| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和

作者:臣杖特
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

レベル8後編 計り知れない

 
前書き
前編あらすじ
九衆宝(クシュボウ) 毛糸(ケイト)に勝利し、次の獲物を求めるように老伍路(オイゴロ) 夢値(ムチ)達に襲いかかる哀手(アイデ) (モク)。そこにルベーサ・アガイタ達ハンターが乱入して、樢に挑みかかる。
そして彼らが負けている間に夢値は、「天変地異が起きるかもしれないデッキ」を完成させたと言い……
 

 
「比喩とかではなく、本当に天変地異が起きるかもしれないんです。そういうデッキです」
 夢値のその目は、嘘や冗談を言っているものではなかった。
「何を言っているんだ……?」
「まぁ、僕の理論が正しかったらの話ですけどね」
 夢値はデッキをダードに手渡した。
「どういう理論練ったらカードで天変地異起きるんだよ」
 ダードはそう言いながらもデッキを受け取る。
「《幻煌龍(げんおうりゅう) スパイラル》で《おジャマトークン》を攻撃!」
 一方決闘場では、サンサーヴに憑かれた樢の最後の攻撃が必然的に通った。
「じゃあ、ダードさん、そのデッキで挑んで下さい」
「んでなんだ、天変地異を起こしゃいいのか?」
「よく分かりましたね」
 ダードの適当な言葉に、夢値はまっすぐ頷いた。
「マジかよ……」
「さぁさぁ、沓査さんも負けたみたいですし、次はダードさんですよ」
「つくづく思うがお前ホント非情だな」
 ダードは、倒れたまま、樢によって顔に模様を刻まれている沓査(クツサ) (ケン)を一瞥した。
「負けた人はサンサーヴの兵士になるなら、サンサーヴの無力化さえ出来れば多分なんとかなると思いますきっと恐らく。あとそんなことよりデッキのこと考えたいだけですし」
「そういうとこが非情なんだよ」
 それだけ言うとダードはデッキを咥えて樢の元に走った。
「次は俺だ。サンサーヴ」
「ほう。逃げ出す算段でもしてるのかと思ったが……」
 樢は口元を吊り上げた。
「いいだろう、しっかり叩き潰してやる」
「出来るならな!」
 樢とダードがデッキを構えたその瞬間、
 ビュオオォォオォォォ
 割れた窓から大きな風が吹いた。
「っ、なんだ?」
「うううううううう!?」
 樢は顔を顰め体を丸めて耐えているが、ダードは踏ん張った足が少しずつ風に流されそうになっていた。
それは脚力の違いというよりは、ダード個犬に向けて突風が吹いているかのようだった。
 それから数十秒程で、ダードは止まない風に屈してしまい、その体が宙を待った。
「うがぁっ!」
 ダードの体は壁に軽く叩きつけられ、ダードが咥えていたデッキがバラバラと零れ落ちた。
「デッキが!」
 夢値は跳ねるように飛び出すと、うずくまるダードの近くに散らばるカードを拾い集めた。
「ってて、何なんだ一体……」
「ダードさん、カード何枚か下に敷いてますから起き上がる時気を付けて下さいね」
「……あぁ」
 夢値は、起き上がったダードの下からカードをかき集めると、軽くまとめた。
 そんなことをしていると、樢がゆっくりと近づいてくる。
「……ふん、犬では俺の相手が務まらんか」
 樢が突然思い切り蔑む目でダードを見下した。
「なんだと?」
 ダードは樢を睨みつけた。
