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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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厳しい現実

午前中の授業が終わったお昼休み。二年生の教室のある一角では、三人の少女が作戦会議をしていた。

「顧問はなんとかなりましたが、問題は部員集め・・・ですね」
「そうだよね~」

机を合わせてお弁当を頬張りながら話している海未と穂乃果。彼女たちは既に友人たちにも声をかけたのだが、皆「今からじゃ・・・」と乗り気でなく、よくて補助員という者ばかりだった。そのことに頭を悩ましていた二人と共にいることりは、すでにお弁当を食べ終わったのか、野球の本を読みながら唸っていた。

「野球って難しいね、なんでラインの外にボールが出たらファールになっちゃうんだろう」
「そこからですか・・・」

普段から野球を見る機会のあった海未は大まかなルールは理解している。だが、穂乃果とことりはまだまだわかっていないところが多い。

「大丈夫だよ!!穂乃果も全然わかってないから!!」
「それを大丈夫と言わないでください!!」

言い出しっぺの穂乃果の言動に呆れ気味の海未。二人のやり取りを聞いていたことりは、楽しそうに笑みを浮かべている。

「とにかく、今日の放課後、部活申請を出してみましょう。正式な部活動になっていれば、部員集めもしやすいからですね」
「「は~い」」

野球部が部活動として認められれば、興味を持った一年生がきっと入ってくる。そう考えた彼女たちは、まずは生徒会に申請を出してみることにした。

「天王寺先生にも付いてきてもらいましょう。顧問がいれば、向こうとしても許可をしやすいでしょうし」

廃校寸前の音ノ木坂高校では、教師の人手不足も問題の一つになっている。そのため部活動や愛好会を作る際に、顧問教師を付けるのが難しい。その問題をあらかじめ解決しておけば、きっと承認しやすいはず。
そしていよいよ、その時は来た。

「よし!!みんな行くよ!!」

事前にお願いしていた天王寺も連れて、生徒会室の前へとやって来た三人。彼女たちは緊張を落ち着けようと深呼吸した後、扉をノックする。

「どうぞ」

中から聞こえてきた声を確認してから、扉を開く。そこには生徒会長である金髪の髪をした少女と、紫がかった長い髪を二つに束ねた少女がいた。

「どうしたの?」
「こちらを提出に来ました」

何かの書類に目を通していた生徒会長が、どこか冷たい視線でやって来た少女たちを見上げる。そんな彼女の前に、穂乃果は部活動申請の書類を提出する。

「これは?」

いきなり出された書類の説明を求める生徒会長。彼女が放つ異様なプレッシャーに、穂乃果は背筋をピンと伸ばし説明する。

「野球部設立の申請書です」
「それは見ればわかります」

そりゃそうだと苦笑いを浮かべる天王寺。しかし、先頭に立つ少女はそれをいい方向へと捉える。

「では、認めていただけますね!!」
「いいえ」
「「「え?」」」

すんなりいけるかと思っていたところで、まさかの発言。その理由を生徒会長は淡々と告げる。

「部活動は、同好会でも最低五人は必要なの。団体競技なら、試合に出場できる人数が条件になっているわ」
「そんな・・・」

部員を集めやすくするためにと取った行動だったが、まず人を集めなければならないと言われ顔を俯かせる。

「あと六人やね」
「六人・・・わかりました」
「待ちなさい!!」

一礼してその場から立ち去ろうとする穂乃果たち。しかし、生徒会長に待ったをかけられる。

「あなたたち二年生でしょ?どうしてこの時期に新たに部活動を作ろうとするの?」
「廃校を何とかしたくて!!今女子野球もすごい人気が出てきてるって聞いたから・・・」
「そう。なら質問を変えるわ」

熱意は伝わったようだが、彼女の冷酷な眼差しに変化はない。そして彼女の口から、聞かれてはならない質問が飛んでくる。

「あなたたち、野球できるの?」
「それは・・・」

まだ始めようと考えただけで何もやれていない三人は押し黙ってしまう。事実を知った生徒会長は、大きくため息をつく。

「まだ知名度は少なくても、現時点で女子高校野球には200校近くが登録しているわ。最近はようやく地方予選が行われるくらいのレベルになっているの。確かに他の競技に比べたら可能性はあるかもしれないけど、今から始めて勝てるほど甘くはないわ」
(詳しいなぁ)

なぜそんなことを知っているのか天王寺は疑問に思ったが、直後に鋭い視線を向けられちょっとビクッとなる。

「天王寺先生。顧問を引き受けようとしていたようですが、あなた、野球を知ってるんですか?」
「まぁ、それなりには」

本当はムチャクチャ高いレベルを知っているが、ハードルを上げるのが面倒だと考えた彼は多くは語らないでおく。

「そう。とにかく、そんなことでは部活動として認めるわけにはいきません」
「まぁまぁ絵里ち。この子達は部活の申請に来ただけやろ?人数さえ集まれば、うちらに拒否権はないはずや。それに・・・」

苛立っている生徒会長宥めた副会長がそのタレた瞳で少女たちの後ろに立つ教師へと視線を向ける。

「すぐに勝てるチームになるかもしれへんしね」
「!!」

生徒会長とは異なり友好的なはずなのに、なぜか恐怖を感じてしまった天王寺。だが、柔らかな笑みをすぐに浮かべられ、気のせいかと考えるのをやめる。

「じゃ、また人が集まったら来ることにするよ」
「え、えぇ」

これ以上の長居は無用と穂乃果たちに退出を促す天王寺。彼女たちはそれに従い、生徒会室をあとにした。

「あと六人か・・・」
「どうしよう」
「困りましたね・・・」

部屋から出て早々に頭を悩ませる三人。天王寺は生徒が集まったらといった手前、手を貸すべきか否か迷った。だが、教師として手を差し出す場面ではそれをやるべきと考えた彼は、一つの提案をしてみる。

