笑いを浮かべながらグランは私の前に立った。
「ジータ!」
「グラン!」
 背後からの呼びかけに振り返れば、いつの間にか艇から降りていたゼタとバザラガが私とグランの武器を此方に投げていた。数十間飛翔してきたそれを、私とグランは難なく掴む。そして二人で視線を交わし、口を開かぬまま互いに頷き合う。
 痛覚を鈍らせ、今でも出血を抑えるように魔術的な治療を加えているとはいえ左腕に力は入らない。グランも、見れば右腕の傷を治療しているようだがそれも遅々としていて到底右腕は使えない。しかも互いに魔力の残りは殆どなく、体力も立っていることが精一杯。平素の一割の力も出ないだろう。今では並の星晶獣どころか街のごろつきにも負けかねない。
 しかし、臆さない。今グランは団員の為に戦うと言い、私も団員たちの為に戦うと決意している。例え数分前まで殺し合いをしていようが、私とグランが力を合わせるのだ。何を恐れることがあろうか。
 私は剣を右手で持ち、グランは野太刀を左手に持ち、二人背中合わせに構えて切っ先を少女に向けた。
「往くぞ、人の子よ」
 少女が小さく言葉を放つ。
「来い」
「来い」
 それに二人で同時に答えながら、三人が同時に一歩を踏み出した。 
 

 
後書き
Q,結局グランは何故自殺しようとしたの? 何故グランの自殺をシルヴァは止めたの? グランデに勝てるの?
A,Epilogueにて
Q,グラン強すぎない?
A,公式でもある程度強いという設定ですが、本作は一年後であり、また星晶獣を使い戦っているので一騎当千の働きをしています。もし通常状態であればこんなに強くはありません。団員側も全く素性の分からない人間を団長が討て、と言っただけで本気で殺しにかかることは難しかった、という理由もあります。
Q,バルツ?
A,バルツ公国でグランはザカ大公の動乱に巻き込まれています(原作内ストーリー5~8章)。この際、グランは正気を失ったザカ大公側の勢力として参戦しており鎮圧されました。グランデが言っていたのはこの事です。今後バルツ公国動乱を書くかは分かりません。 
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