「この風がその証だ。お前が強き決闘者(デュエリスト)ならば、お前が風で吹き飛ぶことはなかった」
「わけ分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「お前が戦うに値しない決闘者だからこそ、風が吹きお前は飛ばされデッキが散らばった。そうでもなければ、俺が望んでいた決闘が中断されるわけなんて無いだろ?」
「ぐ……偉そうに」
 ダードは不快そうに唸った。
「うーん、」
 夢値は立ち上がった。
「半分は同意しますけど、もう半分はどうなんでしょう?」
 夢値は樢の方に首を傾げて見せた。
「何が言いたい?」
「今の樢さんなら、決闘の邪魔をするようなものは自然災害だろうと何だろうと跳ね除けることができるでしょう。でも、」
 樢はダードが持っていたデッキを樢に突きつけた。
「それなのに決闘(たたか)えなかったのは、ダードさんのデッキが怖かったからです」
「怖い、だと……?」
 樢は夢値を睨みつけた。
「ええ、このデッキはとんでもないことになるだろうなぁと思って組んだので、これだけの騒動になってくれて安心しました」
 夢値は無邪気そうににっこりと笑った。
「俺が、お前の計画によって、怯える羽目になった。そうとでも言いたいのか?」
「ええ、そんな感じです」
 今にも爆発しそうな樢からの問いに、夢値はコクンと頷いた。
「ふざけるなよ……。何故雑魚に恐れをなす必要がある?虚勢も程々にしろ」
「なんでってそりゃあ、樢さんは弱い人にも絶対勝たなきゃいけないって思ってるからですよ」
 夢値はダードのデッキのカードを数枚組み替えた。
「さて、デッキが完成しました。決闘しましょう」
「それは、ちゃんと決闘出来るデッキなんだろうな?」
 樢は冷たい目をした。
「うーん、多分」
「多分!?」
 樢はボロっと叫んだ。
「まだ俺が怖がってるとかなんとかほざきたいのか!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ」
 詰め寄らんばかりの樢に、夢値は宥めるような手をした。
「まだ未知の部分が多くて思い切ったことが言えないんですよ。でも安心して下さいね」
 夢値はあやすように微笑んだ。
「ぼくが勝つ予定ですから」
「なんだと?」
「大体の場合でちゃんと決着付きますから、大丈夫ですよ大丈夫」
「……っ!」
 樢は爆発するように口を開いた。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!俺の力を見ただろ!?俺が必ず先攻を取り、俺のターンに効果を発動出来るカードは1枚も手札に入れさせない。それでも勝てると言うのか!?」
「百聞は一見に如かず。決闘すれば分かることです」
「ふん……ならば決闘で叩き潰してやろう」
 2人は改めて対峙した。デッキを構える、立ち方を変える、そういった微妙な所作の差異だけではなく、張り詰めた独特の空気が改めて作り出された。
(夢値、)
 ダードは真剣な眼差しで夢値を見つめた。
(決闘に関しては、信じてるぞ……!)
「愚民が……」
 樢が吐き捨てるように呟いた。
「くだらない希望を誇り、偉ぶり、俺に大層な口を聞いたことを、醒めぬ闇の中で後悔するがよい!」
「いきますよ樢さん」
「「決闘!!!!」」
「俺の先攻!」
「《封印(ふういん)されしエクゾディア》の効果でぼくの勝ちです」  
「え?」
 こうして、夢値と樢の決闘は、夢値の勝利で終わった。