「デモンストレーションでもしてみれば?」
「「「デモンストレーション?」」」

鞄を取りに教室へと戻ろうとしていた三人が足を止めて振り返る。

「人が集まりやすい場所で、野球の練習でも何でもやって見せればいい。興味があれば、自然と人は集まると思うけど」

簡単に言えば部活動紹介で、新入生の前でやって見せるような、そういうものをしてみせればいいと考えて提示してみる。それを聞いた三人は、良いことを聞いたと目を輝かせた。

「それです先生!!よーし!!そうと決まれば早速練習だ!!」
「あ!!穂乃果!!」
「待って!!穂乃果ちゃん!!」

走り出した穂乃果を追いかけていく海未とことり。それから三人はもう特訓をし、デモンストレーションへ臨むものだと天王寺は思っていた。だが・・・

《今日の放課後、校庭で野球部の公開練習を行います。皆さんぜひ見に来てください》

「あいつらアホだろ・・・」

昨日の今日でいきなり公開練習を行おうとしている教え子たちに、頭を抱えずにはいられない。しかもデカデカと学校中の掲示板にポスターを貼り付けており、後には引けない状況になっていた。

「ねぇねぇ、うちに野球部なんてあったっけ?」
「なかったと思うけど・・・」
「最近できたとかじゃないの?」

だが、デザインがよかったこともあり話題性は抜群だった。それに、プロ野球が開幕したこともあり、ニュースで野球が出てくることが多くなっているが、取り上げられるのは男子が圧倒的に多い。女子がその競技をやるというのは、物珍しさもあったのかもしれない。

「任せてみるか」

元々部員集めを任せたのは自分なため、口を挟むのはお門違いだろうと考えた天王寺。それに、部活動は生徒たちを育成する場所と聞いたことがあったため、自由にやらせてみることにした。
その日の放課後、校庭にはまばらではあるが、それでも数人の女子生徒たちが集まっていた。

「いっくよー!!海未ちゃん!!」

名目上顧問ではあるため、ケガなどをしないようにと女子生徒たちに混ざって観覧している天王寺。そんな中、彼女たちは体育で使う古いソフトボール用のグローブとそれとは正反対の真新しいボールでキャッチボールを開始する。
だが・・・

「やぁ!!」

穂乃果の手から放たれた白球は、グラブを構えていた少女とはてんで違う方向へと飛んでいく。

「穂乃果!!どこに投げてるんですか!?」
「ごめ~ん!!」

周囲の視線があるから緊張したのかとも思われたが、時間が経つに連れてそれが原因ではないことがわかっていく。
まともにボールを投じることもできなければ、捕ることもほとんどできていない。完全に経験不足なことが見えてしまっていた。

ザワザワザワ

あまりの未経験者ぶりに興味を持って集まってきた生徒たちが次々に帰っていく。気が付いた時には、三人の見えるところには、一人の生徒もいなくなっていた。

「こんなはずじゃ・・・」

もっとできると、うまくいくはずだと思っていた三人だったが、厳しい現実に心が折れそうになる。だが、その三人を見守っていた青年は、全く別のことを考えていた。

(南は関節が柔らかいな。力はないけど、技巧派としてなら投げれるかもしれない。園田はボールがシュートしてるからそれを直させるか。高坂はまずフォームを安定させないとな。他にも細かくいじった方がいい箇所が随所にあるし―――)

ずっと野球をしてきたからなのか、少女たちの直すべき点も伸ばしていくべき点もすぐに理解できた。そんな彼の前に、絶望にうちひしがれている少女たちの手からこぼれ落ちた白球が転がってくる。
彼はそれを拾い上げると、指で数回弾いて感覚を確かめる。

「高坂!!」
「え?」

涙がこぼれ落ちそうになっている少女の名を呼ぶと、転がってきたボールを返球する。

シュッ

軽く投げたはずのボール。しかし、それは三人が本気で投げていたそれもよりも速く、糸を引くような軌道で穂乃果のグローブへと納まった。

「まだまだこれからだ。あんまり深く―――」
「すごい・・・」
「え?」

慰めてやろうと歩み寄っていった天王寺だったが、先程までと少女たちの雰囲気が変わったことに気が付く。その直後、顔をあげた穂乃果の表情を見て、度肝を抜かれた。

「先生!!今どうやって投げたんですか!?」

つい先程まで落ち込んでいたはずの少女は、それとは真逆の笑顔を浮かべ、天王寺に走り寄ってくる。

「今ボールから音が聞こえました!!」
「ボールが山なりじゃなかったよ!!」

全力で投げ合っていたはずの自分たちよりも、軽く・・・スナップスローで投じたはずの青年の球の方が遥かに速かったことに興奮している三人は、どうすれば今のように投げられるのかを聞くために詰め寄ってくる。

「教えるから!!一回落ち着け!!」

ズンズン迫ってくる少女たちを落ち着けようと宥める天王寺。そんな彼の姿を、遠目から見ている少女がいた。

「「天王寺剛って・・・まさか・・・」」

違う場所から同じ人物を見ていた明るい茶髪の少女と、ツインテールの少女。彼の投じたこのなんてことのない一球が、後に奇跡を起こす一つのポイントになった瞬間であった。




 
 

 
後書き
この作品に関係してですが、甲子園大会が開幕しましたね。みなさんの地元の高校は勝ち進んでおりますか?私のところは既に破れてしまいましたorz
穂乃果たちにも早く試合をやってもらえるよう、頑張って進めていこうと思います。 
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