「納得出来るかぁぁああああぁぁああ!!」
 樢が吠えた。
「……え、あ、そうか」
 ダードは自分を落ち着かせるようにしながら口を開いた。
「サンサーヴが先攻1ターン目に勝利するなら、それより早く勝つには、ゲーム開始時に《封印されしエクゾディア》と『エクゾディア』パーツを揃えればいいんだ」
 《封印されしエクゾディア》。それ1枚では用途に乏しいカードだが、手札に《封印されしエクゾディア》と、《封印されし(もの)左足(ひだりあし)》、《左腕(ひだりうで)》、《右足(みぎあし)》、《右腕(みぎうで)》の5枚のカード揃えると、決闘に勝利することが出来る。
「ぐぐぐ……」
 樢は唸りながら夢値をねめつけた。
「こんなのマグレだ!ただの偶然だ!」
「そうだとして、何も問題ありませんよね?」
 夢値は軽く応えた。
「ぐっ……」
「それに、これは偶然ではありませんよ」
 夢値はそう言うといつの間にやら持っていた機械を操作した。すると、みんなの頭上にカードが展開される。
「今回使ったぼくのデッキです」
 夢値の使っていたデッキが5×8で展開されていくと、ダードは徐々に訝しげな表情になった。
「な、なんだと……!?」
 樢は絶句した。
「『エクゾディア』パーツ以外のカードが全て、手札誘発のデッキだとぉ!?」
 夢値のデッキには《封印されしエクゾディア》達5枚以外に、《増殖(ぞうしょく)する(ジー)》、《エフェクト・ヴェーラー》等の、手札から捨てることで相手ターンでも効果を発揮するモンスターが、のべ35枚入っていた。
「まさかっ!」
 ダードは夢値の目論見に気づいた。
「サンサーヴの力があると、樢さんの妨害をするカードが手札に来ないんですよね。つまりこの35枚のカードはいずれも、ぼくの手札には来ません。サンサーヴの力で絶対に手札に来ないカードと『エクゾディア』パーツだけでデッキを組めば、必ず『エクゾディア』パーツ5枚が初手に来るんです」
「ぐ、くぅ……」
「じゃあ俺に渡したデッキは」
「はい」
 ダードの問いに夢値は頷いた。
「あれは40枚全てが手札誘発の、デッキのどのカードも手札に来ないデッキです」
「決闘するには最初にカードを5枚ドローする必要がある。だが、サンサーヴの力のせいで俺はカードを1枚も引けない。決闘が成立しないわけか」
「はい。それで決闘が始まらないように、あんなことになったんでしょう。そして、樢さんがあれに勝てないということから、ダードさんに渡したデッキを使えば延々と時間稼ぎが出来ることと、《クリボー》等の、妨害は出来るものの樢さんの勝利には殆ど支障の無い様なカードも、絶対に手札に来ないということが分かります。前者は勿論、《幽鬼(ゆき)うさぎ》などのクリティカルな手札誘発だけでは35枚にならないので、後者も大事な要素です」
 毛糸さんが《バトルフェーダー》や《速攻(そっこう)のかかし》すら手札に持っていなさそうだったことが、少し引っかかってました。夢値は小さくそう付け足した。《バトルフェーダー》や《速攻のかかし》は攻撃を1ターン凌げる手札誘発だが、無限にターンを得られる樢にとっては大したことない、手札に持たれていても構わないカードである。
「最初の手札に『エクゾディア』パーツ5枚が揃っていれば、否が応でも勝つことが出来ます。最初はマグレで出来ないかと考えていたんですが、残りのカードを全て手札誘発にすればいいことが分かりました。最後の懸念は《封印されしエクゾディア》が樢さんのターンを迎える前に勝つカードだから、手札誘発として扱われて手札に来ない場合です。しかし、その場合でも、ぼくのデッキの中の引くことを許されたカードは4枚になってしまい、これも決闘が始められません。ダードさんの時のようになります。失敗しても負けないならば、実物の樢さんで試してみればいいんです」
 夢値は樢を見てニコッと微笑んだ。
「どうやら上手くいったようです」
「くっっそおおおぉぉぉぉおぉっぉおぉぉぉぉおおぉおぉお!!」
「今のあなたとの決闘ならぼくは負ける気がしません。あなたが昔の考えで止まっているなら、何度やっても同じことです」
 夢値はそう言うと、ポケットに入れていた毛糸の機械を樢に向けた。
「ぼくの勝ちです」
 ポチッ、スイッチの入る音がすると、緑色の光が樢を包んだ。
「や、やめろ、やめろぉ!駄目だ、駄目だろこれは!ふざけるな!今なら許してやる、ふざけるなよ、俺が、俺がああぁぁあぁぁぁぁぁあああ!!」
 酸欠しているかのようにもがく樢だったが、段々とその動きがまるで傀儡人形のように緩慢になってきた。
 そしてそれから少し経って、
 樢が膝を折ってうつ伏せに倒れた。
「やったか!」
 ダードが歓喜の声をあげた。
「後5秒です」
 夢値は手を休めない。
「何!?なんで分かっ、ああぁあぁああ!」
 再びもがく樢。
「た、倒れたふりしてたのか……」

 哀手 樢が目を覚ますと、ダードと夢値が樢を覗き込んでいた。
「お、意識が戻ったようですね」
「大丈夫か?」
「ダードぉぉおぉぉぉお!!」
 樢はダードに飛びついた。カランと球が落ちる音がする。
「うわっ!?なんだよいきなり」
 ダードは目を丸くした。
「ありがとー!」
 樢は黄色い声を上げながらダードの顔を撫で回した。
「あ、あぁ、まぁ、戻ってくれたなら嬉しいよ」
 ダードの顔はひきつっている。
「元に戻ったのね、樢」
「ケート!」
 樢は手を止めずに毛糸の方を向いた。
「私はまだ謝るなんてことは出来ない。やったことに後悔は無いわ。でも、」
 毛糸の顔がほんのピコ程動いた。
「あなたが戻ってきてよかった」
「ただいま、ケート」
 樢は全てをなあなあにして、柔らかく笑った。
「あの、樢、いい加減、手、やめて欲しいんだが……」
「えー、もうちょっとー」
 樢は一層ダードを撫で回した。
「……だけどこれで、終わったんだよね」
 樢は唐突に、ぼうっと斜め上を見上げた。視界の端でハンター達が倒れているが、顔は紫に発光していない。
「……そうだな、サンサーヴは無力化された。俺達の仕事は終わりだし、樢も日常に戻れる」
 ダードは頷いた。
「サンサーヴ本体が存在するのは私としてはあまり良くない状況だけど、なんとかしてみせるわ」
 毛糸はロッカーを、そこに刻まれている九衆宝家の名前を一瞥した。
「そっか、じゃあ、これで……」
「樢さん、決闘しましょう!」
 のんびりとした空気を、夢値の声がかき割いた。
「え?」
 樢は思わず振り向いた。
「サンサーヴも回収したことですし。それに恐らくこれが、ぼくのさいごの決闘です」
 夢値は、手につまんでいた小さな球をポケットに仕舞った。
「最後?ああ、もうあんた達帰るもんね」
「大体そんな感じです。さぁ、時間も無いし、ちゃっちゃと決闘しましょう」
「んー、でも私のデッキ、あんたのとすり替わってて」
「そうなんですか。ぼくは仕込んだ覚えはありますが盗んだ覚えはありませんよ……っで、」
 夢値はいつのまにやら黒い穴をあけ、そこに手を突っ込んだ。
「ほいっと」
 夢値はデッキを拾ってきた。
「これですかね?」
「……」
 樢は夢値から手渡されたデッキを眺めた。
「あってます?」
「う、うん」
「よし、これで決闘出来ますね」
「え、あ、うん」
 早いテンポで展開される話に、樢は騙されるようにデッキを構えた。
(それにしても、最後ったってすぐいなくなるわけじゃないでしょ?何急いでんの?)
 樢はぼうっと考えた。
「いきますよ、」
「よ、よし」
 そして2人が向かい合うと、その間に何かがドスンと落ちた音がした。樢は感触だけでそれの右下にデッキを置く。
 ……
「決闘!」
 「決闘!」
 半歩ずれた。
「では先攻を頂きます、ぼくのターンぼくは……」
 夢値がメインフェイズに移行していると、
「老伍路くーん!」
 突如瞬間移動でもしたかのように、織羅(オレラ) 園羅(エンラ)が外野の位置に現れた。
「おや、園羅さん」
 夢値はにこやかに手を振った。
「どうもどうもー、それで老伍路くん、」
 園羅はCDの様な物を取り出した。
「予備バッテリー入荷出来たよー」
「おぉ!流石は園羅さん!」
「いやいやー、俺は出来上がった物を手に持ってるだけだからー」
「持ってるだけでコレクターなんですよ素晴らしいですよ既に」
「そっか、そう言われると悪い気はしないなー」
「ふふふ」
「……え、あ、あの」
 樢は突如中断された決闘に困惑を隠せなかった。
「あ、そうだ、樢さん」
 夢値はCDを受け取ると再び樢の方に向き直った。
「さいごの決闘っていうの、無しで」
「へ?」
 夢値のメインフェイズが、再び始まった。 
 

 
後書き
サンサーヴ撃破!というわけで、次の話で最後になります。前後編に分かれるかまでは未定。


少し語りをさせてもらいますと、
最初の構想では、夢値が素でエクゾディアを揃えてサンサーヴに勝つことになっていました。しかしそれは前に読んだSSの影響をモロに受けていたので、どうしようと考えた末こういうオチになりました。
こういう、必勝法を探る感じは遊戯王っぽくないけどなんか最終決戦って感じがしてなかなか好き(自画自賛)なんだけど、キャラクターがメタ目線を持たずにロジックで可能性を詰める、というのは作者の頭の良さがダイレクトに響いてくるので、アホな事言ってないかちょっと心配です。


全体的に1人(又は1匹)の目線で書いているので、言葉足らずなこともあるかもしれませんが、その時は何卒こう、想像力をギュンギュンさせて、頑張って頂けると有り難いこと山の如しです。それって小説としてどーなんだろーなぁ。

というわけで上にも書きましたが次回のLINK-0が最終回です。今まで読んで頂きありがとうございます。そして、もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。
では、またいつか 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